掃除を終え、小さな机に相合わせる形で座る。机の上にはマグカップが二つ。
「さて、種田さんの聞きたいことというのはどのことでしょうか」
「いくつか聞いたいですが一番疑問に残っていることを聞きますね。佐藤さんって座敷童子なんですか?」
「元、といったほうが正しいのかもしれません。が、一応それであっています」
「佐藤さんも何かしらの事情があって地獄に来た、と」
「ええ、それであってます」
「そうだったんですか……色々あったんですね」
「ええ、色々とありました」
質問を終えると、佐藤さんはまだ湯気が立っているコーヒーを口に含んだ。他に聞きたいこともいくつかあったが、そうそうと答えてくれそうにもないので口を噤んだ。
喉が異様に乾いたので、コーヒーを飲む。今日淹れたコーヒーはいつもよりほんの少し、苦く感じた。
「それで、種田さんが聞きたかったことはこれでおしまいですか?」
「あっ、はい……」
「そうですか……では、こちらからもわからないことがあったので聞いてもよろしいですか?」
「わからないこと、ですか?」
「ええ。種田さん、あなたはなぜそんなに誰彼かまわず助けようとするのですか?」
佐藤さんが質問したことが想定外の質問だったので吃ってしまう。なぜ、助ける。
「不躾な質問をしてしまってすいません」
「いえ、こっちこそプライベートなことを根掘り葉掘り聞いたのも悪かったと思います……」
「……そろそろいい時間ですね。はなちゃんを預けにい行って私たちは仕事に向かうことにしましょう」
そう言われ、確認するといい時間だった。はなを抱えて佐藤さんに扉を開けてもらい、託児所に預けた。
佐野さんのところに行き、鍵を借りて執務室に行こうとすると、佐藤さんの端末の呼び出し音が鳴った。
どうやら、急ぎの用が入ったようだ。
「すいません、種田さん。先に行っててください」
「わかりました。閻魔様に昨日プリントした報告書を渡せばいいんですよね?」
「はい、お願いします」
「わかりました」
佐藤さんと別れ、執務室に入ると机の上は昨日と変わらない状況だった。違ったのは、机の上に報告書が置いてあるかどうかだった。その報告書をクリアファイルに入れて小脇に挟み、閻魔様の元へ向かった。
よく磨かれた木目張の廊下を歩いて行くと、閻魔様の執務室の扉が見えた。カッカッと2回、扉をノックする。
「どうぞー」
閻魔様の声が聞こえたので、一礼して入室すると入って右側の執務机に閻魔様はいた。
「おっ、たねちん。やっほー」
「おはようございます、閻魔様。こちら、昨日の報告書です」
「んっ、ありがとう。そこ、座ってて良いよ」
「わかりました」
お言葉に甘え、休憩用に使われる円卓があったので椅子を引いて座る。閻魔様は、報告書に目を通すとチラリとコチラを見て顎に指を当てた。
そうしてしばらくすると、閻魔様も円卓の座に就いた。
「報告書読み終えたよ。いくつか質問してもいいかい?」
「あっ、どうぞ」
「この報告書にある蝙蝠。アルカって言ったっけ。これ呼び出せる?」
「どうなんでしょう……やり方がわからないのでどっちでも取れるかな、と」
「じゃあ、やり方を教えてあげるからそれ通り手順を踏んでみて。まず、心の中で呼び出したい相手を想像する。そして、手を二度拍手する」
「えっ、それだけですか?」
「うん、これだけ。簡単でしょ?」
「じゃあちょっとやってみますね」
閻魔様に教えてもらった通り、アルカの姿を想像して手を二度拍手した。すると、吹き抜けの天井付近からばさりばさりと一匹の蝙蝠、アルカが舞い降りてきた。
「どうしたどうした?俺様になんか用かー?」
「おっ、本当に呼び出せた」
「けっなんだなんだ?お前さん用もないのに呼び出したのかよ」
「用があったから呼び出したんだよ。と言っても、用があるのは俺じゃないけど」
「お前じゃなければ誰が……」
そう言ってアルカは見返すように首を振った。と、次の瞬間にまるで石になったかのように身動きできずに固まった。
「へー、それが報告書にあった蝙蝠か」
「おいおいおい、なんだコイツ。マジモンのバケモノじゃねぇか!?」
「蝙蝠にしては口が達者だね。で、だ。君を呼んでもらったのは他でもない。君の半身はどこにいる?」
「半身ですか?」
「うん、この蝙蝠の名前といい行動といい半身がいるのは確実だろう。で、どこにいる?返答次第じゃただじゃおかないよ」
「……い、言えねぇ。と、いうかわからねぇと言った方が正しいか。俺様も探しているんだ」
「……ふーん、どうやら嘘じゃないみたいだね。まぁ、いいや。とりあえずそこに座りなよ」
アルカは黙って従うようにして、円卓の上に着座した。どうやら、閻魔様には敵わないらしい。