門に近づいていくとそれはとても大きな門だと分かった。材質は木製だろうか朱色の大扉は勝手に開かないように閂で閉ざされている。
そこに近づこうとすると、門の両端にいた牛頭と馬頭が近づかせないように動線を塞いだ。
「申し訳ありませんが許可ない者の立ち入りは禁じておりますゆえ」
「ですのでお帰りください」
丁寧な口調で言ってはいるが、出ている空気がそれと相反するものだということは鈍くてもわかった。何も言えずにいると、佐藤さんが一歩前に出て牛頭と馬頭に何かを見せた。
「こちら許可証です。それと今回は牛頭さんの角をもらいにきました」
「角?あぁ、確か連絡があったな。少々お待ちを」
「許可証はこちらで確認させていただきますね」
「お願いします」
牛頭と馬頭はどこかに連絡を始めた。しばらくすると、連絡を終えたのかこちらへ歩み寄ってくる。
「こちらでも確認が取れました。角のかけらが必要なんですね?どれくらい必要でしょうか?」
「角はひと匙ほどで足りるかと。許可証の確認は大丈夫でしたか?」
「そちらも確認済みです。終わり次第天国への扉を開きますね」
「ありがとうございます」
どうやらなんとかなりそうだ。最初は門前払いされるかもしれないとヒヤヒヤしたものだが、ちゃんと話を聞いてくれて助かった。
「それで、天国まで行く理由をお聞きしてもよろしいですかな?」
「では種田さん。説明を」
「お、俺ですか?」
「種田さんの口で説明しないと話は進みませんよ。ですのでお話しください」
「わかりました」
一歩先に進むと牛頭と馬頭が聞き耳を立ててこちらをみる。
「実は……」
軽く自己紹介と本題の自分には形式上の娘がいること、その娘が地獄風邪にかかっていること、治療が遅くなったら命が危ぶまれること等を簡潔に話した。
話し終えると、牛頭と馬頭は目頭をハンカチで抑えていた。何事かと見ていると、嗚咽を伴いながらも泣くのを止められない様子らしい。
「うっう……おえっ泣きすぎてキツっ……すまない。私にも娘がいるのでな。他人事とはどうも思えなかった」
「同じくだ。牛頭、角削らせてやってくれ」
「ああ、言われるまでもない」
牛頭は頭を下げて、好きなだけ削るといいと言った。その気持ちを無碍にできないと思ったので、ありがたく削らせてもらうことにする。
刃物か何かなかったかと懐を触ってみたが、あいにく持ち合わせがなかった。どうしようと考えていると、馬頭が手のひら大ほどのヤスリを持ってきた。
それを使い、削らせてもらうと匙いっぱいほどの削り粉が出来た。それを小さな瓶に入れる。
「よし、これで大丈夫です。ありがとうございます」
「娘の風邪、早く治るといいな」
「はい、そうですね。お二人ともありがとうございます」
「良い良い。それで少しは変わるが、娘がいると言うことは妻帯持ちか?」
「あっ、いえ。娘との二人だけです」
「なるほど……では、縁談の話等は興味あるかね?」
「えっ、縁談ですか?」
「ずるいぞ牛頭。それなら私も娘を紹介したい」
「いやっ、あの……」
「日取りはいつがいいかな?できるだけ早い方がこちらとしても嬉しいものだが」
しどろもどろしていると佐藤さんが手を引いて門の方へと足を進める。
「行きますよ、種田さん」
「あっ、わかりました。それでは失礼します」
大扉の方へ足を進めていくと、扉は二人がギリギリ通るくらいの隙間が空いた。その隙間にするりと入っていくと、後ろから扉が閉まっていく音が聞こえた。
残された牛頭と馬頭はふふっと笑って元の場所へ戻って行った。
「いやー、面白い。やはり人間は面白い者だな馬頭」
「揶揄う者じゃありませんよ、牛頭」
「いや、だが縁談の話は本気だぞ」
「それはこちらも一緒ですよ。だけど佐藤のあの反応がまた……」
「そうだな、酒のつまみにいいネタが見つかったな」