「佐藤さん!佐藤さん!!!」
「……すいません。私としたことが取り乱してしまいました」
「それはいいんですけどここ……どこですか?あたり何も見えないんですけど」
辺りを見渡してみても黄色い靄がかかっているだけで何も見えてこない。ここは一体どこなんだろうか?
「ここは天国ですよ」
「え?ここ、天国なんですか?」
「はい、少し歩けば靄も晴れますので少し歩きましょう」
「わかりました。手はどうしますか?」
「はぐれない自身がお有りでしたらどうぞ」
「わからなくなりそうなので繋いだままでいいですか?」
「どうぞ。見失わないでくださいね?」
◇◇◇
しばらく歩くと靄が徐々に晴れていった。見えてきたのは辺り一面緑で覆われた景色だった。空気がとても綺麗で、ただ呼吸するだけなのにとても気持ちがいい。
「すごいですね……」
「私も初めてみた時は感動して涙が出たものです。さぁ、行きますよ」
佐藤さんが先導して歩いていくと、大きな滝が見えてきた。これまた綺麗だな……と思っていると独特の匂いが周りに漂っていた。これはもしかして……
「佐藤さん、これもしかして全部酒ですか?」
「わかりましたか。これが天国名物、養老の滝です」
「養老の滝……ってどう言う話でしたっけ?」
「話し始めると長くなるので要約しますが、親孝行な息子が酒好きの父親にお酒を飲ませたいと思いながら歩いていると山から落ちてたまたま見つけたのが養老の滝という話です」
「なんとまぁ……すごい話ですね」
「まぁ、民話なので色々解釈はありますが今のご時世だと文句を言う人は出るでしょうね」
「ですね……」
滝の周りには昼間から宴会をする人もたくさんみられる。どうやら、天国では自由に酒を飲んでもいいようだ。
「まぁ、ここで少しでも悪行をやったら地獄行きなんですけどね」
「えっ?」
「まぁ見ていてください。そろそろ……ほら」
佐藤さんが指さす方を見てみると、酒を飲んでいた人たちが回ってきたようでどんちゃん騒ぎをし始めた。その騒ぎは距離が離れているこちら側からしても耳心地がいいものではなかった。
すると次の瞬間、彼らの足元に大きな穴が空いた。掴むものもなかったので、彼らは穴の底に落ちていく。
落ち終えたと同時に、穴は塞がった。
「え、アレ大丈夫なんですか?」
「さぁ……少なくとも天国にはいないでしょうね」
「落ちた先は……どこになるんですか?」
「地獄ですよ」
「地獄って……刑場に直接ですか?裁判とかもなく?」
「はい、そうなります」
唖然とするしかなかった。何か言い表そうと思ってもなんと言えばいいのか言葉が出てこない。
「天国では何か問題行動や暴動を起こしたりと言った行動をした場合、直接地獄に落としてもいいと言う不文律がありますから。逆にきちんと服していれば地獄から天国へ行ける可能性だってあります」
「そ、そうなんですね。じゃあ、ある意味善人しかいないと言うことですか?」
「まぁ、そうなりますね」
「それはそれで苦しい世界に感じます」
「同感です。さぁ、行きましょう」
しばらく歩くと、農作業をしている人たちがいた。その人たちに道を尋ねると、快く教えてくれた。多分、天国で生きていけるのはこういった人たちばかりなのだろう。
教えてもらった方向へ向かうと、大きな池があった。池には、蓮の花が浮いていて天国と言えば連想する景色だった。
「……綺麗ですね」
「そうですね」
しばらく眺めていると、時間はあっという間に過ぎていく。はなに見せたら喜ぶかもしれないな……そうだ、忘れていた。天国に来たのは、はなを治すためだった。
当初の目的を思い出せなかったら、ずっとそこに居続けたかもしれない。
「危ない……一瞬ですが色々と忘れてました。必要なものはえっと……天国の蜘蛛の糸でしたよね?」
「そうですね。おそらくですが、林の中にいると思いますので探してみましょう」
「わかりました」
林の中を探してみるが、なかなか見つからない。必要な時にはわからないものだと思っていたが、これは予想以上だ。
しばらく探していると、先ほど農作業していた人たちが声をかけてきた。どうやら、他所から来た人たちが何かを探していると話題になっていたらしい。
「実は……」
天国へ来た理由と探しているものを伝えると、快く一緒に探すと言ってくれたので頭を下げてお願いをした。
数人で探すと、あっという間に見つかった。蜘蛛の糸を少しだけ拝借して、壺の中に入れる。
「みなさんありがとうございました!」
お礼を言うと探してくれた人たちは手を振ってまた別のところへ行くようだ。本当に善人ばかりしかいないんだろうな。
去っていた方へ向かって改めて頭を下げた。