上長から許可をもらい、黒縄地獄に足を踏み入れる。外に出ると、血の匂いはさらに濃くなり、熱気が肌に刺さるようだ。見える景色は朱を溶かしたようなどろりとした空気を纏っていた。
「暑いですね……」
「そうですね。この辺りは上の階層より平均気温が高い傾向にありますから……早めに終わらせて帰りましょう」
「わかりました」
土の色は赤黒く、粘ついている気がする。どうやら、これは亡者から出た血の色のようだ。しばらく歩くと、小高い丘があったので登ってみると、凄まじい景色が広がっていた。
地獄の業火に焼かれる亡者や木に括り付けられ、鳥に突かれていたりと見ていて中々惨たらしい景色だった。
「黒縄地獄って確か殺生と盗みをやった人が落ちる地獄でしたよね?」
「はい、その通りです。一階層である等活地獄より10倍の苦しみがあると言われてます」
「そうなんですか……あっ、さっき先生からもらった地図確認します」
地図を開いて確認すると、群生している場所はここから少し歩けば着くようだった。
「ここからだと少し歩いたら着きそうですね」
「では行きましょう」
「わかりました」
◇◇◇
しばらく歩くと、彼岸花が群生していた。どうやら、ここが一番近い場所のようだ。
「佐藤さん、一つ質問があるんですがいいですかね?」
「なんでしょうか?」
「彼岸花ってどうやって回収すればいいんですかね?」
「そうですね……彼岸花は毒性を持っていますから素手で触ると痛い目に遭うのは必至でしょうね。それが地獄産になるとなおさら」
「ですよね……スコップとか手袋とか持ってくればよかったのかな」
「少し待っていてください」
そう言うと佐藤さんは懐からポケットを出して、中に手を突っ込んだ。すると、中から出てきたのは園芸用のシャベルと軍手、それと大きめのバケツだった。
「そのポケット、なんでも入ってるんですね」
「なんでもは入っていませんよ。これは趣味の園芸用品を入れてただけです。種田さん、使ってください」
「ありがとうございます」
佐藤さんが渡してきた道具を借りて、彼岸花を土ごと摂る。彼岸花は、現世のそれと生態自体は変わらないようで、滞りなく採集することができた。
一応、10本ばかり採集して懐に抱えて戻ることにした。
「そう言えば彼岸花に毒があるって言ってましたが、どんな毒なんですか?」
「私も本職ではないので詳しくはないのですが、わかりやすく言ったら堕胎薬として昔から使われていたようです」
「堕胎、ですか」
「はい、主に遊女の間で使われていたと以前読んだ書物に書いてありましたね」
「まぁ、人にはいろいろありますよね」
「ですね。そう言った子供の受け皿が賽の河原と言われています」
「賽の河原って、前ゴミ拾いしたところですか?」
「はい、その通りです。以前は、賽の河原も子供で溢れかえっていましたが今はとても少なくなりました」
そう言った佐藤さんの目は少し遠いところを見ているように感じた。佐藤さんもいろいろ思うことがあったりするんだろうか。