目が覚めると、隣にはなが眠っていた。額に手を当て、体温を確認してみると薬を飲む前より体温が落ち着いてるように感じる。
よかった、と思う気持ちが本心だった。どうやら、このままいけば平熱になるみたいだ。
部屋の壁の方を見てみると、佐藤さんと巻尾さんが寄り添うようにしてうつらうつらと首を揺らしていた。起こしては悪いと思い、物音を立てずに立ち上がると、その音に気付いたのか二人とも目を覚ました。
「……おはようございます、種田さん」
「目覚めたっスか……ふぁーあ、よかったよかった」
「どれぐらい眠ってました?」
「ざっと1日ってとこっスね」
丸一日眠っていたのか……身体に怠さ等はなく、全快といった調子だったが、実際は身体が疲れていたのだろう。
「すいません。洗面台とかありますかね?」
「あぁ、その奥のところに手洗い場があるっスからその横にあるっスよ」
「ありがとうございます。ちょっと顔を洗ってきます」
手洗い場の横に、人が二人分横並びで準備できるくらいの広さの洗面所があったのでありがたく使わせてもらった。蛇口を捻ると、勢いよく水が出る。
顔を洗うために、一掬いすると水はとても冷たく、それだけで目が覚めるようだった。顔を洗い、タオルを探そうとすると、誰かがタオルを持って立っていた。誰だろうと考えていると、その人が口を開いた。
「これを使ってください」
「あ、ありがとうございます」
それをありがたく受け取り、顔を拭く。お礼を言おうとその人のいた方へ顔を向けたが、もう誰もいなかった。あれ?と疑問に思ったが、使い終えたタオルを持って、佐藤さんたちがいたところへ戻る。
広間のような場所へ戻ると、佐藤さんと巻尾さんは目を覚ましたのか、各々体を伸ばしたり等していた。
「これありがとうございます」
「ん?なんのことっスか?」
「え?このタオル渡してきたの二人のどちらかだと思ってたんですけど……」
「私たちは種田さんが洗面所に行ってからどこにも移動してませんよ」
「……え?」
あれは一体誰だったのか。そう疑問に思っていると、はなが目を覚ましたのか泣き始めた。お腹が空いたのか、用を足して不快なのかどちらかだと思うが、確認をしてみるとどうやらお腹が空いていたようだ。
どうしよう、必要なものを準備する暇もなく、急いで診療所に来たから何も持っていなかった。どうしようかと思っていると、佐藤さんがポケットから哺乳瓶と粉ミルクを取り出した。
「種田さん、どうぞ」
「え、これどこから出しました?」
「それはポケットからですよ。それよりも早く準備したほうがいいんじゃないですか?」
「……それもそうですね。ありがたく使わせてもらいます」
哺乳瓶に粉ミルクを入れ、お湯を借りて溶かし、冷水で冷ます。人肌ぐらいになったと確認できたら、はなの口元に持っていくと、勢いよく吸い付いた。
よかった、食欲はあるみたいだ。しばらく様子見ていると、飲み終えたのか哺乳瓶の乳首から口を離した。
ゲップを促すように背中を軽く撫でると、ミルクを吐き出しもせずゲップをした。
「食欲もあるようですね……よかった」
「そうっスね。種田さんが眠っていた時にミルク与えてたっスけどよく飲んでたっスよ」
「何から何までありがとうございます」
「そういえば種田さん。はなちゃんの予防接種どうしますか?」
「あっ、それ聞こうと思ってたんですよ。そしたら、はなが熱を出してたから聞けずじまいで」
「早めに予防接種の予約をしたほうがいいですね。申請等のやり方を教えましょうか?」
「お願いします」
「わかりました。あとで、メールと書面両方でお渡ししますので確認してください。書面の方には今後必要になる手続き等の詳細なども添付しておきます」
「わかりました」
どうやら地獄では、成長過程においていろいろやることがあるようだ。現世ではどうやっていたのか知らないが、こちらにはこちらのルールというべきか過程があるのだろう。それに従おうと思う。