廊下でしばらく待っていると、待合室の扉のロックが外れる音がした。扉を開くと、ぼたんさんがちょこんと座っていた。
「久しぶり、姉さん」
「あら、案外早かったのね」
「こっちは思った以上に書類が多かったわ」
「そうだったの。ありがとう」
佐藤さんと姉のぼたんさんが話しているのを少し離れた場所から見ていたが、普通の姉妹となんら変わらないと思ってしまった。そんなことを考えていると、ぼたんさんがこちらを見てきた。
「あら、あなたもちゃんと来てくれたのね」
「はい、ご指名でしたので」
「ふふっ、ありがとう」
「姉さん、そろそろ種田さんも一緒に連れてくるように言った理由を教えてくれてもいいんじゃないの?」
「それはまた後でいいわ。それよりも」
「それよりも?」
「何か甘いものが食べたいわ。あんみつとかぜんざいとかお汁粉とか」
「……呆れた。どれだけお腹空かしているの?」
「いいじゃない!こっちにきてからろくな食事取れてないんだから案内しなさい」
「わかったわ。種田さん、食堂へ行きましょうか。あそこなら姉さんの食べたいものもあるだろうし」
「そうですね、わかりました」
◇◇◇
食堂へ行くと、中は盛況でいつもより従業員が多いような気がした。時間を確認すると、昼のピークの時間に当たってしまったらしい。
「どうします?時間ずらしますか?」
「そうですね……ここで少し待ちましょう。あと10分ほどでこの流れは引けていくと思いますから」
佐藤さんが言ったように10分もすればほとんどの人が食べ終えたのか、席はまばらに開き始めた。食堂のスタッフがアルコールで台を拭き終えると、プンとアルコールの匂いが鼻に刺さる。
席に着くと、ぼたんさんは興味深そうに色々な方をキョロキョロと見ていた。俺が最初に地獄に来た時もこんな感じだったのだろうか。
「何を頼もうかしら……あんみつ?ぜんざい?お汁粉?あー、赤飯というのもありよね」
「姉さん、一つに絞らない?そんなには食べられないでしょ?」
「私は今とてもお腹が空いてるの。今なら全部完食できる自信があるわ」
「それはやめたほうがいいと思う」
「それもそうね……だったらみんなで違うものを頼んで一口ずつもらうってのはどう?」
「私はいいけど……種田さんは大丈夫ですか?」
「あっ、はい。大丈夫ですよ」
「じゃあ、私はぜんざい」
「じゃあ私はお汁粉で。種田さんはどうしますか?」
「うーん、じゃあこの中だったら赤飯ですかね?」
「わかりました。注文してきます」
佐藤さんはそう言うと、食堂の調理場の方へ行き、注文をしていた。ぼたんさんと二人になって話すことが思いつかず、沈黙が続く。その沈黙を切ってきたのは、ぼたんさんからだった。
「あなた、妹と仲がいいのね」
「そうなんですかね?一応上司なので良くも悪くもないと思いますが……」
「いいえ、あの子を見ていると仲が良さげにしか見えないわよ」
「そうなんですか……いやはやなんとも……」
そこで会話は途切れた。会話を続けようにも話題を切り込むことができない。一体どうしようと思っていると、佐藤さんが大きめの盆を抱えて戻ってきた。
「できましたよ。各自、自分の頼んだものをとってください」