食堂での一悶着から一週間ほど立った頃、はなの定期検診のために医者の先生のところへ行くと長蛇の列ができていた。これは一体何事だ?と思い、一番後ろに並んでいた子供を連れた鬼人に聞いてみることにする。
「すいません、この行列は一体……」
「あぁ、これね。ここ最近また風邪が流行ってるからかしら。熱や咳とかの症状が出てる子供が多いのよ」
「そうだったんですか……これ後ろに並べば良いですかね?」
「多分良いと思うけど……あなたとその子、もしかして人間?」
「あ、はい。そうです」
「地獄では珍しいわね。攫われないようにちゃんと守ってなさいよ」
「わかりました。あと、すいません。攫われるって……」
「あぁ、それね。いまだに鬼の間では人間の子供の生肝を食べると病気が治ると信じているのがたまにいるのよ。その子、人間でしょ?だったらなおさら気をつけないとね」
その話を聞いてゾッとしてしまった。い、生肝?つまり、生の内臓を喰らうってことか?想像するだけで気分が悪くなりそうだったので、はなをギュッと抱きしめる。
しばらく待っていると、列はどんどん先に進んでいく。また、しばらくすると医者の先生が住む住居兼診療所が見えてきた。
診療所に入ると、中は相変わらず薬草と思われるものが天井からぶら下がっていたり、何かが干してあったりとつい目が泳いでしまう。
「どうぞ」
「失礼します」
「本日はどう言ったご用件でしょうか?」
「この子の先日の風邪の調子を見てもらうのと定期検診をお願いします」
「わかりました。書類等は送ってもらっていますよね?」
「はい」
「わかりました。ではまずは身長と体重から……」
そう言って先生は慣れた様子で服を脱がせ、大きな秤の上にはなを寝かせる。すると、ピッという電子音が鳴ったと思ったら、計り終えたのかまた服を着せていった。
「はい、終わりましたよ」
「え、もうですか?」
「はい。この機械が導入されてから検査等を捌く速度が画期的に早くなりました」
「そうだったんですか」
「これで定期検診は終了です。次は、また来月来てください」
「あ、先生。風邪の後遺症とかは?」
「そうですな……先ほど量る際に服を脱がせましたがあざなども残ってなかったので特にはないと思われます」
「そ、そうですか……よかった」
「申し訳ありませんが次の方が待っていますので」
「あ、わかりました。失礼します」
◇◇◇
定期検診を終え、託児所に向かうと宮田さんが掃き掃除をしていた。宮田さんはこちらを見ると、薄く微笑んで手を振ってきた。
「こんにちわ、今からお仕事ですか?」
「そうですね。はなの定期検診を終えたので預けに来ました。お願いしても良いですか?」
「はい、わかりました。それで、定期検診ではなんと言われましたか?」
「別段、以上等はないらしいです。そこはホッとしました」
「そうですね、何もなければそれが一番良いですから」
「そうですね。では、仕事に向かうんでこれで。夕方に迎えに来ると思います」
「わかりました」
はなを宮田さんに預け、振り向かずに脚を進める。振り向いちゃだめだ。振り向いちゃだめだ。振り向いちゃだめだ。
まっすぐ顔を上げて、しばらく進むと大きな2本の柱が見えてきた。いつもの光景だ。
その柱の間を潜り数歩進むと木で張られた床が目の前に現れる。馴染みのある光景だ。
そこから佐野さんのいる受付までまた歩き、佐野さんから鍵を受け取る。今日も佐野さんはハキハキとしていて、目に眩しく感じた。
執務室に入り、今日の業務を確認するため、タブレットを開くと赤いランプが点灯していた。これが光っている時は、裁判がある時だ。
裁判をする前に事前情報を確認するため、タップする。すると、裁判予定の亡者の情報がずらずらっと羅列されている。それに目を通し、罪状等を確認する。
よし、情報は全部読めた。以前、佐藤さんから渡された黒縁の眼鏡をつけ、準備を終えると机の上にある呼び出しベルのようなものを一回押した。
すると、目の前に扉が現れ、亡者が獄卒に引き連れられてやってきた。
今日の裁判の始まりだ。