ベッドで横になっていると、ちょうど1時間後に佐藤さんが迎えにきた。約束の時間を指定すると、時間を合わせるのは佐藤さんの性格によるものだろうか。時間通りに来てもらってありがたい気持ちの方が勝っていた。
「種田さん、準備はよろしいですか?」
「はい、行きましょう。すごくお腹空きました」
そう言うと、佐藤さんは一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに通常時の顔に戻った。おそらくやせ我慢だと見抜かれたのであろうが、言わぬが吉と判断し何も言わなかったのだろう。
その後、佐藤さんと一緒に食堂へ向かう途中、時間に余裕があったので前々から疑問にあったことを投げかけて見た。
「佐藤さんに最初あった時から思っていたんですけど、結構頻繁にタブレットを使ってますよね。地獄でも通信環境整ってるんですか?」
「あぁ、それですか。キャリア等は、基本現世と変わらないと考えてもらえればいいかと。そういえば種田さん。今日一日、端末を触ってませんでしたが、触っても大丈夫ですよ。手持ち無沙汰になったら、Wi-Fi飛んでますからそれに接続すれば時間つぶし等に役に立てるかと」
ーー驚いた。佐藤さんは普通にタブレットを使っていたが、なにか地獄での特殊な仕様なのだろうと考えていた。が、まさか通信環境が現世と同じかそれ以上に整えられていて、しかもWi-Fiまで飛んでいるとは。
「連絡取ろうと思えばすぐにでも飛ばせますから。インフラ整備は、特にここ10年位で一気に進みましたね。以前は、審問などにも紙の分厚い冊子を使ってましたが、今はタブレット端末にデータを飛ばしてそれを使うのが主流になってます」
「聞くまでもないことなのかもしれないですけど、それって誰が発想元なんですかね?」
「発想自体は、以前からありましたが開発を主体したのは平賀源内さんだったかと。頻繁に現世視察して、情報を仕入れてきてるとは以前聞きました」
平賀源内、地獄にいるのか。しかも頻繁に現世視察に伺って、インフラ整備の知識収集してるとは‥‥もしかすると、生きていた頃より充実した研究ができているんだろうか。死罪にもならないだろうし。
◇◇◇
そうこうしていると、食堂に着いた。食堂というよりもフードコートの方がイメージは近く、以前来た時より獄卒は多くすごく賑わっている印象がある。座る席を確保しようとしていると、端の方に見知ったシルエットがーー閻魔様が手まねきをしていた。
「やぁ、たねちんと佐藤。おつかれさま。よかったら一緒にごはんどうだい?」
「ヤミー様がよろしければぜひ。種田さんもよろしいですか?」
「あ、はい」
たどたどしく返事をすると、ヤミー様の向かいの席に座る。以前も、この位置だったからもしかするとヤミー様の指定席なのかもしれない。
「審問初日はどうだった?つかれたかい?」
「えぇ、なかなかハードでしたがなんとか。思った以上に、エレルギー消費が激しかったので腹の虫が暴れまわってます」
「はっはっは!それはなによりだ。たねちんは、今日のおすすめ確認したかい。たしかフライ定食か、ミックスグリルだったはず。好きなほうを選ぶといいよ。」
フライ定食かミックスグリル……両方ともガッツリ系だ。ただ、その選択をされた時に何を選ぶのかはほぼ決まっている……あとはソレがあるかどうかだ。
「……閻魔様、フライ定食にタルタルソースはつきますか?」
「基本は付いてないけどたのめばもらえるよ〜」
確証は得た。そうと決まったら行動するのみである。
「では、フライ定食にタルタルソースをつけることにします。佐藤さんはどうします?」
「そうですね。悩ましい所ではありますが、私もフライ定食にします。タルタルソースは少量だけ」
「ふたりとも決断が早いね〜。おばちゃーん、フライ定食2オプでタルタル中小!」
「ハイヨロコンデー」
調理師の溌剌とした声が聞こえ、注文が出来たことに安堵していると、閻魔様が話題を振ってきた。
「……こんな所で話す内容じゃないのかもしれないけど。種田くん、最初の審問した亡者が知りあいだったらしいいね。亡者とはいえ、知りあいを裁くのはどう感じた?」
ヤミー様がスイッチを切り替えたのを感じ、その問いに答える。きちんと、自分の思った考えを自分の言葉でーー
「はい、思った以上に辛かったですね。生きていた頃を知ってるだけに、出した判決が正しかったのかは未だにわかりません。ただ、最後に見たあいつのーー後藤の背中はたぶん一生忘れないと思います」
「そうかい。その事を忘れなかったら、君は立派な審問官になれるよ。僕が保証する。 さて、そろそろ出来上がる頃だろう‥‥お、運ばれてきたね。さぁ、食べよう食べよう。空腹を満たせば次が見えてくる」
◇◇◇
その日のフライ定食は、海老・白身・イカ・アジの組み合わせだった。揚がって、そんなに時間が経ってないのであろうフライからはジリジリと音が鳴っている。そしてその横にはタルタルソース。小さい椀に7分目まで満たされていた。
佐藤さんの方は、内容は同じだったがタルタルは御猪口いっぱいぐらいの量だった。これが小サイズなのだろう。
「種田さんは、フライはタルタル派ですか」
「はい。むしろ、タルタルソースを食べるためにあるようなものだと思っています。まぁ、そこは人それぞれの主張ですので気にしないでください」
揚げたてであろう海老フライを箸で掴み、タルタルの海に浸す。今回はガツンと味わいたいので、1回目から半分ほどまで浸し、茶碗に盛られた白米の上にワンバウンド。そして口の中に頬張ると、揚げたての海老フライの旨味とタルタルの濃厚な味が素晴らしいコンボを叩き出す。
あぁ、最高に美味い……!コッチに来てからの最高記録を今更新した……!
次は、アジ。コレはディップするよりも、直接かけて頂く。その際には、味の表面にうすーくソースをかける。そうすると、ソースの風味が足され旨味が何倍にも膨れ上がる。
至高……その言葉がふさわしい旨味……
満足しながら食していると、佐藤さんとヤミー様から視線を感じた。その顔を見ると、ヤミー様は驚きと微笑みが入り交じった表情。一方佐藤さんの顔は慈愛の表情。母が子を見つめるような顔だった。
「……なにか顔についてます?」
「いえ、幸せそうに食べるなと思いまして。そういう表情もされるんですね」
「うん、たねちん。今、いい顔してるよ。すごくいい顔してる」
そんな顔していたか。なんというかこそばゆい。そんな感覚だった。