倒れ込むと、佐藤さんの胸に顔を埋めるような形になってしまった。どうにか起きあがろうとするが、うまく出来ない。
「あらあらまぁまぁ……そうだ!私やること思い出したんだった!」
そう言うとぼたんさんは、何かを思い出しかのように台所の方へ急足で走っていった。できればこの状況をどうにかして欲しかったのだが……
佐藤さんがつけている香水の匂いと何かが混じった甘い香りが鼻腔に漂う。まずい、これはまずい……脳が痺れるような感覚になってくる。
「……種田さん、離れてもらってもいいでしょうか?」
そう言われ、やっと我に帰ることができた。勢いよく立ち上がると同時に、平謝りの姿勢になる。
「す、すいませんでしたあああああ!!!」
「別にわざとやったわけではないとわかるのでそこまでしなくてもいいですよ。それよりも姉さんは一体どこに……」
「確か台所に用があると言っていたような……あれ?」
台所からゴリゴリゴリゴリ、と何かを潰すような音が聞こえる。一体なんだろうと佐藤さんの方へ視線を送ると、首を一度コクンと下げた。どうやら、この音に関しては佐藤さんも存じ上げないようだ。
二人して恐る恐る台所を覗き込むと、ぼたんさんが何かをしていた。一体何をしているんだろう?
「あれ、何をしているんですかね?」
「わかりませんがいいことではないでしょうね」
「……どうします?止めますか?」
「そうですね。姉さん、何をやっているの?」
「あら、もう平常に戻ったの?思ったより早いわね」
「……まさか何か盛ったの?」
「二人して積極性がないものだからしょうがないじゃない。大丈夫よ、少しだけドキドキする薬を飲ませただけだから」
「いつのまに……」
「あなたが食事の準備をしている間に箸に塗ったのよ。どう?味に変化はなかったでしょ?」
ぼたんさんは悪気がないように、自分がやったと言うことを自白した。ドキドキする薬と言ったがそれだけの効果なのだろうか?
「……それで。今は何をやっているのかしら?」
「これ?今度は媚薬と精力剤を混ぜた薬よ。これを飲んだら一晩お盛んになること間違いなしだわ!」
「……それを一体誰に飲ませようとしてたんですかね?」
「そんなの決まってるじゃない!種田、あなたによ」
そう言われ頭がクラクラとしたが、落ち着きを取り戻すために一度深呼吸をして、状況を飲み込む。
「まったく、せめて飲ませる前に本人に了承を取るのが一般常識だと思うのだけれど……そこはどう思うの?」
「何よ!あなた達の距離の取り方に不満があったのよ!悪い!?」
ぼたんさんは逆ギレをしているように見えるが、心の底では何を考えているのか見当がつかない。それは佐藤さんも一緒なのだが、なんと言ったらいいのだろうか。深みにハマってしまいそうで少し躊躇してしまう。
「……ハァ。とりあえず、その薬は捨ててちょうだい。今は必要ないと思うから」
「……わかったわ」
ぼたんさんは、素直に要求を聞き入れ調合していた薬をゴミ箱に捨てた。よかった。これで、トラブルは起きないはず。
「そうね……種田、いえ種田くんと言ったほうがいいかしら。私は宣言するわ!あなたを私の虜にするまで絶対に譲らないって!」
そう宣言され、また頭がクラクラとしてくる。人間、状況に追いつけなくなると、こうなってしまうと言うことが嫌でもわかってしまった。