しばらく何か考えていた佐藤さんだったが、何か思いついたのか周りにいた獄卒に、何かを頼んでいるようだった。獄卒は話を聞き終えると、首を縦に振りどこかに行った。
しばらくすると、その獄卒が紙の束を持ってきた。一体なんだろう?と思っていると、佐藤さんがそれを受け取り、頭を下げていた。
「佐藤さん、それは?」
「これですか?これは式神の紙です」
「式神?」
「簡単に言うと、紙で作られた使いのようなものといったところでしょうか。これで中の様子を見ようと思います」
佐藤さんはそう言うと、その紙の束を人型に切り、何かを書く。書き終えると、意思があるかのように動き出した。
ふわりと浮いたそれは、ゆらゆらと揺れながら託児所の方へ飛んでいった。飛んでいくのを見ていると、佐藤さんは手元からタブレット端末を取り出し、何かを起動していた。何をするんだろう?と画面を見ていると、画面が切り替わり、式神の視点と一緒になった。
「これで中の様子を見ることができます」
「すごいですね……これ」
「種田さんも頑張れば使えるようになりますよ」
「え、本当ですか?」
「ええ、頑張れればの話ですが」
佐藤さんはニコリと微笑んでいたが、それはそれとして大変そうではあると思った。画面を見ていると、犯人と思わしき二人の男が見えた。
ただ、その姿には引っ掛かるものがあった。その引っかかった原因はわからなかったが、しばらく様子見をする。
「音は拾えませんね……もう少し式神を飛ばしましょう」
佐藤さんは、追加で紙を切り何かを書いて式神を飛ばした。式神は、先ほどと同様にゆらりゆらりと飛んでいき、今度は音が拾えるようになった。
ザリザリっと最初はノイズが入ったようになったが、次第にクリアに聞こえるようになった。
「おい、周り囲まれているぞ」
「しょうがないじゃないか、兄貴。それよりも例の赤ん坊はどれだろうか?」
「どれだろうな……とりあえず急ぐぞ。逃げられなかったら意味がないからな」
ちゃんと聞こえていたのはそこまでで、男たちはどこかへと引っ込んでいった。
「なるほど、彼らの目的は赤ん坊が目的ですか」
「と、言うと例の生肝とかですかね?」
「それもありますが……人質というのも考えられます」
人質……確かにそう言われたら、使えると言えば使えるだろう。血が繋がっていないといえ、はなを見捨てることなんてできないし、それは他の赤ん坊の親たちもそうだろう。
そうこうしていると、視点も消えるようにして見えなくなった。
「……やられました」
「どういうことですか?」
「あちらも式神の知識があったと見られます。わかりやすく言うと、妨害されて映像と音声が切られました」
「つまり、こっちからは見ることも聞くこともできない、ということですか?」
「はい、面目ありません」
「いやいや、佐藤さんが謝ることじゃないですよ。それより、さっき言ってた男たちなんですけどもしかして見たことがあるのかもしれません」
「本当ですか?」
「はい、さっき思い出したんですけど。以前、日下部さんと食事に行ったと言う話をしたじゃないですか。その時に、店の中から追い出されるようにして出てきた奴らと声が似てる気がするんですよね」
「その男たちの特徴は覚えていますか?」
「えっと、片方が痩せ型で身長が高く、もう一人が小太りで身長は頭二つ分くらい小さかった覚えがあります」
「なるほど……人相は覚えていますか?」
「すいません。あまり覚えてないです」
「そうですか。とりあえず種田さんのそれが正しいとして、問題はその男たちがどこの輩なのかがわからないと言うことです」
「……確かに、そうですね」
「一応、こちらで調べるために色々と手回しすることにします」
佐藤さんはタブレット端末を懐に収めて、フーッと一息吐いた。式神は神経を使うらしく、薄らと汗ばんでいた。佐藤さんはハンカチを取り出し、額の汗を拭っていた。
「それで、ここからどうしますか?」
「そうですね……中の様子を見ることも叶いませんからどうしようもないですね。とりあえず様子見するしかないかと」
時間が経つのは、とてもゆっくりに感じた。30分ほど経った頃だろうか。獄卒たちが、幼児棟の周りを距離を詰めながら近づいていく。それを遠くから見守っていると、一人の獄卒が入り口の扉から中に入っていった。
それを合図したかのように、一斉に10人ほどだろうか。中に入っていくのが見えた。
しばらく様子見をしていると、中から託児所の職員と思わしき人と赤ん坊たちが外に連れ出されてきた。
よかった……怪我人とかはいないようだ。
「安心するのはまだ早いですよ。種田さんはまずははなちゃんが無事なのかを一番に考えていてください」
「そうですよね……」
「ちょっと私が様子見てくるっス!」
巻尾さんは、懐から何かを取り出すと、獄卒たちの元へ駆けて行った。どうやら、顔見知りのようで、少し挨拶をし終えると、赤ん坊たちを見にいった。
だが、それもすぐに終えて、こちらに帰ってきた。その表情は、あまりいいとは言えなかった。
「ど、どうしましたか?」
「種田さん、はなちゃんがいないっス……あの中にどこにも!」
「じゃ、じゃあ犯人の男たちはどうなりましたか?」
「それもいないっス!全く、訳わかんないっスよ!」
……最悪の事柄が起きてしまった。