所変わってとある空きビルの一室。そこには男2人が何やら話をしていた。
「兄貴、連れ帰ってきたのはいいけどどうする?」
「俺もお前も子供の世話なんてやったことないからな……何をしたらいいのかわからねぇ」
そう、彼らははなを誘拐した男たちである。身代金目的に誘拐をしてみたものの、その生命を維持させなくてはならないということをすっかり忘れていたのである。
「いや、しかしよぉ……さっきから泣き止まないんだが何をどうしたらいいのかさっぱりなんだわ」
「そうだよねぇ……とりあえずミルク飲ませた方がいいのかな?」
「そうだな……ただこの辺りにそんなの売ってる所ねぇぞ。知り合いの女たちに母乳でも出してもらうか?」
「それ誰が聞きにいくの?」
「お前に決まってるだろ」
「いやだよ兄貴。ただでさえ好かれてないのにこれ以上嫌われたくない!」
「だが、どうするよ……このまま放っておいたら確実に死ぬぞ?」
「うっ……それもそれでやだな」
「だろ?」
男2人悩んでいると、入り口の扉が開かれた。そこには、何かの荷物を両手に持った男が1人。
「オヤジ……どうしたんだその荷物?」
「あっ、持ちます」
「いや、いい。それよりこれの親にメッセージは送ったのか?」
「あっ、はい!さっき送りました!多分3時間後ぐらいには親元に届くはず」
「そうか……それならいいんだが……それよりこの荷物、バラすのを手伝ってくれ」
「これは?」
「赤ん坊用のミルクとおむつ、それに着替えが少々と言ったところか」
「買ってきたんですか?」
「一応知り合いにその手の伝があったから使わせてもらった。さっきから泣き止まないがもしかして腹を空かせているんじゃないのか?」
「そうなんすよ!どうやってミルク与えようかと考えてたところだったんで」
「じゃあこれを与えな」
「わかりやした!」
男2人は不慣れな手つきでミルクを準備していく。それをみていたオヤジと言われた男は何かを考えるように遠くをみていた。
◇◇◇
はなが連れ去られて3日が経った。その間、ろくに食事も睡眠も取れておらず正直身体は疲労困憊だった。業務に差し支えるということで今回のことが落ち着くまでは出社しなくていいとは言われたが、それでなんとかなるはずもなく、ただ不安で押しつぶされそうになっていた。
はなは無事でいるだろうか……ちゃんと食事は取れているだろうか?そんなことがずっと頭の中で反芻して繰り返される。
そうしていると、玄関のベルが鳴る音がした。一体誰だろうか?そう思い、扉を開けるとそこには佐藤さんと巻尾さんがいた。
「失礼します。体調大丈夫ですか?」
「なんか食べてるっスか?やけに頬が痩けてるっスけど」
「最近あまり食べれてないですね。それより2人ともどうしたんですか?」
「様子見を兼ねて来ました。閻魔様も心配していましたよ?」
「それは……お気遣いありがとうございます」
「とりあえず入っていいっスか?」
「はい、どうぞ。散らかってますけど」
佐藤さんと巻尾さんを部屋に入れ、扉を閉じようとすると隣室の扉がガチャリと開いた。そこには目の下にクマをつくった日下部さんが眠そうに生欠伸を噛み殺していた。
「あれ、どうしました?」
「あぁ、どうも。体調は……お互い芳しくないようですね」
「ですね。もしかして寝てないんですか?」
「短い睡眠を分けて取ってはいましたが流石に応えますね。そうだ、あるものが出来上がったので報告しなくちゃいけないと思ったんでした。あとで伺ってもよろしいですか?」
「今からでもいいですよ。先客がいますがおそらく大丈夫だと思いますし」
「わかりました。少し準備して伺います」
「わかりました」
日下部さんと話を終え、扉を閉めると佐藤さんと巻尾さんが不思議そうな顔をしていた。一体どうしたんだろう?
「えーっと、もしかすると日下部さんに会えるっスか?」
「はい、佐藤さんと巻尾さんがいいと言うならですが」
「是非是非っス!私も会いたいっス!」
そういえば巻尾さんはまだ日下部さんと会っていなかったのを思い出した。いい機会だし、顔合わせになるだろう。