ショッキングピンクの扉を潜り、執務室に入る。執務室は珍しく明かりがついておらず、真っ暗だった。
「珍しいですね……執務室が真っ暗なんて」
「そうですね。確かこの辺りに照明のスイッチがあったはずなので……」
佐藤さんが周囲に触れると、すぐに明かりがついた。どうやら、佐野さんには鍵を借りただけで、部屋の準備は特に頼んでいないようだった。
何も置いてない執務机の上に、今回の事件の時系列をまとめた紙が置かれた。こう見てみると、まだ事件から一週間も経っていなかったことに驚いてしまう。
「それで先ほどの話に戻りますが、犯人達の目的は身代金を強請ることにあると思っています。ここに何かほかの考えはありますか?」
「そうですね……本当にそれだけなんですかね?」
「と、言うと?」
「いや、たまたま連れ去った子供があの時一瞬だけ関わった人間の子供だとするじゃないですか。そうだと言ってはなを誘拐する目的には繋がらないんですけどね」
「そうですね……向こうにも他に目的がある、と種田さんはお考えのようですね」
「はい、まぁ……ただ単にそうなんじゃないかと思ってるだけなんですが」
「いえ、多角的に考えることは悪くありません。その方向も考えに加えてみましょう」
「質問してもいいっスか?」
「ええ、どうぞ」
「種田さんがそう考えた理由が知りたいっス」
「そうですね……最初にそれを考えたのは鬼と人の見た目の区別がそんなにつかないと思ったところからです」
「見た目の区別……具体的に言うと?」
「はい、俺もはなも一応は人間の子です。ほかの乳児は見たことはないんですが大人の鬼だったらこっちに来てかなり見た気がします。それで思ったのが、乳児期でも明らかに差が発生すると思うんです。例えば……」
「例えば?」
「角とかですかね」
「……すいません。それをすっかり忘れていました。確かに鬼の子共は乳児の時から角は生えています」
「そして、はなちゃんは人間だから生えていない、と」
「そう言うことになります」
「明らかにわかっていたのに忘れてたっスね……」
「ええ、長くこちらにいると忘れてしまう感覚です。ほかに違和感を感じることはありますか?」
「……特にそれ以外は今のところないですね」
「そうですか。では、種田さんは向こうから連絡が来るのを待っていてください。私たちは、先ほどの意見を取り入れながら調べさせてもらいます」
そう言い終えると同時に、端末が震えた。もしかして……と思い、アドレスを遡ってみると誘拐犯達からのメッセージだった。
『このメッセージを見ていると言うことはお前がこの子の親だな?子供は預かった。返してほしければ3000万用意するかもしくはこちらの言い分を聞いて動いてもらうことになる。言うことを聞けなかった場合はどうなるかわかるな? 返信等求む』
「これどう言うことですかね?こちらの言い分を聞いて動いてもらうことになるって」
「おそらくですが先ほど言っていた犯人たちの目的が他にもあると言うことの証明になりましたね」
「いちおう返信する時にこっちにデータが飛ぶように設定してもらってもいいっスか?」
「そんな設定ありましたっけ?」
「ちょっと端末借りるっスよっと」
そう言うと巻尾さんは手慣れた様子で、端末を弄った。ものの数分で、設定が終わったらしく端末は返された。
「よし、これでメッセージのやり取りがこっちからでも見えるようになったっス」
「すごいですね……慣れてるんですか?」
「これぐらいなら朝飯前っスよ。一応警察の役割も担ってるっスから情報を仕入れるためには色々覚えたっス」
そう言えば以前淫魔が部屋に出た時もそんなことを言っていたなと思い出す。巻尾さんが何者なのかはまだわかっていないが、一筋縄では行っていないのは確かだ。
「それでは先ほども言いました通り、今後の方針は誘拐犯の検挙とはなちゃんの奪還。これでいいですね?」
「はい」
はなが無事でいてくれたらそれでいい。今はそれしか考えられなかった。