その後数日、向こうからの連絡は来なかった。焦ってはいけないと思いつつ、はなのことが心配になり、イライラしてしまう自分がいた。
翌朝、あまり眠れずに目が覚めた。ここ数日、睡眠の質は明らかに悪化している。
洗面所で顔を洗い、鏡を見る。目の下にはクマが広がり、瞳は若干濁っているようにも見えた。
……はながどれだけ大切な存在なのかが嫌でもわかってしまう気がした。
暗い気持ちになってしまうところを無理矢理にでも抑え、身支度を整えていると、端末に着信があることに気づいた。
急いで確認をすると、それは犯人達からではなく佐藤さんからの業務連絡を示すものだった。
内容を確認すると、以前の書類に関して捺印がされていない箇所がいくつかあったのでそれを確認し捺印をしてください、と書いてあった。それが終わり次第、あとは自由にしてもいいとも書いてあった。
すでに身支度を整えてはいたからスーツの袖に手を通す。洗面所にある鏡を見ながらネクタイを通す。とりあえずこれで一応なんとかなった気がする。
息を大きく吸い、吐き出す。軽く頭痛がするが、すぐに終わる仕事だろうから少しだけ我慢することにする。
執務室がある庁舎に向かって歩いていくと、小さな公園のように見える芝生が生えた緑地帯が見える。昼間などは子供を遊ばせるためかはたまた井戸端会議をやるためだろうか鬼人たちが集まっている場所に珍しく芝生に倒れかかっている何かを見つけた。
恐る恐る近づくと、息をしている。どうやら、死体などではなさそうだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「…………」
どうやら虫の息というやつらしい。ここで放っておいて後々死なれたらこちらも気分がよろしくないと思ったので、頬を数発軽く叩いた。
「…………み」
「み?」
「……み、水と食料かなにかないかな?流石に死んでしまいそうだ」
「食料等は手持ちに何もないですが……少し待っていてください。たしかこの先に店があったと思うので」
「ありがとう」
「歩けますか?」
「なんとかね。よっと……おっとっと」
男は立ち上がったが、足元は変わらずフラフラとしている。心配になったので、肩を貸すような形で支えた。
本当に大丈夫だろうか?と思いながら、ミトカワの軒先に座らせ、水とグミを買い、戻る。
「これどうぞ。食べられます?」
「……袋が開けられないよ」
「少し待っていてください」
袋が開けられないというので、封を破り、ペットボトルの蓋を開けて渡した。男は、頭を下げグミをいくつか取り出して口の中に放ると水で流し込むようにして咀嚼していた。
「あー、生き返った……助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。手持ちのお金はありますか?」
「どうやらスリに擦られたようで手持ちには何も…
…あなたは今からどこかに行かれる予定でもありましたか?」
「ええ、少し仕事がありますのでそれをやりに行く予定です」
「……もしや閻魔関係のところでしょうか?」
「まぁ、そうですね。遠くはないと思いますが」
「あの、良かったらでいいんですが私も連れて行ってもらえないでしょうか?そこで妹が働いているんです」
「いいですよ。少し歩きますが大丈夫ですか?」
「はい、なんとか歩けるかと思います」
男は自力で立ち上がり、のそりのそりと歩き出す。その動きを見てると素人目からしても只者ではないな、と思ってしまった。