名前も知らない今にも倒れそうなこの人を横の連れそう形にして閻魔様の元へと向かう。道中、不思議なことに、いつもすれ違うはずであろう誰かしらがいないことに気づいた。
不思議なこともあるものだ。そう考えていると、閻魔様の執務室が見えた。
「多分中にいるかと思いますが、確認してみますね」
「うん、頼むよ」
執務室の扉に備え付けられている獅子が金具を咥えたようなものを2回ほど鳴らす。すると、扉の向こうから閻魔様の声が響く。
「失礼します。少しお時間いいですか?」
「ん?どうしたのたねちん。何か用?」
「お客様と言いますか迷い人と言いますか……とりあえず連れて来ちゃったんですがいいですかね?」
「うーん、まぁいいんじゃない?中入れていいよ」
「わかりました。どうぞ、中へ」
「はーい、失礼しまーす」
その男が扉を開け、中に入るとすかさず何かが頬の横っ面目掛けて飛んできた。なんだなんだと思い、見てみるとそれは閻魔様が執務でいつも使っている万年筆だった。
一体どういうことだろう?そう思っていると、隣にいた男にドロップキックをかますような形で閻魔様が横跳びになっているのが見えた。
なんだろう。一体どういうことなのだろう。認識が追いつかない。
その男にドロップキックを決めた閻魔様は親指で鼻の下を擦り、まるで往年のアクションスターのような姿を真似しているようにも見えた。
「おやおやお久しぶりじゃないかいバカ兄貴。一体どこほっつき歩いていたんだい?」
「そりゃあいろんなところへ行って来たさ。実に楽しかったぜ」
「なるほど……それで倒れて動けなくなったところを助けてもらった、と」
「よくわかったな。さすが俺の妹だ!」
「えっと……話しを切るような形で申し訳ないんですけどつまりこの人は閻魔様のお兄さんであってますか?」
「うん、まぁあってるよ」
「……それじゃあ何もしなくてもここに入れたのでは?」
「それだったら面白みにかけるでしょ。それに1人でここに帰って来たらおそらく奇術師のナイフ当てのように色々と投げられてしまうよ」
「な、なるほど……」
「はぁ……とりあえず、お茶にしたいところだったしそこの座りなよ。たねちんもよかったらどうぞ」
「失礼します」
椅子に座ると、隣に閻魔様のお兄さんが座り、対面に閻魔様が座るというなんとも言えない場所に座らされた。
間に挟まる形になったが、閻魔様は表情はニコニコとしているが何かオーラのようなものを纏っているようにも見える。
あぁ、これはだいぶ怒っているな……そう感じざるを得なかった。