「そういえば閻魔様。疑問に思ったことがあるんですがいいですか?」
「ん?なんだい?」
「たしか閻魔様って地獄を統括しているで合ってますよね?それじゃあお兄さんの方はなにされてる方なんですか?」
「あーそれはね……」
「それは私の口から言った方が早いから言うよ。見聞を広める旅と言った方がいいかな……いろいろな地域を見て回るのが今の仕事になってるよ」
「まぁ、わかりやすく言うと色々見て回るために身なりを隠して行動してるんだよ」
「なるほど……では、あの机の上に置いてある書類の山は?」
「それは兄貴の机。旅に出るのはいいけど仕事を貯めるのは良くないと思ってるんだけどね?」
「なにぶん電子機器を持ち歩くと言うのは性に合わなくてね……だから連絡すると言えば伝書鳩を飛ばしたり旅先から手紙を書いたりと言ったことぐらいしかできないね」
「だから突然来られると困るんだけどね…まぁ、ぼくはずっとここにいるんだけど」
そう言った閻魔様の言葉になにか引っ掛かるものがあった。その正体はなんだろう?と考えていると、閻魔様はパンパンと2回手を叩いた。
すると、小鬼衆が数人ぞろりと並んで歩いて来た。小鬼衆たちは、飲み終えた茶器や皿を手慣れた様子で片付けると、そそくさと出ていった。
「さて……たねちんが多分疑問に思っていることに答えるね。ぼくはこの社殿の外には出られない。その代わりと言ってはなんだけど、能力等はとても強くなってるんだ」
「わたしの場合はその逆で、外に出られる代わりに能力に制限があると言った感じだ」
「なるほど……お互いの能力を補い合ってるって感じですかね?」
「まぁ、それもあるけどね。とりあえずぼくは外に出られない代わりに兄貴の方は自由に歩けることができる。たまにそれは羨ましく感じることもあるよ」
閻魔様にもそう言う事情があったことなど気づきもしなかった。確かに閻魔様を外で見かけたことはなかったかもしれない。
しばらく黙していると、執務室の扉をノックする音が聞こえた。扉の方をみると、佐藤さんがタブレット端末を片手に持って立っていた。
「さっ、雰囲気が暗くなって来てしまったね。佐藤にたねちんを送ってもらうように頼んでるから今日は帰っていいよ」
「わかりました。それでは失礼します」
「ちょっと待ってね……兄貴が何か言いたいことがあるみたいだ」
「種田、と言ったね?君が今抱えている悩みはもうすぐ晴れるよ」
「え?」
「これは私のとても小さな力なんだけどね……妹には及ばないが少し先の未来を見る力と幸運を招き寄せる力がわたしにはあるんだよ。君は見ず知らずのわたしを助けてくれた。だから幸運を祈ってあげるよ」
「ありがとうございます」
「あなたに幸運を。旅路に光を」
そう言うと何かがふわっと身体に帯びたような気がした。それはとても心地よく、温かな光だった。
閻魔様の執務室を出て、外に歩いていくと雲の切れ間から陽の光が溢れていた。温かな光は、久々に見た青空を切れ間から覗かせる。なんだか少しだけ気持ちが晴れやかになった気がした。