次世代冥界ゆるイノベーション(仮)   作:しぶね

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神官ズとマナとアテムの、歯に衣着せぬ怒涛の掛け合い。
主にマナとセトがツッコミVSツッコミの漫才してる。

マナはお師匠サマ過激派の切り込み隊長。
セトは割といじられ気味。
アテムは前半空気
アイシスさん さいつよ



よくある冥界の朝の風景(激しめ)

「──だから、次回あの者が来るまでにあまり時は無いのだろうが。悠長にしておれば間に合わぬ」

「ひとまずアイシスが戻るまでお待ちください」

 

 それは冥界のとある朝。

 宮殿内のある広間で飛び交う声は、神官団の朝議のものだ。今朝の議題はあまりお手軽な中身ではないため、先ほどから少しばかり討論が行き詰まっており、冒頭の苛立ちを含んだ台詞は神官セトの発する声だった。

 

 この広間は謁見の間ではないため、権威を象徴する玉座が高い位置に置かれたりはしていない。現代日本帰りのアテムの意向もあって、宮殿内の執務エリアは効率を重視した実用的な配置に変更されつつあり、この部屋もそのひとつだった。

 部屋のやや奥寄りに、古代の当時に見られたスツールタイプではなくダイニングチェアに近い椅子と、それに見合った高さの大きめの卓が置かれている。部屋の手前側では過去と同様に立位での会議も可能で、状況によって使い分けられるようになっていた。

 王が持ち帰った文明チートの賜物、そのほんの一部である。

 

「アイシスはいつ戻るのだろうか?」

「そう間もないとは思うが……マナに資料を持たせると言っていたから、先にマナが来るかと」

 

 現在この場に集うのは、本日の議題に関するタスクのために一時的に席を外しているアイシスを除く六神官と、王の補佐役シモン、そして王その人だ。

 そんな話をしている間に、部屋の外から軽快な足音が近づいてきたと思うや、入口に数枚の石版やパピルスを抱えた少女の姿が現れた。

 

「失礼しまーす! おはよーございマス☆」

 

 特に何の含みも無く、明るい声音で挨拶しながらその場を訪れたマナ。

 しかしこの後の怒涛の掛け合いと長い一日は、次いで彼女の落とした何気ない爆弾発言から始まった。

 

「わーすごいココ、ハゲと筋肉とおじいちゃんしかいない」

「聞っこえたぞキサマ!! 口を慎め!」

 

 思わずこぼれたらしい、女子高生レベルのライトで無慈悲な呟き。ぴしりと男性陣の空気が固まる中、やたら敏感に反応したセトが気炎を揚げて椅子を蹴立て、足音も荒く彼女に詰め寄り噛みついている。

 冥界に来てからは昔よりもやや気性も落ち着いたかと思われていたセトだが、今日は朝から血圧が高い。

 

「シャダはともかく私はハゲではない!」

「ハgっ……これは剃髪です!」

 

 払う暇すらなくセトから火の粉をぶっかけられたシャダが立ち上がって即抗弁するも特に誰も取り合わず、勝手に筋肉枠に分類されたらしきマハードとカリムは、歳下の少女(見た目)相手にチワワのごとく吠えたける同僚をなんとなく眺めている。

 

「セト……自分がハゲ枠に分類されたことに即気付くとは」

「消去法にしろ我々より筋肉が少ない自覚はあるのですね」

 

 当のマナはというと、先程うっかりぽろりした失言とセトの勢いに押されて一瞬やや後退ったものの、すぐに抱えた石板資料を抱きしめるようにして彼をきっと()め付け、前のめりに言い返した。

 

「だ、だってなんかセト様はいつもひときわ暑苦しい帽子被ってるじゃないですかー! ホントにその下にフサフサあるんですか!? クリボーに分けてもらってきてあげましょうか?」

「あ る わ バカ者! そもそも被ってるのは私だけじゃないだろうが! お前の師匠とて常に何か被ってるだろう!!」

「お師匠サマはちゃんと毛がありますしー! 被ってる下からチラ見えしてますしー!」

 

 王宮内の重臣会議の場が小学生の口喧嘩の様相を呈してきたが、元より議題について行き詰まっていたところでもあり、そこにマナが別の風を入れてくれたと言えなくもない。セトも多少は分かっていて、彼女に軽口(セト式)で反応した部分もあるだろうか。

 一気に弛緩した空気の中、喧々囂々やりあう二人を休憩も兼ねて傍観する一同の側に、先程まで席を外していたアイシスの姿がするりと現れた。

 

「ただいま戻りました。マハードの下からチラ見えする毛がなんですって?」

「とんでもない切り取り方で組み立てるのはやめてくださいアイシス!!」

 

 戻って早々、遠慮も恥じらいもないアナグラムをブチ込んでくる六神官の紅一点に数名が茶を噴き出す。なお便宜上茶と表現しているが、飲んでいるのはクワス的な何かや水だ。

 不発で済んだ流れ弾をわざわざ拾ってぶつけてくるような所業に、たまらず食い気味で声を上げるマハードも意に介さず、アイシスはハッと口元を手で隠して眉をひそめた。

 

「……被ってる、のですか? いえまあそれはいいのですが、もう大人とは言え、あまりマナにそういうことを赤裸々に──」

「ちがっ……頭部の話ですから!」

「まあ、ではあなたの御髪(おぐし)は被りものだったと。そういえば改めて冥界に来てから髪の色も少し変わりましたっけ、お可哀想に中身を無くされて」

「無くしてません!! 私の髪は自前です! 髪色は写し身の黒魔道士との再統合によるもので──」

「そうですか、ご自身の髪でせっせとお作りになったのですね……お労しや」

「話を聞いてくださいアイシス!」

「まさかマハードがハゲ枠だったとはのう」

「誤解ですシモン様! シャダはにっこり微笑んで手招かないでください!!」

「一人ぼっちはさびしいからな……」

「魔女化に巻き込まないでいただきたい!」

 

 遠慮と恥じらいから容赦まで無くしたアイシスの爆撃によって、マハードが大炎上している。爆風でシャダの消火は出来たが、今度はこちらがグラウンドゼロだ。

 自分の発言のせいで大事な上と下の尊厳を失くしかけている師を尻目に、アイシスの声を聞きつけたマナが振り返った。

 

「あ、アイシスさんおかえりなさい!」

「手伝ってくれてありがとう、マナ。ところで皆が阿鼻叫喚ですが、何事ですか」

「うち一人はアイシスのせいだと思うが……」

 

 控えめに突っ込むカリムを露ほども気にせず、アイシスは後輩女子に声をかける。

 

「えっとー、アテム様時代の神官団ってアイシスさんがいないだけでこんなにむさ苦しいんだなーって思っただけなんですケド、セト様がなんかひとりでキレてて」

「先ほどはもっと血も涙もない暴言だった上にまだ悪意が隠しきれていないぞ!」

 

 マナは人差し指を口元に当てて首を傾げてみせるが、いまいちマイルドにし切れなかった彼女の報告を遮って口を挟むセト。案外ハゲ疑惑に傷ついているのかもしれなかった。

 石版一枚でセトの唾を防ぎつつ、マナも負けじと応戦する。

 

「悪意とか言わないでくださいヨー! 女のコから見たちょっぴり素直な感想です!」

「ちょっぴりどころか直球にも程があっただろうが!! 女のコとか幼気(いたいけ)ぶるな若作りしおって、キサマが現世で平均寿命大幅オーバーの大往生してから此処に来たのは知っているわ!」

「若作りって失礼ですね私の最盛期ですよこの姿!! セト様だって崩御したときのお歳じゃないでしょその見た目!」

「そんなもの当然アテム様にお仕えしていた時に合わせているに決まっとろうが!」

「私だってそーですヨ! そもそも女性はいくつになっても女のコなんです! セト様の時代から何千年経ったと思ってるんですか、毛とデリカシーが無いとキサラさんにまで嫌われますよ!」

「キサラに『まで』って何気にキッツいなマナ」

「くっ、女のコとやらなら何を言ってもいいと思うなよ……!」

 

 参考までに当時の平均寿命は30代半ばから後半程と言われていた(平均値であり中央値ではない)。

 キサラの名を出されると弱いセトは、ひとまず矛先を元の会話に戻して舌戦を続ける。

 

「だいたいキサマとてその意味があるのかないのか分からん頭衣を四六時中着けているだろうが!」

「あーバカにしましたね! これはいまの現世ではサンバイザーって言うオシャレ日除けなんですよ! 私、三千年は時代を先取りしてたんですからね!」

「そんな日光遮る気のないサンバイザー(日除け)があるか!」

「ていうか意味があるのかないのか分からない頭衣とか言い出したらみんなそうじゃないですかー!」

 

 そろそろ収拾がつかなくなってきた口喧嘩の傍らで、ジジイ枠2人は小間使いに茶のおかわりを所望してくつろいでいる。

 アクナディンはフードをかぶり直し、息子のハゲ疑惑には口を挟まないことにしたようだ。何か心当たりがあるのかもしれない。

 

「ところでオレはどこ枠なんだ……?」

 

 諸事情で帽子を被れないアテムは、上座で黄金ヘッドギア的なものをいじくりながら、話題に入れずちょっぴり寂しそうにしていた。

 

「あ、王サマいたんですね! そー言えばさっき声がしたような……って、思い出しました。──だいたいですねセト様、私いまはセト様にあれこれ指図される謂れはないんですよ」

「なんだと?」

 

 そこでアテムの存在に気付いたらしいマナは、今更ながら手を塞ぐ荷物に気付いたかのように抱えていた薄い石版とパピルスの束をどがんと卓に叩きつけ(置いたらしい)、改めてセトに向き直って宣言する。

 

「生前のセト様の治世ならいざ知らず、この冥界はアテム様というファラオの御下じゃないですか。あなたも神官わたしも神官! それに冥界で現状血筋の何が役に立つんですか? エラそーにしないでくださいよ!」

「ぐっ……」

「そりゃあ私は、セト様がアテム様から譲位されたあとは、お師匠サマの後釜としてセト様にお仕えしてましたケド? でもあの頃私セト様のことあんまりスキじゃなかったですから。他人に分からない自分ルール多すぎて言うことコロコロ変わるし」

「よく分かりますよ、マナ。私もあの頃のダブスタ野郎に仕えていたのは、アテム様が逝去された後の混乱を収めるため必要に迫られてでしたから」

「キサマら……!」

 

 身分にうるさかった自分ルールを持ち出され、言い返せないでいるセト。

 段々と思い出し怒りが加速してきたらしいマナの恨み言に、傍に来たアイシスもひょいと乗っかってきた。目の前でワナワナしているセト1世の治世において、彼女達は女性神官同士でなかなか仲が良かったようだ。

 

「そもそもセト様ってファラオになる前は、同格のはずのお師匠サマ達にやたら威張り散らした上に色々ひどいコト言ってたし、あんまり民を大事にしてなかったし、私がお師匠サマの石板見て泣いてたのをいい感じに利用したし、あとでお師匠サマの石版壊したし、犬死にだのなんだの散々ディスってくれたし、そのくせ龍の威を借るヤカラだったし、お師匠サマの石版壊したし」

「ちょ、マナ、」

「まあ、後のセト様の治世自体は悪くなかったと思いますし? もしこの冥界でお二人ともオシリス神になられてたら──いやでもやっぱり私はアテム様の御国一択でしたケド、こうしていま神官としてアテム様に仕えてるってことは、昔より多少改心したのは分かってますよ? でもイジメとかって、した側は忘れても された側は永遠に覚えてるものなんで」

「落ち着きなさいマナ、私は──」

「お師匠サマは黙っててください!!」

「はい」

 

 古代エジプトでは一時期、死後は誰でもオシリスの名を戴くことが出来るという信仰があり、彼女が触れている可能性はそのことだ。

 マナは喋っているうちに芋づる式に憤懣が引きずり出されてきたようで、絡み酒の上司のような態度でねっちねっち語り出した。怨念の邪悪霊(ダーク・スピリット)(☆3)になりかけている。

 いじめられっ子扱いのマハードが一応口を挟もうとするが、目が据わってきた師匠過激派の弟子に睨まれて即引き下がった。 

 

 自分が去った後の現世で、マナは後の王に立派に仕えたとは聞いていたが、その裏にはなんだかんだと醸成された不満も積もり積もっていたようだ。

 当時セトにウザ絡みされても割とフラットにスルーしていたマハードと違い、この愛弟子は素直で遠慮がなく、言い換えればやや直情的で思ったことをそのまま口にする傾向があった。逆に言えば、そんなマナが黙ってセトに仕えていたのなら、セトの成長のみならず、神官となった彼女は感情をコントロールし公私を分けられていたということでもある。

 弟子がしっかり大人になっていたという感慨もありながら、自分の対応のせいで後の主従に禍根を残してしまったのかもしれないと思うと気は咎めるが──そもそもセトがああいう感じでなければマナの不満も起きなかったわけなので、マハードはひとまずこの段においては口を噤むことにした。

 

「そのへんにしてやれ、マナ、アイシス。──もう大丈夫だ、いまオレが治めるこの地では、そんな理不尽パワハラモラハラは許さないぜ」

 

 かつての臣下に過去の所業をあげつらわれ、だいぶライフポイントを削られているらしい元ファラオを引き取るように、ここで改めて現王のご登場。まるで後光が差しているようだ。やっと会話に入れて嬉しいらしい。

 なお王が席を立ったので、着席していた面々も同様に立ち上がり、結果全員がセト達のいる立位エリアに移動してきた形だ。

 

「さすが王サマ! やっぱりホンモノですね!」

「本当に、ご帰還をお待ち申し上げておりました」

 

 新旧両王で女子の反応の違いが著しい。

 ダメージ過多で卓に手を着き、膝を折りかけているセトの肩に、近寄ってきたアテムがそっと手を置き語りかけた。セトがしおれているとやっと目線が揃う。

 

「セト、そう落ち込むな。お前の治世が見事だったことはオレも知っている。直接見ることの出来なかったオレがそれを知っているということは、お前と共に過ごした中でそう評価した者達がいるということだ」

「ファ、ファラオ……」

 

 ちらりと背後に目を遣ると、アイシスは常のように微笑み、マナがぷいとそっぽを向いている。

 セトの治世を共に過ごし、冥界でアテムに直接話ができる者と言えば、自ずと答えは絞られてくるわけで。先ほどマシンガントークで散々ディスり倒した手前、そうそう素直にはなれないようだが、蛇蝎の如く嫌っているというわけではないようだ。思い返せば『あの頃』とか『スキじゃな "かった"』とも言っていた。

 

「オレも闇のTRPGを終えたあと、思い返してみるとちょっともしかして自分の目が節穴だったかなとか、時間が無かったにしろ『貴様ごとき真の王にはなれない』とかこき下ろした直後に後継者任命するとかストレスで健忘になってたのかと頭が心配になったり、そうするとあの栄光の未来は疲労で幻覚が見えていたのかと本気で不安になったりもしたが」

「ファラオ?」

「それでもオレの死後、お前は思った以上によくやってくれた。……オレは嬉しかったんだぜ、冥界の扉が開いたとき、そこにお前がいたことが。マナの言った通り、オシリス信仰により自分が死後も冥界のファラオとなる道もあったものを、お前はそれを選ばず、このセヘト・イアルでオレの帰還を待っていてくれた。たとえ今一度オレと闘うためだとしてもな」

「ファラオ……!」

 

 前半ほんのり不穏な感じだったように聞こえたが、続くアテムの言葉に思わず跪くセト。

 

 余談だが、代理とはいえ生前の王冠が闘って得たものではなく譲られた王位であることに納得していなかった彼は、冥界へ帰還したアテムに改めて王位を賭けた決闘を申し込んだ。

 だが、当時セトが戦ったのは、父の崩御と身内の裏切り、国の暗部や正義の定義に揺れる即位間もない年若い王と、長年の千年輪による縛りプレイ直後かつ自己犠牲で突っ走りがちな先王臣下の、ゾークとの大激戦直後で消耗し倒した初心者ペアである。

 対して三千年後に満を持して帰ってきたのは、異なる時代で様々な経験を経て精神的にも成熟し、色々な懸念事項や心残りを払拭して冥王としての自分を受け入れた現人神(あらひとがみ)と、冥界での更なる修行に加えて現世でも写し身となり彼の側で共に戦い続け、千年輪のハンデも取っ払った最忠臣の、コンビネーションも鮮やかな信頼の歴戦タッグだ。

 世界どころか次元をも操り、最終的に千年輪の邪念まで吸収した方界モンスターの親玉すら、たった一撃で消し飛ばすマハードの魔法の威力はもはや規格の埒外であり、勝敗は現在の状況からお察しの通りである。

 

「異国の現世で色々と学んできたが、オレの魂が目覚めた国は、現在世界最古の王朝と言われていた。しかし現在の王は(まつりごと)には敢えて携わらず、国の象徴であることに存在を捧げている。それはそれでなかなか効率的なんだぜ? 他にも政教分離とか、興味深い法がいくつもあったが」

 

 意外なところで日本の高等教育が役に立っている。童実野高校の政経教師も、よもや他国の王が自分の授業を聞いて国家運営の参考にしているとは夢にも思うまいが。

 

「現世における我が国の王朝は、残念だが途絶えてしまったようだ。だが、少なくともオレたちが暮らすこの国には君臨し統治する王が必要だし、そんな経緯のオレには政の経験が足りていない。そして、オレが帰る前にここの基盤を整えてくれたのは、現世で長らくこの国を統治していた父上とセトだ。──本当に大義だった、セト」

「は、勿体無いお言葉……!」

「今この国の王はオレだが、国を治めることについては、大所高所(たいしょこうしょ)の見を持つお前の助けがまだまだ必要だ。摂関政治にするつもりは無いが、マナやアイシスの言ったこともきちんと振り返った上で、改めてオレの力になってほしい。これからも頼りにしているぜ」

「はっ! ご尊命しかと賜りました!」

 

 アテムが実家に帰った(冥界の扉を開けた)時は父である先王アクナムカノンも共に出迎えてくれたが、彼は息子の帰還と同時に隠居を宣言し、現在は離宮で悠々自適に過ごしている。

 一部アテムが何を言っているか分からない部分もあるが、メンタルブレイク直前で承認欲求を満たしてくれた主の言葉に感極まったのか、戦国武士のようにいい返事で額ずく神官セト。国畜まっしぐらである。本望だろう。

 彼を見下ろし、鷹揚に口の端を上げて微笑むアテムに、孫的存在の成長を目の当たりにしたシモンが目頭を押さえていた。

 

「──それと……いい機会かもしれないな」

 

 王と臣下の絆パート1が一旦完結したところで、アテムは少し考え込んだ後、おもむろに顔を上げ、皆へ宣言する。

 

「セトの過去の話も出た今、改めてここで話しておきたいことがある。時間もあるし、全員揃っているから……皆、少し付き合ってくれ」

「は、承知いたしました。して、どのような……?」

 

 改まった様子のアテムに、皆が僅かに身構える中、

 

「まずはじめに──マハード、……すまなかった!」

「ファラオ!?」

「なんですかその奇っ怪なポーズは……!?」

 

 突然、マハードへ向けて90度体を折りそのまま謝罪の言葉を述べ出した王の奇行に、すわ新式の体操か呪術様式かと神官一同に動揺が走る。

 

「あのときはバクラやゾーク、あとセトやらをなんとかしようと焦るばかりに、誰より尽くしてくれたお前に対し満足に報いることが出来なかった……」

「とんでもないことです、頭をお上げくださいアテム様! それと他の皆は()の国のその体勢の意味は分からぬと言えども、王が軽々にそのようなことをしては……!」

 

 唯一 日本式謝罪会見を知っているマハードだけは、その意味を察して飛び上がり恐縮する。彼の国における『頭を下げる』意味は正確には他の面々には通じないとはいえ、このままだと日本で覚えたDOGEZAを披露しかねないアテムを必死に諭すが、王はかぶりを振って顔を上げ、強い眼差しで彼を見つめた。

 

「オレの頭は軽くない……いや、パーではないという主張でもないが、軽々しく頭を下げたつもりもない。さっき挙げた以外にもお前に謝りたいことはいくつかあるし……マハード、お前がオレにずっとそうしてくれていたように、オレもお前に誠実でいたいんだ。けじめだと思ってほしい」

「ア、アテム様……」

「──その上で。皆もいるこの機会に、改めて話しておきたい……聞いておきたいことがあるんだ、マハード」

 

 初めこそ当惑していたマハードだったが、彼は淡々と続く主の言葉を聞くにつれ顔を強張らせ、胸元に置いた拳を強く握り締めていく。

 

「分かるだろう。──三千年前の、お前の選択の話だ」

 




次回割とまじめ(しかしアホの名残は消えない)
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