【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】 作:ウェットルver.2
赤色のない道化師
現代(西暦2012年、平成24年)よりも遠い未来 バル・ベルデ国境
ちろちろと蠢く影が、より大きな影へと消えていく。
それを確認した怪物は背を向け、瞬く星々へと走り出した。
色の判別できない影が通りすぎる。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、乾いた音が続いて、いつつ、むっつ。
泥沼に沈むような音が鼓膜を震わせながら、ななつ、やっつ。
身体に弾かれた風かのような感触を、ここのつ、とお。
銃口から輝き、燃え尽きる火薬のにおい。
風に乗ってやってくる。人間の欲望のにおいだ。
「くるな! くるなあっ!」
「そっちは逃げろ、あれに銃が通じねえ!
だれかランチャー持ってこい、対戦車砲でぶっ飛ばせ!」
「ばかっ、こんな町までランチャーなんざ持ってくるかよ!?」
「グレネードでも当てりゃいいじゃねえか!
こっちに! こっちに逃げるなっ!」
賑やかな喧騒に拳を握り、掴んだものを振りまわす。
やけっぱちで相手が振りまわしたものを、まっぷたつにして、そのまま等分。
「ジョー? ジョーっ!?」
「ふざけんな、どうみたって生き物だろ!?
角だの牙だのでマシンガンが切れるわけねぇ、夢だ、夢なんだこれは!」
赤い霧が右手に滴る。
それが自分の身体に吸い付き、ジョーと呼ばれた男が霞のように消えていく。
己の胸部が赤く輝き、胸から肩、腹から足へと活力を与えた。血の脈動を思わせるエネルギーの奔流が、自分の体力を取り戻させていく。
「ちくしょうっ、俺の友達をおぉぉ~っ!」
「行くな! マイクっ、ナイフが通じるわけが………!」
なにやら、湿っぽい皮膚を切り裂いた気がする、
また赤い霧だ。こいつを浴びると、不思議と疲れを感じない。
しかし、なるほど、友達の仇か。
自分は、そういうものなのだろう。
おまえたちも、そういうものだろうに。
「おお、うおああああああっ! ちくしょうっ、ちくしょおっ!」
鉛玉が絶え間なく、暴風雨のように飛んでくる。
なかなか前に進めないな、と身をよじり、背を低くさせて前に進む。
「あの野郎………こうなりゃ戦車だ、乗ってきただろ? 呼べ!
こけおどしだろうが武器は武器だ、ぶっとばしてやれ!」
「馬鹿なのか!?
さっきグレネードで傷ひとつなかったんだぞ!
ノイズと同類のバケモンだ、エリアの奪いあいどころじゃっ………!」
あの司令塔は使えそうだ。
わざと生かして、相手側の部隊を混乱させてもらおうか。
とりあえず、隣の冷静そうなやつは切り飛ばそう。右の籠手から鎌の刃状の武器、「マンティス」を引き剥がして、両腕の「マンティス」に力を込めて振りまわす。
切っ先の残像が緑色に輝き、するりと男たちの肉を通りすぎると、やはり赤い霧を噴き出しながら、こちらへと吸い寄せられて吸収されていく。
「あっ………………はっ………………??」
わけもわからず、こちらを見つめる司令塔の男。
それもそうだろう、男と自分との間には、走っても数秒かかる距離がある。
得物を振りまわしたくらいで、その刃が届くはずもない。さきほどまで己に異論を唱えた男の身へと、刃が通り抜けたはずがない。ジャパニーズ・コミックで稀に読む「飛ぶ斬撃」を思わせる光る風、そういうものだと悟るほどの異文化知識など彼にはない。
「……………あくまだ、」
日本国より遠い、異国の地で。
異文化、異教、異なる肌、異なる民族が尊重されることは滅多にない。
「あくまだああああっ!!」
あの彼もまた、理解できないものを。
畏れることなく恐れ、存在を否定することしかできない。
牧師なくして森羅万象を恐れる、導かれる羊の群れのなかでも不出来な。
ただの、子羊でしかなかった。
混乱は通信機を介し、着実に、彼らの仲間たちとの情報共有を杜撰にさせる。
服だけを残して消滅した男の残骸を貪るふりをして、拾いあげた通信機を操作し、敵軍の様子を確認しながら、生物兵器だの悪魔だのハロウィンの仮装をした馬鹿だのと予想され続ける怪物は次に切るべき
通信内容が怪物のことだけに変わりゆく。
とにかく自分を助けてくれ、指定の位置にきてくれと、司令塔だった男は泣き叫んでいる。困惑、猜疑、信仰強さから真に悪魔だと信じて勇気を奮い出す声、多様な声が交わり、さきほどまで彼らがやろうとしていた悪行から、なぜか悪魔退治という正義の行いじみた英雄譚と塗り替えさせている戦況を、怪物は実感していく。
己という怪物。
黒色の肉体を覆う、緑色の外骨格と、半透明なバイザー状の仮面。
不死生物アンデッド、生物種繁栄競争バトル・ファイトの参加者。
そうであるはずの登録された参加者52名をのぞく、必ずバトル・ファイトに参戦し続ける統制者からの刺客。優勝すれば、全生命体を絶滅させる最後の不死生物。
ジョーカーアンデッド。
道化師の帽子じみた触角を跳ねさせながら、ゆっくりと男に近寄り、通信先の人間たちが男を救出しない選択肢を選ばないように、あたかも弄ぶかのように、わざと生かす怪物は――――
脳裏に浮かぶ“掲示板”のイメージを相手に、文字を打ち込んでいた。
異世界掲示板。
あらゆる平行世界に転生した、異世界からの転生者の酒場のようなもの。
ときに原作がある平行世界の特定個人を救うための情報収集の場となり、平行世界の滅びの現象を回避するための対策会議の場ともなる、ネット掲示板のようなもの。
探るものが探れば、
「こんなものがあるから
と、疑われることもあるが、なぜか魂に刻まれたらしい特殊能力は、
「こんなものがない
という、世界線を越えて旅をする人物からの指摘により、なんだかんだ訝し気に思われつつも、転生者たちの間で活用され続けている。胡散臭かろうと使うしかなくなっている、というのが実情だろうか。
ジョーカーアンデッドに転生した青年もまた、怪しみながらも、この異世界掲示板の特殊能力を活用して、今いる世界の情報収集を進めようとしていた。
【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました。【迷子】
53:ジョーカーアンデッド?(>>1)
こまかいことはもう返信したけど。
まあ、そういうわけで。今北産業レスします。誤解を恐れず。
おっす! オラ(多分)ジョーカーアンデッド!
いつまでたってもバトル・ファイトの参加者に出会わないので。
とりあえず紛争地帯を襲ってまわることにしました。
54:名無しのアンデッド
ほーん、ジョーカーニキ、剣崎*1するん? 小説版の。
55:ジョーカーアンデッド?(>>1)
え、小説版? そんなの……あったらしいな、買ってないけど。
56:名無しのアンデッド
あー、知らない感じか。
やってるんだよ剣崎、小説版だと。似たようなこと。
たぶん始(ジョーカー)*2と決着つけないための、だろうけどさ。
57:ジョーカーアンデッド?(>>1)
カッコいいな剣崎!?
そっかー、ボクのより動機がマシなんだろうなー……
58:名無しのアンデッド
ネガるの悪いくせやぞジョーカーニキ。
自虐と謙遜は紙一重よねホント、よくやってると思うぜ?
59:ジョーカーアンデッド?(>>1)
そうかなぁ。
60:名無しのアンデッド
やってるよ。
人類滅亡の危機(自分がバトル・ファイト*3で優勝すること)の回避の時間稼ぎであれ、ほかにアンデッド(バトル・ファイト参加者)の生き残りがいないか探してどういう世界なのか確かめるためであれ、そのどっちに転んでもいいように動くためであれ、個人的な悩みのためであれさ。
「紛争地帯を暴れてまわって世界平和!」
って、充分働いてると思うぞ。
61:名無しのアンデッド
剣未視聴勢に優しい解説&イッチまとめあざっす。
ふーん、イッチが優勝すると人類が滅びるのね………やべーなオイ。
時間稼ぎ頑張れ、めっちゃ頑張れ。やれよ、でなく、やるなよオラァン!
62:ジョーカーアンデッド?(>>1)
…………やさしいなあ。
とにかく、やりかたが愉快犯っぽくてアレだけどさ。
なるべくターゲットを集めて、聖戦略奪されまくってる町(と現世)から追い出そうと思います。もう何度目だっけ? いろんな町でやってる気がする。
63:名無しのアンデッド
っつーか、本当に「ブレイドの世界」*4なのかね、そっち?
64:ジョーカーアンデッド?(>>1)
わかんない。
なんか今日初めて変な単語聞いたけど、軍事用語だったら恥ずかしいなんてもんじゃないから、確証が取れるまで掲示板で聞くのは控えようかなー、ってのがある。
ひとつだけだけど。
65:名無しのアンデッド
なんて単語?
66:ジョーカーアンデッド?(>>1)
ノイズ。
こっち見て「ノイズ」とか叫んでた。
新しい仮面ライダーで音楽とかDJがモチーフの世界観とかあるなら、怪人の種類が「ノイズ」だとしても違和感ないからさ、どうにもわっかんねーんだよね。
ほら、ボク、ゾンビ系っぽい種族名だし。アンデッドとかさ。紛らわしいじゃん。
ノイズって言われても、どういう怪物なのか謎なのよ。生物兵器かもしれんけど。
67:名無しのアンデッド
………………シンフォギア?
68:ジョーカーアンデッド?(>>1)
なにそれ?
69:名無しの装者
いや、うん、紛争地帯ね。コテハン*5やっとくわ。
国の名前は? 中東なら世界地図でわかりそうなもんだけど。
70:ジョーカーアンデッド?(>>1)
国名言われても。
ブラジルで(アンデッドの不死性に任せて密航して)飛行機降りて放浪してるから、どこの国とか本当にわかんないんだよ。最初に向かった……っていうか、そのあたりの紛争終わらせるために行ったんだけども。
バル・ベルデの国境の村か周辺諸国だろうなー、ってのはわかる。
71:名無しのアンデッド
つーかバル・ベルデて。ハリウッド映画の架空の国名じゃなかったっけ?
実質フリー素材とか言われてるやつじゃね??
72:名無しの装者
………………最前線だな。ちょっと確認していいか?
NGO活動中の音楽家の御両親をお持ちの銀髪少女を拾った憶えは?
雪音クリスって言うんだけど。
73:ジョーカーアンデッド?(>>1)
ないかな。
ヴァイオリンの音で起きたことはあるけど、ひょっとして、あのあたりに似たような親子がいたのかもしれないね。
74:名無しの装者
似たような?
75:名無しのアンデッド
仮面ライダーシリーズの平行世界だとさ、同姓同名ならぬ、異姓同名の人間がいたりするものなんだよ。だいたい同じ職業に就いているから、原作世界の本人っぽい他人。
76:名無しの装者
ふーん………がんばれよイッチ。
77:ジョーカーアンデッド?(>>1)
お、おう?
78:名無しの装者
雪音クリスまたは何某クリスの未来はお前に任せた。助けてやってくれ。
79:ジョーカーアンデッド?(>>1)
ええ? そう言われてもな。
あのあたり、もう大丈夫だと思うんだけどなぁ?
………オーライ。ちょっと始末したら戻ってみるよ、あっちのほう。あっ首折っちゃったやっべ逃げられるかも
80:名無しのアンデッド
司令塔(?)をカイザしやがったのか!?
>>78 ひょっとしたら、クリス・(洗礼名)・何某かもしれんぞ、母方(ソネット)の姓になってるかも。公式で設定あったっけなあ………?
81:ジョーカーアンデッド?(>>1)
いやちがうって草加*6させてないから。首絞めて殺してないから。
急に格闘技しに来たから、あっちの関節技を無理やり剥がしちゃったんだよ。
そしたら勢いよくスポーンって飛んで、戦車にぶつかってゴキッと。
82:名無しのアンデッド
トラック転生であの世に運送じゃなくてタンクへ直で運送とか。
絶対戦車のベルトに死体からまったろ? よくてもペシャンコじゃね?
83:ジョーカーアンデッド?(>>1)
からまったっぽい。吐きそう。
あの戦車を代わりにしよう。そこの連中を助けるか、助けないかで、もうちょっと連中の動きが乱れてくれればいいな。司令塔じゃないから優先度低そうだけど。
84:名無しのアンデッド
優しい口調で殺しとかやること木場*7だわジョーカーニキ。
85:名無しのアンデッド
マジで、どこの世界なのか謎なんだよなぁ。イッチんとこ。
相変わらず賑やかな”掲示板”から意識を戻し、改めて戦況を注視する。
………ダメだったか。
戦車に乗った面々を見捨てて、我先にと逃げようとする人数が多い。
真面目に悪魔だと信じ込んで助けに来た兵士でさえ、そのうちの半数近くが神頼みばかりを繰り返すようになってしまった。聖書の内容を諳んじているのだろうな、とわかる者もいれば、やたらと十字架をむけてくる者もいる。
ほんのわずかな数。見捨てられた人間たち。
いや、なに同情している、やるしかないだろう。
どんな理由であれ、民間人から略奪する行為を見逃せば、別の街で繰り返されるだけだ。見たところ正規の軍でもなさそうだし、まともな傭兵でもなさそうだし。
そんなことをするやつが「天国に行ける」と思っていることのほうを怒れ。
腕を振る。腕を振る。がむしゃらに腕を振る。
飛び散る霧が色濃くなるまで集い、また自分に吸収される。
………この現象、見覚えはある。が、ジョーカーアンデッドが吸収する対象は、同じ不死生物アンデッドであって既存の生命体ではなかったはずだ。
だとしても確証、確信には足らない。
「……雪音クリス、音楽家のNGO職員の娘、か」
特別扱いをするべきではない。皆殺しにした残存兵と同様に、その命は、助かった側の人々と同じ扱いをしなければならない。
ただ、頼まれた以上、終わらせないと”掲示板”の居心地が悪くなる。
”ノイズ”なる脅威も忘れてはならない。
「………疲れるな」
いつかの廃墟で休んでいた時、自分を癒した、あの音楽。
それを二度も聴けるのであれば、特別扱いの報酬としては充分かもしれない。
戦場跡と化した街を練り歩き、自転車を何台か探して、焦げていないタイヤを集めて、火災でタイヤがダメになった自転車へと取り付ける。
怪物としての、ジョーカーアンデッドとしての姿を、通りすがりの避難していた人間に見られながら、恐れられながら、しかし自転車を担いでいる姿に呆然とされながら。
完成した自転車に跨り、なにごともなかったかのように街を去ろうとして。
何人かの子供たちに手を振られた。
最初は石を投げられるのかと思った。
髪型や服を見て、ようやくだれなのかを区別つけることができた。
「………バイバイ」
軽く手を振り返し、自転車を漕ぐ。
そうか、あの司令塔を追いつめたとき、後ろで物陰に隠れた子たちか。
さっきから変な物音が聞こえると思っていたんだ。自転車にタイヤを取り付けるまで、ずっと後ろについてきていたのか。だとしても、いつから追いかけてきたのだろう。
………まさか、戦闘中も追いかけてきたわけではあるまい。
別にいいか。
気にすることでもない、無事なのだから。
目指すは、かつて音楽を楽しんだ、あの廃墟の近辺。
近所から聞こえてきた、賑やかな声のありか。まず、そこから探そう。
ピエロの怪物。ノイズもどき。
バル・ベルデのピーター・パン。あるいは
その都市伝説が国境を越え、海を越え、なつかしき日本国に届くまで。
古代の巫女が聖遺物の適合者を求め、ある音楽家夫婦の遺児に目星をつけて「バル・ベルデ」へと向かうまで。
バトル・ファイトが開催されるまで、あと――――
仮面ライダー剣って、最終回が素敵すぎて二次創作すんの難易度高そうですよね。
仮面ライダークウガと同じくらい「また活躍してほしいけど戦ってほしくない」仮面ライダー作品の筆頭だと思う。
砂漠化した地球でも未だに旅を続ける剣崎を電王の二次創作漫画で見たときは息を呑んだなあ。そのくらい戦わない方が格好いいんだよ、仮面ライダー剣。
でもこのJOKERは仲間とかいないので。始さんじゃないので。
とりあえず彼の物語を描かせていただきました。掲示板形式の世界の仮面ライダー怪人って、こうなるんじゃないかなーみたいな。妄想が勝手に動いた。怖い。助けて。
シンフォギアだけ知っている読者に易しければいいなコレ。