【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】 作:ウェットルver.2
現在時間。雪音夫妻の命日、および死の直前の記憶。
分かちあった、幸せな時間。その
バル・ベルデの都市部のひとつ。
鉛玉や火薬が奏でる旋律は、バル・ベルデの民に「音」への恐怖心を植え付けた。ほんのわずかな
NGO活動として始まった、ソネット・M・ユキネのストリート・ライブ。
ひとびとの「音」への恐怖を、「音楽」で打ち克つ。
………雪音夫妻の
死を悼む心が苦痛に震えて「忘却」を選ぶよりも、その足に力を与え、離別を受け入れて進む「勇気」へと変わりつつある中、雪音クリスの、いや、
「―――いよっし、たどりついたぜぇ!」
この時間にいる“雪音クリス”の服の袖から。
己の記憶である“時の砂”が零れ落ち、未来の自分が契約した怪物は姿を現す。
「え? く、クリス!?」
「どうしたソネット……な、なんだ、この化け物は?」
気絶するように倒れこむ、我が子。
その目の前に現れ、夫婦を向いて威嚇するかのように立ちはだかる魔物。
かつてモモタロスたちが戦った「アントホッパーイマジン」とは別の、純粋なキリギリスの外見を保った怪人「グラスホッパーイマジン」。
「さあ、今こそ契約を叶えてやろう!
『自分のパパとママに会いたい』……それで、どうなっちまおうとな!」
「………士さん」
「なんだ?」
きっと叶えば、夢のような話で。
それでいて、すべてがあべこべだからこそ、感じていた恐怖。
「もしも今、パパとママが、その、死なないで済んだら。
……そのあと、どうなっちゃうの?」
もちろん、そんなことになれば。
自分はきっと、ジョーカーを追いかけて旅には出ない。
それもそれで、ジョーカーの心を壊すことになるのだろう。
だから、最後の確認。
自分の本当の願いに、お別れを告げるための。
「そこまでは俺も知らん。
どちらにしても、イマジンが過去の死者を救ったことはない。
………というより、そんなことをすれば、決定的におまえの時代が狂う」
「どういうこと?」
「もしも、おまえの両親が片方でも生き残って、だれかと再婚して、そのまま、おまえの妹でも弟でもこさえたとしたら?」
ふと、顔が固まる。
あまり想像したくない可能性。あるいは実現したら「楽しい」かもしれない、自分に弟か妹がいる、という可能性の話。
「………どうなるの?」
どちらにしても、両親からの愛を一身に受けた自覚のある自分に受け止めきれるような、デリカシーのある気安い例え話などではなく。
まっさらになった頭を、まったく働かせずに問いかける。
「その妹と弟が、さらに先の未来を生きることになる。
もちろん、おまえがいた時代なら絶対にありえないことだ。
そうやって雪音家の血筋が増えて、逆にどこか別の家系図が変わっていくとしたら。
未来の夫婦のうちの片方が、おまえの弟や妹に変わったとしたら?
……そうやって、少しずつ、確実に未来が変わると?」
「………ありえないことが、本当になる?」
「そうだ。それも、今を変え続けた結果なんかじゃあない。
契約したおまえが『両親が死んだ』のに、その両親が生きている前提で時を進め続ける。あたりまえだが、おまえだけは『両親が死んだ』ことを憶えている。
その記憶の齟齬がおおきくなれば、あのデンライナーの運行だって乱れる。
ひとびとの記憶と、おまえの記憶。すべての齟齬が世界を破壊する!」
「………えっと、つまり、どういうこと?」
ぜんぜんわかんない。
ぽかんとした口を閉じもできず、首を傾げる余力もなく。
それに対して困ったようにため息を吐く、士さん。
「だあ~っ、もう!
ディケイド、おまえ説明がまわりくどすぎんだろ!?
クリス! いいか、おまえの生きている時間だけじゃねぇ!
『今のおまえ』から始まっていく、“あるかもしれねぇ”未来がぶっ壊れる!」
そんな自分たちを見かねてか、バイクを寄せて、モモタロスが大声をあげる。
「そうすりゃあ!
消えた【未来の世界】に産まれる連中が全員、イマジンになっちまう!
記憶も名前もなくして、どんどん同じ契約を繰り返しちまうってことだ!
へたすりゃあ、おまえも親父もおっかさんも!
おまえと契約したイマジンがやる次の契約で歴史から消される!
―――『いなかった』ことになる!
「………え、」
いた。
「見えたぞ、あいつか!?」
バイクを停車させて、士さんが叫ぶ。
「大当たりだぜ。見つけたぞ、てめぇ!」
モモタロスが嗅ぐ仕草をやめ、バイクから降りて、剣を構える。
剣の持ち方が、なんか怖い。鉄パイプで肩を叩いているかのようにも見えた。
「お、きたきた、あとは手筈通りに……そら、もう自由だ、返してやるよ!」
あの契約したイマジンが、わたしたちを見ると。
門矢士のこと? モモタロスのこと?
そのどちらでもなく。もっと先にいる、べつのふたりへ。
「ディケイド、栗女は任せるぜ?」
「ああ、存分に戦ってこ………クリス?」
二人の声が遠のく。
実際には近くにいるはずなのに、なによりも遠くに感じる。
なのに、自分の声だけは、はっきりと聴きとることができた。
「―――
「逃げるぞ、ソネット!」
パパの声だ。
パパが、ママの背中を庇うように、手を当てている。
大切なヴァイオリンを置いたまま、どこかに向かおうとしている。
わたしのほうに、むかってくる。
「ええ!」
なにかを抱きかかえたまま、ママはパパに置いてかれまいと、パパの足を妨げまいと歩幅を広げ、膝をより早く動かし、どんどんこちらに近寄ってくる。
「パパ? ママ!?」
会いたかった。
あれからずっと、夢に見ていた。
士さんのバイクから飛び降りる。パパとママの姿がおおきくなる。
「―――まさか。よせ、やめろ! 戻れ、クリス!」
「てめぇっ、わざと待ってやがったな!?」
「聞いた通りの
ほうら、感動の親子の再会だァ!」
冷たくなった身体。今でも憶えている。
あれからずっと、あの音楽を聴きたくて待ち続けていた。
あと、もうちょっとだ。
もう少しで、
「
「―――え、」
通りすぎる。
まるで、わたしに気づいていないかのように。
ママに抱きかかえられた、別のわたしが。
今にも泣きそうな顔で、ママを抱きしめ返していた。
ぬくもりに。
「ただそこにいてくれる」幸せに、すがりつくように。
士さん。モモタロス。
ふたりの姿を、自分たちを守ろうとする兵士とでも思ったのだろうか。
ちいさく会釈して、そのまま遠くへと走り去っていた。
「ほらな? 契約は守っただろう?
これで、おまえのいる時間のパパとママは生き返る。
契約通り、『パパとママに会える』ってわけだ! どうよ!?」
パパとママが、はなれていく。
「~~~~っ!
もう、やめて!」
そうだ。そうだったんだ。
あのパパと、ママは。
「わたしの契約は、なかったことにしてもいいから!
この時間の、この場所の
もう遠くへと走り去って、小指ほどのおおきさにしか見えない。
でも、もう、追いかける気にはなれない。
ジョーカーの記憶も心も、すべて奪っておいて、
「はあ? 馬鹿か?
契約者のお前が未来に戻れば、死んだパパもママも蘇るんだぞ?」
「ふざけないで!」
今度は、奪わせようとする。わたしに。わたし自身に。
………また、間違えるところだった。繰り返すところだった。
「パパも、ママも。
生きていてほしかった、死んでほしくなんかなかった!」
わたしのパパとママは、もう、死んでいる。
「でも、ちがう!
この時間にいるパパとママは、『この時間のわたしのもの』なの!」
あのわたしから、パパとママを奪っちゃだめだ。こんなの。
わたしからジョーカーを奪った
「未来のわたしの、ものなんかじゃ……ないっ! 絶対に!!
「………クリス、おまえは、」
息を呑んだ士さんが、わたしの名前を呼ぶ。
「やるじゃねぇか、クリス!
そうだ。この時間にあるものは、この時間のやつらのものだ!」
わたしの背中を押すような、励ますような、勇気づけるような。
底抜けに明るく、ぶっきらぼうで、信じられる「おとな」の声が響く。
「てめぇ
「はん。くだらねぇな!
そんな言葉を重ねたところで、貴様らの罪がなくなるとでも思うのか!
未来でも、今の貴様も、馬鹿さ加減だけは変わらんなぁ!?」
悪のイマジンは嘲笑う。
「過去を変えたい? 記憶を変えたい?
そんな欲望を叶えるやつなら、あのジョーカーも俺たちと同じだ!
あいつがイマジンなら、あいつの仲間は契約者! なにも変わらねぇ!」
「―――それは違うな」
わたしの目の前へ、あのイマジンから守るように。
士さんは、いや、「仮面ライダーディケイド」は立ち塞がる。
「過去を書き換える? 物語を書き換える?
なるほどな、そういう意味では“ヤツら”も同罪だ。
ほんのちょっと変えるだけでも、おまえにとっちゃ同類だろうな。
……きっと、この俺も。どこかの時の魔王も。
同じように時空を超えてきた警察官も、ゴーストハンターも、魔法使いも、やたらと不幸なやつも、明日のパンツにこだわる男も、天の道を行き総てを司る男も、吸血鬼の王様も、新聞記者も、あのデンライナーに乗ってきた連中全員も。
そして、」
ふと、こちらに振り返り、
「―――【シンフォギアXDの世界】にいる、あいつらも。
だが、それは自分の過去を変えるためじゃない。
他人の記憶を塗り替えて、なにもかもを自分のものにするためでもない」
不敵な笑い声を、鼻で笑う音を出しながら。
手のひらで、わたしとモモタロスを示す。
「俺たち仮面ライダーも、
正義のために戦うんじゃない。
もちろん、なにかが正しいから戦えるわけでもない。
―――俺たちは、『人間の自由のために戦う。』
世界に光がある限り、その意志は何度でも蘇る。
今までも。そして、これからもな!」
「お、おまえは……おまえたちは、なん、なんだ………………!?」
そうして、左腰のカードケースから。
名刺のようにカードを取りだすと、目の前のイマジンへと見せつける。
「通りすがりの仮面ライダーと、」
「……未来の、スーパーヒロインだ。よく憶えておけ!」
『KAMEN RIDE』『DECADE』
己の名を、存在を高らかに。
門矢士、仮面ライダーディケイドの変身を宣言するバックル。
「そういうこと。
よーく憶えておけ、俺たちは!
名を語るまでもなく、己の魂を誇らしく。
モモタロスの
ひとびとの記憶を守るため、大切な思い出を穢させないために。
えっと、これ、わたしもなにかしなきゃいけないのかな。
「………わたし、さんじょう?」
とりあえず、モモタロスの真似をしてみる。
しん、と静まり返って、しばらくして。
ディケイドのカードケースから、カードが3枚生みだされる。
そのうちの1枚をディケイドが掴み、バックルに装填した。
『FINAL FORM RIDE』『I-I-I-
「………ちょっと背中を貸せ」
「え?」
ぐいっ、と。
こちらに近寄り、肩を掴んで、身体を回させ、背後に立ったと思うと。
まるでポテチの袋でも開けるかのように、わたしの背中に触れる
「餞別だ、ちょっとくすぐったいぞ!」
瞬間、わたしの目線が高くなる。
重心がぐらりと変わって、よろめいて、赤い光に包まれる。
「お、おお?
栗女が大栗女になりやがった?!」
こちらを見て、なにかに驚くモモタロス。
足が長い。足元がよく見えない。というより、お腹が見えない。
手が長い。髪も長い。指の長さが、なんとなくママに似ている気がする。
「え?」
まさかと思って、すぐ近くの、弾丸で罅割れたガラス窓を見る。
そこにいるのは、わたしだけど、わたしじゃない、だれか。
だけど、なにか違和感がある。髪の長さが、なんだか、鏡に映るわたしの髪形と、わたしの腰にまで髪がかかる感覚とで、やけに
「………えっ!? なに、なにこれ?」
「ほんのちょっと背を伸ばした。
シンフォギアも纏っているんだ、ちょっとは戦えるだろ」
「ちょっと? これって“ちょっと”でいいの?」
まって、ほんとうに、なにがおきたの。
「背が、あの、っていうかなんなの、この鎧みたいなの?
なんかすっごい破廉恥っていうか、これ本当に戦えるの!?」
「シンフォギア。
おまえの世界のノイズに対抗できる、歌の力で戦う『装者』の力だ。
あんまり思い出したくないが、知り合いに曰く……すごいお宝らしいぞ?」
ノイズと、戦える?
「それって、つまり。
未来のわたしって、ジョーカーと……『いっしょに、戦える。』の?」
「そいつが“お前”の夢なら、自分で守ってみせろ!」
ガラスのむこうの、わたしの姿。
幻が朧げになり、今のわたしと似た髪型のシルエットに重なっていく。
―――おまえは間違えるんじゃねーぞ。
ほんのちょっと、わたしに向かって微笑んで、親指を立てたかと思うと。彼女の
「―――うん、がんばる。やってみせる!」
「だああっ、なんなんだ、どうなってやがるっ!?
どうして
ヤケクソ気味に叫びながら、イマジンがこちらへと攻め込もうとする。
「へっ、なんか、あのハナクソ女みたいなことになってんな、おまえ!」
そいつからしたら、モモタロスは邪魔だ。
おおぶりに振りかぶってくるヴァイオリンじみた鈍器を、剣で受け止めるどころか、そのまま腕力に任せて弾き返すモモタロス。
「おい大栗女! 歌で戦うんだろ?
今のうちに歌っちまえ!」
「わかった!」
さらにモモタロスが先陣を切り、イマジンの行く手を阻む。
どんどん切り込み、その連撃にイマジンが押されていく。
「邪魔をするな! 今、俺が死んだら!
あいつとの契約はなかったことになる、過去が元通りになる!
あいつの親は死ぬぞ? それでも正義のヒーローか!?」
「そうやって他人様を盾にしてりゃあ、俺たちを止められるってのか?
聞いてるぜ、ディケイドのやつから………」
再び武器を剣で受け止め、イマジンを蹴り飛ばし、
「おまえらが、俺
……『なにをやらかしてくれたのか』は、なァ!?」
わたしの、聞いたこともない、ドスの利いた声で。
モモタロスが、怒った。
戦いに出る前。
デンライナーの運転室で。
モモタロスは門矢士に問いかけた。
「―――あの時、なんつった」
「どれだ?」
「とぼけるなよ。
おまえが栗女……クリスをあやしていた時だよ」
「クリスとの記憶をなかったことにする、って、どういう意味だ」
「言った通りだ。
あいつらは“雪音クリス”の仲間の記憶、そいつを消すのが目的だ」
運転席が揺れた。
「………そう、いう、ことかよっ………………!」
壁に拳を叩きつけたまま。
痛みを越えた激情を、ひたすらに堪えるモモタロス。
雪音クリスは知らない。
彼女の世界に住まう者たちが、知る由もない物語。
かつてのモモタロスが、モモタロスとすら呼ばれなかった頃の話。
なぜ、彼が
なぜ、雪音クリスの前では、その憤怒を堪え続けていたのか。
怪人「イマジン」は、現代人と契約しなければ肉体を得られず、しかし、己の存在を維持し続けるためには、自分たちがいた【未来の世界】を取り戻さなければならない。
選ばれなかった【未来の世界】が本当に失われる前に、時間制限が来るまで、どんな手段を使ってでも過去を改変し続けて、なにがなんでも【未来の世界】を取り戻そうとする。
なぜなら、イマジンは。
失われたはずの。
【未来の世界】で
だから、だれも思い出せないのだ。
自分だけではなく、ほかの誰からも。名前も、姿も、なにもかも。
【未来の世界】が消えれば、未来の
存在しない、ありえなくなった未来のひとつ、そこに産まれた
そうやって変わり果てた、怪物になった、記憶喪失の人間たちだからこそ。
―――
彼らは。
野上良太郎という。
自分たちの存在を、自分たちとの
“世界で一番強い”、そう認める
で、目の前のイマジンは。
少女と怪物の
「いいかげん、頭にきてんだよ………!」
「ガキの記憶を利用して、親の命も利用して、
……何様のつもりだ、テメェ!!!」
「おしおきの時間、だね。」
「オレらの強さに、おまえが泣いた!」
「クリスちゃんの家族がどうこうってさー?
ようは良太郎のおねーちゃんを人質にとるようなもんでしょ?
……ぶっ飛ばすけど、いいよね? おまえの答えなんか、聞いてあげないけどさぁ!」
モモタロスは、否、モモタロス
みっつの光球に化けていたウラタロス、キンタロス、リュウタロスの全員が、たとえ強引であろうとモモタロスの肉体へと憑依し、「なにがなんでもブッ飛ばす」と、モモタロスの身にまとうアーマーを変形させる。
後先など考えない。己の負荷など知ったことか。
―――だから、どうした!
「忘れるなよ?
俺たちはとっくに、クライマックスだ!
行くぜ、行くぜ、行くぜ!」
仮面ライダー電王、クライマックス・フォーム。
モモタロスたちの力と意志を束ねた剣が、敵イマジンのあがきを封じ込め、ひたすらに雪音クリスのために立ちはだかる。
「―――“時間の波をつかまえて”
“今すぐに行こう 約束の場所”―――!」
その熱量に、背中を押されるように。
わたしは歌う。泣いてやる暇なんて、もうどこにもない。
「“限界”? “無限”!?
“いざ飛び込め Climax Jump”!」
全身が赤く輝き、歌に合わせて共鳴する。
「はあっ?
どうなってやがる、本当にイチイバルが起動したのか!?」
相手のイマジンが驚いている。
なにに? どれに? どういうことに?
………そんなの、もう、どうだっていい!!
手のうちに収まる、見慣れた武器にも似たものを構える。
「“胸の中、みんな密かに”
“書き換えたい、記憶もある”―――!」
飛び交う無数の弾丸がモモタロスの背を、剣を避けて、モモタロスの背中のむこう側、そこにいるイマジンへと着弾していく。
「クソが!
ガキはガキらしく、びーびー泣いて従えばいいんだよ!
こっちはな、おまえのためになることを“やってやってる”んだぞ!
歌ったからなんだ、歌でおまえのつらい過去が変わるってかぁ!?」
―――“悪いやつに泣かされたままで、いいのかよ?”
よくない。
―――“どうせなら楽しめ。”
ああ、そうだ。
こんなやつのために、いつまでも泣いてなんかやるか。
泣けば泣くほど、こいつは調子に乗り続ける。
自分の主張が、自分の思い描く
だったら、笑ってやる。
おまえの屁理屈も、おまえなんかに付き合って生まれた後悔も。
元をただせば、おまえがわたしをダマして!
おまえが、ジョーカーの心を「殺した」からだっ!
おまえのやってること、全部が無駄なんだって!
おまえのやることなんか、どうでもいいんだってくらいに!
「………なにを、笑ってやがる」
唇が釣りあがる。
そうだ、もっと歌を楽しめ。もっと、もっと!
おまえをぶっ飛ばせば、おまえの全部が終わっちゃうんだから。
おまえなんかに、いつまでも付き合ってられるか!
もっと大切な、わたしの記憶のために。
モモタロスたちの歌を楽しめ。わたしの幸せを取り戻せ!
「“新しい朝を 待つなら”
“
こいつから、奪い返すまでもなく。
勝手に!
だから、勝手におまえが負けろ!
「俺を、笑ってんじゃねぇ~~~っ!」
いつまでも、いつまでも、自分の
「“ほんのすこし 勇気をもって”―――うぎっ、あぁっ!」
「クリス!?」
モモタロスの剣戟を避けた、ほんの一瞬に。
飛びあがるように距離を詰めて、わたしの腹を蹴り飛ばすイマジン。
胃を、横隔膜を圧迫されて、自分の声とは信じられない音が出る。
「へっ、歌を止めてやりゃあ、シンフォギアの力は弱まるんだろ?
だったらこのまま……」
「―――“In your mind”!」
「ぐああっ!?」
容赦なくイマジンの肉を通り抜ける、マゼンタ色の斬撃。
「……俺も付き合うか。ドラムなら任せろ!」
『KAMEN RIDE』『HIBIKI』
全身を紫色の炎で纏い、一瞬のうちに鬼のような姿に変わるディケイド。
どこからともなく召喚した太鼓を叩き、ひたすら曲を絶やさぬように奏で、「いいじゃん、いいじゃん、すげーじゃん」と歌い続ける。だけど、歌う順番が変だ。
もしかして、そうやって曲を戻して、途絶えかけた歌を繋いで、わたしが立ちあがって歌いだすまでの時間を稼いでくれているのか。
それはそれとして。
ある程度まで息を整えると、わたしの様子に気づいたのか。
「………今だ、歌え!」
ディケイドがモモタロスに目配せをする。
「なるほどな、やるじゃねぇかよディケイド!
―――“旅立ちは いつも必然”!」
「―――“どうせなら飛び回れ Time tripin’ RIDE”!」
ここだ! ここからなら、歌に戻れる!
「―――“探し出す
そうだ。
“変わることを恐れないで”
“明日の自分 見失うだけ”―――!
「“誰より高い”」
「“空へ”」
「“飛ぼうぜ”!」
「―――“Climax Jump”!」
「う、ぐうっ……おおぉっ…………!」
イマジンの肉体へとめり込んだ最後の弾丸が、ディケイドの太鼓から飛んできた響きのオーロラが、モモタロスの飛ぶ剣先が、堅牢な外骨格に罅を入れていく。
「いい、お歌の時間。でし…………たぁ、…………!」
内側から光と熱を噴き出して、爆発するイマジン。
「―――やっ………た………?」
なぜだろう、なんとなく、景色がぼやけていく。
残骸が消えて、建物が元の形に戻っていっている。
「へへっ、時間が元に戻ってきてるな」
「イマジンが死んで『過去を変える力』を失えば、改変された過去も消える。
すべては立つ鳥跡を濁さず、元通りになるってわけだ」
だんだん、周りの建物が高くなっていく。
ちがう、これ、もしかして、
「あ、戻っちゃった……」
「なかなかよくわかってるじゃねぇか、未来のクリスってのも。
そうそう、戦いってのはな! ノリのいいやつが勝つんだよ!」
やっぱり、わたしがちいさくなった、ううん、戻ったんだ。
モモタロスも変身を解いて、元の鬼みたいな姿に戻る。
なんでだろう。なんとなく、というか、やたらと機嫌がよさそうだ。
と、同時に。
ウラタロスたちも、ポテトチップスの袋が弾け飛ぶように出てきた。
「ふう。お疲れ、センパイ」
「あー、物凄く疲れたわ! 帰ったら寝よ、寝よ!」
「よっしゃー! ぼくたちの勝ち~っ!
戦いながら歌うって、なんか面白いね、クリスの戦い方!」
「………え?」
いきなり、身体がおおきくなったのまではいいけれど。
モモタロスが変身したら、ウラタロスたちが入っていたの?
「どういう、ことなの?」
「ぼくもやってみよーかなー?」
楽しそうに、ぴょこぴょこと飛びながら。
リュウタロスが踊り、やってきたデンライナーに飛び乗っていく。
「どうした、クリス。
早くしないと、この時間に置いていかれるぞ」
そういった、なんか、なんだか、なんなのこれ。
よくわかんないけど、よくわかんないけど、えっと、なに?
「………わけわかんなすぎて。
わけわかんない気分になる、気持ちも出ない………」
「お、それ、なんか懐かしいな?
そら、おぶってやるよ。ほら、乗れって」
「う、うん」
モモタロスにおんぶしてもらって、そのまま乗車する。
「よく、頑張ったものだと思いますよぉ」
後ろで、扉が閉まる。
オーナーさんが、モモタロスに乗るわたしを見つめる。
「しかぁし。
記憶こそが時間、記憶こそが絆。」
じっ、と。
ものすごく険しい表情で、わたしを覗き見る。
「あなたがジョーカーアンデッドくんの、
「はあっ!? 忘れねぇよ!」
するわけねーだろ。
「………あっ。
わ、忘れない、です、ごめんなさい!」
疲れ切っていたせいだろうか。
ものすごく失礼なことを、言った気がする。
思い出したいのに、そのちょっと前を思い出す気力もだせない。
「へへっ、オーナーを相手にそれかよ。
……いい啖呵じゃねえか!
その調子で、元の時間でもがんばれよ!」
わたしをおぶった、モモタロスが笑う。
視界が、ぼやけていく。
デンライナーでの、楽しい思い出。
確かにあったはずの時間が、少しずつ、少しずつ――――
「あれ?」
目が覚める。
ジョーカーが寝ている。
「わたし、寝てたの?」
トランプは? ある。
砂の塊になってなんかいない。砂の塊って、なんだっけ。
「っていうか、ええと……えっと?」
なんだろう。なんだっけ。
すごくめちゃくちゃで、はちゃめちゃな。
不思議な旅をしていたような気がする。どんなのだっけ。
「ええと、なんだっけな。
………“いーじゃん、いーじゃん”? なにこれ?」
身に覚えのない歌が、どんどん頭の中から浮かんでくる。
思い出した先から声が消えるけれど、音色だけは憶えている。
よくわからない、インストゥルメンタル。
それがなぜだろう、ものすごく、胸を弾ませる気がする。
「クリスちゃん?」
もぞもぞと動く、昆虫みたいな旅の仲間。
間の抜けた、脱力しきっていて、舌が見えるほど開かれっぱなしの顎。
ものすごく眠かったのだろうか。
ジョーカーの寝ぼけ眼が、なんだかおかしくなって、安心して。
「………おはよ、ジョーカー!」
よくわからないまま、わたしは笑った。
わたしも、けっこう眠かったみたいで。
瞼から零れた涙をぬぐって、ポケットのハンカチで拭おうとして。
「………あれ?」
気づく。
わたしの靴の中。
砂だらけで、踏み心地がおかしくなっていた。
その砂が、窓からの風に吹かれて、どこか遠くへと消えていく。
あの砂は、どこにむかっていくのだろう。
「むかっていく」って、わたしは、なにを連想したんだろう。
「……ま、いっか」
それよりも今は、歌に集中しよう。
作曲家の才能があるのか、どうなのかは知らないけれど。
今は、なんとなく思い出せる、この歌のことを考えよう。口ずさもう。
ジョーカーも、気に入ってくれるかもしれないから。
【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】3スレ目
99:ジョーカーアンデッド?(>>1)
ねえねえ、みんな、聞いてよ!
クリスちゃんがさ、歌っているんだよ、電王のオープニング・ソング!
やっぱ、こっちの世界にもあるのかな!? 仮面ライダー!
100:名無しのアンデッド
………よし。
おまえら、もっかい隔離スレに集合しろ!!!
101:名無しのアンデッド
ま た か よ !
102:名無しの装者
ええいっ、考えなきゃならんことを増やすなぁっ!!!
なんなんだ、貴様の世界は! なにが起きているのだ!?
というか、そもそもだ!
私の世界にきてまで「なにをしようとした」のだ、ディケイドぉ!?
103:名無しのアンデッド
ディケイド、おまえこのスレ見てんだろ!?
隔離スレにきてくれよ、状況を説明してくれよぉ?!
104:名無しのアンデッド
そういう面倒なこと、士さまはしないと思うわよ?
ふふーん、つまり、大体わかったわ!
クリスちゃん……「よく頑張った」わね!
105:名無しのアンデッド
OK,今は御嬢様ネキの与太が頼りだ!
御嬢様ネキは絶対来てくれ、その妄想力に頼るしかねぇ!
106:ジョーカーアンデッド?(>>1)
………え、また?
クウガニキ以外、いなくなる感じ?
107:クウガ
士さんも大変だなぁ。
時は、ほんのすこしだけ前のこと。
眠りについた雪音クリス。
その小柄な体を抱えて、ジョーカーアンデッドが眠る部屋まで置いて行った門矢士は、デンライナーのある“時の砂漠”まで戻り、列車の扉に足をかけて開き続けているモモタロスへと話しかけた。
「……いいのか、モモタロス」
「なにがだよ?」
「歴史が戻れば、あいつの記憶も元通りだ。
おまえたちの気配りも、応援の歌も、あいつは忘れるんじゃないのか?」
「へっ。」
馬鹿馬鹿しいと言うかのように、鼻を鳴らす。
「―――本当に『そうだ。』と思うか?」
「………そうだったな、モモタロス」
一瞬、面食らったような表情になるも、すぐに笑う士。
「結局、童話を忘れるのと変わらないってことだ。
あるいは、俺たちの物語を忘れるのとも………な」
新しい写真に浮かびあがる、ベッドのうえに眠る少女と。
全身を包帯で巻いたまま、たった1枚のカードを握る怪物の姿。
完全に現像されるまで、あとしばらくの時間がかかるだろう。
「心のなかで、俺たちのイメージは残り続ける。
曖昧な記憶の中でも、俺たちの時間は刻み続ける。
俺たちを憶えている、すべての人間たちと共に。
―――それは死んだ人間も、イマジンも、どんなやつでも………」
ただ、朧げな写真、その現像にどれだけの時間がかかっても。
あのオーナーを相手に啖呵を切った様子は、門矢士も覗いていた。
あれだけの闘志をもって、イマジンにもオーナーにも立ち向かえるのだ。
少なくとも、自分の幸せを見失いはしないだろう。
もう、二度と。
「そうだろう?」
門矢士は振り返ろうとして、気がついた。
デンライナーが動いている。『次の駅』へと向かいつつある。
「………って、おい、俺を置いていくのか!?」
車両の窓際から顔を出したモモタロスが、門矢士を見返す。
窓が開いているせいだろうか、車内からこぼれた音楽が流れてくる。
「いえーい、やっぱり“この歌”いいよね、楽しい!」
「決まってるだろ、
オーナーの特例だったんだぞ、話を聞いてやっただけでもありがたく思え!」
「リュウちゃん、これ音量の調整を間違えてるんじゃないの!?」
「って、おまえらぁっ!?
うるせぇよ、ひとが話してんだろ!! ったく、」
一喝したモモタロスは、改めて門矢士へと振り向く。
「じゃあな、ディケイド!
俺たちも忙しいからな、おまえも頑張れよ!」
「……当然だ!」
時の列車デンライナー。
次の駅は、過去か、未来か。
世界の破壊者ディケイドの旅も、九つの世界を越えてなお終わらない。
トンネルへと入るデンライナーを見届けてから。
門矢士は、現像の終わった写真を見つめる。
「………やっぱりな。
いい笑顔になれるじゃないか、クリス。」
寝顔は柔らかく。よほど夢見がよかったのか。
ふにゃりと緩みきったまま、もう笑みを歪めることはない。
そのとなりで爆睡するジョーカーアンデッドは、よほど寝相が悪かったのか、半透明な緑色のバイザーを顔からずらし、呑気に鼻提灯を作っていた。
進め、仮面ライダー。
この世に悪があり、光がある限り、彼らは何度でも蘇る。
そう、仮面ライダーがあるかぎり。
「………くっ、なんなのよ、あの化け物!」
バル・ベルデに通りすがるはずのない、旅行客にしか見えない、無防備な女。
日本人と見てわかる彼女は、全身を砂だらけにさせながら立ちあがる。
「おのれ、いずれ必ず……!
……ん? なぜ、こうも苛立っている?」
契約したイマジン――”うたずきんイマジン”が倒されれば、契約者の記憶も戻る。
同じように、その過去にいる契約者もまた、過去を改変された、イマジンに憑依されたという記憶を失っていた。
「まあいい、まずはソネット・M・ユキネだ。
死んでいるのならば都合がいい、その娘を利用させてもらう………!」
隠し持った聖遺物「イチイバル」を、キャリーバッグで運びながら。
超古代からよみがえった巫女もまた、現代を生きていたはずの女の肉体に憑依し、己の道を突き進む。そこに宿主の自我があるかどうかなど、もはや巫女自身にも自覚できぬままに溶け合い、ひとつのものへと統合されてしまっていた。
バトル・ファイトが始まるまで、あと――――
やっと、やっと終わった………!
やっと書き終えた! やっとジョーカーニキの話に集中できる!