【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】   作:ウェットルver.2

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 アンケート結果に従い、前章の終わりに「おまけ」を追加します。
 掲示板オンリー回です。


 今回より、短編から連載(連載中)に変更させていただきます!


バトル・ファイトの死神

 生物種代表(アンデッド)の出没に(うず)く背筋は、アンデッドの本能。

 戦いを求める“統制者”により授けられた、代表者の居場所を悟る第六感。

 それに従い、ボクは階段を駆け登る。まさかと思いながら扉から身を乗り出し、屋上の真ん中まで走って、改めてアンデッドの気配を探る。

 ありえないほど(かす)かな気配が、急激に膨らんでいく。

 

「こっちかな?」

 

 目を凝らした先の、空の最果て。

 竜巻をまといながら突き進む、風の槍が見えた。

 

「………は? なに、あれ?」

 

 ポエムじみた感想が浮かびあがって、すぐに正気に戻る。

 あれは竜巻だが、普通の竜巻が天と地を繋ぎながら突き進むのとは異なる。

 まるで地面を穿孔するように回り続けるはずの竜巻が、世界を穿孔しながら回り続けて直進するドリルと成り果てた、不自然すぎる虚空の蛇。

 竜巻の中心で回転し続ける黒色のなにかは、徐々に減速し、竜巻を振り払う。

 下界の町に吹き荒れた暴風は、どこかの洗濯物をいくつか空高く舞いあげた。

 

 風の外套を脱ぎ、威風堂々と現れたアンデッドは、こちらをじっと見つめている、

 

 イーグルアンデッド*1にも似ているが、羽毛と体色は濃淡鮮やかな黄色ではなく、同じように濃淡鮮やかな橙色で、あちらの顔が人間の顔形に近づけた鷲の仮面であるのに対して、こいつの顔はペスト医師を思わせる鳥類そのままの仮面だ。

 

「まさか、ホークアンデッド……?」*2

 

 飛行能力は高いイーグルアンデッドの飛翔と比べると、極度の高速移動が原因なのか、一直線に飛ぶ以外はそれほど早くない……ようにも見える。

 しかし、あたりまえだが、飛んできた際の無防備な体当たりと呼べなくはない超高速移動をする体躯を、「見てからどうこうできる」なる反射行動など、普通は誰も持てない。

 

 もちろん、これは。

 『高速で近づく車を見て反応して避けろ』という問題でもない。

 

「ちょ、(っと、まって、)」

 

 イーグルアンデッドの飛行速度は最大時速420km。

 音速の約三分の一であり、当然乗用車の時速120kmと比べても圧倒的だ。

 問題は、ジェット気流を操るホークアンデッド、その最大時速がどれほどのものか。

 同じくジェット気流を生じさせる旅客機でも出力できる最大速度が音速寸前であるのに対して、より高性能なジェットエンジンを搭載する戦闘機の場合、その音速の壁を簡単に突破できる。通常の生物であれば、生身で音速に達すれば肉体が破壊されてしまう。

 

「……っと、(まって、これ、こいつの最大速度って、)」

 

 だが、ホークアンデッドもまた、不死生物(アンデッド)である。

 普通の生物などではない。音速の壁程度で肉体は砕けない。だから、飛べる。

 ―――『音速の戦闘機を見て反応して避けろ』という、無茶苦茶な問題なのだ!

 

「あ、う、ゴ、(これ、こいつの最大速度って、あ、痛っ―――)」

 

 ボン、と。

 爆ぜる音は通りすぎた。

 その風の()こそが、全身を強く押しのけたのだと気づくのに、数秒。

 この風の音こそが、目の前の「めまぐるしく切り替わる景色」を見せているのだと冷静に己の状況を俯瞰させ、やがて自分が「吹き飛ばされて錐揉み回転した」から景色は切り替わっているのだと、ぐるぐると同じ景色を見つめているのだと気づくのに、さらに数秒。

 

 予備動作を見せることなく、ホークアンデッドが急加速した。

 そうなのだと気づいた頃には、もう五秒も空中を舞わされていた。

 

「いっ、た、(痛い、)」

 

 ソニックブーム。

 音速移動により発生した、空気の層という壁を破壊した際の衝撃波。

 ホークアンデッドがまとう竜巻の鎧にして、竜巻の槍の正体はこれだ。

 とはいえ、同じアンデッド同士、その肉体の再生能力は高く、ホークアンデッドが音速の壁を突破しても五体満足で飛べるということは、こちらもまた軽傷に()()()いる。アンデッドの細胞の自己治癒力が高すぎるせいだ。

 問題は、衝撃波を受け、弾かれ、虚空へと飛ばされる程度のダメージなどではない。

 

 はるか遠くで旋回し、こちらへと向かうホークアンデッド。

 それを可視できた段階から数秒後には、自分がホークアンデッドに襲われるだろう。

 

 空を飛べない自分が。

 鷹の生息域である、「空」という独壇場(フィールド)で!

 

「まず、(まずい!)」

 

 刹那、全身が黒い蜃気楼として溶けていき、内側にあるものを引きずりだす。

 思わず手にした武器を逆手に持ち、ふと脳裏に浮かんだホークアンデッドの動きの軌道、イメージの残像を認めて刃を通しておく。あと一秒にも満たない衝突から襲いかかるのであろう()()()の得物を悟ったのか、ホークアンデッドが啼き、両手の武器を盾に使いながら通りすがる。

 

 今度は衝撃波ではなく、ただの突風と衝突の反動で屋上へと落ちた。

 

「………(まず、)かっ、たあっ!」

 

 ひさしぶりの体躯によろめいてしまったものの、助かったから深くは問うまい。

 なりたくもない姿。彼女の意志に従っていたいからこそ、今は望まない姿。

 アンデッドの闘争本能はやはり、ボクの心を求めはしない。

 

「やっぱり、」

 

 憶えている。

 ボクの魂が、ではなく。

 いや、実際には“そう”なのかもしれないが、ボクの自我ではなく。

 物心を得る前、あるいは前世の意識が完全に復元され、浮上するよりも昔。

 どこかの荒野で戦った、バトル・ファイトの死神「ジョーカーアンデッド」だったボクが無意識に、アンデッドの本能のままに戦った、その肉体の慣れや癖としての記憶だ。

 たとえば、食事中に壁掛け時計を見るとき。

 その壁掛け時計について「かつてはあり、今はないのだ」という記憶が自分にあったとしても、あくまでも「時計を見る」動作のひとつとして、かつてはあった壁掛け時計のほうを向いてしまう。肉体に刻まれた動作だけは繰り返してしまう。

 

 条件反射、パブロフの犬現象。

 たとえ心が芽生え、与えられた名前を名乗ろうとも。

 ジョーカーアンデッドであった過去までは変わらない。

 

 ホークアンデッドは追跡する。

 狩るべき生物種代表(アンデッド)、ジョーカーの影を追いかける。

 音速移動による強襲を繰り返す気なのか、しかし、なにかの意図を含ませて、己の武装であるはずの()()()()をゆるく構えて飛び掛かった。

 

 ジョーカーアンデッドの肉体が訴える。

 あれは次がある。最初の一撃を防いだ程度では、一発は受けるぞ。

 

「だったら、」

 

 鎌「マンティス」を振り、その残像を飛ばして攻撃する。

 飛ぶ斬撃、当たればアンデッドを封印する必殺の技。ジョーカーアンデッドがすべてのアンデッドから警戒される、アンデッド封印能力のひとつ。

 当然避けられる。そのために、ホークアンデッドは、

 

「………やっぱり、」

 

 減速した。

 翼を動かし、音速に達するか否かの瀬戸際で加速をやめ、急旋回した。

 もちろん、急旋回程度では歴戦の生物種代表(アンデッド)を自滅には追いやらない。

 

 問題は、加速をやめ、急旋回し、こちらに胴体部を向けたこと。

 あれだけの移動速度で旋回すれば、どうしても円軌道の半径は広くなる。

 広ければ広いほど慣性力と遠心力が増し、それ以上の軌道変更には安定性(バランス)を得るための精密なコントロールが求められる。曲芸飛行であっても、子供のいたずら書きのような歪な軌道は描けない。実際の鳥類の飛行もまた、そのような軌道は描けない。

 当然、この間、元々の進行方向にあったものは目視できない。飛行中に進行方向の景色を見失えば、どこが地上なのかを感覚のみで把握することは遠心力により不可能に近い。雲の流れる向きから上下を把握するなど、進行方向から地上や太陽、最低の運気でも月が見えなければできない。

 飛行中に余所見をする余裕もまた、生身の動物には存在しない。

 いかに不老不死の生物種代表(アンデッド)とは言え、身体機能は既存の生物種に近い。

 五感に頼った飛行をするのだから、五感に依存しない飛行などできない。

 あたりまえのことだが、人間は高度な知性とは裏腹に、論理的思考を優先しすぎて本能と肉の本質を忘れる。種の存続と繁殖に反する宗教や規範を設けてしまう。論理的なようで物質世界という基準点を忘れ、根底から破綻する正しい論理を好む、()という自滅機構がある。奇しくも、自分はアンデッドとして生きたせいか、ホークアンデッドの欠点を直感で気づけた。

 言語や論理を介するまでもなく、己の闘争本能のままに。

 

 そう、「ジョーカーアンデッドがなにをするのか」までは、視認できない。

 

 鎌「マンティス」を構えなおし、こちらへと顔を向ける寸前に緑の閃光を飛ばす。

 こちらへと向かいなおすべく円軌道を描いた際に辿りつく、最短ルートという名の最善の進行方向のベクトルは、かならずジョーカーアンデッドを向かなければならない。ほんのわずかでも軌道をずらしてバレル・ロールをするにせよ、すでに旋回により減速された状態でより減速がともなう旋回をすれば、今度こそ浮力を失い墜落しかねない。

 

 だから、鷹の本能に従い、ホークアンデッドは円軌道を終わらせ。

 眼前に近づきつつあるジョーカーアンデッドの凶刃に、いまさら気がつく。

 

 鳥類特有の絶叫が響き渡り、凶刃が着弾、

 

「………え?」

 

 しない。

 

「な、ん、……ウっソだろ!?」

 

 強引に比翼を立てて空気抵抗力をあげ、浮力を失わせて()()したのだ。

 野球のフォーク・ボールのようなものだろう、急速に速度を失ったがために落下するホークアンデッドは姿勢を制御しなおし、今度は紙飛行機じみた緩やかな滑空を始める。とはいえ、これもまた、すでに今以上のコントロールは困難な状態に陥った状態でしかない。現状では着陸に苦労しないだけだ。

 そこで、ジェット気流を噴き出す翼を頼りに加速しなおし、ホークアンデッドは高度をあげて屋上へと飛び込もうとする。

 

 なら、やはり突撃の軌道は限られている。だとしても、

 

「きりも、芸もない―――!」

 

 ただそれだけが、どこまでも脅威。

 こちらは旋回、突進の瞬間にのみ叩き込める一撃必殺の居合切り。

 あちらはバレル・ロールなどの飛行法により凶刃を避けられ、どれだけ姿勢を崩しても立て直すことができる突進技と、通りすがりざまの殺陣。どちらもホークアンデッドが音速以下で飛び回れるからこそ選ばざるを得ず、かぎづめと鎌の刃でホークアンデッドの進行・攻撃の軌道を描くための「空域」を奪いあい、そのうえでの刹那の応酬を何度も繰り返してしまう。

 どちらかが倒れる以外の決着もありえるだろうが、ホークアンデッドが体力を切らし空腹を満たそうとするか、そのために警戒してジョーカーアンデッドから、あるいはバル・ベルデ共和国から逃げるか。どのみち、このままでは泥仕合だ。

 

「………場所を変えて、飛びにくくさせる?

 いや、ダメだろ、『みんなを本当に巻きこんじゃう』じゃないか!」

 

 音速で飛び回る不死身の怪鳥が放つ衝撃波、ただの移動の余波でしかない真空波に対して、まともな人間では耐えきれるわけがない。吹き飛ばされるだけで済んでも、吹き飛ばされた先でどんな怪我をするかは想像したくもない。「そうなる被害者がクリスだったら」と思うと、なおさら不用意に戦闘の場所を変えるなどするべきじゃない。

 

 ボクがボクであるかぎり、優位は常にホークアンデッドにある。

 

 己の信じる切り札を頼り、無理を通すべく戦うしかないのだ。

 ボクも、ホークアンデッドも。

 

 

 

 

 

 

「“―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で、夢をなぞる)”。」

 

 

 

 ひとのさえずりが、聞こえた。

 

 

 

 

「………え、クリス?」

 

 声の方向に、思わず振り向いて、悟る。

 

「あ゛っ!? やっばっ、(い――!)」

 

 刹那の応酬のための空域の奪いあいに、一瞬の隙。

 こんな感情(もの)は棒立ちになったにも等しい無防備を晒すだけだ。

 そんな感情が大切なのに、今回ばかりは心を止めるべきだったのか否か、ふと惑い、いいやそれでも人間でいたいのだと歯噛みして、さらに数秒の隙を晒す。

 迫る風の音。近づくかぎづめ。居合の姿勢が崩れ、握りは緩い鎌「マンティス」。

 だったらこうすればいいじゃあないかと、背筋が震えて武装を解き、足の力は抜けた。背筋の訴えに従い、両肩を動かして腕を回す。

 するりと自分の胸の中に納まったホークアンデッドが、締めあげられた。

 

「お、オ、」

 

 急加速する肉体。

 慣性力が足りないままGを受けた腕はみちみちと嫌な音を立て、しかし急激な重量変化で減速したホークアンデッドを道連れにしている実感を三半規管が伝える。

 自分の頭が、自分の足よりも下になってきている。

 ホークアンデッドが安定性を失い、今度こそ紙飛行機のごとく地面に落ちるのだ。

 

「おお、お―――!」

 

 やあ、ホークアンデッド、君はどこに堕ちたい?*3

 どこに堕ちるのかはボクも知りたい。

 できれば人死には()()とうれしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、」

 

 呻き声を漏らし、光が差し込む。

 自分の瞼を開き、外界を認識した証だと思い出す。

 頭痛がする。頭痛と呼ぶには、頭皮から感じる痛みが独特すぎる。

 頭を強く打ったのだろう。頭を強く打った?

 

 そうだ、自分は落ちたのだ。

 高速で飛び回るホークアンデッドを抱きしめて、屋上から。

 

「……ホークアンデッド? あいつは?」

 

 起きあがり、首を何度か振る。ごきりと鳴る首に痛みが走る。骨が折れているのか。それでも意識を保ち、問題なく首を動かせるアンデッドの再生能力はすさまじい。

 

 相手も同じ状態で、すぐに起きあがるはずだ。

 

 同じ場所を見ても、目を皿のようにして全体を観ても、どこにもいない。逃げたのか。そんなはずはない。人間の闘争であれば命よりも実利を、実利よりも尊厳を。そうやって生存本能から遠のいていき、より抽象的な勝利を渇望してしまうが、生物の生存競争であれば命が勝る。種の繁栄に繋がるのであれば、雌を奪いあい、相手を殺すことも認めてしまう。

 ならば、不死生物(アンデッド)生存競争(バトル・ファイト)であれば、なにが起きるのか。

 生物種代表(アンデッド)たる者同士の戦いであれば、先に限界を迎えたものが敗北し、封印される。

 確実な勝利を望むのであれば、封印を避けて撤退し、回復に努める手もあるだろう。

 もちろん、確実な敗北に至る選択でもある。自己治癒に現を抜かすと、相手もまた傷を癒してしまう。お互いに不老不死なのだから、たかが怪我を与えた程度では勝利とは呼べない。人間などが一喜一憂するような物事を、形骸化して別の意味を得た命のやり取りを、不死生物(アンデッド)までもが喜んでいる場合ではない。

 

 

 戦うのだ。常に。

 “統制者”に敗北を認められ、封印される最期まで。

 

 

 奇声があがる。

 どよめく霊長類など気にも留めず、鳥類がひと柱、「鷹」を代表する怪物は立ちあがる。

 そうだ、戦う。己の子孫、あるいは同胞たる「鷹」すべてのために。

 ホークアンデッドは、「鷹」にとっての正義の味方なのだから。

 

「………はは、」

 

 ジョーカーアンデッドの肉体が訴える。

 “はじめ”の心までもが震え()つ。これだ、これだから忘れられない。

 

 種族の誇りを懸けた、生存競争(バトル・ファイト)のあるべき姿だ。

 

 人間の物心を得ても、“はじめ”になっても。

 アンデッドの闘争本能しかなかった頃でも、心臓を滾らされる。

 同族がための誇りなど、思い出せなかった頃からある肉体さえも昂るのだ。

 

 結局、ボクは、『ひとのために』。

 自分の人生を束縛することなのに、そこに情熱を見出すらしい。

 

 かつてはテレビの向こう側。

 現実と夢想に差に意味など無く。

 かつて、『現実を見ることこそが素晴らしいのだ』と宣う家族すらも、己の抱えた夢想を叶えきれずに、自覚しきれず間際に悟り、しかし、その愚を悟ることなくボクを置いて逝った。ああ、なぜ自分だけが、このように成り果てたのかがわかる。

 どうしてアンデッドに転生したのか。惹かれたからだろう。

 

 かぎりなく現実に近い世界(夢想)が訴える、戦う、誇りの意義に!

 

「ははは、あはははは――――!」

 

 なりたい自分という夢想、なすべき務めという現実。

 すべてが噛みあった、己の種族を愛するがゆえに戦う、英傑たちの雄姿。

 そのように生まれたかったわけではないかもしれない。そんな運命なんて最初から定められていないほうが自由で幸福だろう。ボクもそうでありたいはずだ。

 

 なのに、どうして。

 

 ノイズと戦うとき、人間を殺すとき、どれも苦しかったのに。

 これほどまでに喜ばしいのか。嬉しいのか。

 

 ―――アンデッドと戦うときだけが!

 

 振り返り、ホークアンデッドを視界に収める。双方、損傷軽微。

 いつ限界に近づき、バックルが割れ、封印可能な状態に陥るかは知れず。

 こちらには一撃必殺の鎌、あちらには一撃必()は免れない()()()()。さきに倒れたものが、一方的に(なぶ)られ封印されるだろう。

 

 背筋が震える。脳髄まで鼓動が響きわたり、脳を揺らす。

 エンドルフィンが、脳内麻薬が分泌され、より空間把握能力を明瞭にさせる。

 相手の空域を把握しあい、にじり寄り、あるいは背に回るように歩みあう。

 またしても空域の争奪戦。

 やがて、喜悦の熱が収まり始める。

 だめだ。自分の調子を乱してはいけない。

 胸の奥に(つか)えをあたえる感情も、本当に『ひとのため』ならば抑えろ。

 楽しいこと、うれしいことから逃げるな、偽るな。

 脳裏に浮かぶ薄皮よりも、心臓を信じろ。

 

 人間のために戦い、アンデッドと戦う喜悦を、誤魔化すな。

 

 最初に動いた獣はホークアンデッドだった。

 翼を展開し始め、かぎづめで引き裂くべく腕を構え、いつでも飛びたち襲いかかれるように予備動作を始める。見ようによっては、獣が威嚇をする仕草にも似ていた。

 

 その刹那の意識(こころ)の移り変わりこそが、確かな隙だった。

 

 あらかじめ力を込めていた鎌「マンティス」。

 最初から準備を終えていた凶刃を、本能からの直感に任せて伸ばした。

 すぐに反応して回避しようとしたのか、翼の展開が途中でもジェット気流を放とうと挑み、風がこちらの足元へと吹きすさぶ。ホークアンデッドは焦っている。驚いている。なぜかは知らないが動揺が勝ったのか、翼の動きはぎこちない。

 着弾と共に発光し、視界を緑色の光が覆い尽くす。

 見ようによってはホークアンデッドが爆ぜたようにも見える光景に目を逸らさず、飛んできた一枚の紙きれを手に取る。

 光が収まった頃には、ホークアンデッドの姿はなかった。

 

「スート・ハート。

 カテゴリー6、ホークアンデッド。

 ………『TORNADO(トルネード) HAWK(ホーク)』。」

 

 見間違えようもない。

 知っているカードと同じ名前だ。

 

「このラウズカード*4が、トルネードホーク」

 

 これこそが、ホークアンデッドが封印されたカード。

 鷹の生物種が生存競争(バトル・ファイト)に敗退した証だ。

 

 がくり、と、ひざが折れて座りこむ。

 

「これで、やっと、」

 

 やすめる。たぶん。

 ほかのアンデッドがやってこないかぎりは。今日だけは。

 

「クリスの歌を、ゆっくり、聴ける、か、も………」

 

 力が抜けて、首の筋肉で支え切れなくなった首が垂れ曲がる。

 べちゃり、と、口から緑色の血が零れ落ち、道路の真ん中で横になった。

 

 ぐじゅり、ぐじゅり、喉奥で蠢く肉の感触が首を動かし、かたちを整えさせていく。

 頸部の骨が再形成され、膨れあがり、背中を向いていた頭が前へと向き直った。

 

 

「………はじ、め?」

 

 

 おぼろげになってきた視界の先。

 真っ赤な、頭の白いものが、聞き覚えのある声で、その名前を、ああ。

 

 

 

 

まだ、呼んでくれるんだ。うれしいなあ。

 

 

 

 

 

*1
鷲の生物種代表(アンデッド)であり、スート(マーク)・スペード(♤)のカテゴリー(ナンバー)J(ジャック)。人間の姿に擬態する能力を持ち、鷲の身体機能に似た各身体能力に加え、(なぜか)手裏剣を持つ。忍びではない。

*2
鷹の生物種代表(アンデッド)であり、スート(マーク)・ハート(♡)のカテゴリー(ナンバー)6。体内に猛烈なジェット気流を持ち、竜巻と共に攻撃する。原作未登場。

*3
仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズの生みの親である故・石ノ森章太郎氏が手がけた漫画「サイボーグ009」から。「ジョー、きみはどこに落ちたい…?」

*4
特撮【仮面ライダー剣】における特別なカード。生物種代表であるアンデッドが封印された、目覚め(ラウズ)のカード。




 自分は「始さん、日本の森林地帯でホークアンデッドのジェット気流を活かしにくくさせてから勝った」説を提唱したい。え、そんなこと気にする特撮オタおまえだけ?そんなー。

 一番乗りでやってきたホークアンデッドは当然最速なので、クリスちゃん全然間に合いませんでした。そのあたりを次回、また同じシーン含めて書かせていただきます。やらないって言った次の回からやるって言うのどういうこと? クリスちゃんが可愛いからじゃい。ほかに理由いる? いらないな、ヨシっ!

 女の子を守るために威勢よく出て行って、いざ女の子が合流したら晒す姿は首ぽっきりってどうなの。アンデッドだからセーフ。

 ♡6「TORNADO HAWK」の効果は「風属性付与(風力操作)」。
 このようなラウズカードを起点にコンボをすることで、各種攻撃技を強めるのが始さん(仮面ライダーカリス)たちの戦い方なのです。絵は本当に動きます。コンボから必殺技を使うときとか超動きます。原作本編見てね。


 
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 これまでの小説「【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】」は、

 「あーるす」 さま

 の、誤字報告の提供でお送りいたします。

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