【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】 作:ウェットルver.2
さて、彼らの戦いを語る前に。
この並行世界でのバル・ベルデ共和国でなにが起きたのか、その話をしよう。
(※こまかい話に興味がない方はこちらをクリック⇒)[(壁)](OMO) <...
あくまでも理屈だが。
バル・ベルデ共和国の現政府がいかに腐敗しようが、機能性を失おうが、それこそ傀儡政権同然の他国のしもべとなろうが、軍事力さえあれば戦争は続けられる。わざわざ不死身に任せて兵力を削る酔狂な怪物”ジョーカーアンデッド”が現れず活動を続けていないかぎりは。あるいは陸海空軍の最重要基地が複数個所、認定特異災害”ノイズ”に見舞われなければという、あんまりにもあんまりな但し書きがつくが。
とはいえ現在、認定特異災害に相当する死亡者数を叩き出した
たとえば。
世の中カネだと嗤う人間は多いが、そのカネが問題となる場合はある。
国内の現行通貨が国によって増やされた、すなわち、なんらかの政策で国民に配給するための出費や民間企業への依頼料として現行通貨が新しく発行された途端、その瞬間での物価からして多くのものを民は購入できるが、もちろん売り手や職人は商売として稼ぎたいので、ぼろ儲けできた段階から商品やサービスの値段を吊り上げるようになる。
(……念のために言うと、現代社会の国家経営に「蓄財」はない。
造幣局や印刷局で現物としての現行通貨を作れる以上、国と銀行がやろうと思えば無からカネを生み出すように現行通貨を新たに発行できる、予算を作れるのである。
ただ、逆にカネを無に帰して国内通貨と商品の価値を調整する手段として、または貨幣や紙幣の価値を国が保証する手段として「税」があり、それがあたかも「税によって国が収入を得ている」ように見えてしまうだけである。国民が税金を払えば払うほど現行通貨は消化され新規に現行通貨を発行しやすくなり、そのぶんだけ国家予算に余裕が出せる、より多く現行通貨を発行して出費しやすくなるので福祉事業も新規事業もやりやすくなる、という仕組みであって、家庭や会社の経済のような「蓄財しなければ余裕をもって旅行もできない」という仕組みではない。)
値上がりの理由は様々で、利益により商品やサービスを作るために多大な出費をかけやすくなって結果として商品やサービスの質も値段もあがってしまったり、単純によりよい生活がしたくて商品やサービスの値段を高めたり、最初は在庫をなくす目的で安価で商品を売っていたが売り切れてしまって普通に売るしかなくなったり、普通に売ろうとして商品を新しく仕入れたが売れなくなった場合の在庫への課税が大変なので売れなくなった場合のリスクを念頭に置いて高く値段を設定したり……など多様なかたちで値段が吊りあがるのである。そこに強欲があるとは限らない。
やがて物価やサービスの価値が高騰し、どれだけのカネがあっても以前のようには同じものが買えない、という、モノの価値にくらべてカネの価値そのものが安くなる経済現象である「インフレーション」が起きるのだ。
上記とは理屈が少々異なるが、もしも国内での現行通貨を国や銀行が量産して相手国の通貨へと為替し無理やり賠償金を相手国に支払う、あるいは、相手国から輸入する際の支払いに使ってしまった場合、そのぶんだけ相手国の通貨を購入しては相手国に返還するため「相手国へ自国の通貨を送る」構図となり、最後には相手国でのバル・ベルデ国内の現行通貨の価値が暴落する。
それこそ、今後の相手国との貿易において相手国の現行通貨の価値より安くなりすぎて、以前と同じ値段の兵器を買おうとしても、為替の段階でバル・ベルデ国内の現行通貨をどれだけ投じてもアメリカ合衆国ドルの1
かつてドイツが第一次世界大戦での賠償金支払いができなくなった最大の理由とは、元から賠償金がインフレーションを起こしすぎない範疇で新たに現行通貨を発行して支払おうとすると物価変動により支払い後にはドイツ・マルクが国家間の為替では価値がない紙切れ同然になりかねないだけでなく、肝心の労働の場である炭鉱を相手国に(現代における石油に相当する石炭によるドイツ・マルクに依存しない現物取引をやるために)取られたうえで自ら国内労働者に生産を停止させている間の給料を払うべく(肝心の石炭が売れないからと)現行通貨を大量発行したどころかエネルギー資源の供給も失った結果、カネだけが増えて税による消費が間に合わず、自国内で供給されない石炭が値上がりして光熱費や石炭ガス代(石油ガスではなく)があがった結果、当時の国内外のどの政府にもドイツ国内のインフレーションを制御しきれなくなったためだ。
よっぽどの馬鹿、間抜け、阿呆がやらかさないかぎり、普通は自国の現行通貨の価値を暴落させないようにほどほどに新しく現行通貨を発行して予算を設け、しかしできるかぎり物価に影響を与えすぎないよう取引をしながら、税金を吊りあげて新しく発行した分を消化する準備を整えながら、余裕を持って外国の兵器を買おうとするものだ。
……よっぽどの馬鹿、間抜け、阿呆がやらかさないかぎりは。
ここでどうしようもない問題がひとつある。
今でこそバル・ベルデ共和国は現在において紛争地帯と化しているが、このような状況あれ現政府がまともに機能していたとしても、肝心の軍事行動は即決即断が求められる機会が多く、あらゆる国の歴史が証明するように場合によっては、それこそ諸外国との激しい戦争が予見される場合では、軍部が政府を掌握する軍事政権を成立させてしまうものである。かのカエサルさながらの政治家としても軍人としても優秀で、なおかつ広報や策謀の腕も高い常軌を逸した人材がトップに立つことなど滅多にない。
そして、ほとんどの軍人は一般人が志願して従属したものだ。はるか昔から軍人として名を馳せた由緒ある家系であれば経済学を学ぶ機会もあるだろうが、ほとんどの軍人はあくまでも一般人なのである。
つまり、家庭の財布事情しか知らない者がほとんどである。
そんな中で造幣局という打ち出の小槌を知り、「実は政府はカネを大量に生み出す手段を持っていた!」などと
それこそ「部署がちがうのだから詳細は知らないが、財務省が『無理だ』と言ったものは無理なのだろう」と、紳士的に呑み込める軍上層部の中に、経済学への理解がなく、ひとりでも無理を通そうとして、経済に無知すぎる部下を集めて国会を占拠し、自分が首脳になろうとした愚かな軍人がいれば、なにが起きるのか。
気分はまるで革命家。
行動は暴力頼みのテロリズム。
実務は専門職でもないのに「簡単にできる」と思いこんだ素人の仕事。
まっとうに普通に働いている人間にだってわかることだ。
バル・ベルデ共和国現軍事政権は、共和国軍は盛大にやらかした。
この並行世界での世界為替市場でのバル・ベルデ・ドルは暴落した。
今やアメリカ合衆国ドルを、現代でのドイツマルクを下回り、さすがに世界恐慌当時のドイツマルクほどではないが価値を安くし続けている。安定した食糧供給が間に合わないのに共和国軍により消費は進み、市場に金銭があふれ、商品の供給が間に合わない。
市場の商人、産業の主は生きのびるためだけに物価を釣り上げて稼ぎを増やそうとする。世界共通の貴金属とも呼ばれる「黄金」に手を伸ばして購入する者が増えれば、貴金属購入に応じて商人も動き、バル・ベルデ・ドルでの購入価格を上昇させていく。
国内市場での物価高騰は進む。
彼らは輸入したい武器が(バル・ベルデ・ドルでは)値上がりする理由を理解できず、どんどん国内通貨を発行して支払いを繰り返していく。なんのために税金があったのかも理解できず、国内市場に通貨ばかりがあふれていく。食料も贅沢品も足りず、どれだけ需要があっても購入は容易ではない、無理に商品を揃えれば諸経費を含めて確実に市場価値があがる現状で。いずれバル・ベルデの貨幣が国際社会での信用を失い、諸外国との取引では貨幣での売買ではなく金塊などの現物を介した取引になるだろう。
止めるものは銃口を向けて黙らせる彼らにとって、いかなる知恵も自らを騙す詐欺師の虚偽にしか聞こえてこない。国政を維持、発展させる正攻法すら詐欺商法に聞こえてしまう。
知っている知識しか信じられないのであれば、相手国が武器を購入させるための取引として、次のように合衆国やドイツ連邦共和国が裏で相手にわかりやすく提案するのも、否、
ダマすのも、【シンフォギアの世界】においてはおかしな話ではなかった。
聖遺物発掘のための調査隊を派遣したい。
彼らのための食料品や嗜好品等を優先的に売っていただきたい。
発掘に成功した聖遺物はわが国が買い取り、支払いに使ったわが国の通貨で兵器を買っていただけ
さすがの彼らも、脅威の
合衆国からの調査隊へは入国までの時間を稼ぎ、共和国からの調査隊を優先したうえで。
あたりまえであるが、そんな小手先は合衆国もドイツ連邦共和国も承知である。
同じ契約を同時期に受けてバル・ベルデ共和国の軍事政権が呑んだことなど、とっくのとうに掴んでいるし、そのくらいの二枚舌であれば今すぐ問題視せずとも現場でのトラブルという形で
当然、すでに調査隊の中に異端技術の使い手を紛れ込ませておく程度の警戒はする。
いつか義勇軍“Region”の首魁である男がぼやいたように、バル・ベルデ共和国の軍人には政治家の真似などできはせず、どんどん後手に回っていることなど気づけはしない。
今や埋没した水の古代都市遺跡のうえに立つ首都メキシコシティがあるように、バル・ベルデ共和国にもまた、コンキスタドールにより破壊された古代都市遺跡の地下施設のみが現存し、そのどれもが古代宗教における死後の世界への接触を図る自然洞窟の祭壇であった。
とはいえ、コンキスタドールや宣教師からすれば古代宗教は邪教であり、その教典も伝説も施設も焼却され、もはやどこに何があるのかも見ただけではわからない。
ドイツ連邦共和国発掘調査隊および、バル・ベルデ共和国陸軍の一部隊。
彼らは先人の愚行に頭を抱えながらも、数少ない文献とバル・ベルデ共和国の建築業界の記録をもとに、遺跡に辿り着き、聖遺物の発掘には成功するのだが。
その全員が眉をひそめた。
「……これが、目的の聖遺物かね?」
「その、……はずです。」
遺跡の祭壇中央に鎮座されているもの。
原材料の想像に易い、黒い遺物。
「…………心臓のミイラ、ではないのかね?」
「それにしては、まったく形状が崩れていませんがね。
中に詰め物があるにせよ、明らかに人間の心臓より大きい。」
どうみても「黒い心臓」にしか見えず、神聖さの欠片もない。
それでも遺跡の壁画からするに、未発見の完全聖遺物に間違いはない。
中米諸国のミイラと言えば、有名なものが少女のミイラ「ドンセラ」だが、中米の古代文明では、いわゆる、代表的な、古代エジプト文明のような埋葬のための、外科手術を前提とする遺体加工技術は存在しない。
ミイラと聞いて思い浮かばれがちな、包帯まみれの遺体を作れないのだ。
中米諸国の場合、生き埋めにする儀式「カパコチャ」による生贄こそが、通常の遺体よりも保存状態が良いミイラを結果的に作ってしまう自然環境なのである。
……カパコチャの詳細な記録そのものが余所者でしかない、異教への偏見や主観が手記に反映されがちな当時のヨーロッパの民による記録であるため、この手の異文化にまつわる記録には信憑性が低いのだが、むしろ真に受けるならば真に受けるほど現代における遺体や埋葬文化上の意味への認識が正しいかも怪しくなってくる、意図ある保存か偶然かも不明な遺体の状態。
これこそが中米諸国の歴史の神秘だ。
埋葬が目的であれ、ミイラづくりが目的であれ、あるいは本当に生贄に捧げただけでしかないにせよ、中米諸国のミイラの保存状態はとにかくよい。
さながら「生きた人間のよう」であるとも言われるほどには。
そんな中で、具体的に。
心臓のみをミイラにするなどという局所的、かつ外科手術を必要とした、心臓の形を保持させる遺体加工、遺体保存の技術が中南米諸国全体に一国でも実在したという考古学的発見がなされた前例は、まだない。
適切に心臓を切除し、神殿に捧げる解体技術があっても、心臓の躍動が停止してもなお心臓を保存し続ける必要性や宗教的意味がないので、わざわざ機能停止状態の心臓をミイラ化させる技術など求められない。
エジプトのミイラじみた「黒い心臓」のミイラが遺跡に現存する、などという現実こそが中米諸国において異常なのだ。この世界においては、
発掘調査隊の男は周囲を見渡し、改めて確認する。
ジャガーの毛皮をまとう戦士「オセロメー」が、黒い怪物へと黒曜石の斧を構え、勇猛果敢に飛び掛かる『壁画A』と、おなじオセロメーが心臓を黒き神に捧げるべく、祭壇にて、神官と黒曜石の神の手による心臓摘出手術を受ける『壁画B』。
壁画Aと壁画Bの対面にある壁には、オセロメーならざる若者が「黒い心臓」を神官と黒曜石の神「イツトリ」から譲渡される『壁画C』。
読む順番が正しければ、これらの壁画はC⇒A⇒Bの順番であろう。
壁画AとBに描かれたオセロメーには、いずれも「黒い心臓」が胸に描かれており、ほかの遺跡の壁画に描かれる通常のオセロメーの絵と異なり、体色が黒い。
黒き心臓のオセロメーも、壁画Cの若者も、下瞼がほかの登場人物の目よりも濃く、
若者もオセロメーも背丈が幼く、通常のオセロメーよりも若さを感じられる特徴から、この遺跡に描かれた記録は通常の英雄伝説よりも“特別”である可能性が高い。
「これが聖遺物でなければ、なにに使うのか、こちらが
『ノイズへ対抗するための超兵器』、それが本聖遺物の本質でしょうから。」
なぜ図体がちいさく見えるのかは、ともかく。
戦士階級においては低位にあたるオセロメーを、ノイズに対抗可能な戦士に生まれ変わらせるための聖遺物なのだろう。ドイツ連邦共和国の発掘調査隊はそう結論付けた。
バル・ベルデ共和国の陸軍兵士は意味がわからず、首を傾げる。
「有能な戦士に、相応の武器を与えるのが当然ではないのか?」
「聖遺物にはフォニックゲインが必要です。
発声可能な音楽家が必要となり、どの神話にも音楽を奉じる巫女が登場する。
しかし、ひとたび起動に成功すれば、聖遺物は誰が持っても戦略兵器たり得ます。
あらゆる神話での神より武器を託された英雄とおなじく、誰が持っても、です。
この壁画の場合、『ほとんどの兵士がノイズに殺されたのだ』、と仮定しても説明がついてしまう。叩き潰せるなら最高戦力で、不可能ならば低位の戦力で時間を稼ぐ、ノイズの実態を理解しておらずとも最善手と信じて繰り返してしまうはず。
そうやって全滅、または恐慌状態になり、当時の王家や軍が政治的機能を失ったとすれば、」
「だから何だと言うのだ。」
しびれを切らし、指揮官の男はつぶやいた。
「聖遺物があるのならば!
最初から、ノイズに叩きこめばよい! ちがうか!?」
「ちがいますね。
「くだらん、ただの宗教画のようなものだろう?」
だが、壁画の内容からして、発掘調査隊の意見こそが正しい。
真実であるか否かではなく、論理立てて考えれば
そこは門外漢の指揮官の男といえども、苦虫を噛み潰すような表情で、ほんのわずかに納得の意を示すうなずきで肯定しながらも。
軍人としては納得しきれず、反対意見を言うしかなかった。
スナイパーライフルの
戦車の扱いが巧いものたちに戦車を託し、戦闘機には相応のパイロットを選ぶ。
軍人であればやって当然の判断を、遺跡の壁画はまったく語っていない。
あんまりにも壁画に描かれた
これではまるで、はるか昔の記録を神話に紐づけ、イツトリなる神の絵を無理やり加えたかのような架空の物語にも読めてしまうからだ。もはや異教ならではの
ジャパニーズの神風だとかの誇張表現としか感じられない。
どちらにしても、眼前のそれが聖遺物であるとは思えなかった。
「いいえ、異端技術における神の絵とは、実在を答えたり、教義を説いたりする象徴ではなく。
あくまでも『力の象徴』、つまり構成要素と捉えるべきなのです。太陽の神ケツァルコアトルは邪神に抗う龍神と聞きますが、その邪神は竜の眷族とも呼べる蛇を武器として悪用していたとも。
本壁画のイツトリは、悪用した邪神に近しい神でして―――」
「ええい、わかった!
つまり聖遺物であることは間違いない! そうだな!?」
「……そのとおりです。」
眼前の「黒い心臓」の聖遺物こそ起動状態にはないように見受けられるが、それでも起動実験もせず突然起動する可能性は否定できない。
人間に使用された前例が壁画に残されるほど、この地域では聖遺物が多用されたのかもしれないし、壁画の記録にある一回きりなのかもしれない。すべてが謎だ。
どちらにせよ、どのように使う聖遺物かは不明である。
研究員は聖遺物を安全に、直接的な肉体接触もせずに回収しようとして、
研究員の左胸が黒い染みを広げていく。
「……は?」
「ならば、もう貴様に用はない。総員、
バル・ベルデ共和国陸軍が連邦共和国発掘調査隊を銃撃した。
正確には、バル・ベルデ共和国に密入国した連邦共和国の盗掘団を、バル・ベルデ共和国陸軍が突き止めて討伐した、……と、上層部へ報告、民間へ報道できるように。
生還者を余さず殺すべく、容赦なく発砲した。
「よくわからないが、『ただの人間』に使える聖遺物らしいことは伝わる。
つまり、これまで貴様らがどのように聖遺物を起動させてきたのかは知らんが。」
指揮官の男は研究員の遺体を蹴り、「黒い心臓」の祭壇から転がし落とす。
「聖遺物なる兵器さえあれば、どうとでもなる! そのはずだ!」
この判断により、共和国陸軍の指揮官は発砲を許可したのだ。
銃器とおなじように、安全装置を外して狙いを定めて引き金を引く、というような工程でも挟めば大丈夫なのだろうと高を括ったのである。
異端技術研究や理解が遅れた発展途上国の紛争地帯だからこそ、異端技術研究が進んだ先進国の人間では想定できないほどの「浅はかさ」「早計さ」があった。
いや、「男らしい判断の早さ」とでも言えば、この男は喜ぶのだろう。
「素晴らしいタイミングです、上官殿。
ここからは、私にお任せを。」
「うむ、詳細な遺跡調査は任せたぞ、チャプルくん。
反逆者どもの鎮圧が終われば、此処は世界に誇る“観光名所”となるのだからな!」
女性副官のチャプルは敬礼を終えると、タブレットの電子書類を閲覧しながら、遺跡内部の記録をひとつずつ読み解き、電子書類の記録との照合を進めていく。
ここまで彼に即断即決が可能であった背景には、紛争が終わらない現状にもある。
いちいち総本部に確認を取るより、さっさと実績を得たほうが早いせいだ。
適当な罪状をでっちあげて反逆者を、捕虜を吊るしあげれば、戦果は認められる。
であれば、現場判断がいちばん昇進に適した手段だと言えよう。
……相手は自国民ではなく先進国の民なのだが、なにせ国際社会の暗部での出来事だ、おたがいに表沙汰にはできない。だからこそ別の聖遺物を持ち発掘調査隊に同行したはずの
それだけの遺体になってしまった。
「この聖遺物を献上せしめれば、大統領閣下もお慶びになられるはずだ。
なにせ特異災害に対抗できる超兵器!
我らがバル・ベルデ共和国に永遠の繁栄をもたらすこと、間違いあるまい!」
がはは、と豪快に笑う指揮官の男。
どんどんイケイケGOGOと、上昇志向を胸に夢を見る。
「聖遺物ではないとしても、この広大な遺跡!
これさえあれば、我が国の財源となってくれるだろう!
あんがいテーマパークのアトラクションにもできるかもしれん。」
「上官殿、笑えない冗談ですね。」
パイプで煙草をくゆらせる指揮官の男は、ふと口元にさみしさを感じた。
「うん? そうかね?」
「テーマパークなどと。
これは私の所有物だよ。あるべき血統に産まれた私のものだ。」
「…………は?」
どさっ、と、なにかが落ちる音がする。
不思議そうに目を向けて、男は煙を吐くパイプを見つけた。
「う、うで?
おれのパイプ? ウ?」
パイプのそばには、力なく転がる研究者の腕。
いいや、研究者は自分が祭壇から蹴り落とした。あるはずがない。
腕だけが残るはずがない。
思わず、自分の右手で口を抑えようとして、気がついた。
「私の、俺の腕かァ!?」
どうみても自分の腕だ。見慣れた剛毛を誇る右腕だ。
自分の顔に伸ばすはずの手のひらが、なぜか床に手を置いたまま動かない。
ちがう、ありえないが、これは自分のものだ。だって自分は立っている。立っているのだから座ってもしゃがんでもいない、床に手を置けるはずがない。
まるでジャガイモか何かのように切り落とされて。
ぴくりとも動かない、血を噴き出すばかりの自分の腕だ。
「笑ってしまうよ、上官殿。
われわれラテン・アメリカ民族は原住民だったか?
ふふっ、……
状況を理解した男は、ようやく登ってきた痛覚信号に従って悲鳴をあげる。
ラテン・アメリカの女チャプルは興味も関心も抱かず、ただ煩わしいと眉をひそめた。
「この私にも白人種の血が流れている。
憎たらしいが、それが我が民族の運命だったらしい。」
つややかな女の手には、あらゆる光を吸いこむかのような、泥水を思わせる暗褐色の黒曜石のナイフが握られていた。
「……だからこそ、受け継がれた。」
黒曜石は古代中米において、代表的な武器の原材料だ。
地質の問題により鉄鋼業技術が発展できず、品質の良い鉱石など手に入らないまま、石器以上の道具を求めて開発される人類のスキルツリー、それが黒曜石文化である。
古代中米の黒曜石業技術はノコギリじみた木剣「マクアウィトル」を代表的な兵器とするほどに発展した。これは黒曜石をカッターナイフの刃のように使い捨てることが可能な木剣であった。やがて古代中米の民は、その剣と設計思想が近い槍や斧なども開発していく。
しかし、彼女の手にある刃物は、古代中米の文化に反した造形だ。
「多くの同胞が奴隷に身をやつし、我が祖国の記憶は消えた。
“今”を悟った我が先祖は、奴隷商人どもと癒着し、国民を犠牲に生き延びた。」
手に持つ黒曜石のナイフには、現代的な意匠が多く見受けられる。
彼女の云い分からすれば、これは超古代の遺物であるはずで、間違っても刀身の美しさを意識したかのような造形がある現代の黒曜石製ナイフではないはずだ。
古代中米の民が黒曜石の武器に芸術的美を求める場合、木剣マクアウィトルにある黒曜石の刃を固定する木板にこそ彫刻をあたえ、飾り羽根を柄につけるものである。
使い捨てるはずの黒曜石を、心臓摘出手術のための刃物に加工するまでの技術はあれども、黒曜石のナイフ単体を美麗な
あきらかに中南米諸国の各文明当時の武器ではない。
「すべては、おおいなる黒のテスカトリポカに対抗するために。
否、そう呼ばれた神のごとき、黒き
しかし、この遺物は“神”に対抗するための武装だという。
はるか古代バビロニアの首都にて呪詛が生まれたのち、世界に散らばった原始人類の群れのひとつは古代中米に流れ着いたが、「ある部族は“神”への挑戦を選んだ」。
彼女の武装は、通常の人類が辿るスキルツリーではない。
祭壇に流れる血は溝を伝い、電子基板を思わせる彫刻を彩る。
やがて遺跡の床を染める生命エネルギーは、彫刻で構成された溝のエネルギーラインを活性化させ、フォニックゲインに代わるエネルギーとなり、遺跡内部を赤く照らす。
「御覧になりましたかな、上官殿。
わが血族の聖遺物は、人間の、生贄の血液によって起動する!」
絶句する指揮官の男。
彼女の言葉が事実であれば、彼女が提言した連邦共和国発掘調査隊への粛清はすべて、彼の与り知れぬ異端技術で構築された遺跡を起動させるためのものだ。
ながらく中米で生きた指揮官の男とて、否、現地人だからこそ、幼き日に聞かされた古代中米の儀式の恐ろしさを忘れていたわけではない。
「あれは迷信ではなかったのか!?
神の求めるままに、人間の『生贄』を差し出す、というアレが!?」
「そのとおり。では、なぜか。
血液こそが、最小単位の生命の集合体だからだ。
赤血球。神秘を授かった人類種の遺伝子情報を持つ、世界最小の生命!
フォニックゲインを生成する遺伝子情報で、われらが祭壇は命ごと燃やし尽くす事でエネルギーを獲得できるからだ! さながら地底を眠り巡る蛇がごとき、石油のように!」
女は叫ぶ。
人間を生贄に、その心臓を神へ捧げる儀式。
その正体、遺跡内部の祭壇とは?
聖遺物を起動する「命」。
それらを一滴余さず「燃料」とする、エネルギー生成機関なのだ、と!
「上官殿、あなたに忠言してよかったよ。
おかげで生贄の血で祭場は満たされ、ながき眠りより神殿は目覚める。」
すべては、この日のためなのだ。
天を仰ぐよう視線を浮つかせ、女は微笑んだ。
「よいですか?
この現象は、
『ふさわしき巫女 歌あらぬとき 生贄の血で満たせ』、伝えられたとおりだ……。」
女は上官だった男の頭髪を掴み、持ちあげる。
「やめっ、……やめろっ、なにをする気だっ!?」
「はて、なにを? だって?
『完全聖遺物の起動実験とやら』ですよ。」
祭壇の台に男の頭を乗せる。
「言ったでしょう。我が聖遺物は、生贄の血で起動すると。」
「まさか、」
神殿内部の照明にもなる、エネルギーラインの輝き。
それらに照らされたなにかの影が、男の見つめる祭壇の台のうえを走る。
「まさかっ!?」
「これは祝勝祈願だよ、上官殿。」
走る影は不自然なほどに色が薄く、てらてらと光っている。
ちょうど暗褐色のコーラを入れたガラスのコップから伸びゆくコーラの影のように、
「我ら人類が勝利するための。
そして! 『この私の勝利のため』のだッ!」
「やめろっ、やめてくれっ!」
「おや、おや。
あなたの敬愛する大統領殿も、日頃からおっしゃっていた……だろう?」
するどい先端を近づけて、黒曜石の影と光が司令官に迫る。
「
「いやだ、死にたくな―――!」
黒い心臓の聖遺物は脈動する。
生贄から
(…………っ!)
死体の中から、もぞもぞと動く影。
死者に紛れて擬態し、様子を窺っていた男は聖遺物の正体に気づき、息を呑む。
(やれやれ、とんだハズレを引いたらしいね。
人間をやめる程度の“お宝”なんて面白くもない。)
だが、目の前の女チャプルが殺害に使用した聖遺物。
あれだけは悪くないと笑む。予想とちがって熟した“お宝”が彼の故郷、否、数多ある仮面ライダーの並行世界においては「ありふれた」ものでしかないが、あれは雪音クリスたちにとっての“お宝”だ。
であれば盗む価値こそあれども、まだ特別な力などなく、盗む意味はない。
それに比べて、彼女の聖遺物はどうだろうか?
(あらゆるものを裂き、心臓を摘出できる黒曜石のナイフ。
完全聖遺物『イツトリ』! こいつだけでもいただいて―――!)
「そこの。」
ふと。
女の声が、隠れ潜む男の影にむかって響き渡って行く。
「おまえ、何者だ?」
「……バレちゃったからには、仕方がない。」
死体を盾にしながら、影は青い拳銃を構える。
「ほう、冷静だな。」
「君の聖遺物には通用しないだろうが、リーチは別だ。
攻撃範囲からして、ここまでは拳銃でないと届かない、ちがうかい?」
「そのとおりだ、日本人。」
ひゅう、と。
遺跡の内部が血みどろであるのに、なぜか殺気のない空気が流れる。
「……髪を染めたところで、ラテン・アメリカの中では目立つぞ?」
「あれ、そうなのかい?」
「顎や頬周りの骨格と、目のくぼみだ。
貴様ら日本人種は『猫』に近く、どうしても頬の彫りが浅い。」
言われて左手で頬をなで、「なるほどね」と微笑む。
照準は外れない。
「そう慌てるなよ、おまえに関心はない。
神殿は起動し、祭壇は生贄によって聖遺物を起動させつつある。
ここで私が瀕死になろうと聖遺物は私と融合し、私を戦士『オセロメー』に変えるだろう。」
海東大樹に語りかける女は、黒い心臓を左の手でさする。
「つまり、もはや邪魔されても問題ない。
食事中の対談でも喜んで応じるが、君が戦う理由は、……なにかな?」
「君の言葉が真実である保証が欲しいのさ。」
女に照準を逸らさない海東大樹は、笑みを深める。
「たとえば、君の右手にある完全聖遺物とか。」
「それは困る。非常に困る。
懐中電灯もなしに洞窟を探検するこどもがいるか?
いないだろう? 私にとってのこれは『灯』なのだよ。」
「だったら『カナリア』のほうが安全じゃあないかい?」
「あいにく巫女のあてがなかったのでね。
いや、なくなったと言うべきか? あれは嫌な……いや、よそう。」
雪音家はバル・ベルデ共和国にて運命に
どの並行世界も例外はなく、フィーネとおなじく暗躍する女がいた。
「つまり、君は錬金術師か?」
「ああ、
「メダル……?」
あらゆる悪に見慣れた大怪盗は、どんな並行世界でも愛銃を手放さない。
「では、君は、……何者だ?」
「通りすがりの仮面ライダー。」
ときに正義。ときに悪。
「―――
善悪に貴賤はなく。
世界最小限の己のためでも。
巨悪さえいなければ、仮面ライダー同士で殺しあおうとも。
彼らの名は仮面ライダー。
青年の名は海東大樹、仮面ライダーディエンド。
そう、仮面ライダーがあるかぎり。
「光」が彼らの人間性ならば、それを持たぬ「闇」もまた絶えはしない。
ひとつだけ問題がある。
道徳や倫理の問題? そちらではない。
重箱の隅を楊枝でほじくるように語るのであれば、そちらも語れなくはないが。
そもそもの聖遺物の争奪戦が起きた「大前提」にこそ問題がある。
『バル・ベルデ共和国にて発掘に成功した、
これこそが、【シンフォギアの世界】では根本からおかしいのだ。
中南米にバル・ベルデ共和国が生まれるよりも昔。
この地域で信仰された多神教において、「黒い心臓」を持つ神といえば、どのような神性を指し、中米の神話での「人間の心臓」とはどのような役割があったか。
発掘調査隊は忘れていた。ゆえに生贄にされた。
だが、真に重要な問題点は神秘の最奥にある。
並行世界の【シンフォギアの世界】において。
その神の名を持つ神像は、本来であれば、どのような形をしているのか。
こちらの造形が、そちらとくらべて
神の名は「ヨナルデパズトーリ」。
受けるダメージを並行世界の同一別個体に肩代わりさせる神性を降ろす神像。
こちらが本来の、バル・ベルデ共和国にあるはずの神秘のひとつであった。
間違っても「黒い心臓」ではない。左胸に押し込んだ程度でなにかが起きるようなものでは決してない。
そして、「あちらは聖遺物ではない。」
ヨナルデパズトーリ神には、ある逸話がある。
名は、ナワトル語で「夜の斧」。
逸話は人類を試す怪奇であり、
しかし、最奥にある「黒い心臓」を掴んだ者を「勇者」と認めるという。
かの化身を持つ
伝承は数あれども、代表的な逸話では以下のものがある。
ひとつはジャガーのナワルを持つ神。
すなわち「ジャガーに
もうひとつは己が太陽の座、すなわち
―――「霊長の座を塗り替える」「絶滅の神」の伝説だ。
かの神のジャガーとしての側面を持つ、同一視される別の神がいる。
こちらは奇しくも「山の
「9つ」ある夜の神々の一柱。
マヤ文明における暦は「9」の倍数ゆえに、その神々の数も「9つ」。
女が起動させ、己の左胸に押しつけた「黒い心臓」の聖遺物は。
神像「ヨナルデパズトーリ」とおなじく
数多ある化身がひとつ、その神の名を持つ完全聖遺物であった。
その名は「
もちろん、そんな聖遺物は【シンフォギアの世界】では実在しない。
争奪戦の末に顕現したものは彼らの世界での
カテゴリー「9」、スート・スペード。
マヤ文明において最も重要な「9」の数字を持ち!
「
聖遺物「
かの姿を模した、不死の
ひとが融合症例を見つけるより昔に発明された、融合症例になる兵器。
こんなものが【シンフォギアの世界】にあるわけがない。あっていいはずがない!
【仮面ライダーの世界】、ふたつの世界の理が実現させてしまった
昭和から令和まで語り継がれる旧き“怪人”改造人間が、ついに誕生した瞬間である。
かくして女は、
黒い怪物、すなわち
旧き
シンフォギア「イチイバル」適合者たる雪音クリス。
および少年“はじめ”ら、義勇軍“Region”が怪人「オセロメー」と会敵するまで、あと―――!
☆怪人種“改造人間”
バル・ベルデ共和国の地下遺跡、洞窟祭壇の最奥で眠る聖遺物「
女性型の
ただし
ジャガーアンデッドと同じ身体能力、
原典【仮面ライダー剣】での命名法に従うならば、個体名は「トライアル
大変ながらくお待たせいたしました。
今回は「なぜバル・ベルデ共和国は諸外国から受けうる武力行使を伴わない思想的、経済的侵略への対策を二の次に武力を重視したのか」に理屈をそえた(≒実はそんなに政治や経済や外交を考えられる教育は受けていないし勉強もしていない連中だったよ説をこじつけた)うえで、
シンフォギアの世界に現れた怪人(≠仮面ライダー)の出自を描かせていただきました。
どうして仮面ライダーじゃあないんでしょうね。他意はあります。
副題は仮面ライダークウガ第一話の「復活」から。
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この作品で扱われた思想および理論のすべてが「作者が賛同・信仰するもの」や「作者の心の中にあるもの」というわけではなく、書きたいものと直接の関係がないに等しい物事やアンチテーゼになる物事まで(面倒でも書くべきだと)描いたものも含まれます。
作者個人が執筆までに学習した知識により整合性を得るべく描写された二次創作物での外交と作者の考える「人間の愚かさ」であって、フィクションおよび二次創作物の範疇を越えた経済に関する感想には返答いたしかねます。