【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】   作:ウェットルver.2

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 前回のをちょっと書き加えたほうがわかりやすかったかなぁ。
 だんだん文字が薄くなるとか、なんかそういうのも含めて。

 いやでも、変にそういうことやると、かえって先の展開がわかりやすくなっちゃうしなあ………とか思いながら、とりあえず今日も執筆を終わらせました。


泣いた歌姫

 わたしが、ジョーカーのために歌を歌う、何日か前の話。

 

 ジョーカーは目を覚まさなかった。

 無数のノイズを相手に、どこまでの戦いを繰り返したのか。

 思い出すのも痛々しく、今もなお流れ落ちる緑色の血は包帯からベッドへと伝わり、あれだけ死なないと恐れられた怪物に「死」があることを予感させる。

 ずっと旅を続けて生きた仲間が、わたしを置いて消えていく。

 そう思うと、わたしは、ジョーカーがいなくなった後を連想して。

 

 おとなのひとが近づくだけで、わんわんと怖くて泣いてしまった。

 

 ああ、今ならわかる。

 きっとわたしは、ひとりになるのが怖かったんだろう。

 パパも、ママも、ジョーカーもいなくなれば、とてもじゃないけど信じられないひとたちしか残っていない。そのひとたちに、どんな目に遭わされるかもわからない。

 だれのぬくもりも感じずに眠り続けるのが辛いと、瀕死のジョーカーの冷たい身体へと触れ続けているうちに気づいてしまう。気がついてしまった。

 

 だから、わたしは。

 自分の身体から現れた砂の塊に、すがりついてしまったのだと思う。

 

「おまえの願いを叶えてやろう。

 そのために必要な代償は、ただひとつ。

 …………おまえの時間だ、安いものだろう?

 

 なあに、ほんのちょっとだ。

 何日も取るわけじゃあない、1日ですらない………」

 

「わたしは、」

 

 ほんとうに、どんな願いも叶うのなら。

 

「―――『パパとママに、会いたい。』」

 

「契約成立だ」

 

 砂が寄せ集まり、おおきさが「おとな」のようになる。

 シルクハットを被った、キリギリスの怪物。

 

「なあに、ほんのちょっと待つだけでいい。

 それまでの間に、ジョーカーアンデッドも目を覚ますだろうさ……!」

 

 とてもではないけれど、信じられない、その言葉に。

 ちいさく頷いて、ジョーカーの回復を、いや、ひょっとすると、キリギリスの怪物が願いを叶えてくれることのほうを待っていたのかもしれない。

 彼が目を覚まして、ようやく自分の間違いに気がついて、不死身なだけの、戦い続けるジョーカーにできることを探して、歌って、それで。

 

 

 

 

 

 こうして、わたしは。

 昨日までのわたしを、この世のだれよりも恨むことになる。

 

 

 

 

 ジョーカーのバックルから、トランプのカードが出たとき。

 契約通りに、その怪物がやってきた。そうだ、風呂敷だろうか、なにかを包んでやってきて、そうして、まるで、「そうすることがあたりまえ」であるかのように。

 

 

 

 

 

 

 ごろり、と。

 パパとママのかおが、あたまが、あたま、が。

 

 

 

 

 

 

「い、いやあああっ!? パパっ、ママぁっ!?」

 

「これで契約完了だ。

 ちゃあんと連れてきてやったからな?」

 

 まっさらになった心、頭に。

 これまでの自分の言葉が、行いが、怪物との語らいが浮かんだ。

 そうやって思い返して、目の前の怪物に焦点があって。こいつが、わたしのパパとママの遺体になにをしたのかを、ようやく理解できた。

 

「うそつき!」

 

「いやいや、契約通りだ。

 ちゃんと会わせてやったぜ、おまえのパパと、ママだ。

 …………首だけ持ってきてやったけどな! ひゃあはははは!」

 

 げらげらと笑う、キリギリスの怪物。

 それがわたしの身体に飛び込むと、どこかへと消えていった。

 同時に、ジョーカーが頭抱えて、うめき声をあげる。

 

「……え?

 ジョーカー? ジョーカー!?」

 

 さっきまで持っていた、トランプのハートの2のカードがない。

 彼の手元にあったはずのカードの代わりに、砂の塊が収められている。

 砂の塊が長方形のかたちすら失って、さらさらと手のひらから零れ落ちる。

 そのたびに、ジョーカーの呻き声がおおきくなり、お腹のベルトのバックルが緑色に輝いていく。赤い色が、どんどん失われていく。

 

「おお、計画成功だな!」

 

 にやにやと笑う、赤ずきんのような怪物。

 相方がどこかに消えていったというのに、まるで不安そうにしない。

 むしろ、まるで、「そうなったこと」が喜ばしいかのよう。

 

「なにをしたの! なにを、したんだよっ!

 答えてよ、ジョーカーになにをしたの!?」

 

 わたしの泣き声で、「わたしを守ろう」とでもしたのだろうか。

 包帯から血を噴き出させながら、ジョーカーが赤ずきんの化け物に向かっていく。無理やり動かされていく肉体は、どんどん床を緑色に染めあげる。

 

「あん? まだ人格を保てるのか?

 まあいいか、これで俺たちの時間に繋がるだろうしな」

 

 子供をあしらうように、ジョーカーを”右手のマイク”で突き飛ばす赤ずきん。

 

「せっかくだから、教えてやるよ。

 今、私の相方の………おまえと契約したほうのイマジンが、おまえの記憶をたどって、おまえのパパとママが死んだ時間に飛んでいるのさ。そのタイミングにあわせて、ええと………………まあ、ようするにジョーカーのを壊すんだとよ。

 私は別の未来のおまえのおかげで、こうしてテメーを……おらぁっ!」

 

 今度は、わたしを掴みあげて、どこかに連れて行こうとする。

 そうやって距離を離せば離すほど、ジョーカーの様子がおかしくなる。

 

「ジョーカーから、引き剥がせるってわけだ!

 そうら、さっさと『この時代』のアイツに会わせてやるよ!

 それでこの並行世界は滅びる、私達の時間に繋がるってこった!」

 

「やめ、やめろっ! たすけてよ、ジョーカー!」

 

 やがて、糸が切れたかのように、ジョーカーから目の光が消える。

 わたしを想う優しさや、怪物への怒りを感じさせる唸り声とは違う、ただ動くための呼吸から声のように聞こえるだけの音を鳴り響かせながら、のそり、のそりと、這いずり回って、窓際に向かって進んでいく。

 

 その先に、わたしはいない。

 

「聞こえねぇってさ!

 ひゃはは、ついに人格(こころ)がなくなりやがった!」

 

「そん、な、」

 

 ジョーカーの心を、壊す。

 よくわからないけれど、そうさせる契約をしたのは、わたしだ。

 

 

 

 わたしの、せいだ。

 

 

 

 わたしが、ジョーカーが死ぬって思ったから。

 まるでジョーカーの代わりを探すように、あのキリギリスの怪物に縋りついたから。パパとママが生きて帰ってくると、本気で信じてしまったから。

 

 わたしが、ジョーカーを見捨てようとしたから?

 ………それって、無責任な、力を持っているだけの、好き放題暴れまわって、いろんなひとたちを犠牲にして、“使い”潰す「おとな」と………なにが、ちがったの?

 

 あれだけ、ジョーカーが、がんばって、そうなっているひとたちを助けて回っていたのに。

 その旅に、これまでずっと、ついてきたはずなのに。

 

 パパと、ママに会いたいから、って。

 

「………………うそ、うそだっ、ちがうっ! 放してよっ!」

「ダメだね、私たちにも、私たちの都合ってもんがあるんだよ!」

 

 もう、なにがなんだか、わからない。

 間違っているのはわたし。間違えたのもわたし。

 見捨てようとしたのもわたし。見捨てたくなかったのもわたし。

 守られたのもわたし、自分だけ生き残ったのもわたし、会いたかったのも間違っているとは思いたくなくて、でも、だから、ジョーカーから心が消えて、それで。

 

「たすけて。だれか、たすけてよ――――!」

「それを自分で捨てた『ケツの軽い女』が!

 なぁにを被害者ぶって叫んでんだよ、バァァアアー……ッカあ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりな。」

 

 

 

 部屋の外。

 扉の向こう側から、軍服を着た男が現れる。

 だけど、その顔は、ジョーカーを介抱してくれたテロリストのリーダーとか、その周りにいるひとの顔つきでは絶対ありえない。だって、その顔立ちは、

 

「【シンフォギアの世界】……いや、そっちは【シンフォギアXDの世界】か?

 わざわざイマジンが飛んでくるとは、よほど時空が歪んでいるらしい」

 

 ()()()

 この国にいるはずのない、父親の故郷の人間なのだから。

 

「ああ? だれだ、お前は!?」

 

 男は、なにかをかざす。

 1枚のカード。ジョーカーのベルトのバックルから現れた、あのトランプのカードとも異なるもの。バーコードが目立つ、不思議な仮面の証明写真。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。憶えておけ」

 

 名刺交換か何かのつもりなのだろうか。

 そう名乗ると、そのカードを、ベルトの、バックルに入れ、た?

 

「変身。」

『KAMEN RIDE』『DECADE』

 

 ベルトのバックルから鳴り響く、意味のわからない言葉の組み合わせ。

 

 瞬間、男の周囲から現れる、19人の幻影。

 そのすべてが男の実体に集い、縫い留めるようにカードが。

 

 ざくざく、ざくっと。

 顔面に刺さった。

 

「………………え?」

 

 え、なんだろうあれ、すっごい痛そう。

 それを何とも思っていないのか、男は鼻を鳴らす。

 幻影が鎧に変わり、刺さるカードがピンク色のような彩色を広げ、さきほどの証明写真とまったく変わらない姿へと変貌させていく。

 

「さて。悪いが、こいつの希望を壊されると困る」

『KAMEN RIDE』『WIZARD』

『ヒー! ヒー! ヒー・ヒー・ヒー!』

 

 そこから、続けてカードをバックルに装填する。

 押されたバックルが半回転すると、さらに男の姿が炎に包まれ、炎が消えた先から黒い布地が伸び、最初の証明写真とは全然違う姿へと変化する。

 綺麗なルビー。

 それを思わせる宝石の仮面を被り、指輪を掲げる、黒いローブ姿の、

 

「また変わった……?」

「な、なんだぁ、こいつぁ??」

 

 本当に、なんだろう、これ?

 怪物のような、人間のような、よくわからない姿。

 鎧だとか、ローブだとか、仮面だとかなんとなく連想はしたけれども、それにしても姿かたちがジョーカーを思わせる、「服のようで皮膚」「鎧のようで外骨格」とでも言えばいいのだろうか、なんとも形容しがたい、どれもが辛うじて兵士が身にまとう装甲の服と呼べなくはないものであることは理解できる。

 

 

 

 

 だめだ、あたまがぜんぜんおいつかない。

 

 

 

 

 

「さあ、ショウタイムだ」

『ATTACK RIDE』『BIND』

 

 そのうえで、またカードをバックルに装填。

 またしても押されたバックルが半回転して、今度はどこからか炎の鎖が伸びてくる。

 炎の鎖が怪物に巻き付いて、あっさりと怪物の身柄を拘束した。

 その鎖がわたしを絞めつけることはなく、あっさりと体が抜け、怪物から逃げることができるようになっていた。とりあえず、怪物からは距離をとる。

 

「なぁっ、魔法?! く、卑怯だぞ!」

「手品に卑怯もラッキョウもない。

 魔法と歌なら猶更だ、テクニックと呼べ!」

 

『FINAL ATTACK RIDE』『Wi-Wi-Wi-WIZARD』

 

 そこからさらに、またカードを………何回やるんだろう?

 またまた、どこからか現れる、コンバットナイフよりもおおきな剣。

 手品というには唐突で、シルクハットのような小道具もなく、魔法と認めるには機械的すぎて、いまいち魔法の呪文っぽさがないような。

 バックルのスクラッチを思わせる歌唱が、辛うじて魔法使いっぽさを保っているだけのような気がしなくもない。なんだろう、魔法使いってもうちょっとこう、「そういう感じ」じゃないような気がするんだけど。

 

 さっきまで流れていた涙が引っこんできた。

 

「はあっ!」

「うわあっ!」

 

 男は剣を掴んで切りつけると、炎を噴き出しながら怪物が爆発した。

 その爆発の余波によるものだろう、部屋のカーテンに炎が燃え移りつつある。男は再びカードを取りだし、またしてもバックルに装填する。

 

「おっと、火遊びは厳禁だったな」

『FORM RIDE』『WIZARD WATER』

『スイ~・スイースイー・スイ~』

 

 また姿を、色を変え、手をかざし、またしてもどことも知れない場所から水を生みだす。なにがなんだかさっぱりだけど、ルビーからサファイアに変わっただけの同じ姿のようで、わずかに頭部の飾りが違うことは理解できた。

 軽く消火を終わらせてから、またまた、まだまだバックルにカードを通す。

 その視線……視線……目がどこにあるのだろう。とにかく宝石の顔を向けた先には、包帯だらけのジョーカーが蠢いている。さきほどの水を浴びて、ずぶぬれになっていた。

 ジョーカー、いや、ジョーカーだった“なにか”が無理やり動こうとしているのか、今もなお包帯から緑色の血が噴き出し続けている。

 

『ATTACK RIDE』『WIZARD』

「おまえは当分寝てろ。

 こいつを泣かせたくないんじゃなかったのか?」

 

 いいかげんしつこい。なんなの、そのバックル。

 まだまだ回る。まだまだ鳴る。まだまだ光る。

 男の右手から奇妙な鱗粉が舞い、“なにか”の顔に覆いかぶさる。

 “なにか”は、くしゃみを何度か繰り返すと、そのままぐったりと倒れこんでしまった。あれだけ恐ろしい呻き声をあげていた怪物が脱力したまま、とても見覚えのある仕草で眠りにつく。いつも近くで寝るときの仕草だ。

 

 そういう感じに、いきなり、ころりと寝転がられると。

 ちょっと可愛いかもしれない。

 つい、頬が緩む。

 

 心がなくなった、だなんて言われたけれど。

 ほんのちょっとでも、心を感じさせる動きを見えただけで。

 なぜか安心してしまう。まだなにも終わっていないはず、なのに。どうしてだろう。

 

「…………ま、その状態じゃ無理もないか」

 

 何度バックルを触るのだろう、男はまたも自分のバックルに触れた。

 今度は19の幻影が男の全身から解き放たれ、男を元の姿に戻す。

 

 ………ああ、ものすごく。

 ものすごくうるさかった。バックルが。

 

 助けてもらったはずなのに、なんかすごい魔法……本当に魔法でいいのだろうか、そういったものを目の前で見たはずなのに、全然関係のないことばっかり気になって、なかなか感謝する気になれない。疑問ばかりが浮かんで、心が全然追いつかない。

 助けてもらっておいて、こういうこと思うべきではないけれど。

 

 魔法使いを気取るなら、もっとがんばってほしい。上っ面だけじゃなくて。

 夢も希望もへったくれもない、なんとなく荒んだ気分にされそうだ。

 

 もう、頭も心もぐちゃぐちゃで、まったく気持ちが定まらない。

 ひとつだけ言えることは、目の前の男は、自分のよく知っている「兵器」ではありえないものを扱うということだけ。あくまでも生物であるがゆえに理解が及ぶジョーカーとは、まったく方向性が違いすぎる。なにひとつ理解できない。

 

「あなたは、だれなの?」

「門矢士だ。さっきも言ったろ。

 『通りすがりの仮面ライダー』だ、憶えておけ」

 

 えっと、なにを言っているのだろう、このおとなは。

 

「仮面ライダー?」

「それが俺の役割だ。

 おまえも似たようなものじゃないのか?」

「………わたしも? なんのこと?」

 

 本当に、なにを言っているのかがわからない。

 

「………………なるほどな。

 だから、過去のおまえが狙われたわけか。

 【こっちの世界】を滅ぼすなら、そのほうが手っ取り早いわけだ」

「えっと、だから、さっきから、なんの話をしているん………です、か?」

 

 なんとか取り繕おうとしている敬語が、ついタメ口になりそうになる。

 ひとと話す気があるのかな、このひと。

 

「おまえの両親、音楽家だっただろ」

「………え?」

 

 息が、詰まる。

 どうして、それを知っているの?

 

「もしかして、パパとママの知り合い………ですか?」

「いや? 似たような子供を知っているだけだ。

 それに、どちらかというと、俺は、」

 

 緑色の複眼だった瞳を、ジョーカーにむける。

 

「………そこのアンデッドの知り合いみたいなもんだ。

 後輩に曰く、『()からの長い付き合い』なんでな………」

「朝からの、長い、付き合い。………そっか。」

 

 ああ、そうか、そういう「おとな」なのか。

 なら、ジョーカーと同じだ。きっと、信じられるほうの「おとな」だ。

 

 ようやく、目の前の男がわかった気がする。

 

「なんだ、わかるのか?」

 

 意外そうに目を見開き、こちらへと振り向いてくる。

 

「うん。ジョーカーが、そんな感じで、みんな助けてた」

「………そうか」

 

 ふっ、と、ちいさく笑う。

 その訳知り顔からして、本当にジョーカーの知り合いなのだろう。

 

「『楽して助かる命もない。』

 そいつを助けたいなら、ちょっと俺についてこい!」

「…………っ、うん!」

 

 不敵に笑いながら、こちらへと手招きをした。

 それに応じて近寄ると、まだバックルにカードを入れ始める。

 

「ちょっとしたズルだが、たまには俺も、俺を破壊してみるか」

『ATTACK RIDE “DEN-O”』

 

 どこからか特急列車を思わせる音が鳴り響く。

 男に乱雑に蹴り開けられた扉の向こう側には、砂漠が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにあるものは、()()()()()のはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え? えっ!?」

 

 様子がおかしい。

 廊下だったはずの砂漠の先には、なぜか本当に特急電車がある。

 いや、特急電車というか、あれは日本でみたことのある電車に似ている。

 ええと、なんだっけ、なんていうんだっけ、ああいう電車。

 

 そうじゃなくて。

 

 この紛争地帯のバル・ベルデに。

 超高速で移動する旅客車両つきの電車なんて、路線を走らせているわけがない。そもそも電車が通るような国ではないし、あったとしても今は軍事目的の用途のみだろう。

 それなのに、砂漠にぽつんと停車している列車は、まるで傷ひとつなく綺麗な白い車体を輝かせ、こちらが乗車するのを待ち続け散る。

 

「時の列車、デンライナー。

 行きつく先は、過去か、未来か………ってな」

 

 これほどの意味のわからない状況なのに。

 門矢士と名乗った男は、不敵な笑みを崩すことなく前に進む。

 

 ふと、ジョーカーに振りむく。

 

 今もなお、ぐったりとしたまま起きる気配がない。

 門矢士の魔法で眠りについているのだろう。でも、それが目を覚ました時、「自分の知っているジョーカーであるのか?」を問えば、間違いなく。

 

 わたしの知っている()ではない。

 わたしを笑顔にさせようとする、あの道化師のそれではないのだ。

 

 わたしが、先を行く門矢士としなければならないことは。

 ジョーカーの心を取り戻すための、よくわからない空間での旅なのだろう。

 

「ま、まって、まってよ!」

 

 心細さ、あるいは、やらなければならないという気持ちからか。

 門矢士を追いかける。自動扉の境を跨いで、乗車する。

 

 がしゃん、と扉が閉じられ、聞いたこともない駅発車メロディーと共に発進した電車、「デンライナー」と門矢士が呼んだものは、まるで飛行船のように宙に浮き、進行先にどんどん線路を生やして突き進んでいく。めちゃくちゃさに目を回しながら、わたしは。

 

 

 

 生まれて初めて。

 怪物、ううん。

 

 ――――「怪人」というものを、目の当たりにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーっし、俺様の誕生日のプリンケーキだぜっ!

 ナオミちゃんも粋なことしてくれるよなぁ。くう~っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プリンケーキを前にして涙をぬぐう、真っ赤な鬼。

 それがスプーンを掴んで、ひとすくい。

 なんとなくジョーカーと似た、苦しみばった表情を思わせる口へとプリンを持っていこうとしていた。気のせいか、目が笑っているように細められている。

 

 いや、ちがう、あれ本当にプリンで喜んでいるんだ。

 あんな身長と体格で。どうみても男らしさの塊みたいな鬼なのに。

 

「いっただきまーす! あ~~………あ゛?」

 

 

 ぴたり、と。

 こちらへと振り向いた鬼が、門矢士を見て固まる。

 

「よっ。ひさしぶりだな、――――“モモタロス”。」

「“ディケイド”ぉ!?」

 

 絶叫する赤鬼、モモタロスと呼ばれた怪物。

 車両の奥で「ふごっ」と寝息を乱す、熊だか虎だかわからない、黄色い大男

 その隣で落書きをして遊んでいる、黒いドラゴンのような青年

 そこから少し離れた席にいる、鏡で身だしなみを整える、河童だか亀だか、こちらもまた見た目がはっきりしていない青い細身の男

 

 あまりにも人間臭い、「怪物」と呼ぼうとすると違和感から首を傾げたくなってしまうような、不思議な仕草の多いものたち。

 どうしてだろう。彼らの全員に。

 

 

 

 

 大切な誰かの面影を、感じた。

 




 泣いた? 泣く……泣く………泣けるでぇ!

 ………………はい。
 というわけで、童話モチーフのみなさんです。

 ”これ”を書くためだけに前回あれだけやった、後悔はしていない。
 行数がかなりあるので、前半部分だけ投稿します。”どれ”って? 秘密。

 電王のOPいいよね。
 ほんのちょっとの迷いも振り切れそうで。振り切ったぜ。




 やっとタイトル回収できた。

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