あらはあるでしょうがサクッと読めるので楽しんでいただけたら幸いです。
「ただいま」
「おかえり、旦那様」
旦那が玄関のドアを開けて帰宅の声をかけるとすぐに出迎えがある。
そのやり取りに旦那は結婚してよかったと、何度目かわからない感想を持った。
玄関まで出迎えた奥さんが旦那に声をかける。
「それで、どうする? ご飯にするか? お風呂にするか?」
「のんびりしたいので先にお風呂にします……前みたいに『それとも わ・た・し?』はないんですか?」
「ばっ……おまっ!……あれは我の部下がだな……」
「奥さん奥さん、我は禁止でしょ」
「あっ……」
わたわたと奥さんが慌てる。
奥さんは旦那と同じぐらいの高身長なのだが、こうやってうつむいてもじもじしてると小動物のような趣がある。
「普通って難しい……!」
眉根を寄せて奥さんがつぶやく。
「僕たちの普通は普通じゃないところから始まったんで、いいんじゃないんですかね?」
「そうだろうか……?」
会話をしながらも奥さんはかいがいしく旦那の世話を焼いていく。
スーツを脱ごうとすると手を添える、ネクタイを外すと(緩めるだけにしてると『みっともない!』と怒る)受け取ってくれるために手を差し出す。
シャツのボタンを外してる間にスーツはすでにハンガーにかけられてしわも伸ばされている。
熟年の夫婦のようでありながら、愛情にあふれ、理想の新婚生活はかくやとばかりにかいがいしくお世話してくれる奥さん。
ある意味では普通とはずいぶんずれてるという状況である。
「その……、なんだ。普通じゃなくても旦那様はいいのか?」
「自分で言うのもなんですけど、普通だったら奥さんと結婚とかしないと思います」
「むむむ……、確かにそうだけども……。だけど、それで旦那と結婚できたのなら普通じゃなくてもいいのかな……?わたしはそれで幸せになったしな!」
「奥さん……!」
「ちょっ……! こら! やめないか、まずは風呂に入って、食事をしてからだ!」
旦那が半裸の(着替えの途中である)まま奥さんに抱き着く、もっと正確に表現するならばおっぱいに顔をうずめたまま全力で頬ずりを始めた。
奥さんが怒鳴りつつ旦那を片手で軽々と引きはがし、深々とため息をつく。
「助平なのは治らないな……」
「だっておっぱいだよ? 僕の自由にできるおっぱいだよ?」
旦那、真顔である。
奥さんは半眼で旦那を見やり告げる。
「自由にしていいとはだれも言ってないんだが……!」
「痛い痛い痛い!!! ちょっ!!ギブ!ギブ!」
奥さんが流れるようにアイアンクローを旦那に極める。その動作は一切のよどみなく、毎回の事というのがうかがえる。
見た目はほっそりとした腕だが、ミシミシと音が出そうなぐらい指が旦那のこめかみに食い込んでいく。
奥さんがその気になればこのまま片手で旦那を宙づりにできてしまうぐらいの膂力はもっているのである。
たっぷり30秒は掴まれた後ようやく解放された旦那が告げる。
「あいたたたたた……うちの奥さんはお転婆さんだなあ」
お転婆というレべルを数段とび越えている感もあるが、これが二人の日常。
かなりのダメージを受けていてもおかしくないはずだが、旦那は数度かぶりを振っただけで立ち直る。
慣れなのか、手加減されているのか、……無駄に頑丈であるだけかもしれないが。
「私の旦那様はもう少し落ち着いてほしいのだが……」
そういいながらも奥さんの目は優しい。
「とりあえず汗を流してしまうといい……、少し冷めたか……?」
奥さんは風呂場に行き、湯船に手を入れて、温度を確かめると「やはりぬるいな」と独り言ち旦那に告げた。。
「旦那様よ、少し待っててくれ、今温める」
どこにでもいる――ちょっと愛情が過剰気味だが新婚夫婦。
旦那様はサラリーマン。
奥様は主婦。
普通の夫婦には、一つだけ普通じゃないところが一つあったのです。
「魔王の名において炎を纏え、火炎武器!」
奥様は――魔王だったのです。
「湯かき棒になんということを……」
ただし今回は湯かき棒が炎に包まれるというシュールな光景だが。
「はっ!」
気合とともに奥さんが素早く数回湯かき棒を突き入れるともうもうと湯気が立ち始める。
「あとは……
炎を消して魔法で少量の水を足して、湯かき棒で――今度こそ本来の使い方だ。よく混ぜていく。
手を差し入れて、満足した温度になったのか笑顔とドヤ顔が混じったような顔で旦那に告げる。
「いい湯加減だぞ旦那様。例によってシャワーは最後だけで、身体を洗うのは手桶で浴槽の水を使って欲しい」
ガス代と水道代がかかるからな! と、奥さん。
やや困惑気味で旦那が奥さんに問う。
「もしかして普段からこうしてる?」
「節約できるのはよい奥さんと聞いたからな! どうだ、わたしはよい奥さんだろう?」
ふふん。と腕を組んで仁王立ち――旦那は心の中で魔王ポーズと呼んでいる。をしながら奥さんが告げる。
「何度も言いますけど最高の奥さんだと思っていますよ?」
「うむ!」
数日に一度は――多い時で一日複数回。 繰り返されるこのやり取り。
満面の笑みを浮かべる奥さんを見て、旦那は、やっぱり大好きだなあ、と思い、奥さんは、旦那は優しいなあ。
と思う。
たわいもないやり取りだけれども、きっとこれが夫婦円満の秘訣。
感謝と愛情を言葉にする。
そうすることで二人の時間はこれからもずっと続いていくのだから。
この作品に関してはいつも以上に告奥感想を求めます、練習中なので。
できればご協力ください。(でもレイパンも感想書いてくれていいのよ)