朝。
「そういえばさー?」
「ん? なんだ? 旦那様よ」
朝食のハンバーガーの最後の欠片を飲み込みがら、旦那が奥さんに問いかける。
「なんで朝はハンバーガー? っていうかパンにはさむ系が多いんですか?」
「む、好みではなかったか……?」
「いや、基本的になんでも大丈夫な人だけどさ、わざわざ挟まなくてもそのままバラバラで出してもいいんじゃない?」
面倒だろうし――と旦那が告げると
「それは違うぞ旦那様!」
奥さんがすごい勢いで否定する。
ちょっと旦那がたじろぐぐらいに。
「パンで何かを挟むという発想が素晴らしい! そしてかぶりつくと口中で混然一体となって……そう、そこには世界が在るのだ! その世界を丸ごと取り込む……これは世界を征服したといって過言ではないのではなかろうか!」
「過言です」
「旦那様が冷たいっ!?」
奥さんは前職の関係上「征服」とか「支配」は好きな言葉の上位に入る。
まあ、現在は単なる癖のようなものレベルではあるが。
旦那が付け合わせのポテトをもぐもぐしながらコンソメスープ――これも手作り。 をずぞぞと飲む。
「そういえば、口中調味って日本人の特性だっけな」
「うむ? なんだその口中調味とやらは?」
複数のものを同時に口に入れて咀嚼することで味を混ぜる。
味の薄い米に特化した食べ方なのでコメが主食の日本人の民族的な食べ方である。
そう、旦那が奥さんに説明すると、奥さんは「ふむ」とパンをひとかけと肉をひとかけ口にほおりこんで咀嚼し始めた。
「一体感はさほどでもないが……、ふむ、悪くない」
「お米……ご飯と惣菜の組み合わせだと多分もっとよくわかりますよ」
和食だけではなく洋食もだが日本の家庭料理はやはり米と合わせたときに真価を発揮する。
特にとんかつのご飯の消費係数はすごいものがあると旦那は思っている。
「ふむ……それでは後で試してみるとしよう」
「別に僕は奥さんが美味しいと思って食べることができれば、なんでもいいんですけどね」
食べることができるだけで幸せですし……と旦那が告げる。
「そういえば旦那様は食事にさほどこだわりがないように見えるな……」
「ええ、まあ、仕事が忙しいとゼリー飲料とかならまだましなレベルでマッカン、エナドリ、極めつけは飴ちゃんでしのぎますからね……」
「だ……旦那様?目が死んでいるんだが……あとそれらは間違っても食事とは言わないと思うのだ」
奥さん、ドン引きである。
この旦那、それなりに優秀で、人当たりが柔らかいため仕事が集まってきてしまうのである。
「SE……なんでなったんでしょうね、僕」
朝っぱらから目がどんどん死んでいく旦那、すでにハイライトが消えている。
「旦那様!?ええと……たしか、こういう時は……だ……大丈夫か?……おっぱい揉む?」
「はい喜んで!!」
瞬間、旦那が即座に胸に手を伸ばしてくる。
勇者の剣戟より早いその速度に多少慄きつつ――今度は自分が少し死んだ目になりつつ、奥さんがあきれとともに告げる。
「旦那様が痴漢行為を他所でしてないか心配になるぞ……」
「他人のおっぱいには興味がありません!これは僕のおっぱいだから!!」
「いや、私のだが……」
旦那の想像以上のテンションに困惑の隠しきれない奥さん。
「それにしてもなぜ奥さんはそのネタを知ってるんですか……?」
「何のことだ?」
「いや、その大丈夫?おっぱい揉む?ってやつです」
「アスモダイが教えてくれたが……」
「人の奥さんに何教えてるんだ!?ありがとう!でも次来たらさんまの塩焼き食わせる!」
「支離滅裂になってきてるぞ、旦那様よ……」
怒って感謝して嫌がらせ(アスモダイは魚の内臓が嫌いだ)と、もう朝っぱらか深夜のテンションに近しいものになっている旦那。
本日も平和である。