休日の昼下がり
「ふんふんふーん」
「奥さんご機嫌だね?何してるの?」
スーパーで飲み物とお菓子を買ってきた(コンビニで買うと奥さんが怒る)旦那が、鼻歌を歌いながら作業する奥さんに問いかけた。
見たところ、大量の怪しげな薬品を混ぜているようにも見える。
「ん?これか?ハーブやスパイスだな」
「僕にはなんか怪しい薬の調合にしか見えないんですけど……」
「錬金術は私はあまり得意ではないな」
「あれって本当に金が作れるんですか?」
「むろん作れるぞ、ただ触媒の賢者の石を買おうとすればそれこそ金貨が万枚あっても足りんが」
どうやら世の中はそんなに甘くないようだ。
「夢がないですねえ」
「そう、美味い話はないということだな」
作りなれているのか奥さんの手はよどみない。
「あーそのゴリゴリするやつ楽しそうですね」
と奥さんの手元の薬研に興味を示す旦那。
「本来は薬の調合に使うものだが、スパイスを混ぜるのにも便利だからな」
と薬研に実際に数種類のハーブやスパイスを入れてゴリゴリと実演して見せる。
「ちなみに今作っているのは、肉の臭みけしに使う奴だが、正直こっちの世界の肉ってすごいな、臭くないのに柔らかくてうまい。魔王時代でも食べたことがないぞ」
「たしか低温で熟成させてたはずですね、冷蔵庫とかないんじゃそっちじゃなかなか難しいでしょうねえ、はい、お土産ですよ」
旦那はマイバッグをごそごそ漁って安ワインを取り出す。
一昔前はヴァンドターブルなどと呼ばれていた、食卓などに置きっぱなしにする水代わりのワインである。
「おお、ありがたい」
基本的に奥さんが飲むものであり、旦那が自分の小遣いで買ってくる必要はないのだが、折々につけ、つい買ってきてしまう。
「やはり旦那様は優しいな」
「いや、正直お小遣いってエナドリ系にしか使わないんで……」
この旦那、酒こそは飲めるものの、タバコもギャンブルもしない。
ソシャゲで課金したりもしない。たまにお金を使うとしたら据え置き機のゲームを買うぐらいである。しかも新作でなくてもかまわない、非常にリーズナブルな旦那である。
なお結婚前は肌色の割合の多い本やゲームを買っていたが、結婚を機にすべて処分した。
「そうだ、今晩は肉だな。ワインがあるからシンプルにハーブで焼こう、旦那様もそれでいいか?」
「お米が欲しいです」
「こればっかりは相容れぬよな……」
奥さんは肉だけ食べて平気な性質で、旦那は肉だけだと喉を通らないタイプだ。
もちろん奥さんはちゃんと旦那のために米を炊くのであるが、相容れないものはしょうがないし、旦那も別にそれに思うところは微塵もない。
「そうと決まれば肉を解凍しておかねばな、こっちには冷凍庫があるので本当に助かるな」
「奥さんはちゃんと整頓できてるからいいですが、うっかりすると冷凍庫で忘れられるんですよね……僕の母がそうでした……そもそも家事出来ないんだよなあ」
「御母堂は、その……なんだ、楽しい方ではないか」
奥さん、フォローになっていないフォローをする。
「ほかに何か作ったほうが良いか?」
「そうですね……僕がサラダを作りましょうか、奥さんに任せると茶色い食卓になりそうです」
「旦那様、トマトは入れないでほしい」
「彩りにプチのやつを少し入れます」
「いじわるだっ!」
「いじわるじゃありません、なんでトマト嫌いなんですかあんなにおいしいのに」
「酸っぱいものは腐ってるんだぞ」
「新鮮です。ファンタジー世界基準で言わないでください」
ただ単に奥さんの好き嫌いなだけである。
なお、他にグリンピースとピーマンが苦手である。子供か。