「奥さんは何でもおいしそうに食べますねえ……」
もそもそと飯を食いながら旦那がぼやく。
旦那、絶賛夏バテ中である。
「実際のところおいしいからな!臭い肉に味付けは塩で焼いただけとか日常だったぞ向こうは」
「多分今の僕が食べたら吐きますね……」
げんなりとつぶやく旦那。
そもそも肉という時点で喉を通らないのに、臭いとか拷問である。
一応奥さんも気を使って今日の食事はぶっかけ飯。いわゆる猫まんまである。
日本人の視点からするとやや行儀の悪い食べ方なのだろうが「硬いパンをスープに浸して食う、何ならぶち込む」文化のある奥さんにとっては「その一形態」にしかすぎないのだ。
「塩分が染みわたりますねー……」
「ほとんど具が入ってないけどいいのか旦那様よ?ますます体力落ちるんじゃ……?」
一応ベースは豚汁レベルには具だくさんだ。
ただ旦那の調子が悪いのであっさりとした鶏むね肉だし根菜ではなく、絹さやなんかの軽めの野菜を多用しているが。
だが旦那は具よりも汁をたっぷり入れて食べている。
「ええ、いいおだしが出てるので、滋養はあると思いますよ」
「ならばよいのだが……どうしてもしんどいようだったら勇者を呼ぶが……?」
勇者は回復系統の魔法が得意である。
なお先日勇者がスマホを購入したためついに連絡がとれるようになった。
……宿敵のはずでは?
あと勇者に「ギガが減る」は正しい言葉ではないぞとSEである旦那はとても言いたい、まあ言っても意味ないから言わないんだけども。
「奥さんは勇者さんを便利な医療器具みたいに考えてる節がありますよね……」
「くやしいが奴の回復魔法は体に負担が少ないからな……私はポーションは作れるがツクヨミに「それ絶対旦那さんにあげたらダメですからね!」って止められたからな。
「僕も言われましたよ「人間やめる気がないなら飲むな」って。でもまあ、奥さんと一緒ならやめてもいいかなとは思いますけどね」
「旦那様――!」
この夫婦、隙あらばいちゃつく。
「まあそれでも、病気や軽いけがぐらいは人間らしく治しましょう」
「ん、そうだな。でも旦那様が死にかけたなら禁忌を破ってでも助けるからな!」
そう豪語する奥さんの傍らに影。
「だからそういうの本当にやめてほしいんだけど……」
「ぬおっ!?また湧いて出よったな小娘!?」
「あ、ツクヨミさん。この前はどうも」
陰から現れたのは和装の少女……どことなくこけしを連想してしまう程度には平坦である。
黒髪を真ん中で分けておりなんというか夜中に突然出会うと怖い感じに目が死んでる少女だ。
「こちらこそいつもお手数かけまして……」
「いえ、うちの奥さんの関係者でもあるので……」
「そもそも通さないようにするのが私たちの役目なので……」
旦那とツクヨミ、日本人の定番のお辞儀合戦に入ってしまう。
「旦那様よ、そう頭を下げずともよい。これは神の落ち度ゆえな。そして小娘は相変わらず目が死んでおるの?」
「いったい誰のせいですかね?」
ツクヨミは三貴子の中では一番温厚な子であり、そして力の代償が眠れなくなるだけと金銭的に被害がないので。一番働いている。
その子をピキらせるとは奥さん、さすが魔王である。
「時空ゲートが開きっぱなしなのは私のせいでないしな?むしろ私も閉じたくてならんのだが……」
時空ゲートはアストラル体の状態でしか通れないので実体しかない勇者や旦那は通れない。
ゆえに奥さん的にはほぼ無用の長物であり閉じてしまっても(妹に会えないのは少し寂しいが)問題ないのである。
むしろ連れ戻そうとする配下をシャットアウトできるので願ったりかなったりまである。
ちなみに開きっぱなしなのは強大な力を持つ奥さんが通ったからで、まあガバガバになっただけである。
初期は実体も通れたため魔物や勇者がこちらに来て隠蔽するのにツクヨミが数日寝込むほどであった。
「して何用だ?」
「貴女じゃなくて旦那さんにね、昨日頼まれたから」
と紙袋を段根に手渡すつくよみ。
「おお!いいんですか?」
「ええ、元気になりますよ、ただ魔王の薬ほどじゃないけど人間には効果が強すぎるので多少の副作用が出ると思いますよ?」
「おい、人の旦那に危険なものを渡すな!」
「大丈夫ですよ、ちょっと夜が絶倫になるだけなので」
「おい!人の旦那に危険なものを渡すなぁっ!?ま、まて、旦那様、その危険な物を手放すんだ、って……飲んだっ!?」
「では私はこれで、ごゆっくり」
その夜、魔王が討伐されたという