鳳を射ち落す日   作:ちぇばっそ

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野蛮な騎士達

「いい音だけど。無理だわ。コレ、改修型ヴォラキーロは私に扱いきれない!」

ヴォラキーロに乗り込み、一通り操作を行ってみる。

「ティラントーよりこっちの方が扱いやすそうに見えるスけど?」

 群青色の改修型ヴォラキーロを歌いながら操縦してみて、イシルはあからさまに顔を(しか)める。操縦性はティラントーより遥かに良いだろうが、魔導演算機(マギウスエンジン)がティラントーと異なっている。

「私の歌は、ティラントーの魔導演算機にしか通じないんだよね。ヴォラキーロの魔導演算機には専用の歌が必要なんだ。」

「はぁー、そうなんスか?」

 実際のところ、イシルはヴォラキーロを人並みに動かすことは可能だろう。だが『歌』に応えてくれないこの機体よりもティラントーに乗った方が成果を出せる。メラニーは『歌』の効果がどの程度か実感が持てないため、唇を突き出しながらイシルの作業を見守る。

「歌はその幻晶騎士(シルエットナイト)に合わせて作ってるんだ。これにどんな歌が必要か調べて、必要な曲を考えて、組曲を考えて、実際に動かしてみて、でもヴォラキーロとティラントーの魔導演算機が参考になるだろうから、つきっきりで2年もあれば手足のように動かせるかしら?」

「現実的じゃあないッスね」

 もしもミナスが生存していれば、その性能を引き出すための歌をいくつかは用意してくれただろう。それでも鬼神を相手取るためには鈍風(タクト)が必要だ。ヴォラキーロで扱うことが出来るかは疑問が残る。

「でもまぁ、この砦の主旋律がどんな物か、理解が深まったよ」

 イレブンフラッグスから奪われた無数のナードナック達。ナードナックの操縦室を突き破ることを得意とする隊長用ヴォラキーロ。ナードナックを拘束するのに用いただろう鎖。多くの馬用の鎧。幻晶騎士用のローブ。隠し部屋にあったのは略奪行為を行った証拠達だ。

「メラニー、うちの部隊、いや中隊から、強面を連れてきて?」

 

===

 

 タクール砦作戦会議室。他の隊長格の面々に対しイシルは語る。舞台役者のように大仰にタクール砦に隠されたナードナック等について朗々と。そして最後にやはり大袈裟に一礼して見せる。

 

「――そういうわけで、戦前から勝手にイレブンフラッグスへ略奪行為を行っていたことは報告させていただきます」

 

 作戦会議室に集まった隊長格の面々に一瞬のどよめきが起きるが、すぐに静まり返る。怒りに顔を赤らめる者、青ざめる者、平静を取り繕う者と多様な反応を見せる。

 

「なんだと小娘の分際でっ!! 我々を愚弄するつもりか!?」

 

「そりゃあしますよ。イレブンフラッグスとあとほんの少し仲良くしていれば、この大惨事は避けられたかもしれないんですから!」

 

 一刃砦の隊長はイシルに掴みかからんばかりに迫るが、イシルも負けずに身を乗り出し、一刃砦の隊長相手にニコニコと笑いかける。相手は法撃の雨をヴォラキーロの剣で掻い潜った一流の戦士だ。この距離で正面から戦えばイシルの首が飛ぶ。

 

「しかも砦が一つ落とされて、穀倉地帯まで燃やされたなんて、償いようがないですよね?」

 

「いや待て、償いようはある。こいつらの突撃と敵機を鹵獲してきた実績を考えれば、使いようはいくらでもある」

 

 ザグモが身を乗り出し、二人の間に割って入る。その場でザグモと肩を並べる程身の丈の大きな者は居ない。

 

「何だお前は、俺はお前の隊長と――!」

「コイツらなら、鬼面をとっ捕まえることが出来るかもしれませんぜ?」

 

 ザグモがドスの利いた声でイシルもろとも周囲を威嚇するように言う。イシルは不満げな表情で周囲を見回す。

 

「え、いや、無理でしょ。私達でも手に負えない空飛ぶ幻晶騎士だよ?」

「テメェらなら出来るだろう? おい、どうなんだっえぇ!?」

 

 イシルが右目でウインクしザグモへ合図を送ると、ザグモは他の隊長達を怒鳴りつける。一刃砦の隊長がのけぞる程の声量が室内にしばらく木霊する。声の出し方と身体強化を徹底的に仕込んだ甲斐があったらしい。

 

「馬で追いましたがあまりにも速く、鬼面を追うことは断念!」

「イレブンフラッグスの拠点を偵察したが、鬼面は不在!」

「近接し操縦席を破壊する為の手段、鎖による捕縛も困難かと!」

「じゃあテメエら指をくわえて待ってるつもりか? 奪われるだけ奪われて、それでも男か!?」

 

 年上の隊長格を恐れずザグモは再度怒鳴りつける。怒鳴りつけられる側の心中は穏やかではないだろう。

 

「此処でどんな手段使ってでも成果を見せれば、目くらい幾らでもつぶるぞ?」

「取引の際に人質を取ればそう難しいことではない」

「ラズ・ワルドの投槍ならば届くかもしれん。その槍に鎖を取り付け、地上に引きずり落せばあるいは」

「うまく誑かし、酒に毒を盛って暗殺しよう」

「ナードナックに乗って味方の振りをしておびき寄せる。イレブンフラッグス所属でなかったならば、適当なエサさえあれば――」

 

 次々と騎士とは思えない物騒な発言が飛び出す。イシルは内心で大喜びする。彼らの会話に不足する『音』をザグモに合図して入れてやれば、彼らはその本領をいくらでも発揮するようだ。

 

「あの機体、源素供給器(エーテルサプライヤ)がついてる。だから、『魔力転換炉(エーテルリアクタ)』はいいエサになりそうね。そうでなくても、使えそうな案が何個か転がってたし、あとは――」

「隊長。ご期待に添える結果をお見せできると思います」

 

 ザグモはいつも通り、恭しくイシルに一礼して見せる。

 

 

===

 

 取引の日が訪れる。

 聞き慣れた轟音がイシルの耳に届く。それと共に、砦が揺れる。力強く空気を吸い上げ、強引に爆炎を噴き上げ、道理を無視し空を飛ぶ『飛空盾』に乗る黄金の鬼面の現れる前兆である。

 以前の戦いでは守りにおいて圧倒的な性能を誇るティラントー達が一方的な攻撃を受けた。レスヴァント・ヴィードへの敗北を思い起こさせる。しかしそれは当然ともいえる。ティラントーは戦場を選ぶ機体であり、少しでも戦場選びを間違えればその真価を発揮することは出来ない。イシルは都市部に隠されたティラントーから『鬼面』を見上げる。

 

「今度の主役はお前じゃないよ?」

 

 鬼面は城壁を越え、都市部を見下ろしながら叫ぶ。都市部の中心には以前なかった巨大な見張り(やぐら)のようなものがある。幻晶騎士が一機乗ることが出来そうだ。そこには盾と何か魔導兵装(シルエットアームズ)が置かれている。一見鬼面を迎撃するために設置されたように見える。鬼面は魔力消費量を削減するため、そこへ着地した。

 

「食料と幻晶騎士の部品が届く、門を開けられたし!」

 

 拡声器越しの声に、住民たちから歓迎の声さえ起きる。本国との連絡が途絶し、穀物はともかく肉や魚といったものが十分に手に入らない状況であったならば当然だろう。

 同時にその住民たちを人質に取っていることにどれほどが気が付いているだろうか。

 タクール砦の正門が開かれると、少し遅れて何台もの馬車と幻晶騎士が現れる。それらは見たことのない形状をしている。各国のどの幻晶騎士の姿とも似ない。四角い装甲板をただ全身に張り付けたような簡素な機体だ。武器さえ持たず、吸気音を漏らしながら台車を引いている。荷台の数からこの砦の規模を賄えるだけの大規模な食糧が予想される。

 

「穀倉地帯を焼き、食糧を売りに来る。良いご身分だ。気に入らねえ、後悔させてやる!」

 

 群青色の機体を覆うマントが(なび)く。砦から堂々と歩み出でるその姿にティラントーほどの力強さはないが、優美なほどに滑らかであった。

 隊長用ヴォラキーロ『ラズ・ワルド』だ。背面武装(バックウェポン)は敵を求めるように長く伸び、斧槍(ハルバード)を持つ手は若干長い。それには数機のナードナックが斧槍を持ち付き従う。さらにそれに続くのは一刃砦残党のヴォラキーロ部隊。なんとその肩には騎士が乗っているではないか。

 

「奪え、逃がすな、野郎どもぉおおおおおおお!!!」

 

 ラズ・ワルドからザグモの声が響くとともに雄たけびがあがり、一斉に突撃が行われた。

 

「いや、お前、何をしてやがるっ、撃つぞ!?」

 

 銃装剣(ソーデッドカノン)を構え、鬼面は居住区の方へと法撃を撃つ素振りをするが、その姿は既にザグモ達の視界には入っていない。鬼面の操者であるナルヤは叫ぶ。

 

「ええいっ、馬鹿どもがぁあああああっ!!!」

 

「さんはいっ!」

 

 イシルの掛け声がナルヤの声に重なる。居住区にあった建物がいくつか崩れ、9機のティラントーが姿を現す。そしてティラントー達が手に持っていた巨大なクロスボウが次々と『飛空盾』へと向かい矢を放つ。綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)を弦に用い、ティラントーが魔力を流せば矢を放つ実に簡単な兵器だ。宙に舞った矢は鎖を(なび)かせて鬼面へと向かうが、徐々に減速していく。が、突如猛烈に勢いを取り戻す。その矢の(やじり)こそ、魔導飛槍(ミッシレジャベリン)をそのまま流用したものである。鎖から伝わった魔力で火炎を吹き出し猛加速。

 鎖は空中を網のように覆い、そのうち数本が『飛空盾』に巻きつき、引っ掛かる。

 

「なんだこれはっ!?」

 

 銃装剣で鎖を振り払おうとするが、逆に鎖の内一つが絡まる。

 作戦の第一段階は成功した。高台を警戒し高台を占拠した後、もしくは怒り狂いラズ・ワルドを魔導兵装で狙った瞬間に鎖で捕縛する。前者は万が一ひっかかってくれれば良し、後者こそが本命だ。前回の戦いで魔導兵装で狙撃する瞬間、著しく『飛空盾』の速度が低下することが解りその瞬間であれば容易ではないが捕らえられる。

 ティラントーがその重量を用いて鬼面を引き寄せようとする。鬼面は『飛空盾』を起動し逃げようとするが、鬼面の重量を飛ばすのが精いっぱいの『飛空盾』は暴れながらも徐々に高度を落としていく。鎖を命中させられなかったティラントーはクロスボウに次の矢を番え、放つ。また幾つかが当たり、盾を縛り付ける。

 

「魔導兵装使ってる場合じゃありませんよねー、もっと盾の出力上げなきゃ落ちますよー?」

 

「住民がどうなってもいいってのかてめぇら!?」

 

「安心してください。そいつらこの前の戦いのイレブンフラッグスの捕虜ですからぁっ!!!」

 

 イシルは器用に二つ目の鎖を放つ。鎖は銃装剣へ目掛けて弧を描き、絡めとる。既にティラントーの怪力と重量から逃れる術はない。

 

「お前らぁぁぁ、不意打ちで勝ったと思うんじゃないぞ!?」

「不意打ち、強襲、夜襲、どれも黒顎騎士団のだーい好きな言葉だよ」

 

===

 

 敵幻晶騎士へと接近したヴォラキーロ達は正眼に構えた剣を敵の右肩へと突き入れる。そこへ騎馬部隊が遅れて到着する。

 騎馬に乗った騎士たちの杖が照り、爆炎球の魔法が敵幻晶騎士に次々と命中する。幻晶騎士にとり爆炎球ごときどうということはないが、音と光が確実に敵を惑わす。そして少しでも敵に躊躇いが生まれれば、ヴォラキーロの猛烈な剣撃が幻晶騎士をズタズタに切り裂いていくのだ。

 そして目前の幻晶騎士が動きを止めるとジャーンと銅鑼(どら)が鳴る。ヴォラキーロの肩に乗った騎士が鳴らしているのだ。彼らこそヴォラキーロの目であり耳であり口である。銅鑼の轟音は敵幻晶騎士たちの拡声器を用いたやり取りを阻害する。同時にこちらだけは銅鑼の音の回数で意思を疎通するのだ。

 それに呼応するように足元の騎馬部隊は幻晶騎士の足元へと鎖を巻き付け、文字通り足を引っ張り始める。倒して完全に無力化するのだ。

 そうやって一通り無力化した後、逃げる荷台へと騎士たちが群がっていく。いずれもバルベルリーとその部下たちが盗賊としてこの周辺を荒らしていた時からの伝統的な手法である。

 それでもヴォラキーロに追われた馬車達は逃げる。食料を投げ捨て危険を少しでも軽く、鞭を打ち危険から一歩でも遠ざかろうとする。しかしヴォラキーロの一歩はあまりにも広い。馬車はますます速度を上げる。背後からなり続ける銅鑼の音に呼応するように心音が高鳴る。

 その先に待っていたのは、また別のヴォラキーロ達だった。右手にメイス、左手に杖を構え、現れた馬車達を無慈悲に見据えている。

 一刃砦のヴォラキーロが鳴らす銅鑼の音は、三刃砦のヴォラキーロに馬車の逃げ先を伝えていたのだ。

 

「風の杖、放てっ!!!」

 

 対人鎮圧用魔導兵装、風の杖が前方から馬車を直撃する。強烈な風で馬は足を前に出すことすらできない。同時に吹き飛ばされる小石や砂でさえも侮れない威力となる。直撃を受けた馬車には転倒する物さえあった。

 

「馬と馬車、金もの物は全て捨て置けば命は助けてやる。金の使いどころだぞ、商人ども?」

 

 右手のメイスが大地を抉る。大地が揺らぎ、馬の恐怖を煽る。御者が逃げようと必死に鞭打つが馬は脅えて前へと進まない。転がり、脅え、降伏する者もあり、その場の馬車は殆ど動きを止めていた。万全の状態の幻晶騎士を相手に馬車が勝てる筈がないのだ。いわんや人ごときが相手にならない。

 

「逃げるのは無謀だぞ」

 

 馬車から数名の人間が飛び降り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。すぐさまヴォラキーロが一斉に地面へとメイスを振り下ろし始める。

 地震と間違うほどの揺れに立つことさえ困難になるが、這ってでも逃げ出そうとする者はなお存在する。誇りを捨て地を這う虫けらへと、隠れていた兵士からのクロスボウが放たれる。既に一刃砦の騎兵にも完全に追いつかれ、逃げ出す者はもう残っていないかった。

 

「これだけの食料があれば、逃げるにしろ籠るにしろ暫くは持つ。この場の半数を逃がしてやるには、十分な身代金だ」

 




ティラントーの活躍少なくない???
とりあえずタクール砦が終わるまではストックがありますがその先はないです
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