周辺諸国からジャロウデクへの攻撃が日増しに強くなり、ジャロウデクの技術者や騎操士がイレブンフラッグスへと流出していた。
当然『施設』内部にもミーシャン以外のジャロウデク人は増えていたのだ。
そして『施設』には幾多の幻晶騎士が存在する。
鬼神を模した幻晶騎士シラージュのうち補助腕再現型。荷物の運搬兼護衛用の幻晶騎士ナーデッド。ミーシャンがレストアさせたティラントー達。そしてシラージュの叩き台となったカスタムティラントー、ナックルマン・セカンドである。
ミーシャンはナックルマンと数機のナーデッドを奪うとジャロウデクの人間を連れて『施設』から逃げ出した。
ナーデッドは身軽だが、ティラントーは鈍足で燃費も悪い。逃げ出すにはあまりにも不向きな機体である。自然とティラントーが盾となり、ナーデッドを守る形になる。
すぐに鈍色の幻晶騎士マッドナード三機に追いつかれることになった。その右腕は巨大な槍のような魔導兵装と一体化し、下半身にのみ綱型結晶筋肉を利用してある。強力な踏み込みで槍の一撃をもって敵を一撃で倒すことを主眼としているのだ。
ミーシャンはナックルマン・セカンドで立ちはだかる。すぐにマッドナード三機がナックルマンへと走り寄る。
巨大な槍が数本、ティラントーの胸や肩を穿とうと火花を散らせるが、若干装甲に傷がついただけにとどまる。マッドナードの調整不足と騎操士の練度不足により実力を発揮できていないらしい。
「お前たちのソレはすげぇ厄介だがなぁ、装甲を貫けなきゃどんな猛毒も意味ないんだなぁこれが!!」
槍を一本掴み、左脇へと挟みこむと右フックが槍のど真ん中に叩き込まれ、マッドナードの巨槍はぐにゃりと折れ曲がる。武器をよく知る鍛冶師が、鉄槌にも劣らぬティラントーの拳と体重を叩きつけた結果だ。そしてたちまち左アッパーがマッドナードの顔面を捕え、大きく体をのけ反らせる。
「マッドナードの売りは、突撃力とその槍の毒だ、足を止めちまえばティラントーの敵じゃあない!」
突撃の勢いを失ったマッドナードに恐れる部分は何一つない。チマチマとした他のマッドナードの攻撃も反撃も恐れることはなく、右のストレートを眼球水晶へとお見舞いする。
流石にティラントーと近接戦闘をすることへの分の悪さを思い知ったマッドナード二機は距離を取り、左右から再び槍をティラントーへ向けた。単調な突撃は、敵の一撃を受け、殴り返すことを得意とするティラントーにとっては最も歓迎すべきものだ。レーヴァンティアのような汎用性の高さやティラントーを上回る出力を誇り多様な武器を操るツェンドリンブルのような幻晶騎士ならともかく、単調な突撃に特化した幻晶騎士の一撃は容易く軌道も読める。
「馬鹿だね馬鹿だねティラントーは硬くてでかくて強いんだよっ!!!」
膝を動かし巧みに左の槍の一撃をかわすと同時に、肩の棘をマッドナードの腹へと突き刺す。さらに右の槍を腕で掴み、止める。
「この棘も飾りじゃないんだよねぇ!」
動きを止められたマッドナード二機をあざ笑うかのように、ナックルマンの背面武装が輝き始める、そこから紫電が放たれた。魔導兵装『雷の鞭』が外すことのない至近距離で左右のマッドナードに叩き込まれる。マッドナード二機は蒼白に輝きながら大暴れしたかと思えば、次第に動かなくなってゆく。最後に二門の『雷の鞭』を残ったマッドナードへ叩き込むとミーシャンはナックルマン・セカンドへと甘く囁いた。
「いいねぇ、ナックルマン・セカンド初陣でこれとはアタイも鼻が高いよ。アタイが乗ってる限り、お前は最強のティラントーだ、つまり最強の幻晶騎士だ。これからもよろしくな!」
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タクール砦の住民は後方へと送られることになり、ディンガー中隊はその殿を務めていた。
「我々は男爵領で一旦別れましょう。タクール砦の陥落後に戦場となるのはあそこですし。それに男爵は優秀な方ですから、タクールのように何かの間違いで戦死されては困りますし……」
「ティラントーの足だと時間かかりそうッスね。『鬼面』の盾でびゅーって飛んでいけないんスか?」
夜営のための天幕を張りながらメラニーは尋ねる。
「あんなもの運用できないわよ、仮に運用するとすれば移動先にいるティラントーから源素供給器と魔力転換炉を奪って付け替えて……」
鬼面を一通り調べたが、ティラントーをより高級にして魔力転換炉を使い捨てにすることが前提という想像を遥かに超える馬鹿げた機体だった。
その装備も同様であり、『飛空盾』に至っては複数の人間による制御でやっと動かしているらしい。原始的な小型の飛空船だ。
「どこの馬鹿が作ったんスかあんな幻晶騎士……」
「そうなのよね、そろそろナルヤに色々教えて欲しいんだけど……?」
作りかけの天幕の真ん中にナルヤが転がされていた。鬼面も破壊され、捕虜になったというのに不思議な程に動揺を見せないナルヤへの尋問は実を結ぶことはなかった。
「困るのよねー、心音も脈拍もさー、どんな質問かけても変わらないのよねー?
ねぇ、そろそろ何か喋らない? ほら、女騎操士同士だし、手酷いことはしないよ?」
「私はクシェペルカの人間です」
唐突にナルヤが語り始める。イシルは耳をそばだてる。心音や脈拍に大きな変化はない。
「クシェペルカの騎操士はどういう訓練受けてるのよ、尋問中に声色も脈拍も変えないとか。ちょっとした逸材じゃない? 今からでも歌姫とか目指さない?」
唐突に自分がクシェペルカの騎操士だと言い出したが、イシルはまっすぐ自分を見据えるナルヤが何を考えているのかまるで理解できない。ナルヤがそもそも口を開くとも思っていなかったイシルは次の質問さえ用意していなかった。
「あー、とりあえずクシェペルカの民謡でも歌ってみない?」
「隊長、せっかく捕虜が話をする気になったんスからもっと有益な情報を、例えば、あんたの目的はなんなんスか?」
「クシェペルカはジャロウデクに領土的は野心はありません。ですのであなた方に資源を『適正価格』でお売りし、正当な利益を得ようとしただけです。それがとん挫しましたので……」
ナルヤの表情に感情はない。演技なのか、そうではないのか、イシルはやはり悩む。一方でナルヤも表情にこそ出さないがイシルのことが掴めずにいた。
(こんな奴に、私とシラージュが敗れた? シラージュの旧世代機にあたる黒騎士に乗ってたのに?)
「じゃあ最初の一戦、私たちを強襲した理由は?」
「機体の性能を確認するための試験戦闘です。あと黒騎士に蹂躙された経験がありジャロウデクもティラントーも憎かったです」
ナルヤは微かに表情に怒りを滲ませる。
「クシェペルカが介入かぁ、信じていいのかなぁ?」
「信じていいんじゃないんスかね? 隊長、ほら……」
メラニーが遠方を指さすとほぼ同時に、緊急事態を示す喇叭の音が響き渡った。
メラニーの指の先には忘れられない、黒騎士に屈辱を味合わせた黄金の幻晶騎士が、塔の騎士達が佇んでいた。
「塔の騎士!? いや、そんな音は聞いてないけど……」
幻晶騎士の接近に誰も気が付かないわけがない。おかしい。異常事態である。少なくとも六機の塔の騎士が佇んでいるのが解る。
「メラニー、貴女の小隊のティラントーを法撃役にしてっ、もう一方を盾役にして迎撃準備!」
野営の外周には騎操士の乗り込んだままのティラントーが配置されている。重装甲のティラントーを文字通り壁として利用しているのだ。
最も塔の騎士に近いティラントーの背後へと、メラニーのティラントーが隠れ魔導兵装を構える。以前は塔の騎士にボロボロにされたメラニーだが、今回は秘策がある。
「ナルヤ、あれは何をしに来たと思う?」
「遂に本格的な介入をするのでは?」
装甲を纏い、多数の補助腕を持つ黄金色の幻晶騎士レスヴァント・ヴィードには少なくないトラウマがある。
「敵幻晶騎士の数は!?」
「推定20機程度のレスヴァント・ヴィードを確認!」
「どこから、どうして、今更レスヴァントなんて出てきたの!?」
斥候からの報告は、クシェペルカの幻晶騎士が最低でも2中隊規模存在していることを伝える。イシルにはジャロウデクの奥までレスヴァント・ヴィードのような移動力に欠ける幻晶騎士が現れることが理解できず顔を顰める。
「ジャロウデクは周辺諸国から恨みを買っている、どことは言えないがクシェペルカはさる小国と協力してジャロウデクに侵攻しているのだ」
ナルヤは淡々と語る。
(もしもクシェペルカが表立って介入をしてくるのであれば、今まで物量に押されていただけのジャロウデクが質の面においても押される! 私がするべきことが何一つできないままジャロウデクは粉砕される!)
「少し話をして――」
「隊長、これなら、少しは塔の騎士に対抗できるッスよ!」
轟音とともに法撃が夜を照らす。メラニーのティラントーの杖2門、背面武装2門が同時にレスヴァント・ヴィードへ向かって法撃を放ったのだ。
「メラニーっ!?」
「塔の騎士は正義の騎士なんスよ、こんなところで、弱りに弱ったジャロウデクを攻めて正義の騎士なんて言えるわけないじゃないッスか? それ以上近づいたらぶち壊すッスよ!」
法撃戦において、メラニーのティラントーとレスヴァント・ヴィードがやりあえばティラントーが劣る。しかし、破損した『臆病者』の装甲と蓄魔力式装甲で作り上げた盾『蓄魔力式盾』に魔力をため込んだことで法撃の持続力がいくらか向上している。
想像以上に上昇した法撃能力の前に、堅牢な装甲と圧倒的魔力量を持つ塔の騎士の装甲が法撃の着弾と共に大きく爆ぜる。
塔の騎士の一体が、ティラントーの法撃と共にあっけなく倒れた。
「は?」