所属不明の
ティラントーの部品も鍛冶師も不足する中、ティラントーは奮戦した。だが同時にティラントーは戦えば戦うほど、なんなら歩くだけで損耗する幻晶騎士だ。既に満足に戦うことは出来ない。分解して運ぶのも手段の一つだが、いつどこで遭遇戦が起きてもおかしくない。そもそも輸送能力が不足している。中隊の士気は落ちこんでいる。歌声も沈む。
ただ一人を除いて。
「皆、心が重いと体も重くなるッスよ! 空元気でも声出して行こうッ!」
(メラニー、この極限環境で罰されたいという想いを満たしてるのね……)
とはいえ彼女の元気な姿が、中隊の士気崩壊は辛うじて防いでいる。
腐っても貴族の養子であるイシル自身も、食糧事情の悪化が少なからず自身の士気を削いでいる。
「ねぇナルヤ、貴女のところに頼めば食料や
「今更私にそういうこと頼む!?」
厳重に手足を縛ったナルヤへと問いかける。以前平気で縄抜けを行ったこの捕虜は、イシルが直接管理をすることになった。
「でも鬼面って結構いい部品使ってたし、なんなら
「ま、まぁ綱型結晶筋肉から
「飛空船!?」
ティラントーの運用は飛空船が大前提にある。飛空船による運搬で損耗を減らし、補給を迅速に行い、そして攻めにおいては奇襲も行える。無論飛空船への対抗手段も現れ始め、無敵の存在とも言えなくなってきたが、ティラントーの運用においてその重要性は変わらない。
(何よりティラントーでの徒歩の長旅は操作性の悪さと足の遅さが隊員の士気を挫く。此処は祖国、略奪して一時的に士気を保つなんて真似も出来ない!)
「――欲しいよねぇ。」
顔を歪め、鋭い犬歯を覗かせナルヤは嗤った。
「当方が取り扱いますは、小型の飛空船になります。ティラントーに換算しますと、約8機を搭載可能。複雑な機構は取り払い整備性は抜群、従来機よりやや遅れますが――
陸路を無視した輸送、黒騎士の強襲作戦どちらにおいても貴女がお求めの性能を揃えていると自負しております。
お辛いでしょう、十分な数の飛空船さえあれば、黒騎士による守りはより強固となり他国に国境を侵されることもなく、守り切れない国土を切り捨てるようなことにもならなかったでしょう。」
慇懃無礼につらつらとナルヤが語る。
「とはいえ、お値段の方も少々張ってしまいます。こんなボロボロの隊に取引材料あるの?」
「復興したらちゃんと払うよ。私も、まぁいいとこのお嬢様だし。それとも人質を沢山集めるからそれと交換しない?」
「施設長みたいなこと言うわね……」
「まぁ、現実的に結晶筋肉や装甲、食料とかを貰えるって約束してくれるなら解放するよ。」
「本当!?」
「うんうん♪」
ナルヤも、解放という言葉には明らかに顔を綻ばせて見せたところで、急にイシルのティラントーは歩を止める。
「ああ、やっぱり要らないかも、いや、うーん?」
「なによ、はっきりしてよ。」
「さっき言っていた飛空船ってあんなの?」
ティラントーが振り返ると
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「死神部隊って知ってるかい? 突然現れてはティラントーをぶちのめしていくクシェペルカの謎の部隊。蓋を開けてみりゃ馬みてぇな幻晶騎士と、人間向きの幻晶騎士を揃えた部隊さ。ティラントーより通常稼働時間が長く、装甲は薄いがその分速く、様々に改造された連中がいる。そいつらにティラントーはボロ負けさ。アイツらが自分達に向いた幻晶騎士で高い練度を誇っていたことが敗因だと思うのさね。ティラントーはカスタム性が薄い。拡張性がない。人間が自分の肉体の延長として扱うには、遅すぎる。グスターボの旦那を見ろ、ティラントー乗ってりゃ戦死してたろうさ。だがね、ティラントーだって専用に作れば、人間だってそれなりに戦える――」
賊が幻晶騎士を持つことは稀だ。使わずとも維持にさえ膨大な金がかかる。使えるようになるまでも時間がかかる。ともすれば、こういった賊は賊の振りをしたどこかの国の軍人か、逃亡兵のどちらかだろう。
もし本当に賊だとすれば、幻晶騎士という高額なお宝は是非手に入れたいと思うだろう。それがただの部品であっても。
「うーん、
身を隠す場所を探すうちに、ミーシャン達は何度か賊と遭遇した。時に力を持った賊は落ち武者狩りならぬ幻晶騎士狩りを行うことまである。
戦場から部品を漁り、どこかしらに売りつける行為が主だが。黒騎士の部品であれば当面引く手あまたの筈だ。そんな中にいくらかでもお宝がある。
「飛ぶのは無理だが、浮くくらいなら、もうちょっと部品があればできるか?」