鳳を射ち落す日   作:ちぇばっそ

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一方その頃

 イレブンフラッグスのうち一旗、その山奥に配置された秘密の工房に鬼神は居た。

 鬼面の死神イカルガといえばジャロウデクの野望を砕いた6腕の蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)だ。しかしそこに立つのは黄金の装甲の対価とばかりに、6腕のうち4本を失っている。

 煌びやかな黄金装甲もティラントーの一斉法撃を浴びてボロボロになり結晶筋肉(クリスタルティシュー)、そしてその内部構造まで覗いている。本来であればティラントー程度でイカルガは此処まで負傷しない。

 そしてその右隣には背に4腕を持つ白銀のイカルガ、左隣には黄金と同じく2腕の赤いイカルガがあった。

 大勢の騎操鍛冶師(ナイトスミス)構文技師(パーサー)が黄金のイカルガこと、『シラージュ(鬼面)銃装剣(ソーデッドカノン)再現仕様』の元に集いその被害状況や不具合について話し合っている。しかしそれ以上に大きな声が工房に響いていた。

 

「地を這うジャロウデクの黒騎士にしてやられたと?」

「申し訳ありません!! 近接戦闘試験の際に、力負けをしまして――」

「君は我々の信頼を裏切り、この計画を頓挫させるつもりなのかね?」

「この幻晶騎士だけじゃない、施設や部品の供給路の維持にどれだけの費用がかかっているか騎操士ごときには解らないと思うが――」

 

 シラージュの騎操士ナルヤは弁明を続けるが、施設長や商人の怒声は止まらずナルヤは延々と叱責をされ続ける。

 

「貴様の腕が足りぬから、せっかくの鬼神を生かせんのだ!!!」

 伏せられたナルヤの瞳には昏い復讐の炎が宿っていた。

 

 『施設』とだけ呼ばれるこの組織は、国内において高水準の技術を持っていた。ジャロウデクの技術を吸収し、鬼神を模した幻晶騎士を作るという計画はスムーズに進んできた。

 だからこそ、シラージュの大損害はその場にいる者たちの予想外だった。

 元々飛行能力の再現は難しく、外付けの小型飛空船(レビテートシップ)を用いるしかなかった。銃装剣の狙いは甘く、まず接近戦で痛めつけ敵の足を止めなければ真価を発揮できない。

 それでも、この鬼神の試験戦闘は圧倒的勝利で終わると思われていたのだ。

 

===

 

 施設長や商人が姿を消すと、ナルヤの元へと女ドワーフが笑いながら歩み寄る。

 

「そもそも幻晶騎士が空を飛ぼうってのが頭がおかしいんだよ。金もアホくさくてどっかに逃げちまうさ! アンタらの頭には茹でた芋でも詰まってんのかい?」

 

 施設長を含むこの場の人間を罵倒する。

 

「その罵倒は、ジャロウデクではどの程度の罵倒なんだ?」

「覚えときな、殿下にこう言って断頭台の露と消えたやつが居るんだよ」

 

 どうでもいい嘘を会話に頻繁に織り交ぜる。これがまだ親しくない相手との人間関係に地雷を仕込むコツだ。無自覚にこのテクニックの達人である女ドワーフに友人は多くない。

 

「さて、コイツは『魔力転換炉(エーテルリアクタ)』4つを使い捨てにして爆風と大気の壁を利用して飛び、上空から余剰魔力で強力な魔導兵装(シルエットアームズ)で強襲する。これがこの機体のコンセプトだ。足止めまでコイツが行ってどうする。誰が近接戦闘しろって言った、アンタは剣を作らせて、それで果物の皮を剥くのかい?」

「しかし単騎での性能試験と、それに鬼神は単独で、ティラントー10機を粉砕したのだろう、この機体もそれくらいでき――」

 

 ナルヤは少し口をとがらせて反論するが、ドワーフは鎚をナルヤの顔の前に突きつける。

 

「ると?出来ると?思ってんのか蝋燭鼠! ティラントー1個中隊が『コイツごとき』に負けるはずねえだろ!!!」

 

 ドワーフは大きくため息をつくと、ナルヤの肩を叩く。

 

「お前もどうしようもないが、もーっとどうしようもない連中の、どうでもいい妄想を背負わされちまってる。少しは肩の力を抜きな。どうせこの程度の施設と騎操鍛冶師(ナイトスミス)じゃ、鬼神の再現なんて三百年あったって無理さ」

 

「ねえ、ミーシャン。予定された運用通りなら、ティラントーに勝てる?」

 

 急にナルヤの言葉から熱が失せ、ゆっくりと、しかし問い詰めるように尋ねる。

 

「シラージュはアタイのティラントーには勝てないね」

 

 ドワーフはしばしの沈黙の後、それだけ答えて立ち去った。

 

 

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