今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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二度目の賭け

 

 

 

 1998年10月16日。

 あたしの誕生日。

『たまにはゆっくりしようかね』とビスケの提案で始まった、あたしの誕生日会の日。

 そんな日に、その男は現れた。

 

 ぼーっとした気のない表情。

 力感(りきかん)のない体勢。

 だらけきったダメな大人のような見た目。

 

 なのに。

 念で知覚できる、内包されたオーラはまさしく格と桁が違った。

 ある程度の念を身に付けたから判る。判断できる。

 ──この男、怪物だ。

 

 オーラを通してひり付く様な熱量を感じる。

 ヤバい。ヤバすぎる。

 この人を相手にしたら、()()()()? 

 真正面から戦えば、1秒……? 

 まともにやったら知覚外からの一撃で意識が飛ぶ気がする。

 ヴィーちゃんも含めれば、何とかもっと伸びるかもしれないけど、数分持てば大健闘だろう。

 

 それくらい、あたしの第六感が強烈に警告を囁く。

 負けるから絶対に戦うなと。

 

 そして同時に囁いた。

 この男は絶対に味方にならない、と。

 

 

 

 ターバンを巻いて、肌のほとんどを隠した白い格好をした男。

 黒い目がじっとこちらを見つめている。

 

 見上げるほどの大樹。

 そんなイメージが脳裏によぎった。

 ごくりと生唾を飲み込む。この人、まさか……。

 

 

「あ────!!!!!!」

 

 

 そんな大声が流れをぶった斬った。

 背筋が飛び上がって、ぎょっとしながら見ればぷりぷりした顔のビスケが男を指差しながら仁王立ちしている。

 

「あんた!!! やっっっとホームコード見たんだわね!? ビスケットはあたしよ! この放浪癖のあんぽんたん!」

 

「……いや、初対面でそこまで言われるほどじゃねーよ。確かに連絡遅れたのは悪かったけど」

 

 ぼりぼりと頭を掻きながらその男は言った。

 今まで感じていた威圧感が嘘の様に霧散していた。

 ……あれは、何だったのだろうか? 

 というかあの雰囲気の男に話しかけられるビスケはやはり大物だ。

 怒りの余り出てきた言葉のような気もするけど。

 

 

「──で、暗黒大陸がどうしたって? ……プロのハンターがその単語を出す意味わかってんだろーな」

 

 見極める目とはこういう目の事を言うんだろう。

 期待にも、欲にも、驚きにも、焦燥にも、感慨にも。

 嘘であるか疑う色すらない。

 

 何にも染まっていない。

 ただ、目の前に在るものを、在るものとして見る目があった。

 言うなら究極のナチュラル。

 

 きっと良い意味で、この男は傍若無人なのだろう。

 何に囚われることもなく。何に縛られることもなく。

 勝手気ままに自由奔放に、気の向くまま生きているんだろうな、と何となく思った。

 

 

「……なんか当たってるけど、すげー失礼な事考えられた気がすんな」

 

 そんな男の独白にギクッとして視線をズラせばビスケと目があった。

 ビクッとして視線を逸らせるビスケ。

 

 ──ん? もしかしなくても。

 さっきの話聞いてる限り、この男呼んだの、ビスケ? 

 

 じーっと見つめていると、ビスケも観念したのか話し始めた。

 

「そーよ。あたしが呼んだわさ。コイツの名前はジン。ジン=フリークスだわよ」

 

「おう」

 

 軽く流して、手を挙げる男──ジン。

 半ば予想はしていた。でも、事実として巡る驚きは大きかった。

 

「あんたから()()話を聞いて、あたしが真っ先に事情を出来る限り秘匿した上で協力を依頼出来て、実力的にも申し分ない人物として選んだわさ。……もちろん、約束は破ってない。コイツにも暗黒大陸の件とだけしか伝えてない。だから、ここから先はあんたの自由。……どうする? コイツを生かすも殺すもあんた次第。あんたが、決めなさい」

 

 それで察した。

 ビスケは初めて『原作知識』を話した時に『あたしが聞いていい話じゃない』とまで言っていた。

 考えていたんだ。

 あたしの負担にならないように、出来る限りリスクを抑える方法を。

 そこまで深く悩ませてしまった事に罪悪感を感じるのと同時に、気遣ってくれた事、骨を折ってくれた事に対する感謝が湧き上がった。

 感謝は罪悪感すらあっという間に押し流す。

 じーんとしながらビスケと見つめると、照れた様にビスケはそっぽを向いた。

 

 

 

「……いや、さすがにここまで来て帰ってくれって言われたら暴れるぞ? 若さに免じてゲンコで済ませてやるけど。──ビスケットは別枠な」

 

 ど〜〜〜んと、全く空気を読まず堂々とジンがそう言った。

 ──うん。原作でもこういう人だったなぁ。

 

 ビスケに年齢の話は御法度だ。

 それでもそこは年の功。──なんてこともなく反発してビスケがぎゃんぎゃん叫んだ。

 

「うっさいわね! 良い大人がちょっとくらい待てないっての!?」

 

「はー!? んな場所まで呼びつけといて、話もしませんさようなら、で納得するわきゃねーだろが!」

 

「だから、そうならないよう! この子が少しでも話しやすいように働き掛けるのが、大人ってもんでしょーが! それなのに文句言うとかバッカじゃないの!?」

 

「うっせ!! 俺はガキなんだよ! それで特に困ってねーし! ジジイにもお前はいつまで経っても変わらんのぅ、中身が。とか嫌味言われてんだこのやろう!」

 

「いばる事じゃないでしょうが!!! この育児放棄の暴れん坊が!!!」

 

「「あぁん!?」」

 

 超至近距離でメンチを切り合う二人。

 視線が絡み合うバチバチという音がここまで聞こえてきそうだ。

 

 お、おおぅ。

 凄まじい速さの言葉の応酬だ。あたしでなきゃ聞き逃しちゃうね。

 でも、その間に答えは出た。

 

 ──第六感は不可能と断じてる。

 でも、少しでも、少しでも可能性があるならそこに賭けたい。

 ビスケが引き寄せてくれた最大の好機だから、無駄にしたくない。

 

 

「ジンさん。これから話す内容は、絶対他言しないでください。お願いします」

 

 あたしが出せる最大のカード(切り札)は『原作知識』だけど、これを切った時にジン=フリークスがどう動くのか。

 全くと言って良いほど想像がつかない。

 これは2度目の賭けになる。

 吉と出るか、凶と出るか、神のみぞ知る。

 

 そんな思いで真剣に見つめれば、視線を絡ませた後に少し考え込んだジンがぼそりと言った。

 

「……まぁ、内容によるけどな」

 

「あ、ん、た、ねぇ……!!」

 

「わかった。わぁーったよ、しょうがねぇな。ここでの話は一切口外しねーよ。……そこまで言われちゃ気になるしな」

 

「あと、聞いた後で納得したら、あんたの力を貸して頂戴。それくらいじゃなきゃ釣り合わないわ」

 

「……んー、納得したら、だな? わかった。そんときゃ喜んで貸してやるよ」

 

「よっし! ネオン! やっておしまい!!」

 

「……いや、おめーはどういう立ち位置なんだよ。絡みづれーな、おい」

 

 

 呆れ顔のジンに、あたしは意を決して話し始めた。

 ビスケは円で広範囲の警戒をしながら話すのをじっと聞いてくれていた。

 

 ジンは、初めは胡座を掻いて地面に座り込み、右手を顎に当てながらジッとあたしの話を聞いた。

 まずはゴン=フリークスの話。

 ピクリと反応したジンに止められるかと思ったが、特に何も言われなかった。

 なので続きを話していく。

 未来の、あったはずの『原作』を。

 

 ハンター試験編。ゾルディック編。天空闘技場編。旅団編。GI編。アリ編。選挙編。

 そして暗黒大陸編。

 

 その全てに全く表情を変えずに、途中からは両腕を組んで目を閉じて、ジンはジーッと座り込んで、あたしの話を聞いていた。

 ダメ押しで《天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)》で占い、ジンはその結果を見つめる。

 

 

「……ん〜〜、あ〜〜〜、まぁ。納得はした。俺に話したってのも、要は戦力か。……あ〜〜〜〜、でもなんだ。俺みたいなバカがそんなに居るって事を教えてくれたのには感謝する。ありがとう」

 

 ペコリと頭を下げるジンに、恐縮しながら「こちらこそ」なんて言いながら頭を下げる。

 内心ジンが頭下げるなんて似合わないなーって思いながら、でもどこかジンらしいなと感じた。

 

 

「──で、俺に何して欲しいんだ?」

 

「決まってるわさ、ぶっちゃけあんたが居れば百人力でしょ。幻影旅団ぶっ潰すか、暗黒大陸行きが始まるまでこの子を守ってあげて欲しいんだわさ」

 

「……それなら答えは一つだ」

 

 大きく、ジンは大きく息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い  や  だ!!!!!!」

 

 

 

 

 とんでもなくデカい声が、岩場に反響して広がって行った。

 私とビスケは、ぼーぜんとそれを見て、真っ先にビスケが青筋を立てながら反応した。

 

「はぁぁあああああああああ!!!??」

 

 負けず劣らずデカい声が、岩場に虚しく反響した。

 

「いやなもんはいやだ!!!!」

 

「ざっけんじゃないわよ! あんた納得したら力貸すって言ったでしょーが!」

 

「あー! 言った。あー! 言った! だが、それは暗黒大陸に関することだけで、コイツのプライベートにまで責任を取るつもりはねぇ!」

 

「はぁああああああ!? あん、あああん、あんたねぇ?!! それでも一児の父親な訳!? こんな可愛い子が困ってるのに見捨てるっての!?」

 

「第一、コイツはどう考えてんだよ。さっきの様子見るに、俺のことは話してなかったんだろ? おおかた、連絡がつくかわかんねーから、ぬか喜びさせねーためだと思うが」

 

「うぐっ」

 

「まぁ、すげー念能力だよ。裏取りは今からするが、もし全部本当なら規格外も良いとこだ。──で、予想だが全部当たってる。……だから、詫びっつーか、お礼っつーか。色々ぐだぐだ言ったが、もしお前が、どうしても俺の力が必要ってんなら、貸してやるよ」

 

 じっとこちらを見据えるジン。

 透き通った瞳の奥で何を考えてるかなんて、あたしにはわからない。

 ただとても真摯な瞳だと、そう思った。

 

 真っ直ぐに見つめ返しながら己を振り返る。

 

 初めはただの好奇心だった。

 念を覚えたいって理由を笠に、ビスケット=クルーガーに会いたい。

 その一心でビスケに依頼を投げた。

 想像以上の成果が出てしまって、G.Iにまで来てしまったけど、全く後悔はしていない。

 むしろビスケに依頼をして本当に良かったと心からそう思ってる。

 

 そのビスケに言われて、ここまでされて気がついた。

 あたしは今、HUNTER×HUNTERの世界に生きているんだと。

 今までのあたしは、どこか浮ついてたかもしれない。

 漫画の中の世界だからと軽く考えてたのかもしれない。

 

 ──でも。

 ビスケも、ジンも、生きている。

 もちろん、あたしも。

 これから出会うであろう原作キャラたちだって生きてる。

 

 そして、少し先の未来。

 暗黒大陸で多大なリスクを背負って死ぬ人も、きっと居るだろう。

 

 あたしの《天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)》はそのリスクを大幅に下げることが出来る。

 言われて初めて、そこまで考えた。

 確かにそれは大きい、とも思った。

 

 

 でも、それだけ。

 見たこともない、話したこともない人のために、あたしだけしか助けられる人がいないなら助けよう、なんて薄情かもしれないけど思えなかった。

 だから、これはただの私欲。

 幻影旅団と戦って、生き残って、もっともっとこのHUNTER×HUNTERの世界で自由に生きるために、ただの私欲であたしはジンにお願いする。

 

 服の裾を正して、正座して、両手を地面について指先で三角を作って、深く深く頭を下げた。

 

 

「ジンさん。お願いします。あたしにあなたの力を貸してください」

 

「……あぁ、いいぜ」

 

 そう言ってジンは薄く笑った。

 

「──じゃ、そういうことで」

 

 スタスタとあたしたちから離れていくジン。

 ポツンと残されかけて、ビスケが慌てて再起動した。

 

「いやいやいや!? あんた、どこいくんだわさ!?」

 

「どこって決まってんだろ、力を貸すって言っただろーが」

 

「いや、だから、あんたが力貸すんなら離れる必要ないでしょーが!」

 

「何言ってんだ。俺の力を貸すとは言ったが、俺自身の力を貸すとは一言も言ってねーぞ」

 

 コネクションも俺の力だしな、とジンは続けた。

 

「はぁ!!? ──あ、あん、あ、あ、あんたねぇ!!? 良い加減にしなさいよ!? ぶっとばすわよ!?」

 

「おう、やってみろよ。返り討ちにしてやっから」

 

「はー!! はー!!! もう無理。も〜〜〜耐えらんないわさ!!! コイツの頭かち割ってやるわ!!!!」

 

「ま、相手してやってもいいが、早いとこ呼んだ方が良いと思うぞ」

 

「ぐっ!!! ……はぁ、そうだわね。こんなバカに時間使ってちゃもったいないわさ。……で。誰呼ぶの」

 

「弟子だな」

 

「強いのいるんでしょうね」

 

「安心しろよ、とびっきりのやつ呼んでやる……とゆーか弟子一人しかいねーんだけどな」

 

「は!? ちょ、あんた、今なんて言った!?」

 

「実力はオレが保証する、安心して大船に乗ったつもりで待ってろよ」

 

「安心できるかー!!!!」

 

 

 ぜーぜーと息を吐くビスケ。

 そんなビスケに目もくれず、颯爽と私たちに背を向けて去っていくジンの姿に唖然とした。

 

 でも、なんだか段々おかしくなってきた。

 くすくす笑っていたのが、気がついたらお腹を押さえて大笑いしていた。

 

 そうだよね、そりゃーそうだよね。

 あのジンが、あたしの全身全霊のお願い程度で動くわけない。

 そんな当たり前の事実がおかしくって、ビスケがオロオロ心配する側で笑い疲れるまでずっとずっと私は笑い続けた。

 

「あ〜〜〜、もう。可笑しー」

 

 (まなじり)に笑い涙を浮かべながら、あたしは憑き物が落ちたみたいに晴々(はればれ)と笑った。

 

 

 

 

『おう、カイト。久しぶりだな』

 

『……ジンさん!? 急にどうしたんですか』

 

『いや、お前の力が必要になってな、ちょっとツラ貸してくれ』

 

『あ、もちろんです。っていや、すみません、今ちょうど長期の依頼中で、はずせないんですよ。ほんとすみません』

 

『あ〜〜〜、よし、わかった! ならオレが代わってやるよ、な、な、任せとけ、どんな仕事でもお前より結果出してやっから!』

 

『いやいやいや!? ジンさんのメインハントは俺のハントと全く違うでしょ?! っていうかさりげに俺のこと下げてません?』

 

『……そっち行くから、いまどこだ』

 

『え、ほんとに来るつもりなんですか? カキン王国の森林ですけど』

 

『わかった、じゃあ、近いうち行くから荷物まとめとけよ』

 

『え、ちょ、ま──』

 

 電話口を唖然と見つめるカイトを、心配そうに見つめる仲間達の姿があったとか、なかったとか。

 

 





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