今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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捏造設定があります。
キャラクターのイメージが異なる可能性があります。
度々ですみません。
上記にご注意ください。

約8000字


弟子

 

 

 ジン=フリークスが去って、お腹が痛いくらいに笑って。

 ビスケにせっかくのチャンスを活かせなかった事を謝って、ビスケがそれを『ありゃあたしの人選ミスだわさ』とため息まじりに受け取ってから1ヶ月くらいが経った。

 もうそろそろハンター試験の申し込みをしようか、なんて考えていた頃。

 

 

 銀の長髪を風に靡かせて、青い帽子を押さえながらその長身の男はやってきた。

 ──切れ長の強い意志を感じさせる瞳。

 帽子で隠された目元が少しの怪しさを醸し出している。明らかな実力者の出立ち。感じるオーラは静謐で力強い。

 

 ビスケが立ち上がったのを背後で感じる。

 あたしも合わせて腰を上げた。

 男との距離が縮まって、あたしたちの目の前で足を止めた。

 クイッと帽子を上げた男は、怪しげな雰囲気を霧散させて飄々とした表情で言った。

 

 

「お前がネオン=ノストラードか?」

 

 隙の無い立ち姿。

 それだけで実力者だとわかる。

 オーラは極めて穏やかで滑らか。

 揺蕩う水のような印象を受けた。

 

 頷くことで答えると、薄く笑った彼はあたしの背丈に合わせて腰を屈めた。

 

「オレの名はカイト。気軽にカイトと呼んでくれ。ジンさんに依頼されてここに来たんだが、少し待たせたか。これでも、出来る限り急いだんだがな……。まったく、あの人にはいつも振り回される」

 

 そう言いながら、カイトは薄く笑みを浮かべた。

 

「依頼料のことは気にしなくていい。ジンさんから貰ってる。……そうだ、お前にも渡すよう言われてる。口座番号を教えてくれるか?」

 

「え、あ、うん。番号は──」

 

「よし、現実世界に戻り次第振り込んでおく。後で驚かれても困るから先に言っとくが、金額は500億だ。──お前、いったい何やったんだ?」

 

「ごっ!? ひゃく!?」

 

「ジンさんにとっては端金だろうが、オレ達からすれば大金だな。ま、使い方に関してとやかく言う人じゃない。好きなように使うといい」

 

 一旦言葉を切ってカイトが続ける。

 

「さて、さっそくだが依頼内容を確認させてくれ。ジンさんから来年の9月に起こる予定の戦闘の終わりまで、護衛してやれって言われてる。もちろん、内容に変動があればその都度相談しよう。基本的には受け入れるが、場合によっては断るかもしれない。その辺りは調整だな」

 

 ……ほんとに来た。

 カイトだ。

 ジンの弟子と言えばカイトだから、予想はしてたけどちょっとドキドキしてる。

 

 カイトにどこまで話すのか。

 気恥ずかしさで頬をむにゃむにゃさせながらビスケに視線を向ければ、ゆっくり首を横に振った。

 青い帽子の銀髪の男。これだけの情報があれば、ビスケも察する事が出来る。

 ……そうだよね。

 カイトが死んでしまう、アリ編のことを今話しても仕方ないからね。

 

 でも。

 全て話したい。

 あたしの第六感が囁いてる。ここで話すべきだって。

 

「……ビスケ。カイトにも話すね」

 

「そ。あんたが決めたんならあたしはとやかく言わないわさ」

 

 ビスケはやれやれと肩を竦めるけど、呆れというより、しょうがない子を相手にするような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ビスケが『円』を使ったことを確認して、意を決して私はカイトに向けて話す。

 

「依頼内容の確認だけど。それよりもっと重要な話があるの。他言無用な話だけど、ジンさんにも話した。結構大変だから、心して聞いた方がいいかもよ?」

 

 ちょっとだけ茶目っ気出して言ってみる。

 少し目を丸くして驚いたカイトだったが、すぐに自信有り気に薄く笑った。

 

「なら、期待しておこう」

 

 

 

 

「……まて。それ以上はまずい」

 

 途中から頭を抱えていたカイトだったが、ネフェルピトーとの戦闘開始を伝えたところでストップが掛かった。

 

「キメラアントにNGL……。思いつく限り最悪の組み合わせだが……。いや、それはいい。だが、お前、オレの能力を知っているな?」

 

 底冷えするような低い声。そして冷徹とすら感じる視線。

 好青年といった印象が吹き飛ぶほどの威圧感があった。

 

 お互いにオーラが立ち上り、『練』が鬩ぎ合う。

 

「加えて、その戦いでオレは能力を使うと見た。……違うか?」

 

「うん、その通り。話しちゃダメ?」

 

「生死くらいなら構わん。だが、オレの能力、オレがどうなったか。そこは全て省略してくれ。でなきゃオレはこれ以上聞く気はない」

 

「なんでか、聞いてもいい? 理由を知らないと省略しようがないよ」

 

「……それも、そうだな。オレの能力の《気狂いピエロ(クレイジースロット)》だが、絶対死んでたまるかって思わないと出ない番号がある。番号は『7』。そして、この能力はオレも知らない。それが制約の一つなんだ。だから、お前からその話を聞いてしまえば結果どうなるか、オレにもわからない。だから聞けないんだ」

 

「……わかった。じゃあ、かなり端折るから、わかりづらくなるからね」

 

「もちろんだ」

 

 ビスケに目配せして、カイトが死ぬことも話さないようにお願いする。

 力強く頷いてくれた。

 

 アリ編は、アリの王はネテロ会長が道連れに殺した、とだけ伝えた。

 そのまま話し続けて選挙編。ジンがレオリオに殴られた下りではきょとんとした顔をした後にジンさんらしいと笑った。

 暗黒大陸編では俄然興味が湧いたようで目を輝かせた。

 

 

 

「……なるほどな。暗黒大陸。そして、A級首の幻影旅団か。……ジンさんはなんでオレを選んだんだ?」

 

 心底不思議そうにカイトは首を傾げたが、気を取り直して頷いた。

 ジンがカイトに依頼した理由に関しても聞いてみると何でもなさげに言った。

 

「ま、あの人の考えそうなことだな。護衛なんて柄じゃ無いって思ってそうだ。それに──ゴンの事もある。ゴンの受けるハンター試験を受験するんだろ? おまけにその後のヨークシンでもゴンが居る。なら、ジンさんは意地でも行かないだろうな。そういう人だ」

 

 あー。確かに。

 原作であれだけゴンを避け続けたジンらしいっちゃらしいけど、そんな理由であたしのお願いを断ったのか。

 ……なんか釈然としない気持ちになった。

 

「依頼内容はわかった。オレのハントは人間向きじゃないが、力になろう。貴重な話も聞かせてもらった事だしな。……で、この3人だけで幻影旅団に挑むつもりなのか?」

 

 ついに本題に入った。

 あたしからバトンタッチしたビスケが話を始める。

 

「その件についてはあたしから説明するわさ。今のとこ話を通してるシングルハンターが2人。話した感じ、報酬次第で受けてくれそうだわね。もう一人呼ぶ予定だったんだけど、ちょっとゴタついてて微妙なとこだわ。だから、最低5人。増やせるならもっと増やしたいけど、旅団を叩ける実力があって信頼できる人間にもう心当たりないのよね〜」

 

「……確かにな。オレの伝手を使っても良いが、どうしても事情は伝える必要がある」

 

 ビスケが首を振った。

 

「それじゃダメだわね。さっきもこの子が話したけど、『占った』結果を出来る限り変動させたくないのよさ。だから、必要以上に拡散する事は控えたいわね」

 

「そういう事情なら了解だ。……しかし、この占いってのはそこまで確度が高いのか? オレにはそこまで信じられるとは思えんが。……いや、さっきの話を疑ってる訳じゃないんだが、どうにもな」

 

「ま、そうよね。……いいわ、ネオン。あんたの実力を測る良い機会じゃないのよさ。胸を貸してもらえば?」

 

「えーっと、《天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)》じゃダメなの?」

 

「もちろん、それも、だわね。でも、せっかくあたし以外の実力者と拳を合わせる機会があるんだから、これを活かさなきゃ。あんたはあたしとばっかり戦ってるからね。本番前にいくつか経験を積ませたいと思ってたのよ」

 

「丁度良い。オレもお前たちの実力が気になっていたところだ」

 

「そうだわね、あたしたちも後で拳を合わせましょ。信頼を作るのに一番手っ取り早い方法だわさ。──じゃ、そういうことで♡」

 

 

 

 

「──こうなるわけね!」

 

 いつもの岩場で、あたしは構える。

 目の前にはビスケではなく、カイトがゆらりとした立ち姿で佇み、あたしと向かい合っていた。

 油断できない。

 あのネフェルピトー相手に片腕を失った状態ですら善戦したカイトだ。

 弱い訳がない。

 

「オレは能力を使わない。知ってるだろうが、手加減できない性分なんでな。下手すりゃ殺しちまう。……そっちは好きにやってくれていい」

 

 はーん。そー。

 カイトの念能力《気狂いピエロ(クレイジースロット)》は出た目によって使える念能力が変わる。

 中には殺傷能力の高いものもあって、ちゃんと使うまで消す事が出来ない。

 確かに模擬戦では使いづらい能力だけど、そう言われるとなんか腹立つ。

 

「そんなこと言っちゃうんだ、ねっ!」

 

 なら手加減無用。最初っから全開。

 でも、ヴィーちゃんは切り札として残しながら攻め掛かった。

 

 第六感に身を任せて戦う。

 最近はヴィーちゃんを使わなくても『なんとなく』で相手の攻撃を読むことが出来るようになってきた。

『堅』を用いて接近戦を仕掛ける。

 

 身長では圧倒的に負けている。

 だから、小回りを利かせた動きで攻める。

 足元にオーラを集めて加速しカイトの周りを回る。

 油断なく、だらりと腕を下げているカイトの背中に向かって飛び込んだ。

 

 背後からの襲撃ではあったが、当然ながら一瞬でこちらに向き直ったカイトが『堅』で迎え撃つ。

 小手調べに数十の打撃が応酬され、『流』を用いた基本的な攻防を繰り返す。

 お互いにダメージはない。

 顕在オーラ量では、あたしが勝ってる。

 でもそれをカバーする『凝』の技術でカイトはあたしの上をいっている。

 滑らかなオーラに淀みはない。

 

 打開策が必要。

 瞬発的にそう考えたあたしの攻撃は第六感任せの猛追だった。

 急激に変化したテンポに付いてくるカイトだったが、勘で次の攻撃が通ると確信する。

 カイトの防御のタイミング、流れを読んで、隙を縫ったあたしの一撃が入った。

 

「……ほう!」

 

 受けた衝撃をそのまま、カイトは距離を取る。

 逃さないため追撃を仕掛けて、しかしそれは綺麗に受け止められた。

 再び猛追を仕掛けるが、2度目は受けないとばかりに精密さを増したカイトの防御が抜けない。

 

「くっ!」

 

「そう易々と、何度も抜かれる訳にはいかんな」

 

 そして、ギアを一段階上げたカイトから逆に猛追を受ける。

 右左、フェイント。

 ……『隠』!? 

 

 咄嗟に『凝』で固めてカイトの『隠』でオーラを隠蔽された強烈な蹴りを防ぐ。

 ビリビリと腕が痺れるが、戦闘続行には問題ない。

 距離をとって再び構える。

 カイトは少し目を見張る。

 

「……驚いた。今のを防ぐか」

 

「そんな余裕持って言われてもぜんっぜん嬉しくないよ!?」

 

「なら、オレから余裕を奪ってみるんだな」

 

 ニッと笑ったカイトに向かって、あたしも笑みを浮かべながら再び突っ込んだ。

 

「だが、先輩としての意地があるんでな。……本気で行かせてもらう」

 

 突っ込んだあたしに相対する凄まじいまでの『練』

 今までがほんの小手調べだったと言わんばかりのオーラがカイトから溢れた。

 

(ヴィーちゃん!)

『ゔぃいいいい!!』

 

 あたしの頭の上でずっと戦いを見守っていたヴィーちゃんから『受け取り』そして『操って』もらう。

天使の自動迎撃(ラブリーゴーストカウンター)》と《天使の自動操作(ラブリーゴーストライダー)》の併用発動。

 オーラを増し、一瞬にして超一流の技量へと変貌したあたしの攻撃が、カイトとの間に無数の打撃となって応酬された。

 

 ──で。

 10分ほど戦ったところでお開きになった。

 ヴィーちゃんも空気を読んで能力を切る。

 

 

 

「良い戦いだった。それに、オレの攻撃を完璧に予知するとは……。これなら足を引っ張られる事はなさそうだ」

 

「よく言うよ、手加減してたくせに」

 

「言ったろ、オレの能力は手加減できないんだ。それ以外は全力でやったさ」

 

「あっそー。あー、悔しいー」

 

「またいつでも相手になってやる。……ところでそっちも準備はいいか?」

 

「もちろん。いつでも相手になるわさ」

 

「よし、さっそく()ろう」

 

「あんたも大概バトルマニアだわね。……いくわよ」

 

 

 

 ビスケとカイトが向かい合い、ビスケは本気(真)になった。

 ぎょっとした顔のカイトだがすぐさま冷静になって、どちらともなく近づき拳を合わせ始める。

 無数の拳の打ち合い。

 数千を超えた辺りになって双方ともに距離を置いた。

 

「あんた、『周』か具現化した武器で闘うタイプだね? それにしては格闘もやるじゃないか」

 

「そういうあんたは凄まじいまでの武闘家だな。……正直、これ以上の人物にはお目にかかった事がない」

 

「ふん、少しはわかってるみたいだね。どれ、もう少し揉んであげるよ」

 

「願ってもない提案だ」

 

 弾けたように近づき合い、また無数の連打を繰り返す二人は楽しげに笑い合っている。

 うん、レベルたっかー。

 見ながら技術を吸収しつつ、ヴィーちゃんと「おー」『ゔぃい〜』と言いながら観戦する事数十分。

 いい汗を流したと爽やかにカイトが笑った。

 

 

「少し心配してたんだが、これなら残りのメンバー次第で十分勝算がある。9月が楽しみになってきたぜ」

 

「なーにが人間向きじゃない、よ。あんたまるっきり戦闘向きじゃないのよさ」

 

「おいおい、本当だぞ。オレの能力は対人向きじゃない、というより、安定感とは真逆に位置する能力だからな」

 

「ふーん。ま、いいわさ。とりあえずご飯にするわね。……あんたたちは好きにしてて良いわよ」

 

 ビスケとの戦いに満足した様子のカイトと一緒にビスケを見送って、岩場に点在する岩にお互い腰掛けながら、しばらく無言で時間が過ぎた。

 

 カイトを見れば『纏』を行っていた。

 何度見ても非常に滑らかで綺麗だ。

 あたしも、と思ったけど、それよりも気になったことがある。

 

 それは、カイトの過去。

 どんな感じなんだろ。

 

「……ねえ、カイト。ジンさんとの出会った時の話とかって聞いても良い?」

 

「ん? あぁ、別に面白い話じゃないが、気になるのか?」

 

「うん」

 

「……そうか。隠すほどのことじゃない。飯が出来上がるまで話すか」

 

「うん! 聞かせて」

 

「あれは──」

 

 

 特に嫌がられる事もなく、カイトは世間話でもするかのような軽い調子で話し始めた。

 それは何十年も前の話だった。

 

 

 

 

 

 ジン=フリークスは怒っていた。

 いや、正確に言うと苛立っていた。

 

 当時、ジンは会長ネテロにせっつかれて弟子を『とれとれとーれとれとれ』と念仏のように言われ続けていたせいで、それはもうストレスを溜め込んだ。

 

 この日もジンは掛かってくる電話という電話を電源を切って片っ端から無視しながら、それでも向かう先々で鳴り続けるためにしょうがなく電話を取り、ネテロからの小言を聞く羽目になった。

 その結果。

 

「わぁーったよ! とってやるよ! どんなやつ連れてきても文句いうんじゃねーぞ!」

 

『ほっほ、楽しみじゃのぅ』

 

 電話口に吠えたジンに飄々とした笑みを崩さないネテロ。

 

 元々堪忍袋の大きくないジンだ。それがネテロの狙いだとわかっていても我慢の限界だった。

 適当なやつ弟子にしてやる、と。

 大股で歩き肩を怒らせながら、ジンは街に繰り出した。

 

 

 ジンは貧困街へと足を向けて、ぐるりと見渡す。

 もうその頃にはネテロに対する激情は消えていた。

 

 ジンは無鉄砲だがバカではない。

 弟子にする意味(念を教える意味)は理解しているし、断じてその辺の子供を捕まえて弟子です、なんて事が罷り通るとも思っていない。

 それでも、その日のジンは貧困街を歩いた。

 

「……ま、適当に歩くか」

 

 何か意味があった訳ではない。

 いつもの気まぐれだった。

 理由があっての行動ではなく、直感的な行動。

 動いてから理由を見つける事が多いジンにとっては、この方法が性にあっていた。

 見つかると確信していた訳ではない。

 見つかればいいな、とすら思っていない。

 

 なんとなく。

 ただそれだけの、理由にもならない理由でジンは歩く。

 

 雑多な街並みだった。

 

 この時のジンが拠点にしていたのはカキン国だった。

 カキンは貧困層と富裕層の格差が大きい。

 貧富の差は各国で大なり小なりあるが、カキンは一層それが酷い。

 

 すえた匂いは当たり前。

 道端にはガリガリに痩せこけた老人や、子供が座り込んでいる。

 

 その脇を通り過ぎ、ジンはスラムの中でも商店のある区画に入った。

 屋台が軒を連ね、ある程度巡回の兵士もいるような、スラム街の中でも比較的治安の良い場所だ。

 もっとも、その兵士が正規兵である保証はないのだが。

 

 そんな街中で、ジンの横を素早い動きで駆け抜ける子供がいた。

 

 それは、普段なら命知らずの行動だった。

 本当に、ごくたまたま、神がかり的なタイミングで子供はジンの財布を盗った。

 

 それは、ジンをして目を丸くするような、ありえない確率、タイミングでの犯行だった。

 偶然と呼ぶにはあまりに奇跡的な確率だった。

 

 が、強運もそこまで。

 

 ジンは反則的なまでの後出しで動き出し、盗人の手を捕まえた。

 薄汚れた手。

 握られた粗末なジンの財布すら似合わない、苦労に苦労を重ねた子供の手だった。

 

 盗人は少年だった。

 頭は丸坊主にしていて、形のいい頭が晒されている。

 このスラム街で綺麗に剃られているそれは、髪を売る事で賃金を得ている印だった。

 

 ジンに捕まえられた少年は、まさか盗んだ後に捕まるとは思ってもいなかったのだろう。

 一瞬引きつった顔でジンを見上げた。

 

 それでもすぐにキッとした勝気な表情を見せた。

 甘さを見せれば食われる世界で身につけたであろう強気の姿勢だった。

 

「はなせよ! おっさん!」

 

 ジンは相手をせずじ──っと少年を見つめる。

 別段、感慨に耽っていた訳でも哀れんでいた訳でもない。

 少年のことを観察していた。

 

 念は、立ち昇るオーラから見て確実に覚えていない。

 ジンから財布を盗った時は完璧な絶だったが、今はその面影は一切なかった。

 

 つまり、運がいい。

 

 このスラムの少年がジンの警戒を潜り抜けて財布を盗むのは、まさしく天文学的な確率の結果だった。

 たまたま完璧な絶だった。

 たまたまジンが多少油断していた。

 たまたまジンが弟子を探している時に、たまたま才能がありそうな少年に出会った。

 

 そこまで行けば、もはや必然だったのかもしれない。

 ジンは思った。

 

「お前、運いいな」

 

「……は? どこがだよ!」

 

「決めた、俺は運がいい奴を探してたことにしよう。そうすりゃ、ガキだろうがじじいにも言い訳できるしな」

 

「……はあ? あんたなにいってんだ? ってか、手ぇはなせよ!」

 

「やだよ、そしたら逃げるだろ。放さねえって」

 

「くそ!!!! ぶたばこでもなんでもつれてけよ!!!」

 

「おう、じゃ、お前今日から俺の弟子な」

 

「……はあ!??!」

 

 

 

 

 

「──それが、俺とジンさんとの出会いだった」

 

「……あの人、ほんと変」

 

「これに関しちゃ、俺も同意見だ。プロのハンターが貧困街で弟子を取るなんて、聞いたこともない。だが、ジンさんのそんな気まぐれで俺は人生を救われた。……いや、与えられたって言った方が正しいな」

 

「だから、カイトはジンさんを尊敬してるんだ」

 

「……それもある。きっかけになったのは間違いない。だが、何より尊敬に値する人だからだ。俺があの人を尊敬しているのは、ただそれだけさ」

 

「なんかいいね、そういうの」

 

「……そうか?」

 

「もっと聞かせてよ、ジンさんとカイトの話」

 

「そんなに面白い話はないぞ?」

 

「いいのいいの、あたしが聞きたいだけだから。お願い」

 

「……そうか。何から話すか……。そうだ、俺が弟子になって初めて連れて行かれた場所なんだが、どこだと思う?」

 

「え、孤児だったんでしょ? ご飯とか、お風呂とか?」

 

「まぁ、そうだな、普通そうだ。だが、ジンさんが連れて行ったのは賭博場だった」

 

「……いや、ほんと変」

 

「まったくだ。まぁ、そこでビギナーズラックで大勝ちしてな。初めての賭けで勝った金で食う飯は、本当にうまかった。あの、何の変哲もない料亭の味は今でも思い出せるよ」

 

「いい思い出だね」

 

「他にもあるぞ。あれは弟子になってから半年くらい経った時だったか。急に事情も聞かされずに連れて行かれてな」

 

「うんうん」

 

 そうして、カイトの話を聞きながら穏やかに時間が過ぎていった。

 

 

「あんたたち! ご飯できたわさ! 配膳くらいは手伝いなさいな!」

 

 ビスケのいかにもそれらしい(お母さん)呼び声に、顔を見合わせて少しだけ笑ったあたしたち。

 その後ビスケも入れて3人で談笑しながらビスケお手製の料理を食べた。

 温かくてありきたりな、そんな日常の風景だった。

 

 そうして、その次の日。

 あたしは約3年ぶりにG.Iを出た。

 ゴンがくじら島から旅立つ1月4日まで、もう残り2ヶ月を切っていた。

 

 

 




カイトの過去は非常に悩みましたが、出しました。
後悔しないといいのですが・・。


────
誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『あんころ(餅)』さん
『so-tak』さん

ありがとうございます。

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