今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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約12000字


『人』

 

 

 あたしが耳を塞いで待つこと十数分。

 戻ってきた二人はスッキリとした表情をしていた。

 占いの意味を十全に理解できたのだろう。

 よかったと一息を溢すあたしに、戻ってきたノヴさんが立ったままメガネを指で直しつつ言った。

 

「依頼の件ですが。敵の能力、実力がわかるからこそ、リスクの高さがわかります。……しかし、1()0()0()億即金というのは魅力的です。お引き受けしましょう」

 

 50ではなくあえて100と言い切ったノヴさん。

 それを、絶対に依頼を成功させるという意思表示だとあたしは解釈した。

 

 それを聞いて、あたしは安心感からズルズルとソファーに溶けた。

 これで現段階で望みうる戦力が確保出来たという事。あたしの気持ちを弛緩させるのに十分すぎるインパクトがある。

 

 これで、ノヴさんの《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》を使った作戦、モラウさんの《監獄ロック(スモーキージェイル)》を使った作戦など、選択肢が大幅に広がった。

 

 さすがにこの二人を欠いた三人じゃ幻影旅団と戦うのは無理があるから、もし依頼を拒否されたら幻影旅団との交渉主体で頑張るか、大々的に依頼を投げて乾坤一擲に賭ける事も選択肢にするつもりだったけど、これで未来の情報を含めれば対等に戦えるだけの戦力は整った。

 

 後はジョーカーをどうするか、という問題もあるけど、それは追々考えよう。

 今は、新しい仲間を歓迎するべく立ち上がってノヴさんの手を取った。

 

「ノヴさん! ありがとう!」

 

 彼の掌を掴み、感謝を意を伝えるべくブンブンと縦に振れば、冷静なノヴさんが少し目を瞠って驚いた表情を見せた。

 

「かかかか! おいおいノヴ、大した人気じゃねーか」

 

「モラウさん、冗談はよしてください。ほら、あなたも離れてください。今後の作戦などに関して、依頼内容を詰めていく必要がありますから」

 

「わかった! ……モラウさんも! ありがと!!」

 

 次はモラウさんに感謝の握手だ。

 フワリと煙の匂いがしたが、嫌な匂いではなかった。

 

「おっと、喜んでくれるのはありがてェが、そもそもオレは海人(うみんちゅ)だ。武闘派じゃねーし、自分を強いとも思ってねェ。やれる限りのことはやってみせるが、A級首を相手にどこまで出来るかは疑問だな」

 

「……同意見ですね。私たちを呼んだという事は作戦があるのでしょう? それをお聞きしましょうか」

 

 モラウさんからも離れて、再び全員でソファーに座った。

 カイトとビスケにも、もう立っている必要はないので座ってもらう。

 

「──うん。作戦を説明するね」

 

 

 作戦説明中。

 

 

 

「──なるほど。未来予知を活かした各個撃破。それをより確実にするための、私たちですか」

 

「そう。あたしが殺らなきゃいけないのって、クロロ=ルシルフルだけなんだよね。もし誰がやったのかわからないように出来るなら、殺害するのはクロロ=ルシルフルだけで十分。もちろん、手足を削る必要があれば削るし、交渉の余地があるなら交渉もする。でも、一番重要な点はバレない事。そこなの」

 

「もしあなたが『幻影旅団』を狙っている、という情報が漏れてしまったら、報復される事に備えて全員を始末する必要が出てくる……。なるほど、情報を絞っていたのはこれが理由ですか」

 

「選択肢は多い方がいいでしょ? ……可能なら交渉であたしを狙わないように彼らにお願いしたいけど、同じテーブルにつくのにも戦力や手札が必要だからね。決裂した場合の選択肢としても、生存能力に直結するモラウさんとノヴさんの念能力は重要度が高いの」

 

 しん、と場が静まりかえった。

 ギギギと動いたノヴさんが冷や汗を流しながら問い掛けてくる。

 

「……私とモラウの能力に関しても、知っているのですか?」

 

「……うん。そう。ごめんね」

 

 顔を見合わせるノヴさんとモラウさん。

 ノヴさんが代表して言った。

 

「つかぬ事を伺いますが……、どこまで?」

 

「名前だけ言うね。《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》と《窓を開く者(スクリーム)》。《紫煙拳(ディープ・パープル)》と《紫煙機兵隊(ディープパープル)》と《監獄ロック(スモーキージェイル)》。この5つは知ってるよ」

 

 

絶句。

そう言いたげな表情を二人は見せた。

さもありなん。念能力の情報は絶対に秘するべきであり、外部に漏れている状況は極めて危険と言わざるを得ない。ビスケの言葉を借りれば、念能力の切り札は親にすら隠せ、という程である。

 

「……あまりに、規格外すぎる」

 

「かかか……。笑えねえぜ、こいつはよ」

 

 二人ともが再び冷や汗を流した。

 念能力者にとって、能力を第三者に知られる事はもっとも避けるべき事の一つ。

 それを、いとも簡単に当てられた事は二人にとっても相当にショックだったようで、そこから立ち直るのにしばらく掛かった。

 少し間を置いて、再び話す。

 

「知ってる事を、隠すほうが不義理だと思うから、話したの。でも、二人のこれ以上の能力は知らない。これは誓って本当。それに、もうここまでの予知は不可能だから、これ以上深く知ることも出来ないの。だから、その点は安心してね」

 

 モラウさんが口を開く。

 安心できねェ! そう言われる覚悟だったが、思っていたのとは違う言葉が出てきた。

 

「……ま、いいか。嬢ちゃん、他人の能力がわかるってのはまじで厄い能力だ。ぜってー明かさないほうがいい。ってそこのクルーガーが教えてるか。……それだけの信頼に値する行動をした覚えはないんだが……、なぁノヴ」

 

「そこで私に振らないでくださいよ。あなたはまだ応用力の高い能力だから良いですが、私の《窓を開く者(スクリーム)》は切り札ですよ……? それを知られているなんて、まるで悪夢のようです……」

 

「うん、まぁ、ドンマイ」

 

 そう言いながら、モラウさんがぽんとノヴさんの肩を叩いた。

 

「……えっと、せっかくと言うか、話す予定だったから話すんだけど、これ以上のお話があります……。聞くのやめとく?」

 

 

 再び顔を見合わせる二人は、同時にあたしに向き直って覚悟を決めたように座り直した。

 二人の顔はこれまで以上に気迫に漲っていた。

 不退転とでもいうべき覚悟が決まったのかもしれない。

 

 

「……ここまでくりゃ、もう何でも来いやって気分だ。嬢ちゃん、覚悟は出来てるぜ」

 

「知らない方が却って恐ろしいですよ。私も覚悟を決めましたから、聞かせてください」

 

 二人ともが真剣にあたしを見つめる。

 それに応えてあたしは力強く頷いた。

 

 カイトに未来の話をした時。

 もし依頼を引き受けてくれるなら、この二人にも『原作知識』を話すと決めていた。

 あたしの第六感が囁くのだ。

 ここで話す必要がある、と。

 

 しかしその時、カイトがあたしの前に立ち、視界を遮った。

 カイトの背中越しに見えるノヴさんやモラウさん。そしてカイトは振り向き、あたしに正面から向き直ったカイトが立ったまま続ける。

 表情はこれ以上ないほどに固い。

 

「いや、待て。それはオレの能力にも関わってくる話だろう? まだ知り合って間もない段階でその情報を渡すことは出来ないな」

 

 ……そう。第六感は()()話すべきと囁いている。

 でも、カイトの意思を無視する事は絶対に避けたい。

 

 モラウさんとノヴさんが関わる最も重要な話は蟻編だけど、それを話すとカイトの能力も開示してしまうことになる。

 

 ……蟻編に関しては始まり方と会長の最期だけを伝えよう。

 そのつもりでカイトに笑みを返した。

 

「大丈夫。ちゃんとカイトに話したのと同じ内容で伝えるよ」

 

「……そうか。いや、それだけだ。遮って悪かった」

 

 カイトはすぐにソファーに戻って腰掛けた。

 遮られていた視界が広がって、ちょっと居心地悪げに座り直しているノヴさんとモラウさんが見えた。

 

コホンと一つ咳払いをして、あたしも姿勢を正した。

 

 

 

「──じゃ、話すね。これは、あたしが観た『未来の情報』」

 

 約2ヶ月後から開始される、『ゴン』を中心とした予知。

 今となっては本当に予知だったのでは、と思えるくらいこの世界に馴染んでしまったけど、『原作知識』であることは覚えてる。

 それを余すことなく伝えていく。

 不必要な箇所はボカしながら。

 

 ハンター試験編。ゾルディック編。天空闘技場編。旅団編。GI編。

 

 蟻編は人間サイズのキメラアントがNGLに漂流し、ネテロが分断に成功した蟻の王を道連れに殺した、と伝える。

 問題ない箇所は話してる。だから、モラウさんとノヴさんが蟻の討伐に参加しているであろう事はニュアンスで伝わっている。

 それなのに、重要な箇所を秘匿されているから歯痒いはずなのに、二人は黙って私の話を聞いてくれていた。

 

 きっと頭の中でありえるのか検討しているのだと思う。

 会長(ネテロ)なら命を懸けてでも任務を達成する、そう思うからこそ可能性として検討しているのだと思う。

 

 少しだけ時間を空けて次の話に移った。

 

 

 選挙編では、脱会長派の暴走を話したけど、原因となるゾルディック家のインナーミッションに関しては話さない。

 これは、ビスケにもジンさんにもカイトにも話していない。

『ナニカ』の情報はあまりに危険すぎる。それこそ知っている事がバレればゾルディック家が敵にまわりかねない。

 

『ナニカ』に関してはボカした上で、ゴンにもキルアにも触れずに(カイトが死んだ結果ゴンが無茶したので、この事は伝えられない)選挙の結果を伝える。

 流れに納得はしていない様子だったけど、無理やり飲み込んでくれた。

 何故、立候補出来たのか不明なレオリオの事を抜きにすれば、パリストンが会長となる未来は、予想から外れない選挙結果だったからだと思う。

 その後すぐに辞任してチードルが会長になったのには、あんぐりと口を開けて愕然としていたけど。

 

 

 そして暗黒大陸編。

 

 モラウさんが今日の中で最も険しい顔を見せた。

 ノヴさんは冷静さを保とうとしつつ、必死に頭を回して可能性を検討している様子だった。

 

 カキン国の条約違反ではないものの、道義的に問題がある行動に、顔を真っ赤にしながらもモラウさんはあたしの話を遮らずに聞いてくれた。

 逆に可能性として十分にあり得てしまう、と気がついたノヴさんは可哀想になるくらい真っ青になって脂汗を流している。

 

 そして、ビヨンド=ネテロの存在。

 まだ会長が存命だから、飛び上がるほどの驚きはなかった。

 でも、十分な衝撃は与えてしまったようで、またもや愕然とした表情を二人が見せた。

 カキン国王位継承にまつわる継承戦まで話し終わり、すっかり冷めた紅茶を飲みながら二人を見守る。

 じっとしたまま動かず、額から汗を流しながら考え込んでいたモラウさんがようやく口を開いた。

 

 

 

「今日1日で一生分驚いたんじゃねーかってくらいだぜ……」

 

 モラウさんが溢した言葉は弱音とも言える内容だったが、ノヴさんも否はないのか、微かに頷いた。

 

「同感、ですね。しばらく休みたいくらいですが……。今はまだそのタイミングではない。……カイト。私の念能力をお話ししてもいいですか?」

 

 そう言ってノヴさんはカイトを名指しした上で提案をした。

 

 それは、鋼の精神力だった。

『原作』で見せた心の弱さとは真逆の、とても強い精神で気を持ち直したノヴさんがカイトに問いかけた。

 

 瞑目していたカイトがゆっくりと目を開いた。

 改めて聞いたあたしの話を纏めていたのだと思うが、ノヴさんの言葉の意図を履き違えるようなカイトではなかった。

 静かに喋り出した。

 

 

「オレの能力を教えるつもりはない」

 

「必ず教えてもらう必要はありません、私が開示したからといって、あなたにそれを強要する気もありません。ただ、聞いてください」

 

 メガネの奥から真剣な眼差しでカイトを見つめるノヴさん。

 カイトもいつか見た鋭い目つきで視線を(まじ)える。

 

 そして。

 カイトが、呆れたようにも、諦めたようにも見えるため息を吐いた。

 

「聞いたとしても、オレが能力を明かすとは限らないぞ? 聞くだけ聞いて、だからなんだと言うかもしれん。それでもいいなら聞くが」

 

 

 カイトのその言葉に、ノヴさんは間髪を容れずに続けた。

 

「もちろんです。……私の能力は二つ。《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》と《窓を開く者(スクリーム)》ですが、それぞれ特質があります。《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》に関しては、瞬間移動能力(厳密には瞬間ではないが)です。壁や地面に手をかざすとそこに念空間へ通じる穴を開けることができ、その穴から私が作った念空間へ人や物を転送させることができます。《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》は4階建全21室(うち一室は物専用ロッカールーム)の念空間です。それぞれの部屋は完全に独立していて、入り口は部屋に入ったと同時に閉じるため 現実世界へ戻るためにはもう1つの扉から出るしかない。入り口は複数創ることができ、部屋の大きさによって上限が違います。出口は入ってきた穴とつながっています。つまりある部屋への出入は原則として同じ場所の穴からしか出来ません。ただし、私の持つマスターキーならば部屋の出口をどの場所の穴ともつなげることができます。……有用なのはこれを用いた奇襲戦法。そして、敵を《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》に瞬間移動させることで、多対一の状況を作り出すことです。もちろん、避難場所や物資保管場所としても非常に使い勝手がいい能力と言えるでしょう。……私をネオン=ノストラードが引き入れたのは、恐らくこの能力がメインの目的だったはずです。協会内でも、ここまでの物資輸送能力を持った念能力者は居ませんから」

 

 そこで一度言葉を区切った。

 カイトは何も言わず黙ったままだ。

 ノヴさんは言葉を続ける。

 

「そしてもう一つの能力。《窓を開く者(スクリーム)》ですが、これは私の切り札。あなたと同じく絶対に第三者には知られたくない能力です。……これは非常に重要で、危険な情報ですが開示しましょう」

 

 そう言ったノヴさんは両手を合わせてヴゥォンという音を鳴らせながら、両手の間にオーラの帯を作り出した。

 

「これが《窓を開く者(スクリーム)》です。両手の間に生まれた念空間に対象を収め、『閉じろ』と念ずる事でこの念空間に存在するありとあらゆるものをどこかへ転送します。そして、これがどこに繋がっているのか私ですら知りません。《4次元マンション(ハイドアンドシーク)》とは全く別の能力と言えるでしょう。そして、重要なのはこれからです」

 

 大きく息を吸い、吐いたノヴさんはオーラの帯を『閉じて』から話を続けた。

 

「私の経験上、この《窓を開く者(スクリーム)》が防がれた事はただの一度もありません。オーラを纏っていても、この《窓を開く者(スクリーム)》は削り取ります。より正確に言うなら能力の本質は転送ですが、転送する事で、削り取ったという結果が残る能力。それが私の切り札である《窓を開く者(スクリーム)》です。……が、リスクを話さない訳にはいきませんね。この能力の特質を考えるに、私が転送不可能と判断したものに関しては転送できないでしょう。それは強いオーラに阻まれる可能性は存在するという意味です。完全無欠の能力ではない。……しかし、それゆえに、この能力が破られることはない。この私が不可能と断じることなど、それこそありえませんから。……これが、私の念能力の全容です」

 

 静かにノヴさんが語り終えた。

 

 そして、待っていたようにモラウさんが言葉を続ける。

 

 

 

「次はオレだな。《紫煙拳(ディープ・パープル)》と《紫煙機兵隊(ディープパープル)》と《監獄ロック(スモーキージェイル)》。この3つについて話す。ま、オレの《紫煙拳(ディープ・パープル)》より対応力のある能力の持ち主には、まだお目にかかったことはねェ。ちょっと失礼」

 

 そこで一旦言葉を区切って、煙管(キセル)を咥えてふーっと煙を吐いた。

 生まれたのはウサギを模した煙。

 そして、次にモラウさんは掌からオーラを一つ空中に放って、オーラの塊に向けて、もう一度ふぅーと煙を吹きかけた。

 オーラに集まった煙は人型を取って、腕を上げて足を上げてその場で足踏みを始めた。

 

「違いがわかるか? ウサギは《紫煙拳(ディープ・パープル)》の能力。煙でオレが想像した形を模す能力。草でも動物でも人でも何でもだ。そして、こっちの人型が《紫煙機兵隊(ディープパープル)》だ。オーラを核に紫煙を纏わせてる。──核のオーラに込められた念の操作条件に従って自在に動き回る煙人形が完成する! その数は最大で216体! ま、相手の迎撃に備えてやや操作情報を複雑にしたりすれば、50体くらいしか同時には出しておけないが、その分高性能になる。で、次だ」

 

 その場で立ち止まって行進していた《紫煙機兵隊(ディープパープル)》の人型が解けてオーラへと変化する。ウサギは解けてそのまま消えた。

 オーラを吸収してモラウさんは続ける。

 

「使ったオーラは回収することも可能だ。もちろん、100%戻ってくる訳じゃねーが一度作ったらお終いって能力じゃねェ。煙はこの煙管(キセル)があればいくらでも出せる。ゆえに、偵察と撹乱には持ってこいの能力だと自負してるぜ。『円』じゃ『人』か『人形』か区別し切れないのもメリットだな」

 

 得意げに笑って、口元から『残り煙』を煙らせる。

 

「んで次。《監獄ロック(スモーキージェイル)》だが、これはここで出すわけにゃいかねェか。簡単に言えば煙の牢獄だ。オレが内部にいる必要があるってのが肝だが、オレが解かねェ限り延々と閉じ込める事が可能だ。強制的に一対一に持ち込めると思ってもらえばわかりやすいな。……以上が、オレの3つの能力の解説だ。十二分に活かしてくれよ、嬢ちゃん」

 

 言葉を区切ったモラウに続いたのは、驚いたことにビスケだった。

 すっと立ち上がって前に進み出て手を上げる。

 

 

 

「ここであたしだけってのはフェアじゃないわね。あたしの能力、紹介するわ」

 

 ビスケがズズズとオーラを変容させ、具現化させたのはあたしにはお馴染みの子だ。

 予想もしていなかった人物の能力紹介に三者三様に驚きの表情を見せる。

 

 カイトは目を見開き、モラウさんは座ったばかりなのに思わず立ち上がり、ノヴさんは組んでいた手を離して微かに目を見開いた。

 

 

 

「じゃ〜〜〜ん!! 《魔法美容師(マジカルエステ)》のクッキィちゃん。すごいわよ〜〜!! 彼女の様々なマッサージは至福の愛撫! 余分な脂肪を燃焼させ、身も心も楽園へといざなう!オーラを特別なローションに変化させ、お肌にぬれば若返り・美肌の効果!! 指圧マッサージは体の内から美しく!! 便秘・肩こり・冷え性などの悩みをすっきり解消!! さらには!! 整体マッサージ、瞑想マッサージ、ロールマッサージまだまだあるわさ!!」

 

 そして、三者三様だった三人の表情は、みんな一様にスンと静かになった。

 モラウさんは上げた腰を静かに下ろした。

 

 ──しかし!! あたしは逆に立ち上がり拍手する! 

 素晴らしい! 

 

「何度聞いても素晴らしい能力! クッキィちゃんはヴィーちゃんにも匹敵するよ!!」

 

「おほほほほ、さすがあたしの弟子だわね! よくわかってるわさ!!」

 

 カイトが言った。

 

「少し空気がおかしくなったが、まぁ、了解した」

 

「なによ!? あたしの能力に文句あるっての!?」

 

 むきー! とビスケが怒る。

 うん、可愛いなぁ。──なんてね。空気を弛緩させるために、あえて念能力を開示させたのは言うまでもない。

 他の三人も、それがわかっているからこそ、あえてしれっとした顔をしているが、あたしだけはほっこりした表情を浮かべた。

 

 

 しばらく間を置いて、目を閉じたままカイトが口を開いた。

 

「……わかった」

 

 開かれた目は鋭さではなく、覚悟を決めた色を灯していた。

 

「あんたたちを信用しよう。俺は部屋を出る、話が終わったら呼んでくれ」 

 

「……カイト」

 

「気にするな、知ったところでどうなるかわからないってだけだ。リスクでもなんでもないさ」

 

「ううん、お二人にもちゃんとこの事は他言無用でお願いするから、大丈夫。この二人は信じられる」

 

「……そうだな。オレも信じよう」

 

 最後にノヴさんとモラウさんと視線を合わせて、二人が頷いたのを確認したカイトが部屋から退出した。

 しばらく待ち、そして私は話し始めた。

 先ほどは隠した蟻編の『原作知識』を。

 

 モラウさんとノヴさんも、念能力を話した事で腹を括ったのか、今までよりさらに真剣で、油断のない表情だった。

 しかし、それも途中までだった。

 

 カイトが死んで、ゴンを抱えたキルアとモラウさんとノヴさんに出会った話をする。

 カイトが死んだと聞いて二人は訝しげに眉を動かした。なんでカイトが知られたくなかったのか、だろう。

 それは後で話すことにして、まずは話を進める。

 会長が蟻討伐のためにモラウさんとノヴさんの二人を選んだ事。

 予定よりも早く王が生まれた事。

 

 護衛軍の三匹が単体でネテロ会長にも比肩し得る程の爆弾である事。

 話を進ませ、ノヴさんがリタイヤした所を話すと、気まずそうにモラウさんが身動(みじろ)ぎした。

 

 チラッチラとノヴさんを伺うモラウさんは、めちゃめちゃ横を気にしていた。

 何と言っても、ノヴさんがすごい表情をしていたから。

 

 ありえない、と言いたげな怒った表情。

 でも、100%当たる予知というリソースがあるので、ありえると判断している理性が指示する厳しい表情。

 事前にその事実を知った事で対処できるのでは、という希望を見つけた表情。

 しかし、この世の不吉を全て孕んだようなオーラの想像ができず、眉を顰める表情。

 そして、それら全てが混ざって何とも言えない苦虫を噛み潰したような表情。

 

 まさに百面相と言っていいくらいの変化を見せていた。

 ノヴさんがこんなに表情豊かとは思ってなかった。

 冷静そうに見えて意外と繊細なのかもしれない。

 

 間を置こうかと思ったが、無言で冷や汗を流しながら続けろと念を送ってくるモラウさんに合わせて話を続ける。

 下手に触れない方がいい、という判断なのだろう。

 その判断に従って順番に最後まで話した。

 

 

 ──あの、原作の最期を。

 脳裏に、倒れながらも、大切に重なった『蟻』と『人』の掌が思い起こされる。

 コムギが優しげに呼んだ、最初で最期の『メルエム』という名前が聞こえてくる。

 

 話しながら思い出して、鼻の奥がツンとした。

 

 会長が、薔薇を使って蟻の王を吹き飛ばし。

 その結果、毒に侵され長くないと知った王が、コムギという少女と最期を過ごす事を選んだ王が、コムギと共に悲しく、しかし幸せに果てた事を。

 それをパーム=シベリアが涙を流しながら見守った事を。

 

「……」

 

「……」

 

 二人はしばらく無言だった。

 今までの、ビスケ、ジンさん、カイトは、暗黒大陸という最大の禁忌が話題の最後だった。

 

 でも今回は話す順番が違った。

 だからだろうか? 

 あたしも、今まで考えなかったくらいに感傷的な気持ちになった。

 二人も今までの三人とは違ってすごく神妙な表情で話を聞き終えた。

 

 重苦しい沈黙を破ったのはモラウさんだった。

 

「……なんと言っていいかわからねェが。心に来るものがあるな」

 

「……しかし、それはあまりに不安定な未来です。万が一を考えれば『蟻の王』が産まれる前に討伐すべきです」

 

「その通りだよ。……キメラアントの女王を漂流後のすぐに討伐してしまうべきなのはわかってる。でも、考えるの。悪意を持って蟻を倒した人と。好意を持って大切な人と死んだ蟻と。果たして本当の化け物は『人』と『蟻』のどちらだったんだろう、って」

 

 あたしの制約は『占いは今生きてる人を幸せにするためのもの』。

 人の心を持った怪物は、果たして『人』なの? 

 それとも『怪物』なの? 

 感情移入してしまった今のあたしには、『蟻の王』は『人』にしか思えない。

 

 それは占ってあげたい対象になるという事。

 幸せになってほしい、対象であるという事。

 

 あたしの思考の渦を破るようにモラウさんが話した。

 

「……生存競争って言っちまえば、簡単だがな。『人』が勝って『蟻』が負けた。それだけさ。だが、人の心はそう単純じゃねェ。お前さんがそう思った事を大切にすべきだ。……今はまだ決めなくたっていいだろ。『幻影旅団』っつーデカい的もあることだしな!」

 

モラウさんが快活に笑い、ノヴさんがすぐさま続いた。

 

「その通りですね。この問題は、私たち全員で共有し結論を出しましょう。あなた一人で背負わせませんよ。──文字通り、他人事ではありませんから」

 

「っかー。普通は人が死ぬってなりゃ是が非でも止めるんだが、そういう話を聞いちまうとどうもな。決断が鈍っちまいそうになるな!」

 

「人の心を持った怪物。果たして討伐するべきか、否か。非常にナイーブな問題です。今は先送りしてしまいましょう。まず先決なのは『幻影旅団』をどうするか。ネオン、あなたの知恵を貸して欲しい。出来ますね?」

 

「……うん、大丈夫! まずは目の前のことからだもんね」

 

 つい、考えないようにしていた事を考えてしまったけど、ノヴさんとモラウさんの心遣いで少し振り切れた。

 今は、目の前のことに集中しよう。

 そっと、『蟻の王』の記憶に蓋を閉じた。

 

 

 パンと手を叩いた音が鳴った。

 ビクッとしてそちらを見ればビスケが満面の笑みを浮かべている。

 

「よし! そうと決まれば、さっそくあの話をしないとねぇ〜。カイトが聞かせたくない、は・な・し、だわさ!」

 

「お、気になるねェ。それが今回の本題と言ってもいいからな」

 

「果たしてどんな結末が出てくるのか、少し楽しみなのは否定できませんね」

 

 あえてお気楽な雰囲気を作った三人に合わせて、あたしもカイトには悪いと思いながらも乗っかった。

 

 

「ふっふっふ、では、お伝えしましょう! カイトちゃんの話を!!」

 

 あの、クールでカッコ良くて、颯爽としていたカイトが、女の子になってしまった話をした。

 三者三様に驚き、あのクールなカイトが。とじわじわ来るものに、ついつい含んだものを溢しながら聞いて、カイトにはすごく申し訳ないが、先ほどまでの神妙な雰囲気はどこかに消えてしまったのだった。

 

 もちろん、最後にはカイトが聞きたくない理由も伝えたので、カイトにこの話が伝わることはない。

 三人が内心でカイトにカイトちゃんを重ねて想像することは、止める事が出来ないが。

 

 

 

 

「──で、話が終わったようだが、何故その三人は顔を背けてるんだ?」

 

 部屋に戻ってきて早々に頭の上にハテナマークを浮かべたカイトを宥めながら席に誘導して、本題の本題である『幻影旅団』を討伐する話に戻った。

 

 議論は白熱したが、結果としてビスケ、カイト、モラウ、ノヴの4人は大凡1ヶ月後に先んじてヨークシンに入ることとなった。

 そして、モラウ、ノヴからの提案で、二人の弟子である『パーム』『ナックル』『シュート』を呼ぶ事も決まる。

 まずはその三人をここに呼ぶか、となったが、ハンター協会のお膝元にこれ以上居る理由はなくなった。

 

 ミザイストムはどうやっても動けない事がハッキリしたからだ。

 5人で連れ立って、あたしの目的地(ハンター試験会場)であるザバン市に1ヶ月ほど滞在し、その間に3人の弟子を呼ぶ事。

 加えてあたしがフリーな1ヶ月の間に連携強化や戦術の練り直し、そして模擬戦を行う事で決定した。

 

 

 その間の滞在費はあたしの私費から出す。

 

 すごく密なスケジュールになる予定なので、パパと会うのはまた今度。

 たぶんハンター試験が終わった後くらいに実家に帰って、既に雇う準備をしてもらっている原作同様(この時点で雇っているはずの)の護衛メンバーを引き連れながらヨークシンに入る予定だ。

 クラピカやセンリツたちは7、8月辺りで雇うはずだから、今はまだ雇えていない。

 

 今更ながら、人体収集も再開した。

 僅かでも原作に近づけておきたいからだ。

 

 そうして諸々が決定し、夜も()けた。

 あたしは着々と進みつつある準備に安心し切って、久しぶりの柔らかなベッドで幸せな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオン=ノストラードが寝入った、その頃の大人達(一部)。

 

 

 

 バルコニーで煙を燻らせる男がいた。

 白いシャツに黒いズボン。

 ラフな格好をしているが、そのガタイは、はち切れんばかりの筋肉で覆われている。

 端的に言って大男が、静かに夜空に向かって煙を漂わせていた。

 

 視線の先に星はない。

 都会の光に遮られて、星の光は届いていなかった。

 それでも、その男が夜空から目を離す事はなかった。

 何かを考え込むような、そんな雰囲気でサングラスの下の瞳を曇らせていた。

 

 そこに、もう一人の男がやってくる。

 黒いスーツを着こなす、フォーマルな男だった。

 カツカツと軽快に革靴を鳴らせて大男に近づくと、断りを入れる様子もなく、さりげなく背中をバルコニーの白い柵に預けながら、そっと横目で大男を見つめた。

 語り出したそのスーツの男は、名をノヴと言った。

 ノヴは静かに語りかける。

 

「モラウ。あの話ですが、どこまで本気ですか?」

 

 静かな、とても静かな語りかけだった。

 僅かな稚気すら込められていない、真摯な問いでもあった。

 語りかけられた大男のモラウは、ふぅーと紫煙を円形に吹いて、揺蕩う煙を見つめながら答えた。

 

「……言わんとしてる事はわかるぜ。その上で答えるが、大人だって人間さ。大義名分がなきゃ、蟻の一匹殺せやしねェ」

 

 サングラスの下は見えない。

 どんな瞳で語っているのか、ノヴにもわからなかった。

 長い付き合いでモラウの言い分を察したノヴは、それでもあえて、それを無視して語りかける。

 大人としての。

 そして、プロとしての問い掛けだった。

 

「……それは、大義名分があれば、殺す。とも言い換えられると判断してもいいんですね?」

 

「……」

 

 回答は一瞬の沈黙だった。

 黙り込んだモラウは再び煙管(キセル)を咥えて煙を吹いた。

 そして沈黙をなかったものとするような、カラッとした口調で言った。

 

「さーてね。まだ時間はある。たっぷりと煙でも吸いながら考えるさ」

 

 その返答に、正確にモラウの心中を察したノヴはもうそれ以上確認の言葉を続ける事はなかった。

 代わりに、大人だけが可能な提案をした。

 

「……そうですね。お互い、汚い大人ですが。今夜だけは私も付き合いましょう」

 

 そう言って取り出したのは、一本のタバコ。

 ノヴ自身好んで吸う事はないが、以前にモラウにせっつかれて用意したという経緯のポピュラーな銘柄のタバコだった。

 滅多にないノヴからの提案に、今夜初めてモラウはニカッと彼本来の笑いを取り戻した。

 

「おっ、珍しいな。カートンで買ってくるか?」

 

「どれだけ吸わせる気ですか。これ一本で十分ですよ」

 

「連れねェな」

 

「お互い様ですよ」

 

「かっか、違いねェ」

 

 大人二人組がバルコニーで吹かせる煙は、高く高く、夜空に昇って行った。

 

 

 

 




加筆修正済み
大枠変更なし


次回は『ナックル』『シュート』『パーム』の予定です。


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誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『あんころ(餅)』さん
『Othuyeg』さん
『イルイル』さん
『みやとも』さん
『kuzuchi』さん
『phodra』さん
『所長』さん

ありがとうございます。
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