裏話
ネオンが地下道を抜けた時から計算して、その約1時間後。
『幻影旅団』討伐チームがハンター試験を受験するネオンから別れて、各々別ルートで個別にヨークシンに入るために移動を開始して約6時間後。
パリストンが移動の動きを掴み、
某所で金髪の青年が、パソコンを触っている。
動きに淀みはなく軽々とした様子で彼の『本業』をこなしていく。
そして、とある情報を得た彼がピタリと動きを止めた。
古書に囲まれた一室だった。
丁寧に清掃されたその場所は、書物を保管するという一点において最高とも呼べる品質を維持している。
静謐とした雰囲気はどこか浮世離れした様相を呈する。
そこに、たった1人で腰掛ける男がいた。
黒い髪を下ろし、隙間からチラつく
ラフなシャツとズボンを着こなす姿は貴公子然としていた。
そんな余裕たっぷりな姿でぱらりぱらりと古書を捲る彼だったが、不意に手を止めた。
視線を上げた彼の目に、ピカピカと点滅を繰り返す携帯が目に入った。
あえて音は切っているそれを掴み、通話ボタンを押す。
電話口からはよく聞き馴染んだ声が聞こえた。
『団長、ちょっと今いい?』
「──ん、シャル? なにか用事か?」
シャルナーク。
『幻影旅団』という集団の情報処理を担当するメンバーの1人からの連絡だった。
仕事の前準備から始まり、次の獲物の情報収集。
そして危険な情報のキャッチ。
『幻影旅団』のもう一つの頭脳という表現に近い男。
それがシャルナークだった。
そんな彼がわざわざ連絡をして、そして『団長』と呼ぶ唯一の相手。
《
ネオンの打倒目標。
このうらぶれたひっそりと孤独に時間の停止した書庫にただ一人座るこの男こそ。
『クロロ=ルシルフル』だった。
薄らと寂しげに伏せられた目は、今まで目にしていた古書の影響か。
少し気だるげな雰囲気を漂わせながら、彼は古書に付箋を挟み閉じた。
こうした連絡は決まって重要な話題であるから、集中した方が良いと判断したからだ。
そして、その予想は正しい。
『気になる情報が入ってきてるんだ。それほど信憑性は高くないけど、裏でヨークシンに関する根も葉もない噂が流れてる。……A級首がとか、そんな噂。オレ達の仕事に支障が出るかもしれない』
それは約9ヶ月後に予定している『仕事』に関係する話題だった。
ヨークシン。A級首。
この2つのワードが重なったのなら、この時点で動きを掴まれた、と考えるのが妥当。
少なくともシャルナークが不穏な雰囲気を感じられるだけの根拠があるのだろう。
そこまで一瞬の思考。
クロロの出した言葉は、しかし焦りとは無縁のものだった。
「ほぉ、面白い」
『オレ達の中に
「いや、そんな奴いないよ。それに、オレの考えじゃユダは裏切り者じゃない」
『そう言うと思った。じゃあ、他の可能性だよね。察知されるようなポカはしてないから、能力者とかかな』
「……そうだな。調べられるか?」
『うん。というか、ちょうどね。セットみたいに付いてきたから、逆に怪しいんだけどさ。予知能力者の情報もあるんだよ』
「……予知能力か。ほしいな」
『また始まった。団長のマニアには困っちゃうよ。いつも振り回されるのはオレ達なんだから』
「マニアで悪かったな」
一瞬言葉を区切ってクロロは思考した。
シャルナークも察したのか言葉を続けない。
無言のまま2、3秒が経過した。
考えをまとめたクロロが話し出した。
「……シャル。メッセージの変更だ。8月30日正午までに、暇な奴あらため全団員必ずヨークシンに集合。
『えっと、裏に根も葉もない噂が流れてるだけだよ? そこまでする?』
「あぁ、お前が連絡してきたなら、それなりの理由があるだろ? なら、やる」
『……わかった。全団員に必ず伝えるよ。……ヨークシンで使える手駒作っとこうかな』
「オレも手札を増やしておくよ」
『ねえ、団長。根も葉もない噂だけどさ。これもまたセットみたいでめちゃくちゃ胡散臭いんだけど、裏取りまだだし。星持ちのプロが動いてるって話もあるんだ。無理して狙うことないんじゃない? お宝なんてどこにでもあるしさ』
少し真剣見を帯びたシャルナークの提案に、クロロは
「……退く? 無理だな」
凍りついたような表情であった。
クロロは冷徹な表情を見せた。
その覚悟は過去すでに通り過ぎている。
それがクロロ=ルシルフルという人間を構成する内の一つになるほど、取り外せない血肉と化している。
あの、『蜘蛛』を
「欲しいものはいただく。それがオレたち盗賊だろ? 邪魔する奴なんて関係ない。そうだろ?」
ごく当たり前の事実を口にする。
その言葉に何の重みもない。だからこそ、彼の異質さが際立つ。
昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない、何気ない口調で呟いた。
「誰にも止められやしないさ」
『オレたちゃ盗賊ってね。わかったよ、もう言わない』
「プロの情報を掴めるか? やれるだけやってみてくれ。金は惜しむな。どうせ腐るほど入ってくる」
『やってみるよ、裏取りもしなきゃなんないし。っていうか団長、なんだか嬉しそうだね?』
「……いや。ただ少し不思議でな」
『どういうこと?』
「誰がこの青写真を描いたのか、興味がある。そっちも調べてくれ」
『無茶言うなぁ。根も葉もない噂なんだ、裏のとりようがないって』
「それがお前の仕事だろ? 頼りにしてる」
『っあ〜〜〜、わかったわかったよ。やってみるけど、期待しないでよ。オレ別に万能ってわけじゃないんだからね』
「あぁ、頼んだ。あと、マチに先に来るよう伝えてくれ。聞きたいこと……いや、言っておきたい事がある」
『それこそ団長が自分で連絡すればいいだろ。なんでわざわざオレを通すのさ』
「オレからは恥ずいだろ」
『オレ経由ならいいって? なんだよその基準』
「いいから、やれ。団長命令だ」
『うっわ、横暴だ。……そうだ、オレから連絡してもいいけど、団長から頼まれたって事はマチに言うからね?』
「もちろんだ。他には何かあるか?」
『……うん。いや、団長がいいならいいんだけどさ。連絡は以上だよ』
「わかった。8月にヨークシンで会おう」
『うん。団長も気をつけてね。今回の相手は一筋縄じゃいかなさそうだ』
「全団員集合で、一度だって楽な相手がいたか?」
『あはは、それもそうだ。じゃあ、また』
プツンと途切れる。
きれた電話を置き、クロロは口元を押さえながら思考に入った。
深く深く、どこまでも深く。
その深謀遠慮をめぐらす。
「……気は進まないが、一度戻るか」
呟きは、本棚に整理された古書の広がる一室に溶けて消えた。
ネオンは知らない。
既に幻影旅団が備えている事を。
しかし、まだクロロは知らない。
自分の命を狙う、桜色の少女のことを。
某所で、電話線を指で弄ぶ男が笑顔を浮かべた。
「んっんっ〜〜、良いトリオですねぇ。好きだなぁ……。わかりやすくて」
歯車がズレ始める。
『未来』がギシギシと狂いはじめる。
潜む闇が、蠢き出した。
「ちょっとだけおちょくりますけど……、この程度で死なないですよね?今後があるなら能力も知っておきたいですし」
それは、殺意と呼ぶにはあまりにも禍々しく、そして稚気に満ちていた。
『キラキラ』と嗤いながら。
そして、心の底から楽しみながら。
純粋と無邪気と能天気は、意思は交差する。
「あっ、リッポーさんですか? 実はかくかくしかじかでして。はい、はい、そうなんですよ! あまりにも横暴すぎますよね! なのでリッポーさんの判断で、ぜひ『彼女』を厳正に審査していただきたいんです! ……元A級首? ああ、そうですね。収監されていましたね! ジン=フリークスの捕らえた、元クート盗賊団の。いえいえ! そんな! 私から彼の恩赦に関してだなんて! 全ての判断はリッポーさんに一任していますから! それに私は副会長で、ハンター試験に関しては会長が権限を持っています、何もできることはありませんよ。ええ、はい。そうなんです!それで厳正なる審査をリッポーさんにはお願いしたいんです。そんな! 私であればいくらでも力になりますよ! その時はよろしくお願いします! はい! ではまた」
どこまでも、どこまでも。
人の
本日18:00に本編更新します。
よろしくお願いします。
P.S
念のためこれまでの本編情報補足
ネテロ>パリストンにビスケのことを教える
パリストン、ビスケに関して調べる>ネオンのことを知る、興味を持つ。
『ヨークシン』モラウたちの移動で判明(今話+間話:パリストン)
『A級首』ビスケがネテロに提案した際の発言(ブループラネット2/2)