──ライト=ノストラードの影響下から抜け出す事。
決意を抱いてから、既に数日が経っていた。
記憶にある通りの日常を送る事を意識したからか、少し気疲れがあるものの、概ね問題は起きていなかった。
誰もが俺のことをネオン=ノストラードとして認識して接してくる。
記憶があるのだからヘマをする事はあまり考えられないのだが、それでも不安はあった。
それが杞憂であるとわかった安堵を抱きながら、オレは侍女が用意した紅茶を嗜む。
元々のネオンにもこういった教養があったようで、紅茶の味と香り、そして雰囲気を楽しむ事に周囲が訝しむような不自然さはない。
椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばす。
骨盤をどっしりと使って身体のラインを美しく見せる座り方を実践しつつ、カップを優雅に傾る。
これだよな。
この圧倒的財力強者の余裕。
頬がニマニマ緩むほど素晴らしい。
触れれば割れてしまいそうなほど繊細で薄地の白い陶磁器。
その器に装飾された美しい金字の線。
花と蔦を表現している技巧は見事という他ない。
注がれる紅茶は全て高級茶葉のロイヤルドロップ。
専門の知識を持った侍女が注ぐ香り高い紅茶を口元に近づけるが、まずは香りを楽しむためゆっくりと潜らせる。
はー、幸せ。お金持ち最高。
……贅沢に絆されている自覚はある。
すぅっと鼻から飛び込む香りを楽しみながらつくづく思う。
生活水準が上がった生活に慣れてしまうと下げる事が難しい、と話には聞いていたがまさしくその通りだった。
まだ数日しか経っていない。
目標として定めたライト=ノストラードの影響下から脱しようという気持ちは微塵も揺らいでいない。
……なのに。
最悪、この身一つで明後日の方向に駆け出そう、と考えていたプランを全力で投げ捨てるほど馴染んでしまった。
味わってしまえばもう無理だ。
この生活を捨てて生きていくなんて考えられない身体と精神になってしまった。
ベッドにルパンダイブ決めながら惰眠を貪りつつ、紅茶や食事、お菓子を嗜んでたまにお出かけして散財し、インターネットでネットサーフィンを決める……。
幸せだ。そんな未来は想像するだけで頬が緩んでしまう。
おっと、いかんいかん。
妄想に浸りすぎていた。
なまじそんな生活が手に届く場所にあるのがダメだ。
手を伸ばして自堕落に生きる事は簡単だが、まだ若い身空で堕落したくはない。
可能性が広がっているのだ。
何にでも成れるのだ。
若いというのはそれだけで価値があるのだから、無駄にすべきではない。
決意を新たに、オレは、ひとまず今すぐに出来ることを。
つまり、淹れたての紅茶を無駄にせぬために全身全霊を懸けてお茶を楽しんだ。
──紅茶、いと
翌日。
ベッドでスヤスヤと眠りにつく
ベッドサイドにある出窓には両開きの大きなガラス窓が取り付けられており、薄いレース生地のカーテンを透過して美しい朝の知らせが部屋中に飛び込んできていた。
そんな早朝の恵みを全身に浴びながら、
朝日に照らされながら身体中の筋を伸ばす感覚が心地よい。
朝特有のぽやぽやした気分で鈴を鳴らし、侍女がベッドサイドに持って来た銀の桶で顔を洗う。準備万端の侍女からふわふわのタオルを受け取って顔を拭えば、テキパキと着替えさせられ、頭皮や全身のマッサージをした後に髪を整えて軽く化粧をする。
その頃には目もぱっちりと冴えている。
用意された至福の朝食を食べて、お腹が満ちればこの数日で決めた『念能力』の時間だ。
渋る侍女たちを追い出して本当の意味で一人きりになる。
ベッドに座ると眠くなるので、硬い床に座って瞑想する。
ネオン=ノストラードは『念能力者』が身に付けるべき四大行を知らなかった。
四大行とは、いわば念を使いこなすための修行、基礎である。
これは今後を考えるとかなり致命的だ。
なので早急に『念』の第一歩目である知覚から始める必要がある。
焦らずゆっくり起こす。
そのイメージで今日もみっちりと『点』を行う。
開いた窓から優しい風が吹き込んだ。
風が髪を揺らし部屋を抜けていく。
そうして朝の時間は穏やかに過ぎてゆく。
お昼になった。
座っていた身体を崩し、固まった身体を思いっきりストレッチして身体を解しながら鈴を鳴らして昼食を呼ぶ。
──おいっちにっさんし。ほっ、よっ。
ぐいぐい筋を伸ばしておく。
しばらくして、ホテルでよく見かけるカートに並べられた極上の料理たちが到着する。
侍女が持ち運び、配膳される端からバクバクと食べる。
どの料理も一流のシェフが作ってくれたものだ。余すことなく美味しい。
幸せな舌鼓を打ち、食べ終えればネットサーフィンの時間だ。
今度は侍女を追い出さず、ティータイムと洒落込みながら買ってもらったパソコンに齧り付いて色々な情報を確認する。
一番最初に気にしたのは現在が原作の何年前なのかだった。
調べた結果、現在は1995年の4月6日。
原作開始が1999年1月なので、約4年前だった。
ちなみに、ネオン=ノストラードの誕生日は10月16日だった。
なので、原作開始時には19歳ということになる。
原作開始年の1999年10月には20歳になる。
その他の情報。
特に原作に関わってくるものは全て調べた。
ハンター試験の噂。
ゾルディック家。
天空闘技場。
ヨークシンシティ。
グリードアイランド。
NGL。
キメラアントの生態。
ハンター協会の十箇条。
カキン王国の歴史。
くじら島の情報まで見た。
そして。
最後に取っておいた、オレにとって一番重要で最も注意しなければならない相手。
──『幻影旅団』に関して調べた。
結成時期は不明。
初めての犯行はミンボ共和国での美術館襲撃事件。
死者多数、被害総額15億J以上。
堂々たるデビュー戦だ。
その後も壮々たる戦歴を重ね、つい最近A級首に認定されている。
きっかけとなったのはクルタ族の虐殺だった。
ハンター協会が認定するA級の認定は想像よりもずっと重かった。
かなり雑に言うなら、B級は国家単位での対応で、A級は世界単位での対応が必要。
もっと言うなら、B級はプロハンター複数人での対応を推奨。A級はハンター協会が動くレベル。
つまり、世界的に見ても、プロハンター基準で見ても、超々危険な人物、集団がA級首なのだ。
そして、4年5ヶ月後の1999年9月。
オレは『ヨークシンシティ』で、そんな危険集団の団長に狙われる運命にある。
……泣いてもいいですか。
読みやすさのため、学校の件を削除。
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誤字報告お礼
『kuzuchi』さんありがとうございます。
P.S
(下記は読まなくても問題ありません)
次回予告
彼女はとんでもない物を盗んで(壊して)行きました。そう、私の『プロット』です。
3話目にしてプロット全壊しました。全部組み直しです。犯人は明日のこの時間に。