今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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『トリックタワー』たぶん3話で終わります。
よろしくお願いします。

約7000字


トリックタワー 1/3

 

 

 

『──ちょっと、ちょおぉっと待って。……じじいが、誰に、なにを、悟らせたって?』

 

 飛行船内部。

 ネテロとの遊びを終えたネオンは真っ先に電話を探してビスケに報告していた。

 

 そんな、電話口を経由してすら『ゴゴゴゴゴ』と聞こえそうなオーラを滲ませながら、ビスケは底を這うような声を出している。

 自分が怒られている訳でもないのに、条件反射で背筋を『ぴーん』と伸ばしたネオンが勢いよく喋った。

 

「はい!! ネテロさんが、副会長に、『マル秘』のこと悟らせ──」

 

『寝てろやあのじじい!!!!』

 

『ドンガラガッシャーン』と電話口からけたたましい音が鳴って、咄嗟に受話器を耳から離したネオンが恐る恐る再び耳に添える。

 

「……ビスケ?」

 

『で、じじいはそこに居るの?』

 

 少しは落ち着いたものの、いまだ烈火の如く怒っているのが丸わかりな声色のビスケだった。

 

「う、うん。代わるね」

 

 ネオンは受話器を持ち、背後に立っていたネテロに電話を代る。

 

 重々しく威厳のある仕草でネテロが受け取る。

 研ぎ澄まされたオーラがネオンの肌を突くほどだった。

 真剣な面持ちで、低く渋い声でネテロが言った。

 

 

「ビスケット。非常にまずいことになったようじゃ」

 

『あんたがそれ言う?!』

 

「元はと言えば、お前さんが端折るからいかんのじゃろうが。ちゃーんと話してればわしも無茶振りせんわい」

 

『いーえ。あんたならこの子のことを知れば嬉々としてシャレにならない難題吹っ掛けるでしょうが!!』

 

「……まぁ、その事は置いといて」

 

『今回の本題はそれだわさ!!』

 

「ところで、最近ちと暇が増えての。ハンター試験も終わることじゃし、幹部会にもう少し頻度を上げて出席できそうじゃ」

 

『……そう』

 

「うむ。そこで誰の手が空くかわからんが、まぁお前さんの好きなようにすればええんじゃないか?」

 

 その言葉が意味するのは、おそらく『十二支ん』を動かせるという意味。

 これは、もし実現すればかなり大きいのではないだろうか。

 何人動かせるか不明な状態ではあるが、あの『アイザック=ネテロ』が選んだキワモノ達だ。

 いずれも各分野のスペシャリスト揃い。

 もしかすれば、犯罪者に対する特攻を持つであろうミザイストムも呼べる可能性がある。

 ネオンがそう考えたように、ビスケも同じ結論に至ったようで渋々ながらという声音を隠しきれないものの、利用する事を選ぶ返事を返した。

 

『……すぐ動くわ』

 

「それがよかろう。よろしく言っといてくれ」

 

『……ぐぬぬ。今度あったらぶん殴るわ。あと、感謝は、しないわよ』

 

「ほっほ、御自由に」

 

『はぁ、あの子に戻してくれる?』

 

「あいわかった」

 

 ほいっと渡された受話器を握る。

 ネオンは少しばかり心配しながら声をかけた。

 

「……ビスケ、ごめんね」

 

『あんたは悪くないわさ。……あたしがじじいに相談したのは安易すぎたわ。いえ、でも、じゃなきゃあの2人は雇えなかったし。うん、全部じじいが悪いわさ。とゆーか、あんたがハンター試験に参加してなかったら、下手すれば9月まで気がつけなかったかもね。それを考えたらあんたが動いたのは正解も正解。大正解だわさ。謝ることじゃないわよ』

 

「うーん、そうかもしれないけど。あたしもいろいろ関わっちゃってるんだよねぇ」

 

『……ま、ここまで話が進んだら誤差でしょ。戻ってきたらこの後どうするか、そもそも奴らが予定通りに動くのか。いろいろ調べて話し合いましょ』

 

「わかった、この後は出来る限りこのままで進めるね」

 

『そうねー、出来る限りね。あんたがどこまで出来るか知らないけど』

 

「ひどいなー、これでもちゃんと考えてるから! 止むを得ないところだけだよ!」

 

『好奇心は満たせた?』

 

「うっ」

 

『まぁ、不利になるような事をあんたがするとは思えないし、大丈夫だと思うけどね。そーだ。『ジョーカー』のことだけど』

 

「うん。なんかね、そっちは予想外に順調」

 

『そ。まぁ、それを活かせるかどうかも、作戦次第よねー。こっちでも改めて検討してみるわ』

 

「わかった、あたしも色々やってみるね」

 

『じゃ、そゆことで』

 

 

 

 

 ビスケとの電話が終わる約30分前の出来事。

 

『ゴオンゴオン』と音を響かせて飛行船が降り立った。

 その場所の名は『トリックタワー』。

 通常は内部に死刑囚を主とした者たちを捕らえるため、プロのハンターであるリッポーが管理する塔である。

 今回はプロハンター試験に利用するため、いくつかのギミックを備えたそのタワーの上部では、風が吹き遊び、その表面を削りとるように撫でる。

 寒々しい風が通り過ぎ、ほぼ凹凸のないその塔は、上空から降り立つ飛行船をしっかりと受け止めた。

 

 低音の衝撃音。

 決して軽くは無い。小さくも無い。

 そんな飛行船が小さく見えるほどに、この塔は広く大きい。

 

 到着を知らせるアナウンスが、飛行船内で鳴り響いた。

 

 第三次試験が始まる。

 ネオン=ノストラードにとっての、初めての命のやり取りが始まる。

『念獣』は警戒するように低く唸った。

 ただし、ネオンには知らせないように。

 

 ──なぜなら、そんな余裕はないから。

 

『生きて、下まで降りてくること。制限時間は72時間』

 

 

 

 

 

 塔の内部。

 そこはある程度の居住環境が整えられており、普段はいないメンバーが過ごすため、簡易的な布団なども持ち込まれていた。

 トランプを広げて暇を潰していた男たち。

 

 そんな中。

 一際身体の大きな、スキンヘッドの男がいた。

 大の字になって『ごーごー』と寝息を立てる豪快なその男は名前を『トロス』といった。

 

 そのすぐそばでプロのハンターが2人。

『試験官リッポー』と『前回試験官スカー』がいた。

 パイナップルのような特徴的な髪型をした、メガネをかける男。

 リッポーが『ニヤリ』と笑いながら呟いた。

 

「出番だね……」

 

 それに反応し、最近改名したスカーがニヒルに笑う。

 

「ついにこの時がきた……。ただの復讐者と化したオレを止めることなど誰にもできやしない……。くっくっく」

 

「あ、うん」

 

「ところで」

 

 スカーがニヒルな笑みを引っ込めてすぐ横で寝息を立てる大男を見て言った。

 

「こいつ、こんななりで役に立つのか? いや、オレは復讐者。他のことはどうでもいいが、ほんの少し気になってな。『念能力者』のために用意したんだろう?」

 

「問題ないよ。これでもA級首の元クート盗賊団の団員だからね。あの『ジン=フリークス』が捕らえた奴さ。逃げる心配もないし、手錠もすぐ壊すから嵌めてないくらいだし」

 

「ほう、それなら問題なさそうだな」

 

「……ところでお前、なんで急に名前を変えたんだ?」

 

「オレは復讐者だ。この傷をヒソカに受けて生まれ変わったんだ……。スカーと呼んでくれ」

 

「あっそう」

 

 少しばかり居心地悪そうにリッポーが監視画面に視線を戻した。

 そこではちょうど、受験生達が飛行船から降りて、『トリックタワー』の上部を歩いている場面だった。

 気持ちを切り替えて『ニヤリ』とリッポーは笑った。

 

 

『第三次試験 参加人数41名』

 

 

 その頃。

 ネオンはまだ飛行船に乗ったまま電話の準備をしていたりした。

 続々と『トリックタワー』の屋上から脱出する受験生を尻目にネオンはまだ動けない。

 

「ビスケ、電話に出て〜〜〜!!」

 

 最重要の報告をしない訳にもいかず、ネオンは半泣きで受話器を握り締めた。

 

 

 

 ようやくビスケに報告を終えて、ネオンがトリックタワーの屋上に姿を現したのは既に過半数以上が隠し扉を見つけて屋上から脱出した後だった。

 

 どの隠し扉にするのか選んでいる者。

 まだ扉を探している素振りを見せる者。

 壁を伝い外から降りられる場所がないのか探す者など様々だった。

 

 飛行船から降りて、ぐるりと周囲を見渡したネオンの目が『きらり』と光る。

 ネオンの勘が囁いた。

『あそこしかない!』と。

 ネテロとの手合わせを終えて、報告を終えて、テンション爆上がりのネオンは全く寝ていないにも関わらずコンディションは完璧だった。

 

「とう!!」

 

 一直線に隠し扉に向かったネオンが飛び込む。

 着地を受け止めた隠し扉が勢いよく回転し、ネオンを通して閉まる。

 

『ずん』と衝撃。 

 拳を突き、膝を突き、ニヒルな笑みを浮かべて華麗なヒーロー着地を決めたネオンが顔を上げる。

 

 そこには、茫然と自分を見つめる4対の計4人の瞳があった。

 

 というか『ゴン』『キルア』『レオリオ』『クラピカ 』だった。

 

「──ッッ!?」

 

 ビスケについ先ほど言った言葉がリフレインした。

 

『わかった、この後は出来る限りこのままで進めるね』

 

 ──約束、破ることになりそうです。

 一昔前の少女漫画の如き愕然とした面持ちで、ネオンは薄らと涙すら滲ませながら空を仰いだ。

 コンクリートの天井が見えるのみだった。

 

 ──ここしかないってこういうことかぁぁあああ!! 

 

『トリックタワー 多数決の道 開始!!』

 

 

 

 クラピカは思った。

 何故、ここに彼女がいるのかと。

 既に30分以上も経過している、強さはあってもこう言ったギミックは不得意なのか。

 それにしても遅すぎる。

 疑念混じりの視線を向けたクラピカに対して、少女は無理やり笑うかのような、かなりぎこちない笑みを浮かべた。

 

 脳裏によぎるのは、第一次試験の圧力のある姿。

 しかし、今の少女からはその雰囲気が影も形も無い。

 まるで幻か何かだったかのように、その存在感は普通だ。

 というより、彼女は全身で気まずいと表現している。

 

 狐に化かされたような釈然としない気持ちではあったが、同じ試験を受ける身として最低限の礼儀は必要だ。

 順番に自己紹介を繰り返す面々にクラピカも続いた。

 

「オレはゴン! よろしくね!」

 

「……あんた、あの時の。まぁあのじいさんからボールは取れっこねーよ。あ。オレ、キルアね。別に覚えなくてもいいから」

 

「オレぁレオリオってもんだ、よろしくな! 嬢ちゃん」

 

「……私は、クラピカだ。よろしく頼む」

 

 知っているようだが。その言葉を飲み込んだ。

 クラピカが視線を向けたのは監視カメラ。

 

(もし少女が私との接触を隠したがっているのであれば、この対応が正解になるが……どう受ける?)

 

 しかしその観察はほぼ無意味になった。

 

「あっ、あたしネオン」

 

 と言うや否やレオリオが詰め掛けたからだ。

 

「いやー、まさか嬢ちゃんみたいな可愛い子がこの試験受けてるなんて気がつかなかったぜ。美人に目がないと思ってたんだがオレもまだまだだ。しかも待ち望んでた最後の1人に来てくれるなんてよォ! ちなみにいくつなんだ? え? 19歳? オレと同い年じゃねーか、これは運命と言っても過言じゃねーよ、後で連絡先交換しよーぜ! ハンター試験に集まった仲間同士仲良くやろーな!」

 

(レオリオ……!!)

 

 ネオンと名乗る美少女を口説き始める、あまりにも呑気なレオリオに少し青筋を浮かべながら、クラピカは意識的に耳を閉ざした。

 

 

 

「──じゃあ、ネオンはなんでハンター目指してるの?」

 

「んー、理由は色々だけどねー。一番はあたしの趣味かな!」

 

「趣味ぃ? こんなつまんねー試験受けるのが? ぜってーもっと面白いことあるって」

 

 全力で口元を『イーッ』として否定したのは銀髪の少年キルア。

 質問をしたのはツンツン黒髪の少年ゴン。

 そして少女と言ってもいい見た目のネオン。

 

 ハンター試験にそぐわないような『のほほん』とした雰囲気がそこに漂っていた。

 その後ろでクラピカは警戒しつつ、レオリオは口説くのを邪魔されたが文句を言うこともできずに後ろに続いていた。

 

 もはやここまで、と諦めてネオンは普段通りに対応していた。

『原作』が変わってしまう事を度外視すれば、こうした会話は楽しい。

 当初の気まずさも当惑も忘れて、少しウキウキしながらネオンは話す。

 

「そういうゴンはお父さんだっけ?」

 

「そう! オレの父さんもプロのハンターなんだ。あれ? でも話したっけ?」

 

「ふっふっふ、あたしはなんでも知ってるからね〜」

 

「はーん。どうせオレたちの会話盗み聞きしたとかだろ? きたねーやつ」

 

「そういうキルアくんは、ダーツ7歳で極めたよね」

 

「……7歳? もっと早いから当たってないね」

 

「そっかー?」

 

「それより! みろよ、どうやらイベント開始みたいだぜ」

 

 

 

 キルアがそう言って顎をしゃくった先には、四角く開けた空間があった。

 大きな空洞の空間の真ん中に、まるでコロシアムのような舞台が整えられた四角い足場がある。

 四角い足場には、4つの端に火の灯った篝火が備え付けられ、舞台の中央端っこには、マルバツを行うためであろうディスプレイも付いていた。

 

 ゴンたち一行から見て、その場所にいくための足場はない。

 完全に四方を奈落に隔離された、正方形の戦闘舞台だった。

 

 その向こう側。

 ゴンたちから見て真向かいに位置する場所に、人だかりがあった。

 彼らからも中央の足場に続く道はない。

 

 そのうちの1人が何事かをカメラに向けて喋って、その手に掛けられていた手錠が外れて、着ていた貫頭衣を脱ぎ捨てた。

 姿を現したのは頭部に傷痕の残るスキンヘッドの男。

 

 軍人らしき面影のある男は、大きく口を開きルールを宣言した。

 

 まとめれば

『我々は試練官。いわゆる長期死刑囚というものだ。キミたちは私を含める5人の試練官と戦わなければならない。勝負は一対一。各自一度しか戦えない。順番は自由。多数決であるため3人が勝利すればここを通過できる。戦い方は自由。引き分けはないため、片方が負けを認めた場合のみ、残された片方を勝利者とする』

 

「そして、最初の試練官はこのオレだ。さぁそちらも選ばれよ!!」

 

 

 説明を聞き終えたゴンたちは、少し顔を合わせて相談した。

 クラピカが主導して話を始める。

 

「可能であるなら、初戦は勝っておきたい所だ。しかしそれは相手も同じだろう。3勝すれば良いのだから、当然先に勝った方が心理的な余裕を得ることができる」

 

「だが、誰が行くんだ? この中で一番自信がある奴ってーと……」

 

「んー、じゃあ、オレがいくよ!」

 

「……いや、ゴンは下がってろよ。あいつはオレのが適任」

 

「キルア?」

 

「別に、お前のこと信じてねーわけじゃないよ。ただ、ああいう手合いはオレの方がいいと思うね」

 

「……任せて良いのだな?」

 

「さぁね。負ける気はないよ」

 

「おいおい、ほんとに大丈夫か? やっぱここはオレが……」

 

「無理だって。あれ、たぶん元軍人か傭兵崩れっぽいし。あんたじゃ荷が重いよ」

 

「……まじか? ってお前、そんな相手に挑むつもりか!?」

 

「へーきだよ、まぁ見てなって。……あと、あんたの出番はないから」

 

 ネオンを見て静かにそう言ったキルアに対して、ネオンは『にへら』と笑って答えた。

 鼻を鳴らしてキルアは思う。

 

(その余裕綽綽とした顔気に入らねー。度肝抜いてやる)

 

 掛けられた橋を気軽い足取りで渡ったキルアが軍人に向けて言った。

 

 

「ルールはどうすんの?」

 

「小さなボウヤか、気は進まないが、これも試練官としての務めだ。オレは一方が死ぬか降参するまで戦うデスマッチを提案する!」

 

「おっけー、でさ、あんたも犯罪者なの?」

 

「……ふっ。そうだ。強盗殺人で懲役199年だ。……これでいいかね? それでは、勝負!!」

 

 自信満々。むしろ無謀。

 若さゆえの過ち。

 軍人の男がキルアの姿と言動から連想したのはそういった、あまりにも的外れな感想だった。

 すぐに勝負を決める。懲役を自ら明かしたのはその後のお楽しみのため。

 自信満々な少年を時間たっぷり可愛がってやろう、と。

 

 その答えは、じんわりと血が染み出す『自らの胸部』が教えてくれた。

 

「……な、に?」

 

 男は、少年に向かって駆け出していた。

 その、はずだった。

 しかし。

 目の前には少年の姿はない。

 探すように振り返れば、そこにはドクンドクンと脈を打つ肉の塊を握った少年がいた。

 

 ──汗が噴き出た。

 理由は、考える前に実感してしまった。

 胸から走るこの痛み。流れる血。目の間の心臓らしき臓器。

 

 オレの、心臓? 

 

 固まって動くことすらできない軍人の男に対して『ニヤリ』と悪魔的な微笑みを浮かべた少年が、手に握った心臓を握り潰した。

 遅れて手を伸ばすも届かず、倒れ伏して、震えるのみだった。

 強盗殺人犯ベンドット。

 懲役199年を終える前に死亡。

 

 

 

「あ、暗殺一家のエリートォ!?」

 

 戻ってきたキルアを出迎えたのはレオリオの馬鹿でかい声だった。

 その声に眉をひそめたキルアが、ゴンが手を上げて待っていることに気がついて『きょとん』と目の強張りを解いた。

 

(……コイツ。今、目の前で人殺したってのに)

 

 まるで気にした様子もなく、キルアを受け入れている姿が見えた。

 どことなく嬉しい、というのだろうか。

 

「キルア!」

 

「……おう」

 

 少しの安心を胸に、キルアはゴンとハイタッチを交わした。

 俯かせた顔に薄らと喜びを滲ませながら。

 

 そして壁に近づいて座り込むと、ふと視線を感じる。

『によによ』と自分を見つめる少女の視線だった。

 

 キルアは察しがいい。

 そのため視線の意味合いも理解してしまう。

 ──喜んだことがバレてる。

 かーっと耳先まで赤くなったキルアが、『キッ』と眦を引き上げて思い切り顔を逸らした。

 

(コイツ、ぜってーオレと合わねー!!)

 

 ネオンからどことなく『ババア』を感じたキルアの心中は、幸いにもネオンに伝わる事はなかった。

 

 

 

「じゃあ、次はオレが行くね!!」

 

 キルアに引き続き勢いに乗ったゴンが、爆弾魔セドカンの蝋燭の試練を突破。

 これでゴンたち一行の2勝になった。

 

 

 

 後のない試練官たちに漠然とした不安が襲う。

 ハンター試験が毎年行われるとはいえ、彼らが試練官として選ばれることは基本的に珍しい。

 今回この『トリックタワー』がハンター試験とされたのはたまたまである。

 ゆえに、このチャンスは物にしたい。

 そういった雰囲気が彼らにはあった。

 しかし、そういったものを一切気にしない男もいた。

 

「オレにやらせろ、このまま、シャバの肉をつかめないなら、おまえらの肉から引きちぎってやる」

 

 残る試練官たちは何も答えられない。

 残っているメンバーはどれも荒事とは無関係。

 この凶悪殺人犯に抵抗できる者はいなかった。

 

「……おい、オレの錠をはずせ」

 

『了解』

 

「久々に、シャバの肉をつかめる……」

 

 凶悪殺人犯の枷が、地面に落ちて甲高い金属音を立てた。

 

 ──真向かいではネオンが立ち上がってアップを始めていた。

 

 

 

 





明日18:00投稿予定です。
よろしくお願いします。

明日は短めです。


────
誤字報告お礼
『佐藤東沙』さんありがとうございます。

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