今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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微グロ注意です。
約5000字


治療

 レオリオは、己の中に渦巻く感情に名前すら付けられず、目の前で繰り広げられる戦闘から一瞬すら目を離さず見つめ続けていた。

 奥歯を噛みしめながら、わかっていることはただ一つだ。

 

(っとに、情けねェ……!!)

 

 女の子が戦っている。

 仲間が戦っている。傷つくことも厭わずに。

 自分の力不足。圧倒的な力量差に対する恐怖心。

 戦わなくて良かったと言う安堵。

 

 どの思考に対してもひたすらに情けないとだけ思った。

 愚直で、直情的で、そして仲間想いな、レオリオらしい感情図だった。

 

 だから、口元に砕けんばかりの力を入れていたレオリオが、戦闘終了と同時に鞄を脇に抱えて駆け寄ったのは当然の行動だった。

 三重の柵が開くか開かないか、という程に急ぎ、駆けつけたレオリオが目にしたのは、両腕の皮膚が、移植が必要なほどに損耗し、腕の肉が削げている少女が力なく横たわる姿だった。

 

 その姿を見た瞬間。

 レオリオは、訳もわからず流れそうな涙を歯を食いしばって耐えて、早急に応急手当てに入った。

 

 レオリオの見立てでは熱傷に近い。

 あまりに速すぎる速度が摩擦熱を生み、ネオンの腕を熱を伴って擦った結果だった。

 あの想像を絶するほどの速度に触れて形が残っているだけでも凄まじい技量であるが、そんなことは何の慰めにもならない。

 

 人体の30%の皮膚を失えば、体温管理など様々な問題が生じて死に至る。

 医者の卵とはいえ、レオリオにはその知識があった。

 

 肘から先のほぼ全ての皮膚を失った場合も、即入院が必要なレベルの熱傷である。

 

 そして現時点でレオリオができる事は応急手当しかない。

 自分自身の無力さを痛感しながら、そう判断できるからこそ、レオリオの心中は平静では居られない。

 忸怩たるものを抱えながら言葉に代えて漏らした。

 

「くっそ……。ちくしょォ。何がハンター試験だ。ひでェ事しやがる……!!」

 

 もしかすれば痕になるだろう。

 いや、痕が残る可能性の方が高いとレオリオは判断する。

 例え傷が塞がったとしても一生残る傷。女の子が肌にどれほど気を使うか知っているだけに、気持ちの籠もった声だった。

 

 

 ──ネオンとトロスの、世界最高峰の戦闘を見た後に、これ程までに医者に準じる事が出来ると言う事がどれほど稀有な事であるのか、レオリオは理解していない。資質で言えば、未来でジン=フリークスが1番の収穫であったと言わしめる程の人物であるその片鱗が垣間見えた。

 

 

 レオリオがあまりに早く駆けつけたために、少し遅れてクラピカ、ゴン、キルアが合流した。

 3人ともがレオリオが処置を開始しているネオンの姿を見て息を呑む。

 素人目で見ても重傷であることは疑いようもない。皮膚の下が露出している傷跡はあまりにも生々しい。

 

 見るだけでもわかる悲惨な状況だ。聞かずとも結果はわかり切っているが、しかし、それでもクラピカは医者ではない。

 自分の見立てが間違っている可能性もある。状況把握も含めてクラピカが問うた。

 

「……レオリオ。どうだ?」

 

「どうもこうもねェよ……!! 下手すりゃ死ぬぞ! 試験官は何考えてやがる!?」

 

 死ぬ可能性。

 しかしそれはハンター試験を受けるものなら誰しもが覚悟していることだ。

 あえて言及せずにクラピカは続けた。

 

「私の包帯も使えるか? 他に、何かできることがあれば教えてくれ、力になる」

 

『あえて言及しない』そういったクラピカの気遣いにもレオリオは気がついた。

 バカだ、と自分のことを卑下する彼ではあるが、そういった感性に欠けている人物ではない。

 感情的な部分を抑えて、努めて冷静に出来ることを確認し直すように言葉を繋ぐ。

 

「……おう。いや、とりあえず応急処置しかできねェ。即行病院連れていきてェとこだが……」

 

「まず不可能だろうな……。もちろん、彼女が棄権すれば別ではあるが、ハンター試験中の生死は自己責任とされている」

 

「ちっ! わかってる!! ……だが、ここの試験官は一発ぶん殴らねェと気が済まねー……!!」

 

「……そうだな。だが、今は彼女に感謝するからこそ、早急にこの試験をクリアしよう。そうすれば、残り時間を安静な場所で休ませることが出来るだろう」

 

「それしかねーか……」

 

 感情的になっていてもレオリオの手が淀むことはない。

 的確に素早い応急処置を完了させたネオンの両腕は清潔な包帯で覆われて保護された。

 そして治療を邪魔をしないように、静かに待っていたゴンが心配そうに問いかけた。

 

「レオリオ、どう?」

 

「ゴン……。とりあえず、応急処理は終わりだ。わりーが、オレが運ぶぞ。道中は任せるぜ」

 

「うん、わかった。オレとキルアが先に行くね」

 

「……ま、しょーがないか」

 

 キルアがそう続ける。

 視線はネオンに向いており、怪我に対しては4人の中で一番淡白な反応をした。

 ──だが。

 その内心では、先ほどの戦闘風景が焼きついている。

 この時点でキルアが圧倒的な格上と接触した事に意味があるのなら、それは、彼の兄に関係する話となるだろう。

 今はまだ先の話である。

 

 ゴンとキルアが先導してトリックタワーを進み、最後の設問にたどりつく。

 

 5人全員で進むか、2人を鎖に繋ぎ3人で進むかの二択に全会一致で5人で進む道を選ぶ。ネオンは気絶したままであったために、レオリオが代わりに押した。

 そしてゴンの機転で、5人ルートの道から壁を壊し、3人ルートの滑り台に繋がる時間短縮ルートを通った5人は、無事に『トリックタワー』を脱出した。

 

 攻略時間:7時間13分! 

 

 

 

『トリックタワー』攻略後の広場である。

 円状の、扉が各間隔で備えられた空間の隅に座るのは未だ一人だけ。

 積み上げたトランプタワーを崩し終えて、不気味なほど静かにトランプを触る彼以外、まだ広場には誰もおらず、彼が触る音以外に何もない静寂が広がっていた。

 

 微かな振動音がした。

 

 当然。

 そんな彼がその音に気がつかない訳もない。

 ヒソカの聴覚は、自分の次に『トリックタワー』をクリアしたであろう人物が来ることを察知し、そしてそれが『誰か』すら推測していた。その答え合わせと言わんばかりに射抜く眼差しに応えるように、脱出口が持ち上がって開かれる扉が映った。

 

『トリックタワー』の中から5人が急いだ様子で出てくる。

 ヒソカが気にかけている、『ゴン』『キルア』『クラピカ』『レオリオ』。

 そして『ネオン』だった。

 

 そのネオンが、たった1人だけお姫様抱っこで運ばれている。しかしそんなことはどうでもいい。

 それ以上に重要な事があった。

 

 立ち上がるヒソカは、非常に静かだった。

 まるで嵐の前の静けさを想像させる凪を前に、ゾクリとした悪寒が、広間の新たな客人たちの背筋に走る。

 

 ──手合わせしなくとも、ヒソカは一目である程度の実力を見抜くことができる。

 その感覚で言えば、これまでのネオンは40点ほどである。

 伸び代を含めればその倍以上になるが、見た時点での実力はその程度である。

 

 ヒソカの40点は平均を下回るという意味合いでは断じてない。

 ヒソカが『戦って』楽しめるかどうか、の加点式である。

 それゆえに今後に期待という意味も込めて少し厳しめに点数を見積もっていたところはあった。

 

 だが、それは以前までのネオンの話である。

 今のネオンから感じる点数は、60点を超えて尚も先がある。ヒソカですら、底が見透せないほどに変化したという事。

 1日すら経過していない。

 最後に見た時から僅か24時間未満で、これほどの変化を迎えている。

 

 先刻のネオンの予兆を感じ取っていたから、ヒソカは変化に気がつくことが出来たのか。

 ──否。その程度の『情報』ならばヒソカは一目で感じ取る。

 

 静かな仄暗さを含んだ瞳でネオンを見つめながら、ヒソカの全身に電流にも似た喜びが駆け巡っていた。

 この短期間で何があったのか。

 先刻に感じたオーラの鳴動。アレが原因だとヒソカは思考すら持たずに断定していた。

 

 どれほどの激戦であったか、遠方からでも察したヒソカであるから、その結論も当然と言えば当然であった。

 そして、その当事者を前にしてヒソカが堪えられる筈もない。

 

 静かに近づいてくるヒソカを見て、すぐに距離を取ろうと移動する面々。『ザ、ザ、ザ』と無造作に歩み寄るヒソカに対して、レオリオたちが健気に警戒した様子を見せる。ヒソカは言葉を発する前に、ようやく表情を露わにした。

 ──『ニンマリ』と無邪気に邪気を込めた表情を。

 

「やぁ♥彼女、どうしたの?」

 

 返答は、警戒したような沈黙だった。

 全員が静かに身構えるのを見取って、ヒソカはあえて爽やかに笑おうと心掛けて──、失敗した。

 ここで話を聞けないことは不本意だ。けれど、それ以上に美味しい果実が目の前にある現実が上回る。ネオンを守ろうと、立ち塞がる面々のオーラを目にして、衝動を応えるように震えてしまうのは、もはや性である。

 

 その思考は、我慢に我慢を重ねるヒソカらしくもない軽率な判断であった。

 けれど、それほどに、トロスから生じたオーラは刺激的すぎた。オーラ量で言えば、未来におけるモントゥトゥユピーにすら比肩し得る莫大なオーラに影響を受けてしまえば、ヒソカが正常で居られる筈もない。

 ──殺ってしまおうか。

 

 僅かに漏れた稚気。

 ヒソカからすれば、喉を撫でて可愛がる程度の殺意も、昂ったオーラも相まって面々に凄まじい衝撃を齎した。

 クラピカは意志に反して一歩下がり、ゴンは喉を鳴らして硬直し、レオリオは完全に身体が固まって動けず、キルアに至っては即座にその場から退いたが、抗った意志の狭間を示すように、滝のような汗を流した。

 

 そして殺意に晒されたネオンが生存本能に従って飛び起きる。

 周囲を見渡すまでもない。元凶たる一人を目視して、思考が挟まる余地すらなく包帯の巻かれた腕を構える。念能力は現在使えない。それでも、染みついた習性からの行動だった。

 

 常人ならば恐慌しておかしくない圧力を正面から浴びせられ、それでも各人が最低限の意志を残し得たのは、先刻のネオンとトロスの激闘を肌で感じたが故の経験値の差だった。それほどまでに、ヒソカの発する殺意は常軌を逸している。

 

 ゆらりと一歩が踏み出され、殺戮が開始される。

 そんな光景を幻視するほどに、場の緊張感は急激に高まって──。

 

「──ほっほ、現場ならではか。なんともいえぬ緊張感が伝わってきていいもんじゃ。年寄りには良い刺激になるのォ」

 

 現れた乱入者を前に、ヒソカの焦点が切り替わる。

 白髪を頭上で纏める老人。ハンター協会会長たるアイザック=ネテロが飄々と歩いていた。

 

「ほれ、怪我人はこっち。こっち」

 

「あ、あたし?」

 

 手振りでトリックタワーの外を指し示されて、自分を指差したネオンを前に、ネテロは深く頷いた。

 

「ま、一旦外じゃ。少し借りてくぞい」

 

「──くっくっくっ」

 

 不気味なほどの笑い声が場を埋める。

 顔を上げたヒソカの形相は、これまでにないほどの凶相と化していた。

 

「今一番戦ってみたい相手が来てくれるなんて、驚いたよ♠︎」

 

「ほ?」

 

「代わりになってくれるんだろ?♣︎」

 

「ほっほ。お好きにどうぞ」

 

 そう言って、全くの無警戒で背後を向けるネテロの姿に、ヒソカが呆気に取られて半ば殺気を霧散させた。

 僅かに殺気が緩めば、正常な思考が戻ってくる。ここでネオンを殺してしまえば、後の楽しみが消えてなくなる。それはヒソカにとって大きな損失。そんなこと、考えるまでもなく理解が及ぶ。

 

「……残念♦︎」

 

 ──だけど。

 ヒソカは、両手のトランプを凄まじい技量を持って念を込めて放った。

 標的は、むろんのことネテロである。

 

 こんなに熟れたご馳走を前にして、ヒソカが黙っているわけもなかった。

 迫り来る背後からの攻撃。背に瞳の付いていないネテロに感知する術はない。周囲を感知する技術で在る『円』すら使っていないことは念能力者であれば理解できる状況。

 誰もが通ると考えた。考える間すらない寸瞬ではあったが、刹那的な直感は誰もがあった。故に、その『防御』を予想できた者は限りなく少ない。

 

 ──『ソレ』を目視出来たものは、実質的には存在しなかった。

 しかし、在る。確かに在るのだ。

 飛来する瞬きの間すらない速度を誇るヒソカの、全力ではないとはいえ殺意溢れる攻撃を、『たわむれ』にまで堕としてしまう存在が。

 まるでトランプを放った事実そのものが消えてしまったかのように、一陣の風が吹き抜ける。後に残るのは、少しばかり満足げに頬を緩めたヒソカだった。その両目に、見えるはずのない観音を焼き付けて。

 

「……良いものを見せてもらったよ♥」

 

「はて、なんのことか」

 

 とぼけて、振り返ることすらせず、背を向けながら悠々と歩き去るネテロの後ろ姿は、確かに彼こそがハンター協会会長であると確信するに足る器量を迸らせていた。

 

 

 

 

 

 




次回更新は明日18:00予定です。
よろしくお願いします。


追記

念ネオン=60点
切り札ネオン=??点

修正前:ヒソカがオーラに気付けずも、ネオンの成長を感知。ヒソカがネオンを治療。
修正後:ヒソカが塔の防壁突破してオーラ感知。ヒソカ治療せず、ネテロ介入。



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誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『kuzuchi』さん
『geardoll』さん

ありがとうございます。
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