今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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約4000字。




ゼビル島

 

 

 

 ──ゼビル島。

 ひょうたんのような形をした、真ん中が少し凹んで、くびれのある小さな島である。

 ただ小さいと言っても、それは平均的な陸地と比較すればの話である。

 つまり、総勢25名の受験生が過ごすにはあまりに広い。

 

 そんな広くて大きな庭がハンター試験第四次試験の舞台であった。

 

 ネテロに連れられて可能な限りの治療を受けたネオン。

 くじ引きの最中にリッポーの顔面を殴り、辛うじて失格にならなかったレオリオ。

 鼻血を流しながらも試験官を全うしたリッポー。

 そんなちょっとしたアクシデントを挟み。

 

 ネオンが引いた『標的』となる番号札は『53』のポックルであった。

 そして、7日間のサバイバルが始まる。

 

 

 

 動植物の音に紛れながら、ゆったりと歩いている少女がいた。

 桜色の頭をひょこひょこと揺らしながら、ピクニックでもしているかのように軽快に進むのは『209番の少女』だった。

 移動する彼女はまるで隙がない。

 試験開始直前まで(寝込んでいたので出発も最後だった)怪我で寝込んでいたとは思えないほどの隙のなさに、歯噛みする2人組の男達がいた。

 

 ウモリとアモリである。

 少女の後方で尾行しつつ、隙を窺っていた彼らではあったが、このままでは埒があかないと計画を立てる。

 とはいえ、複雑なものではない。

 前方から1人が声を掛け、その隙に少女の背後から残る1人が襲いかかるという、単純な作戦だ。

 阿吽の呼吸で作戦を組んだ彼らのうち、より注目を引きやすいという理由でウモリが囮役を行う。

 

 少女の歩行速度は速くない。

 少し大回りして走れば簡単に前方から接触することができるだろう。

 チャンスはその時。

 近づく攻撃の機会に、アモリは『ニヤリ』と笑った。

 

 後方に残って尾行を続けるアモリの目の前で、他愛のない会話が行われた。

 ウモリが前方から少女に接触することに成功しており、幾つかの会話が生まれていた。

 頃合いを見計らい、アモリが『ソロソロ』と少女の背後に近づいていく。

 

(悪いな、これもハンター試験。俺たちに狙われた、自分の運がなかったと諦めてくれ)

 

 再び潜み笑いを浮かべたアモリが、慎重に移動を完了させ、作戦成功を確信しながら少女の背中に襲いかかった。

 ──始めに眩暈。痛み。そして困惑。

 グラついた視界の中で辛うじて残った思考力で判然としたのは、ただそれだけの言葉の羅列だった。

 

 草むらから飛び出したアモリを迎えたのは、視認不可能な高速の後ろ回し蹴りであった。

 手心を加えられたその蹴りは正確に顎を捉えており、アモリの脳を揺さぶった。

 

 視界が眩む。

 襲った側であるはずのアモリは、訳もわからずに『ぐらぐら』と左右に揺れながら尻餅をついた。

 

(何が、起きた……?)

 

 数瞬前の記憶すら、定かではない。

 襲ったことすら思い出せず、鼻水を流しながら、必死に探った結果を出す前に少女の声が聞こえた。

 

「……あー、ごめんね。手加減しすぎちゃった。今楽にしてあげるね」

 

 その言葉を皮切りに、アモリの意識は暗転した。

 

 

 

 順調だった。

 アモリが襲い掛かる前までは、確かに順調だった。

 目の前で、アモリが意識を刈り取られる様を唖然と見送りながら、ウモリは理解不能な事態に怒りを覚えた。

 その怒りとは、恐怖の裏返しだったが、ウモリが認めることはないだろう。

 無謀にも食ってかかる。

 目の前の、桜色の少女に向かって。

 

「アモリ!! くそっ、こうなったら俺1人で──」

 

「う〜ん。それは無理かなぁ」

 

 一瞬にして、目の前に少女が現れてそう言った。

 

 話していたと言っても、お互いに警戒する間柄だ。

 5m以上の距離を離して会話していた。

 アモリが襲い掛かったのもその地点。当然一息で詰められるような距離ではない。

 

 だというのに。

 手が届く超至近距離で、少女はチェシャ猫のように笑っている。

 そして身体がブレた。

 

 認識できたのなら、上段回し蹴りが非常に緩やかに(ネオン基準で)放たれていたことが理解できたであろうが、ウモリの視界では、その蹴りは瞬きよりも速かった。

 抵抗など無意味である。

 アモリと同じように、ウモリの視界が暗転した。

 

 

 

「……うっ、ぐぅ……」

 

「ウモリ、気がついたか」

 

 ウモリが気がついたのは、アモリの後だった。

 先に目を覚ましていたアモリが心配そうに自分を見下ろしているのを理解して、ウモリが地面に手を突きながら、頭を振って記憶を探る。

 

「ぁ、ああ。アモリか。くそ、どうなった? 何が起きた……?」

 

 その問いにアモリは答えられない。

 何も見えなかったのは、アモリも同じだったから。

 

「……わからねえ。ただ、あの女が見かけによらずクソ強いってことだろ……」

 

 半ば吐き捨てるように、アモリがそう言った。

 ウモリも同感であった。

 しかし、認められない、強い抵抗感があった。

 あんな少女に負けるなんて、彼のプライドが許さなかった。

 

 加えてウモリが一つの事実に気がつき、拳をこれでもかと言う程に強く握りしめた。

 

「ちっ! プレートまで残したまんまかよ!!? 舐めやがって……!」

 

 忸怩たる思いが残る。

 そう考えながらも、プライドが許さないながらも、もう一度挑もうという気はサラサラ起きなかった。

 あまりに、圧倒的な差を感じてしまった。

 

「……アモリ、どうする?」

 

 その問いかけは、その力の差を認めたくない心の現れだった。

 アモリが襲うと言うなら、また挑める。

 アモリが逃げると言うなら、言い訳に出来る。

 

 ウモリが内心で、明確な言葉にしてそう判断した訳ではない。

 漠然とした気持ちを言語化すればそうなる。

 だが、もし本当に言語化してしまっていたのなら、何がなんでも桜色の少女に挑んだであろう。

 そう言う意味では、ウモリがその気持ちについて深く考えなかったのは正解の判断である。

 

 アモリが言った。

 

「……一回退こう。あっちのガキまでくそ強いってことはねーだろ」

 

「そう、だな。わかった、引こう。……お前のターゲットはあの女だろ? お前だけ受からねーなんてことになっちまったら……」

 

「適当に他の3人狩るだけだろ。切り替えようぜ」

 

「あぁ、そうだな。まずはあっちのガキから確実に仕留めるか」

 

 その後、キルアを襲った彼らが、全てのプレートを失ったことは言うまでもない出来事だ。

 

「……やっぱ、オレつえーよな」

 

 3人組を撃退したキルアが『ぼそり』と呟いた。

 喪失し掛けていた自信を取り戻したキルアの行動が、『原作』から外れる事はなかった。

 物語は『正常』に進んでいく。

 

 ある一点だけ、『53』の番号札の男を例外として。

 

 

 森のとある地点でネオンが『円』を発動させた。

 多すぎる潜在オーラの量は、その『円』の形に影響を与えていた。

 

 その『円』には、一部の受験生が勘付いた。

 まるでアメーバのように安定せず、うねる『円』に触れた者は強い警戒心を抱く。

 そして、その中。

 弓を背中に備えるポックルもその1人だった。

 

(なんだ、この感じ……、誰かに見られてるような、身体中撫でまわされてるみたいな妙な感覚……!!)

 

 資質で言えば、ポックルに才能はある。

 簡単に例えるなら『ズシ』と同程度の資質は持っている。

 しかし、『念』を覚えていない状態で、あの『桜色の少女』に僅かでも抵抗できる力量が備わっているか、という質問に対しては、不可能と断言できる。

 

 ポックルがまだ知らない技術である『円』によって感知された後、理由なき危機感を覚えたポックルは即時移動した。それは素晴らしい感性で、彼が優秀な狩人でもある証明だった。

 だが、見られている感覚は消えない。

 どこまで逃げても、身を隠しても、付かず離れず追いかけてくる。

 

(くっそォ、せっかく6点分のプレートも手に入れたんだ。このまま逃げ切ればこの試験は合格できる……! 見つかってたまるかよ!!)

 

 森の中を駆け抜けながら、ポックルは焦燥すら抱えて逃げ続けた。

 泥の中をあえて進み、藪の中へ飛び込み、臭い消しの薬草を見つけては抱え込んで逃げながら服に擦り込み。

 

 それでも追跡者を振り切れない。

 

(なんだ……? どうなってる。目視されてるんならまだしも、ここまでやって逃げきれないもんか……?)

 

 ポックルが追われている、という自分自身の感覚にすら疑問を覚え始めた頃。

 その『少女』はやってきた。

 

 圧倒的な『絶望』を纏って。

 

 『ヒタヒタ』と歩み寄るその気配は、ずっと感じていた人物のものだった。

 目にする前までは、まだ戦う気概があった。逃げ続けたのはこれ以上戦っても得るものよりも失うものの方が大きく、また森の中であれば逃げ切る自信があったからだ。しかし、そんな自信も、もはや粉微塵に打ち砕かれた。

 近づいた事で理解する。理解できてしまう。生半可に感性が優れる故の絶望。

 

(……絶対、勝てない)

 

『円』を使うために『練』で増幅されている、その少女のオーラを身近で感じたポックルの脳裏に過ぎったのは、幼き日に『幻獣ハンター』の冒険譚を嬉しげに読む自分の姿だった。

 圧倒的な力量差を感じ取ったゆえの、走馬灯染みた連想であったが、奇しくもそれがポックルの闘志に火を点けた。

 

(あき、らめられっかよ……!!)

 

 その覚悟は、少女が思わずハッとするほど魅力的だった。

 しかし、だからこそ少女は一歩前に進む。

 

 構えるポックル。

 素早く弓を番えて放った矢は、しかし掠りすらしない。

 2度、3度と距離を取りながら放つが、当たる気配がない。

 歯噛みするポックルに対して、慈母の微笑すら浮かべながらゆっくり近づいてくる少女の姿が、ブレた。

 

『ぞわり』と全身を襲う悪寒に、ポックルは咄嗟に身を捻った。

 覚悟によって無意識に増幅されたオーラも使って行われた超反応であったが、しかし少女は軽々とその上を行った。

 

 ポックルは、背後から非常に軽やかに膝裏を蹴られて『かっくん』と地面に膝を落とされた。

 速やかに背後で両手を縛られ、クロスした両手が背中にまで『ぐい』と持ち上げられる。

 力を入れれば痛みが走る、制圧目的の縛り方だった。

 ここまでで0.2秒。

 

 そのまま背中を軽く蹴られれば、俯せに地面に倒れ込む。

 足も縛られてしまい、あっという間に行動選択の余地を失った。

 結果として0.5秒で行われた、目にも止まらない早技だった。

 

 抵抗は無意味であると言われたような気がして、悔しさを滲ませてポックルは言葉を漏らす。

 

「……ぐっ! くっそォ……」

 

 意識を刈り取らなかったのは慈悲だったのか。

 そう思うポックルだったが、違う。

 

 少女の、もっと悪魔的発想から生まれた行動だった。

 予感からポックルの全身に怖気が走る。

 

 首は動く。

 地面に這いつくばりながら、恐る恐る振り返るポックルが目にしたのは、顔を俯かせて表情の見えない中で、含み笑いを溢す少女の姿だった。

 

「ふっふっふ、ポックルくん。キミには重大な役割があるのです」

 

 意気揚々とした少女の声が襲い掛かる。

 得体の知れない恐怖に身を震わせ、汗を垂らしながらポックルは叫ぶ。

 

「やめろォ!! オレは……、オレは、こんなところで終わるわけにはいかないんだァ!!」

 

 懇願の言葉も、少女には届かない。

 両方の手に用意した、細長い棒を摘みながら、顔を上げた少女が悪魔的な笑みを浮かべてにじり寄った。

 

 

 

「さー、こちょこちょしましょーねー♡」

 

「やめろおおぉぉお!! ……え? こちょこちょ?」

 

 ポックルがこれから何が行われるのか気がついたときには、少女の手は素早く正確に伸ばされていた。

 彼の脇腹へと。

 

「こーちょこちょこちょこちょ!!」

 

「あひゃひゃひゃひゃ!! あっ、あひ、ひ、いひひ!!」

 

 予想外。

 あまりにも信じがたい拷問を受けた彼が悲鳴(わらい)を叫び続け。

 こちょこちょを続けられ、疲弊した彼がついにあの言葉を漏らした。

 

「ひっ……あっ、あっ、あっあっ」

 

 限界ギリギリ。腹筋は捩れ、痙攣し、目は剥かれ、まるで『脳』をくちゅくちゅされたかのように惚けた様子の彼のその言葉に満足した様子で、ポックルの6点分のプレートを奪い去った少女が、ポックルの腕の拘束だけ解いて、颯爽と森の中へと消えて行った。

 後にはヨダレを垂らしながら『びくんびくん』と震えるポックルだけが取り残された。

 

「ここまですれば、彼が来る事はないよね」

 

 少女がそんな言葉を残したことなど、ポックルは知らない。

 それは不幸だったのか。あるいは幸運であったのか。

 未来で、わかることだろう。

 

 今の彼は、ちょっと見たくないくらい哀れな姿に成り果てているが、これは仕方のない犠牲であった。

 

 

 四次試験合格者。

 『ヒソカ』『ゴン』『クラピカ』

 『ネオン』『レオリオ』『ギタラクル』

 『キルア』『ボドロ』『ハンゾー』

 

 合計9名が最終試験へと進む。

 

 

 

 

 




次回更新未定です。


追記
予約投稿のつもりが誤って即時投稿してしまいました・・・。申し訳ございません。
ひとまずこのまま進めますが、加筆予定であったので後日修正入るかもしれません。(リッポー殴る場面)


────
誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『カザマサ』さん
『ユウれい』さん
『bq』さん
『神場司』さん

ありがとうございます。
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