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「──さて、リッポーくん。何故呼ばれたか、わかっておるかね?」
受験生たちの第四次試験が終了した。
その合格者たちを乗せる飛行船内部で、ネテロは静かに、いつも通りの調子で、目の前で冷や汗を流す青年を見つめていた。
基本的に、ネテロが誰かを叱る事はない。
誰しも失敗はある、そして失敗を恐れては成長がない。
加えて、ネテロが指導する相手は基本的に大人である。
分別のない者はいるが、そういう者は今更叱ったところで、という事情もある。
そんな複合的な理由で、ネテロが誰かを叱ることは殆どない。
しかし、今回は話が別である。
ハンター試験とは、あくまで公平に。
ハンターになる資格がある者を選出するための試験である。
もっとも、前回試験官であるレオン(スカーと改名していたが)がヒソカに対して復讐を実行することを特に止めたりはしないので、比較的自由ではあるのだが、今回は少し、それとは状況が異なる。
額に汗を浮かべて沈黙を保ち『こくり』と頷くリッポーに対してネテロが続ける。
「さよう。コトの発端は一本の電話じゃ。通話履歴にも録音にも残っておる。ま、通話相手はあくまで『厳正なる審査』と言い張っておるが。内容を確認した結果、あまりにも難易度が高い試験を、故意に、特定の人物に対して実行したと、わしは確信しておる。間違いないかね?」
「……はい」
「しかし、お主の言い分も聞く必要がある。一方的な意見じゃと、改善に向かわんからな」
「ええ、その、言い訳になるのですが……」
「かまわんかまわん。そういう話で良い」
「……わかりました。元々は『ダブルのプロ』の弟子と聞き、念を覚えた受験生を少し脅かしてやろうと思っていました。個人的に、少し星持ちハンターにコンプレックスを抱いていた部分もあったので……」
「ふむふむ、それで?」
「ジンから預かったは良いものの、問題行動ばかり起こす囚人が居たため、試練官として採用して配置しました。ネームバリューもありましたし。ただ、その、普段ダラけていたので、あそこまで強いとは思ってもおらず……」
「ふむ、ワシも映像を見たが、あれは故意ではなかったということじゃな?」
「もちろんです! さすがに、自分でも勝てないような相手を試練官として配置しませんよ!」
「なるほどのォ」
ふむふむ、と呟くネテロが続ける。
「うむ、ではこうしよう。今回お主が得た彼女の個人的な情報を一切外部に漏らさぬコト。また録画してあるビデオなどの記録媒体を全て破棄、消去するコト。最終試験実施後に、彼女に直接対面した上での謝罪を行うコト。そして、あー。これは、お主の自由に任せるが、彼女の師匠が、まあ、怒っておってのー。お主の自由に任せる。もちろん強制ではないが、『ビスケット』に直接の謝罪をするコト。もしお主が『ビスケット』に謝罪するつもりがあるなら、ワシも同伴する。以上を以って手打ちとするが、どうじゃ? できそうか」
「はい、問題ないです……」
「まー、プロのハンターなんて癖がある奴しかおらん。比較的自由じゃから、どこまでが禁止、とか決めておらんかったワシらも悪い。ただまあ、今回はちとやり過ぎたのォ。……じゃから、あえて言おう」
「──お主、何やっとる?」
その一言は、重かった。
口調も、雰囲気も、込められた意思も、何も変化はないはずだった。
ただネテロの瞳に射抜かれて、リッポーは生唾を飲み込み『ホロリ』と涙を流した。
その一言に込められた意味合いを、リッポーが正確に読み取って流した涙だった。
プロのハンターという括りの中で、弱者であるという自覚のあるリッポーは少しばかり脇が甘かった。
劣等感という感情を利用された事は否めない。
弱者のためのハンター協会。
その文言に踊らされたのは結果から見て間違いない。
自分が利用され、会長の足を引っ張った。
そう理解したがゆえの涙だった。
しかし、リッポーを責められるだろうか。
あのパリストンを相手に、一協会員であるリッポーが抵抗など出来るはずがないのだ。
加えて後悔の念を抱くであろう青年に対して、これ以上の責める言葉をかける気にはなれない。
ネテロは視線を和らげた。
「……とまぁ、そもそもがワシが漏らした話じゃし、叱る資格はないんだがのー。ただ事が事であるから、お主を叱らん訳にもゆかん。二度とこのようなコトのないように注意するコト。ほい、話は終わりじゃ。飯にしよう。他の試験官らが待っておる」
『腹減ったわー』と続けるネテロの後を、目を擦りながら小走りで追いかけるリッポーであるが、彼はまだ知らない。
先の未来で『これ死ぬんじゃね?』ってくらい念の籠もった拳を受けることを。
とあるストーンハンターの拳は、重く鋭い。
(──やっぱ、慣れんことはするもんじゃねーわ)
ネテロが内心で独白するのは、パリストンに今回の話を伝えた事に起因する。
無茶振りはいつものこと。それはネテロのみならず、自他共に認めることだろう。
しかし、今回は少し勝手が違っていた。パリストンを絡めたのは、単にちょうど良い機会であると考えたからであった。
候補者は、最有力がジンではあったが、あの風来坊がまともに取り合う筈もない。
ソレ故に自分が亡き後。あのパリストンの遊び相手を見繕う目的も、ビスケットの情報を漏らした理由の一つであった。
ネテロは老齢だ。
いつ死んでもおかしくはない。だからであろうか、以前であれば考えなかった、今回のような出来事を起こしてしまったのは。
(年は取りたくないもんじゃ。──なんちゃって)
飛行船内部を『スタスタ』と歩き、試験官が集まる昼食会に参加しながらそう思った。
次話更新:本日18:00です。
よろしくお願いします。
全く関係ない話ですが、今朝起きたら38.1度の熱がありました。
寝込み正月(31日まで仕事ですが)確定です。
年末年始が寝込み正月にならぬよう、皆様だけでも体調にはお気をつけくださいませ。
私の屍を超えてゆけ。
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誤字報告お礼
『佐藤東沙』さんありがとうございます。