今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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大変お待たせして申し訳ございません。

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前回
>ゴンvsネオン。
>ネオンが降参負け
>ゴンは蹴りで気絶しサトツと会話


最終試験 2/2

 

 

 

「誰が、失格だったの?」

 

「……キルアくんです」

 

 目を伏せたサトツが、静々とそう言った。

 場面は変わる。

 

 

 

 憂いを覚えるような、儚げな瞳のキルアだった。

 気絶したゴンが運ばれていくのを横目に、内心に埋没して思考をまとめていた。

 その思考は一点に集中していた。

 ゴンの事である。

 

(……ゴンは、命知らずすぎる。この試験中に2人も殺してるあの女を相手に、しかも趣味でハンター試験を受けにくるような奴を相手に、なんであそこまで食い下がれる? あの女にとっては来年も挑める試験だぞ? 失格覚悟で殺されてもおかしくなかった)

 

 闘いを見送ったキルアの思考はしかし、まとまらない。

 自分なら、と考えれば即座に棄権を選ぶだろう。

 勝算のない相手に対して命懸けで挑むことが、ハンターの資質とでも言うつもりなのか。

 自分とゴンの違いは、その違いだとでも言うのか。

 

 そこでキルアはかぶりを振った。

 いや。そんなものは資質だとは言えない。

 勝つ確率が低いなら戦いは避けるべきだ。

 最低でも9割。できれば10割以上の勝算がほしい。

 そう、思うからこそ。

 キルアは納得しきれない。

 視線の先には、ゴンとの戦いを終えてどこか満足げに戻ってきたネオンが居た。

 

 ぐるぐると出口のない感情の行き場を求めて、キルアが口を開いた。

 その表情にいつもの飄々とした色はない。

 かといって感情を表に出すほど未熟者ではないキルアの表情は内面とは裏腹にどことなく温度が低く、いわゆる冷徹な仮面を被っていた。

 

「──ねェ、なんだって棄権したの? あいつもまだまだやる気だったじゃん」

 

「平然とえげつないこと言うね〜」

 

 ネオンが苦笑いで冗談めかして答えた。

 その回答にキルアは極僅かに眉を顰める。注視しても気が付かないであろう程の微妙な変化ではあるが、ネオンの意図を正確に受け取ったが故だった。

 

 キルアは察することが苦手ではない。

 むしろ頭の回転は早く、察知する能力が高いために、表情や声音、身体の使い方などから真意や感情を読み取ることは得意と言って良いほど巧い。

 そのキルアからネオンを見れば、言いたくない様子がありありと見て取れた。

 とはいえ、読み取れたのは表面的な『言いたくない』という意図のみであった。

 

 普段のキルアならそれ以上踏み込まなかっただろう。

 他人との距離感に敏感であるから、必要以上にキルアから距離を縮めることはしないから。

 

 だが、今回は少し違った。

 その程度の意図を読み取って退くくらいなら、初めからから声を掛けたりしなかった。

 

 キルアが知りたいのはその奥にある、今回の顛末に対する真意だ。

 女の表情から、内心は見えない。

 まるで不透明な何かに覆われているように、この女の考える事がわからなかった。

 それはキルアの能力が低いというよりは、理解の及ばない『基準』に基づいてネオンが行動しているからであったが、真意を知らないキルアにはそのことすら見抜くことは難しく。 

 その『見抜けない』という状況は、結果としてキルアの心中にさらなる波紋を広げた。

 

 珍しく感情的になっていた。

 拳を握りしめたキルアなど、滅多に見られるものではない。

 そんな姿を見せながらキルアは思う。

 ──ふざけた冗談なんかで納得できるかよ、と。

 

 そんな気持ちを込めて、ぶつけるような視線を投げかける。

 苦笑いをしていたネオンが表情を変える。

 キルアの視線を受けて少しだけ真面目な表情となって、そしてかなり言いにくそうにしながらも続けた。

 

「……なんでかって言われたら、そりゃあ……負けたなって思ったからだよ。それ以外なくない? 自分から負けました、なんて言いたくないし」

 

「あんたも相当な負けず嫌いってわけね。じゃ、なおさらなんで? オレから見れば、負けてたのはゴンだ。確かにあの状態のあんたに一発入れたのはすごいよ、それは認める。けど、それもあんたが動けば避けれただろ? あえて攻撃を受ける事で、ゴンを満足させて降参させようとしたようにも見えない。すぐ棄権してたし」

 

 それはキルアの本心だった。

 ゴンの一撃。

 自分なら出来ない。

 その思考を努めて無視して切り替える。

 

 確かにあの1発はすごかった。

 それでも、ネオンが棄権するまでの理由にはならないとキルアは考える。

 

 普通に考えれば、無茶苦茶な事をしたのはゴンだ。

 根性だけでどうにかしようなんて馬鹿げている。

 絶対に勝てない相手なら、即座に棄権して勝てる相手と当たるまで闘いを避けるべきだった。

 

 そう考えながらも、自分には絶対にできないことを成し遂げたゴンに対する『嫉妬』と『尊敬』がないとは言えない。

 

 キルアは素直ではないが、捻くれてはいない。

 キルアは嘘をつくが、意味のない嘘はつかない。

 自分の気持ちを偽るということは、意味のない嘘だ。

 

 だから、キルアが自分の気持ちを偽ることはない。

 キルアは自分の感情に薄々気がついている。

 明確に気がついていないのは、偽ることもしていないが、かといって素直に直視もしていないからだ。

 

 キルアの曖昧な感情図は、無意識に自分がゴンに対して『嫉妬』と『尊敬』を抱いている事に勘付く事を避けた。

 思考は堂々巡りへと入る。

 ゴンと比較され、最終試験の評価に負けている理由を知りたい。

 そんなキルアが、理解不能な元凶である棄権の判断を下したネオンに食ってかかるのは当然の帰結と言えた。

 

 

 ネオンは能天気であるが、バカではない。

 他人の内心を読むことは前世での経験も相まって高い水準にあるだろう。

 内面が滲み出るキルアの言葉に、込められた感情に気がつかないはずがない。

 会話とはキャッチボールである。

 好意的に見ている人物からの気持ちの籠もった球を受け取って、返球しない選択肢はネオンにはなかった。

 例えそれが答えたくない内容でもあっても、である。

 

 ネオンが答えたくない理由。

 

 それは自身の内面を吐露したくないからである。

 もちろん、ゴンという素晴らしい資質を持った人物の『覚悟』に触れた経験はネオンの中で大きな種となるだろう。ビスケにも共有したいくらい、喜ばしい出来事だ。

 だからといって、吐露したくはないし、『負けた』と何度も言いたくはない。

 かつてカイトと引き分けても悔しがったように、類稀な負けず嫌いでもあるからだ。

 

 それがネオンが渋る理由ではあったが、自分の気持ちとキルアの気持ちを天秤にかけて、リスクを背負ってまで『原作』を確認に動くほど『彼ら』に好意的なネオンが、自分に天秤を傾けることはあまり考えられない。

 当然、キルアの気持ちに応えるという回答に軍配が上がる。

 

 今回一拍だけおいて、また言いたくなさげにしながらもネオンが口を開いたのにはそういった事情があった。

 

 でも、言いたくはない。

 『ぐぐぐ』と歯痒い気持ちでいっぱいだった。

 そういった心境ゆえに少しばかり。いや、かなり眉間と口元に力が入っているが、それでもしっかりとした口調と言葉でネオンは続けた。

 

「......あたしはゴンに……負けたんだよ、『覚悟』でね。あの勝負に臨む覚悟が、あたしには足りてなかった。敗因を挙げるならそんなところじゃない?」

 

「……」

 

 キルアは沈黙した。

 なんだよそれ。

『覚悟』だけで、格上に勝てるとでも言うつもりかよ。

 

 真意を()けたとしても、それで納得できるかどうかはまた別の話だ。

 感情を昇華しきれないキルアを置いて、試験は続行された。

 彼のシコリのような蟠りが解消されるのは、まだ先のことである。

 

 

 

 場面が戻る。

 

 サトツがゴンに向けて言葉を続けていた。

『キルアの失格』を無意味に隠さなかったのは、この後知ることになるからだろう。

 衆目の中で知るよりは、この場で知らせたほうがいい。

 何より、友人のことを真っ先に知りたいというゴンの気持ちに寄り添った言葉だった。

 静かな語り口調で淡々としながらも、サトツは気遣いを感じさせるテンポで語り続けた。

 

「殺害による不合格です」

 

「キルアが……」

 

 サトツが告げた結果に、ゴンは衝撃を受けて毛布を握りしめた。

 驚きを表情に浮かべながらゴンは『どうして』と考える。

 ゴンは直感的な部分が大きい。

 だからこそ、あのキルアが無意味に人を殺める印象がない。(ゴンの印象でしかないが)

『トリックタワー』であの死刑囚と戦った時でさえ、相手の罪状を確認して、デスマッチであることを受け入れた上での戦闘だった。

 そんなキルアのイメージとそぐわない『殺害による失格』という状況に、『何があったのか』を知りたいという願望が湧くのも当然だった。

 自分の合格うんぬんの話は既にゴンの脳裏から消えている。

 ゴンに話を聞く準備が整ったと判断したサトツが再び口を開いた。

 

「順序立てて説明しましょう。まずは第二試合」

 

 

 第二試合。

 

 『ヒソカ』vs『クラピカ』

 

 試合開始を告げられて真っ先に口を開いたのはヒソカでした。

 薄っぺらな微笑を浮かべながら、その笑顔の裏で、冷めない興奮を抱えている様子が伺えました。

 

「良い試合にしよう♥」

 

「残念だが私にそんな余裕はないし、負けるつもりもない」

 

「くっくっく。うん、いいよそれで♥」

 

 

 ヒソカとクラピカの戦いはしばらく続きました。

 ゴンくんに影響されてか、ヒソカはかなり興奮している様子でした。

 数多の攻撃を交わし合い、何かを認めたようにヒソカが頷きました。

 

「ボクも真似てみようかな♥」

 

 その一言がキッカケでした。

 不吉な予兆をはらんだ威圧感を発するヒソカが、クラピカに対して攻撃を仕掛けました。

 クラピカは何とか応戦するも、防戦一方。

 このままでは、次の戦いに悪影響が出ると判断したのでしょう。

 彼は最後まで冷静でした。

 クラピカが静かに降参を宣言し、第2試合はヒソカの勝利で終わりました。

 

 きょとんとした表情で、不完全燃焼といった様子のヒソカでしたが、それ以上攻撃を加えることはなく、退屈そうにクラピカを一瞥した後は受験生の列に戻っていきました。

 

 

 第三試合。

 

『ネオン』vs『ハンゾー』

 

 緊張した面持ちであったハンゾーと、静かな表情で待つネオンの両者は初めに言葉を交わし合った後、僅かな時間だけ闘いました。

 実際に手合わせして勝てないであろう事を悟ったのでしょう。

 楽しげに徐々にギアを上げ始めたネオンを見て、体力の消耗が少ないうちにハンゾーが負けを宣言し、負け上がりに懸けました。

 頭上からタライが降ってきたほどに意気消沈した様子のネオンが印象的でしたね。

 

 

 第四試合。

 

『クラピカ』vs『キルア』

 

 試合開始した直後。

 キルアが先に口を開きました。

 その内容は余裕綽綽といった様子でした。

 

「ん〜、あんたに勝って合格しても後味悪いし。オレ降参しよっか?」

 

「それを私に受け入れろ、と? 譲ってもらった合格など御免だ。構えろ、キルア」

 

「わかんないかなー、俺の方があんたより強いって言ってんの」

 

 キルアとクラピカの戦いも短いものでした。

 あっという間にキルアがクラピカを追い詰め、背後から首に指を当てて言葉を発しました。

 

「動かないでね、俺の指ナイフよりよく切れるから」

 

 その後いくつかの問答を繰り返し、キルアが降参しました。

 悔しげなクラピカが印象的でしたね。

 キルアの行動は、自分がこの後戦った方が勝算が高いと考えるゆえの、不器用な優しさからの行動だったのでしょうが、それが後に最大の誤算となりました。

 

 

 第五試合。

 

『ハンゾー』vs『レオリオ』

 

 ハンゾーとレオリオの闘いは、長く続きました。

 中々負けを認めないレオリオに対してハンゾーが馬乗りになると腕を折ると宣告し、苦渋の表情でレオリオが負けを認めました。

 

 第六試合。

 

『ギタラクル』vs『キルア』

 

 キルアくんの誤算はここにありました。

 顔中の針を抜いたギタラクルは、イルミは、彼の兄だったのです。

 

 冷徹な表情を見せながら、彼から語られたのはキルアくんの家庭環境を窺わせる内容でした。

 そして最後にこう締めました。

 

「お前の天職は殺し屋なんだから」と。

 

 そこから紆余曲折あり、キルアくんが欲しい物として『友達』を挙げました。

『友達』は必要ないというイルミに対してキルアくんが食い下がり、そこにレオリオが会話に乱入して、ゴンくんとキルアくんが既に友達であると発言しました。

 そこからは売り言葉に買い言葉。

 常軌を逸した思考のイルミが、ゴンくんの殺害を宣告します。

 しかし、ハンター試験に合格が必要、と言い放ち、ゴンくんを殺害しても不合格にならぬため、キルアくんに降参を迫ります。

 負ければ、降参すればゴンくんを殺す、という条件を加えた上での宣告でした。自分の命と、友達の命を天秤に掛けさせるような、悪魔の選択を迫ったのです。

 

「動けば戦闘開始とみなす。この手が触れても戦闘開始だ。止める方法は一つだけ、わかるな?」

 

 そう宣言しながら手を伸ばしたイルミに対して、キルアくんが勇気を振り絞ろうと強行したのは同い年のゴンくんの影響が大きかったのでしょう。

 脂汗を流しながら、彼は己の心と懸命に戦っていました。

 自分にも出来る、と彼が語っていたようにも思えます。

 私には、動こうとしたように見えました。

 

 しかし、彼の身体は、動きませんでした。

 イルミの手が触れる一瞬前。

 俯いて消沈した様子のキルアが、降参しました。

 

「まいった。オレの負け」

 

 キルアくんのひどく虚ろな表情が印象に残りました。

 その直後、イルミからゴンくんの殺害は冗談だと言われながらも、その表情に変わりはありませんでした。

 クラピカ、レオリオが声をかけても返事をせず、心ここにあらずといった様子でした。

 

 第七試合。

 

『ボドロ』vs『レオリオ』

 残るは『キルア』と両者のみ。

 ここで負ければ後のない戦いでした。

 非常に熾烈な戦いを制するのはどちらかと、注目の一戦でしたが。

 試合開始と同時。

 

 キルアくんがボドロを殺害したため、ハンター協会はキルアくんを失格と判断しました。

 視界の端で、ネオンが動きましたが、ヒソカに止められて動けなかったようです。

 

「キミだけ楽しむなんてズルいじゃないか♦︎」

 

 小さな声でそう言っていました。

 

 

 

 

 

 事の顛末を聞いたゴンの取った行動は、怒りに身を任せてのものだった。

 

『キルアの不合格』

 ゴンが怒っているのは『不合格に対して』ではないが、クラピカやレオリオが主張しているのはその部分だった。

 そんなクラピカとレオリオの二人が合格者に関しての物議を主張する会議室に入ってくるや否や、ゴンは真っ直ぐにギタラクルの元へと向かうと、ただ一言を告げた。

 

「キルアにあやまれ」

 

 

 ネオンはその姿を一室の後方に腰掛けながら見ていた。

 

 そこからの顛末は、『原作』を知るネオンから見てあまり変化がない。

 殺しを強要していたイルミ達ゾルディック家に対する『怒り』を漏らしたゴンの行動は『未来』を知っているネオンから見て全くの同一だった。

 強いて言えば、少しばかり(・・・・・)力が強くなりすぎたゴンが、油断していたイルミの腕の骨を粉々にしかけたくらいか。

 

 とはいえ、イルミの腕くらい大した事件ではない。

 比較的観戦者気質もあるネオンがその光景を『ニマニマ』と眺めるのはいつも通りの行動で、当然のようにネオンがその場で何か変化を加える事はなかった。

 

 結果として、キルアの不合格は変わらない。

 そう結論づけたネテロからの合格者説明は続き、そして。

 ハンター試験は終わりを迎えて、新たな物語の序章が幕を上げた。

 

 

「──ゴン」

 

 ネオンがゴンに声をかけたのは、彼がイルミから『ククルーマウンテン』と呼ばれるゾルディック家の住処を聞き出した後だった。

 

 ネオンは、この後のことを考える。

 考えるのは、今見つめているゴンのことだ。

 声をかけたのに何も言わないネオンを見て、ゴンは『こてん』と首を傾げている。

 

『精孔』はまだ開いていない。

 けれど、あの場では確かに『凝』をしていた。

 恐らくは無意識で増幅されたオーラが一部に集まったものだろうが、そうだとしても凄まじいポテンシャルである。

 あの戦いを機に明らかに力強いオーラが全身から滲み出し始めている。

 

 その状態は『念能力』が使える最終段階よりも、さらに少し前の段階ではある。

 けれど、ゴンの才能ならオーラがあるものと認識さえすれば、容易に精孔が開き『念能力』が使える最終段階に到達する事が予想できる。

 それだけの資質がある。

 ならば、きっかけを作った者の責任として、正しく成長できるように出来るだけ早く環境を整える必要がある。

 

 次にクラピカを見て、森での約束を思い返す。

 ハンター試験が終われば、時間をとって説明すると伝えていた。

 伝えるのはもちろん『蜘蛛』のこと。

『討伐』に関してはまだ検討中。最終的にはクラピカに選んでもらうつもりだ。

 

 復讐への想いがネオンという、トロスという強敵を見ても変わっていないのなら、何も言われずともあの『念能力』を形作ろうとするだろう。

 もしそうなら、『討伐』の協力をお願いすることに戸惑いも躊躇もない。

 でも、もしもほんの少しでも躊躇が生まれるのなら。

『念能力』に必ずその心中が反映されるだろう。

 

 その場合でも『討伐』に関しては伝えるつもりではある。

 彼の半生を思えば伝えないのは不義理でしかないからだ。

 

 けれど、『討伐』を伝えるタイミングはまだ少し先にする。

 最大のチャンスが目の前に転がってくるという近い将来は明らかに『念能力』への影響が大きすぎるのだ。

『討伐』を聞いた上での能力開発は、下手をすれば時間制限付きのさらに凶悪でリスキーな能力を作りかねないという懸念がある。

 

『蜘蛛』に関して伝えるかも、相当迷った。

 けれど終わったら話すと約束したから、これは話さなければならない。

 9月にヨークシンに『蜘蛛』が来る。

 ここまでの情報は事前に伝えるつもりだ。

 伝えないのはあまりに作為的すぎるし、何より『原作』から外れる事に少なからず抵抗がまだあるからか、伝えたほうがいいとネオンは考えていた。

 ともかく。

 

 クラピカに関しても、旅団討伐メンバーに加えるかどうか、その最後の見極めが必要だ。

 

 

 そして、レオリオ。

 もしネオンの予想が正しければ、『十二支ん』からあの医療に特化した人物も参加するだろう。

 ビスケが『十二支ん』に声を掛けるとすれば、バックアップ体制を万全に整えると思われるから。

 

 旅団壊滅は必須ではない。

 標的は、あくまで『団長』ただ一人である。

 

 その人物が参加することを思えば、レオリオに取っても良い影響を与えるだろう。

 しかし、それには医大受験を後回しにするという選択肢が必須になる。

 判断はレオリオに任せることになるが、望むのなら会わせてあげたい。

 世界最高峰の医者と出会う事は、きっとレオリオにとって良い影響を与えるだろうから。

 

 そんな三人を見渡して、みんなの意思が当然のようにキルアを迎えにいくことに合意したのを確認してからネオンも声を上げた。

 

「──あたしも一緒に行くからね」

 

 物語は、ゾルディック編へと突入する。

 

 

 ──前に。

 それは、あまりにも一瞬で近づいてきた。

 気が付けば、気配は真横に居た。

 『ゾクリ』と背筋に走る。

 

 ネオンに不意打ち(・・・・)出来る相手だった。

 

 つまり。

 

 

 

「──行くからね、じゃないわさ!!」

 

 怒声が響き渡った。

 同時に感覚で捉えたのは重く鋭い拳。

 ネオンは咄嗟に右腕を上げてガードする。

 

 ぶつかり合う肉体同士が軋みを上げる感覚に、ネオンは受けながらこのままでは拙いと判断する。

 念の込められた一撃。

 それも並ではない技量で振り抜かれた『凝』の拳だ。

 強烈な衝撃を殺しきれず、轟音を立てながらネオンが吹き飛ぶ。

 その場で静止して受け止めるには、体勢も気構えも全く足りていなかった。

 

 油断に対する歯噛みをしながらも、壁に激突する前に、空中で身体を回転させて少し勢いを殺す。

 その後は地面に手を着き飛び跳ねて衝撃を殺し尽くし、幾分遠くなった距離から両足を地につけて先ほどまでいた場所を見れば、『ヒリヒリ』と痛む右腕のことも忘れるくらいの人物が、眉を吊り上げた可愛らしい形相でそこに立っていた。

 

「バカかお前は!!」

 

 寒い時期なので少しモコモコとした服装に身を包み、威風堂々とした出立ちは小さな身体に不釣り合いなほど堂に入っている。

 ネオンの師匠である『ビスケット=クルーガー』がそこに立っていた。

 

 ──なんでここに?!

 そういった思考が脳裏によぎるが、答えはすぐに出た。

 予定が変わったから、恐らくは心配して来てくれたのだ。

 

 何よりハンター協会はあの『パリストン』のお膝元と言っても過言ではない。

 ハンター試験は会長主導であるため『パリストン』の子飼いが居る可能性は低いが、会長はあの(・・)ネテロである。

 あえて『獅子身中の虫』を飼っているなんて十分に考えられてしまう。

 笑いながらダブルピースを浮かべたネテロが思い浮かんだ。

 

 なので、旅団討伐の鍵になり得るネオンのガードを増やすことは当然の選択肢と言えた。

 ビスケがここにいる理由を推測して、ネオンはだらだらと冷や汗を流す。

 

 後悔はない。

 ゴンたち一行に付いていくのは、考えた末の結論ではある。

 しかし、ソレとコレとは話が別だ。

 

 思わず心の底からの叫びが出た。

 

 

「げぇビスケ!?」

 

「なーにが『げぇ』だわさ!! こっちが心配して来てやったってのに、このバカ弟子!!」

 

 甘んじて受け入れざるを得ない拳に頭を殴られて、『ゴチン』と高音を響かせて涙目になりながらネオンは思う。

 

 ごめんなさい、と。

 

 悪いとは思っているのだ。

 何も言わずゴンたちに付いていけば心配をかけて問題になるので、もちろん報告はするつもりではあった。

 でも、事後報告のつもりだった。

 ここを逃せば合流するのはちょっと恥ずかしいから。

 

 とはいえ、事前に報告もせず予定を変更したネオンに対して、ビスケが怒るのも当然である。

 そんな気持ちで痛む頭を摩る。

 

 ネオンがゴンたちに同行すれば『原作』は確実に変わるだろう。

 いや、むしろ変えるつもりで動くだろう。

 だが、その方が今となっては効果的だ。

 

 何故なら『パリストン』という不確定要素が存在し、『幻影旅団』にも情報が漏れていると推測できる状況で、『原作』を維持することに拘っても既に手遅れである。

 それなら、準備する範囲を広げたほうが良い。

 

 既に変わっているものを元の流れに戻すのは困難を超えて不可能だ。

 ゆえに敵が強くなるのであれば、こちらもより強くなれば良い。

 

 

 もっともゴンたちを戦力として勘案することに、ネオンは例外として、その他のメンバーが同意する可能性は非常に低いと言わざるを得ない。

 ゆえにこれは『原作』を知るからこそ、彼らを重要視しすぎているネオンの弊害でもあったが、ネオンがそのことに感づく事はなかった。

 ネオンの勘は、自らの結果を大きく変化させる事柄だと言うのに『何故か』正常に働かなかった。

 

 再三であるが、『念獣ヴィー』はネオンの最大最強の味方である。

 ただそれだけのことである。

 

 ちなみにネオンの元来の予定では『原作』を変えないためにハンター試験が終われば実家に帰るつもりだった。

 久しぶりにパパにも会っておいて、護衛団の編成などに関して擦り合わせを行う予定だった。

 しかし、それは実現しなかった未来である。

 

『原作』は既に変わった。

 小さなうねりが大きなうねりを呼ぶ事もあるだろう。

 護衛団を組織しようとした理由は、戦力確保という意味合いは薄い。

 あくまで『原作』に沿うためである。

 センリツ、バショウを除き、その他メンバーを『対旅団』戦力として換算することは困難だからだ。

 なので、『原作』維持を考えないのであれば実家に帰る必要はない。

 ……とネオンは思うのだが、なんとなく少し先で帰ることになるような気がした。

 

 

 ともかく。

 今、ネオンの脳裏によぎるのはゴンの姿だった。

 強い『覚悟』を秘めた瞳。

 そして目覚めかけていた念。

 思い描いた姿は感動ものだ。

 再び『ぶるり』と身を震わせながら、ネオンは少しばかり遠慮がちにビスケに説明を始めた。

 

「だ、だって。あんなの直に見たらさ。参っちゃうよ、うん」

 

「だっても何もないでしょーが! あんた目的忘れた訳? 時間がないってのに、練り直し必要な状況だってのにまぁ随分と余裕だわねぇ!」

 

「それはそうだけど、かくかくしかじかなんだよ!? これはもう見過ごせないでしょ!?」

 

「うっ、それは、ちょっと心惹かれるけど、いやいや。目的見失ってどーすんだわさ」

 

「ぶっちゃけもう予定通りにする意味ないし、それならさ。あの3人を鍛えた方が……」

 

「何言ってんの!たった半年で……」

 

「でもでもクラピカは……」

 

「そりゃ特殊すぎる例……」

 

「あの3人なら……それに予定してたゾルディックも前倒しで……」

 

 そんな問答を繰り返す師弟を茫然と見届ける3人が居た。

 急展開でコソコソと話し合う二人をよそに、顔を見合わせる3人だった。

 

 

 

 

 ゴンは興味津々で二人の会話を聞いていたが、ふと視線を感じて振り返る。

 そこには、ゴンもよく知る人物が立っていた。

 スラリと長い手足。

 悠然とした立ち姿はゴンの記憶にある通りの姿だった。

 

「すまんな、アイツらはいつもあの調子なんだ。悪気がある訳じゃない」

 

「えっ、と……カイト?」

 

「あぁ。でっかくなったな、ゴン」

 

 青いハンチング帽をかぶった青年。

 カイトがそこに立っていた。

 

 話は多岐に亘った。

 これまでどうしていたか、であるとか。

 ハンター試験の内容であるとか。

 本来の『原作』であればカキン国の森でするであろう、ジンの最終試験に合格した事も話し終えた後。

 話題は現在の話に移った。

 

 

「──じゃあ、今はジンから依頼を受けてネオンの護衛をしてるんだ」

 

「そうだ。柄じゃないんだがな」

 

「そんなことない! カイトならすっごく頼りになるよ!」

 

「そうだといいんだが。まぁそんな訳でここに来たって所だ。ゴンもプロになったのか?」

 

「・・・うん。まだ、実感ないし、これからだと思ってるけど。ライセンスはもらったよ」

 

「そうか。なら、これからはライバルだな」

 

「うん! オレも親父を見つけて、早くカイトに追いつけるように頑張るよ」

 

「俺にも出来たんだ。お前なら見つけられるさ」

 

 カイトは少しだけ頬を緩めた。

 その後、視線をワイワイと語り合っていた師弟に向けた。

 

「……で、結論は出たのか?」

 

 

 いつも通りの冷静な口調で問いかけるカイトに、ネオンとビスケが両者ともに頷いた。

 

「ま、ちょっと所じゃなく予定変わるけど。『アレ(パリストン)』が発覚した時点で変更は予期してたからまぁ予定通りっちゃ予定通りかしらね。あたしも同行することにするわさ。この子とそこの3人のお守りね」

 

「早いか遅いかの違いでしかないからね、それなら最初からビスケに見てもらった方がイイかなって」

 

「つまり、お前ら2人があの3人に同行するということだな? オレはどうすればいい?」

 

「あんたは他のメンバーと合流しといて。『例の子たち(十二支ん)』もそろそろ集合するだろうし、そっちはあんたらに任せるわ」

 

「……了解した。やれやれ、まさかオレだけとんぼ返りとはな」

 

「悪いわね。けど、電話での情報共有は抜かれる危険性もあるから、簡単に使えないのよねぇ」

 

「相手が相手だしな。そういうことなら文句はないさ。すぐに戻る。必要な情報をくれ」

 

「そーねぇ、とりあえずピヨンに伝えて欲しい事が幾つかあるから紙にまとめて渡すわさ。あと医療器具の手配は既にやってるからノヴに任せて良いわよ。後、予定変更は確定って伝えておいて。情報関連に関してはピヨンの到着を待ってから動く事。これが一番重要だわね」

 

「了解した。紙は後でもらいにくる。先に飛空船の手配をしてこよう」

 

「うん、よろしく。そっちは任せたわよー」

 

 ビスケがカイトが去っていく姿を手を振って見送った後に、ゴンがカイトを追いかけた。

 背中を追いかけてくる気配に気がつき振り返ったカイトに、ゴンは問いかける。

 

「カイト! 最後に一つだけ聞いてもいい?」

 

「どうした、ジンさんがどこにいるか聞きたいか?」

 

 微かな笑みを浮かべながら、冗談めかして言うカイトに少しだけ迷ったゴンが答える。

 

「……ううん、自分で探す!! ってそうじゃなくって、ネオンのことなんだけどさ」

 

 一息だけ入れてゴンが続けた。

 聞こうかどうか、まだ迷っているような様子であったが、意を決して言った。

 

「──ネオンについて、親父は何か言ってなかった?」

 

「……そうだな。デカい借りがあるとは言っていた」

 

「借り?」

 

「そうだ。詳しくはオレも聞かなかった。言いたくなさそうだったしな」

 

「強さとか、そう言う話はしなかった?」

 

「ふむ、そういう話はなかったが。……オレの意見を言わせて貰えば、ネオンは強いぞ。今のお前とは比較にならん程にな。だが、ジンさんはそのネオンよりも圧倒的に強い。……これでいいか?」

 

「……うん! ありがとう。もう迷わない」

 

「そうか。ゴン、でっかくなれよ」

 

 それだけ言い残して去っていくカイトの背中を見送りながら、ゴンは強く拳を握りしめた。

 

 

 戻ってきたゴンが見たのは、会長(ネテロ)と不思議なパイナップルのような髪型をした男性がネオンと話し込んでいる光景だった。

 ネオンは右手の包帯を外していて、痕の残る引きつった皮膚を見せていた。

 パイナップルの男性がしきりに頭を下げていて、ネオンが朗らかに笑いながら手を振っている。

「こんなの別に包帯で隠せばいいし、良い戦闘経験になったから気にしないで!」と言いながらの、影を感じさせない底抜けに明るい声だった。

 

 ただ、その隣に立つ少女は怒天髪をつくばかりの勢いで威圧感を振りまいていて、拳を握ると一言だけ呟いた。

 

「腹、行くわよ」

 

 その直後、残像すら見えない速度で少女の拳が振り抜かれた。

 パイナップルの男性の腹部に1発の拳が綺麗に入り、拳を受けた男性がどこかに飛んで行ったためにゴンの視界から消えた。

 少しして『ドゴン』と激突したであろう音が届き、ゴンの背中に冷や汗が流れる。

 

 殴った人物を見る。

 金髪ツインテールの可愛い少女だ。

 とてもではないが、拳一つで男性を吹き飛ばすようには見えない。

 ゴンの想像もできない力が働いた結果であるが、知る由はない。

 ただ、人は見た目で判断してはいけないと強く思った。

 

 

「……ちと、痛そうじゃの」

 

 会長(ネテロ)がそう呟いたのが聞こえた。

 

 その後、ネテロの鉄腹にもビスケが1発拳を叩き込むが飄々とした顔を崩す事が出来ず、口惜しげな顔をしたビスケの姿があったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 




1週間に一度は継続して投稿したいため、文字数少なくても今後は投稿していきます。
よろしくお願いします。

──
誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『変わり者』さん
『匿名鬼謀』さん
『北の森』さん
『kuzuchi』さん

ありがとうございます。
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