今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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独自解釈注意です。
約5000字です。


交錯

 

 

 ──末恐ろしい。

 今まで、これほど明確にこの感情が形になったことはないとゼブロは断言できる。

 目の前で繰り広げられる『念』の修行はあまりにも常識を覆していた。

 

 

 ゼブロはゾルディック家の使用人という立場だ。

 雇い主であるゾルディック家から要請されれば、秘密など守れるはずもない。

 だから、今日まで詳しい指導にはあえて立ち入らず聞かないようにしている。ゲストに対する配慮の一つだった。

 

 しかし、日常生活にまでその影響は及んでいない。

 同じ家で生活しているのだから、顔を合わせるし、何なら一緒にご飯も食べる。

 世間話に花を咲かせる事もあれば、一緒に筋力トレーニングをする事もある。

 さながら家族のように和気藹々と生活していた。

 

 だからこそ、毎日顔を合わせるこの三人が急激に成長している事が良くわかった。

 昨日より今日。

 今日より明日。

 ぐんぐんと格段に成長を続ける若者たちを見て、使用人同士であるシークアントと冷や汗を流しながら顔を見合わせて、誤魔化すように笑い合いながらも内心では戦々恐々とすらしていた。

 シークアントも、ゼブロも念能力者だ。

 シークアントはプロのハンターですらある。

 

 だというのにそう感じてしまったのは、彼らから立ち昇るオーラが心を乱さずには居られないほど強烈なイメージを連想させたからに他ならない。

 さながら、猫が虎を眺めるように、隔絶とした才能の差を感じてしまったが故に。

 

 そしてゼブロがついつい興味が抑えられずに『念』の修行風景を見させてもらうよう懇願すれば意外にも簡単に許可がもらえた。

 ただし、三人に許可を取ることが条件だった。

 もちろん了承して三人にも許可をもらい、年甲斐もなくワクワクしながら覗いた修行の光景を見ての一言が、冒頭の一言であった。

 

 ──末恐ろしい。

 ただその言葉が心中を埋め尽くした。

 ぶるりと身体すら震えるほどに。

 

 つい3週間前まで、『念』の『ね』の字も知らなかったであろう若者たちが、老いたとは言え、既に自分よりも強いかもしれないだなんて。

 到底信じられない気持ちだった。

 

 呆然としているゼブロを置いて話は進んでいく。

 ビスケットが『練』を続ける3人に対して頷き、『パンパン』と手を叩きながら言った。

 

「──おっけー、『練』はひとまず良いでしょ。30分持てばとりあえずは十分だわさ。それより『発』の修行成果を見せてもらおうかね」

 

『念』を覚えて3週間。

 たったそれだけで30分の『練』を維持し、四大行の最終段階である『発』を始めるのではなく、成果を見るというあまりの進行速度に絶句せざるを得ない。『練』は10分伸ばす事すら1ヶ月掛かると言われるほどの難事だ。

 それも『練』だけに集中して、である。

 

 それが『念』を覚えてから3週間で『練』の持続時間が30分。

 この目で見ていなければ、到底信じられない話だ。(《桃色吐息(ピアノマッサージ)》の効果は計り知れないため、ゼブロには秘密にしている)

 狐に化かされたような気持ちで『水見式』を見守れば、ゴンは水量が爆発的に増えており、クラピカは多量の不純物を浮かべて、レオリオは水の色が明らかに変わった。

 

 

「何ていうかレオリオのって……うん」

 

「皆まで言うな、ゴン。黄色い液体など連想するものは一つだけだ。おしっ──」

 

「おいおいおいそれ以上言うんじゃねーよ!! 変なイメージ付くだろーが!」

 

 真面目な顔で変な事を口走りそうなクラピカを慌ててレオリオが止めたりしながら、ワイワイと三人は修行成果を誇り合っている。

 常識を超えた光景を作り出したにもかかわらず、当人たちはまったくその事を意識していない。

 いや、周りの仲間が同じであるから、自分の才能が特別であると気がついてすらいないのだろう。

 

 その事に思い当たり、ゼブロは冷や汗を流しながら微笑んだ。

 才能のある人間が、才能がある事に気がつかずに努力を続けた結果得るであろうモノを想像して。

 

(これは、坊ちゃんもウカウカしていられませんな)

 

 

 一段落した修行成果を得て、ゴンたちが屋敷に進むと決めたのはその後すぐのことだった。

 クラピカが『Ⅲ』の16トンの扉までを開き、ゴンとレオリオに至っては『Ⅳ』の扉まで開いた後に三人は屋敷に向けて足を向けた。

 

 その前。

 ゼブロが修行成果を見る、その3日ほど前。

 同じ山の山頂付近で、一人の少年の枷が外れていた。

 

 

 

 雷が鳴り響いた。

 奥底にある独房の一室の中でも、外の風景は辛うじて窓から見ることが出来ていた。

 高い標高にあるゾルディック家の周囲は天候が移ろいやすい。

 嵐のような雷鳴が鳴り響くことも日常茶飯事だった。

 

 そんな一室で、キルアは静かに寝息を立てていた。

 鎖で上から吊るされて足を鋼鉄の金具で拘束されながら、明らかに拷問を受けたであろう痕が残る身体を剥き出しにしながらも、全く痛痒を見せない自然体だった。

 

 だから、その対面に立っている彼の2番目の兄が苛立ちを露わに再びキルアに鞭を打ったのも、腹いせの拷問がまるで意味を成していない事実を嫌でも突きつけられているのだから、当然といえば当然だった。

 打たれた鞭によって目を覚ましたキルアが少し眠たげに呟いた。

 

「……ん、兄貴。おはよ、いま何時?」

 

 まるでベッドの上で目覚めたような平然とした調子での問いかけだった。

 ミルキはそれを聞いて額に青筋を立てる。

 わざと挑発的にやっているのか、それとも本当に何の痛痒もないのか、ミルキには正確に判断出来ないがムカつく弟である印象があるため挑発としかミルキには思えなかった。

 

 歴代最高傑作。

 その言葉が脳裏に思い浮かび、そしてすぐに掻き消して、吸いもしないのにわざわざ用意したタバコの吸い殻をキルアの胸に押し当てて問答を繰り返す。

 

 

 

 問答に対して適当に答えながら、キルアは別の事を考えていた。

 まるで反省した様子を見せない自分の生意気な表情と言葉に苛々と感情を募らせる豚くんを見ながら、しかしキルアの心中にあるのは約2週間ほど前から知っている、友達の行方の事だけだった。

 

 1ヶ月。

 恐らくゴンたちが麓に居るのはそれが限界だろうとキルアは思った。

 

 キルアはゴンたちが観光ビザ(滞在期間に制限がある)でパドキア共和国に来ている事を知らない。

 しかし、ゴンの性格を冷静に考えれば、あんな不本意な形で合格したのに、そのライセンスを使うとはどうしても思えなかった。故に推測だけで観光ビザを使っていると判断した。

 

 そんなゴンの、頑固な部分の片鱗はハンター試験中でも察することができた。

 思い出して、少しばかり口角を緩めながら思う。

 だから、この1ヶ月というリミットは外れていないだろう、と。

 

 そしてキルアの冷静な部分が囁いていた。

 このまま繋がれたままだと、合流するチャンスを逃してしまうことになる。

 しかし、2度も家出が許されるほど甘い家族では無い事はキルアが一番よく知っている。

 

 だから、ゼノ(じいちゃん)が現れて親父に呼ばれた時はチャンスかもしれないと思いつつも低い確率に賭けている事実を思い、平然とした表情の中に僅かな焦燥を滲ませた。

 

 

 結論から言って、キルアと親父の話し合いは和やかに終わった。

 キルアの望みは叶えられ、初めて親父と真っ当な親子の会話をした。

 『友達』を裏切らない事を誓い、そしてそこで『念』に関する話を聞くこととなった。

 

「──キル。お前が望むのなら、彼らに合流する前に教えてやる事もできる。お前なら1週間もあれば十分に習熟出来るだろう、やってみるか?」

 

「あいつらは抜け駆けしてんだろ? なら、教えてくれよ親父。その『念』って奴さ。3日でマスターしてやるから」

 

 不敵にキルアは笑みを浮かべた。

 

 

 

 3日後。

 宣言通りに『念』を習熟し終えたキルアは着替えてそのままの足で出口に向かう。

 湿っぽい石材で固められた暗い通路を通りながら思うのは、ハンター試験でのことだ。

 無表情の裏で、内心では奥歯を噛み締めたくなるほどの思いを抱えていた。

 

 ゴンを、見捨てる判断をしてしまったから。

 イルミのせいだと責任転嫁することも出来ただろう。

 なのに、キルアはそうはしなかった。

 

『暗殺者』として育てられたはずのキルアだった。

 けれど、彼の本質はあまりにもゾルディック家の指針からズレていて、それでいてキルアは己に厳しかった。

 

『ゴンを見捨てた』

 その事実は変えようが無い。

 無表情の中で目元に暗い影を落としながら通路を進む。

 今思い返しても自責の念は消えない。

 それでも独房でじっくりと考える時間があった事で、キルアは普段通りの思考を取り戻していた。

 

 自ら独房に入ったのは、家族への体裁よりも、自分を許せなかったから。

 平静ではなかった当時の自分の事を思い出しながら、キルアは自己分析する。

 

 でも、それは自分の中でのこと。

 表に出すべきではないというのが結論だった。

 

 もしゴンが指摘すれば、謝罪を求めるのなら、この感情は表に出すべきだろう。

 けど、自分だけで完結して自責に駆られて謝ったり、あまつさえゴンとの関わりを自ら拒絶するなんてありえない。

 そんなのはただの自己満足に過ぎないし、加えてキルアはそんなことで満足できるほど無欲じゃなかった。

 ──だって、友達が欲しいから。

 

 ずっとずっと欲しかった。

 対等で、笑い合えて、冗談を言い合って、時々喧嘩したりして、仲直りする。

 そんな友達が、ずっと欲しかった。何に代えても欲しかった。

 

 キルアは度々考えてきた。

 家族に逆らって、自分の欲しいものを目指すために行動することが、そんなにいけないことか? 

 大した願望じゃないはずだ。

 誰に迷惑を掛ける訳でもない。

 普通の『友達』がほしい。

 ただそれだけのことが許されないなんて、そんなバカらしい事があってたまるか、と。

 

 

「──キル!!」

 

 歩いている先から、母親であるキキョウがドレスのフリルを揺らしながら近づいて来る。

 キルアは冷たく沈み込むような心持ちでその姿を目に映しながら、冷たく、冷たく。己の感情が沈み込んでゆくのを感じていた。

 今の今まで考えていた自分を縛り付けた元凶の一人が、その瞳に映っていた。

 

『ズズズ』とキルアのオーラが軋みを上げた。

 

 数瞬前まで、凪のように静かだった。

 静謐としてすら居た。

 だというのに、無意識にキルアから湧き上がったオーラはたった3日前に『念』を覚えたとは思えないほど強烈であった。

 轟々とキルアからオーラが湧き上がる。

 眩いオーラの中で、暗く黒く一点の曇りのない純黒の瞳が、異彩を放っていた。

 

「どけよ」

 

 短く鋭いキルアの言葉だった。

 

「……っ!!」

 

 ──独房に戻りなさい。パパとばかり楽しそうに話すなんて。

 キキョウが言おうとした言葉は掻き消えた。

 その計り知れない深みを感じさせるオーラに触れて、そして母である自分に向けられる冷たすぎる眼差しに、あまりの感動でキキョウは言葉すら出せない。

 

 へなへなと腰を下ろした母親の脇を通り抜けたキルアの脳裏には既に母親のことなどカケラすら残っていない。

 自分を縛り付ける、その一人である母親とのやり取りなど、どうでも良かった。

 

 思考を切り替える。

 

 キルアの瞳に再び光が灯った。

 思い返したのはあの3人のこと。……あと、よくわからないあの女も。

 

 

 キルアはゴンと友達になりたかった。

 独房の中で考えて、その気持ちがより一層強くなった。

 3週間前に、家の前まで来ていると聞いた時は唖然としてしまったくらい、恥ずかしさを抑えて言えば、嬉しかった。

 

 それは他のメンバーに対しても変わらない。

 例えば、レオリオの名前をあえて間違えてみる、なんていう小技を思いつくくらいには、もう。

 キルアの中に友達を諦めるなんて選択肢はなかった。

 

 だから。

 

 視線を上げ、光指す眼差しで前を見る。

 一本の開けた道が現れたような心持ちで、キルアは闇の中から一歩前へと踏み出した。

 

 この先にきっと自分が望む未来が待っていると。

 言葉にはせず、けれど心のどこかで期待しながら。

 

 

 

 ゴンたち一行が『念』を身につけ、軽々と『試しの門』を開けた後に山頂を目指して道なりに進めば、古びた柱の間に一人の少女が立って頭を下げていた。

 

「──お待ちしておりました。キルア様がこちらに向かっておられるため、案内役を仰せ使っております。カナリアと申します」

 

 その出来事の裏で、一人の老人と少女が会っていた。

 

「──お前さんが、今回連絡してきたもんか」

 

 腰を曲げながらも一切の隙のない立ち姿をした男性。ゼノ=ゾルディックと。

 

「ええ、そうよ」

 

 油断なく立ち振る舞う、金髪のツインテールを揺らすビスケット=クルーガーだった。

 

 

 

 汽車の中で、クラピカと話している時にネオンが懐に忍ばせていた紙の正体は、リッポーの謝罪と共にネテロから送られたものであった。

 紙に記載されているのは一つの名前と連絡方法。

 

 名は『ゼノ=ゾルディック』と記されていた。

 

 その受け渡しの際に、大きな変遷となる言葉を、ネオンはネテロに告げていた。

 ──『薔薇は咲かない』と。預言者のように、そう言った。

 

 

 

 




1日で書くのは無理がありましたね・・・。
ちょびっとグロッキーです。

──
誤字報告お礼
『phodra』さん
『kuzuchi』さん

ありがとうございます。
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