今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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約4000字



対面

 

 

 

「──ボス、新入りを連れてきました」

 

「どうぞ」

 

 バショウは思わず眉を吊り上げて怪訝な表情を浮かべた。

 返答が若い女の声だったからだ。

 

 ボスというからには、偏見かもしれないが、男の声を想像していた。

 ダルツォルネからの話、そして道中で見た残虐性すら感じる生きた人間を使ったオブジェクト。

 それらから連想する人物は男だったからだ。

 

 そんなバショウの戸惑いにも一切構わず、扉は開いていった。

 強大な観音開きの大層な扉が内に向かって開かれると、扉の両脇には侍女が一人ずつ、扉を内から引くためだけに控えているのが見えた。

 侍女二人を無視して、レースで覆われた煌びやかな一室を視線で辿れば、最奥にキングサイズのベッドが置いてある。

 

 ──そこに居た。

 声の主人は膝を軽く抱えながらベッドサイドに腰を据えている。

 聞こえた声の通り、女だった。

 しかも、意外だが整った顔立ちの美少女だった。

 

 彼女は薄らとした笑みを浮かべながら入室した者達を眺めている。

 ゆったりとした雰囲気には余裕を感じる。

 

 彼女の発するオーラはなだらかで、熟達した『念能力者』であることは明らか。練り込まれたオーラは力強い。

 認めたくない事ではあるが、容易にバショウを超えている。ただ一目見ただけでそれを理解させられた。

 

 次いでどこを見ているのか読めない眼差し。

 仮面のような微笑。

 

 理由はわからない。

 けれど、その女の瞳に捉えられていると思うと『ぞくり』と背筋が冷える。

 ダルツォルネが主導して、各メンバーがそれぞれ自己紹介を行った。

 その後にボスが口を開く。

 

 張り詰めたような緊張感の中で。

 

「──はじめまして。リッツファミリーのボス、ネオンです。よろしくね」

 

 蕩けるような、心底嬉しげな笑みを浮かべながらボスがそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「──なぁオレは悪夢でも見てんのか?」

 

「……いえ、現実よ」

 

 震えるような緊張感の中でボスとの初対面を熟した後、護衛任務についたバショウはセンリツと共に行動していた。

 

 ダルツォルネ、トチーノ、スクワラ、ヴェーゼ、リンセンは周辺の警備についており、この場にはいない。ゾロゾロと率いて行動するのは悪目立ちする故に少し距離をとって周辺を警戒していた。

 ちなみにリンセンは後ほど合流して、ボスとの初対面を果たしたメンバーだ。

 

 ──で。

 バショウが悪夢と称した光景。

 諦念を込めてセンリツが現実だと溢した光景。

 

 それはボスによって引き起こされていた。

 

「──う〜ん! 美味しい! これもいいね! こっちもイケる! あっ、それとそれと、後それも追加ね! 10個ずつ!」

 

『スイーツパラダイス』と呼ばれる空間がある。

 多種多様なお菓子がふんだんに用意された、甘味好きにとってはまさに天国のような空間だ。

 加えて、現在この3人が入店しているのは特別な年会費を支払ってしか入場が出来ない、極めて限定的な超高級品と呼べる厳選された品しか用意されていない空間であり、それが食べ放題。

 正しく『天国』と呼んで過言ではない場所。

 

 そんな場所で、バショウとセンリツは次々と口にお菓子を放り込むボスの姿にドン引きしていた。

 見ているだけで胸焼けがすごい。

 女性であるセンリツですら、諦めの境地に至るほどの光景。

 それを、男性でヘビースモーカーでもあるバショウが耐えられるはずもない。

 

 顔を青白くしながら、けれど護衛の任務中なので席を外すことも、視線を逸らす事もできず、バショウは半ば悪夢のような目の前の光景を直視させられ続けていた。

 その周囲を忙しなく飛び回るように店員たちが駆けずり回っており、次々とテーブルから消えてゆくお菓子類の補充にてんてこ舞いだった。

 

「なぁボス。食べながらでいいんだが、聞かせてくれ。──なんで俺たちはこんな場所に居るんだ?」

 

「なんでって、私が来たかったから。いやぁしばらく山籠りみたいな事してたからかな? 甘味に限らずいくらでも食べれちゃうんだよね〜。こまったこまった」

 

 ボスはそう言いながらパクパクと口にケーキを放り込み、砂糖のたっぷりと溶かされたコーヒーミルク(もはや牛乳と砂糖が主成分)をゴキュゴキュと喉に流し込む。

 茶色い泡の立った口髭を付けながら、『こまったこまった』と言いながら、ボスは幸せそうに満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 バショウは今日1日の護衛というなの悪夢を何とかやり過ごし、他のメンバーとの交代で休息に入っていた。

 同じ護衛のスケジュールを組んでいたセンリツも同様に休息に入っていて、自然とこの二人は会話が多くなった。

 

 そんな中で、言うか言うまいか悩みながらもセンリツがバショウに伝えた言葉。

 それが。

 

「──『恐怖』? 馬鹿を言えよ、あんなにバクバク食える奴がなんだって?」

 

「ほんとうよ。ボスは何かに『恐怖』を感じてる。今日のアレだって、その気持ちを誤魔化そうとしているように私には見えたわ。……私の能力は知ってるでしょ?」

 

「まぁ知ってはいるが……。いや、だからって、そりゃねぇだろ。あの『バケモン』が何を怖がる必要がある? それこそ同じようなバケモンだけだ。そんなのが襲ってくるんなら、俺たちは即刻お陀仏だな」

 

 自己紹介を終えた後に。

 腕試しと言って、ダルツォルネとボスのタイマンを2人は見た。

 その感想がバショウの言った『バケモン』である。

 

 プロ中堅クラスの実力は優にあるダルツォルネをまるで歯牙に掛けなかったボスの姿は記憶に新しい。

 

「それはそうなんだけど……、でも、間違いないわ。今日一日ボスの心音を聞いていたけど、事あるごとに『恐怖』してた。何に対してか、までは私の能力じゃわからなかったけど。ボスが言わないってことは事情があるとは思うけど、仕事のパートナーであるあなたには情報を共有しておくわ。いざって時にテンパらないでね。私もまだ死にたくないの」

 

「……りょーかい。そりゃあ、聞きたくねー話だったな」

 

「でも、知らないのも嫌でしょ? 気づいたら死んでたなんて冗談じゃないわ」

 

「そりゃまったくの同感だ」

 

「じゃあ、私はもう寝るわ、おやすみ」

 

「おう、おやすみ」

 

 センリツは考える。

 少しでも生存率を上げるために、あのボスが何に『恐怖』しているのか。

 それはとっても重要な事である気がしたから。

 

 

 

「──ここまで顔を見せないと言うのは、不誠実なのでは? →モラウ」

 

「だっはっは、まぁそう言わないでくださいよ。あっちもあっちで色々やってますから。何たって、相手が相手ですもんで。俺じゃ話し相手として不足ですかね?」

 

「別に、あなたに文句があるわけじゃないわよ。ただちょっと待たせすぎなんじゃないってだけ。……今期のプロハンター試験はもう3ヶ月も前に終わってるのよ? いい加減に痺れを切らすわよ?」

 

 犬っぽい顔立ちをした女性が、メガネをクイと引き上げながらそう言ったが、その隣に座る、ウサギ耳を着けた小柄な女性が手を挙げた。

 

「はいはーい。あたしは別にかまいませーん。ぶっちゃけ情報収集する段階だし、顔合わせとか後で良くね? 下手に集まって、相手に察知されるほうがバカじゃーん」

 

 ウサギ耳の女性に続いて、辰のようなシワシワの顔をした大男が腕を組みながら、厳しい顔つきで頷いた。

 

「こちらも特に問題ない」

 

「あんたたちね! ちょっとは協調性持ちなさいよ!」

 

 ぎゃん! と犬顔の女性──チードルが叫んだが、呼ばれた二人はどこ吹く風だった。

 ウサギ耳の女性──ピヨンが『カタカタ』とノートパソコンに向かっていた指を止めて、チードルを見る。

 心底不思議そうな顔だった。

 

「第一、これ指令でしょ? 指令じゃないって言われたけど。めっちゃ言われたけど。指令でしょ? しかもお助けキャラ。なら、相手に合わせるのが礼儀ってもんじゃーん、ねぇマニュアリストのチードルさん」

 

「ぐっ!!」

 

「チードルの意見にも賛同もするが、今回はピヨンの意見に一理ある。助太刀であるはずの、こちらに合わせてもらっては会長に合わせる顔が無い」

 

「ぐぐっ!!」

 

 ぐうの音も出ない、と身体を震わせるチードルを見る。

 モラウは『ガシガシ』と頭をかきながら、何と言っていいかわからない状況にとりあえず笑った。

 

「がっはっは! あー、まぁそう言うわけなんで、もうしばらく待ってくださいや。うちの嬢ちゃん方も近いうち顔出すと思いますから。な?」

 

 モラウに水を向けられたリーゼント頭の男──ナックルが力強く頷いた。

 

「そーっすよ! しかも、なかなか骨のある奴なんで! 問題ねぇっす!」

 

「……」

 

 しかし、その横に立っている陰鬱そうな男──シュートが目を開いてはいるが、口は閉じたままだった。

 

「お前もなんか言えよ!?」

 

「……問題、ない。です」

 

「あーはいはい! そうですねー!」

 

 大声で噛み付いたナックルに、モラウはやれやれと肩を竦めた。

 

 

 

 

「──って事で、ボス。ネオン達はいつ帰ってくるんです?」

 

 今回ボスと呼びかけたのはナックルだった。その対象は師匠であるモラウである。

 

「あくまで予定だぞ? ──4ヶ月後だ」

 

「8月って事っすか。それまで何してんすか、あいつら。ハブられてるみてーでちょっと気に食わないっす」

 

「まあ、そう言うなよ。ただでさえパリストンが探ってやがるんだ。これ以上情報をくれてやる必要もないだろ?」

 

「……そうなんすけど」

 

 不承不承といった顔を隠さないナックルの様子に、仕方がないと笑いながらモラウは続けた。

 

「楽しみに待ってようぜ。何やら新しい奴らを鍛えてるらしい。……ま、戦力になるとは思えねーが『あの』ネオンが選んだ奴らだ。もしかすると、もしかするかも知れねェ、って考えると面白そうだろ?」

 

「へっ、そんな奴らが来たらけちょんけちょんに〆てやりますよ。──うぉいシュート! カイトさんとこ行くぞコラァ!」

 

「ったく、単純だよな。オレもお前も。──そういう話を聞くと、どうも滾っちまう。……オレもなんかやっとくか」

 

 キセルを担いだ大男も参戦して、男4人でしばらく実力を確かめ合った。

 十二支んはその光景を眺めたり、眺めなかったり。

 その片隅でパームがいそいそとご飯の用意をしていた。

 

 

 

「──はい! 今日はここまで! 休憩していいよ! ちなみに、ゴンとレオリオはちょっと緊張感足りないみたいだから。岩の大きさおまけしといたわ」

 

 ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ。

 そしてビスケット。

 総勢5名で『G.I』内部の岩場にて、原作ではゴンとキルアだけが受けていた修行を全員で経験していた。

 

 彼らはひーこら言いながらも時間は過ぎていく。

 

 

 

「──ゲン。そっちの調子はどうだ?」

 

「ああ、悪くない。そろそろ動き出せそうだ。……どうやら相当に運のいい奴がいるみたいだな」

 

「へぇもしかして大天使か?」

 

「そうだ、もう揃う。……ここまで長かったが、ようやくだ。随分とお前らも待たせちまったが、久々にボマーを『起爆』できそうだ」

 

「ヒュゥ、一網打尽ってな、待ってたぜ。バラの奴にも伝えとくよ」

 

「ああ、そろそろ用意しとけよ、もうすぐだ」

 

 ゲンと呼ばれた男が、凶悪に微笑(わら)った。

 

 

 

 






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