今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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約6000文字


修行開始!

 

 

 そこからのビスケはまさに嵐のようだった。

 悩みのはずだったライト=ノストラードを一蹴し、一喝しては懇々と説教を述べた。

 正座しながら反省という文字を顔に浮かび上がらせるライト=ノストラードがいっそ哀れになるほどだった。

 

 月に一度連絡を取ることで合意し、連絡要員としてダルツォルネが付いてきたが、それ以外の干渉はビスケが跳ね除けた。

 贅沢な暮らしは捨てさせられた。

『命懸かってるんならそれ相応の努力をしなさい! でなきゃ、あんた死ぬわよ!』と一喝された。

 仰る通りです! ごめんなさい!! 

 

 GIはすぐに手に入った。

 というか、GIに入ることを優先したためにバッテラ氏に連絡を取り、ビスケの肩書きをフルに活用して人選に潜り込んだ。

 なんでこの人、原作の時に審査会を経たんだと聞いたら、『未来のことなんて知る訳ないわさ』と一蹴された。そりゃそうだ。

 

 斯くして、ビスケに出会ってから僅か3日後。

 プロハンターの凄まじい行動力をまざまざと見せつけられた俺はビスケと共にGIの大地に立っていた。ダルツォルネはGIには入れず外で待っている。

 ……怒涛の展開すぎるんだが? 

 ちなみに、ゲームクリアは1999年まで待つ予定だ。

 ビスケと話し合って決めた。

 

「よし! まずは適当にお金集めるわさ。その後マサドラでお楽しみの時間よ」

 

 あたしゲームわかんないから、あんたに任せるわーとおほほと笑うビスケはいい顔してた。

 奇運アレキサンドライトを取るか悩んだか、一応フラグ立てはしておき、怪物を倒して(主にビスケが)お金を集めてマサドラに到着した。

 

「さ! デパートに行くわよー! 時間は有限! ほら、さっさと歩く!」

 

「こ、ここまでダッシュした、から、もう、む、り。おろろろろろろ」

 

「ぎゃー! あんた! あたしの服に掛かったじゃない!!! お気に入りの一張羅なのに〜〜〜〜!」

 

 とんでも無いスピードで離れて行ったビスケが遠くから何か言っているが、地面に膝を突き倒れ伏す俺には聞き取る余裕はない。

 何とかゲロを避けるように倒れながら空を仰いだ。

 GIの中も、空はちゃんと青かった。

 

 

 何かに揺られている。

 薄目を開ければ、金髪のツインテールらしきものが視界の端に映った。

 背負われてる……? 

 ゆさゆさと揺れる振動と身体で感じる温もりは心地良い。

 これはなんだろうと頭を回せば答えは簡単に出た。──おんぶだ。

 

「……そのままじっとしてなさい。悪かったわね、あんたの体力のなさを甘く見てたわさ。今日は宿を取るから、しっかり休みなさい。明日からはまたビシバシ行くからそのつもりで休むこと。いいわね」

 

 ビスケの背中で頷いたかわからないくらい軽く頭を下げ、そのまま小さくて頼りになる背中に顔を埋めた。

 温かい。身体も心も。

 頑張ろう、と胸の内で声にならない声が響いた。

 

 

 

「じゃ! いくわさ!」

 

 ビスケはどーんと音が鳴りそうなくらい堂々と、寝起きの俺にそう言った。

 

「ほら、ちゃっちゃと支度する! 30秒!」

 

 慌てて動き、とにかく荷物を纏めた。

 

「よし、じゃあ、マサドラで必要なものは買っておいたから、もう行くわよ」

 

「え、どこに?」

 

「決まってるわさ、修行に使える場所はあんたが教えてくれたじゃないの」

 

 い・わ・ば♡

 ビスケはにぃっと蕩けるような、可憐な美少女の笑顔を浮かべた。

 俺はムンクの叫びのように両手を顔に当てた。

 

 

「まず其の一! 全身の筋力、持久力、そして精神力! オーラの総量、それを操る技術力。あんたが辛うじてではあるけど、基本の四大行使えてよかったわさ。さっそくやってくわよー」

 

「お、押忍!!! ……あ! 数字の3!!」

 

「遅い! 腕立て200回!」

 

「ひぃいい」

 

 道中で聞かされていた、指を立てたら『凝』をやり損ねた罰ゲームで腕立て伏せをして、気合を入れてスコップを握った。

 そこからはもう地獄と言えばいいのか、ありがたい鍛錬が出来ている天国と言えばいいのか。

 

「あ、寝るときはこっちね」

 

 ビスケがそう言って指さしたのは、いつかの原作でゴンたちが寝るときにやっていた、紐を持っておき、離したら上から石が落ちてくる装置があった。

 

「あんたにはまだ早いかと思うけど、頑張りなさい。限界まで絞り切るから」

 

 笑顔でとんでも無い事を言うビスケにまたまたムンクの叫びと化しつつ素直に従う。

 やれる、やってやる……! 

 でも、ちょっと、ちょっとだけ休憩を……、え? ダメ? そんなんで幻影旅団に追いつけると思ってるのか。はい、仰る通りです。

 ──やってやるよおおおおおおおお! うわああああああん! ビスケを呼んだ昔の俺のばかあああああ! 

 

 ……天国と言えばいいのか。

 うん、まじで召されそう。

 

 

 

 

 

「──意外と根性あるわさ」

 

 岩場の上から、岩に向かってネオンが懸命にスコップを使って岩を掘りトロッコを使って砂を掻き出す姿を眺めながらビスケは思う。

 残り時間は4年と5ヶ月。

 あの子の占いを信じるなら、残り時間はたったそれだけしかない。

 岩場で足をプラプラさせながらビスケは考える。どこまでプランを詰められるか。

 

『念』は奥深い。

 30年以上の研鑽を経たビスケですらまだ道半ばである。

 であるため、自分が経験した道を限りなく効率化して、弟子を可能な限り自分が辿り着いた場所へ引き上げてあげる必要がある。

 もちろん、ビスケとネオンは違う人間だ。

 ビスケと全く同じ鍛錬をしても同じ結果は得られない。

 それでも長年の勘処というもので効率化して弟子に教える術をビスケは持っていた。

 ──が。

 

「それでも、足りないわね」

 

 ネオンが望むレベルは、ぶっちゃけこの世界の最高峰だ。

 才能がある人間が努力してようやく辿り着ける領域。

 4年少々の努力でそこまで引き上げる事は、いかにダブルの称号を持つビスケット=クルーガーと言えど容易では無い。

 加えて、ネオンは明らかな特質系である。

 

 誤解を恐れずに言えば特質系は戦いに向いていない。

 それは強化系との相性の悪さに依るものだ。

 

 特質系はその名の通り、特別な性質。

 基本の5系統から外れた系統の事を指す。

 それは様々多種多様な能力を発現させるが、その中で戦闘タイプの特質系能力者は極めて少ない。

 

 ネオンがいい例だ。

 占う事が出来る能力《天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)》。

 普段の生活をしていくのなら十分すぎるほど有能であるが、事を戦闘に限れば使い道は皆無。

 

 ゆえにどれほど鍛え上げたとしても、ネオンが念能力者に勝利する事は容易ではない。

 もちろん、特殊な例外もいるが、ネオンがそうとは限らない。

 

 ごくごく稀に、類稀な戦闘センスを生まれ持つ特質系がいるが、逆に言えば、そうでもなければ特質系とは戦闘向きでは無いのだ。

 だが、ビスケは依頼を引き受けた。

 師匠として弟子を導くために、努力は惜しまない。

 幸いネオンの原石としての資質は十分だ。

 原石を磨くストーンハンターの一人として、意地でも光らせてみせるとビスケは思考に没頭した。

 

「……何か一つ、必殺技になる『発』が必要だわね」

 

 そう、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 その話題は唐突だった。

 岩場に来てからもう2週間は経ち、岩を掘って文字通り真っ直ぐにマサドラに向かっている訳であるが、まだまだマサドラには着かない。

 ビスケが作ってくれたご飯を貪るようにバクバク食べているお昼時に、ビスケが言った。

 

「あんたの『発』っていつ作ったの? あ、別に答えたくないなら答えなくてもいいわさ」

 

 わたわたと手を振るビスケだが、特に隠す話でもない。

 

「えーっと、8歳かな? 占い師に憧れて『今を一生懸命生きている人を幸せにするためのもの』って言葉にすごく感動しちゃって、それからだと思う」

 

「ふーん、特質系だからそうだとは思ってたけど、やっぱり無意識に覚えたタイプか。(しかも覚えたのが非戦闘系)ってなると難しいわ〜〜〜〜! ……よし! やるわよ!」

 

「ぇ?」

 

「はい、休憩終わり! そのご飯早く食べちゃいなさい! 時間は限られてるんだから、さっさと掘る!」

 

「ぇ、ええええ──!!! まだ食べ始めたばっかりなのに!!」

 

「師匠に口答えしない! ほら、あーんしてあーん」

 

「まってビスケまってまって流し込まないでええええええええ」

 

 文字通り流し込まれてもしっかり対応(というか消化?)できるようになった我が身が恨めしい。

 もうお嫁にいけないワ。ぐすん。

 

 

 修行開始から34日目。

 ついにマサドラに到着した……! 

 長かった。この一月が今までで一番長く感じた……!! 

 でも、頑張った甲斐があって『念』の習熟度が大幅に向上した。

 中でも持久力の向上が著しい。

 

 今までなら確実にバテていた距離を走っても少し疲れる程度だ。

 確実に強くなってる。

 その実感が嬉しくて拳を握った。

 

「よーし! じゃあ、元の場所に2時間半で戻るわよ!」

 

「え──!!!!」

 

 お風呂入りたい! 

 髪切りたい! 

 お洋服変えたい! 

 

「師匠に口答えしない! ほら、駆け足! ここから2時間で戻るからね!」

 

「まってまって条件厳しくなってるから!!」

 

「もっと短くしたいの? そーねぇ、じゃあ」

 

「いえ!!! 2時間でお願いします!!!」

 

「よろしい! じゃ、いくわよー」

 

 鬼や! 悪魔や! 

 ひぃひぃ言いながらビスケに付いていく。

 確か、岩場までは約70km……。2時間って事は時速35km……? 

 バイク並みやないかい! 

 内心で突っ込みながら必死に足を動かして付いて行った。

 

「そろそろ1ヶ月経つから、一度戻んないとね。こんなことならあの、ダルツォルネ? だっけ。連れてくれば良かったわぁ。失敗したわねー」

 

「いやぁ師匠! ざんねんだなぁ一度戻らないと修行できないなんてほんとざんねんだな〜!」

 

 ここまで一息でウキウキしながら言う。

 休暇!? 

 休暇キタコレ!! 

 

「よし、あたしがパパッともらってくるから、あんたはここで修行してなさい。多分3日以内で戻ってくるから、ちゃんと修行しておく事。わかった?」

 

「……あい」

 

「サボってたら……わかるわね?」

 

「……あい」

 

 ふぇええええええ!! 

 ふかふかのベッドが恋しいよ! 

 温かいシャワーを浴びたいよ! 

 香り高い紅茶が飲みたいよ!

 

 

 滂沱の涙を流しながらビスケを見送り、言いつけ通り岩場の怪物たちと戦っていく。

 マリモッチ、リモコンラット、メラニントカゲ。などなど岩場の怪物たちを捕まえるために奮闘する。

 

 マリモッチは動きが速い。

 

(点ではなく線で捉える。点ではなく線で捉える)

 

 呪文のように繰り返し呟きながら、何度も何度も失敗しながら、どうすべきか試行錯誤する。

 目では追えてる。

 ただ速すぎて身体が付いていかない。

 

 もっと身体と念を鍛えれば素早く正確に動けるのだろうが、今の俺には無理だ。

 なら予測しないと捕まえられない。

 まずは見る。この動きの癖を見極める。

 ……くっそー、こんな時、占いの力でぱぱっと動きが予知出来たらいいのに。

 少し期待してじーっと見つめるが、特に未来の映像が見えるようにはならなかった。

 

 パンと両頬を思い切り叩いた。

 

 ビスケに言われたろ。死にたくなきゃ相応に努力しろって! 

 考えて考えて予測して捕まえてやる! 

 じーっと見つめては逃げられることを繰り返し3度目。

 なんとなくわかってきた。

 

 なるほど、俺がこう近づくとそう逃げるのか。こっちから手を伸ばすとそっちに行くと。

 これ、マリモッチ自身も速すぎてパターン通りにしか動けないのか、それともゲームだからパターンなのか? わからん。

 が、捕まえるのはどっちの理由でも可能! 

 ぎゅっとマリモッチの尻尾を捉え、会心の出来にニヤリと笑った。

 

 

 リモコンラットは特に特筆すべき点がない。

『凝』で見つけて回り込んで終わり。

 怪物の中では一番簡単だったが、一番修行の成果を実感した相手でもあった。

 以前はここまでスムーズに『凝』をすることはできなかった。

 これもビスケとの特訓の成果だ。

 確かな手応えを得て、よし、と拳を握った。

 

 メラニントカゲとの戦いは激戦だった。

 速いしデカい。丸呑みにされたらお終いだ。

 必死に岩場を活かして逃げ回りながら、『凝』で弱点を探す。

 なんとか見つけられても、攻撃を避けるために視線を外したらどこだったかわからなくなる。

 

 身のこなしと戦闘経験値が圧倒的に不足してる……! 

 つい最近までモヤシっ子だったのだから、ここまで生き延びているだけでも健闘賞だろうが、それではダメなのだ。

 なんか最近、というか怪獣退治を始めて修行の成果を実感し始めてから、こうやって動く事が楽しいというか、ビスケに恩返ししたいというか。

 そんな気持ちがたまに浮かび上がってくる事がある。

 もちろん、ビスケの容赦のない指導を思い出す度に泣き言に変わるのだが、それでも一度抱いた感謝の気持ちは消えなかった。

 

 初めて会ったときに、ビスケは明確な言葉にしていた。

 

『あんたの『念』は赤子レベル。あたしの弟子が教えてもお釣りが返ってくるくらいの練度でしかない』

 

 明らかな酷評だ。

 なのに、ここ1ヶ月以上も一切の手抜きなしで指導してくれている。

 どれほど文句を言って甘えても、だ。

 弟子になったから、と言えばそうなのだろうが、そこまでしてくれている相手に何か返せなくて、何が打倒クロロだ。

 

 せめて、このメラニントカゲだけでも倒してビスケによくやったと言われたい。

 そんな気持ちで挑み続け、日も落ちて約束の三日目の晩になった。

 ここで仕留められないとビスケが帰ってきてからに持ち越しだ。

 それでも結果は変わらないが、もうここまできたら意地だ。意地でもこのメラニントカゲを倒したい。

 帰ってきたビスケに堂々と自慢したい。

 

 ──そんな執念が実を結んだ。

 撹乱(かくらん)し、狙っていた岩場に引っかかったメラニントカゲの隙を逃さず駆け上がり、ついに『凝』で見つけた弱点に踵を踏み入れた。

 ぼんっと軽快な音を立てて消えるメラニントカゲ。

 やった、と思う間もなく身体は宙に投げ出されたが、地面に衝突することはなかった。

 受け身をとったからじゃない。

 柔らかくて温かい、少し前のおんぶされた時に似た感覚で受け止められた。

 

 顔を向ければ、そこには柔らかい笑顔を浮かべるビスケがいた。

 俺は、どうやらビスケの両手で地面にぶつかる前に受け止められているようだった。

 ちょっと恥ずかしいが、笑って言ってやった。

 

 

「やったよ、ビスケ」

 

「……見てたわさ。よくやった!」

 

 俺をお姫様抱っこしたままビスケは眩しげに目を細めて、表情を緩ませながらそう言った。

 ビスケの背景には満月が爛々と輝いていた。

 

 

 その後に聞いたが、ビスケはまだ俺ではメラニントカゲ相手には不利だと考えていたらしい。

 念は鍛えたし、筋力、持久力もついた。

 だが、戦うための技術は鍛えていないし、勘所は全く教えていない。

 自分より大きな相手に立ち向かう心理的な問題もある。

 なので、相当苦戦すると思っていたそうだ。

 

「まったく、無茶する子。最初はこんな子だと思わなかったんだけどね〜。なんたって走ってゲロ吐くわ、ひーひー弱音吐くわ、軟弱っぷりがすごかったもの」

 

 そう言われたら何も返せない。

 冗談だとわかっているので苦笑いを返し、ビスケはわざとらしくニンマリと笑った。

 

「根性は認めてたけどね。ま、これで汚名返上出来たんじゃないの?──だけど! こんなに無茶出来るんなら、これからはもっともっと厳しくしても大丈夫そうだわね〜」

 

 冗談、だよな? 

 引きつった俺の顔を見たビスケがまた笑った。

 

「修行はまだまだこれからが本番! 始まったばかりだわさ!」

 

 

 

 




明日のこの時間に更新予定です。
よろしくお願いします。

────
誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『ジャック・オー・ランタン』さん
『kuzuchi』さん

ありがとうございます。


『特質系』修正済み
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