今日も今日とて占い師はがんばります   作:風梨

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オリジナル設定で2話続きます。
よろしくお願いします。

約10000字



ブループラネット1/2

 

 

 

「──さて、まずはスペルカードの『解析(アナリシス)』と『道標(ガイドポスト)』から集めないとね」

 

 ビスケが現実世界に帰ってから、そう決めたあたしはフンスと鼻息を漏らす。

 先に念能力を作ってしまう事も考えたが、案自体はもうあるのだ。

 急ぐ必要はない。

 

 それより戻ってくる前に『ブループラネット』を見つけておけば、ビスケはきっとニコニコ笑顔で褒めてくれるはずだ。

 念能力を作るよりもその方が断然嬉しい。

 そもそも念能力はヴィーちゃんに任せておけばいいのだし、あたしが何かしなければいけないことは特にないのだ。

 そうと決まれば早速動かねば! 

 

 

 

 今回の目標はブループラネット入手。

 そこに照準を合わせて、まずあたしはマサドラに向かうため、一目散に西の森に向かった。

 森に入れば、木々の騒めきは現実(リアル)と変わりない。木ノ葉が擦れる音や森の天井から降り注ぐ木漏れ日の中を進み、念を覚えたことで超感覚とも呼べるようになった聴覚を意識すれば、息を潜めた怪獣の声が漏れ聞こえてくるのがわかる。

 

 ──西の森。

 ここは、ランクC以上の怪獣が襲いかかってくる非常に危険な森である。

 だけど、それは一般的な基準で言えばの話。

 ビスケに鍛えられたあたしの敵ではない。

 

 その証拠に、ヴィーちゃんは何の反応も見せずにご機嫌な様子であたしの頭の上で揺られている。

 ……かわいい。

 

 そうこうして森を進めば、群狼の群れが進路上に出現し次々と襲いかかってくる。

 予想通りの展開にニヤリとした笑みが浮かび、あたしは念能力も使わずオーラと体術のみで、頭にヴィーちゃんを乗せたまま次々と群狼達を撃破する。ビスケに鍛えられたあたしをどうこうしたければ、それこそ濁流のような物量で押し込むか、相当な実力と技量を持った個を持ってくるしかない。

 

 そして、群狼はそのどちらの条件も満たせない雑魚だ。

 もちろん、相手はCランクの怪獣である。油断は禁物だし、普通のプレイヤーなら即死レベル。だから、もっと正確に言えば怪獣が弱いんじゃない。あたしが、強いのだ。

 ──ううん、強くなったのだ。

 

 強さとは相対的なものである。

 普通のプレイヤーなら太刀打ち出来ない怪獣が襲いかかってくる状況を軽々と切り抜けられるようになった事を誇りながら、あたしは流麗(りゅうれい)とも呼べる淀みなさで次々と群浪を下していく。

 

 ──『凝』で各部位の攻撃力の高い場所を見極め、合理的にあえてギリギリで攻撃を避けて、生まれた隙に必殺の一撃を『流』で叩き込んでいく。基本的にはこのスタンスで、状況に応じて身体を入れ替え、立ち位置を確認し、敵の位置を全て頭の中に入れながら必ず次の一手を、余裕があれば次の次、さらにその先まで予測、推測しながら、複数人を相手にした時の戦闘経験値を貯めてゆく。

 

 そして次々に倒れ伏してカードの姿に変化する群狼を見逃さず、しっかり一枚一枚バインダーに納めながら戦う。

 せっかく倒したのにカード化解除されてしまうのは勿体ない。こまめな回収が金策の秘訣だからね。

 

 余裕で群狼の群れを倒し終わり、最後に残った群狼の長に向き合う。

 群れを倒し終えたけど、長が生きている限り、倒しても倒しても際限なく復活して援軍が現れるのが群狼、というか群狼の長だ。

 なので、新たに復活されて邪魔をされる前に素早く群狼の長を倒す必要がある。

 

 そこで、あたしはカチリ、とスイッチを入れる感覚で瞼を細めて膝を曲げる。気分だけは暗殺モードのキルアだ。

 試すつもりで、あえて習った武術を一旦置いておき、そこから派生させる。

 

 暗殺者の足運び。そんなものは習ってない。

 けど、初動を察知させないという意味では武術にも似た技術はある。それを応用する。

 

 体重を、あえて片足に偏らせる。

 肩をブラさず、視界を広げてまっすぐ視線を前に向ける。

 

 眼前の群狼の長は鋭い爪を持ち、オーラも体力も程々の量を誇っているのがわかる。あたしの戦闘態勢を見て、犬顔の怪獣が威嚇するように牙を見せて来る。

 薄らと笑いながら、あたしは緩急をつけるためにゆらりと前に踏み出す。

 一歩。二歩。

 あえて歩幅を調節し、一定の歩幅では近づかない。

 感覚を崩すための一因になるように、丁寧にけれど、楽しみながら足を踏み出す。

 

 G.Iはよく出来たゲームだ。

 こんな特殊なフェイントの動作を入れても、しっかりと怪獣は相応に困惑する。

 距離感をズラし、視線をズラし、警戒心をどこに向ければ良いか迷う群狼の長を前に、視線が揺らいだその瞬間を見切ってあたしは寸瞬の間で前に出た。

 

 群狼の長から見れば、まるで瞬間移動してきたかのように見えただろう。瞬く間に目の前に現れたあたしに狼狽して、構えていた爪を振ろうとするその動作を前に、あたしは無表情に呟いた。

 

「──遅い」

 

 オーラを纏わせる貫手は既に準備してある。

 完全に群狼の長の隙を突いたからこその、防御を捨てた全力に近い『凝』で素早さのみを意識して心臓を貫く。

 

 胸に腕を差し込み、抜き去る。

 その挙動一つ取っても瞬きの間に済ませる。

 

 側から見ればブレて見えるほどの速度で交錯して、あたしはゆったりとした歩幅で群狼の長を通過した。

 一歩、二歩。あたしは進む。

 そこで、ようやく自らの死に気付いた群狼の長が自らの背後に立つあたしに振り返って、驚愕の表情を犬顔に浮かべながらボンと音を立ててカード化した。

 

「──心臓は、抜き取れないけどね」

 

 軽く肩を竦めながら、あたしはカード化した群狼の長をバインダーに収めるため、ブックと唱えるのだった。

 

 

 西の森を抜けたのはマサドラに向かうためだ。

 換金用のカード目的でも、実力試しでもない。これ重要ね。

 なぜマサドラに向かうかと言えば、当然ながらスペルカードショップだ。

 ブループラネットを入手するため、あたしは西の森をささっと抜けてしまってそのままの勢いでスペルカードショップに滑り込む。

 ──前に。

 

「カードショップってどれだっけ?」

 

「ゔぃいい」

 

 マサドラに到着早々に腕を組みながら首を傾げたあたしに向かって、半ば呆れたようなヴィーちゃんの鳴き声が応えてくれた。

 

 

 

 ともかく。

 場所がわからなければ聞けばいいじゃない! という事で、道行く人に話を聞きながら目的の場所に辿り着くと、そこには熊の建造物があった。

 ──いや、パンダ? 

 

 右目は下を見て、左目は上を見て、縞の入った丸い耳が頭上についている。

 

 端的に言うとアヘ顔パンダだった。

 よく公園とかで見る、動物を模ったドーム状の遊具みたいなイメージ。

 そこがスペルカードの店だった。

 

 現代的な自動ドアを潜って店に入ると、ショーケースがたくさん並んでいる。

 それぞれのショーケースに多種多様なカードが陳列されており、カードの説明なども書いてある。

 ほんとにカードショップ、といった風情でこれなら場所も取らないからかなり便利だと思う。冷やかし混じりに店内を見渡した後に、入って奥まった場所にある受付にはアヘ顔パンダの帽子を被ったお姉さんが立ってる。

 

 景気良さげにあたしに向けてフリフリ手を振っていた。

 

「は〜い、いらっしゃい! たった今カード入荷したところよ〜! お客様は運がいいわ」

 

「ほんと!?」

 

 ナイスタイミング! 

 スペルカードの在庫は完全に運なのだ。カード化限度枚数はスペルカードにも適用されるので、当然ながらプレイヤーが買えば買うほど在庫は品切れになる。詳しく聞けば大量とまでは行かないが、ある程度まとまった枚数が入荷したのだそうだ。

 

 どこかでカードを使った戦闘でも起こったのかもしれない。

 ニコニコしながらバインダーの中から換金のためのカードを売り払い、お金を全額支払い、合計で10パック。30枚のカードを購入する。

 中身は……。っと、この開封の瞬間のドキワクですよ! 幼心にお小遣い握りしめてコンビニで遊○王カード買ったなぁ。

 なんて懐古の念に浸りながらいそいそと包みを破いてみれば。

 

 

「わ! 『神眼(ゴッドアイ)』! 道標(ガイドポスト)も出たー!」

 

「お買い上げありがとうございました〜〜!」

 

 厳選したカードをバインダーに収めて。

 45枚分しかないフリーポケットから余ったカードはお店で売ったり、他の人にあげたりした。

 早速店を出て、っと。

 

「ブック! ……『神眼(ゴッドアイ)』、使用(オン)!」

 

 早速『神眼(ゴッドアイ)』を使った。

 シュパンと音が鳴り、バインダーの画面に解析とリストの選択肢が出てくる。

 

 どうやら、常時このどちらかの選択肢が選べるようになるようだ。

 矢印ボタンで解析を選び、決定ボタンを押すと画面にはズラリとカードNoが表示された。

 

「うお、すっご。指定ポケットカード99枚全部見れる……。えー、ブルプラはどこかな」

 

 ポチポチと下矢印ボタンを押しながら探して、No.81ブループラネット。

 

「あった! えーっと、何々。『No.81ブループラネット:唯一無二の青で輝く宝石。成分構造上、どの鉱物にも属さないので宇宙からの贈り物という意味を込めてこの名がついた』」

 

 こんな説明文に覚えがない。

 少し考え込む。

 

「……やばいかも。原作の知識薄れて来てる……? こんなの原作で出て来たっけ?」

 

 出て来て……ないよね? 記憶にない。

 でも、一応全部覚えてるつもりだけど細かい所が抜けてるのかもしれない。

 早速場所を調べるために次のスペルカード使う。

 

 

「『道標(ガイドポスト)』、使用(オン)!」

 バインダーから新しいカードを取り出して唱えれば、画面が変わって街の名前が表示された。

 

「ブンゼン……? あー、あったね。ゴンと別れた除念師がスペルで帰った都市だ。行ったことはないから、漂流(ドリフト)の出番だね」

 

 漂流(ドリフト)のスペルは行った事がない都市に行くスペルだ。

 今あるのは4枚。……たぶん大丈夫。 

 

「っと、その前に『聖水(ホーリーウォーター)』、使用(オン)! 念のため使っとこ。そして漂流(ドリフト)使用(オン)!」

 

 キーワードと共に光の束を纏って飛んでいく。

 それを繰り返して4度目。ギリギリではあるが、ブンゼンと書かれた柱が左右に立っている街の入り口に辿り着いた。

 

「よっし、さっそく聞き込み開始! 見つけるよ!」

 

『ゔぃいいいい〜〜〜』

 

 ヴィーちゃんと一緒に拳を高く挙げながら、意気揚々とあたしはブンゼンの門を潜った。

 

 外観を見渡してみれば、イメージ的に木とか麻とかの田舎町と考えていたけど、思ったよりも近代的だった。

 ううん、中世的と言った方が正しいかも。

 

 煉瓦造りの家や、石を組んで作られた家。

 木造建築はまったく見当たらなかった。ま、忘れそうになるけど、これゲームだからね。街ごとのイメージがあるって事でしょ。

 

 街の中央に進むと広場があり噴水もある。

 その向こう側に大きな教会があって、NPCであろう人たちが出入りしており、その外でも幾人かが建物に向かってお祈りを捧げていた。

 

「んー、信仰心が厚い街って設定かな? 教会の司祭様とかってどうやったら会えるんだろ」

 

 せっかくなのでちょっと一息を吐くつもりで、噴水のそばにあったベンチに腰掛ける。

 考えるのは今後の方針だ。SSランクカードの入手は大変なので今のうちにおさらいしておきたい。

 ──SSランクカードの入手方法は原作で明言されている。

 

 1.「ブループラネット」をキーワードに地道に聞き込み

 

 2.「〜をしたら教えてやる」という情報提供者が出現

 

 3.条件をクリアして情報の真偽確認

 

 4.(正解なら)入手条件を知る

 

 5.(4が正解なら)入手条件をクリア

 

 6.(4が正解なら)アイテムを入手

 

 4.(嘘なら)ガセネタ→聞き込み再開。1に戻る

 

 と、こんな流れになる。

 

「加えてSランク以上のカードになると、指定ポケットカードを使って入手が必要になる場合もある。SSランクだとどうなんだろ。確か『一坪の海岸線』もSSランクだったよね。……ま、とりあえず聞き込みからだね」

 

 それからいくつかの家々を回り、ベンチに座ってる人、出店を構えている人、商店の店番、お祈りをしている人、色んな人に声を掛けた。

 次々とクエストが見つかり、必死にその全てをクリアに奔走する。何日も何日も掛けて、必死に走り回ったけど、結果としては全てガセネタだった。ガックシである。

 

 

 

 噴水前のベンチに腰掛けて、途方もない徒労感を覚えて日付を見ると、もうビスケが現実に帰ってから1ヶ月近くが経過していた。「うあぁぁ」と言いながら、あたしは空を仰ぎながらベンチの背もたれに体重を預けた。

 

「あっという間に時間が溶けちゃった……。というかなに、お祈りに付き合って欲しいって。しかも三日三晩付き合って、貰った情報の場所に行っても結局は『綺麗な石』があっただけって。ほんとやんなっちゃうってー」

 

 ずりずりと背中で削るようにベンチの背もたれに身体を預けながら、宙に浮いたバインダーで貰った『綺麗な石』の説明文を見た。

 

「『ブループラネット(偽):ブループラネットを再現しようと作られた模造品。しかし、ブループラネットは成分構造上、どの鉱物にも属さない。ゆえに模造品は模造品でしかない。綺麗な石としての価値はあるため、プレゼントすれば喜ばれるだろう』ってなに! 誰にプレゼントしろっての?! こちとら男に恋する予定なんてないし! 女の子にプレゼントしろってゆーんかい!?」

 

 むきー! と拳を振り上げる。冷静に考えれば別に男女の関係なんて必要ないとは思うんだけど、数が多すぎて錯乱してしまった。

 そう。これ一つじゃないのだ。

 なんと5つも全く同じアイテムが手に入った。

 なので、言うまでもないけどこのカードをあたしは5枚持ってる。フリーポケット45枚しかないのに、その5枚が埋まってる。ほとほと無意味すぎる。捨てられない貧乏性のあたしもあたしだけどさ。

 

「はー。また振り出しかぁ、聞き込みからだねー」

 

 最悪、ヴィーちゃんに占ってもらう方法もあるが、《天使の自動迎撃(ラブリーゴーストカウンター)》で遠い未来を占うと消耗が激しい。

 具体的にリスクを言えば、7日先を占うと、7日間能力を使い続けた判定となり、7日×44=308日間能力が使えなくなる。

 

 そしてそこまでしても、ヴィーちゃんの《天使の自動迎撃(ラブリーゴーストカウンター)》は防御向きの占い。

 危険を回避するなら便利だが、『ブループラネット』の情報が出る可能性も低い。

 

 この1ヶ月で新たに作った(ヴィーちゃんが)《天使の自動操作(ラブリーゴーストライダー)》は攻撃のための能力。

 だから今回は意味なし。

 うん、ないわぁ。

 

「ねー、ないよねー、ヴィーちゃん」

 

『ゔぃいいいい〜〜』

 

 ヴィーちゃんと他愛のない会話をしながら、ぼーっと目の前の噴水を眺める。

 

 ちょっと休憩しよう。そんな気持ちで特に意味もなく噴水を眺めていたけど、ふと気がついた。

 そういえば、この街の噴水も5つあったなー、と。

 全部の噴水の側に教会もあったなー。

 

 ちょうどあたしが得た『ブループラネット(偽)』も5つ。その瞬間に脳裏に走るは稲妻だった。

 もしかして、もしかするか? 

 ばっと立ち上がって噴水の近くに行き、急な動き出してぼよんぼよんと揺れ動いたヴィーちゃんを頭上で感じながら、片手を顎に当ててじーっと噴水を見つめながらこの1ヶ月で集めた情報を整理する。

 

 

 最初の予想通り、この街は信仰心の強い街だった。

 この街には『5つの教会』と『5つの噴水』と『一つの神殿』がある。

 同じ宗教ではあるが、それぞれの教会で信者の特色が違っている。

 

 簡単に言えば、聖書の中で話がABCDEと分かれていて、信者ごとに好きな話をする教会に通っているイメージ。

 1ヶ月もこの街で生活すれば嫌でも聞くのが、その『火、水、風、木、土』5つの話だ。

 

 簡単に言うと、神様は宇宙から落ちて来て、宇宙に帰りたかった。

 それで、それぞれの属性精霊の力を借りて旅をする神様。

 神様は最後に宇宙に帰ってしまうけれど、贈り物として1つの宝石を授けた。

 

 そんなお話。

 たぶんだけど、この贈り物の宝石が『ブループラネット』

 

「そこまでは!!! そこまではわかってるの!!」

 

『ゔぃいいいい〜〜』

 

 重要なのがこの後で、この宝石の場所を聞いて回っても誰も答えてくれない。

 なので仕方なくクエストをクリアし続けたのだ。

 

 そして得た5つの『ブループラネット(偽)』。

 何か繋がりがある気がする。

 それを思いつくために噴水を見つめる。見つめる。見つめ……。

 

 不意に視線を感じた。

 ばっとそちらを見れば、3人組の男がバインダーを浮かべてスペルカードを構えている。

 

(……プレイヤー!?)

 

 ニヤリと笑った男たちがスペルカードを構えて──。

掏摸(ビッグポケット)」「密着(アドヒージョン)」「追跡(トレース)

 3人が同時にスペルカードの名前を唱える。

 

「「「使用(オン)! ネオンを攻撃!」」」

 

 

 思わず固まったあたしに向かって三つのスペルが飛んでくる。

 そして当たる──前に、途中で消滅した。

 

 ボン!! と音を立てて、あたしのバインダーが開かれる。

 

「他プレイヤーがあなたに対し『掏摸(ビッグポケット)』『密着(アドヒージョン)』『追跡(トレース)』を使用しました。『聖水(ホーリーウォーター)』で相殺します。残り7回です」

 

 あ、そう言えば、そんなカード使ってたわ。

 

「んな!? 『聖水(ホーリーウォーター)』!?」

 

 あたしがそんなレアカードを使っていたとは思わなかったのか、男たちが慌てる。

 見るからに、か弱いあたしを狙う卑劣漢ぶりだ。さもありなん。──なんてね。いや、これハンター専用ゲームだから女子供関係ないし、むしろ真っ当にゲームしてる人たちなんだけどさ。

 だが、そんなことよりも。

 

 ──油断していた自分が一番腹立たしい!!! 

 咄嗟にブックとすら唱えられなかったのは痛恨の極みだ。

 

 ブループラネットの手掛かりが見つかりそうだったとは言え、完全に気を抜いていた。

 これがゲームの中じゃなかったら、あるいは念での攻撃だったら対処出来ただろうか? 

 ううん、出来なかったと思うべき。

 ──強くなれたと思ったのに。悔しい。

 

「……ヴィーちゃん、これを教えるためにあたしに『()せなかった』んだね?」

 

『ゔぃいいい』

 

 あたしの念能力発動はマニュアルでもオートマでも可能なのだ。

 発動条件はヴィーちゃんから未来の情報を『受け取る事』だから、あたしが油断してても不意打ちは本来不可能に近い。

 ……だけど今回ヴィーちゃんは攻撃を通した。

 無害だからっていうのもあるだろうけど、油断を諫めているのがわかる。

 

 ──ヴィーちゃん、なんかビスケに似てきた気がする……。

 

 でも、ヴィーちゃんに頼らず警戒する事は大事だ。念能力を発動して、仮にすぐに切れてしまってもクールタイムがある。その隙を狙われることがないとは言えない。

 だから、これを機に肝に銘じよう。もう油断しない。必ず意識の一部は周囲に向ける。ビスケとの特訓でその感覚は身につけてるのだ。あとは習慣づけるだけ。

 ──何より! もうこんな悔しいのやだし! 

 

 一息を吐いて吸った。

 深呼吸の動作の間にも、どうするか悩む様子の三人組は動かない。ジロリと視線を向けても、半ば身構えて半歩下がるだけで逃げる様子はない。

 それだけであたしが甘く見られていることが理解できる。

 ──ふぅん? じゃあ、今回は遊ばない。

 

 鍛え上げたあたしの身体は瞬く間に戦闘態勢を整える。

 意識が隅々にまで行き渡り、半ば反射的に『堅』で身体を覆った。

 

 構えから戦闘慣れを。オーラから熟練の威圧感を感じ取った三人組が、そこで初めて力量差を理解して焦ったように一歩下がる。

 それは隙だらけ過ぎ。先制攻撃を仕掛けたなら、反撃を考慮に入れないなんて凡愚でしかない。

 

 バインダーは閉じておく。

 例えスペルを唱えられても、最初の一言を言った瞬間にカードを奪ってしまえばいい。あたしにはそれだけの実力があるのに先手を取らせるなんて、ほんとに痛恨の極みだ。

 

 ──無駄な思考はそこまで。

 意識を完全に戦闘に持っていく。

 

 全力で踏み切った地面が陥没し、歩法を使った移動は滑らかすぎる移動を実現する。

 あたしの『堅』に応じて、相手も反射的に『堅』を纏っている。遅いし拙い、だが。

 ──相手も『堅』ならば、全力で打っても死ぬことはあるまい。

 

 漲らせるオーラのまま、相手の懐に辿り着いた瞬間に、あたしは右拳を腰で溜める。

 いわゆる正拳突きの姿勢。

 距離感を正確に測るため、そして両腕の力すらも込めて打つために、先んじて左拳を軽く的である腹部に当てる。

 あとは腰を回すだけで、溜め込んだ右拳が凄まじい威力で解き放たれる。

 

 この先の情景を思い描いたのか、あるいは走馬灯でも見ているのか。

 目の前の男は脂汗を額に滲ませる。

 

『流』を使えば殺してしまうだろう事が感覚的にわかる。

 だから、このまま『堅』で打つ。

 

「──破ッ!!」

 

 打った拳は容易に男の『堅』を突破して肉体にダメージを与えた。

 太った男の脂肪が弛み、拳が腹に埋まって衝撃が内部にまで伝わり余す事なく全身に伝播して、それでも衝撃に耐え切れなかった男が水平に吹っ飛んでいく。

 

 そのまま壁に激突し、打たれた男が盛大に血反吐を吐きながら壁に背を預けて倒れ込むのが見える。

 戦闘不能にしたことを確認し、意識から外す。

 

 ──次の標的は細身の男だった。

 ただの一撃で味方が倒された事への動揺か、オーラが揺らいでいる。

 ビスケとの特訓を除いて初の対人戦。

 あたしも動揺すると思ったけど、意外に大丈夫。むしろ思考はいつもよりも冴え渡ってる。

 

 そんなあたしが選ぶのは本気、全力。

 油断はしない。

 後はヴィーちゃんに思念を送れば、その準備は整う。

 ──()せて。

 

『ゔぃいいいい!!』

 

 ──《天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)》 

 

 ヴィーちゃんから送られて来た予知により、視界、感覚、知覚が切り替わる心地になる。次元と表現すれば大袈裟かもしれないが、格段に精度と解像度が上昇する。

 周囲の状況が、相手の取ろうとしている行動が、あたしの取るべき最適解が、全て可視化される。

 

 男がやろうとしている事は防御。

 あたしの一撃を防いであわよくば関節技に移行したい、という未来が見える。

 

 その予想を覆して無理やりに物理でゴリ押したい気持ちもあった。

 けど、せっかくの実践なのだから色々試してみたい。ビスケからは様々な方法を習ってる。

 投げ技も、その内の一つだった。

 

 一瞬で近づき、最適な行動をあたしが自ら身体を動かして表現する。

 

 こちらの攻撃に合わせて防御を意識した細身の男の動きに合わせて、完全に読み切ったあたしは腕を掴み、支点と作用点を作って『ぎゅるん』と投げた上で回転させる。

 

 原作ビノールト戦のビスケの技。

 くるくると空中で横回転する細身の男に対し、両腕を交差させながら構えて打つ。 

 

「──破ぁ!!!」

 

 気合を込めた裏拳が細身の男の背中に叩き込まれ、辛うじて全身をオーラで守った男が血を吐き頭から地面に墜落し崩れ落ちた。

 

 

 最後に残ったのは中肉中背の漢。

 状況の変化に付いていけてないものの、あたしをしっかりと見た上で構えている。三人組の中ではもっとも技量のある男だろう。それでも、あたしの足元にも及ばない。

 ──だけど、油断はしない。

 さらなる念能力の行使のため、あたしはヴィーちゃんに呼びかける。

 

(もっと()せて)

 

『ゔぃいいいい!!』

 

 ──《天使の自動操作(ラブリーゴーストライダー)

 新たに作ったこの念能力は、最適解通りに、あたしの身体を、ヴィーちゃんが操作する。

 特質系の中でも操作系に類する能力だ。

 

 全身のオーラが増す。

 もはやあたしの意思は必要ない。ヴィーちゃんは凄まじい勢いで足を踏み出し、同時に完璧な一点の(よど)みもない『流』を行う。

 ただの右ストレートなのに、鳥肌が立つほど理想的な動き。

 あたしが訓練で繰り返しても数える程しか再現できなかったそれを、ヴィーちゃんは簡単に再現する。なぜなら、ヴィーちゃんに操られる際のあたしは到達した理想像は完璧に再現する事が可能であるから。

 

 構えた男に対して、真正面から拳を打つ。

 小細工の必要なし。

 そう判断したあたしの拳は強かに、そして必要以上のダメージを与えず相手の下顎を打ち抜いた。

 ぐらりと意識と身体が崩れ落ちる相手を確認し──。

 

「……押忍!」

 

 ビシッと決めるのとほぼ同時に能力が切れた。

 倒れ伏して動かない相手を見て、構えたままだった残心を解く。

 

 軽すぎた身体の落差で、疲労はないにせよズシンと身体が重くなるような感覚がある。

 念能力の行使中はそれだけ身体が軽くなる。これも《天使の自動操作(ラブリーゴーストライダー)》の強みだ。

 何にせよこれで。

 ──対人戦の、初勝利! 

 

「勝てた! 勝てたよ、ヴィーちゃん!」

 

『ゔぃいい!!』

 

 初勝利を喜び、思わずヴィーちゃんを触りそうになるが慌てて我慢する。

 

「う〜〜〜〜触れない! ヴィーちゃん、ぎゅってして!」

 

『ゔぃい!』

 

 頭の上に乗ったまま、ひしっと両腕で頭を掴んでくれるヴィーちゃんに嬉しくなる。

 

「よし! 満足! ……で、この人たちどうしよ」

 

 その後は彼らの目が覚めるまで待ったり、血を吐いたものの意識を失わなかった人と交渉したりした。

 有用そうなカードをもらった後、さよならする。

 

 終始怯えたような目をしてきたので苦笑いしてしまったが、これはハンター専用のゲームなのだ。油断してはいかんよ、油断してはね。

 ともかく、結果としてプラスだろう。

 実戦経験を得て、加えてカードも得た。

 

 そして男たちを倒した後に自分で考えて、攻略の糸口も掴んだ。

 

 

 

「五の付く日に教会が持ち回りでお祭りやってる……これ絶対何かあるよね?」

 

 クエストばかりに注目していたせいで見逃していたけど、お祭りでは各々の教会の司祭様が来るらしい。もはやこれじゃん。これしか考えられんじゃん。

 

 そこで、この『ブループラネット(偽)』を渡してみよう。

 そうすれば何かわかる。……筈! 

 確かな成果に鼻息荒くしながら拳を握り締める。

 

「ビスケが帰ってくるまでに、本物の『ブループラネット』をゲットするぞー!」

 

『ゔぃいいいいい!』

 

 拳を振り挙げる、あたしとヴィーちゃんの掛け声が噴水広場に響き渡った。

 

 

 




明日投稿分に苦戦しております。
予定通り書き切れれば明日のこの時間に続きを投稿します。
よろしくお願いします。

──
加筆しまくりました。話の流れは一緒ですが、4000字くらい増えた・・・?


────
誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『( ◕ ‿‿ ◕ )』さん
『ジャック・オー・ランタン』さん
『ワルキューレ』さん

ありがとうございます。
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