「──あんたは『絶』が使えない」
『ブループラネット』を手に入れて喜んだのも束の間。
岩場に戻って修行を再開する前に、ビスケは堂々と仁王立ちしながらそう言った。
「あんたの『念獣』は誓約のせいで消す事ができない。ヴィーちゃんはあんたのオーラに繋がる事で維持しているから、あんたが『絶』で精孔を全て閉じれば自動的に消えてしまう可能性が非常に高い。そうなるとあんたは自分の意思で『念獣』を消したと判断されて念能力を失う可能性がある。試してみるにはリスクが高すぎるわさ」
そして、とビスケは続けた。
「『絶』ができないって事は、『硬』も出来ない。ここまではいいね」
全身の精孔を閉じて、一部分だけ精孔を開くのが『硬』だ。当然ながら『絶』と同じくヴィーちゃんの制約に引っかかる。
改めて理解したあたしは頷く事で答える。
リスクはバネ。
触れない心理的な要因。
常時オーラを消費し『念獣』を消す事ができない運用的な要因。
そして『絶』や『硬』に対する制限的な要因。
その三つのバネであたしの念能力は飛躍的に効果を上昇させている。
実際『絶』や『硬』が使えない、使わないと意識してから段違いに使いやすく強力な念となった。
「幸い、あんたの潜在オーラと顕在オーラは、語弊を恐れず言えば人類最高峰クラスにまで届き得る。これまでの上昇幅から見て、それくらいの潜在能力を秘めてる可能性が高いわさ。ただ、まだまだ未熟。あたしにすら潜在、顕在オーラは劣ってる。オーラの質、密度もまだまだあげられる」
一息吸ってビスケは言った。
「ゆえに!! あんたのこれからの目標は1999年9月までに、全力で潜在、顕在オーラを可能な限り伸ばす事!」
ビスケの力強い言葉に、あたしも強く頷いて応える。
「オーラ量に拘る
ビスケの指導をシンプルに言えば、短期戦を捨てて、長期戦を視野に入れて鍛錬するという意味だ。
悔しいことに、高レベルの能力者を相手にあたしが短時間で致命傷を与える事は困難だ。
理由は『硬』が使えない事と、念能力の性質的に『一撃必殺』とは行かないからだ。
もちろん、未来を読み切って隙を突いて攻撃を加える事は十分可能だ。
しかし、そこまでしても致命傷には程遠いのだ。
何故なら、あたしの強化系の習得率は高くない。
これだけでも不利な要素なのに、ここに『硬』が使えない制約まで加わる。
つまり、致命傷を与える事が出来ないというのは、仮想敵である幻影旅団などの高レベルの念能力者が誇る『堅』に対して、あたしの攻撃力が不足している事に起因し、それ故に確実な致命傷を与えるのが著しく困難である事が理由だ。
『流』での攻撃の理論値は『硬』が必須だ。けどあたしは『硬』が使えない。ならば攻撃手段は『凝』しかない。それでもあたしは制約のせいで全身に数%のオーラを残す必要がある。
大雑把に考えても、その状態では全体の約80%程度のオーラしか攻撃には使えない。
──ましてや、『硬』が使えないという事は、敵の『硬』に対して抵抗する術がない事と同義。『硬』に対しての『硬』こそが基本中の基本であるのに、その手段をあたしは取れない。これは言葉以上に凄まじいリスクだ。いわば無防備な腹を最初から見せているに等しい。
それは予知能力のメリットを相殺してしまうほどのデメリット、リスクになる。もちろん、予知能力があるから簡単にはやられないし、時間稼ぎは容易いよ。でも、実力が拮抗する相手に対して一息に勝負を決めようとすれば、この制約が大きな足枷になる事は明らかだ。
故に、『あえて』短期戦は捨てる。狙うのは長期戦。
生存力を伸ばし、多対一の状況でも余裕を持って立ち回れるだけの技量とオーラを求める。
「現在、あんたの《
3本の指を立てながら、ビスケは続ける。
「この数値は本気のあたしと戦った時の数字。旅団を想定するならこれで十分だわね。ただし、これは一対一に限った話だわさ。もし複数人を相手にするなら、さらにオーラの消費量は増大する。ざっくりとだけど人数が増えれば掛け算でオーラが減っていくと思いなさい」
例を出せば、一対一で目標通り30分の維持が出来たとしても2人同時なら15分。
3人同時なら10分。
旅団は13人。
目標にまでオーラ量を伸ばしても、あたし一人で全員を相手にする事は絶対に不可能。
「そう。あんたが考えたように、一度に旅団全員を相手取るのは不可能に近いわさ。なので、用意できる策は全て使う。幸い、あんたの占いでわかっている行動もあるからね。それを活かすために、出来る限り『占った通り』に事態が進行するよう意識する必要があるわ」
ビスケの言う『占った通り』とは『原作通り』という意味合いになる。
既にズレている部分もあるけど、強引にでも修正できれば旅団を各個撃破できる確率が飛躍的に上昇する。
あるいは、交渉するか。
「……あんたの話を聞いて、ゴンとキルアだっけ? ──ほんとは今年のハンター試験の試験官やりたかったんだけどねぇ。また今度にするわさ」
もし交渉を成功させたいなら、ウボォーギンが死亡する前が望ましい。
死亡前と後では旅団内の空気が大きく異なる。
ただし、それにはクラピカとの決別が必要になるだろう。
……簡単には、決められないね。
せめてクラピカと直接話さないと決めるのは無理。
と、なると。
「──ねえ、ビスケ。すごく言いにくいんだけどさ。ハンター試験、受けちゃダメかな」
「ちょっと。あたしも我慢してるんだから、あんたも我慢しなさいよ」
「でも、変化が起きてるか、確かめた方がいいでしょ? 私が見たのは『ゴン』を中心とした予知だから」
「むむむ」
──何かを、見落としてる気がする。
あたしがこうまでハンター試験を受ける事を望むのは他ならない『不安』によってだった。
第六感が囁くのだ。ここで参加しなければ致命的な失敗をする事になるって。
予知能力者でもある、あたしの第六感はバカにできない。
もちろん、原作をこの目で見たい気持ちも多少はある。それは否定できない。
けど、あえて打算的に考えれば、決して間違った選択ではないと思うのだ。
何故なら、クラピカという、幻影旅団に対する絶対的な切り札とも成り得るカードを確実に手にできる瞬間はハンター試験しかない。
ハンター試験という機会を逃してしまえば、あの警戒心の強いクラピカから共闘の協力を取り付けるのは極めて困難だろう。もちろん、仲が良いからという理由で渋られる可能性もあるけど、どちらかと言えば、仲が良い方が共闘の協力は取り付けやすい筈だ。
そんな、あたしの『不安と好奇心と打算』の相混じる提案を、ビスケはため息を吐きながら受け止めた。
「……はぁ〜、ほんと、参っちゃうわね。……わかったわ。でも! 可能な限り目立たない事! わかった!?」
「わかった!──話しかけるのはいいよね?」
「……確かめるためには、そうするしかないわねぇ……。わかったわさ。好きにすればいいわ」
よし! と拳を握るあたしを傍目に、ビスケが遠い目をしながらぶつぶつ呟くが聞き取れなかった。
(あんちくしょうから連絡もないし、じじいも副会長絡みで協力は得られない。ウイングじゃ却って足手纏いになりかねないし、モラウ、ノヴ、ミザイ辺りなら、か。協専の邪魔が入らないようにしなきゃね。……暗黒大陸のリスクを最小限にするために、この子の能力は出来れば必要。なら、死なせるわけにはいかない、とゆーか、弟子だし。……あーもう! なんであたしがこんなところまで気を遣ってんだわさ! こんなの柄じゃないってのに! もう!)
と、思考をまとめ終えたビスケが続ける。
「……ハンター試験を受けるなら、期限は変わるわさ。1999年1月まで残り1年と半分ちょっとだわね。──自分から厳しい方に行くって言ったんだ。覚悟は出来てるんだろうね?」
吐いた言葉を飲み込めると思うなよ、と言わんばかりに、満面の笑みで威圧感を発するビスケに、あたしはコクコクと震えながら頷くしかなかった。
「まずは
そこから、文字通りに血反吐を吐く猛特訓が始まった。
明日の更新はお休みします。
分ける予定が一気に書きたくなって書きました。
内容は賛否両論かと思いますが、私なりにこれ以上ないくらい精一杯書けました。
今後とも私自身楽しみながら頑張りますので、
『今日も今日とて占い師はがんばります』をよろしくお願いします。
修正後:長かったので微修正を加えて分割
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修正報告
凡ミスしました。
1999年10月16日>1998年10月16日です。。
ジンと出会ったのは原作開始前です。
『ワルキューレ』さんご指摘ありがとうございます。
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誤字報告お礼
『佐藤東沙』さん
『あんころ(餅)』さん
『ごましお君』さん
『路徳』さん
『Dr.Drevniye』さん
『ワルキューレ』さん
『団栗504号』さん
『カド=フックベルグ』さん
『ジャック・オー・ランタン』さん
『百均〜ハーメルン』さん
『蜂蜜海』さん
『ハナヤラワ』さん
『kuzuchi』さん
『りゅうだろう』さん
ありがとうございます。