白いウサギは人肌に溶ける(全年齢版)   作:37級犬築士

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久々の投稿、本家の方に夢中でちょっと忘れていました。申し訳ない




(9)恨むも何も、初めから許していました ヤマト・命

 教会の地下で寝泊まりしていたのはもう過去の話。引っ越したこの新居は空調装置完備で、個室も十分広く庭だってついている。でも、新しくなったものといえば、比べてしまうのはやはりここ

 

 

 

……カポーン

 

 

 

「ほっ」

 

 お風呂だ。なんだかんだ念願だった、ホーム備え付きの自由に使える浴室だ。

 

 暖かい湯気、暖かい床板。温かいということがとてつもなくありがたい。前のホームではシャワーだけで、古い給湯機だったからお湯が出るのに時間がかかったし、何よりぬるかった。

 

 でも、今僕がいるここはどうだ。新しく仲間になったあの人のおかげで、ここはとっても良いもので、なんせ

 

「だって、このお風呂は命」

 

 

 

 

 

 

『……ぁ、きもちいぃ』

 

 

 

 

 

 

 

「……さんが」

 

 作ってくれた、極東風の檜のお風呂。広々といた浴場は開放的で、自由に手足を伸ばして湯に浸かるのはさぞ気持ちのいいこと。今僕の目のまえにいるこの人のように、艶いった声で独り言つるぐらいには、そうなのだ。

 

 湯気に混じる安らぎの香、風情漂うお風呂を堪能するには、隣に寄り添う極東美人の存在が欠かせない、と前向きに考えればいいのだろうか。

 

「……えっと」

 

 しかし、自分にはそんな破滅的な楽観さは無いし。見るべきは、この状況への分析だ。

 

 スムーズに後ろを向いて、呼吸を整え状況を確認。男湯の暖簾をくぐって、男湯で見慣れた脱衣所を通って、今浴室に来たのだ。なら、ここは

 

 

……命さん、どうして男湯に

 

 

 出会って、そして寝床を共にするようになって、まだ日は浅い方だ。人の趣味は人それぞれ、深く言及して良いことはない。

 

 

「……ぼ、ぼくは……何も見ていない、です。お風呂は、またあとで」

 

 

「!」

 

 

 棒読みなセリフを吐いて、出来る限り早くこの場を去ろうとする。そんな僕を

 

 

 

 

「ま、待ってください!!」

 

「ヘっ?」

 

 声の大きさに思わず振り向いてしまった。すると、そこに在るのは二つの大きな果実

 

 そしてすぐ暗転。湯で温められたそれは、しっとりと顔を包み込んでなんともいえない

 

 

 

……ガツンッ!!

 

 

 

「アガッ」

 

 そう、なんとも言えない、というよりは痛みに悶絶して声も出せないような心地で、というか、うん

 

 

「べ、ベル殿! どうか気を確かに!ベル殿!!」

 

 

 

 

⚪

 

 

 

「痛ッ」

 

「動かないでください、少し切っています。失礼」

 

 

……じわ

 

 

「うぅ」

 

 傷口に染みる消毒液。今ここは僕の部屋で、ベッドに腰掛けた僕に命さんは治療を施してくれている。

 

 床に頭を打ち気絶しかけなぼくを部屋まで運んで、気づけば僕は今こうして治療を受けて、うん

 

 治療を受けて、それで……それで

 

 

 

……ぼけってしてる。同じことばっかり、考えて

 

 

 

「……失礼」

 

「!」

 

「動かないで、ください……今、薬を」

 

「……み、命さん……うぅ、染みる、染みるけど……あぅ」

 

「申し訳ございません。誠に、その……すみません」

 

 消え入りそうな声、先ほどから何度も繰り返す謝罪。けど、ソレをする前に目の前のこれを

 

 たぶん、惚けているのは頭を打ったからだけじゃなくて、この目の前の感触も

 

「……ん、ひほほ、はん」

 

「うっ……治療、ですから……その、少しでも罪滅ぼしも含めて、殿方の、嬉しいことを」

 

「…………ッ」

 

 まるで、天然で暴走する春姫さんのように、命さんは僕の顔にわざと胸を押し当てて

 

 けど、今命さんの服装は浴衣で、紐が緩いから、というかほとんど肌の

 

「……本当に、ごめんなさい」 

 

「ぇ……いつッ」

 

 止まらない。なんだか少し暴走気味というか、妙に切羽詰まっている気がする。

 

 

……さっきから、ずっと謝ってばっかり

 

 

 極東の人は謝罪の文言を会話に多用する文化と聞くが、ここには本当に意味での謝罪がこもっている。

 

 先ほどからずっと繰り返す謝罪。なんだか、今日は変だ。というか、そもそも

 

 

 この休日の昼間、僕にお風呂を勧めた上で……何故か、男湯で一糸まとわぬ姿で先んじて待っていた。そのことの説明が、まだ終わっていない。

 

 

「あの……そんなに、んっ」

 

「いえ、本当に申し訳ございません。この命、ベル殿にはご迷惑ばかりかけて」

 

「……ッ」

 

 迷惑ばかりかけて、そう繰り返す命さんの手はもう動いていない。薬を塗って、タオルを巻いて治療を終えたのに、まだ僕の顔は命さんのものに包まれたまま

 

 ついには、傷の部分を避けて、その手が僕の頭を撫でる。おそるおそる、よしよしとぼそぼそ声でつぶやきながら

 

 

「あの、なんで……み、命さん」

 

「……聞き、ましたから」

 

「へ?」

 

「……ナァーザ、殿から。その、ベル殿は、甘えたいのだと」

 

「!」

 

「ですから、その……罪滅ぼしは、これで……うぅ」

 

「み、命さん!」

 

 抱きしめる腕に手を入れ、僕は命さんの体を離す。

 

 肩を掴んで、腕の長さだけ距離を開けた。視線が合えば、命さんは羞恥で顔を背ける。

 

「も、申し訳ございません。命のような若輩が、ベル殿に母性など……うぅ」

 

「……命、さん」

 

「本来は、ベル殿のお背中を流すつもりで……あぁ、待てど来る気配がないのをいいことに、誘惑に負けた命は、つい入浴を」

 

「はぁ……なんで、背中を……というか、どうして女湯を使おうとしなかったんですか?」

 

「今日は、普段は手を出さない高い入浴剤を……我慢できなくて、くっ」

 

「……えぇ」

 

 呆れの声が無意識に、しかしただ理解できないで流すのもまたできない。温泉好きが末期な命さんらしいと言えばそれまで、けどわざわざ僕にこんな、行き過ぎたまでの奉仕を行おうとするなんて

 

 

……やっぱり、おかしい

 

 

「……何か、あったんですか?」

 

「い、いえ……何も、ベル殿は気になさらず」

 

「じゃあ、なんで背中を流そうだなんて……おかしいですよ、命さん」

 

「……実は、私は痴女の趣味嗜好が」

 

「バレバレな嘘を付かないでください!しかも顔を真っ赤に、やっぱり恥ずかしがっているじゃないですか! 胸元、隠してください!」

 

「!?」

 

 ほどけかけた帯、ついぞほどけて胸元過ぎてお腹まで

 

 全身を真っ赤に染めるほどに羞恥に爆ぜた。命さんは後ろを向いて、体を隠して蹲る。

 

「……き、気になさらないで」 

 

 まだ、しらを切ろうとする。つい、そんな振る舞いに感情が荒立つ。

 

「気になります! だって、仲間だし……こんな命さん放っておけません」

 

「!」

 

 放っておけない。出口を塞ぐように、僕は回り込んで立ちふさがる。

 

 さっきから見せるこの罪悪感にまみれた振る舞い。確かに命さんは罪滅ぼしと言った。なら、それは

 

 

「まだ……あの時のことを」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 中層での悲劇、パスパレードの件は確かに罪滅ぼしをしたいと宣うものだ。無理もない

 

 リヴィラでは、ヴェルフは桜花さんを殴りかかろうとしたし、リリだって容易には許そうとはしなった。けど、そうした事件も、今となっては過去だ。

 

 

……命さん、あなたはそれでも

 

 

 償いは受け取った。ゴライアスとの決戦、戦争遊戯の助力、そして春姫さんの事件を機に僕たちはもうわかり合って、対等な仲間に至っていたはずなのだ。

 

 けど、それでも

 

 

 

 

「……命さん、どうしてもダメ、ですか?」

 

 

 自分を許すことは、出来ないのかと

 

 

「……ベル殿は、お優しすぎます」

 

「そんなこと……」

 

「いえ、あるんです。あなたは、善人で……ずっと、清い。だから、皆に愛されて、異性に可愛がられて甘やかされて……ハーレム?」

 

「――――ッ」

 

「あ、申し訳ございません! ベル殿、お顔が、火に炙られたがごとく真っ赤に」

 

 

……ジュッ

 

 

「……は!?」

 

 氷嚢が頬に触れている。命さんが、僕の顔を冷やしている。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「い、いえ……気になさらず」

 

 赤面、命さんは顔を背けている。

 

 距離が近い。ベッドの上で、二人きりなのに、こうも間近に顔を見て

 

 

……すごく、綺麗な肌

 

 

「……ぁ、ごめんなさい……もう、大丈夫です」

 

 つい、見続けてしまった。罪悪感いっぱいで接する相手に、なんとも弱みに付け込んでいるみたいで、良くない。

 

「……」

 

「ぁ…………その、えっと……使い、ますか?」

 

 視線が合っただけで、何も言わず足を差し出す。

 

 女座りで、そのスリットからはみ出す柔肌の生足に、頭を預けてもいいと

 

 

「……命さん」

 

「甘えても、構いません。社にいた頃は幼子の面倒も見ていましたから、あの子たち曰く……程よい肉付きがたまらないと」

 

「あの、その子供たち大丈夫じゃ……あぁ、いえ……遠慮しま…………せん」

 

 少し闇が見えた気がするけど、今はスルー。差し出された膝枕にはノーを示した。

 

 示したけど

 

 

 

 

 

「……ベル殿」

 

 

 

 

「……」

 

 辛そうに、僕の名をぽつりとつぶやく。命さんは憐憫だ

 

 チガウのかもしれない、そう思えた。

 

 罪滅ぼしはしなくていい。忘れてもいい、そう言えるのは、僕が気軽な立場だから。

 

 

……無責任、だったのかも

 

 

「……何か、言われたのですか?」

 

「……ぇ」  

 

「なんとなくですけど、そうじゃないかと」

 

「……ベル殿、それは……はい」

 

 

 命さんは口を開いた。

 

 聞いてしまえば、なんとも単純な話。どうやら、他所の冒険者に心無い言葉を言われたのだ。

 

 ダンジョンでモンスターに囲まれた他所のパーティを助けて、でもその相手はベテランだけど未だにレベルが1の、言ってしまえばろくでもない人達らしく

 

 その時は桜花さんやタケミカズチファミリアのメンバーとの行軍で、きっと見比べて感じたのは卑下する感情。助けた相手なのに、その冒険者は心無い言葉を吐いてしまった。

 運悪く、その言った相手はゴシップを知っていた。今となっては誰も気にはしない、ダンジョンという場所ではその行為は特段珍しくない。

 

 だけど、命さんには、未だ突き刺さり続ける、毒の言葉だった

 

 

 

 

 

「パスパレードを仕掛ける、卑怯な悪女……そんなことを言われました」

 

「……それは、でも」

 

「気にしない方がいい、それはわかっています。ええ、こんなに取り乱して、空回りも良いことなのは、自分が一番理解しています。ですが」

 

 そっと、自分の胸に触れた。谷間の付近、だけどそれはきっと、心の場所という意味

 

「ここは、どうにもならないのです。頭では、整理できないことがあるのです。駄目な女と笑ってください、命は、結局の所自分勝手で、思慮が浅い」

 

「……」

 

「命は、ベル殿にお返しがしたい。ですが、なんとも身勝手な理屈です。こんなのでは、ベル殿が望む母性は到底」

 

「…………」

 

「……あの、ベル殿」

 

 命さんの手が伸びる、大丈夫かと差し伸べた手

 

 なんだろう、こんなことをしようとする僕は、我ながら変だ

 

 

「……命さん」

 

「へ?」

 

 

 命さんに不遜なことを言った人、その人の言葉にむかついた、それで感情的な行動をとりたくなった、というのもある。

 

 だけど、今はただ

 

 

 

……命さんの、聞きたくない

 

 

 

「へ、えぇええ!?」

 

「……ッ」

 

 少し強引にでも、僕は命さんの言葉を変えたい。

 

 命さんの口から、命さんを貶める言葉を聞きたくない。その為なら

 

 

「へ、ベル殿……ベル殿!」

 

「……うッ」

 

 頭を乗せた。横向きに寝転がって、だから

 

 

……ほっぺた、暖かい。ふともも、気持ち良い

 

 

「へ、あの……何故急に」

 

「……ッ」

 

 強引にでも、命さんの気を好転させるためなら、恥をかくぐらい何だっていい

 

「おねがい、します」

 

「……」

 

「その、お願いします……えっと、痛いから、さすって欲しくて…………ぅ」

 

 自分で言ってて恥ずかしくなった。なんというか、普段からしている行動が、こんなにも恥ずかしいことだと思わなくて

 

 

「……うぅ、いたた」

 

「ベル殿、痛いのなら」

 

「いえ、気になさらずに。その、僕が命さんに頼って、それで気持ちが済むなら……安い、ものです」

 

「……」

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 あの時のことは、今も忘れられない。

 

 桜花の判断を飲んだ自分は、間違いなく切り捨てた側の人間だ。それに、もしあの場に桜花がいなかったとしても、追いつめられた自分はパスパレードをしなかった、そう言いきれる自信はない。

 

 仲間を助けるために、それが正しいと飲み込んだ。毒を含んだのは自分から、どこまでも自業自得で、救いはない。

 

 時間が経っても、この毒は消えない。頭をぶつけでもしない限り、この毒は消えない。なのに、自分は消そうと躍起になって、そして空回りを続けた。

 

 同じく、朴念仁を想い人に持つ者同士、ナァーザ殿は良きアドバイスをくれたが、こんな心境のままではうまくいく方法も台無しになる。

 

 何でもできる、器量の良い女、そう褒められてはいるのがなんとも間抜け。

 

 だから、この方は、いや

 

 

……この子は、ただ一つの明快な答えを、私に示してくれた

 

 

「……年下なのに、悔しいなぁ」

 

「?」

 

 きょとんとした顔でこちらを向く。あどけない顔で、見れば見る程胸がほだされる。小動物を見るようで、この髪の毛も触れれば

 

 

「……柔らかい、くせっ毛……ふふ、ベル殿」

 

「ぁ……へっ」

 

 ベルの頭に触れた。さっきまでのおっかなよそよそしく触れる手つきとは変わって

 

 

……やさしい、さっきよりも落ち着いてる?

 

 

「ベル殿、随分と膝枕に慣れているのですね」

 

「うっ……」

 

「こういうの、神の言うセクハラだと知りませんか?」

 

「せ、せく……うぅ」

 

 真っ赤になる顔。顔色がポンポン変わって、しかし撫でられて膝枕されたままでは逃げられない。

 

 こちらが余裕をもって振舞えば、こうも簡単に上を取れてしまう。いや、簡単に取られてしまうのだろう

 

 

「……くす」

 

「?」

 

 

 韋駄天のごとき功績。純粋に夢を抱いて、そして真っ直ぐに駆け抜けるこの清々しさ

 

 けれど、ふたを開けてみれば

 

 

 

……あなたは、年下の男の子なんですね 

 

 

 

「……お可愛い、かもです」

 

「命さん……ぁ」

 

 ベルの視界が回る。仰向けに寝かされると、少し後頭部の感触が変わる。

 

 

 

「少し、態勢を変えてみました。こちらのほうが、こぶに当たらなくて楽でしょう」

 

「……はい」

 

 命の取った態勢、ベルの頭を仰向けに寝かせるため、正座を崩した態勢に。

 

 浴衣の布がずれて、太ももの表面が剥き出しなのはかなり扇情的。だが、今ベルの目は命の顔にだけ向けられている。

 

 太ももで挟むように、少し力を入れると内腿の肉でベルの頬を歪ませられる。

 

「ん、ひほほはん」

 

「ベル殿、お顔が面白くなっています」

 

「らって……うぅ」

 

「ふふ……すみません、ですがお許しを。言った通り、甘やかしているのですから」

 

「……ッ」

 

 ベルの前髪を払ってやる。無抵抗で身をゆだねて、なんとも童のように無抵抗な姿だと

 

 

……あどけない、この方は本当に

 

 

「み、命さん……その、もう大丈夫なのですか?」

 

「……さあ、それはどうですかね」

 

「えぇ」

 

「濁しているわけではないです。ただ、忘れるために下を向くのは……違うと気づきました」

 

 

 あぁ、そうだ。

 

 いつまでも気にして、下を向いても毒は出てこない。今を見て、上を向かないと、この過去とは向き合えない。

 

 

……過去は変わらないけど、過去の向き合い方は、もう少しうまく変えられる。

 

 

「今は、そう思います」

 

「?……ぁ」

 

「ベル殿、御髪を直してあげます……動かないで、ください」

 

「……はぃ」

 

 髪に触れて、指先が肌をつつく。

 

 顔を動かせないから、視線だけはちらほらと、時折触れる視線は胸や顔

 

 正直に言えば、少しぐらいサービスを施してもいい。そんな、気の迷いが置きそうになる。そう、命は心で独りつぶやき

 

 

「……ふふ、ベル殿……まるで赤子です。はは」

 

 

 笑っていた。

 

 

「……ッ」

 

 

 命の素直な笑みを拝み、ベルもまた表情を崩す。

 

 和やかな空気、今日という日で何かが劇的に変わるわけではないが

 

 ほんの少し、少しだけ

 

 

 

 

 ベル・クラネルとヤマト・命の距離が、何歩かほど近づいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……命さん、たまに、ちょっとだけ

 

 

 

……はい

 

 

 

……駄目になっても、良いですか?

 

 

 

……ええ、かまいません

 

 

 

……撫でてくれませんか  

 

 

 

……ええ、もちろん

 

 

 

 

「…………ッ」

 

「よしよし、ベル殿は幼子ですね……しっかりしませんと、格好いい男子にはなれませんよ」

 

 そう言いながら、撫でる手つき、髪を漉いてやる指先は甘やかす母親のそれ。やることと言っていることは反しているが、それも無理はない。

 

 命は今日、初めてベルとの接し方で年上の異性として振舞っている。時折覗いたヘスティアやリリの行うそれを見て、こうした行為があるとは知ってはいた。しかし、実践してみれば

 

 

……存外、悪くない、ですね。ベル殿も、甘え上手というか、うぅ

 

 

 心に浮かぶ想い人、というより想い神の姿。天秤で揺れる足場でうろたえるイメージが脳内に浮かぶ。

 

 

「信仰が、いえ……女として、試されている気が」

 

「?」

 

「あ、いえ……気になさらず。さ、今は甘えなさってください」

 

「……はい」

 

「何か、して欲しいことはありませんか」

 

「えっと」

 

 う~んとうなるベル。口元がつぐんでむにゃむにゃと、唇に指を伸ばしてそっとなぞってやりたくなるが、命は寸での所で手を戻す。

 

 

……いけない、いけない

 

 

「えっと、じゃあ……美味しいご飯が、食べたいです」

 

「あ、はい……精一杯作らせていただきます」

 

「あの、前に作った照り焼き……極東のチキン料理、また食べたいです」

 

「ええ、ではお肉料理で献立を作りましょうか。では、他に」

 

「……じゃあ、その」

 

 恥じらい、もじもじとしている。

 

 言いよどむ言葉、しかし意を決してベルは告げた

 

 

 

 

「じゃあ、その……野菜の、苦い料理……じゃないのを」

 

「……」

 

「ぁ……今のは、ちが」

 

 命の表情が固まる。和やかな笑みを浮かべたまま、じりじりと足の力が強まる。

 

 筋肉が硬直して、ベルの頭をロック。逃がさない、そんな雰囲気が場を漂う

 

「だめ、ですか?」

 

「はい」 

 

「その、別に食べたくないわけじゃ……でも、命さんがご飯をつくるようになってから、サラダとか、あえ物とか、野菜の味が強く感じる料理が増えて……前に比べて健康的なのはわかっているんですが、苦いのは苦手で…………炒め物とか、それか濃い味付けで」

 

「ベル殿…………いえ、ベル」

 

 

……むぎゅるうぅぅ

 

 

「!!」

 

 生足がベルの顔を圧迫。柔肌を感じる暇も、頭頂部に在るショーツが丸見えなのも気にすることはできない。ぐりぐりと太ももの万力がベルを仕置きしている。

 

 命の顔も、和やかな顔から怒り顔に

 

 

 

「あ、いつ……命さん、頭潰れちゃう!」

 

「いけない子です。好き嫌いも、偏った食事も……まったく、許しがたい発言ですね。」

 

「で、でも……神さまだって、この前お鍋を食べてた時、僕の皿に春菊を」

 

「ええ、そうですか。それは知りませんでした。では、神ヘスティアも後でお説教です」

 

「……うぅ」

 

 

……ごめんなさい、神さま。意図せず情報漏洩をしてしまいました

 

 

 

「あ、甘やかしてくれるって」

 

「ええ、それは違えません。ですが、母性とは優しさだけではありません」

 

「……そ、それ……ふぎゅ」

 

 拘束は緩む。だが、頬は太ももでつぶされた。不格好な顔を見て、命は楽しげにまた笑う

 

 

「甘やかすのも母親。ですが、厳しく管理するのも、また母の仕事。 ベル殿の求める母を、命は勤めてみせます。しかし、やり方は私の流派ですので……ご覚悟を」

 

「ひゃ……ん、ひぅ」

 

 指先がベルの唇に触れた。そのまま口内に滑り込み、歯をなぞり舌をかき回す。

 

 口内の粘膜をくすぐられる。敏感な神経がしびれて、どこか快感のような刺激が背筋を駆け抜けた。

 

 

「ひゃ……ひ、ひほおはん……あぅ」

 

「油っこく、濃い味付けに慣れた舌。ベル殿の為に、この命が治してさしあげます。」

 

「――――ッ」

 

「覚悟してください。あなたが甘えたいお母さんは……一筋縄ではいきませんよ」

 

 

 

次回に続く




命の甘やかし展開でした。ご満足いただけたかちょっと心配

しっかりものな彼女にはS的な要素で甘やかしを考えてみましたが、命推しとって許容範囲かどうか、そこが気がかり。感想頂ければ参考にします。


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