思いつきも思いつき
続くかどうかも分からない
なぜなら本業はトレーナーだから
「逃げ出そう。ここから。」
「いいですよ。彩狐ちゃんとなら、どんな地獄からでも抜け出せる気がします。」
巨大な狐...のように見える何かは少女の同意を得るや否や駆け出した。
「彩狐...と言うのは君の言葉を借りるなら、そうだな、カアイクないのでは?」
「じゃあ、キュウちゃん!キュウちゃんでどうですか?」
狐は満足気に鼻を鳴らすと、さらに速度を上げた。
「そろそろ私の個性が暴走します。私の最期に伝えたい事は?」
「私の"普通"を認めてくれて...ありがとう。」
「たすけてくれてありがとう。」
「だから最期なんて言わないで。」
大層悲しそうに微笑むと彼女は深い眠りに落ちてしまった。
呟かれた感謝の言葉は彼女の流した涙とともに、深い闇に消えてゆく。
▼▲▼▲▼
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛っ゛っ゛」
熱い痛い苦しい熱い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
中国かどこかで光る赤子が産まれたことが全ての始まりだ。それ以来、世界中で超常が人々に発現、今じゃ世界人口の8割が"個性"と呼ばれる異能を持っている。混沌渦巻く世界で、ある職業が注目を集めていた。
ヒーロー。かつて誰もが憧れていた職業。そして今私が1番憧れている職業。今私が1番恨まなければいけない人々。今私の前に現れて欲しい人々。
「もう100人も助け出してる!まだ5分も経ってねぇよ!やべぇって!」
これだけ。これだけ苦しんでいるというのに。
「HaHaHaHa!!!!!!!」
どうか。
「もう大丈夫!私が来た!」
どうか。私を助けて。
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しんどくってしかたがないのです。
生き辛くってしかたがないのです。
普通ってなんなのでしょうか。
"個性"が蔓延るこの世の中で、普通の基準はどこを探せばあるのでしょうか。
私にとっては"普通"なのに。
何故普通を強制されるのでしょうか。
みんなが憧れるヒーローとやらを好きになることが普通なのでしょうか。
私は可愛いものが好きで、柘榴が好きで、
血が好きで。
それは個性では無いのでしょうか。
それは普通では無いのでしょうか。
▲▼▲▼▲
「2年前...の被害者ですか?」
オールマイトは目の前のネズミのような何かに聞いた。
「おそらく彼女らは、本人達の希望で定期的なカウンセリングを義務付けた上でアパートを貸出、そこでルームシェアをさせて監視下に置く、という処置で問題ないと判断し、社会復帰させたはずでは...」
「君の割にはよく覚えているね。」
「先生。あれは私にとっての大きな屈辱です。片時も忘れた事はありません。」
「あれは君のミスではない。いや、言い方を変えよう。君だけのミスでは無い。我々の、ヒーローの失敗だ。」
2年前、偶然私は雄英高校を訪れていた。
理由は色々あった。必要書類を提出する為だったり、友と話に花を咲かす為だったり、将来トップヒーローになるであろう有精卵達を鼓舞する為だったり。
なんだかんだ日も沈んでそろそろ帰ろうかと思っていたその時、十数キロ離れた山で突如爆発が起きたという情報が耳に入った。
その山は以前から
「状況を整理します。中には武装した
「中の様子が不透明な今、総員突撃は愚策です。よって作戦はプランFを採用。オールマイトさんを含む地上待機組は直ぐに下層に迎えるように準備をお願いします!」
「「「了解!!!」」」
結論から言おう。我々の見た爆発はただの実験失敗による爆発ではなかった。
先行していた調査組の退避を受け、我々も直ぐに第3層層に向かった。
そこに居たのは粗方の
「なんだよありゃ...」
「あれがこの実験施設で造られてたバケモンかよ。」
「こいつッ!煙出したり光る槍飛ばしてきたり!どうなってやがんだよ!」
「おい!狐の近くに女の子倒れてねぇか!?」
「狐が邪魔で近づけねぇよ!」
氷河期の狩猟とでも言えるような混戦。私は大狐の行動に違和感を覚えていた。
大狐はこちらに積極的な攻撃はしない。明確な攻撃の意思が見て取れるのは倒れている少女に近付こうとした時だけ。
それに暴れ回ると言うよりもがいていると言える程、狐は私の目に苦しそうに映った。
そしてその違和感はイレイザーヘッドの言葉で確信に変わる。
「オールマイト、煙も槍も俺が"視"たら消えた。だが狐は狐のままだ。」
「まさかッ!オールフォーワン...ッ!」
イレイザーヘッドは異形型以外の個性を打ち消す能力...言わば反個性とも言えるものを持っている。
消せる個性と消えない個性があるということは、完全に別れた個性が2つ以上あるという事だ。
複合型でも何でもない。
そんな異常な光景が目の前に広がっている。かつて大きな犠牲と共に打ち破ったヤツの事が脳裏に浮かぶのは自然な事だろう。
ただ、それが事実だとすれば...。
「個性を与えられた者の中には、負荷に耐えられずに物言わぬ人形になってしまう者も多かったそうだ。」
誰から聞いたか、オールフォーワンの命を弄ぶような悪事。
オールフォーワンが関わっているにしろ、いないにしろ、恐らくここで"個性を増やす"という実験が行われていたことは明確だ。
我々が見た爆発はこの狐が少女を助け出して逃げ出す途中で起きた爆発なのだろう。
逃げる途中で個性が暴走、苦しみながらも少女を護るために
そうか。なぜ早く気付いてあげられなかったのか。オールフォーワンをよく知る私が、この場で1番理解してやれるはずなのに。当の私は大狐制圧の事しか頭に無かった。
目に見えるものだけを信じていたのだ。救助対象は2人居た。
自分に酷く腹が立つ。
震える声でイレイザーに問う。
「『抹消』はどれくらい持つ?」
「持って15秒だ。」
「十分だ。」
他のヒーロー達を制止し、敵意の無いことを伝えるため、両手を広げながらゆっくりと近づいていく。
私の肩から腹にかけて狐が喰らいつく。この位の痛み、君達が受けた苦しみからしたら些細なものなのだろう。
手を伸ばす。
狐の首に優しく腕を回す。
「もうッ、もう大丈夫ッ!」
狐はたちまち小さくなり、遂には私の身長の半分もない、色白で華奢な少女の姿になった。
頭には狐の耳、両手両足には狐の名残を残す毛と肉球、爪がある。
街中で歩いていたとしても、美しさにより人目を引くことはあれど、特異な目で見られることは無いであろう。
そんな彼女が。
助けを求めても届かない、こんな場所で。
今まで懸命に戦ってきたのだ。
護っていたのだ。
奥に倒れるもう1人の少女も抱き寄せる。
両腕に確りと2人を抱える。
悔しさに涙が出る。怒りに身体が震える。
それでも奥歯を噛み締め、私は笑う。
「私が来たッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」