【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】   作:絆蛙

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お待たせしました。
やっぱ次回エグいほど長くなりそうです。多分まとめたら6万文字くらいかな…? わからんけど、一万文字で投稿したら6か7話くらいかかるレベルでは長くなりそうです。より時間かかるかと……許せ。
正直早く番外編書きたいんで頑張ってはいるんですよ。ゆゆゆ終わったら向こうも書いていきます。
ウル銀の完結、他のウルトラ戦士が何をしてるのか、何故イッチの元へ誰も行かないのか、とか色々とね…。番外編ってことは関わる訳ですしお寿司。
(IDめんど…違うだけで)掲示板は見てたり実は仲良くなってたりはするんですが。
何はともあれ、今回で樹ちゃん編…っていっていいのかなこれ。一応そうか、終わりです。
やりたかったシーンがようやく書けた…ッ!
そしていつもの如く感想くれたらやる気出て投稿早くなるかもしれないのでください。高評価でもええんやで…?(期待の眼差し)






「-勇気のおまじない-グッド・ラック・チャーム」

◆◆◆

 

 第 22 話 

 

-勇気のおまじない-グッド・ラック・チャーム 

 

後編

 

オキザリス

輝く心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「樹。樹、朝よ起きなさい。朝ごはん、準備しておくから着替えて顔洗ってきなさいよー」

 

聞きなれた優しい姉の声が、樹の意識を夢の世界から浮上させた。

薄く開いた目に映るのは、忙しそうに部屋を出ていく風の後ろ姿。

早く起きなきゃという理性の声に抵抗するようにもぞりと寝返りを打った先、カーテンの隙間から零れる朝の光が樹の頭にさらなる覚醒を促した。

それでも眠っていたいという悪魔の声に打ち負けて抵抗していたが遂に頭の中で過半数を占めた理性の声に背中を押されてベッドから起き上がった樹は、風が用意してくれた制服に袖を通す。

寝ぼけ眼のまま思い出すのは、先ほど夢で見ていた昔の出来事についてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう二、三年前になるだろうか。

樹や風が小学生の頃、知らない大人たちが二人の家にやってきたことがあった。

家には両親はおらず、樹と風のみ。

当時幼く、今もだが人見知りな樹は見知らぬ大人に怯えてずっと風の背中に隠れていた。

だからかどのような会話が大人たちと風に繰り広げられていたかは分からないが、樹は後々姉である風から両親が亡くなったことを知らされた。

あまりにもの唐突で、あまりにもの呆気ない。

それから風は変わり始めた。

両親を亡くしてしまった今、年長者は自分だけ。

自分が頑張らないと行けないと母親代わりになるために料理も洗濯も掃除も家事全てを覚えていった。弱いところを見せないようにもなっていた。

そんな風を樹は姉であると同時に母親のようにも思っており、家族だからというのもあるが、優しい姉である風の背中が誰よりも安心出来る場所で、暖かくて、大好きだった。

それこそ、風が居ればなんだって出来ると思えるほどに。

しかし逆に自分一人では何も出来ないと無力感もあったのだ。

 

『---こんな大事なこと……ずっと黙っていたんですか……』

 

初めて東郷を除く勇者部が勇者になった時。

だいぶ前からウルトラマンとして戦っていたらしい紡絆が、初めて樹海で変身した時。

バーテックスの三体襲撃の前のことだ。

東郷が出ていく背中を風と樹は眺めることしか出来なくて、部室に残った。

 

『やっぱり怒るよね……』

 

東郷が部室から出ていった後、部室に残っていた樹は風の背中を見ていた。

哀愁が漂う背中。

風は樹のことだけじゃなくて、ずっと勇者部を作る前から一人で抱えて、お役目のことや騙していたことも抱えて、全部全部自分が背負おうとしているのだろう。

だからこそ、樹は思う。

自分が姉の後ろに隠れる自分ではなく、あの先輩(紡絆先輩)のような誰かの隣を一緒に歩める自分なら、と---

 

 

 

 

 

 

 

リビングに朝食が並び、樹は椅子に座りながら風に髪を梳かして貰った。

しかし寝起きに弱いのもあるだろうが、妙にいつもより暗い姿に風は座りながら優しげに問いかける。

 

「元気ないね。どした?」

 

「あのねお姉ちゃん……」

 

「ん?」

 

「………ありがとう」

 

何を言われるかと思えば、樹の口から出てきたのは感謝の言葉。

何の脈略もない突拍子すぎることに流石に風も分からない。

 

「何、急ね?」

 

「……何となく、言いたくなったの。

この家の事とか、勇者部の事とか、お姉ちゃんにばかり大変なことさせて」

 

「そんな……私なりに理由があるからね」

 

「理由って…?」

 

今更過ぎるし、そんなことは気にしてない風は思わず口を滑らせてしまい、理由を聞かれて一瞬言葉に詰まる。

何故か勘で当ててきた紡絆はともかく、風は樹も入れて誰にも勇者部を作った目的も戦う目的も言ったことはない。

ただの自己満足で、ただの自分勝手な理由だと思っているからだ。

 

「ま、まぁ簡単に言えば、世界の平和を守るため、かな? だって勇者だしね!」

 

言葉に詰まったのは一瞬で、すぐさま風は思いついた言葉を述べる。

油断して、ボロが出そうになってしまった風は気を引き締め直し、樹に視線を送れば彼女はまだ暗い雰囲気だ。

 

「でも…」

「なんだっていいよ! どんな理由でもそれを頑張れるならさ」

「どんな、理由でも…」

「はい、シリアスはここまで! ほら、冷めないうちに食べて? 学校行くよ」

 

なにか言いたそうな樹の言葉を遮り、この話を切る。

このまま話してると、さっきみたいにまたボロが出るかもしれない。

それに学校に行かないと行けないのは事実で、このまま駄弁ってたら遅刻してしまう。

それを理解してるのか樹も特に怪しむことも何かを言うことも無く、風は話を終わらせると自分も朝食を食べるのだった。

しかし机の下のせいで見えないが、太ももに置いた両手で握り拳をつくる樹に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて勇者部の部活。

今回はまたしても、猫の飼い主探し…というよりかは三人貰い手が見つかったため、飼い主の方から猫を預かる役目だ。

別れて決行するということで、適当に配分という名の気を使い、家族水入らずということでAグループ、風と樹、Bグループ、紡絆と小都音、残るCグループが友奈と東郷、夏凜といった3グループに別れて行動となっていた。

 

「……ここどこ!?」

 

「あっちね」

 

「わ、分かってたわよ。まだこの辺りの地理に慣れてないだけよ?」

 

こちらCグループ。

まだ来たばかりで道が分からない夏凜はスマホを見せながら聞くと、東郷が方角を指差しながら教える。

すると夏凜は言い訳のように言葉を述べた。

 

「東郷さん。夏凜ちゃん。あのね、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ」

 

その時、東郷の車椅子を止めて、友奈はノートとペンを持ちながらそう言った。

突然のことに二人は思わず顔を見合わせるが、その後の説明で納得が言ったように喜んで承諾する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、Aグループ。

つまり風と樹のグループだが、二人は既に飼い主の家に着いていた。

 

「ここね」

 

しっかりと表札を見て合っているか確認すると、風はインターホンを鳴らす。

ピンポーンとは鳴らず、ブザーのような音が鳴るタイプの家のようだ。

 

「すいませーん。讃州中学勇者部でーす! 子猫を引き取りに来ましたー!」

 

家に居るであろう人たちに声を投げかけると、風は引き戸を横にスライドして開ける。

 

「絶対ヤダ! この子を誰かにあげるなんて。私が飼うから!」

 

「でもね…うちでは飼えないのよ」

 

少し開いたドアから聞こえてきたのは、駄々こねる子供の泣き声。

母親も困った様子で、どうしたものかといった様子。

それを見ていた風と樹も想定外だったようで、戸惑っていた。

 

「もしかして子猫を連れて行くの嫌だったのかな……」

「あっちゃ〜…もっとよく確認しておけばよかった…」

「どうしよう…この家の子、泣いてるみたい…」

「……大丈夫。お姉ちゃんが何とかする」

「何とかって……っ」

 

樹が不安そうに、でもどうしたらいいか分からないといった様子でいると風は決心したように何とかすると言った。

だが何とかするといっても、外部である風と樹が何かを言っても中々に難しい話であり、具体的な解決法でもあるだろうか。

それは樹には分からないし、仮に思いついていたとしても行動出来る自信はない。

 

「失礼します。讃州中学生勇者部ですけど---」

 

しかし風はそう言いながら家へと入っていき、樹はただその背中を見ていることしか出来なかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から述べると、全て丸く収まった。

風の説得で母親は考え直してくれて、特に風と樹たちと親子が喧嘩することも無く子供も泣くのをやめて、説得は無事終了した。

もちろん受取先へと連絡して了承を貰っている。

そのため猫を受け取らないまま、風と樹は帰り道を歩いていた。

 

「---あの家のお母さん。子猫のこと考え直してくれてよかったね!」

 

「……うん」

 

「私たちとケンカにもならなかったし、お姉ちゃんのお陰だよ」

 

上機嫌に歩く樹と、表情が暗い風。

まるで朝と正反対の様子だった。

そんな風が思い出すのはさっきの女の子。あの子を見てからずっと、一つの思いが頭の中から離れない。

樹の後ろを黙ってついてきていた風だったが、しばらくしてとうとうその足が止まった。

そして気づけば、その複雑な心の内が一つの言葉となって口から漏れ出す。

 

「……ごめんね、樹」

 

「…なんで謝るの?」

 

唐突な謝罪に樹も足を止め、振り返って問う。

樹からすれば、風に謝られることはないし、そもそもさっきの依頼だって風のおかげで無事に上手くいったようなもの。

家のこともだが、自分が謝ることはあれども謝られる筋合いはないと樹は思っている。

 

「それは…あの子を見ていて思ったの。大赦に樹を勇者部に入れるように言われたとき、私ももっと本気で反対すればよかったって。あの子みたいに泣いてでも…そうすれば樹は勇者にならないで普通に---」

 

「それは違うよ、お姉ちゃん」

 

その思いは、きっと風が抱え込む思いのひとつに過ぎないのだろう。しかし家族を巻き込んだというのは、風のような他人を巻き込むだけでも罪悪感を抱く人間にはより心にのしかかるはず。

そんな風の言葉を遮る、確かな力強い声。

俯いていた風がはじかれたように顔を上げて見上げた先に目に映ったのは、いつもの控えめな様子からは想像もできないほど強い光を湛えた樹の瞳。

後悔に歪む風の顔を真正面から捉えながら、樹は自分の思いを言葉として紡ぎだす。

 

「私ね、お姉ちゃんがちょっと羨ましかったんだ。覚えてる?

お姉ちゃんが勇者部を作ってしばらく経ったとき、お姉ちゃんすごく楽しそうだった」

 

「それは……」

 

確かに、その記憶はあった。

うちには誰よりも問題児が居て、誰よりも誰かに寄り添う自己犠牲のバカがいる。

風は樹に何度も勇者部のことを話したし、何度も話したことがあった。

樹にはその時の記憶が深く深く残っている。

 

『ねぇ、聞いて樹〜。部活に紡絆って男の子が居てね。そいつ困ったことで、はっきり言ってバカだし問題児なんだけど今日は依頼主のところでちょっとしたトラブルがあったのよ……。でもさ、なんだかんだで丸く収まったの。なんというか、普段からは考えられなくってさ、不思議なやつで面白いかも』

 

『今日さ、この寒い時期だというのに、小さい子が泣いてるからって迷いなく川にダイブして泳いで行ったのよ。なんでそんなことしたーって言っても、泣いてる姿より笑顔の方がよくないですか、だって。しかも寒さで震えてる子供を温めるために自分の服を被せてたのよ? 自分はびしょ濡れでもっと寒いくせに。

理由じゃなくてそうした行動を聞いてるのにおかしいもんよね、まったく…』

 

『今日も紡絆が騒がしくってさー。ほんと、トラブルが多くて運が良いのか悪いのか微妙なところね。巻き込まれるこっちも、毎日忙しいわ』

 

困ったように、疲れたように、それでも楽しそうに色々と話す風に樹は当然、その人物について興味を持っていった。

帰ってくる度に、愚痴のように聞かされてきた。

だからなのだろう。当時の樹はその人物に会ってみたいという好奇心に駆られていたのだ。

 

「だから今は嬉しいの。お姉ちゃんが勇者部に誘ってくれて、友奈さんや東郷さん、夏凜さんに小都音ちゃん。なにより紡絆先輩に出会えて、みんな私のような子でも受け入れてくれて……毎日が楽しくて、かけがえのない日だなって」

 

「樹…」

 

本当に、嘘偽りない言葉なのだろう。

風から見る樹の表情は、とても嬉しそうで見た者は微笑してしまいたくなるような笑顔だ。

 

「それに、前の私は守られるだけだったけど、勇者になってからはお姉ちゃんやみんなと一緒に戦えることも出来るようになったもん。

だから私、後悔してないよ。私はお姉ちゃんにずっと感謝してるから」

 

そう語る樹は、とても大きく風の目には映った。

いつも自分の後ろに隠れていて、守らなければならない可愛い妹ではなく、共に歩もうとする強い志を持ち、一緒に戦ってくれる心強い(仲間)のように。

その姿を見て、罪悪感から暗く曇っていた風の心にはもう、晴れ間が差し込んでいる。

 

「…ありがと」

 

「どういたしまして!」

 

「樹ったらなんか偉そう!」

 

いつもの調子に戻った風と樹は笑い合い、さっきまであった暗い空気は何処かへと消え去っていた。

 

「さーてと部室に戻ったら樹は歌の練習ね」

 

「あう、そうだった…がっ、がんばる…!」

 

ちょっとした蟠りもなくなり、彼女たちらしい空気感を纏いながら、二人は夕陽に照らされる道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして忘れられているかもしれないBグループなのだが、まぁコミュ力高いし知名度も高い紡絆が居れば大体のことは解決するので、それから予想出来るとおり---

 

「……なんかあっさり」

 

「俺こんなもんだぞ」

 

飼い主に猫を貰うどころか、既に貰い主に渡すところまで終了していた。

というか、本当に知名度が高いせいか感謝されたりぐいぐいとお茶でもと誘って来られ、お人好しの紡絆に断ることが出来ずに暫しお世話になっていた---で、今に至る。

 

「お兄ちゃん、もしかして四国中に知られてる…?」

 

「あはは、まさかー。だとしたら有名人だな」

 

「はぁ…お兄ちゃんならやりかねないよ…」

 

茶化してるわけではなく真面目に言ったのだが、紡絆は冗談のように受け取っているらしい。

一応言っておくと、この時間まで時間かかったのは飼い主の方でお茶を出されたために断ると失礼に当たるためにお話をしていつものように子供と遊び、貰い主の方でも娘がお世話になってるとお茶でも飲んで行ってと言われて子供と遊び---って感じである。

男女関係なく隔たりなく接することが出来る紡絆は、子供の男女にも人気なようだ。

 

「けど小都音が居てくれて助かった。俺、詳しいことはわかんないからな」

 

「お兄ちゃんの傍には私が居ないとね」

 

「ん、そだな」

 

難しい話をされると、紡絆はあまり分からない。

残念ながら知能は妹の小都音の方が上らしく、紡絆は小都音の言葉に肯定を示す。

まぁ、誰か世話を焼く人間が居なければ紡絆は自分に興味が薄すぎるせいで適当に生きるだろうから、間違ってはない。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

「んー?」

 

いつの間に行動していたのか、腕元に子犬を抱えた紡絆は首を傾げる。

その子犬には首輪が着いており、どうやらリードを離してしまったのだろう。

それにしても小都音と話していたはずの紡絆はいつ気づいて捕まえていたのか。

 

『くぅ〜ん』

 

「あ、ちょ。今お話中だから! やめてくれ…!」

 

懐いたのかぺろぺろと紡絆の頬を舐める子犬に対して、紡絆は落とさないように抱え込むしかなく、されるがままだ。

その姿を見た小都音は目をぱちくりさせると、苦笑に近い笑みを浮かべた。

 

「で、なんだ?」

 

「……ううん、その子の飼い主、探してあげよっか」

 

「そうしたいのは山々なんだが……!」

 

舐めるのをやめたかと思えば、今度は体全体で顔にのしかかり、紡絆は前が見えない。

流石に困る紡絆は引き離すが、今度は子犬がよじ登って紡絆の頭の上に座る。

 

「………なんで?」

 

牛鬼といい、子犬といい、何故の頭の上に乗るのか。

もはや頭の上に乗られることに慣れすぎて体幹が強くなったのか全く揺れずに歩ける紡絆だった。

しかし乗る理由が到底理解が出来ずに困惑する。

 

「子犬にも好かれるなんて、流石お兄ちゃん」

 

「いや何もしてないんだけどな」

 

「動物はほら、人間とは見てる世界は違う、だったり感覚が鋭いとか言われてるでしょ。お兄ちゃんの本質を見極めれてるから懐くんじゃない? だってお兄ちゃんはお人好しで優しくて、誰にも甘いんだから」

 

実際に捕まえただけであって懐かれるようなことはしてないのだが、やはり感覚で良い人だと判断したのだろうか。

それは犬にしか分からぬが、小都音が評価したことは間違いなく継受紡絆という人物を知っている者だと、肯定する評価だ。

 

「はぁ、俺はそんな人間じゃないと思うけどなぁ」

 

どの口が言うのか。

今までの行動を振り返って欲しい。命を懸けてでも誰かを救おうとするやつなんて、自己犠牲のお人好しな甘いバカだけだ。

敵相手にすら、『止める』というのだから。

 

「自分を客観的に見ることなんて難しいもん。お兄ちゃんには絶対わかんないと思うな」

 

「あれ、なんか辛辣じゃない?」

 

「記憶喪失の人間が何言ってるの?」

 

「畜生、否定出来ない!」

 

まだ友奈たちなら紡絆も言い返すことは出来たものの、家族であり、継受紡絆という人間を紡絆以上に知っている小都音には何も言い返せない。

 

『ワン!』

 

「うおっ…よっと」

 

そんなふうに話しながら探していると、子犬が鳴き声を発し、降りたそうにしていることを察した紡絆は頭の上に手を伸ばして優しく降ろす。

すると子犬はすぐに駆けていき、まだ小学生くらいの小さい女の子に飛びついていた。

女の子も子犬を抱きしめて、瞳に涙を貯めているが、それは喜びのはずだ。

実際、無事でよかったと言っているのが聴力が強化されている紡絆にだけは聞こえたのだから。

 

「……行くか」

 

「……うん」

 

くしゃっと笑みを浮かべた紡絆は、見つかる前に遠回りの道を選んで歩いていき、小都音はその後ろを歩く。

誰も賞賛が欲しいわけでもなく、見返りが欲しい訳でもない。

だからわざわざ話しかけることもせず、離れたのだろう。

 

「おっとと…」

 

本当にただしたいからやっただけなのだと分かる兄の背中を小都音は後ろから見てると、紡絆が突如体勢を崩したのが見える。

何かに躓いたのか分からないが、転けたら大変なので小都音は慌てて後ろから抱きしめた。

 

「だ、大丈夫?」

 

「おう、ありがとうな」

 

思っていたよりも平気だったようで、転けることはなかった。

そのことに小都音は安堵の息を吐くが、気が抜けない。

 

「お兄ちゃん怪我人なんだから足元には気をつけてね」

 

「ごめんごめん」

 

もう大丈夫と判断したようで、僅かに名残惜しそうに小都音は紡絆を離すと、紡絆はポケットから響く通知音に反応してスマホを取り出す。

 

「お、みんな終わったみたいだ。こっちも終わってる…っと」

 

どうやら通知音の正体は勇者部のグループらしく、メッセージでどの班も完了したことを確認した紡絆は返信だけしておくとスマホを収納した。

 

「俺らも帰るか」

 

「うん。でも…お兄ちゃん、実は無理してない?」

 

「してないしてない」

 

転けそうになったことを怪しんでいるのかそう聞いてくる小都音に、紡絆は笑顔で答える。

じーっと見つめて来られても、苦笑を浮かべるだけ。

それを見て、小都音は息を吐いた。

 

「ほら、それより早く戻んないと」

 

「そうだね」

 

割と遠回りしているため、そう言った紡絆が歩き出すと隣に並んだ小都音も一緒に歩んでいく。

自然と小都音から繋がれる手。それを気にすることも無く、紡絆は学校に戻る道を辿っていた。

 

「そういえばお兄ちゃん」

 

「んん?」

 

「樹ちゃんの歌の件なんだけど……何かないの? 私はお兄ちゃんが居れば何でも出来る自信あるけど、参考にならないし」

 

学校への道を歩く中、小都音が帰ってもやるであろう樹の歌の件について話題に出す。

友人に対して何かしてやりたいとは思ってはいるのだろうが、確かにそれなら参考にはならない。

樹が抱く思いと小都音が抱いてる思いは違うし、樹は姉で小都音は兄。

その姉と兄も性格は全然違う。

家族にはそれぞれの形というものがあるのだから

 

「歌は専門外だからな…。だから俺は俺に出来ることをするだけだよ」

 

「そっか、なら樹ちゃんの件はきっと大丈夫だね!」

 

紡絆の言葉を聞いて、前に躍り出た小都音は両手を背中で組んで振り向きながら安心したように笑顔を向ける。

全幅の信頼を向けてそう言ったのは、紡絆がいつも誰かを助けて、誰かを救ってきたからだろう。

嘘をつけない紡絆が無理と答えたら無理だろうが、真面目に答えてやれることをやると言ったのだ。

それを理解してるのか思わず立ち止まった紡絆は目をぱちぱちと瞬きし、口元にフッとした笑みを浮かべた。

 

「まったく…お前はほんと賢くて可愛い上に出来た妹だな」

 

「えへへぇ。お兄ちゃんに可愛いって褒められちゃった…っ。結婚する?」

 

「…………」

 

アホ毛をハートマークにして、キラキラと目を輝かせる小都音に、紡絆は何も言わずに前言撤回するべきだろうか、と考えていた。

 

「……ま、いっか。何はともあれ、樹ちゃんに会わないとな。時間もないし行動に移せるのは今日か明日だけだ」

 

「うんっ。私の友達をお願いね、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

相変わらず腕に抱きついて絡めてくる小都音の頭の上にあるアホ毛がハートマークを作っているのだが、そこから意識を外した紡絆は力強い返事をして、二人は戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後。

練習が出来る最終日。樹の歌の練習を時間いっぱい続けたのだが、表情がよろしくない。

最初に比べると、マシ。

だが所詮六人しかいないわけで、本番はもっと大勢いるのだ。

 

「樹、大丈夫かしら…」

 

「きっと大丈夫ですよ!」

 

「………」

 

今は樹は部室には居らず、忘れ物をしたと教室に戻っていった。

だからか心配といった様子で風が呟き、友奈が安心させようと声を挙げる。

普段なら紡絆もそこで何か言うのだが、考え込んでるように静かだ。

 

「紡絆くん? どうかしたの?」

 

「確かに、さっきから無言ね。いつもは騒がしいくせに」

 

「……んー、まぁ、ちょっと」

 

何も言い返さず、短めな言葉で返事すると紡絆は荷物を鞄の中に詰め込んでいく。

 

「兄さん……」

 

「大丈夫。じゃ、風先輩、みんな。俺ちょっとやることあるんで先失礼しますね」

 

「え? ちょっと!?」

 

荷物を詰め込むのを終わった紡絆は安心させるように笑いかけた後に、風の言葉を聞くこともなく素早く出ていく。

静止させる暇もなく走っていった紡絆を部室にいる一同は見てることしか出来なかった。

 

「何か用事でもあったのかな?」

 

「それにしては小都音ちゃんを置いていくのは珍しいと思うけど…」

 

「心配する必要は無いと思いますよ。なんだって兄さんが大丈夫って言いましたから。それに兄さんならきっと……やってくれます。

普段は寝てばかりでも、誰かのために行動する兄さんはいつもよりカッコよくて、勇気を与えることも出来ますから」

 

「そういうこと……まぁ、確かにあいつなら心配ないでしょうね」

 

そう語る小都音の言葉で、夏凜は察した。

いや、夏凜だけではない。友奈も東郷も、風ですら理解した。

第一、あの世界で1番のお人好しなバカが仲間であり、大切な後輩を見捨てるか?と言われれば、紡絆を知る人100人に聞いたとしてもNOと答える。

みんなに本当の要件を言わなかったのは、樹と二人っきりになるためなのだろう。

それなら、自分たちに出来ることは普段は頭が悪くて寝てばかりなくせに、依頼や誰かのためとなれば誰よりも率先して動けて、頼りになる仲間を信じるだけ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

607:名無しの転生者 ID:5X7tO8UZM

で、どうする気だよイッチ

 

 

608:名無しの転生者 ID:/3Ud8x3yy

やることは決まってんだろ? でも明日だぞ? 今日でも正直二割あるかどうかなのにどうやって十割にするつもりだ?

 

 

609:名無しの転生者 ID:mzYzhr0eE

はっきり言って無理だよな。王手かかってるやろこれ

 

 

610:名無しの転生者 ID:8VjkxryYZ

人見知りやあがり症を治すのは難しいからな…俺らですら治ってないし

 

 

611:名無しの転生者 ID:BCbDSf/gk

時間が無さすぎるし詰んでない? 何するつもりだよ

 

 

612:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ずっと考えていたんだ。俺って…もしかして音痴なのでは、と

 

 

613:名無しの転生者 ID:BUwgW4dR4

何今更なこと言ってんの?

 

 

614:名無しの転生者 ID:E1D/nw9ZG

カラオケの時点で分かってたから。

一回はともかく何度も歌ってあんな点数取ってた時点でお察しだろ

 

 

615:名無しの転生者 ID:aRGL6ghkj

カラオケの最低設定なけりゃ30点とかいってそうだったな…

 

 

616:名無しの転生者 ID:vuJVv1Jok

おめーが下手なのは周知されてんだよ

 

 

617:名無しの転生者 ID:wYTZK4pPA

そんなイッチが音楽語ったらぶっ殺されるぞ

 

 

618:名無しの転生者 ID:BWiH+kLG3

イッチが下手なのは分かってるからそれよりどうする気なんだ?

はよ言えよ。無茶すんだろ

 

 

619:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんで散々言われてるんだ…? いやいいけどさ。

無茶はせんよ。何も無いところで転けそうなるレベルでは肉体がやばいし。

で、話は戻すけどさ、音楽に関しては専門外だから無理。だから考えて、思いついたのが結局俺が出来ることをやるだけってことなのよ。

昨日の買い物はそれの下準備

 

 

620:名無しの転生者 ID:BABVWkvHB

……買い物?

 

 

621:名無しの転生者 ID:E+jqUKp/8

何か怪しいもの買ってたっけ…?

 

 

622:名無しの転生者 ID:JEelLNcK5

すまん、正直安価のことしか考えてなかったし安価のことしか見てなかった

 

 

623:名無しの転生者 ID:0MUPlew3X

何か準備してたんか…

 

 

624:名無しの転生者 ID:wHzHkSwhs

誰も覚えてないってマジ? 俺もだけど

 

 

625:名無しの転生者 ID:ylXcJXxu1

おいおいお前らいくらなんでもふざけすぎだろ。で、何かあったっけ?

 

 

626:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

お前ら覚えてないだろ!

はぁ…まぁ、人として出来ることをやってみせるさ

 

 

627:名無しの転生者 ID:JZPosn46L

ならお手並み拝見と行こうか…

 

 

628:名無しの転生者 ID:A98LXZczi

頑張れよイッチ

 

 

629:名無しの転生者 ID:MTGsIii1E

信じてるぜ!

 

 

630:名無しの転生者 ID:XOsU4A5sJ

美少女のためなら素直に応援するスレ民ぇ…。信頼が軽すぎる

 

 

631:名無しの転生者 ID:3UtANfFwT

それもイッチが悪い……

 

 

632:名無しの転生者 ID:SwdqFvd/j

樹ちゃんのためだからな

 

 

633:名無しの転生者 ID:D1PzgiTJb

そもそも、大元を辿れば百合の間に挟まるイッチが全ての元凶だからね仕方がないね(いつもの)

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

去年はよく使っていた、一年生の廊下を紡絆は歩く。

今も使うことはあるが、去年に比べると間違いなく減ったと言える。

学年が違えば使う階も変わるのだから当然といえば当然なのだが、紡絆はその廊下を樹が何クラスかを思い出して、そこへ向かった。

あまり距離がなく、すぐに辿り着いた紡絆はドアを開けるために引手に手をかけたところで、止まる。

教室の外からでも聴こえる綺麗な声。

何処か楽しそうにも聴こえる、透き通るような声。

 

「〜〜〜♪」

 

そう、この声は樹の歌声。

強化された聴力によって教室の外に居ても紡絆はしっかりと聴こえており、目を閉じて聴く。

暫くそうしていただろうか。樹が満足するまで歌っているのを聴いていた紡絆は、曲の終わりにドアを開けた。

 

「ひあっ!?」

 

「やっぱり樹ちゃん、前より歌上手くなってんじゃん。綺麗な声だったよ」

 

「つつつつ紡絆先輩!? き、聴いてたんですか?」

 

「うん」

 

可愛いらしい悲鳴を挙げた樹に対して紡絆は気にせず、歌について拍手しながら賞賛していた。

ただ樹は誰もいないと思って気晴らしにでも歌っていたのか、紡絆の軽い返事に顔を真っ赤にする。

 

「……懐かしいな」

 

「……え?」

 

そんな樹にフッと笑った紡絆は、表情を崩しながら呟く。

それが聞こえた樹は何のことかと顔を向けると、紡絆は真っ直ぐに見つめる。

 

「ほら、俺と樹ちゃんが会って、初めてまともな会話をした時---こんな時間帯だったろ?」

 

「あ……覚えて、いたんですね」

 

「あはは、さすがに二ヶ月前のことは忘れないよ。いくら俺でもさ」

 

まだ太陽は沈んでおらず、明かりの付いていない教室を窓から入ってくる陽が照らす。

思い出すのは、樹が部活に入ってきた時のこと---

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆と友奈、東郷は二年生に上がり、風は三年生へ。そして勇者部は一年近く経った時のこと。

新入生が入ってくる時期であり、既に一人入ってくることは予め伝えられていた。

 

『ということで、前言ってた新入部員は私の妹よ。ほら、樹』

 

『は、初めまして。犬吠埼樹、です…。よ、よよよよろしくお願いします』

 

風に催促され、ガチガチに緊張した様子で自己紹介する樹。

緊張のあまり言葉が高くなったり、どもってしまっている。

新しい環境、部活、様々な要因もあるのだろうが。

 

『よろしく、樹ちゃん!』

 

『は、はい!』

 

いきなり部員の中で一二を争うコミュ力お化けの一人である友奈が名前で呼びながら話しかけると樹は慌てて体を起こし、返事をするがやはり硬い。

 

『あたしの妹にしては女子力低いけど、それ以外はなかなかよ。占いとかできるし』

 

『おおっ、凄いや! あ、占い好きならこれあげる! 縁起物だよ』

 

『あっ、かわいい…!』

 

素直に褒められたからか、樹は顔を真っ赤にしていたが、友奈はふと取り出した四つ葉のクローバーのキーホルダーをプレゼントした。

喜ぶ反応を見るからに、樹からしても良いものらしい。

そんな樹に東郷がシルクハットを被りながら神妙な面持ちで近づいてくる。

 

『えっ?』

 

意図が分からずにキョトンとする樹に、東郷はシルクハットを取ってその中を見せるも空っぽ。すると今度はその上に白い布を被せた。

相変わらず東郷の意図が分からないままその様子を眺める樹だが---

 

『はいっ!』

 

勢いよく東郷が布を引き剥がすと、そこには三羽の鳩がいた。そのまま鳩は部室を飛び回り、その場に居るだけ居る紡絆が慌てて身体能力を駆使して確保に移る。

 

『ええっ!? 凄い!! ど、どうやったんですか!?』

 

『知りたい?』

 

『はい!!』

 

紡絆が鳩を全て捕まえている間に東郷の歓迎は成功以上の成果を発揮していた。

樹は尊敬の眼差しを向けると、目を輝かせて手品の解説を聞いている。そこに先ほどまでガタガタに緊張していた姿はもう見えなかった。

 

『あんたは行かなくていいの?』

 

『や、なぁ…まぁどうなるか察せられるんですけど、行ってみます』

 

風に言われ、紡絆は後頭部をガシガシと搔くと東郷の説明が終わるのを待ち、タイミングを計って動き出した。

 

『えー…樹ちゃん、俺は継受紡絆。困ったことがあったらいくらでも助けるから、これからよろしく---ふぁ!?』

 

『あ、あれ…?』

 

気遣いからかある程度距離を開けて近くに寄った紡絆は手を差し伸べながら自己紹介から入ったのだが、視界から突如消えたことに驚き、風の困惑する声に振り向いた。

 

『樹? どうかした?』

 

『よ、よろしく…お願い、します……』

 

『……あちゃー』

 

顔を赤くしながら樹は風の後ろに隠れており、紡絆はやらかしたかと頬を掻きながら近づかず頷くだけ頷いておいた。

そしてその1日、歓迎会が終わっても紡絆は樹と喋れることはなかったのだとか。

樹か顔を赤くして逃げるため、さすがに追うことはしないからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日が少し続き、紡絆はクラスメイトに言われて代わりに掃除を終わらせた後、まだ樹が来てないから迎えに行って欲しいという風のメールを見て樹のクラスへ赴いていた。

 

『ここかな。確かに俺しか居ないけどさ、友奈の方がよかったんじゃないかなぁ…俺逃げられるし』

 

嫌われてるのかなーと他人事のような考えをしながらドアから見える窓を見れば、樹は一人で何やらしていた。

それを若干怪しみながら、驚かせないように紡絆はドアをゆっくりと開いて---

 

『〜♪』

 

『……ッ!?』

 

聴こえてきた歌声に驚く。

記憶がない。だからどんな音楽なのかも分からないし、それが何なのかすら分からない。そもそも興味すらないのに、不思議とその歌声は惹き付けられるような綺麗な歌声だった。

しかし終わりが近かったのか感情の込められた歌が終わりを迎える。

 

『ふぅ……』

 

歌い終え、一息付く樹の姿を見て、紡絆は笑みを浮かべた。

その表情を、歌っていた時の姿を、紡絆の記憶に深く刻みつけられるほどに良かったのだ。

 

『樹ちゃん。良い声で歌うんだな』

 

『はえっ!?』

 

優しい声音で紡絆が声を掛けると、ピクっと驚いたように振り向き、樹はすぐに顔を真っ赤にしていた。

 

『き、聴いてたんですか…?』

 

『あー、ごめん。盗み聞きする気はなくって、風先輩に呼んでこーいって言われてさ』

 

『そ、そうでしたか……』

 

申し訳なさそうに謝る紡絆を見て、嘘ではないと判断したのか納得した樹だったが、二人の間に沈黙が生まれる。

紡絆は下手に話せば逃げられるかもしれないため、話題を考えて。

樹はただ緊張した様子で、目を逸らしていた。

 

『…そういえば、樹ちゃん何してたんだ?』

 

『あ……えと…』

 

言い淀む樹だが、紡絆は樹の視線を追った。

そこには雑巾があり、まだ途中なのか机に置かれたままだ。他には掃除用具があり、何をさせられてるのか察した。

 

『そっか…よーし。任せろ!』

 

『えっ? あ、あのっ……!?』

 

迷うことなく動き出した紡絆に樹が何かを言う暇もなく、紡絆は凄まじい速度で掃除をやり始めた。

何も言ってないのに率先して自ら引き受けた紡絆の姿に樹は驚いていたが、慌てて自分も行動に移し、10分後くらいには全て終わっていた。

 

『ふぃ〜こんなもんか』

 

『ど、どうして……?』

 

満足気に頷く紡絆に、樹は分からないと言った様子。

そんな自分から掃除なんてしたくないだろうし、ただただ面倒なだけのはず。

だというのに紡絆は嫌な表情ひとつすることすらなく、やり遂げた。

 

『ん? 別に深い考えもないし特に何も考えてなかったけど?』

 

『……えっ?』

 

『俺さ、困ってる人が放っておけないらしい。俺は二年前以降の記憶がないんだけどね、こう胸の内側から困ってる人が居たら助けろ、って叫ぶんだ。あはは』

 

理由を求めた樹だが、紡絆から返ってきた言葉は予想もしてなかったこと。

さらっと記憶がないという重要なことを意図も簡単に暴露したが、つまりは樹が一人でやるには大変だから手伝おうと思ったということだろうか。

 

『お姉ちゃんの…言ってた通り……』

 

『ほへ?』

 

嘘という様子も感じられず、彼は純粋に困ってる人が、大変そうな人が居れば手伝うのだろう。

当の本人は何のことか理解出来てないが。

 

『……ふふ。あはは』

 

『え、笑う要素あった!?』

 

『す、すみません。()()()()って本当に真っ直ぐで、凄いなぁ、って…』

 

そんな紡絆を見てか、樹が突如笑い声を挙げると、一瞬目を見開いた紡絆だがすぐに困惑を表に出していた。

まるで感情を隠すことが出来ず、それが紡絆の通常運転なのだろう。

しかしここで初めて樹が名前を呼んでいた。それに気づいてる紡絆は少し笑みを浮かべると、言われた言葉を思い返してクエスチョンマークが空中に浮いてるのではと錯覚するほど首を傾げて目を丸くしている。

感情がとても忙しい。

 

『凄い? 俺が? 普通じゃない?』

 

『その、嘘も感じれませんし怖くもなくて…むしろ暖かいというか…』

 

『んーそっか。いうて、俺は普通にしてるだけだけだぞ?

まあ…でも、よかったよ』

 

『へ…?』

 

『樹ちゃん、話せてるじゃん』

 

『あ……』

 

絶対理解してないと分かる表情で納得を示す紡絆ではあるが、今の状態を言葉で表せば、樹も気づいたような声を挙げていた。

 

『逃げることもなく、怖がることも無く。それにこうやって掃除だってしていた。俺は樹ちゃんのこと立派だと思うな。えらいぞ』

 

そう言って、ポンポンと優しく樹の頭を撫でる紡絆だが、樹は顔を真っ赤にする。

褒められたことにか、異性に撫でられたなのか、それとも別の理由なのか。

 

『あ、あの…』

 

『あ、ごめんな。そろそろ部室、行こうか』

 

触れたことに関して謝った紡絆はその手に鞄を持ち、窓を閉じて鍵も締めていく。

いつまで経っても来なければ、風たちも心配してしまう。

 

『紡絆先輩……』

 

『おう?』

 

『えと……すみません』

 

『んん? なんで?』

 

何故謝られたのか分からず、紡絆はそのことを問いかけた。

謝られることあったかな、と思ってるレベルだ。

 

『お姉ちゃんからずっと、紡絆先輩のことは聞いてたんです。でも私、すぐ隠れたり逃げたりしちゃって……』

 

『なんだ、そんなことか。それを気にしてるってこと?』

 

『はい……』

 

紡絆自身は気にしてなくても、樹は気にしているようだ。

そもそも逃げていた理由は紡絆を怖がっていたわけではない。確かに異性とは全く話さない樹だが、聞いていた話と本当に同じで一般人が憧れの人に出会った時にするような反応と似ているのだ。

ファンがその人物に話しかけられたようなもの。

 

『俺は気にしてないけど……納得しないか。じゃあ、お詫びにひとつ約束してくれるか?』

 

『約束…ですか?』

 

本当に気にしてないようで困った表情をするものの、樹の納得行かないといった様子に気づいて紡絆は悩み、一つの解決案を導き出した。

 

『いつかまた、今みたいに樹ちゃんの歌を聴かせて欲しい。樹ちゃんが歌ってる時楽しそうだったし、樹ちゃんの歌声は素敵で、聴いてるこっちだって癒されたからさ。

それに歌って人と人を繋げるものにもなったりするんだ』

 

『人と人を……?』

 

『今の俺と樹ちゃんみたいに。樹ちゃんの歌がこの絆を繋いでくれた。話すきっかけをくれた。

それなら、そう言えるだろ?』

 

輝かんとばかりの満面の笑みで小指を樹に差し伸べる紡絆の背に太陽の光が降り注ぎ、まるで本当の()のような、陽だまりのように暖かく錯覚させる。

それは紡絆が誰かを思う心を持つからか、それとも彼が輝く心を持っているからか。

それこそ、心地光明のように。

 

『……そうかも、しれません。でもいつになるか分かりませんよ?』

 

何時になるか分からないと樹は言う。

そんな樹に紡絆は真剣な表情で、口を開いた。

 

『どれだけ経っても、何年経っても待つよ。樹ちゃんが聴かせたいって本当に願う歌があったら、その時は聴かせて欲しい。この約束はただの歌じゃなくて、そう思う歌…ってことで』

 

『聴かせたい歌……』

 

『樹ちゃんが良いなら……だけどね』

 

元々は解決案として出したことだが、紡絆とて無理強いはするつもりはない。

しばらく、ほんの少しの間待っていると、樹は胸に手をやり、深呼吸した後についに口を開く。

 

『……はい、分かりました。約束ですっ』

 

『うん、約束だ』

 

互いの了承を得た後、樹から小指を絡め、ここにひとつの約束が行われた。

光は繋がるように、彼らの絆を示すように細く小さな光が彼らを包む。

まだ小さな光の線。

しかし、ここが本当の彼らにとって友と呼べるきっかけとなった始まりと言えるのかもしれない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に懐かしい、それほど経っていないのに懐かしく感じるのは、非日常に足を踏み入れ、永き戦いを得たからだろうか。

濃厚といえるほど現実では有り得ない出来事を幾つも体験したからこそ、もはや遥か過去の思い出のように錯覚する。

 

「今じゃ逃げなくなったよな」

 

「あ、あの時はすみません…! も、もう忘れてください…」

 

「あはは、ごめんごめん。全然気にしてないから、マジで。ただ仲良くなったよなーとは思うけどな」

 

恥ずかしそうにする樹に対して謝る紡絆。

確かに最初に会った時は逃げられていたというのに、今ではこうやって普通に話せるようになっている。

それは樹の成長と言える。

 

「でもさ、なんであの時逃げてたんだ?」

 

「えっと、それは…」

 

あの時は気にしてなかったとはいえ、それはもっともな疑問だ。

友奈や東郷相手には緊張していたとはいえ打ち解けて、紡絆だけには時間がかかった。

異性だからと言われてしまえば、終わりなのだが。

 

「…紡絆先輩のことはお姉ちゃんからいっぱい聞いてて、どんな性格なのかとか、どういったことをしてるのかとか、色々と…それでずっと会ってみたいって思ってたんです」

 

「いや、何話したんだあの人……ろくでもないことだろうし、なんかごめんな」

 

初耳のようで、紡絆は呆れたようにため息を吐いた。

ただ、その理由はどうせ自分の話題なんて面白くないのにとでも思ってるのだろうが。

 

「い、いえそんな……!

そっ、それで会ってみたらその…優しそうな人だとは思ってたんですけど、自分でも分からないくらい緊張してしまって…ただ話すようになってからは色々と紡絆先輩のこと知って、逆にもっと知っていきたいって思ったんです」

 

「…なるほど? 結局怖がられてはなかったわけか。よかった」

 

理解してるのか理解してないのか---少なくとも怖がられてたわけではなかったことに紡絆は安心して、もう納得したようだ。

 

「さて、思わず余談しちゃったけど、本題に移ろうか」

 

「本題?」

 

話が一区切りついたところで、陽が少しずつ沈む時間帯になってるのをスマホで確認した紡絆は話を変える。

当然、樹は何なのか分からない。

 

「そう、本題。樹ちゃんさ……不安なんだろ? 明日の歌のテスト」

 

「っ!?」

 

「これだけ練習したけど、出来るか分からない。もし緊張してしまって歌えなかったら。本当に歌えるのか。ここまで力を貸してくれた皆に申し訳ない…って感じかな?」

 

紡絆が話す度に、樹は驚き、表情に陰を落としながら俯く。

否定しないということは、それは当たりなのだろう。すぐに部室に戻って来なかった理由だって皆が居たら不安を隠し切れなくなるかもしれないから…なのかもしれない。

 

「…当たり、かな」

 

「……はい。不安なんです。もう明日が本番で、時間もないのに完璧に出来るようになったわけでもなくて。全然出来てなくて……私はいつもお姉ちゃんの後ろに隠れてばかりだったのに、そんな私が勇者になって変わったって思っていても結局何も変わってないのが嫌でも分かるんです……っ」

 

「………」

 

返ってきた返答は、肯定。

涙声混じりに語る樹を紡絆は無言で見守る。何も言わず、今言いたいことを吐かせるように。

 

「少しは成長したと思っていたのに、昨日も今日もダメダメで…皆さんは私にたくさん協力してくれて頑張ってくれたのに私は何も成果を出せてなくて…このままじゃ明日も……。

やっぱり、こんな人見知りで自慢出来る特技も占いしかない私なんかじゃ---」

 

「樹ちゃん」

 

血が出るのではと思うほどに拳を強く握り、涙が床に零れ落ちていくのを自覚しながら申し訳なさそうに、辛そうに、悔しそうに樹は最後まで言おうとした---ところで、無言だった紡絆が樹の名前を呼ぶ。

そして強く握っていたその手のうち、右手を握った。

 

「紡絆…先輩……?」

 

「はい、これ」

 

右手に暖かいものを感じた樹は顔を上げると、いつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべる紡絆が居て、彼は既に握った樹の右手を表に向けさせてから手を離していた。

その時、違和感を感じて樹が自身の手に視線を送れば、そこには包装がされた何らかの長方形のものが握らされている。

重くなく、どちらかというと軽い。

 

「俺に出来ることは何なのか。音楽は分からない。

俺は音楽が下手だし、歌も下手。知識も何も無い。だから樹ちゃんに()()()()何もしてあげられない」

 

覚えてないのもある。

しかし家に音楽関係のものが何一つないということは記憶喪失前の紡絆だって音楽にそこまでの興味はなかったはず。

尚のこと、紡絆は音楽に関しては助けになれない。

 

「でも音楽以外なら樹ちゃんを手伝うことが出来る。

例えば励ましたり、鼓舞したり---それが今渡した物。俺から樹ちゃんに対する、プレゼント」

 

それが紡絆の結論。

もともと同じ土俵に立つ必要もなく、ぶっちゃけ手伝おうにも役立つことはない。

だが、音楽以外であるならば? 紡絆自身自覚してはいないが、周りからの評価からすれば紡絆の武器は言動でもある。頭の良さなんて期待されてないが、こんな性格ゆえに、誰かに影響を与えることが出来る。

いつ、何処へ行っても気づけば中心に居るのが、継受紡絆という人間なのだから。

 

「開けてみて」

 

「わ、分かりました……」

 

優しい声音で言う紡絆の言葉に従うように、樹が包装を解いて中にある物を取り出す。

そこにあったのは、長方形のケースだった。

何が入ってるのかと樹が紡絆に視線を送ると、紡絆は頷く。

確かめて欲しいという合図だろう。

それに従うように、樹はゆっくりと開いた---

 

 

 

 

「……眼鏡?」

 

そう、ケースの中に入ってあったのは、赤色のメガネ

つまりケース自体はただのメガネケースだったということ。

しかしこれがなんの繋がりがあるのか。

 

「うん。その理由なんだけど、少し貸して」

 

「は、はい」

 

それを証明するために、紡絆は手を出すと、樹はメガネを手渡しした。

落とさないように受け取り、手に持つ紡絆は樹に視線を送る。

 

「どうしても恥ずかしい。どうしても不安。どうしても怖い。どうしても逃げ出したい。どうやっても勇気が出ない。もう無理だーって時にはさ---」

 

そう言って、紡絆はメガネを開くと親指を自分側に支えるようにして人差し指と中指で挟むように持ち、真っ直ぐに腕を伸ばす。

 

「デュワッ!」

 

掛け声のようなものと共に紡絆は腕を戻してメガネを一度掛ける。

それだけ終えると、すぐに取り外して樹に差し出した。

 

「い、今のは一体…?」

 

「勇気のおまじない。正確に言えば、勇気が出るおまじないかな」

 

それはかつて、あるウルトラ戦士が変身する際に行われたシークエンス。

彼らを知る紡絆だからこそ思いついたことで、そのためのメガネだ。

だがもうひとつ、偶然にもあるウルトラ戦士がある女性隊員に教えた魔法の言葉でもあったりする。

 

「勇気の、おまじない……」

 

「やって見たら分かるよ。樹ちゃんには勇者になれるだけの勇気が確かに備わっている。なら、効果はあるから」

 

紡絆の言葉をしまい込むように反復する樹に対して、紡絆はただ優しげに、それでいて確信を持っている表情でそういった。

それを聞いて樹はメガネと紡絆に視線を巡らせると、深呼吸をして恥ずかしそうにしながら覚悟を決めた表情でメガネを手に持つ。

 

「デュワッ!」

 

紡絆の真似をして眼鏡を掛けた樹は、紡絆から見てもちょっと気合いの入った顔になっていた。

 

「……なんだか、本当に勇気が出て来た気がします」

 

不思議な感覚に驚きながらも、その効果は正しかったようだ。

しかし忘れてはならないのは、これは勇気が出るおまじないで、勇気が貰えるおまじないではない。

おまじないで出た勇気は、最初から樹の中にあったものだろう。

それでも勇者になれるだけの勇気がある者が、友奈ですら勇者になることを即答出来なかったのに、迷いなく姉について行く決断を一番最初にした彼女なら、このおまじないは効果覿面だと紡絆は確信していたのだ。

 

「それは良かった。じゃあ、戻ろうか」

 

「はい!」

 

皆の元へ戻るために紡絆は手を差し伸べると、そっと手を置かれ、さっきまでの様子が嘘のように小さくて可愛いらしい花が咲く。

紡絆はただいつも通りの笑みで眺めると、時間が時間なのもあって、少し急ぎめにみんなの元へ戻るのだった。

本番まで、あと数時間---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日。

ついにこの日がやってきた。

音楽のテストの日で、学校特有の名前順なために樹の出番は早く、もう次で歌わなければならない。

少しずつ迫ってくる自分の出番。まだ前に立っているわけでもないのに、樹は早くも緊張していた。

どれだけ大丈夫だと、出来ると昨日もあれだけ練習したと丸めた教科書を握りながら念じたところで、弱音がそれを描き消す。

もし失敗したら、無理だったなら、みんなになんて言えばいいのか、幻滅されないか。そんなマイナスなことばかりが浮かんでいく。

 

「次は、犬吠埼さん」

 

「は、はい!」

 

遂に呼ばれたということは、出番が来てしまった。

緊張したまま呼ばれたことに慌てて返事をする樹だったが、その声は焦りから少し上ずってしまっていた。

そんな樹は緊張と不安な表情を隠せないまま、黒板の前に立つ。

その瞬間、教室にいる大勢のクラスメイトたちの視線が樹に降り注ぎ、心臓の鼓動が緊張によってより早くなるのを自覚しながら体は硬直していた。

一人ではないとはいえ、一人だ。

既に終えており、席に座ったまま口パクで応援してるのか、教科書を開くジェスチャーをしている小都音が見えて樹の緊張は多少は和らぐが、それでも万全じゃない。

 

(---やっぱり…無理……!)

 

立ち向かおうとして折れかけた意志。

しかし先生がピアノを伴奏し始めたため、歌うために教科書を勢いよく開いて前に突き出すと、ちょうど視線が前を見ていたのもあって、何かが落ちるのが見えた。

 

「あ……す、すみません!」

 

一度演奏が止まると、樹は慌てて落ちた『何か』を拾い上げる。

手に取ったそれは丁寧に4つ折りにされた一枚の紙で、もちろん樹には見覚えがない。

一体なんなのかと思いながら、ふとさっきまでジェスチャーしていた小都音のことを思い出して視線を送れば、こくこくと頷いていた。

つまり、その紙を見ろということなのだろう。

好奇心もあるが、その指示に従うように樹は紙を開いた。

そこに書かれていたのは---

 

 

 

 

 

 

『テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう 友奈』

『周りの人はみんなカボチャ 東郷』

『樹ちゃんなら絶対大丈夫。私も応援してるよ、だって私の大切な友達だもの 小都音』

『気合いよ』

『周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから 風』

『諦めるな。どうしても一歩踏み出せないなら、おまじないとみんなを思い出すんだ 紡絆』

 

一瞬。

樹の頭を占めていた様々な想いが一気に霧散した。

弱々しい虚勢も、心を苛む弱音も、折れそうになっていた意志すら。

そして皆の言葉が、思いが、文字を媒介にしてゆっくりとしみこんでいく。

 

(お姉ちゃん…小都音ちゃん…皆さん……。紡絆先輩……)

 

皆の応援が書かれたその紙を掴む指を通して、暖かいものが樹の中へと流れ込んで来て、脳裏にはみんなの顔が浮かんだ。

いつも肝心なところで弱気になってしまうこんな自分でも、信じて応援してくれている人たちがいる。

自分で自分を信じられなくたって、その人たちのことは信じられる。

自分には、そんな信じられる人たちがいつも居てくれる。手伝ってくれて、寄り添ってくれる。

何故なら、勇者部はお人好しの集まりなのだ。

そして樹は、その一員。

 

「……っ」

 

「犬吠埼さん大丈夫ですか?」

 

諦めるという想いすら消えて、樹の中に生まれ広がっていく前へ進むための勇気。

それを確かに実感しながら、先生が問いかけてくる。

それで伴奏を止めていたことを思い出した樹は返事しようとしたところで、紙の内容を思い出した。

どうしても一歩踏み出せないなら、おまじないとみんなを思い出すんだ、という大切な先輩の言葉。

ずっと持っていたはずなのに、持っていたことすら忘れていたメガネケースを取り出した樹はメガネを取りだし、控えめに前に突き出す。

 

「……デュワッ」

 

そして昨日、教えられたおまじない通りにメガネを掛けると、出来るではなく、絶対に出来るという確信が心の底から沸いてくる。

いつもの自分から考えられないほど不思議と失敗に対する不安も恐怖もなく、自信が溢れる。

もはやクラスメイトたちの視線に怖気ることもなく、向き合う勇気を手にした樹の表情は確かに変わっていた。

顔つきが変わった樹を見て優しく微笑んだ先生が、ゆっくりと伴奏を再開した。

樹にとって先ほどまでは葬送曲にすら感じられていたその曲も、今はこんなにも耳に心地良く感じる。

みんなと共に勇者として仲間として、友達として一緒に居る。だから一人なんかじゃなくて、この場にも応援してくれる大切な友人が一人いる。

その友人に視線を移すと優しげに微笑んでいて、それを返すためにも、もう大丈夫という確信とともに今度こそ樹は歌うために息を大きく吸い込んだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の勇者部にて、樹と小都音以外は既に集まっていた。

紡絆は授業中全部寝てたくせにまだ穏やかな表情で牛鬼とともに仮眠しており、東郷はパソコンを。

風は脚本を書いていて、友奈と夏凜は樹を待っていた。

と言っても、夏凜はかなりそわそわしていたりする。

もっと細かく言えば、微塵たりとも何の心配もしてないのは仮眠してる紡絆くらいだ。

 

「樹ちゃん、テスト上手くいったかな…」

 

「大丈夫よ。だってあの子は、あたしの妹なんだから」

 

やはり結果は気になるようで、友奈の言葉に風が安心させるように言う。

しかし、自分も執筆が全く進んでないのだから少しは心配ではあるのかもしれない。

そんな時、仮眠していた紡絆が気づいたように跳ね起きた。

 

「来たぞ」

 

「えっ?」

 

誰の声だったか。

突然目覚めては短い一言だけで済ませた紡絆に視線が集中すると、次の瞬間には扉が開く音がして視線は紡絆からドアの方へ移される。

なお、本人は欠伸していた。

 

「樹ちゃん、小都音ちゃん!」

 

「歌のテストは?」

 

そんな緊張感の欠けらも無い紡絆はともかく、樹と小都音が入ってくると東郷が間髪入れず結果を聞く。

 

「……バッチリでした!」

 

「私も普通にクリアでした」

 

少しの空白の後、樹と小都音の口から出てきたのは失敗ではなく、無事に成功したという吉報。

それを理解した瞬間、紡絆以外は皆大きく喜びを示し、紡絆は確信していたようで一歩離れたところで微笑むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

成功を祝う軽いパーティが終わり、時間が時間なのもあって各々---というか風と樹、夏凜だけが道違うのだが、解散となる前、紡絆は手洗いのため独りでに部室から離れて、今部室へ戻ろうとしていた。

 

「紡絆先輩!」

 

「ん?」

 

腕を回したり体の調子を確かめながら戻っていると、少し息を切らせた樹が居て、疑問を浮かべる。

 

「紡絆先輩のおまじないのお陰で、ちゃんと歌うことが出来ました! ありがとうございます…!」

 

「別にいいよ。それにあのおまじないは樹ちゃん自身のもので、俺はきっかけを与えたに過ぎないからさ」

 

そう、秘めた勇気を出すのがおまじない。

別に紡絆が樹に与えたものではなく、だからこそ紡絆は感謝を受け取れないという。

 

「それでも、です。お陰で私、やりたいことが出来たんです」

 

「やりたいこと? 将来の夢とか?」

 

受け取られないと分かっていても、伝えたかった。そんなところだろうか。

しかし樹は紡絆のお陰でやりたいことを見つけたと言い、紡絆は首を傾げる。

 

「ま、まだそこまではいってませんけど、小都音ちゃんに言われたんです。

だからチャレンジしてみようかなと…」

 

「…そっか。樹ちゃんなら絶対なれるんじゃないかな。約束、覚えてるか?」

 

「歌を聴かせる……って約束ですよね」

 

確信を持ったように話す紡絆に樹は思い返しながら返答する。

正解というように紡絆は頷き、提案を出した。

 

「樹ちゃんのそれは、歌に関してなんだろ? だったらさ、約束はその時にお願いしたい。もし樹ちゃんが成功して、歌を聴かせたいって思ったなら、その時には歌ってくれるかな」

 

「気づいていたんですか…!?」

 

「ただの勘。まぁ、どうするかは樹ちゃんに任せるけどね。歌手になるかどうか、決めるのは樹ちゃんだし」

 

普段からは考えられない察しの良さに驚く樹だが、紡絆は勘で当てたようでどうするかの選択は樹自身に委ねていた。

その選択は、樹が選ぶことに意味があるのだから。

 

「…紡絆先輩の言う通り、歌手を目指してみようと思ってます。でもオーディションだってまだだし、合格出来るかだって分からないんですよ」

 

「そうだな、挑戦して見なきゃ分からないだろ?」

 

「どれだけ掛かって、どれだけ遅くなるかも分からないんです」

 

「前も言っただろ? 何年だって待つ。樹ちゃんが満足するその日まで。それに俺は、樹ちゃんなら出来ると思ってるから。

夢を追いかける心を忘れない限り、信じれば夢は叶う」

 

紡絆らしい前向きな思考。

きっと紡絆はこの時点で樹が歌手になれることを信じており、やり遂げられると思っているのだろう。

例えどれほど掛かったとしても、待ち続ける。彼女ならきっと、なれると。

全くもって、夢や目的すら持ってない人間が何語っているんだという話はあるが。

 

「夢……」

 

「夢ってのは、時々切なくなるけど時々熱くなる……らしい。きっとそれは、目的に向かって真っ直ぐに向かってるから。その道中で挫折や辛いことも多く経験するからなんだろうな。

楽な道ではないけどさ、樹ちゃんが信じれば叶うと俺は思うんだ」

 

多くの人を見てきた。

みんな何かに向かって生きている。夢のために努力を。生きるために仕事を。好きだから作業を。料理を。ゲームを。人助けを。

人というのは何もなく生きれる存在でもなく、夢とまでは行かなくとも目標を定めてそこへ向かっていく。

それは夢も同じだ。少しずつ目標を定めて、達成して、ゴールがあるかないかの違いに過ぎない。

ただ目標と違い、夢はゴールまでが遠い。

楽な道ではなく、信じ続ける心がなければ挫折してしまうかもしれない。

 

「本当に…紡絆先輩はずるいです」

 

「ずるい?」

 

「はい、ずるいです。でも……本当に待ってくれますか?」

 

「もちろん、いつまでも待ち続けるよ。信じられないなら、約束だ」

 

ずるいと言われて紡絆は首を傾げるが、彼に自覚はない。

しかし樹から言わせて見れば、何年だって待つと言われてしまえば、断ることなど出来ないのだ。

だからこそ、少し不安げに再確認するように聞いたのだがそれに関して、紡絆は迷うことも無く即答で答えて小指を差し伸べる。

 

「……はい!」

 

何処か嬉しそうに、安心したように差し伸べられた小指に樹は意を決して自身の小指を絡める。

 

「約束、増えちゃったな。ま、どうしても辛い時があれば俺に出来ることはやるからさ、そろそろ戻んないと心配されちゃうぞ」

 

過去に交わした約束に付け足された新たな約束。

守らなければならないことが増えたが、別に嫌な訳ではなく紡絆は樹の頭を撫でてから先に戻るように誘導した。

樹を気遣ってだろう。

その樹は顔を赤くしているのだが。

 

「あ……じゃ、じゃあ先に戻りますね! その、お姉ちゃんやみんなには出来れば……」

 

「分かってる、秘密にするから」

 

「はい…ありがとうございます!」

 

名残惜しそうに口から出たことに樹は手で抑え、秘密にしてもらえるようにしてもらうと、頭を下げてお礼を言ってから戻っていく。

紡絆は微笑しながら手を振って見送ると、エボルトラスターを取り出した。

 

 

 

 

「……俺も、君も、次が限界だ。おそらく、俺の回復を防ぐことを考えると戦いは近いはず。あと一回。

次の戦いでファウストの正体を、ファウストを止めなければ俺は……いや、どちらにせよ、彼女たちの夢を守るためにも、俺は絶対に彼女たちは生還させて世界は守るよ」

 

自分の体のことは自分がよく分かっているとはよく言ったもので、紡絆は理解している。

メタフィールドの展開は持って1分程度。何もせず、ダメージを受けてない状態で気合いを込めたとしても2分くらいか。

どちらにせよ、制限時間を無理矢理無視するなら命を削りながら全力で維持しなければ、すぐ崩壊してしまう。

ただそれほどの展開となると、ウルトラマンか紡絆か…間違いなくどちらかが先に限界を迎え、何も成せないまま負けがほぼ確定してしまう。

もし負けたら、樹の夢はどうなる?

挑戦することすら出来ず、叶うはずもない未来に変わってしまう。

みんなの夢が終わってしまうのだ。

全人類の夢と希望と命---何より地球の未来を背負うと思うと、一人の人間にはどれほどの重圧なのか。

それは、彼にしか分からない。

 

「よっと」

 

そんな紡絆は、突如としてその場で逆立ちした。

もしこの場に誰かが居たら、突然の行動すぎて驚くか紡絆ということで納得するものもいるかもしれない。

 

「重いなぁ…地球を背負って立つ、先生の言う通りだ」

 

かつてウルトラマンの先生が居た。

ウルトラマンでありながら、今の紡絆たちと同じく中学生という思春期真っ只中の学生たちの教育者として地球で過ごした戦士であり、ウルトラ兄弟のひとり。

そんな彼は、ある少年に言ったのだ。

地球を背負って立つ! 俺は地球を一人で持ち上げてるつもりで過ごしている、と。

 

「けれど、守りがいがある。俺は君を信じる。だからウルトラマン……君も俺を信じてくれ。絶対に勝つ、それだけだもんな」

 

逆立ちをやめてエボルトラスターを見つめながらそう言う紡絆は、前を見る。

決して下を見ることなく、前を。

どんな困難に出くわしたとしても、俯いてたら何も始まらないのだ。

だからこそ前を向き、紡絆は皆の元へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

916:名無しの転生者 ID:+BhxvfBGh

イッチもたまにはいい事するじゃねーか!

 

 

917:名無しの転生者 ID:JNGM2UH2D

うんうん、それにしても今の言葉って、ウルトラマンコスモスの春野ムサシの言葉だよな。イッチ知ってたっけ? 偶然か?

 

 

918:名無しの転生者 ID:ZJardOlWx

それ言ったら勇気のおまじないもだゾ。ウルトラマンメビウスに出てきたんだが……まさかそれも偶然か?

 

 

919: 光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

???

 

 

920:名無しの転生者 ID:MGaGQMPhY

あ、偶然だわこれ

 

 

921:名無しの転生者 ID:0vIXn+Wm/

けどまあ、樹ちゃんテストクリアしたし、夢を見つけれたみたいだし、よかったじゃん

 

 

922:名無しの転生者 ID:OLDX4ez1H

今回ばかりは褒めてやるぞ!!

 

 

923:名無しの転生者 ID:zQ5vEFO5N

これで残る問題はバーテックスとスペースビーストだな…

 

 

924:名無しの転生者 ID:yIKNCir7V

イッチの肉体がなぁ……どうなんよ?

 

 

925:名無しの転生者 ID:1Tl5qH0gj

お前……『彼女たちは』ってことは……

 

 

926:名無しの転生者 ID:h3P/e/eSU

いくら背負うものが多いからって、一人で抱え込むもんじゃないぞ。この掲示板にも多分、きっと、ウルトラ戦士は大勢いる。同じ世界に居なくても、味方はたくさんいるんだ

 

 

927:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

分かってる分かってる。大丈夫だって!

仮眠したし! まぁ、それにメタフィールド展開しなければいい話だしな。あとコスモスってなに? 花の名前?

メビウスは名前だけ知ってるけど…こんなことなら友人と見ておくべきだったか

 

 

928:名無しの転生者 ID:vI9O3n6WT

あ、やっぱそこは知らんのねw

 

 

929:名無しの転生者 ID:xBQ0f0iwG

花の名前ってのは間違ってはないが…まあ優しさと強さを併せ持つ慈愛の勇者と呼ばれる青いウルトラマンだ。

ちなみに人気高いし曲が神すぎた

 

 

930:名無しの転生者 ID:A3iDoqWLw

>>927

逆に言えばメタフィールドの展開はやばいってことか…

 

 

931:名無しの転生者 ID:hcGt79jSx

ま、とりあえず暗い話は終わり!

今は樹ちゃんのこと喜ぼうぜ!

 

 

932:名無しの転生者 ID:QmH9c0REu

せやな。イッチが役に立ったし

 

 

933:名無しの転生者 ID:NojO5MgxE

でもさ、イッチと樹ちゃんの会話思い返すと……互いに告白に近いのしてね?

 

 

934:名無しの転生者 ID:4PQjr4Uno

……確かに

 

 

935:名無しの転生者 ID:g9o07LFpG

イッチだけギルティ、しばらく寝ろ

 

 

936:名無しの転生者 ID:EiQ2Yliio

なんかこう…なんだろ。告白シーンによくあるよな。

先輩相手に後輩が似合う男または女になるから待ってて欲しいみたいな

 

 

937:名無しの転生者 ID:+e3GJQFZr

おいイッチ許さんぞ。てめぇ、樹ちゃんに手を出す気か…!

 

 

938:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんで恋愛厨みたいな思考してるんだよ! てか俺に告白されても嬉しいやつ居ないだろ! そもそも俺と樹ちゃんでは俺が劣りすぎて合わないわ! あとシスコン姉に殺される!

 

 

939:名無しの転生者 ID:hZMCuWkCw

>>938

は?

 

 

940:名無しの転生者 ID:c7UcBtBd8

>>938

はー? コイツ、マジで言ってんの?

うっそやろお前……

 

 

941:名無しの転生者 ID:qLizmvSZT

まぁ……イッチだし。馬鹿だしな。鈍感だし、ハゲてるし

 

 

942:名無しの転生者 ID:l1Nb5zuuq

あーあ、これだからこういうタイプはなー。

こういう無自覚なやついるいる。つーかイッチは自己採点が低すぎるというか自分に関心がなさすぎる。

 

 

943:名無しの転生者 ID:f2qHVNtYG

あの反応見てもこれとか意味わからんわ。勘無駄に鋭いくせにこういうときクソ鈍感じゃねぇか! ずっと前から思ってたけどさぁ!

そんな勘捨てちまえ!

 

 

945:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

鈍感じゃないが??? ラノベ主人公だけでしょ、鈍感なのって。俺は本当のこと言ってるだけだし---ってかハゲてねーよ! やめろやめろ! 前世でも今世でもハゲてないよ一切!!

 

 

946:名無しの転生者 ID:H0H0ilH9M

はいはい、もういいよそんな典型文。

とにかくお前は休んどけ、いつやつらが攻めてくるか分からんからな

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのね、お姉ちゃん。私、やりたいことができたよ」

 

「なになに? 将来の夢でもできた? お姉ちゃんに教えてよ?」

 

学校からの帰り道。

樹は姉にも似たようなことを伝えていた。

同じように将来の夢には行き着いたようだが、紡絆と違って風は分かったわけではないらしい。

 

「……秘密」

 

「なによー。誰にも言わないから……ね?」

 

「だーめ、恥ずかしいもん……でもいつか教えるね」

 

勧めてきた小都音と勘で当ててきた紡絆が予想外だっただけで、まだ伝えるつもりはない樹はそれだけ言い終えると、風より前に出る。

 

(やってみたいことだったのに、紡絆先輩の言葉ではっきり変わった…。これが私の夢だとしたら、頑張れる理由もなって、みんなと一緒に私も歩いて並んでいけるから---)

 

本人に言えば、間違いなく否定するようなことだろう。

それでも、確かに紡絆の言葉は樹に夢を与えるきっかけのひとつとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

樹が家に帰るなりどこかに出掛けて家には風一人。

そんな風を苦しめているのはこの前の大赦からの連絡だった。

 

『最悪の事態を想定しろ』

 

最悪の事態とはなんなのか。

もしかしたら今まで以上の激戦になるのか。もしそうならば、風は覚悟を決めないと行けない。

部員たちはあくまで巻き込んでしまった存在であり、突っ込んできた紡絆だけがイレギュラーなだけだ。

そんな紡絆も勇者部に入れたのは風であり、巻き込んでしまったようなもの。

なおかつ、これ以上の激戦となれば、間違いなく紡絆は死に急ぐことは風にとって簡単に予想ができ、それが一番怖かった。

誰が何言っても止まらず、誰もが不安を顔に出してものほほんと嘘のように帰ってくる。

それでも、お役目が始まってからは毎回怪我するかボロボロになって死にかけている。

 

「死んだ親の仇がバーテックス…復讐、か……。昔、紡絆に言われたっけ…」

 

懐かしい記憶を思い出して、大赦に送るつもりだったメールを消した風はテーブルに体を預ける。

何故あそこまで眩しく生きられるのか、風はたまに紡絆の生き様を羨ましく思う。

自分は戦う理由が仇討ちなのに、紡絆は純粋に守りたいという思いなのだから。

 

「……はぁ、やめやめ。あのバカのこと考えてたらバカが移るわ」

 

とてつもなく酷いことを言っているが、ここに居るのは風だけだ。

誰かに聞かれるわけでもなく、帰ってきたら樹もお腹が空くだろうとご飯を作るためにいざ立ち上がり---

 

「ッ!?」

 

スマホから聞こえてくる警報にすぐさま画面を見れば、そこには樹海化警報の文字が。

すぐにドアを出てベランダを見ると、樹海化する時特有の現象が起きていた。

 

「……始まったの? 最悪の事態……」

 

傍に犬神が出現し、世界は少しずつ神樹様の結界に覆われていく。

聞いていた話で起こるのは、最悪の事態。

それがなんなのかわからずに不安を隠せないが、部員たちを安心させるために風は一度深呼吸し、世界は七色の波に覆われた--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

樹海化する前、ここには紡絆と小都音、友奈と東郷が居た。

四人は久しぶりに一緒に食べないかとなんやかんや話し合い、ご飯の時間になるまで遊ぶことにしたのだ。

 

「はい、島流しね」

 

「あぁあああああぁぁぁ!?」

 

それはもう、大富豪から大貧民へと一気に落下した紡絆は島流しさせられ、悲鳴が部屋に響き渡った。

 

「兄さん、顔に出すぎ…」

 

「わー東郷さんの革命返しなければ紡絆くん勝ってたんだね」

 

カード的には低い数ばかりであり、革命というものがなければ雑魚の集団。

だからこそ、ジョーカーを使って革命で勝つつもりだったのに紡絆は何故かジョーカーだけを使い、ギリギリ手元にあった4の四つで革命したのだが、一瞬で返されて殺られた。

弱すぎたのである。

 

「あ、終わりました」

 

「えぇ!?」

 

そしてこっちでは、友奈が負けていた。

最下位と三位。顔に出やすい似たもの同士はトランプに弱かったのである。

 

「小都音ちゃんも流石ね。もう少し弱ければ負けてたかもしれないわ」

 

「いえいえ、東郷さんこそ」

 

「はぁ、くっそーもう一回だ!」

 

互いに遠慮し合いながら実はバチバチと火花を散らしてる二人に気づかず、悔しそうに呟いた紡絆はカードを集め、シャッフルしていく。

誰も異議はないのか、苦笑するだけでやるつもりではあるらしい。

上手いイカサマプレイヤーならこの時点でイカサマ出来るだろうが、紡絆には不可能。というか、大貧民なので強いカードが来ても意味が無い。

 

「次こそは絶対に負け---ッ!?」

 

「紡絆くん?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「兄さん!?」

 

言葉を言い切る直前。

紡絆が突然トランプを落とし、数多くのトランプが落ちる。

何よりも、異変なのは紡絆だった。

何かを握るように胸を抑え、顔を顰めている。何事かと心配する友奈たちに、紡絆は冷や汗を掻きながら下手な笑みを浮かべるしかなかった。

 

「……来る。小都音、悪いけど行ってくる」

 

「来るって……」

 

「まさか、樹海化!?」

 

紡絆の言葉に一瞬理解が追いつかなかったが、一泊開けた後気がついたように声を挙げると、小都音も理解したようで時間がないため、すぐに口を開いた。

 

「兄さん、絶対帰ってきてね。皆さんも気をつけてください…!」

 

「「ッ!?」」

 

小都音が言い切った瞬間、同時に鳴り始めた友奈と東郷のスマホ。

二人が画面を見れば、樹海化警報と表示されており、散らばったトランプごと世界そのものが停止する。

誰よりも樹海化することに早く気づいていた紡絆はエボルトラスターを取りだし、体の調子を確かめながら前を見据えた。

先程までの楽しそうな様子は消え、三人は顔を見合わせると覚悟を決めた表情を浮かべて、七色の光が紡絆たちと世界を覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---これから始まる戦いは、全てを賭けた戦い。

今まで以上の激戦であり、本気と本気のぶつかり合い。

辛くも悲しくも苦しくも、喜びも嬉しさも達成感も、色んな感情が入り交じりあうまさしく死闘。

果たして、勝利をもぎ取ることが出来るのか、それとも世界ごと全て滅ぶのか、なんの弊害もなく無事に日常へ帰ってこられるのか、それは例え全知全能を司る神ですら、例え伝説の超人である老人ですら知り得ない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
色々背負ってるわ、死亡フラグに近いのを建設してるわ、別のフラグ建ってるんじゃないか、とまあ色々大変でやばいやつ。
ただはっきり言って、既にウルトラマンに変身するべきではない身体。
しかしその状態でも誰かのために行動し、結局は彼の行動が樹に良い結果を齎した。
正確にはもう(精神面以外全部で特に肉体が)やばいです

〇犬吠埼樹
本来、紡絆が居ない世界線(原作)ではこの時点ではあくまで目指すべきものだったが、本作では小都音と紡絆の影響で既に歌手になるという確かな夢へと変化している。
彼女が夢へと辿り着いたとき、どれほどの月日が過ぎてるかは分からないが約束が果たされる時は必ず訪れるだろう。
夢を追いかける限り、信じる限り。
なお、紡絆は彼女を誰よりも勇気がある人だと思っているらしく、だからこそ音楽では何も出来ないからその勇気を出させる方法を考えることにしたようだ。

〇天海小都音
ただの癒しキャラ。
今回は陰から樹ちゃんを援護+応援していたが、友達想いのいい子。
なお、相変わらずそれ以上に兄妹の枠を超えてるレベルで紡絆に対する愛情が半端ない

〇掲示板
割と出番減ってっけど日常だと彼らの出る幕がイッチ弄りしかない…裏ではイッチにやらせる安価でふざけまくってるらしい

〇勇気のおまじない
恒点観測員340号---とあるウルトラ警備隊七人目の隊員にして、ウルトラ兄弟三番目の『真紅のファイター』が変身する際に行われる変身シークエンス。
それをある若きルーキーが同じ女性隊員が怪獣から逃げ、落ち込んでいた時に伝えた言葉である。後々にそれは大切な作戦に参加する手助けとなった。
なお紡絆はそれを知らない。無論コスモスも知らない

番外編(スパイラル)

  • はよ書け
  • 先にゆゆゆ編完結はよ
  • まだゆゆゆネクサスの難易度上がるってマ?
  • シン・ウルトラマンはいいぞ。見ろ
  • スパイラルでシン・ウルトラマンも書いて♡
  • シン・ウルトラマン見ました
  • 投稿ペースを早めて
  • 戦闘シーン早くするんだよ
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