【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】   作:絆蛙

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あけましておめでとうございます!皆さんはどう年越したでしょうか?
作者はULTRAMAN(NEXT)で年越しました。
そして小説は何とか間に合ったので投稿。
タイトルは…思いつかんかったんや、すまん。
ちなみに本来の予定ならばクリスマス、年明けに鬱回二つ用意するつもりでしたが……無理だったので一つ、にするつもりだったけど原神を始めてからサボり始めて結局無理になりました、てへ。
あ、それと感想は見てます、やる気なくなったら見返して何とかしてます。でも返信追いついてない…すまん。気軽に送ってくれたら遅くなっても絶対に返するんで安心してくれていいっすよ。
というか今更だけど投稿する時の画面変わってんだけど()







「-買物-ショッピング」

◆◆◆

 

 第 33 話 

 

 

-買物-ショッピング 

 

×××

 

日常編その②

犬吠埼風、犬吠埼樹編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの晩での戦いを終えて、一夜明けた。

今日は学校もなく、部活もない。

珍しくやることもないフリーな状態で、何をするか考えていた。

 

「うーん」

 

紡絆は唸りながら自身の部屋を見渡すが、あるとしたらゲームくらいだ。

以前までは暇な時があれば外をぶらぶらし、休みの日でも困った人が居たら助けることをしていた。

しかし今は肉体がやばいので、外に出ようものなら小都音が着いてきて間違いなく怒られる未来が紡絆には見えた。

だが紡絆からしたら気がつけば体が勝手に動いているので、怒られても反省出来ないのだ。

それでも心配して怒ってるというのは伝わるため、あまり怒らせたくないのも事実。

紡絆からすれば『みんなが』とはいえ大切な家族にも笑顔で居て欲しい、と思っているのもあるだろう。

 

「どうしようか…な?」

 

そう考えながらとりあえずリビングに向かおうとしたところで、ズボンの中に入れていたスマホから通知音が鳴る。

何かあったのかと紡絆がスマホを起動すると、風からメッセージが来ていた。

 

『今日時間ある?』

『ちょうど暇だったので忍者になろうと思ってました』

『いやどういうこと!?まったく意味が分からないんだけど、時間あるなら買い物に付き合ってくれない?』

『じゃぱにーず!ジャパニーズ忍者はいると証明した方がいいかなと! あっ、別に構いませんけど、場所は?』

『うん、やっぱ意味わからないわ。集合場所は送るから、小都音にも言っておいて』

『了解でーす』

 

ふざけたことを送っていた紡絆だが、特にやることもなかった彼は軽い返事で返信するとリビングに行く前に必要なものがないか確認しに、部屋へと再び戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、ショッピングモール。

いつもと変わらぬ長袖での服を着た紡絆と白い雨玉模様が描かれているグレーのロングシャツワンピースと麦わら帽子を被る小都音は少し早く来て待っていた。

 

「私も来てよかったの?」

「んーいいんじゃないかな。呼ばれたしさ。

どちらにせよ樹ちゃんも来るみたいだし、俺は元々小都音と来るつもりだったからなあ」

「お兄ちゃんこういうところ来ても分からないもんね…」

「全くわからん!」

 

何故か自信満々に言ってのけた紡絆に小都音はため息を吐く。

こういう場ほど、紡絆に向いてない場所は少ないだろう。

娯楽施設ならば盛り上げることは得意そうな紡絆は問題ないだろうが、彼が自分に頓着しないことは継受紡絆という人間を知る者には周知されている。

そんな彼が、買い物など付き合ったところで何が出来るのか。他人の買い物なら役に立てるかもしれないが、自分の買い物になったら間違いなく適当になるに違いない。

センスは悪くないらしいので、他人の買い物ならワンチャン、ちょっと、もしかしたら役に立てるかもしれないが。

 

「おーい」

「ん?」

 

なんてことのない会話をしながら少し待っていると、聞きなれた声が聞こえた。

紡絆が反応し、振り向く先には風と樹が歩いて近づいてくるのが視界で捉えられた。

基本的に学校終わりや部活終わりで外出することはあっても、こうして休みの日に外出するのは珍しいので、あまり見る機会の無い私服姿の二人がいる。

 

「急にごめんね、買い物するにしても人手が足りないなーって思っててさ。遅れたっぽい?」

「いや、全然大丈夫ですよ。暇でしたし」

「はい、私も特に予定はなかったので。それより兄さんっ!見て見て、樹ちゃんすっごい可愛いよ!」

「あら、見る目があるじゃない。樹はこんなにも可愛いのよ。 もうあまりにもの天使っぷりに脳内ストレージに保存しまくってるくらい!」

『そ、そんなことないよ』

 

小都音に抱きつかれた上に、姉である風にも褒められて照れたのかスケッチブックで口元で隠しながら文字を見せる。

その様子を見てた紡絆は苦笑する。

 

「まあ樹ちゃんが可愛いのは分かるが、あんまり困らせないようにな。それにそんなこと言ってますけど、風先輩も似合ってるじゃないですか。服が風先輩の良さをいつも以上に引き立てて、『キレイ』だと思いますけど」

「んな……っ」

「……はぁ」

 

何の恥ずかしげもなく言ってのけた紡絆に風は軽く赤面し、樹はスケッチブックを盾にするように完全に顔を隠してしまった。

それに思わずまたため息を吐く小都音。

しかし紡絆は褒めただけなのに顔を赤くしてるのを見て、何故怒っているのだろうと思いながら首を傾げる。

 

「こ、こほん……気を取り直して、行きましょうか」

「??? よくわかんないですけど、いつまで居てもアレですしね」

「これだから目が離せない……」

『紡絆先輩は意地悪です』

「なんで!? なにかした!?」

 

紡絆のいいところでもあり、悪い所は本音を話してしまうところ。

正直なことを話してしまうため、紡絆が二人に対して言ったことは彼が本当にそう思ってるということなのだ。

しかし彼女たちも中学生であり、先輩後輩の関係である紡絆とは勇者部として活動してるのもあって唯一仲の良い異性と言えるくらいに親しい。

そんな異性に真っ直ぐな言葉で褒められれば恥ずかしくもなるだろう。特に風も樹も、紡絆のことを『嫌い』と微塵たりとも思ってないのだから。

まぁ、褒めた本人は怒ってると誤解してたが。

何はともあれ、謎の理不尽さが振りかかった紡絆は理解出来ないまま一同は移動するのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動をし始めて暫く。

以前とは違うがここも大型のショッピングモール。

休日となると社会人や子連れの主婦も多く、人混みは中々多い。

特に今日は特別暑いわけでもなく、秋も近いことからそれ目当てに買い物に行くものも多いのだ。

さらっと、それもめっちゃ自然に三人を人混みから守るような形で歩く紡絆は風に向かって気になってることを聞くため、口を開く。

 

「で、何買うんです?」

 

そう、紡絆は何も聞かされてない。

ただ買い物に付き合って欲しいと言われただけで、彼からすると荷物持ちでもするか、と人助けするような気持ちで来ただけなのだ。

むしろ行動原理の全てが人助けの紡絆がそれ以外の感情を抱きながら来るはずもない。

期待するだけ無駄なレベルだ。

 

「色々とね。服とか日用品とか食材とか諸々買っておきたいのよ。部活で時間取られたりするとあんまり長く買い物出来る日なんてないしあたしと樹だけじゃ持ち切れない場合もあるし」

「確かに。俺でも荷物持ちくらいにはなれるか」

「あと紡絆の意見も参考にしようかな、と」

「俺ですか? あんま参考にならないと思いますけど」

 

自信満々に分からないと言える彼からすれば、服のセンス良し悪しはともかく正直、勇者部のみんなは世間で『可愛い』や『綺麗』と褒められる服を着たら似合ってるとしか思えない。

 

「兄さんは自分でも服買わないんです。放っておいたらボロボロな服や古くなった服、制服しか着ないくらいに。誰かのためにお金を使うことに関しては迷いがないんですけどね」

『紡絆先輩らしいね…』

「ほんと、バカね…」

「え、なんでみんな俺のことバカって言うんですかね…?」

 

一切否定の言葉が出なかったことから、小都音の言葉は本当なのだろう。

じゃなきゃ部屋にまったく何も無いってことはないはずなのだから。

引越ししてきた人レベルで何もなく、家具と星関連の本、ゲームがちょっとくらいしかないのが紡絆の部屋である。

 

「だってバカでしょ?」

「いやいやそんなはずないでしょ、なあ?」

「……ノーコメントで」

『えっと…ごめんなさい』

 

風の言葉に思わず小都音と樹に目を向ける紡絆だが、小都音は目を逸らし、樹は申し訳なさそうにスケッチブックを見せる。

悲しいことに、誰も否定してくれなかった。

むしろ実の妹にすら見捨てられていた。

 

「……よーし!早く買い物行きましょうか!」

 

そしてその事実を忘れるように紡絆は話題を変えた。

どうやら認めたくないらしい。

 

「それもそうね」

「時間は有限だしね」

『!』

 

けれどもそれは事実。

買い物をしていたら時間などすぐに過ぎるだろう。

だからか、風と小都音も紡絆の言葉に乗り、樹はこくこくと肯定を示す。

となればどこから行くか、それを決めねばならなくなるわけで、まったく詳しくもない紡絆は役に立たないので風と小都音が話し合って決めた場所へと歩いていく。

---それほど距離は離れてなく。

移動した紡絆たちだが、早速彼は軽くため息を吐く。

周りを見れば、そこら中に色とりどりな色んな衣装がある。

秋に向けて用意された服、スカート、ズボン、寝巻き、その他服飾雑貨。

紡絆には果たして何がいいのかすら分からない。

しかも今は椅子に座らされており、待っているように言われたのだ。

流石の紡絆もこの後の展開は読める。

 

(感想、言わなきゃなんだろうなぁ……)

 

正直、勇者部は揃いも揃って美少女である。

ついでに紡絆が女装すればその中に入るだろう。

それはともかく、そんな彼女たちが別の服を着たところで、何と答えたらいいのか。

無難すぎる回答しか出来る自信のない紡絆だった。

 

(まぁ普通に答えたらいいかな)

 

そもそもまともな嘘を付けるような性格をしているわけでもないため、例えそうだとしても言うしかないだろうと紡絆は諦めモードに入った。

誤魔化すことはよくするが、嘘はつくのが苦手なのだ。

欠点のひとつでもあり、利点のひとつでもある真っ直ぐすぎるというのが紡絆という人間なのだから。

そうこう考えているうちに、紡絆はふと気配を感じた。

カーテンが開くような音が聞こえ、一人出てくる。

 

「ふふん、待たせたわね。どうよ?」

 

そう言って見せ付けるように一番最初に出てきたのは、風だった。

ここに来た時はジーンズに黄色のTシャツを着ていた。

しかし今は試し着なのもあり、白いブラウスに黄色のロングスカートを着ていて、はっきり言って似合っている。

目を点にして紡絆は風を見ていた。

 

「え、えっと……?」

 

じーっと見られることに妙な感じがするのか、何も言わない紡絆に対して余裕を持っていた状態から少し居心地が悪そうに声を出すが、紡絆は何も答えず、数秒後に気がついたように瞬きした。

 

「ああ、すみません。服変わるだけで結構変わるもんなんですね。風先輩、とてもお似合いだと思いますよ。いつも綺麗だと思いますけど、新鮮な感じがして、いつも以上にそう思いました。

なんというか……風先輩の女子力が出ちゃってますね。派手すぎることもなくシンプルだと言うのに、スカートのリボンがいい感じに主張してて服のフリル…でしたっけ。その部分も良くて風先輩の見た目に調和してると思います」

 

あまり詳しくないからか、そこまで難しいことは言えないものの、風を見て思ったことをそのまま述べていく紡絆の言葉は、面倒なので訳すと『いつもと違って新鮮で、とても綺麗だと思います』という一言で完結する。

 

「そ、そう? まあ女子力高いし?

いやーこれだと本当にナンパされちゃいそうで困っちゃうかもしんないわねー」

「前も言いましたけど、そうなったら俺が守りますけど? 実際風先輩可愛いんで、言い寄ってくる人いてもおかしくないですしね、ひとつ年上なだけなのに大人っぽいですし」

「へっ!?」

「正直魅力溢れる人だなーって思いますよ。頼りになりますし、風先輩みたいな人が恋人にでも居たら幸せになれるんだろうなとすら思います。その分、ちょっと心配な部分もありますけどそれを勝るくらいにいいところたくさんあって、風先輩といたら毎日楽しく過ごせたり---」

「あ……うあ……ちょ。ま…まって。わかった、もういいからやめて。恥ずかしさで死んじゃう……!」

 

さっきの余裕は何処へやら。

まさかべた褒めされるとは思ってなかったらしく、次々と言葉の数々を叩き込むように浴びせてくる紡絆に対して風はやめるように言いながらひざを曲げて腰を落とし、姿勢を低くすると両手で顔を覆っていた。

耳まで赤くなるほどに恥ずかしくなったらしい。

しかし紡絆は本当のことを言っただけなので、その様子に首を傾げる。

むしろ言い足りないといった表情をしていた。

 

「風先輩、大丈夫ですか?」

「ちょっ、ちょっと放っておいて……」

「はあ……」

 

すぐに復活出来ないようで、紡絆は何故か分からないまま、とりあえず言う通りにすることにした。

---残念ながら時折無駄に鋭い割に、こういう人付き合いに関して、察し能力は皆無だった。

 

(俺、何か悪いこと言ったかなあ。思ったこと言っただけだし、風先輩実際綺麗だと思うしなー。家事も出来るし服のセンスもあるし、頼りになるしな)

 

もしここでそれを言っていたら完全にトドメを刺す形になったのだが、放っておいてと言われたので紡絆は流石に口にせず、残る二人を待つことにした。

すると、少しして再び別のカーテンが開く。

 

「兄さん、終わったよ?」

 

次に出てきたのは小都音で、グレーのワンピースの衣装から白いキャミソールを中に着込み、上に水色のボレロを羽織って白いバッテンを描くような模様が入った水色のスカートを着た小都音が居た。

白の襟元には青いシンプルなリボンに真ん中に星があり、頭の上にはいつものリボンとキャンディのようなアクセサリーが右側の髪留めとして存在している。

その姿は、彼女の容姿も相まってアイドルのようにも見えた。

 

「どうかな…?」

 

少し不安そうに、身長差もあって上目遣いで見つめてくる小都音に紡絆は彼女の頭に手を乗せた。

 

「ああ、いいんじゃないか?

一瞬見間違えるくらいに可愛いと思うぞ。

似合ってるし小都音らしい色で、小都音の髪型や色、肌にもピッタリだ。

正直、アイドルか何かと思った。リボンやアクセサリーがちゃんとチャームにもなってて……うん、とにかく可愛いぞ」

「ん…兄さんにしては上出来。結婚する?」

「………さて、樹ちゃんはまだかなぁ」

 

小都音の頭を撫でながら褒めると、小都音は頬を赤めながらアホ毛を揺らしていた。

が、後者が聞こえていたにも関わらず聞こえてないフリをした紡絆はまだ出てこない樹を待つように目を逸らした。

 

「むぅ……兄さんの意地悪」

「………」

 

頬を膨らまし、あまりにもの理不尽な発言に紡絆は言葉が出なかった。

しかし何かを言う前に小都音は樹が着替えているであろう試着室のカーテンに顔を入れて覗き込む。

 

「樹ちゃん準備は---出来てるね。え、恥ずかしい? 大丈夫だよ、似合ってるしすごくかわいいもん。兄さんに褒めてもらおっ」

『!?』

 

一体何を話してるのか、紡絆には分からないがいつの間にか復活していた風に目をやると、スマホを手にしていた。

撮る気満々だった。

 

(いつの間に復活したんだ? それに相変わらずシスコンだなぁ)

 

変わらない風の姿に苦笑しつつも、人に言えることか微妙な発言を心の中で呟く。

もし紡絆が口に出してたら、おまいうと言われたかもしれない。

そんなこんなで少しして、中へと入った小都音が樹の手を取って少し強引に出てきた。

薄い肌色に、少し薄緑のかかったフリルブラウス。白いフレアスカートに身を包み、()()()()()を掛けた樹が恥ずかしそうに手を引かれながら出てきた。

 

「っ〜! いい、いいわ。見て、見てよ紡絆!

どうしよう、樹が可愛すぎてやばい!思った通り…いいえ想像以上に似合っていてまるで妖精……!可愛さは天使級ッ!

それに恥ずかしげにしてるのもポイントが高いわよ、樹ぃ〜!」

 

樹の姿を見て、ある一点の部分に少し驚いたような表情をする紡絆は隣から煩いくらいに絡んで来ながらも、決して樹の写真を撮ることを辞めない風に若干、ちょっと引きながら抜け出す。

すると小都音が樹の手を引っ張って目の前に来た。

 

「はい、兄さん感想は?」

「……いいんじゃないかな。風先輩のせいで俺の感想なんて意味無くなりそうなレベルだけど。

少なくとも俺は樹ちゃんのその服装、似合ってていいと思うけどな。

あんまり私服姿を見たことがないってのもあるんだろうけど、また別の印象を受けられて新鮮というか、樹ちゃんの良さが際立ってていいっていえば良いのかな…うん、結局んとこは『凄く似合ってて可愛い』になるのか」

 

声の出せない樹に変わって小都音が感想を聞くと、予想はしてたのか紡絆はただ思ったことだけを告げる。

語彙力の低さが安定しているものの、感想を聞いた樹は顔を真っ赤にして小都音の裏に隠れてしまった。

 

「んー、及第点…かな」

「え、なんの点数?」

「気にしないでっ」

「お、おう……というか風先輩はいつまでやってるんですか」

「ハッ!? あまりに樹が可愛すぎてつい……」

『言い過ぎだよ…』

 

 

気にしないでと言われたので気にしないようにしたが、ずっと写真を撮る風に樹が困ってる姿を見ると流石に紡絆は放っておけず、写真を撮り続ける風に話しかければ無意識に撮っていたらしい。

本人たる樹は恥ずかしくはあるだけで、いやという訳ではないらしいが。

 

「まぁ何はともあれ、この服は買うとして……紡絆には悪いけど別の服も選ぶわよ」

「そうですね。あ、兄さんはまた待っててね。同じ言葉は禁止だよ?それと兄さんにも選んでもらいます」

「……え?」

「!」

『ちょっと…楽しみです』

 

まさかの風と小都音の言葉に紡絆は固まる。

どうやらもう終わりと思っていたらしいが、樹には期待するような目も向けられ、小都音はちょっと楽しそうだ。

風はニヤニヤしてるので、紡絆は無視した。

 

「……感想は百歩譲っていいけど、俺が選ぶ必要は---」

「私、兄さんが選ぶ服着たいし、こういうのって男の人の意見は大事だったりするんだよ。価値観の違いもあるからね、実際には()()()()()()()()()いいんだけど…みんなそうなんじゃないかな」

「えぇ……?」

 

言葉の意味が理解できないといった様子だが、紡絆が風と樹に視線を向ける。

そうなのか、と聞くように。

 

「ま、まぁ…気にはなるし? 紡絆のセンスがなければネタに出来るしね!」

『私も紡絆先輩が選んだ服がいいです』

「…………」

 

どうやら正しかったらしい。

照れ隠しのように頬をかきながら答える風と、はにかみながらスケッチブックを見せてくる樹。

再び小都音に視線を戻せば、彼女はニコニコとした笑顔だった。

 

「…はあ」

 

どうやら抜け出せないらしい、と紡絆はがくりと力なく俯いた。

---紡絆にとって、ある意味の地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲労困憊、と言った感じでとぼとぼと荷物を手に歩く紡絆と元気よく歩く三人。

 

「お、終わった……」

 

そんな中、紡絆が口を開いた。

あれから何回か、試着タイムが始まった。

その度にない頭を動かし、感想を次々と述べていくのがキツかったのだ。

しかも同じ褒め方を禁じられたため、律儀に守って見せた。

 

(昨日の戦闘よりしんどかったんだけど。もうやりたくない…いいじゃん、俺に感想求めなくても!)

 

哀れネオ融合型昇華獣。

紡絆の命を追い詰めたというのに、彼にとっては今回の方がキツかったらしい。流石に別ペクトルの意味だろうが。

ちなみに結局買った服は指で数えられる程度で、紡絆は着れたら何でもいい人間なのでよく分からないのである。

むしろ何故自分に感想を求めるのか不思議でならなかった。

余談になるが、意外な点と言えば、紡絆が選んだ服は全員に好評だったので買ったとか。

 

「あ、樹ちゃん。向こうのクレープ食べてみよっか。美味しそうだよ」

『クレープ…! でも……』

「いいんじゃない? ねぇ、紡絆」

「え、まあ…ほら」

 

びくっと反応した樹は風に視線を送るが風は気にした様子もなく、紡絆に呼びかける。

すると思い出すように遠い目をしていただけで、話は一応聞いていた紡絆は紙袋を片腕にまとめると普通に財布から取り出したお金を小都音に渡した。

 

「もうっ。それは兄さんの分でしょ、ダメ!

ちゃんと分けてるから大丈夫だよ」

「いや、でもな」

「でもじゃないの。たまには自分のことにも使って」

 

無理矢理、と言った感じでお金を返され、紡絆は困ったような表情で財布に戻す。

恐らくそこまで使い道がないとでも思ってるんだろう。

 

「先行ってるからね。風先輩も待ってます。いこっ!」

『!』

「転けないように気をつけろよー」

 

元気よく走っていく小都音と手を引っ張られる樹に軽く注意だけすると、紡絆は再び荷物を両腕に持ち直しながら二人の姿を眺めていた。

 

「……ありがとうね」

「ん?」

 

特に危うげもなく辿り着いたのを見ながら紡絆と風は並んで歩いていると、ふと隣から聞こえてきた声に紡絆が反応しした。

 

「どうしたんですか、感謝されることしてませんけど。小都音と樹ちゃんや風先輩の分のお金返されましたし」

「普通そんな簡単に渡さないからね。そうじゃなくて…」

「???」

 

やっぱり察し能力がない紡絆は見当違いのことを挙げるが、風の視線を辿れば、その視線は樹と小都音に向いている。

 

「戦いのこと、勇者部のこと、樹のこと、今日の買い物に付き合わせたりとか、色々とさ」

「はあ…改めてなんすか。別に特別なことしてなくないですか?」

「まぁ、あんたにとってはそうなんでしょうね。でもふと言いたくなったのよ、紡絆が居てくれて良かったって。部室だって賑やかになるし」

「よく分かりませんけど、褒めてます?」

「ええ」

「じゃあ素直に受け取っておきます。でも感謝するのはやっぱり俺の方だと思うんですよね」

 

そう言って一度立ち止まった紡絆に気づいたのか、先を歩くことになった風も立ち止まって振り向く。

 

「風先輩が勇者部に誘ってくれて…大赦が俺を選んだってのもあるんでしょうが、人助けをたくさん出来るし、良い人達にも出会えた。

夏凜とも出会えたし、たくさん騒がしくも楽しい日々を過ごせてます。こうやって風先輩や樹ちゃんとお出かけ出来るようにもなりましたしね」

「紡絆……」

「まぁ、大赦のことで、勇者のことで、お役目のことで、樹ちゃんのことで、後遺症のことで、色々とあると思います。特にお役目は。

その役目だって、終わりは訪れます。俺たちにとっては、それも青春のひとつみたいなもんです、勇者部の延長上にあるだけで。

…それに!

もし困ったら、何かあったら力になりますし俺が守りますから。風先輩の明日も笑顔も。

暗い顔より、明るい顔の方が風先輩は魅力的です。そっちの方が、素敵ですから」

 

屈託のない笑顔で告げる紡絆に、風は照れたように頬を掻く。

よくよく見てみれば、耳も赤い。

 

「…んもーほんと、生意気な後輩なこと。けど、紡絆の前向きなところは、いつも助けられるわ。そういう言葉を本心で言ってくるのは困るけど……」

「事実ですし。風先輩は色々と家庭的な良い女性だと思いますけど?」

「わ、分かったから勘弁して!?」

「……?」

 

きょとん、と首を傾げる紡絆に、風はただ恥ずかしそうな、困ったような、ふたつの感情が入り交じったような様子だった。

 

「それにしたって、小都音と樹ちゃん。随分仲良くなりましたよね。仲良くなれるだろうなーとは思ってましたが、まるで友奈と東郷を見ているようです」

 

話題を変えるように、紡絆の視線が移される。

どちらかと言えばオドオドとして大人しい樹をよく小都音が先導するように引っ張っている。

強引にではなく、ちゃんと意見も聞いて。

紡絆には分からないが、小都音は樹が口に出さなくても意図を理解しているところがあるのだから、それほど仲良くなったのだろう。

 

「そうね…その点も、感謝すべきかしら」

「いや、俺は何もしてませんけどね、そこは。たまに樹ちゃんの相談には乗ったりしますけど」

「いつの間に!?

でも…本当に、まるで数ヶ月どころか何年も一緒にいる親友のように見えるわねぇ」

 

仲睦ましく、二人とも笑顔で何かを話している。

樹についてもだが、自身の妹が笑顔になれてることに紡絆は嬉しかった。

思わず頬が緩む紡絆と風の姿は、傍から見たら親が子を見る姿に見えなくもない。

 

「誰の笑顔も同じなんです。不要な笑顔なんてない、誰かが明るく居られるのは、そこに『幸せ』があるから。幸せがあるから笑顔になって、笑顔で居られるから今を生きられる。

だからきっと、勇者もウルトラマンも居たからこそ、この笑顔を守れてるんでしょうね。暗い未来に、光を灯せる存在ですから。

そのためにも俺は、守りたいなって思います」

 

ふと、ただ嬉しそうに、紡絆はそう語った。

新たにバーテックスの生き残りが居たことを教えられても、後遺症がまだ残っていても、笑顔で居られるのはそうなのではないかと。

故に、紡絆は負けることを許されない。

もし負けたら、この笑顔は消えてしまうだろう。笑顔だけでなく、世界そのものが。

 

(……そうは言うけど、あたしは少し違うと思う。

少なくともあたしらがこうやって明るく居られるのは、あんたのお陰なのよ、紡絆。確かにウルトラマンは頼りになる存在だけど、紡絆が居るからみんな笑顔で居られる。後遺症のこともバーテックスの生き残りも、どうなるかなんて確信は無いのに、不思議と大丈夫だって思える。

誰でも良いんじゃなくて、紡絆だからこそ、なのよね。

光のように眩しくて、輝いていて、真っ直ぐで、お人好しで、バカ。

それでも今も他人のことを想うことも出来る優しさも持っていて、本当に不思議なやつだけど、自分があたしらに光を灯せる存在だなんてこと気づいてないんでしょうね…。

少なくともあたしにとって、紡絆は光を灯してくれるような人なんだけど、ね…もちろん、手の焼く後輩でもあるけど)

 

今も他人のことばかり考えて、未来を見据えて、どれだけお人好しなのかと頭を痛めたくなるくらいにはアレだが、そんな紡絆だからこそ風も勇者部のみんなも、他の人も、誰もが継受紡絆という存在と居たいと思えて、毎日が楽しく感じられるのだろう。

自分のことなんて一切言わないくらいに無駄に自己肯定感も低いが、ウルトラマンや勇者ではなく、紡絆という人間が勇者部にいるからこそ、自分を含めた勇者部の部員たちは戦えて、明るい未来へと歩める。

ただまぁ、間違いなくそのことには気づいてないだろう。

それでも風は紡絆のそんな姿が、とても眩しく感じる。

彼はどんな事があっても、その在り方は変わってないのだから。

 

「兄さん、風先輩!」

「ん、そろそろ行きましょうか。風先輩、待ってますよ」

 

小都音が手を振って呼んでいることに気づき、そう言って一歩進んだかと思えば、紡絆は風に振り返った。

置いていくことをせず、待って。

 

「……そうね、行きましょっ!」

 

そんな些細な気遣いに心が温まりつつ、風は駆けていく。

その姿を見て紡絆は自身の左肩を見つめ、一瞬だけ顔を顰めると、何事もなかったかのように追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレープを買い、またしても変な味を食べた紡絆と定番中の定番を食べた風と樹、小都音。

むしろなんでそんな無駄に好奇心を出して選んだのか不思議なのだが、今回のやつは微妙だったらしい。

それはともかく。

 

「今度は何処へ?」

「次は夜食の分を買っておきたいわね」

「時間的にそろそろいいタイミングだからね」

「そんなもんか」

『遅くなると、商品がなくなりますもんね』

 

へえーと割と興味無さそうに返事をする紡絆にみんなが苦笑する。

相変わらず適当というか、食べれたらなんでもいいと思っているのだろう。

伊達に小都音が帰ってくるまで適当に済ませていた人間ではなかった。

 

「そういえばご飯は予定あるの? ないなら一緒に食べない?」

「いえ、今日は特にまだ決めてませんけど…いいんですか?」

「買い物に付き合わせちゃってるし、そのお礼として」

「じゃあ、素直にご相反にお預かりします。あ、ちゃんと手伝いますね」

「それは助かるかな。小都音のこと東郷も褒めてたし」

「えへへ、だって兄さんに美味しいもの食べて欲しかったですし、放っておけば食べませんから。食べても最低限なんですよ?」

「なんかめちゃくちゃに言われてるような……」

『自業自得のような気はしますけど……』

「樹ちゃんまで!?」

 

ちなみにここでダメ押しに言っておくと、彼は一人のときだと捨てられたはずのエネルギー3秒チャージ!ウルトラインゼリー!を買っては栄養だけ摂っている。

つまり、否定する材料はなかった。

 

「別にそんなことないのになぁ…」

「じゃあご飯は?」

「ゼリー」

『え』

「お腹空いたら?」

「お腹空いたなーって思う」

「………はぁ」

「???」

「うん、今のでだいたい分かったわ。なんかあたしまで頭痛くなってきた」

 

即答する紡絆に小都音はため息を吐き、樹は絶句して風は頭を抑える。

改めてどれだけ自分に頓着しないのか、今日だけでニ、三回は表れ出ていた。

 

「ということなので、兄さんはしばらく一人で食べることを禁止します。これは結城さんと東郷さんにも言うからね」

「なぜ!?」

「うん、それがいいわ」

『納得の理由です』

「俺は納得出来ないんだけど……ま、いっか。一人より二人の方が美味しいしな!」

 

そしてこのポジティブっぷりである。

納得出来なさそうな表情をした割に、すぐさま切り替えていた。

頭が痛いではなく、頭痛が痛いと言うのはこのことか。

自分に関心が薄く、そのくせしてポジティブなお人好しのバカ。

もう救いようがないので諦めているのだろうが、逆にそうじゃなくなれば紡絆らしくないってなってしまうもので---難儀なものだった。

 

「相変わらずだね、兄さん…」

「分からないこと考えたってなあ」

「バカだしね」

「そんなはずはないです」

『そこだけは意地でも否定しますよね…』

 

そんなふうに会話をしつつ数分。

話しながら歩いているとあっさりなもので、スーパーへと辿り着いた。

慣れたように動く風と小都音に比べ、紡絆は棒立ちで、樹は何かやろうとする前に終わってたので何も出来なかった。

 

「風先輩、あっちから行きましょう」

「必要なものも買っておかないとね。人数がいるからまとめて買って帰れるでしょうし」

「ですね、調味料とか切らすと他で代用しないといけなくなるので、まずは---」

 

得意分野でもなんでもないので紡絆は色んなことを言い合う二人の話を聞くのを投げ出すかのように意識を外し、奇しくも自分と同じ感じになってしまった樹に視線を移す。

すると彼女は少し驚いたように見ていて、紡絆と視線が合うと苦笑いした。

 

「なんかガヤの外になっちゃったな。俺たちは自分たちのペースでゆっくりとついて行こうか」

『……!』

 

こくこくと頷く姿を見て、紡絆は小都音たちに先に行くように伝える。

すると何を思ったのか、小都音は紡絆を見て、風の手を取った。

 

「兄さんに樹ちゃんは任せて、私たちは先に行きましょう」

「え? それはいいけど---じゃあ樹のことお願いね」

「分かってます。二人も一応何かあったら困るだろうから気をつけてな」

「兄さんも樹ちゃんを一人にさせたら怒るからね」

「大丈夫だ、一人にはさせない」

 

それだけ言い終えると二人は先に商品を取りにいくために動き出し、紡絆はそれを見送ってから樹を見れば、彼女はなぜだか恥ずかしそうに頬を赤めていた。

 

「樹ちゃん、体調悪いのか?」

『……!』

 

樹はふるふると首を横に振り、顔を少し背ける。

そして何度か深呼吸し、心を落ち着かせると樹はスケッチブックに書いた文字を見せた。

 

『気にしないでください』

「そういうならそうするが……それにしたって休日なのもあるけど昼だからか人がたくさんいるなぁ」

 

話題転換するように周囲に視線を張り巡らせると、どこを見ても人だ。

元々大型のショッピングモールなのもあるが、前世の地球と違い、この地球(ほし)には四国しかない。

何千万と居るわけではないが、休日ならばやはり買いに来るのだろう。

 

「はぐれてもアレだし、遠く行かないようにな。近くだったら守れるけど、遠いと流石にこれは無理そうだ」

『………!』

 

周りを見渡していた紡絆は見渡すのをやめ、小都音たちが居る場所を目指してゆっくりと歩く。

樹は一度頷き、迷うように紡絆の手と顔を見て、こっそりと裾を握った。

 

『…………』

「ん?」

 

何を思ったのか、樹はため息を吐くような動作をし、気がついた紡絆が首を傾げると、何でもないと言うように首を横に振る。

自分で勇気を出すことが出来なかったことについてため息をを吐いたのだが---当然紡絆が察せられるはずもなく、はぐれないように裾を掴んでいるのだろうとだけ思っていた。

 

「そういえば樹ちゃん」

『?』

 

歩いていると、ふと紡絆が止まって樹を呼ぶ。

声が出せないので、樹は反応したことを知らせるように首を傾げた。

 

「いや、ずっと言いたかったんだけど。

そのメガネ、大切にしてくれてるんだな」

 

二人っきりになったからこそ、タイミング的に良いと思ったのか、樹が今も掛けている赤のメガネのことを話題に出した。

それは以前、勇気の持てなかった樹に紡絆が渡したプレゼント。

音楽では力になれないからこそ、別の形で助力した時の物。

 

『はい、紡絆先輩がくれたものですから』

「そっか、まぁ無理に着けてるわけじゃないなら良かった。いらなくなったら捨ててくれてもいいからな」

『絶対に捨てません』

「お、おう……」

 

文だと言うのに、何故か妙に固い意思を感じ取った紡絆は苦笑したが、本人が決めることなのでいいかと気にしないことにした。

 

「まぁ、それはともかく…もうひとつ。

聞きたいことがあったんだ」

『聞きたいこと?』

 

まだ別の要件があったのか、紡絆は話を変える。

というよりも、どうやらこっちの方が本命のようで、真剣さが樹にも伝わってきた。

 

「ほら、樹ちゃんの夢の話。オーディションはやったのかなと」

『あ……はい、あとは結果を待つだけです』

「そっか」

 

何を聞かれるのかと身構えていた樹だが、それは樹の夢に関連する話だった。

しかし紡絆が聞きたかったはそれだけだったようで、また歩き出し、樹も着いていくように同じく歩みを進める。

だが樹は握っている裾に入れる力が無意識に強まっていた。

それに気づいているのか気づいてないのか定かでは無いものの、紡絆は周りに注意しつつ照明を見るように天井を見上げながら口を開いた。

 

「不安がる必要はないよ、樹ちゃんなら絶対に大丈夫だからさ」

『……!?』

 

何も言っていない。

だというのに自身の心の中を当ててきた紡絆の姿に樹は驚いたような反応をした。

紡絆らしいといえば紡絆らしいが、こう言うことに関して紡絆はたまに無駄に鋭さを発揮する。

普段はアホみたいに鈍感だというのに。他人の心に敏感、と言えるのだろうか。

少なくともマイナスの感情なら彼はよく気づいている。

 

「難しいかもしれないけど信じて、いつも通り過ごせばいい。誰がなんと言おうと、俺は樹ちゃんなら絶対に受かるって分かってる。そんな落ち込んでないってことは自分の本気をぶつけられたってことだろ?

だったら大丈夫! ちゃんと歌えてる時の樹ちゃんの歌は、俺にすら響くようなとてもいい歌声を持ってるんだからな」

 

そんな紡絆は樹の不安を打ち消すように、樹を励ますそうに、自信を持たせるように告げると、それを聞いた樹のぎゅっと握る裾の力が強まる。

今度はまた、別の意味で。

 

「まぁ歌を大して知らない俺が何言ってんだーって話だけど。あはは」

 

軽く笑いながらそう言う言葉の裏には自虐の意味も込められているのだろう。

しかし樹にとって、その一言だけで十分だった。

 

(受かってるかなんて分からないのに、不思議…。

紡絆先輩が大丈夫って言ってくれたら本当にそう思えて、不安が消えた…。

紡絆先輩はいつだってそうだ。紡絆先輩はいつでも優しく誰か()()照らして(勇気を)くれる。

この一歩は、お姉ちゃんの隣を一緒に歩みたいって願いもあるけど、本当はちょっと違う。

私はいつも前を歩くこの人の、紡絆先輩の隣に立っても恥ずかしくないような、そんな自分になりたかったから…こんなことどうして思うか分からないけれど、嘘じゃないということだけは、分かる。

この気持ちは、それほどに大切なものなのかな…?)

 

胸に手をやり、樹は確かに前を見ていた。

その姿には何処にも不安そうな様子は見えず、紡絆は少し目を瞬きさせると、目尻を緩めて樹の手を取った。

 

『…ッ!?』

「ほら、行こうか。このままじゃ俺ら二人とも迷子になって、風先輩や小都音に心配かけるからな。それにこうでもしないと人混みにやられそうだからさ」

『は……はい』

 

躊躇し、勇気の出せなかった樹と違い、紡絆は何とも思うことなく自然と手を繋いだ。

簡単に届く距離ではあっても、伸ばせなかったのに。

 

(本当に、紡絆先輩は---)

 

誰かの手を引っ張って、前へと進む紡絆は眩しく、優しくて、不思議と安心出来るほど心地よくて、樹にとって()やはり何処までも()だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

30:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いやあ……買い物って長いんやな…って。

俺なら適当にインスタント麺買うし服も無地のやつ適当に買うわ

 

 

31:名無しの転生者 ID:ecR7UX0WF

急に来たかと思えばファッションセンスの欠片もない発言出てきて草

 

 

32:名無しの転生者 ID:9L+MxTefT

女の子の買い物は長いもんやぞ。それに付き合うのが男なんだよなぁ

 

 

33:名無しの転生者 ID:v6I0MzMAL

イッチは自分に対する関心が薄いというか、ないからな。

絶対流行りとかわからんやつ

 

 

34:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

流行りぐらい分かるわい。

アレだろ、プレッピーとかハマトラとか、カラス族とかボディコン&肩パット、オリーブ少女&ピンクハウスとか。

あとは茶髪のロングヘアに焼いた肌、フープピアス、フィットしたカットソー、ミニのタイトスカートやフレアのパンツだっけ

 

 

35:名無しの転生者 ID:CYfonmGRF

80年代かな?

 

 

36:名無しの転生者 ID:gLhb5xebM

つーが最後のやつはただのギャルやんけ

 

 

37:名無しの転生者 ID:+4ghHOwXK

ちょっと詳しいなと思ったけど一昔前なのなんなん?

 

 

38:名無しの転生者 ID:8ZCcFrAT/

もしその世代ならイッチおっさんやぞ

 

 

39:名無しの転生者 ID:JZ6OIJV1K

いうて前世合わせたら大抵の人間は成人超えるどころか三十路近くなるからあながち間違ってない

 

 

40:名無しの転生者 ID:bM4wJ4yi6

いくつで死んだかは知らんが、18くらいはいってそうだしな。

その割には馬鹿だけど、世の中どうしようもない馬鹿がいるから…

 

 

41:名無しの転生者 ID:1hhWgZmyu

で、イッチは何してる最中?

 

 

42:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

下着売場、女性用の。

全然男いないんだけど

 

 

43:名無しの転生者 ID:VItBlY6Jl

うわぁ……

 

 

44:名無しの転生者 ID:XaA+NJv/t

きっっつ。精神的に来るやつ

 

 

45:名無しの転生者 ID:/z7w8vUMu

そらそもそも男が買い物に行く場所じゃないし。

可能性あったとしてもラブコメのように下着を代わりに買いにいくやつとか子供のためのとかでしょ。

でも大半は女性がやるだろうしな。

 

 

46:名無しの転生者 ID:Gv2zvz8z3

その場合の解決策、あるで

 

 

47:名無しの転生者 ID:9dyJt3Dc3

え、これ解決策あんの?

 

 

48:名無しの転生者 ID:UotJ3pYGW

どうしよう、凄い面白そうな予感する

 

 

49:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

どうしよう、凄い嫌な予感する。

でも聞くだけ聞こうかな

 

 

50:名無しの転生者 ID:vYsFBvzeP

あっ、ふーん?(察し)

 

 

51:名無しの転生者 ID:U87cDXOc1

あー…(イッチの容姿を見ながら)

 

 

52:名無しの転生者 ID:Gv2zvz8z3

>>46

イッチが女装すればええんやで

 

 

53:名無しの転生者 ID:5Wf/f5COd

 

 

54:名無しの転生者 ID:owpOlEqIK

知ってた

 

 

55:名無しの転生者 ID:/d/KKQGF2

イッチ可愛い掘りたい

 

 

56:名無しの転生者 ID:as8tqnqdW

イッチの見た目的には十分通用しそうなの反応に困る

 

 

57:名無しの転生者 ID:Jw+l/ydxk

今の時代、メイク自体が凄いからな…そんでもってイッチって素材としていいし

 

 

58:名無しの転生者 ID:1bmjLfzel

なぁ、なんか今変なやつ居なかったか?

 

 

59:名無しの転生者 ID:6BfznIx4S

気のせいだろ

 

 

60:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

やっぱり聞いたのが間違いだったわ…とりま終わったから移動中。

そういえばさ、どっちがいいかって聞かれた時の答えってどうしたらいいんだろう

 

 

61:名無しの転生者 ID:4pc90rDX1

服買いに行く時にはある究極の二択じゃん

 

 

62:名無しの転生者 ID:W7AH1Orx0

否定してもダメ、肯定してもダメ、反応薄かったりイマイチでもダメだぞ

 

 

63:名無しの転生者 ID:7KHcop+59

>>60

気合いで乗り越えろ

 

 

64:名無しの転生者 ID:xOrbiEZ5T

これに関しては絶対力になれねぇぞ、ここ。

そもそも体験してない者が大半だし

 

 

65:名無しの転生者 ID:Ck11DwC6Z

>>60

頑張れ

 

 

66:名無しの転生者 ID:UUyhee4MW

つーか、イッチ腕というか左肩やばいんじゃなかったっけ。そんな荷物持って平気なん?

 

 

67:名無しの転生者 ID:RRK19DpFz

左肩だけじゃなくてほぼ全身定期

 

 

68:名無しの転生者 ID:sH+o0CwMZ

特に酷いのが左目と左肩、後は腹と…背中?

まあ、ただでさえ回復してないのにその上から溶解液直接受けたりしてるしね…

 

 

69:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

頑張るかぁ…。

>>66

クッソいたいけど平気。それにこんな大荷物女の子には持たせられないでしょ

 

 

70:名無しの転生者 ID:SOL5rolVl

痛いのに平気とはいかに…

 

 

71:名無しの転生者 ID:IF5yTk9Lh

そういえば前も依頼で荷物運んでたときとか友奈ちゃんに優先的に軽いもの持たせてましたね…

 

 

72:名無しの転生者 ID:MloUdXtMF

お前そういうところやぞ。分かってんの?わかってないんだろうなぁ…分かってたらあんな自然と樹ちゃんの手を取ったりみんなを褒めたりしないもんなぁ…

 

 

73:名無しの転生者 ID:AfNy+Mji/

イッチは普通のように言ってるけど難しいことばかりしてるよね 本当に行動力が特撮の住人っぽいわ

 

 

74:名無しの転生者 ID:CA28K99vn

そもそもイッチの精神力が半端ないからな。瀕死レベルでボロボロなのにこいつこんな大荷物持ったりまだ戦ったりしてるんだぜ?

普通は痛すぎて嫌になるわ

 

 

75:名無しの転生者 ID:z0k3n313T

両手どころか両腕塞がってるってマジ?

 

 

76:名無しの転生者 ID:dzknBb+f+

両肩もなんだよなぁ…

 

 

77:名無しの転生者 ID:xQofTWbsP

持てる範囲で全部持ってるの…なんというか、傍から見たら面白い

 

 

78:名無しの転生者 ID:d2kPISfn5

ところで頭の巨大なヒヨコはなんなんですかね?

 

 

79:名無しの転生者 ID:IvqtBeU6q

ぬいぐるみを頭に乗せながら歩くという無駄に高度な技術

 

80:名無しの転生者 ID:0P/JeKlIM

無駄のない無駄な技術の使い道やぞ

 

 

81:名無しの転生者 ID:+mTmmYzOK

牛鬼で体幹鍛えられたんやなって…

 

 

82:名無しの転生者 ID:BDMabluJR

なお次々と突き刺さる好奇の視線

 

 

83:名無しの転生者 ID:Vju0RPoSg

だって今のイッチ、子供からしたら巨大なヒヨコが頭の上に立っていて荷物にほとんど包まれてるって状況だからね

 

 

84:名無しの転生者 ID:p1x1QuMrn

というかこんな奴いたら嫌でも立ち止まって見るか二度見しちゃうんだよなぁ

 

 

85:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

終わったらしいから帰るで

>>100

ハンドレットで

 

 

86:名無しの転生者 ID:OIK1KTvpR

おつかれー

 

 

87:名無しの転生者 ID:9gvGisZIx

おつーってお前学んでないな?

 

 

88:名無しの転生者 ID:/flAo8AlQ

唐突に安価始めるくせに短いのやめろ

 

 

89:名無しの転生者 ID:Hi5C+auKL

寝る

 

 

90:名無しの転生者 ID:9HS+uXiKs

家に帰る

 

 

91:名無しの転生者 ID:XtsOtDRJI

もう少し遊ぶ

 

 

92:名無しの転生者 ID:lEuLhgPQC

飯食う

 

 

93:名無しの転生者 ID:2jqFFGifS

(ファミチキください)

 

 

94:名無しの転生者 ID:4n6hOQT7h

小都音ちゃんや部長、樹ちゃんの画像貼る

 

 

95:名無しの転生者 ID:3mxvQMdRW

うどん

 

 

96:名無しの転生者 ID:c6CzBoj7E

もっと見回る

 

 

97:名無しの転生者 ID:s3TeVt5hg

(下着売場から)逃げるな卑怯者ォ!!逃げるなァ!!

 

 

98:名無しの転生者 ID:RUUvqDbU8

お泊まり

 

 

99:名無しの転生者 ID:Wtb0GOB26

寄り道

 

 

100:名無しの転生者 ID:oos4NKhaO

その頭の上のぬいぐるみなんとかしろ

 

 

101:名無しの転生者 ID:/d/KKQGF2

女装

 

 

102:名無しの転生者 ID:AF1NJou1y

>>101

誰かと思ったらやべーやつじゃん

 

 

103:名無しの転生者 ID:fW3921/Pe

>>100居なければ女装になってた可能性ありますねぇ

 

 

104:名無しの転生者 ID:achKWMlxq

ちっ

 

 

105:名無しの転生者 ID:RmWRTAQbU

あと少しだったか…

 

 

106:名無しの転生者 ID:T7Fjgyb3B

おいおい、そこは女装だろッ! せっかく話題に出たんだからさぁ!

 

 

107:名無しの転生者 ID:TEJ++EMRw

望んでるやつ多すぎぃ

 

 

108:名無しの転生者 ID:CeJMOhddz

実際イッチの笑顔は可愛いに分類されるから仕方がないべ。笑顔が似合いすぎる

 

 

109:名無しの転生者 ID:zz1ZN6GBp

可愛いも兼ね備えているって完璧か?

 

 

110:名無しの転生者 ID:HgayrLuMM

イッチ、普通にかっこいい時あるからな…つーかイッチの場合は何ともなしにイケメソするから…今回だってさらっと三人を守ってたもん

 

 

111:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

なんとかしろって曖昧だなぁ…まぁいいけど。何とかするわ、そろそろ落ちそう

 

 

112:名無しの転生者 ID:XRfaXhzQq

安価は絶対

 

 

113:名無しの転生者 ID:ceNzNrn65

そろそろ落ちそうというか普通なら落ちてるからな

 

 

114:名無しの転生者 ID:AGKi5vnmi

なぁ、どうするか普通に想像できるんだけど

 

 

115:名無しの転生者 ID:EVE6H1Y4r

自分の金で取ったもんだからな、あれ。イッチを見てきたやつなら察してそう

 

 

116:名無しの転生者 ID:QZclsISWj

おっ、幼女いんじゃーん!

 

 

117:名無しの転生者 ID:HvmlBLcx5

ショタもいるだろ!

 

 

118:名無しの転生者 ID:kAQ8WNqpF

兄妹かな?

 

 

119:名無しの転生者 ID:pHy5SmU5+

あっ(察し)

 

 

120:名無しの転生者 ID:pvPHnazTC

行ったァー! 荷物持ちながら迷いなく行ったァー!

 

 

121:名無しの転生者 ID:iOv3jYY1m

まぁ、だろうな。

相変わらずイッチはお人好しだわ。ウルトラマンに選ばれるだけある。

それにしても今回は平和だな

 

 

122:名無しの転生者 ID:90YH4VmTx

イッチはこうじゃなきゃな

 

 

123:名無しの転生者 ID:CFX/7xIrb

本当にウルトラマンに選ばれる素質があるというか、主人公気質というか…でも荷物は降ろせよ

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は風の家でご馳走になるということで帰り道を歩く紡絆たちだが、気がつけば夕暮れになっていた。

昼に買い物したとはいえ、数時間単位で買い物していたようだ。

無論、昼は無理ということで外食したが。

そして何も変わらぬ、いつものような平凡で普通の会話をしていると、彼らの歩く道の先で二人の子供が居た。

一人はツインテールの髪型をした女の子で、もう一人はツーブロックの髪型をした男の子。

女の子方は蹲っており、男の子の方は何かを言いながら困ったような表情をしながら慰めるように背中を摩っている。

遠すぎて風と樹、小都音には聞こえてもないし見えてないが、紡絆だけは全てわかっていた。

 

『泣くなよ…仕方がないじゃん。これだけ探してもないんだしさ』

『だって……だって……』

『ぬいぐるみなんてまた買えばいいだろ』

『うう…大切だったもん…!おかあさんがプレゼントでくれたやつだもん…!さいごのひとつだったって…!』

『そうは言ってもさ…もう見つからないんだから…もう帰らないとかあさんに怒られるよ』

 

強化された聴力は、そんな小さい声ですら捉えていた。

どうやら無くした物を探していたようだが、見つからないようだ。

しかも門限も近いのか、男の子の方は見切りを付けるしかないと考えているらしい。

 

「ん?あの子たち……」

「困り事かな…」

『泣いてる?』

 

すると小都音たちも見えたようで、一瞬顔を見合せていた。

なので紡絆は即座に自身の心に従うことにした。

 

「すみません。あの子たち困ってるようなので、俺行きます! 先に帰っててください、警戒させたらダメなので!」

「え?ちょ、まっ---はっや!?」

『紡絆先輩らしいです…』

「…………」

 

もはや消えた、と錯覚するレベルで傍に居たはずの紡絆は子供たちの近くに居ており、そのことに風と樹は驚く。

そして小都音は嬉しいような懐かしいような、呆れるような、色んな感情が入り交じった表情で苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

一方で紡絆は、荷物を持ちながらひよこを頭から落ちないように近づくと、足でブレーキを掛ける。

 

(っ……いっ---たくない!)

 

限界寸前の肉体で超人的な身体能力は紡絆の肉体にさらなる負荷を与える。

それでも泣いている子が居たら放っておけないのか、気合いで押し殺すと痛みを全て我慢しながら男の子と女の子に声を掛けようと口を開こうとして---気配を殺す。

 

『---どうしたの?』

「ふぇ……?」

「うわぁっ!?な、なんだ!?」

 

この面でも超人的な力は使われるようで、気配に全く気づくことのなかった女の子と男の子は目の前に現れた()()()に驚いた。

 

『こんにちは、どうして泣いてるの? ボクで良ければ話を聞くよ?』

「こ、こんにちは…ひよこさん……?」

「で、でけぇ……」

 

そう、その()()()は紡絆が頭に載せていた巨大ひよこ---のぬいぐるみ。

それを紡絆が両腕を操りつつ、なんか知らないけどボタンで動く羽を動かして浮いてるように持ちながら話しかけていた。

だからか女の子は涙が止まり、男の子は自分より少し小さいくらいのぬいぐるみに純粋に茫然としていた。

 

『話してくれる?』

「……うん。あのね……」

 

しかし効果はあるのか、警戒心を抱かないまま女の子はさっき紡絆が聞こえた通りのことを話した。

子猫のぬいぐるみを何処かに落として気がつけば無くなっていたこと、門限が近くて帰らないと母親に怒られること。

手伝ってくれた兄と一緒にどこを探しても全く見つからないこと、母親から誕生日プレゼントで貰ったということ。母親に新しくぬいぐるみを買ってもらうのはいつも忙しくしてるのに自分のために買ってもらうのは申し訳なくて嫌ということ。

たどたどしく分かりづらくはあるが、簡単にまとめるとそういう事だ。

 

『そっか……そのぬいぐるみがいいの?』

「うん……落としちゃったままだとかわいそうだもん…」

『わかった、おに---ボクにまかせて』

「……え?」

 

危うく我が出そうになるものの、何とか取り繕うことに成功した紡絆はひょこっと顔を出して、兄の方へ顔を向ける。

 

「ごめんね、特徴教えてくれるかな?」

「あ……う、うん。確か……」

 

優しく、それでいて静かな声音で紡絆が聞くと、男の子の方はまだパニックになっているが、頭では理解しているのか説明してくれた。

全身が白で片方の目の部分が黒くなっている猫のぬいぐるみ、らしい。

首元には鈴のデザインがあって、片足の部分にピンクの紐が目印としてある、と。

それにお礼を言うと、紡絆はまたぬいぐるみを動かす。

 

『じゃあボクが見つけてくるからちょっと待ってて』

「で、でも見つからなかったし……もう……」

 

一体どれだけ探したのか。

それは分からないが、話して冷静になったのだろうか。女の子はまた泣きそうな表情で、諦めの感情が強くなってしまったのだろう。

もう見つからない、と。

 

『大丈夫、キミが諦めちゃダメだよ。キミが諦めなければ、絶対に見つかるから。

だからボクを信じて、キミ自身を信じて』

「……な?」

「わ…わかった。信じる……!」

「うん、いい子」

 

そんな女の子に紡絆はぬいぐるみから顔を出して優しく微笑むと、不思議なことに女の子は泣きそうな表情から、堪えるように頷いた。

すると紡絆は女の子の髪を優しく撫で、立ち上がって荷物を安全に降ろすと目を閉じる。

 

(やれるかな。分からない、でもやれる気がする。

俺の場合はウルトラマンとの融合型ではなくて宿ってる状態だから出来るか分からないけれども……この子を笑顔にさせてあげたい)

 

ただ願うは、女の子の笑顔。

何の見返りを望むわけでもなく、得られるわけでもない。

それでも紡絆はそのためだけに、()()()自身の力を解放した。

するとどうなるか。

ありとあらゆる情報、四国全域へと意識が巡り、脳に凄まじい負担が掛かる。

脳裏で流れてくる情報を流そうとしても人間の容量を明らかに超える量。

やめさせるように脳が拒否反応を起こすが、紡絆は無視して意識を保つ。

そうして情報を高速で取り込み、紡絆は特徴のものを見つけた。

 

「えっと……こっちかな」

 

流れてきた鼻血を取り出したハンカチで拭い、周りを見渡した後に迷いなくとことこと歩くと、数歩離れた先にある茂みを掻き分け、その中へと入っていった。

すぐに出てくることはなく、数分経つと紡絆は汚れながら茂みの中から出てくる。

 

「あ……」

「はい、お待たせ」

 

片手に持つ子猫のぬいぐるみを見て女の子が反応する。

紡絆はそれを両手で差し渡し、女の子が抱えたのを見ると微笑んだ。

 

「どうやら落としたものを隠してくれてたみたい。目印は消えてたみたいだけど、手紙もあった。探しに来るかもしれないから、って」

 

結構くしゃくしゃとなってしまった紙を開けば、その通りのことを書いてある。

しかし茂みの中となると中々探さないものだろう。

まぁ道橋やベンチとかに置いたとしたら間違いなく処分されるだろうが。

それ故にか目印はあったらしいが、誰かに消されたか自然に殺られたか。

 

「にいちゃんすげー!」

「あ、ありがとう……」

「いいよ、これで帰られるだろ?」

「うん、助かった!」

「気にしないで、気をつけて帰るようにね」

 

尊敬するような目で見られることに居心地の悪さを覚えつつも、すっかりと暗い表情をしなくなかった二人の頭をわしゃわしゃと撫でると、紡絆はまた荷物を持つ。

 

「おにいちゃん…本当にありがとう。それと…ごめんなさい」

「そうだ、にいちゃん。ごめんな、本当は俺が見つけてやんなきゃなのに…」

「そう暗い顔せず、な?親御さんも心配するし、そう思うならひとつ、約束してくれ」

「「約束?」」

 

二人揃ってタイミングよく首を傾げる。

本当に仲のいい兄妹なのだろうと、苦笑し、真剣な表情で兄である男の子を見つめる。

 

「キミは妹さんを守ってあげること。お兄ちゃんなんだから、キミが頑張って守ってあげるんだ」

「うん、もちろん。分かったよ!」

「なら良し。それでキミはそのぬいぐるみを落とさないようにしてあげて。それから---」

 

男の子を返事を聞き、頷いた紡絆は妹の方を見てぬいぐるみを指差したかと思えば、話を区切って後ろを向いた。

ゴソゴソと何かをしたかと思えば、また振り向く。

 

『ボクのことも一緒に連れて行ってくれないかな。もっとキミと仲良くなりたいんだ』

「え……? いいの…?」

 

巨大ひよこの腕をパタパタと動かしながら言うと、女の子は驚いたように目を瞬きさせる。

 

「うん、キミなら大切にしてくれるだろ?」

「……うん!」

「ならよかった。この子もキミの手に渡った方が、きっと嬉しいだろうから」

 

女の子の返事に安心したように笑みを零し、紡絆は巨大ひよこを女の子に持たせた。

小学生くらいの兄妹なのもあって、彼女らよりは小さいが抱えてる姿を見ると中々大きく見える。

 

「それじゃあ、元気でな」

「にいちゃん、ありがとー!」

「あ……ありがとう…! わたし、大切にする…!」

 

子猫と女の子の手を取って大きく手を振る男の子と気合いを入れるように片手で握り拳を作り、巨大ひよこを抱える女の子を紡絆は見送る。

彼ら彼女は何度か振り向いたが、紡絆は手を小さく振りながら姿が見えなくなるまで見送っていた。

---最後に見た表情は、間違いなく笑顔だった。

 

「……なつかしいな」

「うぇぁ!?」

 

すると突然横から声が聞こえ、紡絆はビクッと体を震わせるどころかガチで吃驚して数歩ズレた。

声の主の方を見れば、小都音は遠くを見るかのように目を細め、紡絆に対して微笑む。

 

「驚いた?」

「気配全くしなかったんだが……」

「ふふん、これくらい出来ないと兄さんをこっそりととう---んんっ。なんでもないよ」

「何か言いかけてたよな!?」

「なんでもないよー」

「えぇ……?」

「なんでもないよ?」

「あっ、はい…」

 

何を言おうとしたのか気にはなるが、謎の圧に負けて紡絆は聞くのをやめた。

なんでもないと言うならないのだろう、と。

 

「それにしたってやるじゃない、紡絆」

「あれ、そういえば三人とも先に行ってるんじゃあ……」

『紡絆先輩が探しに行ったらあの子たちを残すことになるので、バレないように見守ってました』

「邪魔になると行けないからね、紡絆も考えがあったみたいだし? あと、別に先に行くとか行ってないから」

「兄さんが勝手に飛び出しただけだもん」

『でもそれが紡絆先輩ですから』

「……なんか、すみません?」

 

肯定されてるのか批判されてるのか、間違いなく呆れてはいるだろう。

しかし困ってる人物が居たとして何もしなければそれはそれでなんか違う……と難しい話である。

 

「まっ、一件落着ってところね」

「あれ、それって俺のセリフでは?」

「細かいことは気にしない気にしなーい」

『細かくはないけどね……お姉ちゃん、なにもしてないよ』

「うん、『私の』兄さんがやりましたから」

「ちょっ…二人とも!? あたしはほら、あれよ。どうにもならなかった時に何とかするように待機してただけだから…」

「ちなみにその場合は?」

「………」

『何も考えてないんだ……』

 

樹と小都音の言葉が次々と刺さり、ノープランだったことが露見する。

それを見た紡絆は一度振り向き、少し考えるようにして俯く。

 

(それにしたって……ウルトラマンの身体能力だけかと思ってたのに、俺に宿るウルトラマンはサイコ…なんたらみたいなやつ、使えるんだな)

 

先程女の子のぬいぐるみを探した時に流れてきた情報。

それを思い返した紡絆は改めて懐のエボルトラスターを握って心の中で感謝を告げる。

エボルトラスターは、決して鼓動しなかった。

 

「と、とにかくっ! 早く帰って飯食べるわよ!」

『あ、逃げた』

「逃げたね。でも、賛成です。いつまでも兄さんに荷物持たせれませんから」

「ほら、紡絆!」

「兄さん」

『紡絆先輩』

「今行く!」

 

それはともかくとして、本来の予定がズレていくのも困るもので、三人の呼び掛けに反応した紡絆は先へ居た三人に追いつくように軽く走る。

そして紡絆が追いつくと、四人は前を向いて歩いて他愛もない話へ映っていた。

---懐の中で、エボルトラスターが()()()()()()()()()()()()()()()を繰り返していたことに紡絆は気づかない。

 

『…………』

 

うっすらと現れた、曖昧な人影の形をした光。

()()は何処か、悲しそうだった。

()()()()()()()()()()()()()()を悲嘆するように。

なぜなら---まだそれほど経っておらず、固まってもない。

明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がポケットからズリ落ちたのだから。

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
平和回と思わせておいて無理したことが(読者とスレ民に)明かされたやつ。
ファウストの言っていた通り、精神的支柱になってる。
そして無意識に口説くやつ。

〇天海小都音
兄がアレなので着いて来ることに。
終始樹とキャッキャウフフしてたと思わせておいて、紡絆にアタックしてた。
なんか知らんけど樹の考えが分かるらしい。
ちなみに紡絆のことなら色々と分かるらしい。
ファッションセンスはめっちゃ高い。
樹の服を選んだのは、彼女である。

〇犬吠埼風
年上の余裕を見せつけようとするも、あっさり崩壊。
やっぱり学んでないが、紡絆が引くレベルでシスコンっぷりを発揮してた。
それでもちゃんとするところはちゃんとする。

〇犬吠埼樹
小都音に引っ張られる形で色々と見て回ってた。
けれど楽しそうだったのでよし。
ちなみに紡絆からプレゼントされた赤いメガネは宝物として大事に使ってる。
今回も付けてた。
そしてメインとも言えるオーディションの結果。
不安はあったが、時折鋭さを発揮する紡絆に見抜かれ、彼のお陰で解決。
今の彼女は(元からだけどさらに)メンタルつおい子
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