【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】 作:絆蛙
---少し前。
家に帰って来られたのは、昼過ぎだった。
紡絆は制服に身を通し、エボルトラスターを片手に玄関に居た。
「…やっぱり、いくんだ」
「…ああ」
背中から聞こえてくる声は、予想通り通った感じで、暗く低い声だった。
どんな表情をしているのか、分からない。
ただ紡絆は振り向くことはしなかった。
「そう……お兄ちゃん」
「…ん?」
一切振り向かない紡絆を見て、小都音は顔を伏せる。
手をぎゅっと強く握りしめ、顔を挙げた小都音は笑顔を作った。
「いってらっしゃい、ご飯作って…待ってるから」
「…ああ、いってきます」
一瞬だけ振り向き、紡絆は頷いてから傘を取ってすぐに扉を開く。
小都音はその背中を見つめ、扉が閉まる---その時にはもう彼女は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
唇を噛みしめながら、ただ見て。
それはつまり、見送った時の小都音の笑顔は、無理して作られたものだと言っているようなものだった。
「…おにいちゃん」
既に紡絆の姿はなく、何処にもいない。
手を伸ばしても、何をしようとしても届くことは無い。
ただその場に座り込み、暗い表情を浮かべたまま瞳から輝きが失われる。
---そんな小都音に手を伸ばす者は、誰も居ない。
彼女はただ、ただ待つことしか出来ないのだから。
家を出て傘を指しながら走ること数分。
紡絆は時刻を見て、少し焦りつつ目的地である讃州中学にたどり着く。
休日なのもあるが、雨が降ってるのもあって人はやはり少ない。
それを無視して、紡絆は家庭科準備室---つまり勇者部の部室の扉を勢いよく開ける。
「すみません、遅れました…!」
「あっ、紡絆くん!」
「やっと来たわね…」
「呼んだ本人が遅れるってどういうわけよ…」
「あ、あはは。ごめんごめん」
そこに居たのは、いつもの勇者部のメンバー。
友奈も東郷も、風も樹も夏凜もいる。
どうやら、紡絆が意図的に呼んだらしい。
「昨日、突然大事な話があるから来て欲しいってグループで来た時は驚いたけど…何かあったの?」
『紡絆先輩にしては、珍しく緊迫した感じでした』
「…ああ、手遅れになる前に、順を追って説明する。何か聞きたいことがあったら話が終わってから言ってくれ」
前日メールを送った相手は勇者部のみんな宛だったらしく、紡絆は早速扉を閉めるとおふざけなしの真剣な表情で周りを見渡してそう言っていた。
「……どうやら真面目な話のようね。わかったわ」
そんなレアな姿に、一同は僅かに緊張を胸に風が代表して口を開く。
紡絆は頷き、少しずつ語り始める---
話が終わると、勇者部の部室はこれはまた異様な空気に包まれていた。
紡絆が話したこと、それは今までのことだった。
バーテックスの総力戦が終わったあとの話で、目が覚めて意識を取り戻しみんなと話し終えた後の話。
意識を取り戻した日の夜、スペースビーストの襲撃に遭い、戦ったこと。
ファウストとは別に、新たな
融合型昇華獣が、新たなに進化してネオ融合型昇華獣として現れたこと。
その時は何とか一人で倒せたが、次に現れたネオ融合型昇華獣と既に三度交戦して撤退させるのが精一杯のこと。
今回みんなを呼んだのは、ネオ融合型昇華獣と戦う際に協力して欲しいこと。そのネオ融合型昇華獣の特性と能力について。
今まで隠していた、戦いを紡絆は明かしたのだ。
唯一話してないのは、左目とメフィラス星人のイレイズや宇宙人たちのこと。
当然、そんな話をすれば---
「そんな…。じゃあ…うそ…でしょ……? どうして、どうしてそれを隠してたのよ!? あんたは今までずっと一人で戦ってたってこと!? あたしたちが普通に過ごしている間も…知らないところで、一人傷ついて、苦しんで、悩んで…それでもあたしたち人間を、世界を…守り続けてたってことなの…!?」
こうにもなる。
怒りを隠さず、風が誰よりも早く動揺しながらも声を荒らげた。
いや、風だけではない。
気が付かなかったことにショックを受ける者も居れば、一人で抱えていたという真実に悲しそうにする者もいる。
血が滲むほどに拳を握りしめ、口を噤む者も居れば、悄然と、愕然とする者も。
「風先輩……」
「紡絆くん、風先輩の言葉も最もだわ。どうしてそんな大事なこと、言ってくれなかったの? そんなに…私たちは頼りにならない?」
「そ…そうだよ!悩んだら相談…でしょ?」
「ごめん、そうじゃないんだ。俺が戦いを始めた時には、もうみんなの端末は大赦に回収されてた。どうやっても呼べないだろ?」
「それはっ!」
「…風。残念だけど、紡絆の言葉は事実よ。気持ちは分かるけど、返ってきたのは最近なんだから…」
「……っ」
悲しそうにする東郷や友奈に対して、紡絆は正論を述べる。
それを風が否定しようにも、夏凜が悔しそうな表情で止めてきた。
風は怒った表情のまま何か言いたげな視線を夏凜に向けるが、夏凜が血を滲むのではと言うくらいに握っている手を見て、口を閉じる。
そう、勇者たちはつい最近まで戦闘が出来なかったのだ。
何よりも、バーテックスとの戦いを終えたと思ってたのだから、変身する覚悟があったかなんて怪しいところだ。
ある程度時間が経っているからともかく、もし言われてしまえば、戦意が消失していた可能性は限りなく高い。
『でも…話すくらいは…』
「みんなは十分戦った。身体機能を失って---満開をすれば、また失うかもしれない。みんなが失ったのは満開の直後なんだからな。
だからその後に戦えって言われてもキツいだろ?もしかしたら、また喪うかもしれない、何処か悪くなるかもしれないって。
それに端末もないのに俺が戦ってるって話をしたら、より負担をかけてしまう」
「あたしらを、気遣って……?」
「別にそれだけじゃないです。スペースビーストは元々ウルトラマンが戦う相手…あの遺跡には俺は召喚されるし、俺しか戦えないならやるしかないでしょう」
紡絆らしい答え。
全てが真実なのだから、なおのこと否定することが出来ない。
遺跡はウルトラマンの力があれば入れて、勇者が入れるのは紡絆のエボルトラスターから発せられた光の影響。
じゃなければ、樹海と違って入れないのだから。
「そんな……」
「…っ。確かに事実よ…私たちは端末がないから、言われても戦えなかった。でもあんたも同じでしょ!あの時、近くにいた私はどれだけ酷かったのか一番理解しているつもり…!
あんな傷を負って、仮死状態になって…!一歩間違えば死ぬところだったのよ!?それも進化した相手に対して戦って…一人でってあんた、アホなの!?」
「アホじゃないぞ、今生きてるじゃん」
「それは結果論でしょうが! もしもその戦いで命を落としてたら、どうするつもりだったのよ!たたでさえ、あんたはバカみたいなことして危険な目ばかりにあってんのに…」
「それはまあ…でも仕方がないのは仕方がないだろ」
「っ…仕方がないって、あんた……ッ!何度も何度もいい加減に---」
「ま、待って夏凜ちゃん!落ち着いて!」
夏凜の言葉は否定し切れるものでもなく、逆に夏凜たちも紡絆の言葉を否定し切れない。
互いに正論ではあるのだ。
ただそれでも、紡絆の異常さが際立ち、思わず頭が熱くなった夏凜が掴みかかるように行動に出そうになった途端、友奈が慌てて止めていた。
「…確かにね、紡絆くん。紡絆くんの言葉は私たちのためでもあるんだと思う。バーテックスの生き残りがいるって知って、ショックはあったわ。
もしスペースビーストもいるってわかってたら、それ以上に」
「東郷……」
「でも…それでも私は怒ってるのよ。紡絆くん、嘘ついてるわよね?
私たちに勇者になるための端末がなかったのは事実。でも紡絆くんが言ってるのは、
「あっ!」
『!』
「確かに…紡絆は一度もなかった時としか言ってないわね…」
「……どうなのよ?」
「…え、ええっと……」
東郷の言葉に、気がついたみんなの言葉に紡絆は言い淀む。
さらっと正当化しようとしていたが、紡絆がさっきから言い訳がましく言ってるのは端末がなかったということ。
「つまり、紡絆くんは私たちに端末が返却された後も…戦い続けてた。違う?」
「………」
故に頭は冷静に思考していた東郷にあっさりと見破られ、紡絆は目を逸らした。
その態度に、紡絆に視線が集まる。
「紡絆くん…そうなの?」
「…ソンナコトナイッス」
『紡絆先輩……』
「紡絆くん?」
「ごめんなさい、一人で戦ってました…」
友奈の言葉には紡絆の口調がおかしくなったが、否定して貫こうとしたものの、悲しそうにする健気な後輩と逆らっては危機感の覚える東郷の笑顔にあっさり屈して自白した。
「…まぁ紡絆くんのことでしょうから、それも私たちに負担をかけさせないためよね」
「うぐ…」
「それは紡絆くんらしいね……」
「…例え紡絆がそうだとしても…言ってくれたってよかったでしょ」
「そうね、少なくともバーテックスの生き残りがいるってわかってから言ってくれたなら良かったと思うわ」
「はい…すんません。で、でもこうやって話したし!」
「いや、それが遅すぎるんでしょうが!」
「…………」
優勢だったはずが、完全に縮こまる紡絆は明らかに論破されていた。
やはり紡絆は話術がクソザコ---ではあったが、不思議と辺りを包んでいた不穏な空気は既に霧散していた。
「……はぁ。そうだった、そうだったわ。あんたってそんなやつだったわ…忘れてたあたしがバカみたい…」
「…それもそうね」
「ちょっとどういうことですかそれ」
「どうもこうもないでしょ」
「ええ、言葉の通りだけど?ん?何か文句でもある?」
「……あっ、ないです」
代わりに緩い空間が作り出されると風と夏凜はそのことを思い出し、呆れたようにため息を吐く。
その態度にムッとする紡絆だが、やはり何も言えなくなった。
むしろバツが悪そうに後頭部を掻く紡絆の裾を、誰かが引っ張る。
『紡絆先輩…』
「…樹ちゃん?」
それは、樹だった。
珍しい姿に目を見開き、紡絆は首を傾げる。
『私たちのことを心配してくれてたんですよね』
「そりゃ…まあ。
『その気持ちは嬉しかったです』
「い、樹ちゃん…!樹ちゃんは俺のみk---」
『でも私も怒ってます。皆さんも同じかと…』
「………」
そう言われ、周りを見渡せば未だに笑顔なのが若干怖い東郷と不機嫌な夏凜、怒りを通り越して呆れている風とあの友奈ですら、微妙な表情をしている。
目の前の樹も、よくよく見れば悲しそうでもあるが機嫌が悪そうだった。
「いやほんとすみませんでした…でも話すタイミングなかったのだから仕方がないっ!」
「ええっ、開き直った!?」
「…まあ、紡絆くんらしいというかなんというか…」
「まともに相手すると、頭痛が痛くなるわ…」
紡絆の開き直りっぷりに怒っている者はおらず、むしろ驚いていた。
普段の紡絆を知る者たちなので、諦めたという表現の方が正しいかもしれないが。
「ま、まあ…過去のことは水に流して」
「当事者が言うものじゃないと思うんだけど」
「普通はあたしらが言う立場だからね」
「…話進まないので勘弁してください」
比率的に全面的に悪いのは紡絆とはいえ、このままでは話が進まない紡絆は両手を挙げて降参のポーズを取ると、また真剣な様子を作り出す。
「今さらですけど、ネオ融合型昇華獣についてはさっき話した通りです。正直、三度交戦して、俺は勝てなかった。
もう一度戦ったら、今度は負けるかもしれない…自分勝手なのは承知の上です。
巻き込まないようにして、心配させないようにって黙っていたのは多分、きっと、ちょっとくらいは、おそらく、反省してますけど…力を貸して欲しいんです。もう一度戦うとなると気持ちの整理とか付かないと思います。それでも---出来れば、また力を貸してください」
本当に反省しているのかと思われる---間違いなくしてないというか出来ないが正しいと思うが、そのような発言をした割に、紡絆は真摯に頭を下げていた。
事実、頭を下げる前の紡絆は何処か心苦しい表情が表に出ていた。それほど、本気なのだ。
まぁ、本当はこのまま戦うことなく過ごして欲しいとでも思っているのだろうが。
そんな紡絆の態度に、勇者部のメンバーは顔を合わせ---
「もちろん私は手伝うよ!紡絆くんを一人にはできないもんね!」
「ええ、そうね。放っておいたら無茶するんだもの。その方が不安だしね」
「仕方がないわね…まぁ、今日ちゃんと話してくれたってことと…うどん一杯で手を打つわ」
「…ふん、やってやろうじゃない。どのみちバーテックスは現れるんだから、ちょっと早くなるだけよ」
『力を合わせて、です』
「…みんな」
すぐに紡絆の協力をする判断をしていた。
紡絆には嬉しいような、嬉しくないような、微妙な感情が渦巻く。
「でも、そう言ったって簡単に覚悟決まらないだろうし、無理なら無理って言ってくれても…」
だから理由を付けて、そんなことを言っていた。
どうせ自分のことを棚に上げて、身体機能のことを考えると、やはりお願いした側と言えども戦わせるのはどうかと思ったからに違いない。
「何今更なこと言ってるのよ?そもそも頼んだのはあんたでしょ」
「それに夏凜ちゃんも言ってたけど、バーテックスとは戦うことになるでしょうしね。私からすれば紡絆くんを一人で戦わせる方が怖いわ」
「何よりも紡絆くんが居るんだもんねっ!紡絆くんだけじゃない、みんなが一緒にいる。ならきっと大丈夫だよ」
「私に関しては覚悟なんてとうに出来てるわ。伊達に完成型勇者じゃないのよ」
『私は…戦えない小都音ちゃんの代わりにも…頑張りたいですから』
「…分かった、ここは素直に任せる。ありがとう」
しかし勇者部のメンバーたちは引く様子もなく、紡絆もまた己の限界を知っている。
故に紡絆は渋ることなく、任せることにした。
まぁあの紡絆が再び自ら勇者に助けを求めるくらい余裕がないのだから、当然といえば当然の結果になったといえる。
(…それでも何とか、出来る限りは守ろう。また巻き込んでしまうのだから、それくらいはしないとな)
ただ、相変わらず自己犠牲の精神を持つ紡絆がそんなことを考えているのは流石に勇者部の者たちも気づけないようで、その考えを彼方へ吹っ飛ばしつつ、紡絆はネオ融合型昇華獣と戦った際の情報を出来る限り思い出し、再びこれからの説明をしていった---。
460:名無しの転生者 ID:yfZuBCjsZ
まさかイッチが勇者部を頼るなんてなあ。偽者かと思ったゾ…
461:名無しの転生者 ID:sn7Dc/jCK
それほど余裕がないってことやろ
462:名無しの転生者 ID:FBLpIcRid
ならついでに情報探るか。有明浜だっけ、そこ行かないか? ほらイッチが召喚されて帰される場所ってあそこじゃん。なんかあるんじゃないか?
463:名無しの転生者 ID:see/Q3OLK
そーいやそうだったな
464:名無しの転生者 ID:e0FickJZ6
色々ありすぎて俺らすら整理ついてねーからな。人足りてないですよ、派遣しろ
465:名無しの転生者 ID:GbVuMC/Ed
しっかしそれにしても昨日から不穏だな
466:名無しの転生者 ID:u2ugaBiCo
昨日は大雨降ってて、雷も鳴ってた…んで、今日は雨振ってるし雷鳴りそうな雰囲気だし、こういうのってよくある『何か』ある前兆だよな
467:名無しの転生者 ID:syfUVKndf
どうしよう、この世界だと『何か』がめっちゃ怖く感じるな…
468:名無しの転生者 ID:e3+BgbiYn
まあ、何があっても結局俺たちは掲示板を使うしか出来んからイッチに頑張ってもらうしか…敵の警戒とかは能力とかフォローできる範囲はするが
469:名無しの転生者 ID:QjXvNttDB
はぁ…問題は多いねぇ。最優先事項はイッチの体と妹ちゃんとノスファルモスか……
470:名無しの転生者 ID:MkN4A8Bpy
で、んな事言ってたら早速巻き込まれてますけど
471:名無しの転生者 ID:bMv4YVcsR
変身回数は限られてる。
ここが正念場だ、必ず勝て!
472:名無しの転生者 ID:v+PgIWZM1
むしろ負けたらガチで終わる!
473:名無しの転生者 ID:VY4OwBjoy
こっから出来る限り支援するが…いいな?メタフィールドだけは展開するなよ!
それほど時間は経っておらず、時刻は夕方に近く。夕刻だと言うのに随分暗い空の下で、紡絆はひとり、海と高く大きな壁を眺める。
そこは自分がイレイズに助けられる前、遺跡から投げ飛ばされた場所だった。
いや、正確に言うならば、遺跡の外に投げ出される時はいつも砂浜に戻されていた。
まるでそこに、何かがあるように。
「以前言ってた推察から考えると、この付近が結界の位置…か?の割には、特に俺の目でも何も見えないな…ちょっと違和感はあるけど」
既に解散前に紡絆は勇者たちに遺跡へ召喚されたら以前のように呼ぶことを伝えており、いつ敵が来るかは分からない。
だから紡絆は情報収集のためにここへ来ていた。
そう、いつもここなのだ。
現実に帰還すれば、必ずこの付近に転移させられる。
樹海の際は神樹様が帰還させてくれるが、遺跡の場合は何故かここ。
明らかに何かあると見ていいが、紡絆の目にはただの海と壁にしか見えない。
やはり、何かあるとは思えなかった。
しかし突っ込もうにも流石に今は壁を登れるほどの身体能力を引き出すのは厳しい。
あくまで見るだけだったが、ほんの少し違和感を感じるだけで何も見えない。
「偶然かなぁ…まぁいいや…とりあえず小都音が心配してるかもしれないし、一度帰って---ッ!?」
何かを考えても分からない紡絆は思い過ごしかと判断し、振り返って帰り道を歩もうとした、その瞬間。
海の方へ振り返り、傘を投げ捨てた。
そして空いた手でドクン、と鼓動したエボルトラスターを既に持ちながら警戒心を高める。
「…来た、か。ノスファルモス…全力で行くしかない。イレイズ、有難く使わせてもらうぞ」
例のごとく、紡絆の体は光に包まれる。
しかし紡絆はいつでも戦えるよう、イレイズから貰ったベータリベラシオンカプセルを手にしていた。
デメリットは大きいが、本当になりふり構うつもりは無いらしい。
そうして紡絆の体は、遺跡へと飛ばされる---残った現実には、
雨が降り、
エボルトラスターから光が発せられ、五つの光球が遺跡のオブジェクトの中へと入っていった。
それを見届けると、既に現れているネオ融合型昇華獣のノスファルモス、闇の巨人の一人、悪魔の二つ名を持つダークメフィストを見据える。
「もう負ける訳にはいかない……だから終わらせる…。短期決戦だ!」
手にしていたベータリベラシオンカプセルを口に含み、飲み込む。
そしてエボルトラスターを引き抜き、紡絆は即座にウルトラマンネクサスへと変身した。
それと同時に、五つの光が導かれるように遺跡へと落ちてきた。
光は地面にゆっくりと着地するや否や霧散し、そこには勇者服に身を包んだ五人が現れる。
「うわっ…と!」
「あれが紡絆くんの言ってた…」
「確かに見た目は中々凄いことになってるわね」
「それにもう一人の巨人…厄介そうだわ。みんな、気を引き締めていくわよ!」
『頑張りましょう…!』
話は予め聞いていたのもあり、勇者たちは各々の武器を取り出す。
対峙しているネクサスとメフィストはそれに気づいたのか一瞬だけ顔を向けると、すぐに睨み合う。
『フン……』
『シュアッ!』
ネクサスが駆け出し、メフィストとノスファルモスも同時に動いた。
ただ一直線に進むネクサスに対して先に接敵したのはノスファルモス。
ネクサスは走る勢いそのままでショルダータックルし、僅かに弾かれながらもノスファルモスの右腕を脇に挟み込み、背を向けると左手で胴体を数発打ち付ける。
しかしアンファンスだとダメージがイマイチなのか、そこまで効いた反応はなくノスファルモスの左手から現れた爪による振り下ろしが放たれる。
その攻撃をネクサスは挟み込んでいた腕を離し、体を反転させて両腕で受け止めると力強く上に振り払い、弾いた後に反撃せずバク転した。
そこへ空中から何かが落ちてきたかと思えば、ネクサスはパーティクルフェザーを片手から放ち、ダークレイフェザーがそれを相殺する。
だがその際のほんの僅かな爆風で見えなくなった視界の中から、溶解液が放たれていた。
降りかからんとする溶解液。
ネクサスは反応し、瞬時に地面を蹴ると空中で後方に回りながらアームドネクサスを輝かせた。
水面に水滴が落ちたかのような音ともにネクサスの体を青い光が包み込み、着地と同時にジュネッスブルーにタイプチェンジを完了させる。
メフィストが駆け抜け、着地したネクサスに拳を振りかぶった。
ネクサスはメフィストの攻撃に対して何も反応を示さず---
「させない!」
ネクサスの後方から放たれた青い銃弾が、メフィストを何発も襲い掛かる。
思わず足を止め、腕で防御するメフィストだが---ネクサスはもう、独りではなかった。
「そこっ!」
「あたしらもいるって忘れてもらったら困るわ!」
大剣が振られ、刀がメフィストを斬り裂く。
しかし勇者の力といえど、相手は人智を超えた存在。
僅かにノックバックしただけで、防御されたのもあってダメージはない。
それでも、十分過ぎた。
『デェアッ!』
高速の光が戦場を駆け抜ける。
メフィストを通り過ぎたネクサスの相手は、ノスファルモス。
そのノスファルモスは真っ直ぐに突っ込んでくるネクサスに己の武器である左爪を突き出す。
ウルトラマンの装甲を持ってしても貫くほどの威力はあるノスフェルの爪。
だが、その爪は大きく弾かれることとなった。
「紡絆くん!」
ダメージにならなくとも、勇者の力はバーテックスを倒せる力はある。
融合型を超えたネオ融合型昇華獣は装甲も強まっているが、友奈の拳はバーテックスをも吹き飛ばすのだ。
当然、爪如きならば殴って逸らすことは可能。
それでも人型の怪獣であることから右爪があるわけで、今度こそ攻撃のために振り下ろされるが、それはワイヤーによって妨害される。
「……!」
必死に引っ張り、絡みついたワイヤーがノスファルモスの爪を離さない。
そこに辿り着いたネクサスはノスファルモスの腹に飛び蹴りを与え、怯んだ隙に連続で二発両手で殴るが、ノスファルモスは三体の怪獣と融合している相手。
武器はそれだけではなく、鼻から放たれた青色破壊光線が周辺にばら撒かれる。
ネクサスは咄嗟にアームドネクサスで防ぎ、友奈はワイヤーを離した樹を抱えて範囲外へ逃れる。
そうなるとノスファルモスに時間を与えることとなってしまい、背中の亀裂から霧のような光が発せられる。
『!』
全域を包み込み、遺跡の世界を霧が覆い尽くした。
それほどの力は無いはずのファルドンの能力。
初めての技だがネクサスも勇者たちも、見えなくなってしまう。
「見失った…!」
「何も見えないんだけど…!?こんな力あるなんて紡絆から聞いてないわよ!?」
「ど、どうすれば!?」
「まさか…この場で成長した…!?」
そう、それこそが何よりも警戒すべき能力。
スペースビーストは成長する生き物であり、バーテックスは進化した上に頂点へ至った者。元となったバーテックスは頂点へと至ってはいないが、その過程なのだ。
故に双方が合わさり、驚異的な成長速度を持っている。
過去にあった前例であれば、超再生がわかりやすい例だ。
そしてこのノスファルモスは既にネクサスと三度交戦していることを考えれば、より強くなっているのは明白。
『……フッ!』
何も見えない真っ白な世界。
突如として腕がネクサスの真横から伸び、ネクサスは手のひらで逸らした。
『!?』
しかしネクサスの背中から衝撃が走り、ネクサスの体は強制的に前に進まされる。
瞬時に振り向くが、やはり霧で見えない。
それどころか濃い霧の能力として気配を殺す力があるのか、何の気配ひとつしないのだ。
「わわっ…!?」
「っ……!?」
ただ爆発音が響き、誰かの声と思わしきものが霧の世界から聞こえる。
被弾はしてないようだが、ネクサスだけではなく勇者も狙っているのだろう。
それでもネクサスは焦ることなく、その場で俯いた。
何処か諦めたかのようにも見える行動。
当然周囲を警戒しないということは敵にとってチャンス。
『……ハアッ!』
霧の中から、青い光弾と紫色の光弾が場所を悟らせないように何箇所から遅れて飛んでくる。
ネクサスは顔を上げ、ただ左へ振り向くと拳を突き出しながら地上を物凄い速さで滑るように前進する。
大量の二色の攻撃をスピードを活かして抜き去る。
そして何も見えないはずで、場所も分からないはずで、だというのに---打撃音が響き、何かが落ちる音とともに霧が薄れた。
霧が徐々に貼れ、周囲の景色が戻っていく。
そうして姿が見えるようになったところで、倒れているノスファルモスとその前にネクサスが立っているのが見えた。
『ふ---ッ!』
そこをメフィストが襲い掛かる。
背後から拳を振り抜き、反応したネクサスは振り向こうとするが、迎撃が間に合わない。
せめて防御しようとネクサスが腕を動かすが、メフィストの一撃の方が早く、ネクサスに直撃する---直前でメフィストがその場から飛び退く。
ワンテンポ遅れて衝撃によって地面がひしゃげ、煙が舞う。
『……厄介だな』
まるで予想していたかの行動。
近くにいたのは、友奈と東郷だった。
最も紡絆という人間と関わっていた二人だからこそ、信じて動いた結果、といったところか。
「紡絆くんの邪魔はさせない…!」
「間に合って良かった!でもよく分かったね、紡絆くん!」
『……シュ』
何も見えない状況だったのに的確にダメージを与えた紡絆に対して友奈はそう言うが、当の本人は喋れないので頷くだけしか出来なかった。
「友奈たちこそ、今のよく間に合ったわね…」
「流石の私でも気配が読めなかったのに……」
次々へと集まり、勇者たちは警戒するように陣形を組む。
そして、倒れていたノスファルモスが急に消えた。
「えっ、消えたよ!?」
「なにそれっ!?ずるいんだけど!?」
あったはずなのに消えたことに驚いて目を見開く友奈たちだが、敵は待ってくれない。
厄介な勇者から排除しようとしたのかメフィストがダークレイフェザーを数発放ち、ネクサスが瞬時にサークルシールドで守る。
「は---ッ!」
「そこよ…!」
勇者を守るために行動したネクサスは動けなくなるが、即座にノスファルモスの存在に気づいた夏凜が刀を投げつけ、東郷が射撃する。
だがそれらは全てすり抜け、サークルシールドを貼っていたネクサスの真横に突如として出現した。
『……ッ!?』
気づいたネクサスが顔を向けるが、既にノスファルモスは爪を振り下ろしている。
このままでは直撃するが、割り込むようにして入った大剣が爪を防ぎ、樹が風をワイヤーで支えることで一撃を耐えてみせる。
即座にサークルシールドを解除したネクサスが横蹴りを放つが、すり抜けた。
「やぁぁ---っ!」
今度はネクサスの背後へと出現し、反応して地面を蹴ることにより加速した友奈の拳がすり抜ける。
「これが言ってた能力…!?まったく厄介すぎるでしょ!」
「喋ってる暇があるなら攻撃しなさいよ!」
「でも当たらないよ!?」
複数体現れたノスファルモスに勇者は次々と入れ替わるようにそれぞれ攻撃するが、全て当たらない。
何よりもノスファルモスを狙おうとしたネクサスの動きを止めるためか、メフィストは畳み掛けるように勇者を執拗に狙い、その度にネクサスは全て庇う。
一度も勇者たちに被弾させることなく守り、ノスファルモスの反撃に対しては己の体を持って防御する。
ただそれでも、勇者たちの攻撃は当たることはなく。
その名の通り、蜃気楼の如き消えていた。
「く---どうしろってんのよ!?」
「想像以上に反則でしょこれ…!何体現れてんのよ!?」
「紡絆くんが守ってくれてるお陰で私たちは大丈夫だけど……」
「ええ、このままじゃ紡絆くんの体が持たないわ……!」
見るだけで、十体以上は確認できる。
それほどいるのに誰も一度も被弾はしていないのは紡絆が全て庇っているからで、満開ゲージを少しでも貯めさせないようにしてるのだ。
ただそれでも戦況的に追い詰められているのには変わらず、離れた距離にいたメフィストがかかと落としで勇者たちを踏み潰そうとし、ネクサスが即座に割り込んで右腕で受け止める。
『ぐ……シェ、シュアァ!』
一瞬だけ東郷へと視線を送ったネクサスは、メフィストに左拳を突き出すが、メフィストは受け止められていた右腕を蹴ることで後方回転しながら回避し、ネクサスは衝撃でノックバックする。
そこへ目の前に出現したノスファルモスがハサミ型の腕をネクサスの腹部に打ち付け、くの字となったネクサスが打ち上げられる。
「紡絆くん! でも……!」
『シュッ……!』
何かを理解した東郷が迷う素振りを見せる。
そこで空中へとネクサスがいるうちにノスファルモスが溶解液を放とうと口を開くが、ネクサスは空中から地上へ加速し、ノスファルモスを掴みながら妨害しつつ再びアイコンタクトをとる。
「…わかったわ。みんな、援護を!」
「言われなくたって!」
喋れないネクサスが唯一話の通じる東郷へと何かをお願いしたようで、メフィスト相手に次々と攻撃するのではなく、足止めするように地面を攻撃したり遠距離から妨害に出る。
『…ん?』
メフィストはそれらを余裕をもって防ぐが、動きの変わった勇者たちに訝しんだ様子でネクサスを見ていた。
その本人たるネクサスはノスファルモスに投げられ、両足でしっかりと着地しながらジュネッスブルーからジュネッスへとタイプチェンジした。
そんなネクサスを、十体以上のノスファルモスが囲む。
どれかが本体で、どれかが幻影。
『ほぉ、自ら死地に飛び込むか…』
「…ッ!」
一人で立ち向かうことを選んだネクサスを見てメフィストは少々驚いたような声を出すが、援護するように放たれる東郷の銃撃を油断することなく腕を伸ばして防ぐ。
そしてその隙に走り抜けようとした友奈や夏凜、風、樹の前に立ち塞がっていた。
それに対し、友奈たちは顔を見合せ、ただ頷く。
それが狙い通りだったというように。
そんな様子に気づくことはなく、メフィストは勇者たちを妨害しながら囲まれているネクサスを見ていた。
次々と攻撃を仕掛けられ、いずれ敗北する姿を見るためか。
だがそれは---
『デェヤァ!』
覆ることになる。
ネオ融合型としてではなく、ノスファルモスの最大の能力。
正確にはファルドンの能力だが、それは複数体の幻影を召喚し、瞬時に入れ替えることが出来る点。
つまり、実質何体も居ることになる。
それも今まで以上の数が現れているのだ。
だというのに、ジュネッスにタイプチェンジし、囲まれているはずのネクサスが追い詰められるのではなく、逆に追い詰めていた。
次々と襲い掛かるノスファルモス。
様々な能力を駆使しているというのに、ネクサスの拳が、蹴りが、頭突きが、エルボーカッターが、全て当たる。
どれだけ似た動きをさせようが、同じ動きをしようが、
まるで今までとは真逆で、その状況にメフィストも勇者たちも、戦いが止まっていた。
『バカな、以前までとは動きが…。どうなっている……!? いや、まさか…!』
「あたしたちの攻撃は当たらなかったのに、紡絆の攻撃だけどうして…?」
「…! そういうことか…ッ!まったく、相変わらずとんでもないことしてるわね、あいつッ!」
「え?え?どういうこと!?」
「???」
誰も理解出来てない中、夏凜は気づき---いや、東郷とメフィストも気づいた。
ただそれは、やってのけることの方が難しいこと。
「友奈ちゃん…紡絆くん、自分に当たる直前で反応して反撃してるのよ。そんなこと、普通は出来ないわ」
「え……?」
「1コンマでもズレたら致命傷になりかねないってのにやってんのよあいつは。簡単に言えば、ほんの一瞬でも遅れたら終わりってこと!」
その言葉で、ようやく全員が理解した。
紡絆のやっていることがどれだけ危険で、どれだけ馬鹿げていて、どれだけ---異常なことかを。
『デェアァァァ!』
そして、ネクサスの蹴りがノスファルモスを勢いよく吹き飛ばし、背後のノスファルモスと入れ替わり、同時に腕を振り抜いたネクサスの攻撃が当たる直前でさらに入れ替わったノスファルモスが、異常な速度で反応したネクサスのアッパーカットに打ち上げられた。
これこそが、紡絆が考え、導き出した答え。
唯一彼ができる最前の攻略法であり、攻撃は最大の防御を体現した行動。
それを成し得ることができ、ノスファルモスの敗因となった出来事はただひとつに収束する。
単純明快で、スペースビーストという敵をジュネッスにならずに撃破したことのある彼が、
ただそれだけだが、もう少し細かく見るならば後のことを考えず、今だけを考えている彼はダメージを気にしなくていいこと。
元々紡絆という人間の反応速度が高いこと。
そして彼はとてつもなく馬鹿で、愚直で、とんでもないほどにお人好しの自己犠牲野郎だった。
それらが合わさった結果、
それに所詮は幻影。
幻影には当たらなくとも、逆を言えば幻影も紡絆を攻撃出来ない。
彼が意識を失った時も、ノスファルモスはそれでやられている。
なぜならノスファルモスは幻影と入れ替わるという強い能力があっても、攻撃する際には必ず
故に、それが---敗北となる。
『フッ!シュアっ!』
『…チィッ!』
ジュネッスからジュネッスブルーへ。
再びタイプチェンジしたネクサスが追撃に出るが、メフィストがネクサスに向かって飛ぶ。
「なっ!?しまっ---」
「まずい…!」
「速い…!」
「紡絆くん、気をつけて!」
いきなり飛んだメフィストに遅れ、唯一狙える東郷が銃弾を放つものの、メフィストは見ることなく回避し、空を飛ばれてしまえば勇者たちは追いつくことなど出来ず、追いついたメフィストが蹴りを繰り出す。
『!』
それに気づいたネクサスは蹴りを受け流して回避すると、メフィストは反転して両拳で高速の連撃を繰り返す。
ネクサスは素早い身のこなしで次々と避け、振り絞って放たれた拳を掴むと相手をしている時間はないというように下へ投げ飛ばし、すぐにノスファルモスの元へ向かう。
下の方ではメフィストが体勢を戻して無視するネクサスに再び攻撃をしかけようとしていたが、そこへ次々と攻撃が飛んできて行動を中断させられる。
「今度は間に合った…!」
「ギリギリだけどね」
「でも、これ以上は邪魔をさせる訳にはいかないわ」
「とにかくこのまま攻撃するわよ!」
そう、勇者たちだ。
彼女らは空を飛ばれるとウルトラマンのように高速機動で戦うことは出来ないし浮遊は出来ない。
満開という切り札を除いて、だが。
しかしそれでも今のメフィストなら妨害することくらいは可能で、メフィストは鬱陶しそうにしつつも動けないからか様子を見るように視線を上空へ向ける。
一方で空中で身動きの取れないノスファルモスの元へと辿り着いたネクサスだが、身動きが取れない也にノスファルモスは口から溶解液を吐き出してネクサスへと攻撃する。
『シェ---ッ!』
しかし速度重視のジュネッスブルーにその程度の足掻きが当たるはずもなく、当たらないように発射されている溶解液の周りをぐるぐると避けながら近づいていき、口を閉ざすように顎をアッパーカットで打つ。
衝撃で口を閉じる羽目になり、怯むノスファルモスをネクサスは両腕で掴むと加速。
高速で一気に下降し、地面に叩きつけるのと同時に自身は前転して立ち上がる。
『シュアッ!デアッ!』
ノスファルモスの方へ向き、フラフラしている姿を捉えながらネクサスは構えると走り、速度を活かしたまま力強く地面を蹴って跳躍すると、両足で蹴りを繰り出し、ノスファルモスを一気に吹き飛ばした。
「…!やったっ!」
「喜ぶのはまだ早いわよ。ほら、今度は封印!」
「はい!」
「…!」
風の指示で、メフィストの足止めをしていた勇者たちが一斉に散開する。
そうなるとまとめて攻撃することは出来ないが、メフィストは攻撃することなくネクサスを見て跳躍すると、近くに降り立った。
起き上がったネクサスは気配を感じると首を動かして斜め前を見るが、警戒するだけで動かない。
「…!あいつ、なんで私たちじゃなくて紡絆のところに……!?」
「それは分からないけれど……少し警戒した方がいいかもしれない。向こうは私が警戒するわ」
そのことに最初に気がついたのは夏凜で、彼女の言葉で皆怪訝そうにするが答えを持つものはおらず、ひとまずは狙撃者の東郷が見ることになった。
それよりも紡絆が危険を犯してダメージを与えたノスファルモスを封印しなければ、回復された後にまた幻影を生み出されてしまう。
それに倒してないから動くかもしれない。
だからこそ、最大戦力で行くしかなく、援護に行くことは出来なかった。
それを証明するかのように、ノスファルモスは立ち上がる。
「あれだけ受けたってのにしぶとすぎるでしょ…」
「でもあと少しですよ、きっと!」
「……それだけだといいのだけど、なんだか嫌な予感がするわ」
「そうだとしても結局はやるしかないでしょ」
安心することも出来ず、ただ胸の中で漠然としない不安を感じた東郷がそれを伝えるが、まだ万全じゃないのか幻影を生み出さないノスファルモスを封印するチャンスが今しかないのも事実。
勇者たちはそれぞれ封印するためにノスファルモスを囲む位置に付く。
『っ---デェヤッ!』
勇者たちが行動し出したのを見たネクサスは、トドメを刺すために警戒しつつも己自身も動く選択をし、一直線に駆けていく。
少しずつメフィストへと近づいていく。
しかし少しずつ接近して来るネクサスにメフィストは何もせず、構えることすらしないままただ視線だけネクサスを追い、ネクサスはメフィストの横を通り抜ける。
それでも何もされず、流石のネクサスも怪しみながらノスファルモスを目指し、トドメの準備をするために胸のコアゲージに右腕を翳し---
『ヴァ……ガハ…ッ!?』
動きを、止めた。
投影された光の弓が弾かれるように消失し、ネクサスはその場で崩れ落ちる。
片膝を着き、胸のエナジーコアを抑えていた。
同時にコアゲージが鳴り始める。
「…紡絆くん!?」
「紡絆!?」
「…!嫌な予感はこのことだったの…!?」
「…まずいっ!」
異変に気づいた勇者たちが反応して振り向く。
片膝を着いた状態から立ち上がろうとしているが、再び崩れ、また膝を着く。
突如として訪れたネクサスの異変に、勇者たちは封印するよりも向かおうとするが、メフィストが放ったであろう黒い光刃が勇者たちの動く先の地面に当たり、土埃が舞う。
『フッ---!』
『ウガッ……!』
そしてまるでこれを狙っていたかのように、メフィストが駆け、ネクサスの腹を蹴り飛ばした。
ガードすることすら出来ず、ただ吹き飛ばされながら何かにぶつかり、ネクサスの体は地面にうつ伏せに倒れる。
『フン、やはりか。焦るような戦い方をしているとは思っていたが、勇者が封印の準備をするまで動かなかったことで理解した。貴様は無理をしていた、とな』
『………グッ』
否定することも出来ず、ネクサスは起き上がろうと両手に力を入れる。
だが、起き上がることが出来ない。
つまり、ネクサスの---紡絆の限界が訪れた。
全力で戦うための手段として用意されたベータリベラシオンカプセルの効力は短く、効果が切れれば蓄積されたダメージが倍になって還ってくる。
あと少しだったとはいえ、ただでさえ通常時でも今の紡絆では変身して戦うのはかなり弱体化するほどに厳しいのに、薬が切れてしまえばこうなることは当然の帰結だった。
『……ッ!』
それでも、立ち上がらなければならない。
強引に体を動かし、ネクサスは立ち上がるが、いつ倒れてもおかしくないほどにふらふらで、前には進んでいるが呼吸も乱れている。
『ハアッ!』
『……!デ---ィッ!?』
メフィストが走りながらメフィストクローを展開する。
迎撃しようとするネクサスだが、力があまり入ってないのかあっさりと打ち負けるとクローの攻撃を受け、何発もダメージを負ってしまう。
火花が散り、今にも倒れそうなほどふらつきながら後退し、振り下ろされたクローを咄嗟に右腕で防御する。
『フンッ!』
『グァアアア!?』
精一杯な抵抗も無駄というように、メフィストは防御の上から体まで一気に切り裂いた。
あまりにものダメージに片膝を着きかけ、なんとか倒れないように維持する。
『デェヤッ!』
『うぁ……!』
そんなネクサスに対してメフィストはクローを連続で叩きつけ、前蹴りで蹴り飛ばす。
「この……ッ!」
軽く吹き飛んだのを見届け、メフィストは振り向くことなく腕を後ろに薙ぐ。
それだけで銃弾は弾かれ、メフィストはクローを戻しながらダークレイフェザーをネクサスに対して放った。
『……!』
しかしその一撃は大きく外れ、ネクサスの
両膝を着きながらダメージを減らすために腕で顔を覆っていたネクサスはすぐに振り向き、気がつく。
そこには、遺跡のオブジェクトがあることに。
そのオブジェクトには結界のように神秘色のバリアが展開されていた。
「あれは……!?」
「この世界を守るためのものってことね…」
「急がないと……ッ!?」
急いで紡絆の元へと向かう勇者たち。
そんな勇者たちの前には、数十体のノスファルモスが出現する。
そうなるとヘタに突っ込むことは出来ず、足を止めてしまうことになった。
『ハァアア!』
『グッ……ウ…ァァッ!』
また、ネクサスの方はと言うと、自身を狙おうとせずにダークレイフェザーを連発するメフィストから守ろうと両腕を広げながら遺跡を庇っていたが、上空から降り注ぐ散弾を受け、再びネクサスの体がうつ伏せに倒れる。
『シュア……』
倒れたネクサスの瞳に映るのは、こちらに来ようとしてノスファルモスの妨害を受けている勇者たちの姿。
そこへ手を伸ばすが、伸ばした手は力尽きたように落ちる。
『このまま終わらせてやる……!』
そう言ったメフィストは遺跡に手を伸ばし、ネクサスは意識はあっても動くことは出来ず、メフィストの手が遺跡へと触れ---弾かれる。
『フン……ハァアア…!』
それは予想通りだったのか、特に驚くことも無くメフィストは数回バク転して距離を離すと両腕を交差した後に左右に広げて両腕を下に大きく回した。
闇のエネルギーが纏わり、全てを終わらせるためのエネルギーがチャージされる。
それを見てもなお、ネクサスは動けなかった。
『ハアッ!』
メフィストクローを後ろ側に構えることで放たれる、メフィスト最強の必殺技。
ダークレイ・シュトローム。
ネクサスの持つオーバーレイ・シュトロームと同等の威力を誇るそれはネクサスの頭上を通り過ぎ、オブジェクトのある遺跡へと直撃する。
青く、神聖を感じられる結界が展開されることで防御されるが、ダークレイ・シュトロームの出力は途切れることなく継続し、結界とただぶつかり合う。
「結界が!? まずいわ…!」
「くっ…ここはあたしと樹が!みんなは早く紡絆の元に…!」
「そうは言っても…ねえっ! 」
「このぉぉおおおおお!」
連続で攻撃することで攻撃をさせないようにしているが、ノスファルモスは幻影と入れ替わる力のみを使っている。
ダメージを回避し、勇者をそこに縫い付けるための行動なのだろう。
敵からすれば時間を稼ぐだけでいいのだから、わざわざ攻撃する必要などないのだ。
攻撃して勇者がウルトラマンの元へ辿り着くことが、一番の問題なのだから。
『ゥ……ォオオオオ---!ウァッ……』
ピキッとガラスにヒビが入るような音が周囲に響き、ネクサスは起き上がろうとするが、やはり起き上がれずに地面に縫い付けられたかのように伏せてしまう。
しかし音はさらなる音を立て、連鎖的にヒビが入るような音が---否、発生源たる結界が目視でも分かるほどにヒビが入っていた。
当たり前だ、メフィストの光線技は継続的に流され、徐々に高めることも出来る力。
一方で遺跡の防衛装置として貼ったであろう結界は、展開されればそれで終わり。
一方的に流されていくエネルギーと、発動してしまえば力が補充されない結界であるならば勝つのは当然、光線である。
結界がどれだけ強固のものでも、同じ場所に集中攻撃されれば時間の問題であり、むしろ結界はよくもっている方だと言える。
ただ、ただそれでも---
『ハアアァァ……デェアアッ!』
限界というものはいずれ訪れるものである。
入っていたヒビが大きく広がり、ダークレイ・シュトロームがより強い火力へ引き上げられる。
そうなるとゆっくりと結界から鳴っていた音がより早く連鎖的に響くようになり、音が一層大きくなる。
『……ッァ……!?』
そしてついに、ガラスが割れたような音が響くと共に結界が弾け飛ぶように壊れる。
結界という遺跡を守るものがなくなってしまえば、撃ち続けられているダークレイ・シュトロームを防ぐ術はなく、メフィストの光線技があっさりと遺跡に直撃して爆発する。
傍で倒れていたネクサスは衝撃と爆風で吹き飛び、勇者たちは足を止めて遺跡の方角を見る。
『……フッ、貴様の---』
爆風が晴れる前に光線技が止み、メフィストは嘲笑うかのようにネクサスを見ながら両手を広げる。
『負けだ』
爆風が霧散し、勝利を確信したように告げるメフィストの言葉が周囲に木霊する。
その言葉を裏付けするように、煙が消えた場所には聳え立っていた立派な遺跡のオブジェクトは見るも無惨な姿へと変化を遂げてしまっていた。
つまり、結界が完全に壊れてしまったということになる。
「そんな……!」
「結界が…破壊されたッ…!」
「じゃあ、この世界は……」
「! みんな、アレ……!」
『……!?』
ネクサスのメタフィールドが崩壊する時と同様、光の泡が空間を立ち込める。
作られていたであろう夕焼けの遺跡の世界は徐々に割れていき、空間の光が消えていく。
その光が消える中に、映し出されるようにひとつの街並みが見えた。
「あれは讃州市……?」
「あっ、私たちの学校も…!」
呆然とした様子で、夏凜が言葉を漏らす。
その言葉を聞いた友奈も、自分たちが過ごしてきた学校が映し出されていることに気づき、指を指していた。
「ってことは、こいつらが現れるってことじゃない! この世界が消える前に、早く倒さないと…!」
「確かにネオ融合型昇華獣が現れるとなると…せめてダメージを与える手段があれば…!」
『!』
全員の頭の中に
現実世界へ出現し、過ごしてきた四国が蹂躙されてしまうという出来事を。
多くの人々が死に、完全に滅ぼされてしまう絶望の未来が過ぎってしまう。
621:名無しの転生者 ID:2rBvG8XKj
ま、まずい! ネオ融合型昇華獣はスペースビーストを取り込んでいる!
そいつが街に現れたらパニックと恐怖で人々は支配されて、手の付けられない強さなのにさらに強化されるぞ!
622:名無しの転生者 ID:XCOklH8N/
詰んだぁああああああ!結界も壊された!イッチはもう動けない!
ここで終わりか……もうどうすることも出来ねぇ……終わったな……
623:名無しの転生者 ID:yKXPIqtFB
せめてあの薬がまだ効果あれば何とかなったのに……どうすることも出来ねぇなこれ。援軍も期待できない時点でお察しだろ。ほんとよく頑張ったよイッチは……もう諦めていい。勝てねぇわこれ
624:名無しの転生者 ID:7cbiGjEBF
……おいイッチ?
お前何する気だ?もう何しても無駄なはずだろ、お前が動けない時点で勝つことは……
625:名無しの転生者 ID:DeCuJ10m5
違う、イッチは諦めてないのか…。この状況だというのに…だったら、俺らも諦めてる暇はないな。
戦ってるイッチが諦めてないんだ、俺たちは俺たちに出来ることをするしかない…!
626:名無しの転生者 ID:h4l3YH13e
嗚呼、戦ってない俺たちが諦めるのはイッチに失礼だ。
頼むぞイッチ!この状況を打開してくれ!
627:名無しの転生者 ID:AQRAoXqpv
崩壊具合からして計算すると、遺跡の世界が持つのは5秒ほどだ!
それ以上はネオ融合型昇華獣もメフィストも現実世界への存在を確定され、人々に認知されてしまう。
けどまだ間に合う…がんばれ!
もはや手遅れにしか感じられない状況でも、まだ諦めてない者が一人…いや、二人居た。
『ハァァァァ……!!』
『…!?』
その人物たちは、ウルトラマンと紡絆。
動けないはずの体に鞭を打ち、膝に手をやりながら立ち上がったネクサス。
まだ諦めてない姿にか、起き上がったことにかメフィストが驚愕する中でネクサスはアームドネクサスを交差する。
一秒。
『ハアアアアァァ……デエッ!シュアッ!』
流れるような動作で両腕を動かし、青く輝く右拳を天に突き上げる。
二秒。
細く青白い光線が天へ舞い上がり、消えた先から黄金色の粒子が降り注ぐ。
三秒、四秒。
世界が形を失い、消滅していく。遺跡の世界から現実の世界へと変化しつつある中で、黄金色の空間が消滅しかけの遺跡を覆い尽くす。
五秒。
遺跡は消滅し、世界は現実世界ではなく、神秘に満ちるメタフィールドの世界へと変異した。
---後に分かることだが、四国の雨雲が漂う真っ暗な空を、一筋の星が輝いていたという。
つまるところ、遺跡の世界が消える前にメタフィールドが全てを隠し、メタフィールドが閉じられた光が一瞬だけ映ったということだ。
神秘に満ちる世界。
コアゲージが鳴り続ける状況でのメタフィールドの展開をしたネクサスは、胸を抑えたまま敵を見据える。
何処か苦しそうで、しんどそうで、けれども引く気はないという様子だった。
「ここは…メタフィールド?紡絆がやったのね」
「現実の世界へに戻る前に隔離した…ってことね。けど、あの体じゃかなりの負担を負っているはず」
「じゃあ、より急がないとダメってことだよね…!」
見渡す限り最悪は回避されたが、あくまで時間を伸ばしただけに過ぎないことはこの場の誰もが理解していた。
『この世界を展開出来る力があるとは…だが、それもむい---ッ!?』
しかし忘れてはならない。
メフィストはファウストと違い、ダークフィールドを展開出来ることに。
結局のところメタフィールドが切れるか消える前に倒せば解決なのには変わりはなく、メフィストクローを展開したメフィストがダークフィールドに塗り替えるために地面に突き刺そうとしたが、クローが弾かれる。
「紡絆くんのお陰で助かったみたいだけれど…それ以上はやらせるわけにはいかないわ」
『シュアァッ!』
どうやら上手いこと東郷が射撃で防いだらしく、ネクサスは隙を逃さず走り出し、跳躍。
メフィストのクローにキックを繰り出し、防御したメフィストが後退する。
片手を着きながら着地したネクサスは即座に追撃に出て、突如として現れるノスファルモスの幻影に囲まれる。
『…!?』
「紡絆くんっ!」
『……!』
ハッと振り向き、ネクサスは迷うことなくパーティクルフェザーを正面に放つ。
当然の如く回避され、左横のノスファルモスが爪を振り下ろす。
反応が遅れ、回避不能な一撃にネクサスはダメージを負う---ことなく、ズドンッという重い一撃が響き、ノスファルモスの体が引き離される。
「あ…当たったッ!」
「はぁぁ…やっと成功したわね…まったく苦戦させられたわ」
「ほんと、二人でも難しいってのに---って、友奈!後ろ!」
「へ?」
どうやら幻影全てに残る四人が一斉に攻撃したようで、何度もそれをしていたがようやく成功した、ということだろう。
だがようやくダメージを与えれたことに喜ぶ暇もなく、出現した正面の幻影と入れ替わったノスファルモスが友奈に対して踏み潰そうとしたが、胸元から火花を散らせながら怯む。
『……シェア』
原因は、ネクサスのパーティクルフェザー。
いくらダメージを負っていても、ここはどこか。
メタフィールドという隔離空間であり、最大の特徴は闇の力とスペースビーストの力を弱める能力、ウルトラマンと勇者の力を強化する作用があるのだ。
その隙に友奈は離脱し、それを見届けたネクサスはメフィストの方へ向こうとするが、既に居た場所からは消えていた。
『ハアッ!』
『ッ!』
ネクサスが位置を探ろうとしていたところで、左から跳んできたメフィストにワンテンポ遅れ、咄嗟に片腕を立てることで防ぐが、後退した。
ただ違うところがあるとすれば---
『ウッ……。グァ…ッ……!』
防御したというのに、ネクサスがふらついている点。
たった一撃を防御しただけでこれなのだ。
もしまともに大ダメージとなるような攻撃を受ければ、どうなるか。
「こっちは任せて!」
「そうね、もう一度やればいいだけよ…ッ!」
友奈と夏凜が同時に飛び出す。
幻影との入れ替わる能力だけではなく口から溶解液やら破壊光線を背部や鼻から放つが機動力の高い二人には当たることなく、拳と刀が同時に襲いかかる。
バカの一つ覚えのようにノスファルモスは幻影を生み出し、攻撃を避けた。
「そこっ!」
「……!」
友奈と夏凜の攻撃は避けたが、避けた先に大剣と鋭利な形を作られたワイヤーがノスファルモスを裂き、反撃に振るった爪はあっさりと回避される。
当たらなかったはずの攻撃が当たるようになったからかどこか焦っているようにも見えるノスファルモスが距離を離す。
友奈たちは勢いづいているチャンスを活かすために距離を縮めようとするが、彼女たちが向かう先に巨大な影が地面に生まれた。
慌てて咄嗟に止まることには成功するが影はすぐに落ち、轟音を立てた。
「うわ、なによ!?」
「新手---?いや、まさか……!」
『ァグ……ハァッ、ハァ……!』
何かが落ちてきた際の衝撃によって起こった風圧で顔を覆っていた友奈たちは、問題が無くなるとすぐに状況を理解するために目を向けた。
そこには悶えつつも早く戻るために背中を起こそうと足掻いているネクサスの姿があって、銃撃と爆発の音が何度も響いていた。
「この音…東郷さん!」
「ちょっ、友奈!?」
「あぁもう! 紡絆立てる!?立てるなら友奈をお願い!あいつはあたしらが引き受けるわ!」
『…デヤ…!』
ネクサスが飛ばされてきたことから、この場に唯一居ない人物である東郷の姿を思い浮かべた友奈は彼女を援護するために向かい、気合いで体を起こすネクサスはふらつきながらも走ることはせず、数cm浮いて飛んで行く。
しかし飛行速度すらも落ちていて、飛行していても安定しておらず、それでもネクサスは急ぐ。
『ハッ!』
「……ッ!」
片手から光刃を飛ばすメフィストと、逃げながら銃を撃っていく東郷。
食らってもそれほどダメージがないメフィストと一発でも当たれば精霊が護ってくれるとはいえ、大ダメージは間違いない一撃。
東郷は勇者の中でも機動力が低いのもあって不利だが、上手いこと戦えているのは彼女の思考能力が高いお陰だろうか。
「く……しまっ…ッ!」
それでもいずれは崩れ去るもので、足場が崩された東郷は咄嗟に後ろへ跳ぶが、メフィストは既に動いていた。
超人らしい速度で迫り、クローを振り下ろしている。
すぐに手に持つ散弾銃を放とうとするが、間違いなくクローの方が速い。
東郷は次に来るであろう痛みに堪えるように唇を噛み締め---
「おりゃあああぁぁぁ!」
『ウオッ……!?』
弾丸のような速度で跳んできた友奈がクローごとメフィストをノックバックさせる。
『デェヤアァァ!』
『グアァァ!?』
さらに、弾かれるように後ろへ下がったメフィストに高速で飛行するネクサスが頭突きを喰らわせ、吹き飛ばしながら自身も派手に地面に落ちる。
「友奈ちゃん!?どうして…」
「紡絆くんに投げてもらったんだ。間に合って良かった…ってそうだ、紡絆くんは!?」
「紡絆くんならそこに居るわ。……無理して来たのね、ありがとう」
メフィストを後退させた一撃はネクサスが投げた速度を生かしたものらしく、投げた本人たるネクサスは胸を抑えながら周囲を見渡し、東郷を見てほっとしたように息を吐く動作をした後に慌てて横へ転がる。
『……シュア!?』
『チィッ……!ハァァ!』
ネクサスが転がる前に居た位置にクローが突き刺さり、メフィストがクローを巻き上げるように引き抜くと地面が抉れ、衝撃波と共に抉れた地面が襲いかかる。
それらを不安定な態勢のまま反応したネクサスがサークルシールドを貼ることで防ぐが、解除した瞬間には左横からクローが横振りで迫ってきていた。
『ぐぁあ!?』
「……!」
またしても反応が遅れ、攻撃を受けて転ばされるネクサスは次々に迫るメフィストの攻撃を自ら転がることで避けていく。
ギリギリで連続攻撃を避けているが、東郷はそのネクサス---よりかは紡絆の動きにほんの少しの違和感を覚えた。
けれども違和感は所詮確信を持ったわけじゃないため、正体が掴めない何かに引っ掛かりを覚えながら狙撃銃でメフィストを撃つと、銃弾はネクサスの頭上を通り過ぎ、メフィストは身を反らして避ける。
東郷は避けられたことに関して特に驚くことも無く、それが狙い通りだったかのように次々とわざと当たらない銃撃を行う。
当然ダメージがあまりないとはいえ、意味もなく何発も食らうのはよろしくないため避けるメフィストには隙が出来るわけで、ネクサスは転がりながら手を地面について飛び起きると、東郷の銃弾を壊すためにもダメージを与えるためにもメフィストが突き出してきたであろうクローの勢いをそのままにネクサスが受け流すように背後へ投げ飛ばす。
力の流れを殺すことなく活かされ、メフィストの体がネクサスから大きく離れる。
ようやく一息付けるかといったところで、何処からか現れたのかノスファルモスがネクサスの左横に現れ、ネクサスはあっさりとハサミ型の腕を腹に受け、もう片方の腕で背中を叩かれる。
「なっ…!さっきまでと違って能力が高まってるってわけ!?」
「こいつ…あたしらを無視して紡絆のところに…!」
夏凜と風、樹が相手していたはずのノスファルモスが霧のように消滅し、ネクサスの真横に出現した。
間違いなく、成長速度が上がっている証拠。
否、正確には
留まることを知らない、強引に強さを引き上げられた未完成体である星座型のバーテックスが、まさしく完成型の頂点に相応しい者に至ろうとしている進化の過程。
「紫色の…光?」
「…!スペースビーストを強化する、アンノウンハンド…!」
ふと見上げた空。
ほんの一瞬だがメタフィールドに干渉し、紫色の光が空に消えていた。
過去にも起きたことだが、友奈と東郷はノスファルモスが急激な成長速度を見せた理由を理解する。
『グアッ…デヤァ!?』
何よりも厄介なのが、霧を使うことで幻影の位置を惑わせ、一種のテレポートに近い速度でネクサスの
「これじゃ攻撃出来ないじゃない…!」
「どうしたら…!」
動こうにも相手は消えるように動き、下手な攻撃はネクサスを巻き込む。
さらに戻ってきたメフィストが同時に攻撃をしかけ、ネクサスはただ一方的に嬲られるだけになってしまっている。
もはや前も後ろも右も左も上も関係なく、ぐらつくネクサスは反応出来ても間に合わず、コアゲージが早鐘のように点滅を鳴らしてメタフィールドが崩壊の兆しを見せ始める。
「……!やっぱり気のせいじゃなかったッ!」
「え、夏凜ちゃん!?」
「こうなったら行くわよ!」
何かに気がついた夏凜が駆け出す。
慌てて友奈や風、樹も夏凜を追うが、夏凜の方が圧倒的に早い。
目指すはネクサスの元で、そのネクサスはメフィストの下からの一撃を受けて反転し、うつ伏せに倒れていた。
再び霧を発生させて消えるノスファルモスだが、夏凜は消えたのと同時に急に方向を変えた。
「……!」
背後で覗いていた東郷が、夏凜の動きを見て確信が大きくなる。
スコープで捉えていたのをメフィストからネクサスに変え、東郷は迷うことなくトリガーを引いた。
『……ンッ!?』
後ろを向いていたメフィストを通り抜け、一直線にネクサスに向かう銃弾。
明らかな狙いミスにしか見えない一撃だというのに、違和感を覚えたメフィストが咄嗟に振り向いて、すぐに銃弾の方へ視線を移す。
銃弾は止まることなく加速し、変わらずネクサスへ向かう。
「え、このままじゃ直撃するんじゃあ…!?」
「!?」
「---大丈夫ですッ!東郷さんはきっと考えがあるはずですから…私たちにやれることは真っ直ぐに!」
東郷の狙いが分からず流石に驚く風と樹だが、友奈は信じて夏凜を追う。
(……!そう、東郷も気づいたってわけ。私は紡絆と組手したから気づけたけど、大したものだわ。
だったら私に出来ることは、信じるだけ、か。ここまでやってあげるんだから、絶対勝ってもらうわよ、紡絆……!)
もう少しで予測地点に辿り着く。
しかし夏凜は自身の目の前をひとつの銃弾が通り抜けたのを見て、改めて狙撃手の目と腕、何よりも察しの良さに舌を巻く。
『……ヘエッ!?』
そして狙われていることを知らなかった本人たるネクサスはメタフィールドが崩壊寸前になりかけているのとコアゲージの速度が凄まじいことになっているのを感じながら何とか顔を上げると、銃弾が間近にあることに驚く。
あと数秒、いや三秒も経たずに直撃するだろう。
(……確信があったわけじゃなかったけれど、見る限り紡絆くんの反応速度が
それがどうしてかは分からない。調べるにも情報が足りない…でも私はあなたのことを守るって、勇者になった時に決めたから。
今は私を信じて、紡絆くん…!)
紡絆の身に東郷は何があったのかは知らない。
なぜ反応が遅いのかも知らない。
それでも、思いを伝えるように東郷の目は真っ直ぐに見ていて、顔を上げたお陰で東郷の姿が見える紡絆は、ネクサスは、右腕のアローアームドネクサスを輝かせていた。
そんなネクサスに迫る銃弾---さらに変わることなくうつ伏せに倒れたまま動かないネクサスの
鋭い爪を振り上げながら姿を現すノスファルモスは死を引き寄せる死神のようにも見え、事実としてこのあとにネクサスの体は貫かれるに違いない。
それでも、紡絆は信じたのだ。
決して一人では出来ず、独りでは起こせない。
奇跡にも等しく、絶望を覆せる逆転の、最後の一手を掴むために。勝利を、掴むために。
そしてついに爪が振り下ろされ---
確信があったのだろう。
東郷がスコープを覗くのをやめ、皆の元へ急ぐ。
それを証明するかのようにネクサスに突き刺さる寸前、弾丸がネクサスをギリギリのところで通過し、ノスファルモスの爪を弾いた。
予測して放たれた、賭けにも近い一撃。
いや、『賭け』というのは失礼か。間違いなく『確信』のあった一撃。
ノスファルモスは何度も何度も、ネクサスの左横から出現していた。
ネクサスの弱点を知って、『確実』を求めるからこその失態。
反応が遅れる左からの攻撃はネクサスに有効だとノスファルモスは学習してしまっているのだ。
確かにノスファルモスの中に組み込まれている、ファルドンの幻影を生み出し、入れ替わる力は強力だ。
はっきり言って、紡絆や勇者たちが戦ってきた中でも、『最強』と言ってもいい。
何よりもただでさえ学習能力が高いスペースビーストを超える融合型をさらに超えるネオ融合型昇華獣の成長速度はめざましく高く、彼らは
それが、敗因になるということを知らず。
「そこぉおおおおおお!」
ノスファルモスが幻影を生み出すよりも早く、既に接近していた夏凜が両手に持つふたつの刀でノスファルモスの目を斬り裂く。
生物としての本能か、どれだけ強固な肉体を持っても弱点である目を斬られ、視界が閉ざされたノスファルモスが悲鳴を挙げた。
「友奈!」
「任せて!」
空中を自由に動けない夏凜は追い打ちが出来ない。
しかし後続に居た友奈が跳び出し、力強く握られた拳がノスファルモスの胸を打つ。
『シェッ!シュアアァ!』
ほんの数ミリだが後退させられ、輝くアローアームドネクサスをコアゲージに翳したネクサスが、振り向きざまにノスファルモスの体を下方から上方を光の剣、シュトロームソードで切り傷を残す。
片膝を着いた状態から振り上げられた、光の剣。ノスファルモスには上下に裂かれた一筋の線が残っている。
ただトドメにはあまりにも浅く、届かず。視界を奪われ、斬られてもなお、ノスファルモスが最期の抵抗と言わんばかりに道ズレ覚悟で幻影を数百を超える数を生み出した。
相手も限界を超える、火事場の馬鹿力と見るべきか。
『クッ……ハァッ!ハァァァ……!』
『フッ!? デヤッ、ハアアアァァァ!』
予想外の出来事に驚愕していたメフィストが状況を理解し、ハッと意識を取り戻した彼はこのままでは倒されると判断したのかダークレイ・シュトロームを放つために両腕を交差して引き離し、闇のエネルギーを纏い出す。
メフィストの動きに気づいたネクサスはシュトロームソードを出したまま 両手で握り拳を胸元で作り、エナジーコアが輝く。
エナジーコアから流れるエネルギーは左拳へ収束し、青い輝きが纏われる。
さらに右腕のシュトロームソードには泡立つメタフィールド内の光が変換されたのか同じ黄金色の光が纏われ、勢いよく両腕を振り下ろしたネクサスは左拳を真っ直ぐ天へ突き上げる。
フェーズシフトウェーブと同じ青い光線が天へ突き、雷雲がメタフィールド上空を覆い尽くす。
『な……ッ!?』
「こ、これは……」
「雷雲!?まさか……!」
『ハァァァ…ハッ!デェアァァァァ!』
雷雲を発生させる、想像を遥か斜め上へ突っ切る衝撃にも程がある出来事に勇者が、メフィストが、この場の全員が驚く。
まるで、現実世界の雷雲を持ってきたかのように。
そして、ネクサスは体を左腕と一緒に右側へと捻り、体を起こすのと同時に左腕を振り下ろして今度は黄金色の光を纏うシュトロームソードを真っ直ぐに天へ掲げる。
黄金色の光が雷雲を貫き、雷雲から凄まじい轟音共に辺り一帯へ青い雷が降り注いだ。
それらの雷は数百をも超えるノスファルモスを
無事なのは、シュトロームソードを天へ突き上げるネクサスとピンポイントで当たることも掠ることすらなかった勇者たちのみ。
「か、雷……?」
「流石にそれは予想出来なかったわ、紡絆くん…」
「む、無茶苦茶にも程があるでしょ、バカ!」
「!」
「い、いやほんとそうだわ……って、それよりも勇者部一同、封印開始!」
「は、はい!」
「そうでした…急ぎましょう!」
「ええ、これで終わりよ!」
とんでもないことをやってのけたネクサスの姿に勇者の気持ちは無茶苦茶だという夏凜の言葉に同感のひとつだったが、全ての幻影を焼き払っただけでノスファルモスは倒したとは言えず、雷撃によるダメージで倒れただけ。
トドメを刺すべく、ノスファルモスを囲んだ友奈たちはついに封印の儀を開始した。
封印の儀に抗うノスファルモスだが、足掻いたのは一瞬で刹那にも満たぬ時間で御魂を吐き出す。
「今度こそ……って回転!?」
「…!弾かれる……!」
「やっとここまで来たってのに!」
「無駄に逃げ足も早い!樹のワイヤーで止めようにも……!」
「……!」
ドリルのように凄まじい回転をし、東郷の銃弾を弾き、夏凜の刀を弾き、風の大剣は質量的な問題か少量の霧を発生させて回避する。
樹のワイヤーに関しては相性が最悪で、纏わり着いた瞬間には次々と切られ、無理というように彼女は首を横に振っていた。
回転を止めようにも友奈の拳は当たれば止まるだろうが、火花を散らすほどの回転をする御魂を殴るのは不可能だろう。
さらにネクサスは先程の雷撃でのエネルギー消費で打つ手はない---そう思われたが、帯電するような音が何処からか聞こえる。
『シェアアアァァ……』
その音は、ネクサスから聞こえていた。
突き上げたままのシュトロームソードの先には展開されたであろう黄金色の竜巻、ネクサスハリケーンが存在する。
そこへ雷雲から黄金色の稲妻が降り注ぎ、雷雲が消失する。
元のメタフィールドの空へと戻るが、シュトロームソードにはさながら巨大な竜巻状の高エネルギー体のプラズマが纏われていた。
「紡絆!?何する気……!?」
「……!逃げ道を塞ぎましょう!」
「それなら私にも!」
「!」
「ったく…仕方がないわね!」
危機を感じたのか逃げようとする御魂を、何重にも重ねられたワイヤーの網が巨大な壁を形成し、その前には巨大な壁として大剣が添えられる。
さらに銃弾と刀、メタフィールド内に存在する砕かれた岩の欠片を投擲され、動こうにも高速回転する御魂の勢いが僅かに止められ、ノックバックさせられるため脱出不可能な空間を生み出される。
「あとは頼んだわよ!」
「紡絆くん、お願い!」
「やっちゃいなさい!」
「紡絆くん……!」
「……!」
今出来る最大のことをやり、友奈たち勇者は紡絆に全てを託す。
彼ならやってくれる、そう信じて行われた行動に報いるためにも、決着をつけるためにも、今残る全てのエネルギーを空間の維持に回し、気合いで変身を保つ。
『ハアアァァ---デエッ!デェアアアアッ!』
竜巻状のプラズマを纏うシュトロームソードを空中で回し、物凄い風圧を撒き散らしながら竜巻状の閃光は圧縮され、円盤型へと変化していく。
いわゆる、巨大な光輪と呼ばれる形を作り出したネクサスは御魂を見据え、一気にシュトロームソードを力強く振り下ろした。
同時に巨大な大剣が御魂をネクサスの方へと吹き飛ばし、プラズマを纏う光輪が地面を削り、燃やし帯電させながら御魂へと接近する。
高速回転する御魂相手に大剣では砕くには至らない。
しかしネクサスの今持ち売る全力を尽くして放たれた光輪を考え、さらに高速回転するが故に速度が上がるということを考えれば当然---御魂は、真っ二つに斬り裂かれる。
虹色の光が天へと還り、御魂が消滅する。
「やった……?」
「まだよ」
「ええ、敵はまだ……」
「向こうも消耗、こっちも消耗といったところね……」
喜ぶのは、まだ早い。
もうメタフィールドが限界に達しようとしているのかあちこちで現実世界が見えているが、ネオ融合型昇華獣が消滅してもメフィストが生き残っていた。
あの雷を受けてもなお、メフィストは満身創痍で立っていた。
『……シュア』
コアゲージが停止寸前になりかけているが、ネクサスはメフィストを警戒する。
『チィ……貴様との決着は預ける。覚えていろ、次のゲームで貴様は深い絶望に陥る。なぜならもう貴様らの世界を守るものがないだからな……!』
『……!』
メフィストの体が薄まり、直視せざる得ない現実を伝えながらそれだけを言い残して消える。
その場にはもう、ネクサスと勇者以外気配はなく、消えかけていたはずの
それでも、ただそれでも、激戦を乗り越えられたのは確かで、ネクサスの体が輝くと青い光が弾け、アンファンスへと強制的に戻されてメタフィールドも完全に崩壊する。
現実世界への帰還が成される前にネクサスは友奈たちを見て、笑顔を浮かべる姿を見ると幻影のように消失する。
小さくなっていく光、そして勇者たちを光が覆い尽くし、僅かに輝く遺跡の世界は完全に消滅した。
最期に残された光。
六つの光が紡絆が遺跡へ召喚される前の砂浜へ現れ、粒子が流れて散っていく。
「はぁぁ……物凄い疲れたわね」
「流石に私も疲れたわ」
「でも無事に終わってよかったぁ」
「無事……と言っていいのかしら」
『遺跡の結界が……』
皆が疲労感を隠せてないが、終わったからといって楽観視できるものではなく、最後に言い残された言葉が思い返させる。
確かにノスファルモスは倒せた。
倒せたが、同時にスペースビーストから現実世界の侵入を防いでいたであろう結界は破壊された。
深い絶望とはなんなのか。
今回の戦い、果たして勝ちと言っていいのか、大丈夫なのか、そういった不安が浮かび上がる---。
「だい……じょうぶ。大丈夫! 未来なんて誰にも分からないんだ、それよりもみんなのお陰で勝てた。じゃあ今は勝ったという事実さえあればいいだろ?誰かの日常が壊されることも、笑顔が壊されることもなかったんだからさ、今を守った。明日のことは明日考えればいい!」
そんな不安を、たった一人の男が簡単に消し去る。
曇っていたはずの空から僅かな光が降り注ぎ、月の光が海と砂浜を照らす。
ボロボロだが笑顔を浮かべる紡絆の姿。
その姿は何処までも前向きで、不安だった心に不思議と入り込む。
それが先延ばしにするだけだとしても、彼の言葉だけでなんとかなる気がしてしまうのだ。
そして同時に、改めて勝利したという実感が湧いてきた。
「あいっかわらずブレないわねぇ……」
「そうですね、流石と言うべきか……」
「うんうん、紡絆くんの言う通りだよね。今考えても分からないし!」
「俺は明日考えても分からないけどな!」
「いや、そこ言った本人が自信満々に言っちゃダメでしょ……」
『そこが紡絆先輩らしいです』
「なんかバカにされてるような……」
本当にさっきまでの雰囲気は何処へやら。
あっさりと空気が塗り替えられ、それぞれ帰路に着くために動き出す。
「さて、帰りましょ」
「わっ、確かにもうこんな時間だ!」
「まぁ、そりゃそうよね。そもそも遅かったんだから」
『明日も早いですしね』
「ちょ、ちょっ、まっ……いいっ!?あー!いたい、全身ものすごく痛くて動けないんですけどー!」
しかしみんなが話しながら動く中、紡絆一人だけ一歩動くと砂浜に顔面から突っ込んでいた。
ベータリベラシオンカプセルの後遺症とメタフィールド、大技の疲労。治ってない怪我のせいで動けない彼は一人では動けなかった。
「あ、じゃあ手を貸すね!」
「い、いたたたたた!そ、それは嬉しいけど引っ張らないでくれ…死ぬっ!!」
「ええっ!?死んだらダメだよ!」
「すげー痛いんだもん……」
「ああもう、面倒臭いわね。ほら!」
「ぎゃああぁあああ!?」
紡絆に気づいた友奈が手を引っ張るが、泣きたくなるような痛みに懇願する。
しかし容赦なく夏凜に引っ張られて紡絆は鳴いた。
それはもう悲鳴を上げたが、なんだかんだ夏凜は肩を貸し、紡絆は皆の手を借りながら動き出せた。
空は暗くとも、彼ら彼女たちの世界は明るく、何があったとしても時は止まらない。
遺跡の結界が破壊され、何があるかは分からない。
もしかしたら明日、もっと大変なことが起きるかもしれない。
そんな考えは皆の胸の中にあったが、今は、今だけはこの日常を大切にしてもいいだろう。
そう、明日が分からなくとも今と明日を守ることは出来た。
あのネオ融合型昇華獣、ノスファルモスに勝ったのだ。
勝つことが出来たのだ。今は、それだけでいいだろう。
(……紡絆くん。貴方はもしかして私たちと同じように……。いいえ、それ以前の問題。紡絆くんに関しては大赦はやっぱり何かを隠してるに違いない…色々と謎が多いんだもの。どうして勇者システムもないのに樹海に入れるのか、ウルトラマンになれたのか……。
色々と調べる必要が…あるわね)
---隣に歩んで笑顔で話しかけてくる紡絆の言葉を聞きながら、東郷は何かを半ば確信し、行動に移す決心をしたようだが。
969:名無しの転生者 ID:wTQ9TgJJD
やっぱりアレは結界だったっぽいな…。何とか今回は凌いだが……
970:名無しの転生者 ID:n37QtvKMk
ああ、イッチが完全に限界だ。もし次ネオ融合型昇華獣が現れれば……
971:名無しの転生者 ID:YMfuWR/Yb
終わり、か…しかも現実世界に干渉が可能となってしまった。
まずい、不味すぎるぞ。後遺症の影響が出てしまってるせいでイッチがまともに動くことすら危うくなってきてやがる。既に運動キツいって言ってたのに、歩くのだけで精一杯っぽいんだよな
972:名無しの転生者 ID:bDDw2GesH
これどうするんだ…イッチが誰かに光を託すしか選択肢がないぞ。何か手は無いのかよ
973:名無しの転生者 ID:HxHLGNRYu
そう言われてもなぁ…正直詰んでるとしか。あの状態でメタフィールドもよく展開出来たなって感じだったし…
974:情報ニキ ID:JoUHou2in
可能性は三つ。
一つ目はイッチが神樹様に取り込まれる(?)
二つ目はノア様に覚醒
三つ目は割とやってる謎現象…奇跡に賭ける。
ただ上二つ、特に一番上は間違いなくイッチは死ぬ。二つ目は難しい。
まあ、奇跡を呼び起こすしかないね。
でもイッチ自体が割と俺らも知らない未知の進化してるからなあ…わんちゃんそれに賭けたら何とかなるかもしれん。その場合、イッチは人間じゃなくなりそうだが。
正直人間として生きるなら一体化は無理だし、そもそもあのノア様が融合するかって言われると微妙というか、ほんへザ・ワンの言葉からしてイッチの人格が消滅しそうな感じはあるからねぇ…仮にそうじゃなくても、イッチの状態的に消滅しそう
975:名無しの転生者 ID:nRe1iYP81
となると奇跡か。奇跡…奇跡ねぇ……戦闘力的にはやっぱり前世で何かあったレベルっぽいが、今の肉体じゃ関係ねぇしな。
いや、全く知らん能力使ってるけど。
ネクサスハリケーンを応用して光輪を作ったり炎パンチや氷ビームだったりよく分からん雷使ったり癒しの力っぽい能力で地面修復したり…
976:名無しの転生者 ID:WM6H9MBJK
イッチが一体何したって言うんだ……
977:名無しの転生者 ID:NbCPkJSo+
ここまで狙われてたりすると記憶喪失前のイッチがガチめに気になってくる…未だに樹海に入れる理由が謎だし、ウルトラマンだからって言われたら結局おしまいなんだけどさ
978:名無しの転生者 ID:PiX84w+OM
明らかにスペースビーストもバーテックスもザギも狙ってるしなぁ…あ、神樹様もちょっとやったか?
でもまあイッチが厄介(コンマ差で殴り返して幻影との入れ替わりを破ったり未知の力使う人間)だから総攻撃するのも致し方ないというか…
979:名無しの転生者 ID:BZavjJpnH
誰を信じればいいんだよこれ
980:名無しの転生者 ID:8M7K91GRO
やはりノア様だけが希望
981:名無しの転生者 ID:IMatUeGcw
イレイズに頼ろうにも知識面しか頼れないしな。うーん…どうにかしてイッチの肉体を回復させれたらな
982:名無しの転生者 ID:ISMAS8/ES
何はともあれ、最終決戦は近そうだな…勇者たちの後遺症も治らないし…。
やっぱり…モチーフが花だから、花は散るもの…。
983:名無しの転生者 ID:gppPiUnET
……色々とヤバそうだな、イッチのメンタルが強いのが救いか。ただこのままじゃ妹ちゃんも壊れる…てか壊れかけてる。依存具合からしてヤンデレ化しても不思議じゃないし、なんか夏凜ちゃんと東郷さんはイッチに違和感覚えてるっぽいんだよなぁ…。
左目やイッチの体に関してバレるの多分近いだろうし、ノア様助けて。もうイッチがガチで死ぬ寸前まで来てっから、助けて。
神樹様すらもう信頼出来ない時点で俺らの希望はノア様だけなんや……
---窓から見える外の空を見れば雨雲は去り、夜の世界となっていた。
ここはある病院。
そこには、痛々しくも包帯で巻かれた二人の少女が搬入されている場所。
ベットに寝転んだ状態で、金髪の少女が息を吐く。
「こんなものかな〜」
「終わったのか?」
「うん、ちょっとしか動かないからやっぱり書きづらいんよ」
「そりゃそうだよ」
そんな少女が話すのは、隣のベットに寝転ばされている、金髪の少女よりちょっとマシ、としか言えないくらいの同じく包帯が巻かれている銀髪の少女。
「そういえば、もうそろそろって言ってたよね?」
「ああ、そういや調べてもらってたんだっけ…」
「個人的にだけど気になることもあるから---なんて言ってたら、来たみたいだね」
これほど酷い怪我を負うほどのことがあったのかと事情の知らない者が居たら聞きたくなりそうな少女二人だが、彼女たちが何かを話し合っていると病室にノックする音が響く。
「入って大丈夫だよ」
「……失礼致します」
「うん。それで、その様子だと---調べられたんだ」
病室に入ってきたのは仮面を被った神官らしき女性。
彼女は病室に入っても慣れているのか驚くことすらなく、唯一何かがあるとすれば胸元に抱えられた一冊の黒いファイルだろう。
無駄話はする気がないのか、それを見た金髪の少女の目が鋭くなる。
「はい。全て用意出来たわけではありませんが、こちらが
神官の女性から渡される黒いファイルには、一人の名前が載っている。
それを受け取った金髪の少女は一度見て、神官の女性に視線を移した。
「へぇ〜それがウルトラマンに関する情報かあ」
「そうみたいだね〜。それにしては随分時間かかったみたいだけど?」
「上層部しか閲覧出来ない機密情報をバレずに調べるのに少々時間がかかりまして……
銀髪の少女が好奇心を表に出してファイルを見る。
金髪の少女は銀髪の少女に返事をしつつ、笑顔を浮かべて問いかける。
ただ包帯に巻かれてるだけで非力そうな少女だというのに凄まじい圧を感じさせ、神官の女性は淡々と述べる。
恐怖を感じる相手に、これほど忠実に尽くすのもおかしな話だ。
どちらかと言えば、返しきれない恩を抱いているというべきか。
「ふぅん…その人には感謝しなきゃだね。大赦の機密情報を知れるほどの人物というのは引っかかるけど」
「なんか怪しくないか?」
「…見たこともないお方でしたので私もそう思いましたが、情報は確かだと思います。私が知る彼の情報は全て正しかったので」
上層部の人間なのか、上層部の人間が裏で流しているのか、それとも全く関係なく、知れる何らかの手段を持っているのか。
それは今の彼女たちには分からないが、金髪の少女は神官の女性に一定の信頼を置いているのか納得したように頷く。
「考えても仕方がないかなー。それよりも、今はこっちだよ」
そう言って金髪の少女は唯一動く片手でゆっくりとだが、開いたファイルを手に持つ。
そこに書かれている名前は、
「継受紡絆…紡絆くん。紡絆くん、かぁ」
「いい名前だな」
「うん」
反覆するように金髪の少女が名前を呼び、ファイルに目を通していく。
ファイルの中には複数枚の紙があり、それは
生まれた年から、何をして、どう生きて、何が起きたのか。
何の変哲もない、ちょっと変わった程度のお人好しの少年の経歴。
いや、ちょっとでは済まないお人好しの少年が正しかった。
「……凄いぎっしりだねー」
「どうやら上層部の方も過去を詳しく調べていたようで。人に寄りますが、彼は利用すれば勇者を犠牲にせずに済み、なおかつたった一人の犠牲で済む立派な
「………」
それを聞いた金髪の少女はニコニコとした笑顔を浮かべているが、それだけじゃない。
間違いなく怒っている---いや、銀髪の少女からも間違いなく
特に前者の方が笑顔なぶん、凄まじく怖いだろう。
流石に神官の女性も冷や汗を掻くが、それでも彼女は特に態度が変わることは無い。
「あぁ、ごめんね、八つ当たりしちゃったかな」
「いえ……気持ちは分かります」
「…あたしもついやっちゃったな。で、結局何が書かれてるんだ?」
「うーん…あっ」
過去にでも行ってきたのかと疑いたくなるレベルでぎっしりというか、ストーカーなのかと疑いたくなるくらい日常での写真も含めたくさんあり、普通なら引くレベルというかドン引きレベルなのだが、金髪の少女は関係ないところは後で読むつもりなようで飛ばし、気になる情報がないか見ていく。
そうしてページを進めていくと、明らかに赤色の紙というわざわざ紙の色を変えるという異質なページがあり、目が止まる。
「……!これって…」
「どれだ…って、これ…本当なのか?」
「………ええ、機密情報のところです」
流石に二人も驚いたように目を開き、同時に怒りと呆れが半分ずつ内側から浮かび上がってくる。
「…こんな情報まで知ってて、今までずっと隠してきたんだね」
「………」
ため息を吐き、金髪の少女は次々とページを読み進めていく。
そこには、すでに紡絆がウルトラマンとして戦い始めた歴史のページが全て残っていた。
「うん、色々と知れたよ。ウルトラマンの名前も姿も、
それ以外にもこの中に気になる情報はまだまだあるけど、
今はそれより本人にも誰にも聞けない
「これは……」
「…………」
金髪の少女が開いたファイルの中にある、
それは機密情報として扱われるだけあって、上層部しか知り得ないものなのだろう。
なぜならそれは、
その情報とは---
一般市民どころか、
事件の概要が詳しく書かれており、それだけで驚くには値する内容だが、挟まれていたであろうもう一枚の紙には被災者リストがある。
その中にはかなりの名前があり、このファイルに情報が纏められている本人である
改めてファイルの方を見れば、五年前のある日、災害に見舞われた彼は小学生の身でありながら皆が逃げ惑う中、命の危険を犯してまで被災場で人助けに勤しむという異常な行動を取っていたようだ。
そんな彼は人々を逃がしていたが、ある時■■■■■■■■■■■■■で意識不明の重体に陥る。
落ち着いた頃、病院へ搬送された彼は生きているのか死んでいるのか分からない状態で不明と診断され、突如として症状が回復、意識を取り戻したと。
だがその文書の中にはひとつ、おかしな点があった。
誰かが故意的に消したかのように、真っ黒に染まっている部分が二つあるのだ。
ひとつはさっきの意識不明に陥った原因であろう部分。
残るもうひとつは、唯一見える前の文には、表にはなっていないが大赦に所属する科学関係者と医療関係者が調べた結果、現在の医療技術では治療が不可能に近いで状態あり、正確な症状を識別することは叶わない。
診断の結果、
最も近い状態としては仮死状態に近いが心臓が動いてないため仮死状態ではなく、治療が不可能なことから
そのことから、消された部分にはそう判断されたその理由か詳細な情報かそれは分からないが、丸々一ページ染まっているので様々なものが書かれているのだろう。
それ以外は何も分からず、予想するためのヒントもどこにもない。
しかし考えても無駄なのもあるが、問題ではあるが今の問題は紡絆のことではない。
そのような事件があったのに、
そんな大災害が四国で起きた記述もなければ、大きな事件になったはずなのに誰も覚えていないのはおかしい。
何よりも、大きな災害が過去にあったことを上層部の人間だけが知っていることだろう。
何故上層部は知っているのか。そしてこの情報を彼女たちに提供した者は何者なのか。これらの情報は全て正しいのか。
謎は深まるばかりだか、ここで一番謎が深まった存在は間違いなく、継受紡絆という人間だった---
▼まとめ
○継受紡絆
少しでもゲージを増やさせないため出来る限り攻撃を庇った。
ちなみに神樹様に取り込まれかけたり本人の知らないところで知らない過去が露見したり死ぬ一歩手前だけど元気でーす(SOS)(やけくそ)
しかし、継受紡絆という人間は五年前、とある事件で既に死んでいるらしい(?)
○ウルトラマンネクサス
神樹様に取り込まれかけた紡絆を寸前で助けたが、流石に神の呪いを抑えるとなると弱体化した今では、彼自身もかなり消耗しているらしい。お陰で神樹の世界に入るのに時間がかかった。
過去にも出現した事例はあるらしく、とある少女『たち』は知っているようで、
時系列的には、銀河帝国でゼロに力を託した後に地球へ来た。
○天海小都音
気丈に振舞っているが、メンタル崩壊寸前。
たすけて、神樹様。
○天海真偽/メフィラス星人、イレイズ
比較的温和なタイプだが、昔はやんちゃだったらしく、名前が体を現している。
真偽→まことといつわり。
イレイズ→抹消、削除、消去
ちなみにダークネスファイブに属する魔導のスライとは親友同士の仲で戦闘力は同等なので、つよい。
だがベリアルに忠誠を尽くすスライと、あるウルトラ戦士(ゼロではない)の姿を見て戦いをやめるようになったイレイズは喧嘩別れすることになり、放っておけばウルトラ戦士の方について(掲示板の奴らが苦労して解いた謎を聞いてすぐ解いたことからわかる通り)陛下の脅威になりかねる可能性もあったので殺されかけた。
しかし戦いは嫌になっても死にたい訳では無いため、反撃することなく逃げ続けていたので限界を迎え、宇宙船が大破して死にかけながら40年前に偶然地球へ落下。
子供の頃の麗華に助けられて以降、助けられた恩もあるので人間を見定めることにし、少しずつ愛するようになって今に至る。
実はメフィラス星人の他に候補はレギュラン星人、バルタン星人、マグマ星人、ツルク星人、カーリー星人、レイビーク星人などなど宇宙人が居たが、どいつもこいつも裏切りそうだったし血迷った選択になってるし人型がよかったので結局シン・ウルトラマンで話題になったメフィラス星人になった。
○転生者掲示板
やる時はやるやつらなのでめっちゃ真剣になって完全に世界の謎を解いたやべーやつら。
一応戦闘時でも方向やタイミングを計算したりして教えてるが、基本的に感覚派の紡絆くんには通じてない、可哀想。ドンマイ。
彼らの総意→ノア様だけが希望。
○神樹様、???
紡絆くんを取り込もうとした神。
掲示板連中からは半ば敵で、今はオレンジゾーン。紡絆くんは別になんとも思ってない。
そして紡絆くんを助けた少女。
紡絆くんはどこか知り合いに似てるようで似てないと感じたようだが、一体…?
○ノアの結界
スレ民たちは正解だったが、結局壊されたのでもうスペースビーストを止める術はない。
○協力者らしい神官
予め言っておくと、オリジナルキャラで先生じゃないです。
○金髪の少女と銀髪の少女
かなり久しぶりの登場。
紡絆くんと世界の謎に大きく迫った。
様々なことを知る彼女たちがどう行動するかが、物語の鍵を握るだろう。