【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】 作:絆蛙
今回は敢えて表現の仕方を変えてます、別人が書いたとかそんなんじゃないよ。終わり的に後書きを書くと空気感台無しなので、今回はあとがきもなしです。というかあれに関しては一度書いて引けなくなった感。まぁ描写できない部分の補足だったり作者のメモ的扱いでもありましたけど。
何はともあれ、ここからも怒涛の展開になるかと思いますので、様々な予想や感想をお楽しみにしています。私から言えるのは、輝きの章はラスボスを除いて難易度はもう上がりません。これ以上あげたら次章BADEND確定だわ。
それじゃあ、ようやく出せたサブタイトル回をどうぞ。紡絆くんはやれる子です、勇者『は』救ってくれるでしょう。
それにしてもブレーザーくん見た目に反して神秘性の欠片もないしうるさくて草
落ち着いたのだろう。
目元を赤くしつつも、自身の行動が何をしてたのか思い出したのか風はネクサスから離れていた。
「…ごめん。ありがとう」
『シュア』
「気にしてないって言ってますよ!」
「それ、合ってるの?」
「たぶん!!」
さっきは分かってなかったのに、何故か自信満々に言ってのけた友奈に夏凜はため息を吐く。
しかしネクサスは頷いていた。
あっていたらしい。
『今度はあってましたね』
「ここに来る前、私は紡絆くんと深く繋がったからね!紡絆くんから貰った暖かいものは私の中にあるから」
『えっ!?』
「え、ど、どういう……!?」
『……?』
何処か嬉しそうに微笑む友奈の言葉。
割と爆弾発言というよりは、問題のある発言に何故かネクサスに視線が集まり、彼は首を傾げた。
「私も風先輩みたいにぎゅーってされたんだ」
「あ、ああ……。あんた、誰にもやってんのね……」
『辛い目にあったとき、温もりがあった方がいいだろ?というか、友奈に関しては…』
「そ、それ以上はダメーっ!」
『何があったか分かりませんけど、紡絆先輩らしい回答ですね』
「…ふふふ」
無事本人の手で解決がなされたが、素直に全部伝えようとしたネクサスの腕を友奈が降ろさせることで妨害した。
そんな不思議な空気感に、我慢ならずといった感じで何処からが笑い声が聞こえる。
『ジュ』
「あ、風先輩が笑った!」
『お姉ちゃんも笑いますよ、爆笑ではないですけど』
「樹ってずっと前から思ってたけど案外毒舌よね……」
気づいたようにネクサスが風を見れば、誰が笑ったのか特定された。
最もこの場で精神に深いダメージを負って、崩れていた風が笑ったのだ。
「ふふふ、あはは…ごめん、何なのかしらね……紡絆を見てるとおかしくなっちゃって」
「いつもでしょ、こいつ」
「それが紡絆くんだからね!」
『……?』
『えっ、今の理解してないんですか!?』
少しのことで、気が楽になる。
いつもと何ら変わらぬ空気感が生み出されたことで、いつもの調子が戻ってくる。
遠回しにバカにされたことには気づかなかったが。
『それより東郷を探そう。夏凜もありがとう』
「別にいいわよ。でもそれは同感ね」
「そうだね!みんなで探せば---ッ!?」
風もある程度動けるようになったと判断したのかまた借りていたスマホをネクサスは返し、友奈の言葉が最後まで紡がれるより先に、スマホからけたたましい警報のような音が鳴る。
『!?』
即座に反応し、ネクサスを除く皆のスマホから音が鳴る。
取り出してなかった者のスマホも現れており、『特別警報発令』の文字が夥しく並ぶ。
「こ、これって…いつもと違う!?」
『もしかして、スペースビースト…?』
『……!!』
騒々しいアラーム音は止まることなく、樹の文をネクサスが首を振ることで否定する。
いくら別位相の存在であろうと、スペースビーストの出現の際には樹海化が起きなかった。
クトゥーラが特別という可能性もあるが、この世界に現れた時点でネクサスに変身してる紡絆なら感じ取ることができる。
それがないということは---
「バーテックス……?」
「そ、んな……!?」
信じられないと言うように友奈がその単語を出す。
そう、この現象はバーテックスの出現。
終わったと思っていたバーテックスとの戦いが再び始まることに風はショックを受けたように固まる。
しかし遠くから向かってくる光の波は容赦なく勇者とネクサスを巻き込み、世界が変化を遂げた---
極彩色の空に、無数の木々。
神樹様がバーテックスが出現した際に展開する四国を守る結界、樹海化。
『ッ!』
「ま、待って紡絆くん!」
「そうよ、落ち着きなさい!現状確認が一番!だいたいあんたは無茶出来ないでしょ!」
一切の躊躇なく飛行しようとしたネクサスを友奈が手を掴むことで阻止することが出来たが、奇しくも友奈の精神状態が以前と同じじゃなく、紡絆を気にかけていたのが幸いだった。
早速突っ込む気だったネクサスに文句を言いつつスマホでバーテックスの位置や出現した敵を確かめるべく画面を見た夏凜は目を見開く。
「なに……これ!?」
画面に現れたのは
画面の半分ではなく、画面全体を埋める赤。
さらにその画面の奥。
大量にいるバーテックスのところに、東郷の反応が1つ。
「敵の近くに東郷さんが…! 私、行かなきゃ……!」
「なっ……待ちなさい友奈!」
『シェ---』
「っ…あんたは絶対にここに居なさい!私が行く!!」
画面をネクサスが見てなかったからか、反応する前に友奈が勇者の脚力で跳んでいき、そんな友奈を追おうとしたネクサスの足元に刀を数本突き刺した夏凜が代わりに追う。
『………』
力づくとはいえ止められたネクサスは向かおうとせず、冷静に視線を後ろへ向けた。
そこには樹がいるが、立ち直った訳では無い風は戦いが終わってないという現実に打ちしがられ悄然としている。
ここで向かえば、この数が攻めて来た時には樹一人で対処しなければならなくなってしまうだろう。
紡絆の体が限界に近いのもあるが、無数の星屑を相手するならウルトラマンの殲滅力は必要になる。
「紡絆先輩……」
だからこそ、ネクサスは踏みとどまれた。
少なくともまだ動くべきでは無いと、理解したから。
ネクサスの目ならば、ここでも状況は見えるのだ。
東郷の元へ向かう途中---友奈はその量に、愕然とした。
視線の先には壁の空いた穴。無数の白い口しかない化け物。
星屑と呼ばれるなりそこない。
名前の通り星の数と表現する方が正しいくらいに多く、数えるのが嫌になるほとだ。
「東郷さん……?」
壁の空いた穴を見ていた友奈は壁の上に降り立った東郷の姿が見え、跳躍して壁の上に向かう。
するとそこには---
「東郷さん……?なに、してるの?」
淡々と向かってくるバーテックスを新しい精霊の力で撃ち落としている東郷の姿があった。
聞こえなかったのか、返事は無い。
「東郷さん!」
「……壁を壊したのは私よ、友奈ちゃん」
状況を見れば分かる事だった。
銃声が止んで静まり返る中、東郷が振り返ると自ら自白するように告げた。
深緑の瞳が友奈を見据える。
「え……?」
「もう紡絆くんにも友奈ちゃんにも、傷ついて欲しくないから。これ以上紡絆くんに背負わせないために…命も、悪意も」
友奈はただ呆然とする。
その言葉の意味を脳が理解しようとして、友奈には
行動も、その意味も、全て。
そんな友奈にうようよと浮いている星屑が迫る。
気づいた時には星屑は既に近くにいて、ようやく追いついた夏凜が二刀で星屑を切り裂く。
「どういうことよ、東郷……あんた、壁を壊したって……!」
刀を向ける夏凜の言葉に何も返さず、壁の方へ振り向いた東郷は狙撃銃を構えていた。
その行動が意味するのはひとつしかなく---
「また壁を……!?東郷さん!」
「やめなさい!」
さっきの問いかけから言葉では止まらないと理解したからか、夏凜が素早く近付いて止める為に斬りかかる。
東郷はすぐに狙撃銃を盾にすることで防ぎ、互いに弾かれるように距離を取る。
「あんた、自分が何やってるのか分かってるの!?」
牽制のために右手の刀を向け、夏凜は問いかける。
四国を守る壁の破壊。それは、世界そのものを危険に晒すことであると誰もが理解出来る。事実、今こうして大量の小型のバーテックスが入り込んでいる。
夏凜だけじゃなく、今の東郷を見ると正気の沙汰とは思えないだろう。
「……分かってる。分かってるから、やらなきゃいけないの」
だが、東郷は正常だった。
錯乱してるわけでも混乱してるわけでもなく、正気で、自分の意思で破壊したのだ。
そして悲しげに表情を歪めた彼女は結界の向こう側、壁の外へ移動する。
「東郷さん!」
「私達も行くわよ!」
すぐに壁の外へ出た東郷を追いかけるために、友奈と夏凜も結界の向こう側へと飛んだ。
瞬間---
「---は?」
「なに……これ……?」
そこはまさしく、地獄。世界の終わりを、終末を迎えたような光景。
大地を覆う火の海。
空を埋め尽くす無数のバーテックス。
そんな世界に聳え立つ黄金の大樹。
かつて人が空想した地獄の光景をそのまま映し出したような世界が広がっている。
何よりも---溢れんばかりの
どこを見てもスペースビースト。どこを見てもバーテックス。
どの方向にも、敵しかいない。
それだけではない。
「スペースビーストと、バーテックス……!?」
「あれって……あの時の…!?」
再生しつつある、これまでに勇者部が倒してきた星座の名を冠するバーテックス。
姿形が形成され、今にも再生しようとしている異性獣。
紡絆が命を懸けてまで、命を削って倒してきたスペースビースト。
夏凜が初めて見たスペースビーストのラフレイアだって、そこに居た。
「分かったでしょ、二人とも」
背後から聞こえた声に友奈と夏凜は振り向く。
そこには悲しそうにこちらを見つめる東郷の姿がある。
「これが世界の真実の姿。壁の中以外、全て滅んでいる……。バーテックスは十二体で終わりじゃなく、無数に襲来し続ける。それは
そしてスペースビーストは無限に生まれ続ける……」
無限---それは限りの無いこと。
彼女の言葉は正しい。
バーテックスは、十二体ではなく十二種類。黄道十二星座のバーテックスが十二種類居て、星座型のバーテックスは星座の数いる。
スペースビーストに関しては、メタフィールドという世界を隔離する空間で分子レベルで分解されたはずなのに、そんなことは関係ないと言わんばかりに今も再生し、倒されたスペースビーストは消えることは無い。
本来ならば、終わりであるはずなのに。
故に無限。
終わりはなく、死ぬことは無い。
ただ増え続け、スペースビーストの特性上いずれはウルトラマンでも手も足も出ないくらいに強大になっていってしまう。
「この世界にも、私達にも未来はない。私達は満開を繰り返して、身体の機能を失いながら戦い続けて……いつか、大切な友達や楽しかった日々の記憶も忘れて…ボロボロになって、それでも戦い続けて…命を削り続けた紡絆くんが死んだ後も、私たちは死ねない……!」
そう語る東郷の声は、震えている。
体も震えて、涙も浮かべて、希望のカケラもなく、絶望しかない真実に怯えて、打ち負けて、苦しんで。
「もうこれ以上…大切な友達を、大切な人を犠牲にさせない…!生贄でしかない『勇者』という存在も全てを背負う『ウルトラマン』という存在もこの世界も---私が断ち切る!私が終わらせる!」
世界を終わらせるという
光は守るべきものが多く、果たさなければならないことが多い。
けれども、守ることをやめるなら壊すだけでいい。壊せば終わる。壊せばこれ以上苦しまない。
たったの一言で解決する。
この世界を、破壊をするだけでいいのだから。
そうするしか、方法が思いつかないのだから。
「ま……待って…!そんなことしたら……!」
壁に向かって二丁拳銃を構える東郷を止めるためか、夏凜は刀を向ける。
これ以上壁が広がれば、この中にいるバーテックスがより外に出る。スペースビーストが外に出てしまう。
「夏凜ちゃん……何故止めるの?」
「だ…だって……私は、私たちは大赦の勇者で…」
「大赦は私たちに真実を隠し…貴女も道具として扱ってたのに!?私たちだけじゃない!大赦は前から紡絆くんを利用してた!記憶を失った彼に、また多くのものを背負わせて、
「っ…!ま、た……?」
道具といった言葉に酷く動揺し、刀が力なく垂れる。
しかしそれよりも、たったひとつの言葉が気になった。
また、とはどういうことか。
何度も戦ったことなのか、それとも別のことなのか。
「紡絆くんは二年前にもウルトラマンとして戦っていた…それで、記憶を失った……!大赦はそれを知ってたのに!知ってたのに隠して、知らないフリをして紡絆くんに戦わせてたのよ……!」
「なっ……そ、んなの聞いたこと……」
大赦に居た夏凜はそんなこと一度も聞いたこともない。
ウルトラマンが過去に居たという言葉すら、聞いたこともないし見たこともなかった。
だが、東郷がわざわざこんなことで嘘をつくとは考えられない。嘘をつくにしたって、記憶を失ったという部分は必要ない。
当たり前だ、これらは先代勇者含め上層部の大赦と一部しか知らない。
「で、でも……!」
「分かって、友奈ちゃん……。こうするしか方法がないの。勇者部の皆も……私が忘れてしまった大切な友達の二人も…私が忘れてしまった大切な
涙を流しながら、握る二丁拳銃と体を震わせる東郷にあるのは
その嘆きは友奈と夏凜の心を打ちのめす。
そのダレカが誰なのかも、大切な人が誰かなど、考えれば誰だってわかる。
勇者部の中で唯一、死ぬ可能性のある---否。
もうその命を尽きさせようとしてるのは、たった一人しかいない。
「東郷さん……っ!?」
「…はっ!?」
「まずい!」
不気味な気配を感じ、三人が振り向いた。
その先に居たのは、既に復活を果たした乙女座の名を冠するバーテックス、ヴァルゴ。
下半身の産卵管のような部分から爆弾が射出され、東郷はこの場に残るように回避し、咄嗟に夏凜は友奈を掴んで結界の中へ向かう。
「……罠!?」
だが、そこへ迫る
まるで夏凜が結界の中へ向かうことを予想していたかのように、頭上を超えて進路を変更してきた火球が夏凜と友奈に襲いかかる。
夏凜はすぐさま刀を投げて爆発させるが、爆風に巻き込まれて距離を離され、再び振り向いた先。
ヴァルゴの背後に、ひとつの影が見えた。
甲殻類に似た外見をし、何処かサソリを思わせる姿。鋭い鋏や長い尾、尾の先端にはハサミを持つというバーテックスにはない特徴---クラスティシアンタイプビースト・グランテラ。
過去にネクサスを追いつめたスペースビーストが、既に復活を終えていた。
そして再びヴァルゴが爆弾を放ち、グランテラは六門の気門から次々と火球を放ってくる。
「夏凜ちゃん!東郷さんがっ!」
「一旦引くわよ!」
「だ、だけど……」
「いいから!!」
夏凜の頭が警報を鳴らす。
ヴァルゴの爆弾もそうだが、グランテラの火球を見たのは初めて。
それでもそれが、どれだけ厄介で、脅威なのか。彼女の勇者としての勘が告げる。
あれは精霊の力を持ってしても危険だと。
「こ……んのォッ!!」
だからこそ一刀の刀を近くの地面に突き刺し、爆発させることで目眩しをすると友奈を引っ張って結界の中へ向かうために跳躍する。
その判断は正しかったのか、火球と爆弾は互いにぶつかって相殺される---だが、
「…!夏凜ちゃん、横ッ!」
「しまっ---ッ!」
もうバーテックスは一体だけではなかった。
さっきと違い、迫ってくる攻撃は間違いなく防げない。
友奈を引き連れてるのもあるが、先程のように爆弾でも火球でもないことが一番の原因だろう。
鋭い針。長い尾。禍々しい色。
猛毒を持つさそり座の名を冠するバーテックス---スコーピオン。
かつて尻尾による攻撃で友奈の意識を奪い、ウルトラマンを殺す寸前にまで追い込んだ敵。
本来ならば全身の穴という穴から血を流す毒。
紡絆という存在だったからこそ、
その針が夏凜と友奈を叩きつけていた。
「っぅ……ゆ、友奈…平気……?」
「なん、とか……」
結界の中から遠ざけられてしまったが、精霊バリアのお陰で死ぬことはなかった。
ただ受けた時と叩きつけられた時の衝撃で痛みが走っただけで、二人は起き上がる。
「っ、やば---」
「避けられない…!」
そんな二人の視線の先。
グランテラが青白い光球が迫り、上空からは毒針が襲いかかる。
凄まじい威力を誇るそれは間違いなく戦闘不能にするほどの力が込められている。
だが避けるには受けたダメージが回復しておらず、なおかつ光球は避けられても毒針が貫くだろう。
つまりやれることは賭けに出るしかない。
迎撃するという危険な行為をするしかなく---
絶望を穿つ希望の光が、戦況を覆すように。
「今のは……まさか!?」
光球も。スコーピオンも、グランテラすら貫き、とてつもない貫通力を発揮した不死鳥は消える。
バーテックスに関しては御魂ごと、グランテラに関しては堅い装甲をも無視して、全てを穿った。
やったことは単純。
スコーピオンの尾が当たる前に、本体を貫き、グランテラの必殺技のような光球と本体をまとめて消し去っただけ。粒子が、散る。
でもそんなこと出来るのは、たった一人しかいない。
「紡絆くん……!?」
色褪せることのない白光色の瞳。
49mもある身長。
上級武士の裃袴を思わせる青い生体甲冑。肩には鎧の肩当てのような板状のプロテクターがあり、右腕のアローアームドネクサスはファイナルモードを形成していた。
放たれたのは思いを届かせる最強の一撃---オーバーアローレイ・シュトローム。
かつて紡絆へと受け継がれた
『デェアァァァ!!』
放たれる、クロスレイ・シュトローム。
光の光線を撃ちながら動かし、周囲にいる小型のスペースビーストと星屑を殲滅していく。
それですら、まだちょっと削った程度。
所詮強さ自体は大したことの無い小型のみだが、胸のコアゲージは既に、点滅していた---
友奈と夏凜が東郷の後を追って少しして、ネクサスと樹の視線には、無数の星屑がいた。
ネクサスは自身のエナジーコアを見つめ、そして樹を見た。
彼女の目に絶望の色はなく、ただ強い意思を秘めている。
ならば、迷う必要などない。
『デアッ!』
その体に、英雄の力を纏う。
継承し、託された力のひとつ
自身の肉体に負担がかかり、エネルギーの消費が激しくなる。
だが、こうでもしなければ今のネクサスはまともに戦えない。
そして一人、迎撃に出ようとネクサスは地面を駆けようとして、緑色の光がネクサスよりも早く星屑を次々と薙ぎ払う。
複数の線を束ね、ムチのように攻撃していた。
『……!?』
「紡絆先輩、私も戦います……!」
『……フッ』
その攻撃は樹によるもので、ネクサスは驚いた様子を見せた。
僅かに視線が交差し---理解する。
互いに通じてはいないだろう。
それでも心は繋がっていた。
ネクサスは駆け出すことをせず、樹の横に立つと手の先から青いエネルギーを形成する。
敵は軍勢。
数千どころか、数万にも届くかも知れない。いくら強くなくとも、物量というのはいつだって脅威だ。
そんな相手にたったの二人で何が出来るのか。
『デェアァ!』
「---!」
簡単だ。
たった一言。抗える。
ネクサスの形成したエネルギー、セービングビュート。
光の鞭と緑の鞭が襲いかかってくる星屑を迎撃する。
樹海の世界なのもあって木々が絡み合っている。
視界を遮る木の間から次々と来る星屑に二つの光が迎え撃つが、仲間意識があるのかは定かではないもののそこに何かがいる、と認識されたのだろう。
さらに数が増える。
空は白く、動いている。
全く綺麗でも何でもないが、その空は現実で言う雲だ。
片手では増援が来る方が早く、樹のフォローをするようにさらに片手でセービングビュートを発動させると、自身に迫る星屑よりも樹に迫る星屑を優先して撃破していく。
『…!シェアッ!』
「っ!?」
作業のように敵をひたすらに倒し続けてきたが、突如樹に向かって高速で迫ってきたナニカに気づいたネクサスが鞭を消すと、即座に割り込んで両手で三日月型の光刃を発射する。
高速で飛来してきたものへ直撃し、爆発を引き起こす。
「スペースビースト……?」
『………』
ただでさえ星屑だけでも終わりが見えないのに、星屑に紛れて数体のスペースビーストが居た。
大半はペドレオン。しかし脅威なのは間違いない。
ペドレオンというスペースビーストは体の95%が水分で構成されている。
地球が海の星であることから、ペドレオンに関しては元々生まれやすい存在なのだ。過去に紡絆が、多くのペドレオンを相手にしたように。
『…シュア』
敵があまりにも、多すぎる。
巨大化すれば、ネクサスのエネルギーは一気に消費される。
あくまで等身大になって出力エネルギーを減らしてるからジュネッスにもなれるだけで、巨大化すればコアゲージは点滅するだろう。
だが巨大化すれば一気に倒せる。
そして何より---隔離さえすれば。
だからこそ、ネクサスは樹の前へ躍り出ると、サークルシールドを展開する。
次々とバリヤーに星屑が突撃し、それらは
数が増えれば増えるほど抑えられる時間は少なくなり、ジュネッスのパワーを持ってしても受け止め切れることは出来ない。
故に樹へと視線を送る。
今は風を抱えて逃げろ、と。
「……!」
それは伝わったのだろう。
樹は風を見ると、彼女は膝を折り曲げながら両手で膝を抱えていた。
戦意は見られない。
風を守るには、それは正しい選択だ。
この場で最も有効な手段はネクサスを置いて逃げること。
でも、それは---
「いや……です」
継受紡絆という人間を犠牲にすること。
ここで逃げれば、彼は瞬く間に形成する。
命を削る、空間を。
「紡絆先輩だけに任せるなんて、出来ません!一人で戦わせるなんてさせません…!私も最後まで紡絆先輩の隣で一緒に戦いたい……一緒に居たい…!だって私も勇者ですから!」
鋼鉄糸が上空の敵を追い払い、砕くためにサークルシールドへと攻撃するバーテックスたちを拘束していく。
いつだって、彼が自分を犠牲にしようとする姿は変わらない。
だけど、樹は勇者だ。まだ種でしか無かった小さな輝きは、強い光に呼応して芽吹く。
隣で歩みたいと願う、純粋な少女の気持ちは何にだって負けはしない。その覚悟は誰にも奪えはしない。
『……ハアッ!』
バリヤーを解除し、同時に赤い色の光が抑えられていたバーテックスとペドレオンの動きを封じる。
無意味だと諦めた。
彼女の思いを無碍にするのは紡絆がするはずがない。その瞳を、知ってるから。その瞳を見て分からないほど、他人の心に鈍感では無い。
言葉で通じなくとも、行動で理解する。
ならもう、違うのだろう。
しかし拳一発で全て倒せるはずがないので残りはしたが、倒せない敵に
なぜなら、先に樹のワイヤーが切り裂く。
瞬時に地面を蹴り、エルボーカッターが残る敵に振る舞われていく。
回転し、右手を横へ突き出した状態で停止すると、背後に居た敵は全て倒されていた。
そして、光の瞳が樹を捉える。
互いに見つめ合い、ネクサスはただ頷いた。
嬉しそうに小さな花は咲き、表情を引き締めた。
言葉にせずとも分かる。
樹には紡絆の言葉が、彼の背を見てきたからこそ。
彼は言ったのだ、なら共に戦おう、と。
終わりのない戦い。でも樹は戦える。
近くにいるひとつの光が、諦めないからこそ。彼女が絶望に屈することはない。
それに彼女と彼が交わした約束と勇気と。
何より夢が。
大切な友人と大切な先輩に背を押されて、見出した夢を追いかけるという想いが、彼女をどこまでも奮起させていた。
あれから数十分。
逃げずに、彼女は逆に前へと進む。
まだ半年前くらい、背後にしか居なかった妹の姿。
絶望しかない、未来のない戦い。
風の目にも映っていた。
今の光景は、一言で言えば世界の終わり。終末。
どれだけ抗っても、無数といるバーテックスと紛れ込んでいた一体一体が厄介のスペースビーストに対して勝てるはずもない。
「っ……!ッ---!」
『シュア!グアッ……!フッ---!』
増える度に疲弊する体。
その影響か倒すことが間に合わず、樹は星屑に吹き飛ばされていた。
それでも地面に手をついて、起き上がろうとしている。
そんな彼女に放たれた雷撃をネクサスはその身で受け、怯みながらも反撃に振るわれた光粒子エネルギーのカッター光線がペドレオンを撃破する。
上空から口を開けてネクサスに襲いかかる星屑を緑色の光の線が押しとどめる。
即座に低空飛行し、足を突き出して樹の横を通過したネクサスの蹴りが一体の星屑に突き刺さり、まとめて吹き飛ばす。
着地したネクサスに放たれた火球が途中で爆発し、すぐにペドレオンを拘束する。
『デェ---ァァラァ!』
「っ、囲まれた……!?」
『グッ……!?』
二発のカッター光線が拘束されたペドレオンの生命活動を停止させ、全方位から放たれた火球に気づいたネクサスと樹だが、気づいた頃には間近く。避け切れるはずもない。
新たな精霊の力、鏡から植物の茎が生えたような外見を持つ雲外鏡が鳴子百合の模様を模した巨大な緑色半透明の円型シールドを前方に発生させ、敵の攻撃をはね返すが全ては不可能だった。
咄嗟に庇うようにネクサスが彼女の体を包み込み、二人の体を大きく吹き飛ばした。
---それでも、
互いにフォローをするように戦っているが、この数に敵うはずがない。
一見優勢に見えても、数は減ってない。
正確には減っているが、減っているように見えないのだ。
ペドレオンだって数体しかいなかったはずなのに、今は数十体は確認出来る。
小型なのが救いだが、もしかしたら他のスペースビーストだっているかもしれない。
ネクサスと樹の頭の中には、あの時触手だけを放ってきたスペースビーストの存在もチラついている。
だとしても、抗わなければ全てが終わるのだ。
「いつの間にか……」
風の目に映る樹はもう、後ろにいなかった。
風の隣を歩きたいと願った少女は、前へと歩んでる。
その先、彼女が望んだ男の子と並び立っている。
風が眩しいと思い続けた後輩は、どんな状況でも前進し続けている。
彼の中に止まるという考えは無い。誰かを守るためなら自分のなんだって犠牲に出来る---そのくせして、他人が犠牲になることは認めない。それが紡絆という人間。ある意味、誰よりも我儘だ、
着々と今も命を消費しているのに、死ぬ未来が待っているのに。
「わたし、は……」
目の前で樹とネクサスは戦い続ける。
苦しんでいるのに。痛みを負っているのに。紡絆は分からないが、樹は怖いのを我慢しているのに。無秩序に暴れまわる星屑やペドレオンから自分を守るために。世界を守るために、戦っているのに。
命を、燃やして。
「私は……?」
果たして何をしているのか。
こうやって座り込んで、諦めない妹と後輩の姿を見るだけで、何もしてない。
護られるだけで、何も出来ていない。
勇者部という部活の部長で、誰よりも先輩なのに。何も出来ないままでいいのだろうか。
「私は………!」
変わらず眩い背中があって、自身の前を歩く小さな背中があって。
ここで蹲っていても何も始まらない。黙って下を向いて弱気になって、どうなるのか。
何も進めない。二つの背中に、置いて行かれるだけ。親愛する妹と在り処とする後輩に。
---その瞳が光を宿し、手に力が籠る。
厄介だと星屑もペドレオンも高度な知能が理解させたのか。
樹とネクサスは数の暴力によって引き離され、樹に向かっていた敵も全てのペドレオンも
樹が驚きながらワイヤーを飛ばすが、数体の星屑が壁になる。
援護が届かず、星屑と火球、雷撃といった全ての攻撃をギリギリのところで捌くネクサスの体は複数体のぺドレオンの口部から放たれた衝撃波によって吹き飛ばされ、吹き飛ぶネクサスに数十体の星屑が一緒になって容赦なく体当たりしてさらに吹き飛ばす。
「どうして、紡絆先輩だけを…!?」
木に背中をぶつけ、地面へと倒れたネクサスは木に手を着きながら立ち上がり、顔を上げると巨大な火球が迫っていた。
即座に両腕を下方で交差する。
輝きが纏われ、膨大なエネルギーが稲妻を発生させる。
エネルギー消費が激しすぎるため、一度の変身に一回しか使えないオーバーレイ。
ネクサスの持つ光線技が火球ごと敵を打ち払うために溜められる。
しかし---
『!!が……ァ!?』
突如目眩でも起きたかのようにネクサスが膝を着く。
瞳の光は消灯と点灯を繰り返し、まるで
頭を抑えながら首を振るうことで意識を戻したが、その隙があれば十分だ。
「紡絆先輩---ッ!」
必死に駆けて、手を伸ばす樹の姿がネクサスの目が捉えていた。
そして、直撃せんとする火球も。
死なないだろう。
当たっても、大ダメージを負うだけ。けれど、今の肉体なら話は別だ。
大ダメージという時点で、致命傷に繋がる。
だがネクサスの体が動かない。朦朧とする中で抗おうとしているの立とうとして、ふらついて片手を地面に着いた。
『ッ---!』
数秒先の未来をイメージさせ、だけど瞳は前を見ている。
諦めないという意志を宿し、巨大な火球が---
「はあああぁぁぁ!」
同じく
横から殴るように振り動かされた大剣と火球が、ネクサスの目の前でぶつかり合う。
『……!』
「今の、もしかして……!」
「ごめん二人とも……情けない姉で、頼りにならない部長で……護られてばかりで、頼りきってばかりで…。それどころか、助けられて……!」
火球を受け止めている風の独白を二人は黙って聞いていた。
どこか申し訳なさそうで、懺悔するように。
迷惑をかけてしまったことを、謝罪するように。
「でも…私は姉として、部長として……!妹や後輩に頼りきってるわけにはいかない!護られてばかりではいられないのよ!」
だからこそ今度は護るために。
見てるだけじゃ、何も始まらないから。
「だから負けるかぁぁぁぁあああ!!」
渾身の一撃が巨大な火球を跳ね返す。
その一撃は容赦なくぺドレオンを焼き尽くし、
その姿を背後で見ていたネクサスは、力を抜いてゆっくりと立ち上がる。
今の風は、心が折れてるわけでも失意の底にいるわけでもない。
その身に纏う力同様、勇者。
彼がよく知る
「お姉ちゃん……!」
完全に復帰を果たした姉の姿を見て安心したのか目尻に涙を貯めながら嬉しそうに樹は駆け寄る。
そんな樹の頭を風は優しく撫でた。
「もう大丈夫よ、樹。ほんと……逞しくなったわね。まったく、誰かさんのお陰なのかしら…いつの間にか追い越されちゃってた」
「……っ!っ〜!」
『……?』
僅かに寂しそうな様子はあったが、姉として妹の成長は喜ばしいことなのか嬉しいという気持ちの方が大きいらしく、微笑みながら何処か意味ありげな視線をネクサスへ送ると、樹は顔を赤くしていく。
ネクサスは視線には気づいたが、真意までは読み取れず首を傾げていた。
「さあ、散々サボった挙句護られてばかりだったけど、ここからは反撃開始よ!このまま追い抜かれたままだったら姉として立つ瀬がないからね」
「…うん!」
『…デュア』
いつまでも話せるわけではないからか、撫でるのも程々に風は大剣を背負いながら上空を見つめる。
現状は星屑のみとなったが、星屑は全く減っていない。それにこの敵たちは全部、壁の外からやってきたのだ。
無論スペースビーストも含めて。
ならば途中から反応が消え、壁の外へ向かったであろう友奈や夏凜、それに東郷はどうなのか。
結界の中でこれなら外はもっと酷いはずだ。
なるべく早く、減らさなければならない。
だからこそ、ネクサスは一気に殲滅するためにコアゲージの前で腕を交差する。
オーバーレイではなく、もうひとつの高威力の光線で蹴散らそうという考えなのだろう。
しかし---
「紡絆、色々とありがとうね。あんたには相当、迷惑かけた」
『……?』
突然風から感謝され、彼女の手によって手を降ろされたネクサスは、戸惑った様子で見つめた。
確かにその身で攻撃を受けながら止めたり、星屑やペドレオンから守っていた。
でもその言葉が理解出来ないのだろう。
なぜならそんなこと紡絆にとって
「今のあんたの状態は…知ってる。本当はこんなこと言いたくないし、させたくない…。けど、どうせ止まらないんでしょうから、私から言うわ」
『………』
「友奈や夏凜…そして東郷をお願い。ここは私と樹が受け持つから。この数の中でも、あんたなら行けるでしょ?」
『……!』
風を見つめていたネクサスが、驚いたような様子を見せる。
いくら星屑だけとはいえ、この量は異常なのだ。
ネクサスと樹がある程度倒しても、全く減っていない。ここで戦力が減るのは得策では無いだろう。
でも逆に、ウルトラマンではなく
今の風がそうだったであるように、彼の光が必要なのはもう一人、間違いなく居るはずなのだから。
「紡絆先輩、行ってください。東郷先輩が心配ですし…友奈さんや夏凜さんも心配ですから」
「安心しなさい。犬吠埼姉妹の女子力をあいつらに見せつけてやるわ!だからあんたは信じて行きなさい!」
言葉が聞こえずとも、樹も風と同意見と言うようにネクサスを見つめる。
真っ直ぐな、二人の視線。
それを受けて、信じろと言われて---信じないはずがない。
二人の覚悟と意思を受け取ったネクサスは頷くと、覚悟を決めたように胸のコアゲージに右腕を翳し、振り下ろす。
水のような波紋がネクサスの全身に流れ、
『シュワッ!』
そして球体となった黄金色の光が、無数といる星屑の中へ突っ込んでいき、潜り抜けていく。
決して振り返らず、ただ前へ。
ここで振り返るというのは彼女たちを信じていないという証。
故に、ネクサスは一切後ろを見ることなく、光速で躱しては結界の外へと向かう。
目的はただ一つ---
609:名無しの転生者 ID:zuiFP2cnG
やったぜ!
610:名無しの転生者 ID:Ch6knklcc
ぶちょーも復活したし、勝ったな!風呂入ってくる!!
611:名無しの転生者 ID:lc6fIsk9O
そうだな!よし解決だ!!
612:名無しの転生者 ID:eoa7mgl2U
いや現実逃避するんじゃねーよ!なんだあのバーテックスの量!アホか!?おかしいだろ、空一面小さなバーテックスじゃねーか!
613:名無しの転生者 ID:XGgzI9Zvu
というかジュネッスまで使ってイッチは平気なのか!?
614:名無しの転生者 ID:mhnOzJfIk
スケールを縮めてるから問題ないと思う。でも巨大化すれば……
615:名無しの転生者 ID:LmlQQ7USt
……え?
616:名無しの転生者 ID:oA2vhryDs
……は?
617:名無しの転生者 ID:UHtYggwzM
いや、は? いや、まて、待て待て待て!!
618:名無しの転生者 ID:olqs02XlH
え、なんで巨大化!?ってイッチー!?
619:名無しの転生者 ID:T0d0Varxj
しかもファイナルモード?お前いきなりオーバーレイ使う気か!?
コアゲージ鳴ってんぞ!早く縮め!
620:名無しの転生者 ID:DPFKKppF7
なんで言った傍…か、ら……?
621:名無しの転生者 ID:75CL3AAkw
……な、んだこれ
622:名無しの転生者 ID:6wx6Hmzes
これが、この世界の真実だと……?
違う、だろ……ただの、地獄だ……!
623:名無しの転生者 ID:6SmzraryG
待て、あれは…グランテラ!?それに小型のビーストが至る所に…!
なんでだ!?グランテラに関してはあの時確かにオーバーレイで倒したはずだろ!?
624:名無しの転生者 ID:vZjS7wbGr
グランテラだけじゃねぇ!なんだあれは!?スペースビーストが次々と再生していってる!?
625:名無しの転生者 ID:YKSM1G5X+
違う、生み出されてるんだ!バーテックスも同じく、スペースビーストも同様に……!
626:名無しの転生者 ID:P5L3HX89j
うそ、だろ……てことは、最初からこの世界は……
627:名無しの転生者 ID:Cccmw7y1C
滅んでたって……ことか?
628:名無しの転生者 ID:Vpr4DNXx/
つまり…バーテックスは、十二種類。そして大型種は星座の数が居て、さっきみたいな、小型の無数のバーテックス。
スペースビーストは……無限?
629:名無しの転生者 ID:xbQVo6Dip
なんだよ、これ……イッチの戦いはなんだったんだ…?勇者の戦いは、なんだったんだよ……!!
630:名無しの転生者 ID:4JjlBGNf4
こんな世界…希望なんて初めからないじゃないか……!絶望しかない…こんなのどうしろってんだよ……もうイッチは長くねえってのに……
631:名無しの転生者 ID:cyOK9LXAP
まさに全てを無に還す絶望……。
はっ、最初から俺らも含めて天の神とやらとザギの手の掌の上ってことか……
632:名無しの転生者 ID:+et1YznuK
そうだ…!友奈ちゃんや夏凜ちゃん。美森ちゃんはどうなんだ!?こんな敵居たらやばいんじゃないか…?
633:名無しの転生者 ID:oOkZdnn/G
待て、あそこに二人いるぞ…ってやばい!
スコーピオンの尾とグランテラの光球が……
634:名無しの転生者 ID:o+okL5HcU
いやでも…救ってどうなるんだ…?どうすることも出来ないだろ、これ…正直最強のスペースビーストが完成したと思ってたのに……想定外にも程がある……
635:名無しの転生者 ID:ZyaMFlpcD
あんなに苦戦して、あんなに命を懸けて、死にかけて……その末がこれかよ…こんな希望のない未来を見せられるのかよ……!
636:名無しの転生者 ID:psGvsNx5v
流石のイッチもこれは……おい!?
637:名無しの転生者 ID:S4K4U9vnK
お前……まさかこれを見ても諦めてないのか?バカか!?こんな世界の真実を知って、足掻いてどうするんだ…!?苦しむだけだろ…!
終わってるものにもう、抗っても無理だろ……
638:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■
さっきからごちゃごちゃとこっちは余裕がないんだよ!
人の脳裏でねがてぃぶな発言してる暇があるなら考えてくれ!
諦めてどうなる!?絶望しかないなら、未来がないなら新たに創ればいい!
キラメク未来は必ずある!闇しかないなら、光を灯すのがウルトラマンである俺の役目だ!
東郷もみんなも救う!虚構を見てるような気分で見て諦めるなら黙って見てろ!
---灼熱の世界。
一筋の光が、一帯を駆け回る。
敵は無限。
こちらは限られている。
それでも、その光は絶望に屈してなかった。
終わりしかない、いや終わりを迎えた世界。
地獄へとたどり着いた時、紡絆はまず彼女たちの表情が浮かんだ。
先代勇者の二人が壁の外に行けば真実が分かると語ったとき---彼女たちは悲しい表情をしていた。暗い顔を浮かべていた。
それが
敵は無限。決して消えることはなく増え続け、こちらは有限。
『シュワッ!デェアッ!!』
継受紡絆という人間はウルトラマンを宿した。
そして彼は決して諦めることは無い。
希望がない---
闇しかなく未来は閉ざされている---未来を切り開けばいい。
もう長くは無い命---死んだら約束は果たせない。
意味は無い---だったら、何故人類は300年もの間生きてきたのか。
簡単な話、繋げられてきた。
ウルトラマン同様、光は受け継がれてきたのだ。
一体どれだけの人間が殺されたか。死んだのか。
それでも人類は生きている。
つまり、
絶望しかないしても、諦めなかったのだろう。今の世代は無理でも、いつか、いつの日かは、と。
先代勇者の二人だって同じだ。
滅ぼせば良かった。全部全部、諦めて、望んでないなら世界を終わらせればよかった。
ウルトラマンに近い力を持った彼女たちなら出来ただろう。手段はいくらでもある。その時に紡絆はウルトラマンではなかった。
でもしなかった。
それはこの世界が滅ぶことを願ってなかった。例えそれが、どんな理由であれとどまらせる何かがあったということだ。
ならば、ウルトラマンが諦めてしまえば---どうなる?
希望の象徴は、諦めることを許されない。輝き続けなければ、全てが折れてしまう。
故に彼は今---
『デェアァッ!』
サジタリウス、 ピスケス、キャンサー・バーテックスが貫かれる。
サジタリウスは矢を、ピスケスは突進、キャンサーは反射板を利用していたが、その上からネクサスは射った。
アローモードを形成していたアローアームドネクサスが限界を迎えたように閉じられる。
ネクサスは即座に地面へと向かい、友奈と夏凜を両手で包み込んだ。
「っ…紡絆!なんであんた、ここに……」
『デア』
「樹ちゃんと風先輩が行くようにって……?」
「そういうこと…!だったら合流して!ここで戦えばやられる!」
話を手短に要件だけ伝えられると、ネクサスは即座に跳躍する。次々へと火球が地面を通り抜け、振るわれた鋏による一撃を避ける。
フログロスとアラクネア---ペドレオン同様、小型のビーストであるからかその数は凄まじいが、構ってる暇がないネクサスは無視した。
「でもまだ東郷さんがこの場に……」
『シェアッ!』
「ちょ、紡絆---ああ、もうっ!そういうやつよね、あんたは!!」
友奈の言葉を聞いてか、東郷の姿を捉えたネクサスは即座に駆けた。
次々と突進してくる星屑を避け、残っているヴァルゴの爆弾が飛んでくる。
ネクサスはそれを避けない。
「ったく---これは貸しよ!」
ネクサスの手の上で立った夏凜が刀を投擲する。
爆弾へ直撃し、連鎖的に爆発する中を二人を守るように体を丸くしながら爆風の中を突き抜け、元の飛行態勢へと戻ると東郷の姿を改めて捉える。
「っ、紡絆くん……!?」
『フッ---!』
何をする気だったのかネクサスは分からないが、銃を構えていた彼女を無視して片手で包み込むと、マッハムーブによる加速で結界の中へと向かう。
立ち塞がるアラクネアとフログレス、ペトレオンだが小型のビーストに加速したネクサスは止められるはずもなく、吹き飛ばしながら一直線に移動する。
そして結界の中へと---
『ウワァアアアア!?』
背部から起こった爆発が、ネクサスを結界の中へと吹き飛ばす。
戻れたのまではよかったが、その際のダメージで地面を転がり、衝撃で手が放されたのか勇者たちも空中へと投げ出されていた。
すぐにネクサスは振り向き、爆発を起こした正体、結界の中へと侵入してきたヴァルゴをクロスレイ・シュトロームが撃ち抜く。
『ハァッ、ハァ……!』
コアゲージの点滅が速く。
その身に纏われていた鎧が光となって消滅し、
ジュネッスを保つエネルギーがなく、さらに巨大化していたはずが等身大になっている。
「う…っ。…つ、むぎくん…大丈夫!?」
消耗のあまり両膝を着いたネクサスに近くで倒れていた友奈が立ち上がって駆け寄ると支えるが、もうエナジーコアは点滅している。
万全ではない状態でオーバーアローレイに、アローレイ。クロスレイ---本来の戦闘で使うエネルギー以上に消費している。
『シァ……』
「そうだ…!夏凜ちゃん、東郷さん!」
同じくネクサスの手の中にいたはずの二人を思い出し、ネクサスと友奈は周囲に視線を巡らせる。
夏凜は勇者の姿から元に戻っていたが、意識はないのか倒れたままだ。
あの時---爆発をネクサスが受けた時に咄嗟に友奈を庇ったのが夏凜だった。
友奈がすぐに起き上がれたのは、そのお陰でダメージを軽減されたからだろう。
しかし東郷はどこにもいなかった。
しっかりとネクサスが掴んでいたのに居ないはずがない---もしかしてと思い、友奈が視線を移すと東郷は既に結界の中へ向かおうとしていた。
「待って、東郷さん!」
友奈の呼び掛けに、東郷は止まって背後を見た。
表情からは何も読み取れない。元々東郷美森という少女は行動を読めるような人物ではない。
余計に、分からない。
「……ごめんね、友奈ちゃん。もう時間はないの。紡絆くんが死ぬ前に私は……終わらせなきゃ行けない」
「っ……」
話は済んだと言うように、東郷は前を見る。
友奈を悲しませたことに心が痛むが、終わらせたらそれも消える。
だからこそ東郷は進もうとして、止まった。
『………』
いつの間に移動していたのか、結界の外へと行かせないというようにネクサスが立ち塞がっていた。
エナジーコアを鳴らしながら、命を消費しながら、真っ直ぐな目で東郷を射抜いている。
「…紡絆くん。邪魔をしないで」
『---』
断る、という返答。
予想出来たことで、東郷は驚くこともなかった。
ただ深緑の瞳は酷く冷やかだった。
「そこを退いて、壊せないわ」
『---』
退かない。
短銃を向けて脅したとしても、ネクサスはその場にいる。
当たり前だ、紡絆という人間は例え生身でも
「そう……邪魔するのね。そうね、貴方は……いつだってそうだった。今も、あれを見ても諦めてない。無意味なのよ、戦ってもいずれこの世界は終わる」
『---』
「戻れない。もう止まれない---私は貴方が傷つくくらいなら、世界だって滅ぼす。この世界が残っても、貴方は傷ついて死ぬだけ。だから邪魔をするなら、例え動けなくしてでも。無理矢理にでも退いてもらうわ……ッ!」
言葉を伝えたとしてもネクサスは動かない。
だからこそ、東郷は手に持つ短銃をネクサスに放つ。
青い銃弾は微秒だにしないネクサスの横を通り抜ける。
その意味は、警告。
『---』
「ッ!」
「紡絆くん!」
だというのに、ネクサスは歩を進めた。
瞬間、東郷は撃った。友奈の悲痛な声が響き、一寸分の狂いもなく対象に放たれた銃弾は
傷の回復が遅くなり、結局回復することは無かった左肩。
過去のダメージがさらに強い痛みを残す。
「これで分かったでしょ。私は紡絆くんでも撃てるのよ……だから、やめて」
『---』
普段なら心配していただろう。
だが東郷は冷淡と白い目で見ていた。今度動こうものなら、本当に殺す気だろう。
そんな視線を受けてもなおネクサスは立ち上がって一歩歩み、今度はネクサスのエナジーコアが火花を散らした。
進んだ分よりも数歩下がり、胸を抑える。
銃を下ろす気もなく、東郷は油断なく見ていた。
そんな中、ネクサスが両腕を交差する。
「……ッ?」
東郷は何かするつもりかと警戒の色を濃くした。
ウルトラマンという予想のつかない力を持つのが紡絆だ。何か動きを制限したりメタフィールドのような隔離空間を展開されたら何も出来ない。
だからこその警戒だったが、次の瞬間には驚いたように目を見開く。
その理由は---
「どういう、つもり……ッ!?」
「……決まってるだろ」
ネクサス---いや、
普通、止めるならば実力行使だ。
それをせずとも、相手は撃つ覚悟があって、実際に撃たれた。だったらウルトラマンで居た方がダメージは減らせる。
だというのに紡絆は、自ら変身を解除した。
流石に、想定外にも程がある。
「理解したんだ、東郷。お前を止めるには、ダメなんだ」
左肩から、血が流れる。
胸は真っ赤に染まっていて、体はそこら中が血が流れていたりボロボロ。
元々ボロボロだったのに風の攻撃を受け止めて、星屑やバーテックスの攻撃を受けたのもある。
それにウルトラマンの肉体ではなく生身に戻ったからか、左腕は一切動く様子はない。
「……どういうこと?」
「ウルトラマンの力に頼っても、お前を救えない」
「………」
だから変身を解除したのか。思考が読める東郷ですら流石のそれだけは理解が及ばない。
自ら手段を殺すなど、愚の骨頂。
でも考え無しではない。
理解したと言った。
ならその答えは---
「だから俺は
そういう、ことなのだろう。
実力行使をすればウルトラマンの力ならば勇者の一人くらい止められる。けれど心は救えない。
その心を救うには、ウルトラマンの紡絆ではなく、継受紡絆という
「……ッ」
何処までも眩しく、光を体現する存在。
闇の存在にすら脅威とされるだけあって、彼の眼差しは優しく穏やかで、それでいて強い。
何故そんな目で見るのか。なんでそんな温かな目を向けてくるのか。責めるような感情も恨むような感情も、なにひとつ無い。
迷いを振り切るように、東郷は引き金を引いた。
「ぐっ……!」
正確に
いくら紡絆の反射速度とはいえ、小さな銃弾を捉えて避けるのは容易ではない。銃口から予測しなければ確実にやられる。
それに彼の体はもう、ウルトラマンの強化などないようなものだ。傷の影響で身体能力は一般人と同等くらいしか出せない。
「紡絆くん…東郷さん…私は……」
その一方で友奈は動けなかった。
東郷が紡絆を撃った事実が信じられなかった。東郷が苦しんでいたということも、気づけなかった。
泣いていたのに、手を伸ばせなかった。
大切な友達なのに分かってあげられなくて、きっと満開の代償や紡絆の状態を知った東郷はもっと苦しんだだろう。
誰よりも早く気づいたのだから。
それでも、何もしてあげられなかった。それどころかその時友奈自身は紡絆に縋って、助けられていた。
記憶が思い起こされながら、攻防を続ける二人の姿に友奈は何をすればいいのか、分からない---
「どうして分かってくれないの……ッ!」
東郷は何度も紡絆を狙う。容赦なく、致命傷だけは避けるように狙って。
その度に紡絆は避け、地面を駆ける。
光の力は、もう彼には纏えない。
故に彼は、
その身に宿す光を再び纏うとき、継受紡絆は消滅するのだから。
「くそっ!」
しかし相手は東郷だけではない。
迫り来る星屑を避けながら接近しなければならないという、よりキツい状況。
東郷自身は隔誘導攻撃端末で自身に迫る星屑を倒しているが、残念ながらウルトラマンの力がない紡絆には星屑を倒すことすら出来ないため、避けるしが出来ない。
なぜなら物理攻撃が通用しないのだから。
「もういいのよ……紡絆くん」
「何がいいって!?」
「貴方は十分戦った!貴方一人が頑張ってもこの世界は救えない!もう終わってるのよ!」
地面を蹴るようにして加速し、横に転がると星屑を避ける。
星屑と紡絆を巻き込むように放たれた散弾銃の弾を転がって避け、勢いを殺さず起き上がる。
「やって見なきゃ分からないだろ!」
「分かるよ!なんでそう言えるの!?なんで諦めてくれないのっ!」
「俺が諦めてどうなる!?誰も救えない!誰の幸せも守れない!」
「誰かの幸せなんてどうだっていい!」
「俺は良くない!!」
その拳を握りしめ、ただ真っ直ぐ突き出す。
星屑を殴って、跳ね返される。
転がる紡絆に口を開いた星屑が迫り、回避するように右手を地面に着きながら勢いよく両足を上げて回ると、起き上がる。
「この世界は必ず救う!俺がウルトラマンとして戦ってきたのはみんなを救うためだ!誰かの幸せを笑顔を守りたい!その想いは今も変わらない!変わることは無い!」
「違う、違うのよっ!私はそんなことして欲しくない!その末に貴方は犠牲になる!苦しんで、利用されて、報われないまま、ただ人柱にされるだけ!」
「違う!犠牲なんかじゃ---があっ!?」
ボールのように、右腕で防御した上から吹き飛ばされる。
しぶとく抵抗していた人間を殺すためか、星屑は集まって、起き上がれない紡絆を狙う。
「邪魔を……!」
「せえええいっ!!」
「バーテックスは私たちが相手します…!」
口を開けて、ギシギシと音を立てて迫った星屑が撃ち抜かれ、斬られ、捕まえられる。
新たな影が、舞い降りた。
「風先輩と樹ちゃんか…!?」
「東郷を任せるわ!」
「紡絆先輩の邪魔はさせませんから!」
「っ、悪い!」
追いついてきた風と樹が、紡絆を援護する。
東郷を説得するには星屑は邪魔だった。攻撃しても通用しないのだから、今の紡絆にとって天敵だ。
だからこそ、倒せる二人に任せて東郷に向かって走る紡絆だが、なにかに気づいたようにバックステップすると火球が次々と着弾し、爆風で吹っ飛ばされる。
地面に倒れ、睨むように結界の外を見た。
スペースビーストが、ウルトラマンを宿す紡絆を殺そうとやってこようとしていた。
しかし、そんなスペースビーストたちは突如爆発する。
次々と目まぐるしい展開に周囲を見ると、刀を携えた勇者が乱入してきた。
「何が何だか分からないけど、私も混ぜてもらうわよ!」
「…全く、本当に頼りになるなぁ…」
「トーゼンよ!ここは任せて行きなさい、あんたにはあんたにしか出来ないことがあるでしょ!」
「…ああ!そういうところ好きだぞ!」
「ちょ、こ、こんな時に何を言ってんのよ……!」
こういう時にすら素直に思ったことを口にし、笑顔を浮かべる。
僅かに動揺しつつ夏凜は増えてきたバーテックスの足止めをしていた。
そうしてただ、一心不乱に前を見据える。
紡絆の視線の先で、東郷は唇を噛み締めて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
なら紡絆は余計に
「どうしてみんな、分かってくれないの……こんな世界に、光なんてないのに……。一緒に消えたら、楽になれるのに……これ以上苦しむことも、傷つくことも失うこともないのに……」
「だから……!」
服も体もボロボロで、それでも起き上がる。
何度も、何度も。
何ら変わらぬ、光の眼差しを向けて。諦めの色が何一つ見えない目で。
大きく息を吸い込んで。
「だからッ!人の心に光を灯さなきゃならないんだろ!勇者は、希望だろうがっ!!」
一歩踏み出して、紡絆は叫んだ。
説得するように、闇を打ち払うように。
そんな紡絆を言葉を東郷は否定し続ける。
「それで大切な人が傷つくなら、友達を守れないなら…私はもう、勇者じゃなくていい……!」
「っ、東郷……」
それほどの、硬い意思。
散弾銃が火を噴き、紡絆の体もまた大きく吹き飛ばされる。
直撃はしなくとも近ければ近いほど高威力を発揮するそれは、生身でしかない紡絆を吹き飛ばすには衝撃だけで十分だ。
「そこでじっとしていて…これ以上、何もしなくていい……!」
絞り出すように告げられ、だけど立ち上がる。
その度に東郷は唇を強く噛み締めて、狙撃銃が紡絆を撃つ。
身を逸らした紡絆の横腹を掠め、痛みで顔を顰める紡絆は右手で抑えながら次に来た一撃が肩を掠めた。
一歩歩めば、今度は頬が。
髪が。
腕が。
脇腹が。
膝が。
足が。
血を流しては、傷だけが増えていき、紡絆の体は再び大きく投げ出される。
近づけない。言葉を投げかけても、届かない。
それでも立ち上がらないと、誰が彼女を救えるのか。
「う---ッ!?」
「っ……?」
起き上がろうとした紡絆は咄嗟に口を抑え、俯く。
何かの異変を感じたのか東郷は訝しむような視線を向けるが、抑えた手のひらから微かに赤い液体が溢れる。
---限界が、少しずつ訪れようとしている証。
「…ほら、もう無理なのよ」
「ぅぐ…はぁ、はぁっ…なに、が……!」
「紡絆くんはもう、長くない。ずっと貴方を見てきた。初めて会った時から、ずっと…だから分かるの。もう時間はない、どれだけ理想を掲げたって、現実は変わらない!綺麗事だけでは何も変えられない!」
「……そう、か」
血に染まった手を握りしめ、ふらつきながら紡絆は立ち上がる。
左目はもう力が無くなってるのか開いていない。元々見えないのだから、問題はない。
唯一開かれた右目。何の色にも染まってなく、透き通るような黒目。その奥にある、誰にもない輝き。
表情は、苦しそうではなくて絶望に焼かれていない。
「その言葉……聞けてよかったよ」
「どういう……」
「深い意味はない。ただやっぱり俺はさ……俺らしくしか無理なんだよな」
時間経過、戦況。実力差。
あらゆる面で、追い詰められているのは紡絆だ。
だというのにこんな状況でも、紡絆は笑った。
諦めたわけでもなく、いつもの顔で。みっともなくて、痛々しくて、傷だらけで。血を垂らして。
だとしても、笑顔を浮かべていた。
苦しいのは紡絆のはずなのに、逆に東郷が何処か苦しそうに顔を歪める。
「どうして、笑えるの……なんでっ!分かってるくせに!自分が死ぬって!限界だって!なんでいつものように、私にそんな笑顔を向けるの……!変わらず手を伸ばしてくるのっ!やめて、やめてよ……!!」
「簡単な話だろ---絶望したって何かを憎んだって、悲しんだって何も変わらない!ただ今目の前の友達が困ってるから。泣いてるから!
「わたしは、私は……望んでない!助けなんて必要ない!そんなのどうだっていいのよ!貴方の居ない世界なんて、耐えられない……!今も着々と、貴方は限界を迎えかけてる!だからもう、立ち上がらないで……すぐに終わらせるから!苦しまないでよくなるから……だからこれ以上何もしないで!」
「ッ……!?」
弾丸が
予測が間に合わず、弾道を読むのがあまりにも遅れた。
---弾丸が、見えた。
(これは---!?)
世界がスローモーションとなっていた。
初めての経験ではない。夏凜と手合わせした際にも起きた現象。
だが今回は避けきれないと紡絆は理解した。木刀と銃弾ではあまりにも速度が違いすぎる。
狙われたのは足。
紡絆を殺すつもりないのか足を狙ったようだが、今度は肉体が上手く動かず反応が遅れた。
光を纏う力は失われてもウルトラマンであることに変わりは無いから、死ぬことは無い。でも間違いなく、貫通して動けなくなるだろう。
まだやられるわけにはいかない。
精一杯の抵抗をするように、両脚に力を入れた紡絆は後ろへ跳ぶ。
だがやはり間に合わない。何処か他人事のように考えつつも、希望を捨てなかった。
そうして紡絆の体は---
「ぅぐ……!?」
「っ……そうだよね」
目を開ければ、紡絆の体の上に乗りかかる一人の女の子の姿がある。
真っ直ぐな瞳を持っていて、覚悟を決めたような友奈の姿。
片目しか開いてない黒い瞳と深紅の両目が互いの色を映し出す。
状況から見て、紡絆を押し倒すことで助けたのだろう。
「簡単なことだったんだ……」
「…ゆ、うな……?」
「遅れてごめんね、紡絆くん。でも分かったんだ…友達に失格とかない。東郷さん、泣いてた---だったらもう、それだけで十分だったんだよね」
友奈はずっと、悩んでいた。見ていた。
自分に止める資格があるのかと。
二人が、友人同士が争ってるのを見て、心が痛かった。
大切な人が、大切な人を傷つける姿が、見たくなかった。
友達なのに何も理解出来てなかった。そんな自分に何が出来るのか---その答えは、単純で簡単な事だったと気づけたのだろう。
起き上がった友奈は答えを教えてくれた紡絆に笑顔で手を差し伸べて、紡絆は何処か嬉しそうに頬を緩ませるとその手を取る。
起き上がった紡絆は友奈と並び立ち、
「---ああ、そうだった。主役は遅れてやってくるもんだからな。気にしなくていい。それよりもう大丈夫なのか?」
「うん、もう決めたんだ。私が勇者部も世界も、紡絆くんも。東郷さんも守る!」
「そうか、だったら俺がそんな友奈を守る。友奈だけじゃない。全部、この手で守ってやる!」
宣言するように告げられた言葉。覚悟の証明。
一人ではなく、共に。
紡絆は唯一動く右腕を真っ直ぐ右に伸ばして、拳を向けると友奈は理解したように左拳を合わせた。
「東郷の元へ行きたい。だから行くぞ、
「うん、
かつて星空の元で交わされた約束---それの再現。
一人では紡絆は間違いなく接近も出来なければ避けるだけで精一杯だろう。それどころか避けることすら、至難。
そもそも動けるのは短時間だ。これ以上の無理は、間違いなく出血多量で死ぬ。
それほど無理する必要があるくらいに東郷の射撃の精度は高い。
だが、二人なら別。
紡絆が記憶が失ったあとから、出会ってずっと一緒にいた友人。
そんな彼女と紡絆は、互いの性質が似ているのもあって他の友人よりも互いが分かる。
何よりもう、繋がったから。深く。絆は、より更なる高みへ。
そうして、分かるようになった。
今みたいに、何をするのか。
「友奈ちゃんまで……」
その姿を見て、東郷の胸に言いようのない痛みが走る。
より強く入れ替えるように握られた短銃が、二人に向けられる。
「どうして分かってくれないの……誰も、どうして……」
「……ううん分かるよ…東郷さんの気持ち。私も一人なら、立ち直れなかったから。だから今度は私が手を差し伸べるんだ!
この世界がなくなったら、みんなと居られないから。東郷さんと居られないから!」
紡絆という人間が居たからこそ、今ここに友奈は立てている。
無論彼女だって今隣にいる男の子がいつ死ぬかなんて、分からないし考えたくもない。出来るなら傷ついて欲しくないし苦しんで欲しくないと思っている。
ただでさえ、さっきから血を流してるのに。
でもその程度で、紡絆が止まるような人物ではないということも知っているのだ。
友奈が出会った時から、ずっとそうだったから。
いや、過去の勇者たちの言葉を信じるならば、それより以前から。
それこそ、紡絆という人間が生まれた時からそうだったはずだ。
「誰かがしなくちゃダメなのよ……じゃなきゃ!この生き地獄は終わらない!戦いは永遠に続いて、苦しいだけの日々が続くだけ!こんな世界があるから、そんな思いをするの!」
短銃が火を噴く。
分かれるように左右に避けた紡絆と友奈が同時に駆け出し、自身と同じ勇者の力を纏う友奈に短銃を連射する。
「地獄じゃないよ……!苦しいだけじゃない!この世界がなかったら、私たちは巡り合わなかった!」
手甲で短銃の弾を防ぎ、東郷を友奈は真っ直ぐに見つめる。
威力不足を悟ったのか散弾銃へ変わり、友奈は前に飛び込むことで避けた。
「だとしても、この世界がある限り辛いだけ…!」
「東郷…俺はさ、お前みたいに怜悧じゃないんだ。でも分かることは一つだけある。お前はまだ、本当の気持ちを曝け出してないだろ…!
確かにこの世界があったら辛いことはある。生きてる限り、幸せだけがあるわけじゃない!絶望だってある!だとしても俺たちが過ごしてきた日々は、勇者部で活動した日々は、勇者として戦ってきた日々は、辛いだけだったか!?」
遠隔誘導攻撃端末が、紡絆に襲い掛かる。
ほんの一瞬、全ての弾道を
---肉は削られ、皮は裂け、血が鮮明に流れる。
血を失いすぎた影響か全身の感覚が無くなりつつあったが、痛みは無視した。
それどころか、全部振り絞る。
限界を、超える。何度だって。
「っ……私は貴方のように強くない!私たちは散華を続ければそんな日々も忘れて、大切な気持ちや想いもなかったことにされる…!戦い続ければ、紡絆くんは必ず死ぬ…!そうして全部忘れるんだよ…貴方のこともッ!」
「っ、まず……」
オールレンジによる攻撃だけでも避けきれなかったのに、そこに散弾銃が加えられると躱し切れない。
咄嗟に体の一部を捨てる選択を取ろうとしたが、友奈がそれをさせない。
守るという言葉に嘘はなく、端末の弾幕を防ぎ、散弾を見極めた紡絆が友奈を抱き寄せては全てを避け切る。
即座に駆け、今度は紡絆が全ての弾幕を
「……!その瞳……」
「さっきから東郷は決めつけてるけどな、俺は死なない!人の限界を勝手に決めつけて、勝手に諦めるなよ!例えお前らが散華して、失ったとして!俺が面倒を見てやる!何度だってやり直してやる、治る道を探してやる!何度だって思い出させてやる!」
止まない弾幕---さっきと打って変わり、紡絆は全て視えてるかのように避けていく。
最低限で、最小限必要な動きのみで。
何より紡絆の瞳は---
「そんなの出来るはずがないよ…忘れたら取り返せない…失ったらもう、還ってこない!紡絆くんだって同じじゃない…記憶を忘れたままじゃない!」
「ああ、ないよ。けど約束したんだ、必ず記憶は取り戻す!」
「そんな言葉に意味はないのよ…もう嫌なのよ……!これ以上大切なものを忘れるのは… 過去に私が貴方の記憶を失ったように!全部、全部無くすのは…!いずれみんなのことだって忘れる…苦しくて辛くて、生きるのが嫌にやっても、死ぬことは出来ないのに!きっとあなたも友奈ちゃんも私のことを忘れるでしょ…忘れてしまうでしょ!!」
例え弾幕が二丁に増えても、全て当たらない。遠隔誘導攻撃端末と一緒に放たれたとしても、当たらない。
狙いを定めることもせず間断なく暴れ狂う弾幕の中を黄金色の瞳に変異した紡絆は軽々と避け、避けることが不可能な攻撃は友奈が阻止する。
「忘れないよ!」
「誰がっ!二度と失わない!二度も失ってたまるか!」
泣き叫ぶような東郷の言葉を、二人は強く否定する。
そして一気に加速した。
東郷の元へ、二人は接近する。
「どうしてそう言えるの……!」
「私がめちゃくちゃ強く、そう思っているから!」
「俺が忘れたら、死んだら!近くに居なけりゃ思い出させられないだろうが!だから何があったって、覚えて居てやる!」
近づけば近づくほど、攻撃は激しくなる。
だとしても、何故か当たらない。一発も、掠ることすらなく。狙いは正確なのに。
攻撃を防げる友奈。全てが視える紡絆。
二人のコンビネーションは、まるで思考が繋がっているように。以心伝心しているかのように。
互いの死角を全て殺して、互いの危機を守って、踏み込む。
懐へ入り込んだ二人には遠隔誘導攻撃端末は機能しない。
咄嗟に距離を離そうとした東郷に、紡絆が手を伸ばした。
間に合わない。
一瞬のアイコンタクト。
距離の離れた東郷が装填の早い短銃を構え、紡絆は止まることなく前へと進んだ。
放たれた弾が紡絆の耳を掠め、なお地面を強く蹴り、東郷へと手が伸ばされる。
空中にいる紡絆は回避出来ない。
だから連発しようとしたところで、友奈が東郷の手を取った。
機動力が低く遠距離に特化してるからか近接特化の友奈に呆気なく武器を奪われ---東郷は飛び込んできた紡絆に勢いよく押し倒された。
「---約束だッ!!」
誰もが例えるように。そうだったように。
惹き込まれるような温かくも優しく。綺麗でひとつの濁りもない、汚れもない。輝かしくも美しい光の目が東郷を真っ直ぐに捉えていた。
揺れる瞳。涙を流して、怖がって、絶望に満ちた東郷とは正反対。
ただそれでも、東郷は紡絆から目が離せない。逃げ出すことが、出来ない。
抵抗すれば、離すことが出来るのに。出来ない。
「やく……そく……?」
「ああ、約束だ」
「うそ……」
「俺がこんな時に嘘をつけるほど器用なわけがないだろ!」
信じられないといったように口から言葉が出てくる。
対する紡絆は、自虐に近い己も他人も、誰もが認識してることを叩きつけた。
弱点でもあって、利点でもある部分を。
今までの行動が、今までの生き様が。今までの在り方が。
この場では最も、信頼出来る発言へ。
「でも…けど……!」
「東郷さん。私も紡絆くんも忘れないよ」
まだ信じることの出来ない東郷に、友奈が手を握る。
自分が不安だった時、勇気を貰えた時と同じように。
目の前には光があって、手からは大切な温もりがある。
---まるで、月明かりが太陽と共に闇を塗り替えるかのように。
「…ほん、とうに……?」
「私はずっと、東郷さんと一緒に居る。そうすれば忘れないでしょ?」
「死なないって言葉に嘘は無い。そっちの方も、約束しちゃったからな。東郷が言う地獄が希望に変わるまで、俺もずっと居るよ」
優しくも穏やかな笑顔。
いつもと変わらぬ、東郷に希望を与えてくれた笑顔。
消えそうなものでも、遠くに行きそうなものでもない。
明るくて、いつも賑やかに、希望に満ちた顔。
「友奈…ちゃん……つむ、ぎくん……」
東郷が抱いていた本当の気持ち。感情。
それは---恐怖。
忘却と消失。いずれ孤独になるという不安と絶望。
けれど。
結局、変わらなかった。
いつだって。
どんな時だって。
東郷を救いあげるのは、二人だ。
どんなことがあっても、必ず光は差し込む。
そう、東郷にとって紡絆は
そんな大切な二人が、
救われない、はずがなかった。
「う、うぅ…ごめんなさい……。わたし、わたし…!大変なことを…私も…皆とずっと一緒にいたいのに…!友奈ちゃんと離れたくなかったのに……紡絆くんとずっと一緒に居たかったのに……!」
「間違いは誰だってある。でも間違えていいんだ。東郷にはさ、俺だけじゃない。友奈もいるし夏凜もいる。風先輩や樹ちゃんも、ここにはいなくても小都音や先代勇者のふたりだって。間違えたら何度だって戻してもらえばいい。俺が何度だって、手を伸ばす」
「うん、私も間違えちゃった。東郷さんの気持ちに全然気づいてあげられなかった……でもみんなや紡絆くんが、私に正しい道を示してくれたんだ。一人じゃダメかもしれない…でも紡絆くんがいれば、みんなが一緒なら、大丈夫!」
「うん……うん……!」
涙を絶え間もなく流しながら東郷は紡絆に縋るように抱きつく。
唯一動かせられる手は地面に着いてるため、紡絆は何もしてあげられない。
だからか、友奈が東郷に寄り添うようにその背中を優しく撫でていた。
そしてその姿を、三つの影が見守っていた。
辺にいたバーテックスもスペースビーストもいない。
「無事に解決……したみたいね」
「紡絆先輩だけじゃなくて、友奈さんもいますから」
「問題はこっちか……」
否。
正確には
確かにある程度は減らした。けれど無数と言える相手に、満開してない勇者三人で勝てるなら苦労はしない。
何故か、結界の外へと戻ったのだ。
まるで
けれども今は、今だけは、忘れていいだろう。
風も樹も、夏凜も。目が離せなかった。離したくなかった。邪魔をすることなく、見守っていたかった。
たとえ世界の危機だろうと、この光景だけは美しくも輝かしい、誰よりも共に生きてきたであろう三人だけの、他には無いたったひとつの、唯一無二の物語なのだから。
普段の大人びた姿から考えられないほど、子供のように咽び泣いて。
泣きついて、慰められて、光を浴びて。
目元は赤くなっているが、涙はもう、なかった。
悲しむ姿も、苦しむ姿も、なかった。
「……大丈夫か?」
「…うん」
深緑の瞳に黄金色の瞳が真っ直ぐに映る。
改めて見えた、その瞳。
いつもの水晶のような澄み切った純粋な黒目では無い。何処までも眩しい、希望の輝き。
見るだけで吸い込まれるような、そんな目。
手に力が籠る。
そうすると、紡絆の肉体は東郷の方へ引っ張られる。
抱きつくのではなく、彼の体を感じるように抱きしめていた。
地面に着く必要がなくなった手が、東郷の頭を撫でた。
どこか、小さな子供をあやすように。困ったように。
それがどれくらい続いたのか、分からない。
長く感じた。でもまた、短かった。
温もりは離れる。
名残惜しさを感じるが、やはりそう言った面での東郷の気持ちには気がつかず、紡絆は起き上がろうとして、ふらつく。
「紡絆くん」
「…助かる」
友奈が手を取った。
転ばないで済み、足でしっかりと地面を踏みしめて手を離す。
しかしその体はあまりにも傷だらけだった。血だらけだった。
いくらウルトラマンの強化があったとしても、無理をしすぎた反動だ。
全ての反動が、治ってない全てのダメージが波のように振り返してきた。
でもまだやらないとダメなことがある。
この世界を、救わなければならない。
今の紡絆の意識を動かすのは、それだ。それが無ければ、倒れて、意識を失っている。もしかしたら、死んでたかもしれない。
けど罪は消せない。それは紡絆が何をしたって、東郷が壁を壊した事実は消せないし世界が危機に瀕したことに変わりはない。
だとしても、またやり直せばいい。また、戻せばいい。
「東郷」
「うん……わかってる」
「今度は、一緒に行こう。もう置いていくことはしない。きっと、次は」
「三人だけじゃないよ。みんなで、ね」
それはきっと、気のせいだったのだろう。
偶然だったのだろう。
深く深く。忘れてしまった、散ってしまった記憶の名残り。残留。
同じく手を伸ばして、変わらない笑顔。失っても、失うことのなかったもの。
---残ってるモノも、失わなかったモノも、新しく得たものも、ずっと傍にあった。
ただ視野が狭くて、見逃してただけ。
少し、ただ少し視野を広げて、相談して、頼れば。この二つの手を取れば。
全部、よかったのだ。
「……ありがとう。友奈ちゃん、紡絆くん---」
だから今度は、それを大切にすればいい。
取り返しのつかないことをしてしまったけど、過去は変えられなくても、今からは。
今からでもきっと、東郷にとっての二つの希望は共に生きて、ずっと居てくれて、新たな未来を照らしてくれるだろう。
抗えば、諦めなければきっとまた、輝かしい日々が。一人じゃなくて二人で、二人じゃなくて、三人。
そして、みんなと。
そうして東郷は、二人の手を、希望を取る---
「え---」
誰の声だっただろうか。
東郷か、友奈か。離れたところで見守っていた風か、夏凜か。それとも声が出ない樹が発することが出来たのか。
唯一わかったのは、それは
肉の裂ける音。骨が砕ける音。
そして何より---
「が、あァ……!?」
耐え切れるはずもない。
人が人である限り、生命を維持する臓器のひとつ。血液循環の原動力となる中枢器官。
一寸も狂いなく、貫かれた。
鋭く、深く。あっさりと、感じられない速さで。
吐き出された血が、静寂な世界で舞う。
---紡絆の両膝が、地面に着いた。
そう、
考える必要もない、この場で死ぬ可能性があるのは誰でもなく、紡絆しかいない。無論過去に存在していたファウストの剣があれば別だろう。
それでも精霊の持たぬ、唯一命を守られない人物。
何より最も厄介な存在であり、ウルトラマンを宿す
それでも容赦なく、血だまりは作られる。僅かに溢れた血は、近くにいた東郷と友奈にも付着した。
時間は、止まってくれなかった。
同時にまた、誰も---動けなかった。理解、出来なかった。
敵の速さか。認識が遅れたからか。信じたくないことに目を逸らしたかったからか。それとも目の前の現実に逃避したかったからか。
誰も、紡絆が貫かれたという事実を頭が受け入れてなかった。
それでも、本能か。
原因を突き止めるべく、全員の視線が、そこへ集まる。
人が殺される場面。信じたくない現実を、目の当たりにした。
そうして---
鮮やかな
乾いた、空気の
「
誰もが、信じたくなかった。
誰もが、認めたくなかった。
誰もが、否定したかった。
誰もが、嘘だと言って欲しかった。
誰もが、夢だと思いたかった、
誰もが、現実だと信じたくなかった。
なぜなら、どうして、なんで。
「ねぇ、
何故彼の、継受紡絆という人間の、
「こ、と……ね……」
誰よりも早く、やられた本人が、振り向いて、残酷な現実を目の当たりにする。
自身を貫いた相手、天海小都音---継受紡絆という人間に残された、唯一の
未だに垂れ、落ちる血。
でも、
彼女の手に、存在する---鉤爪。
かつての戦いで何度も猛威を振るった、黒と赤がメインの武器。
現実はいつだって非常で。
無情で。
ひたすらに、残酷だった---